ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C |
---|---|
管理番号 | 1161879 |
審判番号 | 不服2004-26201 |
総通号数 | 93 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-12-24 |
確定日 | 2007-08-02 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第195391号「ガス射出成形法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月20日出願公開、特開平10- 15983〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成8年7月5日の出願であって、平成16年7月29日付けで拒絶理由が通知され、平成16年10月1日付け手続補正書により補正され、平成16年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成16年12月24日付けで審判請求がされたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年10月1日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。 「金型の一定の容積を有するキャビティ内に溶融樹脂を注入した後、この溶融樹脂内に高圧ガスを注入し、その後高圧ガスを外部に放出して樹脂内に中空部を形成するガス射出成形法において、上記溶融樹脂を上記キャビティ内全体に充満させ、その後上記溶融樹脂内に高圧ガスを注入しており、上記溶融樹脂に発泡剤を混入することを特徴とするガス射出成形法。」 2.引用刊行物の記載 これに対して、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の出願日前に頒布された特公昭53-25352号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。 (2-1)「溶融された発泡性合成樹脂を型キヤビテイ内に注入後ガス体を型キヤビティ内に圧入するか、或は溶融樹脂を注入しつつガス体を型キャビテイ内に圧入して一旦中空体を成形し、該中空体の樹脂の表層の一部が硬化後、次いで圧入したガス体を型外へ放出し発泡性合成樹脂を中空部へ発泡させることを特徴とする表面未発泡の発泡合成樹脂型物の成形法。」(特許請求の範囲請求項1) (2-2)「以下本発明方法の実施の態様の数例を図により説明する。第1図で、射出シリンダー1内に、樹脂の可塑化及び射出を行うスクリュー2で可塑化された発泡性樹脂7を貯める。可塑化樹脂7を型片9及び10で作られた型キヤビテイ11を満たすに不十分な量で注入する。・・・(中略)・・・ 次にノズル部につくられたガス体注入口4よりガス体を圧入する。・・・(中略)・・・このようにしてキヤビテイ11をガス体が内蔵された中空状樹脂体で満す。 次いで中空樹脂体の表層のみが固化したら、後で圧入したガス体を型外へ放出して発泡性合成樹脂を発泡させ、表層が未発泡、内部が発泡した発泡型物を成形できる。」(第1頁第2欄第25行?第2頁第3欄第10行) (2-3)「変法として第2図に示すように型キヤビテイ11に発泡剤を含まぬ溶融された合成樹脂13、次いで発泡剤を含む溶融された合成樹脂7、次いでガス体を圧入して、発泡剤を含まぬ合成樹脂13、発泡剤を含む合成樹脂7、ガス体14から成る中空体2-2を作る。・・・(中略)・・・発泡型物2-3を成形する。型キヤビテイ内で上記中空体2-2を作るには公知任意の方法が使用出来る」(第2頁第3欄第14?24行) (2-4)「又第3図のように、型キヤビティ11に発泡剤を含む溶融された合成樹脂を注入して発泡体15(3-1)とし、引続き同じ注入口よりガス体を圧入して発泡体を圧縮して合成樹脂16、ガス体14から成る中空体3-2を成形し、次いで中空体の表層の一部が冷却固化した後、圧入したガス体を型外へ放出して合成樹脂を発泡させて、発泡型物3-3とすることも出来る。」(第2頁第3欄第25?32行) (2-5)「本発明に述べる合成樹脂とは、一般に使用される熱可塑性樹脂が使用でき、・・・(中略)・・・発泡性合成樹脂とは該合成樹脂に、各種発泡剤を含有せしめたものを示し、例えば、・・・(中略)・・等々の各種発泡剤を含有せしめた合成樹脂である。」(第2頁第4欄第1?9行) (2-6)「次に実施例を示す。 例1 第1図に示す成形装置を用い、発泡型物を成形した。ポリスチレン樹脂、スタイロン#683(旭ダウ(株)製造)に発泡剤として・・・(中略)・・・を配合し、200℃で可塑化後、直径150mm、厚さ10mmの円盤状型キヤビテイに・・・(中略)・・・注入した。型キヤビテイは鉄の型より構成され、・・・(中略)・・・100gの前記の発泡性合成を注入し、引続き80kg/cm2の圧力で窒素を圧入し、中空体を成形させた。中空体を成形して5秒後に圧入した窒素ガスを注入口より吸引して抜き取り、内核を発泡させ発泡型物を成形した。発泡型物は平滑な表層と発泡した内核とより成り、・・・(中略)・・・均一になつた。 例2 第2図に示す経過で発泡型物を成形した。実施例1で示した成形装置を用い、同じ型キヤビティに、200℃で可塑化したポリスチレン樹脂、スタイロン#683(旭ダウ(株)製造)60g、・・・(中略)・・・を連続的に注入し、次いで実施例1で示した発泡剤配合樹脂60gを連続的に注入し、引続いて80kg/cm2の圧力で窒素を圧入し、中空体を成形した。中空体を成形して5秒後に圧入した窒素ガスを注入口より吸引して抜き取り、内核を発泡させ発泡型物を成形した。成形された発泡型物は平滑な表層と発泡した内核とより成り、平均比重は0.7であつた。」(第2頁第4欄第15行?第3頁第5欄第5行) (2-7)第3図には、本発明方法の説明図が示され、その3-1には、発泡剤を含む溶融された合成樹脂を注入して発泡体が型キヤビティ11に充満している状態が示されている。 3.対比・判断 刊行物には、上記摘記(2-1)ないし(2-3)及び(2-5)ないし(2-6)を総合すると、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。 「射出シリンダ1内に樹脂の可塑化及び射出を行うスクリュ-2を設け、溶融された発泡性合成樹脂を型キャビティに注入、具体的には、200℃で可塑化したポリスチレン樹脂、スタイロン#683(旭ダウ(株)製造)60gを連続的に注入し次いで発泡剤配合樹脂60gを連続的に注入し、その後、ガス体を上記型キャビティ内に圧入、具体的には、窒素ガスを80kg/cm2の圧力で圧入して一旦中空部を有する中空体を成形し、その後、上記ガス体、具体的には、上記窒素ガスを上記型キャビティを有する型の型外へ放出し、上記発泡性合成樹脂を上記中空部へ発泡させる発泡合成樹脂型物の成形法。」 そこで、本願発明と刊行物発明とを比較すると、 (a)後者の「型キャビティ」は、前者の「キャビティ」に相当し、後者の「型キャビティ」は、金型の一定の容積を有するものであることは明らかであるといえる。 (b)前者における「高圧ガス」に関して、本願明細書の段落【0003】に、「ガス射出成形法は、まず図2(A)に示すように、金型1のキャビティ1a内にノズル2から溶融樹脂3を注入して充満させる。次に、図2(B)に示すように、溶融樹脂3内に50Kg/cm2?300Kg/cm2程度の圧力を有する窒素ガス等の高圧ガス注入する。」との記載があることを考慮すると、後者の「80kg/cm2の圧力で圧入」される「窒素ガス」は、前者の「高圧ガス」に相当するといえる。 (c)後者において、「溶融された発泡性合成樹脂を型キャビティに注入、具体的には、200℃で可塑化したポリスチレン樹脂、スタイロン#683(旭ダウ(株)製造)60gを連続的に注入し次いで発泡剤配合樹脂60gを連続的に注入」するということは、後者は、前者の「キャビティ内に溶融樹脂を注入」することに相当する工程を備えてなるとともに、前者の「上記溶融樹脂に発泡剤を混入する」ことに相当する工程も備えてなるものといえる。 (d)後者が、「窒素ガスを80kg/cm2の圧力で圧入して一旦中空部を有する中空体を成形し、その後、上記ガス体、具体的には、上記窒素ガスを上記型キャビティを有する型の型外へ放出し、上記発泡性合成樹脂を上記中空部へ発泡させる」工程を備えるということは、後者は、前者の「高圧ガスを外部に放出して樹脂内に中空部を形成」する工程に相当する工程を備えてなるものといえる。 (e)後者の成形法は、「射出シリンダ1内に樹脂の可塑化及び射出を行うスクリュ-2を設け」た射出成形方法であり、成形のためにガス体を圧入することを伴うものであるから、後者の成形法は、いわゆるガス射出成形法であることは明らかである。 (f)前者の「溶融樹脂を上記キャビティ内全体に充満させ」ることと、後者の「溶融された発泡性合成樹脂を型キャビティに注入」することは、「溶融樹脂をキャビティ内に充填」するという概念で共通するといえる。 上記のことから、両者は、「金型の一定の容積を有するキャビティ内に溶融樹脂を注入した後、この溶融樹脂内に高圧ガスを注入し、その後高圧ガスを外部に放出して樹脂内に中空部を形成するガス射出成形法において、上記溶融樹脂を上記キャビティ内に充填させ、その後上記溶融樹脂内に高圧ガスを注入しており、上記溶融樹脂に発泡剤を混入するガス射出成形法。」である点で一致しており、次の点で一応相違する。 【相違点】: 「溶融樹脂」を「キャビティ内に充填させ」ることに関して、本願発明では、「上記溶融樹脂を上記キャビティ内全体に充満させ」るのに対して、刊行物発明では、溶融された発泡性合成樹脂を型キャビテイ内に注入するものであって、具体的には、200℃で可塑化したポリスチレン樹脂、スタイロン#683(旭ダウ(株)製造)60gを連続的に注入し次いで発泡剤配合樹脂60gを連続的に注入するものである点。 ここで、先ず、本願発明に係る成型法であるいわゆるガス射出成形法についての技術的背景について検討する。 ガス射出成形法においては、溶融樹脂の充填の態様の観点でフルショット法(すなわち、金型キャビティを満たすに充分な量の溶融樹脂を射出する方法)と、ショートショット法(すなわち、金型キャビティを満たすに足りない量の溶融樹脂を射出する方法)があるが、特開平7-100961号公報の段落【0020】、特開平6-328490号公報の段落【0021】及び特開平6-238699号公報の段落【0017】に記載されているように、いずれも、本願の出願日前に周知の技術といえる。 また、上記特開平7-100961号公報等の記載からみて、それらのうち、いずれかの方法を選択することは、当業者において、必要に応じて適宜なし得る程度のことであることも理解できる。 さらに、刊行物発明に関しては、上記摘記(2-3)に、「型キヤビテイ内で上記中空体2-2を作るには公知任意の方法が使用出来る。」と記載されている。 したがって、刊行物発明に上記周知のフルショット法の技術を採用することにより、本願発明の方法とすることは、当業者において容易に想到し得たことといえる。 また、本願発明の奏する作用効果も、刊行物発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。 なお、請求人は、平成17年1月20日付け手続補正書により補正された審判請求書の3.(3)において、『一方、本願発明では、「溶融樹脂がキャビティ内全体に充満されている」のに対し、引用文献1,2に記載のものでは、「溶融樹脂がキャビティを満たすのに不十分な量だけしか充填されておらず」(引用文献1の第2欄第28行?第30行、引用文献2の第3頁右上欄第3行?第6行それぞれ参照)、溶融樹脂がキャビティ内全体に充満されておりません。この点において、本願発明と引用文献1,2に記載のものとでは互いの構成が大きく相違しております。』と主張しているので、上記主張について検討する。 請求人が、上記審判請求書で挙げた、刊行物の「溶融樹脂がキャビティを満たすのに不十分な量だけしか充填されておらず」との記載は、摘記箇所の特定からみて、摘記(2-2)の「以下本発明の実施の態様の数例を図により説明する。」との書き出しで始まる、数例の実施の態様の最初の例についての記載とみることが自然である。 また、摘記(2-3)で「変法として第2図に示すように」とされている、刊行物発明の認定に用いた主に第2図に示された実施例に係る記載とは、文脈上直接的に関係するものとはいえないから、刊行物発明は、「溶融樹脂がキャビティを満たすのに不十分な量だけしか充填されて」いないものに特定されるものとはいえない。 ところで、刊行物には、主に上記摘記(2-4)及び第3図に関する摘記(2-7)からみて、次の具体的な発明(以下、「刊行物第3図発明」という。)も記載されているものと認められる。 「型キャビティ11に発泡剤を含む溶融された合成樹脂を注入して、型キャビティ11内を発泡体15で充満させ、引続き同じ注入口よりガス体を圧入して発泡体を圧縮して合成樹脂16、ガス体14から成る中空体3-2を成形し、次いで中空体の表層の一部が冷却固化した後、圧入したガス体を型外へ放出して合成樹脂を発泡させて、発泡物3-3とする成型法。」 そして、刊行物第3図発明では、「型キャビティ11内を発泡体15で充満させ」ているものであるから、結局、刊行物には、「溶融樹脂がキャビティを満たすのに不十分な量だけしか充填されて」いないとの限定がなされた発明しか記載されていないとはいえない。 以上のことから、引用文献1に記載のものでは、溶融樹脂がキャビティ内全体に充満されていないとする旨の上記請求人の主張は、根拠がないから採用できない。 したがって、本願発明は、刊行物発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-04-24 |
結審通知日 | 2007-05-01 |
審決日 | 2007-06-20 |
出願番号 | 特願平8-195391 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 富永 久子 |
特許庁審判長 |
増山 剛 |
特許庁審判官 |
野村 康秀 宮坂 初男 |
発明の名称 | ガス射出成形法 |
代理人 | 原田 三十義 |
代理人 | 渡辺 昇 |