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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1162157
審判番号 不服2006-5999  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-30 
確定日 2007-08-09 
事件の表示 特願2002-217817「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 60947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年7月26日の特許出願であって、平成18年2月23日付けで拒絶査定され(発送日:平成18年2月28日)、これに対して平成18年3月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の請求項1?8に係る発明は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明は、次の事項により特定されるものである。

「調和された空気を室内に送風する送風部(30,31)と、
設定風量に応じて前記送風部(30,31)を制御する制御部(50)と、
を備え、
前記設定風量は、複数の設定風量候補から1つだけ選択可能であり、
前記複数の設定風量候補は、最大設定風量を含み、
前記設定風量が前記最大設定風量である場合には、前記制御部(50)は、前記最大設定風量を上限として、送風量をゆらがせる、
空気調和機(1)。」(以下、「本願発明」という。)


2.刊行物
原審の拒絶の理由で示された、本願の出願前に頒布された「特開平6-197922号公報」(以下、「公知刊行物」という。)には、図面とともに明細書に以下の事項が記載されている。

ア.「図1は、本発明による物理量制御装置の1実施例であるルームエアコン(以下エアコンと呼ぶ)の室内機を示すブロック図である。図1の実施例では、室内ファンモータの制御に本発明を応用したわけである。図1において、1はエアコン室内機、2はファンモータ、3はファンモータ駆動回路、4はファンモータ駆動信号発生器、5は室内機全体を制御する制御回路である。
ファンモータ2は、ファンモータ駆動回路3により駆動され回転する。ファンモータ駆動回路3は、一定電圧を印加するとファンモータ2を一定回転数で回転させる。そして使用者に一定風速の風を送る。」(段落【0066】?【0067】)

イ.「カオス理論の例としては、先のローレンツの他に、個体数の増減モデルとしてのロジスティク方程式が知られる。この方程式は、生物の増殖モデルとして種種の実験でその有効性が確かめられている。メイはこの方程式をオイラーの差分法で次の数1の式に示す差分方程式(ロジスティク写像とも呼ばれる)に直し、数値実験を行い、条件によりカオス現象が現れるのを示している。
【数1】
Xn+1=AXn(1-Xn)
上記数1の式において、Aは所与の係数であり、Xn の値として初期値X0 を定め演算すれば、X0+1 の値が求まる。このX0+1 の値を更にXn の値として演算すればXn+1 の値が求まる。これを繰り返すことにより、時系列データが得られる。」(段落【0057】?【0059】)

ウ.「次に、図1,図2において、DA変換器44で得られた駆動信号をファンモータ駆動回路3に与えるための処理を説明する。図6は、ファンモータ駆動回路3に与える電圧(入力電圧)とファンモータ2の回転数の関係を示すグラフである。
図6に見られるように、ある電圧(入力電圧)を与えるとほぼその電圧に比例した回転数を得ることができる。そして得られる風速は、この回転数に比例する。さて(数1式)を遂次演算して得られる数値は、図50に示すように、0から1の間にある値である。DA変換器で、この数値を図6に示す回転に必要な電圧に変換する。
この時DA変換器44の仕様によっては演算数値を仕様に合わせて数値変換する必要がある。例えばNEC社製8ビットDA変換器(μPD7001)は、0から255の8ビットで表現されるディジタル数値データを、0Vから外部で設定する所定のプラス電圧(例えば4V)に変換する。このため先の演算結果の0から1の範囲の数値を、0から255の数値に変換してはじめて必要とする0から4Vの電圧を得ることができる。
図7は、この数値変換処理を含むプログラムを示すフローチャートである。Xn に所定の定数をかけた結果をDA変換する。図50に示すようにXn 値の採り得る範囲は係数Aによって異なる。従って先の定数は、係数Aにしたがって決める必要がある。
こうしてはじめて(数1式)の演算結果である不規則な変動(ゆらぎ)が正しく駆動電圧に変換され、ファンモータ2の回転数を変動させ、人に与える刺激としての風の強さ(風速)にゆらぎを与え、快適感を喚起することができる。」(段落【0076】?【0080】)

エ.「風速の中心レベルを所定の値、その時の変動(ゆらぎ)範囲をある幅に納めることを考える。駆動電圧と回転数の関係を示す図6に(a)で指示するのが中心回転数で、(b)で指示する回転数範囲で変動させることを考える。今、図2のDA変換器44が、0から255の8ビットデータ入力で、0から4Vの電圧を出力すると考える。図6から、入力電圧として1.5から3Vをファンモータ駆動回路3に与えれば、ファンモータ回転数800から1600rpmが得られる。このためには(数1式)の演算結果であるXn を1.5から3Vの電圧に変換する必要がある。
図8は、かかる線形変換処理を説明するための特性図である。図8において、Xn の値を比例(直線の傾きa、切片b)関係を用いてXDAに変換し、この値をDA変換することで必要な入力電圧を得る。図9は、かかる線形変換処理を含むプログラムを示すフローチャートである。
この線形変換のためのパラメータ(図8の変換直線の傾きaと切片b)の設定を図9のフローチャートのスタートで行うようにしておき、複数のパラメータを予めROM42(図2)に記憶しておき、制御回路5(図1)からファンモータ駆動信号発生器4への信号でパラメータの一組を選択してプログラムをスタートすればよい。
このような処理は、DA変換器44とファンモータ駆動回路3の間に電圧を変換する回路を設けても可能であるが、中心電圧と振幅を同時に自由に変換するには複雑な電子回路を必要とする。本実施例のように、MPU41のプログラムで行う方がコスト、自由度(柔軟性)の点で優れている。」(段落【0081】?【0084】)

オ.「上記処理によって最終的には(数1式)の演算結果を回転数に正しく反映することができる。こうしてはじめて(数1式)の演算結果である不規則な変動(ゆらぎ)を正しく反映するファンモータ駆動電圧に変換でき、ファンモータ2の回転数を変動させ、人に与える刺激としての風の強さ(風速)にゆらぎを与え、快適感を喚起することができる。」(段落【0092】)

カ.「以上図1の実施例によれば、大きな記憶容量を必要とせずに、簡略なプログラムにより複雑な時系列データ信号を作成でき、これでファンモータの回転数を制御するため、使用者にゆらぎのある快適な風を提供できる。
図18は、本発明の他の一実施例を示すブロック図である。同図において、図1におけるのと同一符号は同一物を示す。図18において、6は押しボタンスイッチ、7はどの押しボタンスイッチが押されたかを検出し、この押しボタンスイッチ情報を制御回路5に送信するスイッチ選択情報回路である。
本実施例は使用者が好みによって、図1の実施例で説明したゆらぎ風の中心風速、ゆらぎの幅あるいは風のゆらぎパターンを選択できるようにしたものである。例えば、押しボタンスイッチ6として強、中、弱の3つを用意する。使用者が強ボタンを押せば、スイッチ選択情報回路7はこの情報を制御回路5に伝える。
そして制御回路5は、ファンモータ駆動信号発生器4のプログラムによる現在のファンモータ駆動信号発生を一時中止させ、ROM42に予め記憶させておいた線形変換のための複数のパラメータ(変換直線の傾きa、切片b)の中から強風に相当する中心風速、ゆらぎの幅のパラメータを選択し、再度プログラムをスタートするよう指示する。その結果ファンモータ2の回転によって引き起こされる風は、現在の状態から強風に相当する風の状態に遷移する。こうした動作によって使用者は好みの風速のゆらぎ風を得ることができる。
(数1式)で出力の時系列データを変化させるためには、図51に示したように初期値あるいは係数値をほんの少しずらせばよい。例えば初期値として数種類の値をROM42に記憶しておき、これらから1つを読み出し、図3のフローチャートにしたがって演算を行えば、全く異なる時系列データを得ることができる。係数値を数種類用意しても同様である。
上述の動作説明で明らかなように、押しボタンスイッチ6で初期値あるいは係数値の一つを選択できるようにすれば、使用者の好みで風のゆらぎパターンを選択することができる。そして先の中心風速、ゆらぎの幅の選択だけでなく、ゆらぎのパターンまで選択できるようになる。」(段落【0103】?【0108】)

これらの記載事項に基づけば、エアコンに調和された空気を室内に送風する送風部があること、そして、予め設定された複数の「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」の内から押しボタンスイッチ6を用いて選択された「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」に応じて前記送風部が制御されていることは、いずれも、当業者にとって自明である。
また、特に摘記事項「カ.」を参酌すると、押しボタンスイッチ6の「強」を押すと、強風に相当する「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」が選択されるものである。そして、押しボタンスイッチ6の「強」を押すということは、最大設定風量を選択することと理解できる。

以上の事項及び図面の記載内容からして、公知刊行物には、次の発明(以下、「公知刊行物記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「調和された空気を室内に送風する送風部と、
設定された「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」に応じて前記送風部を制御する制御回路と、
を備え、
前記設定された「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」は、複数の候補から1つだけ選択可能であり、
前記設定風量が前記最大設定風量である場合には、前記制御部は、強風に相当する「ゆらぎ風の中心風速及びゆらぎの幅」に基づき、送風量をゆらがせる、
エアコン。」


3.対比
本願発明と公知刊行物記載の発明を対比する。
公知刊行物記載の発明の「エアコン」、「制御回路」は、それぞれ、本願発明の「空気調和機」、「制御部」に相当する。
また、公知刊行物記載の発明の「設定された「ゆらぎ風の中心風速」」は、本願発明の「設定風量」に相当するものである。
そうしてみると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

〈一致点〉
「調和された空気を室内に送風する送風部と、
設定風量に応じて前記送風部を制御する制御部と、
を備え、
前記設定風量は、複数の設定風量候補から1つだけ選択可能であり、
前記複数の設定風量候補は、最大設定風量を含み、
前記設定風量が前記最大設定風量である場合には、前記制御部は、送風量をゆらがせる、
空気調和機。」

〈相違点〉
設定風量が最大設定風量である場合に、本願発明は、「最大設定風量を上限として」送風量をゆらがせるものであるのに対して、公知刊行物記載の発明は、強風に相当する中心風速及びゆらぎの幅で送風量をゆらがせるものである点。


4.当審の判断
前記相違点について検討する。

空気調和機の技術分野において、送風量が大きいと送風音が問題となることは、あえて例示を要するまでもなく当業者にとって周知である。そして、この周知の問題に対処するために、そもそも送風音が問題となるような送風量とならないように送風量自体に上限を設けておくことは、当業者にとって適宜採用し得た技術的事項であった。(ちなみに、そのような例として、特開平4-28949号公報に記載されたものを挙げることができる。)

公知刊行物記載の発明において、送風量の実質的な最大値が、強風に相当する中心風速にゆらぎの幅を加えたものであることは、当業者にとって自明な技術的事項である。
また、公知刊行物記載の発明における最大の風量は、所与の値以内になるように設計される性格のものである(特に、摘記事項「エ.」の「風速の中心レベルを所定の値、その時の変動(ゆらぎ)範囲をある幅に納める」なる記載事項を参照。)。
そうしたことをふまえて、公知刊行物記載の発明において、前述した周知の送風音の問題を考えると、強風に相当する中心風速にゆらぎの幅を加えたものが所定値を上回らないように最大風量として設定して制御すること、すなわち、ゆらぎの上限値を最大設定風量として送風量をゆらがせることは、当業者にとって通常の創作能力を発揮してなし得た事項にすぎない。(ちなみに、ゆらぎにより送風量を加える際にも送風音の問題が生じることは、例えば特開平8-86502号公報に記載されているように、当業者にとって自明な技術的事項である。)

したがって、前記相違点に係る本願発明の構成は、公知刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。すなわち、本願発明を特定するために必要な事項は、公知刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
しかも、本願発明を特定するために必要な事項によりもたらされる効果も、刊行物記載の発明から当業者が予期できる以上の格別なものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、公知刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、そのような本願発明を含む本願は、請求項2?8に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、 結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-05 
結審通知日 2007-06-12 
審決日 2007-06-25 
出願番号 特願2002-217817(P2002-217817)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荘司 英史  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 新海 岳
前田 仁
発明の名称 空気調和機  
代理人 小野 由己男  

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