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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1162192
審判番号 不服2005-8462  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-06 
確定日 2007-08-08 
事件の表示 特願2004-304676「シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜及びその形成方法、並びにシリカ系被膜を備える電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日出願公開、特開2005- 42123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年3月13日に出願した特願2003-68544(以下、「原出願」という。)の一部を平成16年10月19日に新たな特許出願(特願2004-304676号、以下、「本願出願」という。)としたものであって、その請求項1?12に係る発明(以下、「本願発明1?12」という、また単に「本願発明」ということもある)は、平成17年1月31日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その本願発明1は、次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
(a)成分:下記一般式(1);
R1nSiX4-n ・・・(1)
[式中、R1はH原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1?20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0?2の整数を示す。但し、nが2のとき、各R1は同一でも異なっていてもよく、nが0?2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。]、で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒と、を含有してなるシリカ系被膜形成用組成物であって、
前記非プロトン性溶媒が、2価アルコールのジアルキルエーテルを含む、シリカ系被膜形成用組成物。」

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面((以下、「原出願当初明細書等」という。)に記載されていない事項である、(a)所定のシロキサン樹脂と、(b)所定の溶媒とを含有してなるシリカ系被膜形成用組成物(オニウム塩を含まない組成物)について特許請求しようとするものであるから、適法な分割出願と認められないので、本願は、原出願の出願の時にしたものとすることはできず、願書を提出した平成16年10月19日がその出願日とされるものである。
そして、本願発明1?12は、原出願の公開公報である特開2004-277501号公報(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明であるか、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3.分割要件について
そこで、本願が原出願との関係において、特許法第44条第1項に規定する分割の要件を満たしているか否か、つまり本願発明1が原出願当初明細書等に記載した事項のものであるか否かについて先ず判断する。
原出願の請求項1では、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒((b)成分)とオニウム塩((c)成分)とを含有してなるシリカ系被膜形成用組成物(下記ア.参照)と特定されていたものが、本願発明1は、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と非プロトン性溶媒が2価アルコールのジアルキルエーテルである少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒(b)成分)を含有してなるシリカ系被膜形成用組成物と特定されたものであり、つまり、本願発明1は、オニウム塩((c)成分)を含まないシリカ系被膜形成用組成物であるので、原出願当初明細書等にオニウム塩((c)成分)を含まないシリカ系被膜形成用組成物が記載されているかどうか具体的に検討する。

原出願当初明細書等には、以下のように記載されている。
ア.「【請求項1】 (a)成分:下記一般式(1);
R1nSiX4-n ・・・(1)
[式中、R1はH原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1?20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0?2の整数を示す。但し、nが2のとき、各R1は同一でも異なっていてもよく、nが0?2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。]、で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、
(b)成分:少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、
を含有してなるシリカ系被膜形成用組成物。
【請求項2】 前記非プロトン性溶媒が、2価アルコールのジアルキルエ-テル、・・・及び環状ケトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む、請求項1記載のシリカ系被膜形成用組成物。](特許請求の範囲の請求項1、2)

イ.「本発明は・・・低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温、短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるシリカ系被膜形成用組成物・・・を提供することを目的とする。」(段落【0010】)

ウ.「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、本発明者らは、絶縁膜に好適なシリカ系被膜を得るための材料成分及びその組成の観点から鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を含有する組成物が、従来の種々の問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(a)成分:下記一般式(1);
R1nSiX4-n ・・・(1)
・・・、で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂と、(b)成分:少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒と、
(c)成分:オニウム塩と、を含有してなるシリカ系被膜形成用組成物を提供する」(段落【0011】?【0012】)

エ.「本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、被膜形成成分として上記構成のシロキサン樹脂を含み、シロキサン樹脂を溶解させる有機溶媒成分として非プロトン性溶媒を必須成分とし、オニウム塩を更に含有することから、・・・低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温且つ短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるようになる。・・・さらに、被膜の膜厚の均一性も向上させることができる。」(段落【0013】)

オ.「上記効果が生じる要因は必ずしも明らかではないが、シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになるのは、上記シロキサン樹脂と非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因しており、低温且つ短時間での硬化が可能となるのは、非プロトン性溶媒とオニウム塩を使用したことに主に起因しているものと推測される。また、被膜の膜厚の均一性の向上は、非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因していると考えられる。」(段落【0014】)

カ.「【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明にかかるシリカ系被膜形成用組成物は、(a)?(c)成分を含有しているが、本発明において特徴的なことは、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒、すなわち比誘電率の高い極性溶媒を含むシリカ系被膜形成用組成物とすることである。以下、本発明のシリカ系被膜形成用組成物の各成分について詳細に説明する。(段落【0024】)

キ.「上記一般式(1)で表される化合物の加水分解縮合を促進する触媒としては、蟻酸、マレイン酸、・・・等の有機酸、塩酸、燐酸、硝酸、・・・等の無機酸等を用いることができる。」(段落【0036】)

ク.「非プロトン性溶媒としては、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、・・・等が挙げられる。これらの中では、・・・2価アルコールのジアルキルエーテル・・・及び環状ケトンがより好ましく、ジエチレングリコールジメチルエーテル及びシクロヘキサノンが特に好ましい」(段落【0043】)

ケ.「(c)成分は、シリカ系被膜形成用組成物の安定性を高めると共に、シリカ系被膜の電気特性及び機械特性をより向上させる機能を有する。さらに、(a)成分の縮合反応を加速して硬化温度の低温化と短時間化を可能とし、機械強度の低下をより一層抑制する機能も備える。」(段落【0054】)

コ.「オニウム塩を含有することによって効果が奏されるメカニズムの詳細は、未だ不明な点があるものの、オニウム塩によって脱水縮合反応が促進されてシロキサン結合の密度が増加し、さらに残留するシラノール基が減少するため、機械強度及び誘電特性が向上するといった機構によるものと推定される。」(段落【0058】)

サ.「〈任意成分〉 また、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、任意成分として250?500℃の加熱温度で熱分解又は揮発する空隙形成用化合物(以下、「(d)成分」という。)を更に含むことが好ましい。」(段落【0059】)

シ.「(c)成分の含有量は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物の全重量基準で0.001ppm?5質量%であることが好ましく、・・・0.1ppm?0.5質量%であると一層好ましい。この含有量が0.001ppm未満であると、最終的に得られるシリカ系被膜の電気特性、機械特性が劣る傾向にある。」(段落【0070】)

ス.「(実施例1)
<シリカ系被膜形成用組成物の作製>
テトラエトキシシラン154.6gとメチルトリエトキシシラン120.6gとをシクロヘキサノン543.3gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.525gを溶解させた水溶液80.98gを攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させ、続いて、減圧下、温浴中で生成エタノール及びシクロヘキサノンの一部を留去して、ポリシロキサン溶液583.7gを得た。GPCによりポリシロキサンの重量平均分子量を測定したところ、1,350であった。
次いで、ポリシロキサン溶液553.9gに、空隙形成用化合物であるポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)24.86g、シクロヘキサノン498.7g、2.38%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液(PH3.6)17.89g、及び1%に希釈したマレイン酸水溶液5.5gをそれぞれ添加し室温で30分間攪拌溶解して、本発明のシリカ系被膜形成用組成物を作製した。なお、空隙形成用化合物として使用したポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)の350℃における重量減少率は99.9%であった。
(実施例2)
・・・次いで、ポリシロキサン溶液514.5gに、空隙形成用化合物であるポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)22.60g、ジエチレングリコールジメチルエーテル441.6g、2.38%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液(PH3.6)16.26g、及び1%に希釈したマレイン酸水溶液5.0gをそれぞれ添加し室温で30分間攪拌溶解して、本発明のシリカ系被膜形成用組成物を作製した。なお、空隙形成用化合物として使用したポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)の350℃における重量減少率は99.9%であった。」(段落【0087】?【0090】)

セ.「(比較例1)
テトラエトキシシラン154.6gとメチルトリエトキシシラン120.6gとをエタノール543.3gに溶解させた溶液中に、70%硝酸0.525gを溶解させた水溶液80.98gを攪拌下で30分かけて滴下した。滴下終了後5時間反応させて、ポリシロキサン溶液819.0gを得た。GPC法によりポリシロキサンの重量平均分子量を測定したところ、1,170であった。
次いで、ポリシロキサン溶液774.0gに、空隙形成用化合物であるポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)22.60g、エタノール182.1g、2.38%のテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液(PH3.6)16.26g、及び1%に希釈したマレイン酸水溶液5.0gをそれぞれ添加し室温で30分間攪拌溶解してシリカ系被膜形成用組成物を作製した。なお、空隙形成用化合物として使用したポリプロピレングリコール(アルドリッチ社製、PPG725)の350℃における重量減少率は99.9%であった。」(段落【0091】?【0092】)

ソ.表1には、実施例3で得た層間絶縁膜の電気特性及び弾性率(膜強度)の測定結果として、実施例2が比誘電率、2.3、弾性率(GPa)6.6、比較例1が比誘電率、2.7、弾性率(GPa)5.8であると示されている(段落【0098】参照)。

タ.「【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、2.5以下の低誘電率を100kHz以上の高周波領域においても発揮できると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温、短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるシリカ系被膜形成用組成物が提供される。」(段落【0099】)

以上のことから、原出願当初明細書等には、発明の目的として、低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温、短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるシリカ系被膜形成用組成物を提供すること(上記イ.参照)、該目的を達成するために、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒((b)成分)とオニウム塩((c)成分)とを含有してなるシリカ系被膜形成用組成物を提供すること(上記ウ.参照)、該シリカ系被膜形成用組成物は、被膜形成成分として上記構成のシロキサン樹脂を含み、シロキサン樹脂を溶解させる有機溶媒成分として非プロトン性溶媒を必須成分とし、オニウム塩を更に含有することから、低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温且つ短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるようになること(上記エ.及びタ.参照)が記載されている。
また、発明の実施形態として、「本発明にかかるシリカ系被膜形成用組成物は、(a)?(c)成分を含有している」(上記カ.参照)と記載されており、原出願当初明細書等に記載されているシリカ系被膜形成用組成物は(a)?(c)成分を含有しているものであり、かつ、(a)成分と(b)成分と(c)成分の三成分を含むことにより、低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温、短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できることが明確に示されている。
そして、シリカ系被膜形成用組成物の具体例においても、実施例1及び2として、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとの混合物を加水分解縮合して得られたシロキサン樹脂((a)成分)とシクロヘキサノン(実施例1の場合)又はシクロヘキサノンとジエチレングリコールジメチルエーテル(実施例2の場合)((b)成分)とテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液((c)成分)と空隙形成用化合物であるポリプロピレングリコール(任意成分(d)、上記サ.参照)とマレイン酸水溶液(一般式(1)で表される化合物の加水分解縮合を促進する触媒、上記キ.参照)を含むシリカ系被膜形成用組成物が記載されており(上記ス.参照)、原出願当初明細書等には(a)成分と(b)成分と(c)成分を含む少なくとも三成分からなるシリカ系被膜形成用組成物が具体的に示されている。
してみると、原出願当初明細書等に記載の発明は、(c)成分であるオニウム塩を必須の発明特定事項として含むことを前提とした、(a)成分と(b)成分と(c)成分を含む少なくとも三成分からなるシリカ系被膜形成用組成物が記載されていることは明らかである。

一方、本願発明1は、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と非プロトン性溶媒が2価アルコールのジアルキルエーテルである少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒((b)成分)とを含有するシリカ系被膜形成用組成物であり、つまり(c)成分であるオニウム塩を必須の発明特定事項として含むことを前提としていない、(c)成分であるオニウム塩を含まないシリカ系被膜形成用組成物である。
しかし、原出願当初明細書等には、シリカ系被膜形成用組成物の具体例としては、(a)成分と(b)成分と(c)成分を含有したもののみが記載されている(実施例1、2)にすぎず、(c)成分を含まない(a)成分と(b)成分を含むシリカ系被膜形成用組成物の具体的な例は、実施例にも、詳細な説明にも何も示されていない。
そして、(b)成分の非プロトン性溶媒がジエチレングリコールジメチルエーテル等の2価アルコールのジアルキルエーテルであることについては、原出願当初明細書等の請求項2、段落【0043】、実施例2に示されている(上記ア.、ク.及びス.参照)が、いずれも、(c)成分であるオニウム塩を必須の発明特定事項として含むことを前提とした、(a)成分と(b)成分と(c)成分を含む少なくとも三成分からなるシリカ系被膜形成用組成物において示されているか、又はその少なくとも三成分からなるシリカ系被膜形成用組成物の各成分の説明において、(b)成分の非プロトン性溶媒として他の成分と共に2価アルコールのジアルキルエーテルがより好ましく、ジエチレングリコールジメチルエーテルが特に好ましい(上記ク.参照)と挙げられているにすぎず、(c)成分を含まない(a)成分と(b)成分を含むシリカ系被膜形成用組成物についての(b)成分として説明されているものではない。
さらに、原出願当初明細書等には、(c)成分の含有量は、本発明のシリカ系被膜形成用組成物の全重量基準で0.001ppm?5質量%であることが好ましく、この含有量が0.001ppm未満であると最終的に得られるシリカ系被膜の電気特性、機械特性が劣る傾向にある(上記シ.参照)と記載されており、(c)成分の含有量が0であってもよいとは記載されておらず、(c)成分は必須の発明特定事項として示されていることは明らかである。
してみれば、原出願当初明細書等には、本願発明1の(c)成分であるオニウム塩を含有しない、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と非プロトン性溶媒が2価アルコールのジアルキルエーテルである少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒((b)成分)を含有する本願発明1のシリカ系被膜形成用組成物は記載されておらず、本願発明1は原出願当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものを含んでいるものである。

これに対し、請求人は、概ね以下のように主張している。
「本願の分割直前の原出願の明細書には、「本発明において特徴的なことは、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒、すなわち比誘電率の高い極性溶媒を含むシリカ系被膜形成用組成物とすることである。」(上記カ.参照)と、「シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになるのは、上記シロキサン樹脂と非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因しており」、「低温且つ短時間での硬化が可能となるのは、非プロトン性溶媒とオニウム塩を使用したことに主に起因しており」、「被膜の膜厚の均一性の向上は、非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因している」(上記オ.参照)とも記載されており、原出願の明細書の記載全体を総合的に考慮すると、原出願は、その明細書中に、シロキサン樹脂を含有するシリカ系被膜形成用組成物において、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒、すなわち比誘電率の高い極性溶媒を用いることにより、「シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになる」という発明と、更にオニウム塩を含有させることにより、「低温且つ短時間での硬化が可能」となるという発明と、を包含し、原出願の出願時に、シリカ系被膜に低誘電性及び充分な機械的強度を付与するために、(a)成分と(b)成分とを必須成分とし、かつ(c)成分を必須成分としないシリカ系被膜形成用組成物の発明を完成していることは自明であることから、オニウム塩を必須成分とせず、特定のシロキサン樹脂と非プロトン性溶媒とを含有するシリカ系被膜形成用組成物が、原出願の明細書に明示的に記載された事項又は原出願の明細書の記載から自明な事項であることは明白で、本願発明1は、分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明であり、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないことは明らかです(平成17年8月1日付手続補正書(方式)の第5頁下から5行?第6頁31行参照)。」

しかしながら、原出願当初明細書等の段落【0013】には、本発明のシリカ系被膜形成用組成物は、シロキサン樹脂を溶解させる有機溶媒成分として非プロトン性溶媒を必須成分とし、オニウム塩を更に含有すると記載があり(上記エ.参照)、同段落【0024】には、本発明において特徴的なことは、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含むことであると記載されている(上記カ.参照)が、この記載は、あくまでも(b)成分である少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒と(c)成分であるオニウム塩を必須の発明特定事項として含むことを前提として記載されているものであり、(b)成分である非プロトン性溶媒のみが発明の特徴的な必須成分であって、(c)成分であるオニウム塩が含有量が0であってもよい、つまり、(c)成分であるオニウム塩が任意成分として区別して記載されているわけではない。
また、同段落【0014】には、シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになるのは、シロキサン樹脂と非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因しており、低温且つ短時間での硬化が可能となるのは、非プロトン性溶媒とオニウム塩を使用したことに主に起因しているものと推測されると記載されている(上記オ.参照)が、これはあくまでも推測にすぎず、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含有さえすれば、必ずシリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するシリカ系被膜形成用組成物の提供が達成できるといえるところまで示されているものとはいえないし、その推測が具体的な配合例による比較実験等で裏付けられているものでもない。
しかも、同【0054】には、(c)成分は、シリカ系被膜形成用組成物の安定性を高めると共に、シリカ系被膜の電気特性及び機械特性をより向上させる機能を有すると(上記.ケ参照)、同【0058】には、オニウム塩によって脱水縮合反応が促進されてシロキサン結合の密度が増加し、さらに残留するシラノール基が減少するため、機械強度及び誘電特性が向上するといった機構によるものと推定されると記載されている(上記.コ参照)ように、(c)成分は機械的強度及び誘電特性に全く関与しない成分であるとは言いきれず、低温且つ短時間での硬化が可能となるためのみに用いているものとして、(b)成分と(c)成分との役割が全く別個のものであるとはいえず、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒を用いることにより、「シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになる」という発明と、更にオニウム塩を含有させることにより、「低温且つ短時間での硬化が可能」となるという発明とが別個の発明として区別して認識できるように記載されているものでもない。
さらに、本件発明1のシリカ系被膜形成用組成物による効果についても、実施例2と比較例1(実施例2において非プロトン性溶剤であるジエチレングリコールジメチルエーテルがプロトン性溶剤であるエタノールに変わっており、非プロトン性溶剤を含まない点で異なっている、上記セ.参照)とを比較してみても、実施例2と比較例1のいずれにも(c)成分であるテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液が含有されており、実施例2と比較例1との効果(絶縁膜の電気特性及び弾性率(膜強度))の差(上記ソ.参照)が直ちに(c)成分を含まない、ジエチレングリコールジメチルエーテル(b成分)を含有したシリカ系被膜形成用組成物自体の効果を具体的に示すものとはいえない。

してみると、原出願当初明細書等には、(a)成分、(b)成分、(c)成分の三成分を必須の構成成分とし、そのことにより低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有し、従来に比して低温且つ短時間で硬化可能なシリカ系被膜を形成できるシリカ系被膜形成用組成物の提供が達成できると記載されているものであって、その原出願当初明細書等に記載の発明における目的を区分けして、その一つである低誘電性に優れると共に、充分な機械的強度を有する点のみに注目し、その目的を達成できるための構成として(a)成分と(b)成分とを必須成分として特定したシリカ系被膜形成用組成物の発明が別個に記載されているものとは認められない。
それゆえ、原出願当初明細書等には、(b)成分として少なくとも1種の非プロトン性溶媒を用いることにより、「シリカ系被膜が低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになる」という発明と、更にオニウム塩を含有させることにより、「低温且つ短時間での硬化が可能」となるという発明とを包含しているとする請求人の主張は採用できない。

以上のことから、本願は原出願当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものを含んでいるから、本願は分割出願としての要件を満たしていないので、適法に原出願の一部を新たな特許出願としたものとは認められず、出願日の遡及は認められない。したがって、本願は、原出願の出願の時にしたものとすることはできず、願書を提出した平成16年10月19日がその出願日とされるものである。

4.引用刊行物1の記載内容
当審の拒絶の理由に引用された本願出願前の平成16年10月7日に国内で頒布された刊行物1(特開2004-277501号公報、原出願の公開公報)には上記3.のア.?タ.に記載した事項が記載されている。

5.対比・判断
刊行物1には、請求項1に一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂((a)成分)と少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒((b)成分)とオニウム塩((c)成分)とを含有してなるシリカ系被膜形成用組成物が記載され、請求項2にその非プロトン性溶媒が2価アルコールのジアルキルエーテルであること及び実施例2に非プロトン性溶媒がジエチレングリコールジメチルエーテルであるシリカ系被膜形成用組成物が具体的に記載されている。
ここで、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、一般式(1)で表される化合物を加水分解縮合して得られるシロキサン樹脂を含有するシリカ系被膜形成用組成物において、本願発明1は非プロトン性溶媒が2価アルコールのジアルキルエーテルである少なくとも1種の非プロトン性溶媒を含む有機溶媒をその発明特定事項としているのに対し、刊行物1に記載の発明はさらにオニウム塩が発明特定事項として付け加えられている点で相違している。

しかしながら、シロキサン樹脂を含有するシリカ系被膜形成用組成物において、低誘電性及び充分な機械的強度を有するようになるのは、上記シロキサン樹脂と非プロトン性溶媒を使用したことに主に起因していると刊行物1に一応示唆されていることからみれば、その示唆に基づいて、オニウム塩を含まない、シロキサン樹脂と非プロトン性溶媒を含むシリカ系被膜形成用組成物を用いてみる程度のことは、容易に想到し得たことと認められるばかりでなく、その作用効果も刊行物1に記載のシリカ系被膜形成用組成物に比較し、必須の発明特定事項である(c)成分を欠如するものであるから、低誘電性及び充分な機械的強度において劣ることはあっても、格別優れているものとは考え難いので、本願発明1のシリカ系被膜形成用組成物が刊行物1に記載のシリカ系被膜形成用組成物に比較し特別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明1は刊行物1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願出願前に国内で頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は他の請求項である請求項2?12に係る発明については検討するまでもなく、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-20 
結審通知日 2006-03-22 
審決日 2006-04-10 
出願番号 特願2004-304676(P2004-304676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 井上 彌一
岩瀬 眞紀子
発明の名称 シリカ系被膜形成用組成物、シリカ系被膜及びその形成方法、並びにシリカ系被膜を備える電子部品  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 長谷川 芳樹  

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