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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1162829 |
審判番号 | 不服2004-15367 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-22 |
確定日 | 2007-08-16 |
事件の表示 | 平成 5年特許願第330812号「ITO粉末、ITO焼結体およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月25日出願公開、特開平 7-188912〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成5年12月27日の出願であって、その請求項1?3に係る発明は、平成16年8月23日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径との比(平均粒子径/比表面積相当径)が1?10であり、BET法によって求めた比表面積相当径とX線解析により求めた結晶子径との比(比表面積相当径/結晶子径)が2以下である物性をそれぞれ有する、酸化インジウムおよび酸化錫を混合してなるITO粉末。」 2.引用刊行物の記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-311428号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 (a)「次に本発明の高密度焼結体の製造方法に関する好ましい実施態様を説明する。焼結体を製造する原料粉末としては、酸化インジウムと酸化スズの混合粉末でも良いし、共沈粉末でも良い。例えば、酸化インジウムまたは共沈粉末としては、結晶子径が200?500オングストロ-ムであり、結晶子径とBET径の違いが100オングストロ-ム以内であり、且つ0.1?3μmの範囲における粒度分布測定より求めた比表面積は、1m2/g以上、平均粒子径は2μm以下、0.1μm以下の範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径は、0.09μm以下である微細で高分散な粉末が挙げられる。なお、結晶子径は、酸化インジウムの(222)X線回折ピ-クの半価幅から求めることができ、BET径は、粉末のBET値を測定し、粒子を球に近似して求めることができる。また、粒度分布は、遠心沈降式の粒度分布測定器によるのが一般的である。BET径と結晶子径の違いが100オングストロ-ムを越える場合、凝集が激しく、高密度焼結体にならないおそれがある。また、特に、0.1μm以下の範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径が0.09μmを越える場合も凝集が大きく、90%以上の高密度化が困難になることがある。」(段落【0026】?段落【0028】) (b)「混合する酸化スズ粉末としては、例えばBET比表面積が3?20m2/g、0.1?3μmの範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径が0.2?2μmの粉末が挙げられる。BET比表面積が大きく、平均粒子径が大きい粉末は、凝集が激しく、焼結体中に酸化スズの大きな塊が残る場合がある。」(段落【0029】) (c)「以上の様な方法で焼結密度90%以上100%以下、焼結粒径1μm以上20μm以下である本発明のITO焼結体の製造が可能となる。」(段落【0036】) (d)「焼結体を高密度化することにより、その機械的強度は増加する。本発明の焼結体の抗折力は7kg/mm2以上が好ましく、特に10?30kg/mm2が好ましい。」(段落【0021】) 3.対比 引用文献1の記載事項(a)によれば、焼結体を製造する原料粉末は、酸化インジウムと酸化スズの混合粉末であること、及び、酸化インジウム粉末は、結晶子径とBET径の違いが100オングストロ-ム以内であり、且つ0.1?3μmの範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径は2μm以下、0.1μm以下の範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径は0.09μm以下の粉末であること、結晶子径は、X線回折ピ-クの半価幅から求めたものであること、BET径は、粉末のBET値から求めたものであること、粒度分布は、遠心沈降式の粒度分布測定により求めたものであることが記載されている。また、酸化スズ粉末は、記載事項(b)によれば、BET比表面積が3?20m2/g、0.1?3μmの範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径が0.2?2μmの粉末であるといえる。 これら記載を本願発明1の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、「X線回折ピ-クから求めた結晶子径とBET値から求めたBET径の違いが100オングストロ-ム以内であり、且つ0.1?3μmの範囲における遠心沈降式の粒度分布測定より求めた平均粒子径は2μm以下、0.1μm以下の範囲における遠心沈降式の粒度分布測定より求めた平均粒子径は0.09μm以下の酸化インジウム粉末と、BET比表面積が3?20m2/g、0.1?3μmの範囲における遠心沈降式の粒度分布測定より求めた平均粒子径が0.2?2μmの酸化スズ粉末の混合粉末」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 そこで、本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「X線回折ピ-クから求めた結晶子径」、「BET値から求めたBET径」、「0.1?3μmの範囲における遠心沈降式の粒度分布測定より求めた平均粒子径」は、本願発明1の「X線解析により求めた結晶子径」、「BET法によって求めた比表面積相当径」、「粒子径測定により求めた平均粒子径」にそれぞれ相当する。また、引用発明1の「BET比表面積」は、この比表面積から比表面積相当径が算出されることから、本願発明1の「BET法によって求めた比表面積相当径」に相当する。そして、引用発明1の「X線回折ピ-クから求めた結晶子径とBET値から求めたBET径の違いが100オングストロ-ム以内」とすることは、記載事項(a)のとおり、酸化インジウムの結晶子径が200?500オングストロ-ムであることから、酸化インジウムのBET径は、結晶子径の1.5倍?1.2倍となり、本願発明1の「BET法によって求めた比表面積相当径とX線解析により求めた結晶子径との比(比表面積相当径/結晶子径)が2以下である物性」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明1とは、「粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径に関した所定の物性値と、BET法によって求めた比表面積相当径とX線解析により求めた結晶子径との比(比表面積相当径/結晶子径)が2以下である物性を有する酸化インジウム、および、粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径に関した所定の物性値を有する酸化錫を混合してなるITO粉末。」で一致し、以下(1)?(3)の点で相違している。 (1)本願発明1の酸化インジウム粉末の「粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径に関した所定の物性値」は、「粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径との比(平均粒子径/比表面積相当径)が1?10」であるのに対して、引用発明1では、「0.1?3μmの範囲における粒子径測定により求めた平均粒子径が2μm以下、BET法によって求めた比表面積相当径が200?500オングストロ-ム」である点。 (2)本願発明1の酸化スズ粉末の「粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径に関した所定の物性値」は、「粒子径測定により求めた平均粒子径とBET法によって求めた比表面積相当径との比(平均粒子径/比表面積相当径)が1?10」であるのに対して、引用発明1では、「0.1?3μmの範囲における粒子径測定により求めた平均粒子径が0.2?2μm、BET比表面積が3?20m2/g」である点。 (3)本願発明1の酸化スズ粉末は、「BET法によって求めた比表面積相当径とX線解析により求めた結晶子径との比(比表面積相当径/結晶子径)が2以下である物性」を有しているのに対して、引用発明1では、具体的に記載されていない点。 4.当審の判断 上記相違点の(1)について検討する。 引用文献1には、記載事項(a)のとおり「0.1μm以下の範囲における粒度分布測定より求めた平均粒子径が0.09μmを越える場合も凝集が大きく、90%以上の高密度化が困難になることがある。」と記載されており、平均粒子径が大きくなると、粒子の凝集が大きくなること、及び、粒子の凝集が大きくなると、焼結体の高密度化が困難となることが示されている。 また、特開平1-301505号公報に「比表面積は、BET法による窒素ガス吸着で得られたものである。この比表面積から真球換算により平均粒径(D1)を求めることができる。この方法で求めた平均粒径(D1)は、窒化アルミニウム粉末の一次粒径を表わす。一方、沈降法・・・で測定した平均粒径(D2)は、一次粒子が凝集して形成された疑集粒子の平均粒径を表わす。」(第2頁左上欄第19行?右上欄第7行)と記載され、また、特開平2-53995号公報に「沈降性炭酸カルシウムを水中に分散せしめ、・・・通常の撹拌機で処理し、得られたスラリーをセディグラフX線透過式粒度分布測定法で測定した平均粒子径dは一次粒子が多数凝集して、所謂二次粒子となった凝集体をあたかも一次粒子であるかの如く、その粒子径として測定されたものである。よって、dは正しくは平均二次粒子径と解釈されるべきものであり、・・・BET比表面積測定法により測定した比表面積の値より算出した沈降性炭酸カルシウムの平均粒子径Dは、近似的には本来の粒子径、即ち一次粒子径として定義することのできるものである」(第4頁左上欄第5?19行)と記載されているように、BET法によって求めた比表面積相当径が一次粒子径を示し、粒子測定法により求めた平均粒子径が一次粒子の凝集した二次粒子径を示すことは、当該技術分野において周知の事項である。 そうすると、二次粒子は一次粒子が凝集したものであり、二次粒子径である粒子測定法により求めた平均粒子径が大きくなると粒子の凝集の程度が大きくなることから、二次粒子径が一次粒子径の大きさに近づくにつれて凝集の程度が小さくなるといえる。 さらに、特開平1-301505号公報に「本発明の窒化アルミニウム粉末は、D2/D1≦2.60であることから、一次粒子の凝集の程度が比較的小さい粉末であるといえる。」(第2頁左下欄第16?18行)と記載されているように、二次粒子径/一次粒子径が小さい粒子は凝集の程度が小さい粒子であることも、当該技術分野において周知の事項である。 してみると、引用発明1において、焼結体の高密度化のために、粒子の凝集の程度が小さい粒子、すなわち、平均粒子径/比表面積相当径の比が小さい粒子を用いることは、当業者であれば容易に想到することである。そして、その数値範囲を1?10とすることによって、格別な作用効果を奏するものでないから、その数値範囲を1?10に限定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。 上記相違点の(2)について検討する。 引用文献1には、記載事項(b)のとおり「BET比表面積が大きく、平均粒子径が大きい粉末は、凝集が激しく、焼結体中に酸化スズの大きな塊が残る場合がある。」と記載されている。そして、特開平2-53995号公報に「BET比表面積測定法により測定した比表面積Sをもとにして、下記の式により一次粒子径を算出した。 D=6/S・ρ D;BET比表面積測定法により測定した比表面積から算出された・・・一次粒子径(μm)。S;BET比表面積測定法により測定した・・・比表面積(m2/g)。ρ;・・・真比重(g/cm3)。」(第9頁左下欄第9行?右下欄第6行)と記載されているように、BET比表面積とBET法によって求めた比表面積相当径とは、反比例の関係にあることは技術常識であるから、引用文献1には、比表面積相当径が小さく、平均粒子径が大きい粉末は、凝集が大きいことが示されているといえる。 また、相違点(1)で検討したとおり、二次粒子径が一次粒子径の大きさに近づくこと、あるいは、二次粒子径/一次粒子径の比を小さくすると、凝集の程度が小さくなることは、当該技術分野において周知の事項であるといえる。 してみると、引用発明1において、焼結体中に酸化スズの大きな塊が残らないように、粒子の凝集の程度が小さい粒子、すなわち、平均粒子径/比表面積相当径の比が小さい粒子を用いることは、当業者であれば容易に想到することである。そして、その数値範囲を1?10とすることによって、格別な作用効果を奏するものでないから、その数値範囲を1?10に限定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。 上記相違点の(3)について検討する。 引用文献1には、記載事項(a)のとおり、焼結体を製造する原料粉末が混合粉末の場合は、酸化インジウム粉末の結晶子径とBET径の関係を、原料粉末が共沈粉末の場合は、共沈粉末の結晶子径とBET径の関係を規定することが記載されている。そして、共沈粉末が原料粉末の全体を示すことを考慮すれば、混合粉末を用いる場合にも、原料粉末全体の結晶子径とBET径の関係を限定すること、すなわち、酸化インジウム粉末に加えて、酸化スズ粉末の結晶子径とBET径の関係を限定することは、当業者であれば容易に想到するものである。 したがって、酸化スズ粉末について、酸化インジウム粉末を同様に、BET法によって求めた比表面積相当径とX線解析により求めた結晶子径との比(比表面積相当径/結晶子径)が2以下とすることは、原料粉末全体の凝集と焼結体の高密度化を考慮して、当業者が容易になし得たものである。 そして、本願発明1の作用効果について検討すると、引用文献1には、記載事項(c)のとおり、焼結密度90%以上100%以下、焼結粒径1μm以上20μm以下であるITO焼結体の製造が可能となることが記載されている。また、引用文献1の記載事項(b)から、引用発明1は、焼結体中に酸化スズの大きな塊が残ることを防止できるといえ、記載事項(c)から、引用発明1は、高密度化することにより、焼結体の最大気孔径を小さくできるといえる。 したがって、本願発明1の作用効果は、引用発明1から当業者が容易に予測できる範囲のものである。 5.むすび したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-06-06 |
結審通知日 | 2007-06-12 |
審決日 | 2007-06-25 |
出願番号 | 特願平5-330812 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前田 仁志、瀬良 聡機 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
宮澤 尚之 廣野 知子 |
発明の名称 | ITO粉末、ITO焼結体およびその製造方法 |