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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23H
管理番号 1162869
審判番号 不服2005-14401  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-28 
確定日 2007-08-16 
事件の表示 特願2002-310024「ワイヤ放電加工機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月20日出願公開、特開2004-142027〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成14年10月24日の特許出願であって、同16年10月19日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月22日に手続補正がなされたが、同17年6月22日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年7月28日に本件審判の請求がなされ、同年8月29日に手続補正がなされたが、当審において同19年3月27日付けで拒絶理由が通知され、同年5月30日に手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年5月30日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「ワイヤ放電加工機において、ワイヤ電極の放電消耗により生じる真直度誤差を補正する真直度誤差補正量を記憶する手段と、該真直度誤差補正量から、移動経路がプログラムされているワーク上の第1の面上の移動経路に対するワイヤのオフセット方向の第1の補正量を求め、該第1の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第1の修正オフセット量により、前記第1の面上の移動経路を修正し、さらに、前記真直度誤差補正量から前記第1の面に平行なワーク上の第2の面上の移動経路に対するオフセット方向の第2の補正量を求め、該第2の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第2の修正オフセット量により、前記第2の面上の移動経路を修正し、前記第1の修正オフセット量、第2の修正オフセット量、ワイヤ電極を傾けるためのワーク上に設定された基準面の位置と、ワークの配置位置と機械構成で決まる設定定数、及び修正された前記第1の面上の移動経路と修正された前記第2の面上の移動経路に基づいて、上ワイヤガイド及び下ワイヤガイドのワークに対する移動経路を求める手段とを備えることを特徴とするワイヤ放電加工機。」

3.刊行物記載の発明
これに対し、本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開昭59-7525号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.第1ページ右下欄第7?10行
「本発明は、ワイヤカット放電加工において、ワイヤ電極の消耗が起因する被加工物の上下寸法誤差を、ワイヤ電極を被加工物に対して傾斜させて補正する加工方法に関するものである。」
イ.第2ページ右下欄第3?14行
「第4図に本発明による実施方法の原理を示してある。・・・このように同一加工条件で本加工に入る前のテスト加工等で、あらかじめθを求めておく。次に・・・本加工においてワイヤ電極(1)を鉛直方向に対してθだけ傾斜させてテーパ加工を行うことにより、同図左側の被加工物(2)(必要な形状側)のようにほぼ上下寸法差E=0(原文はニュアイコール)を得ることができる」

上記記載を、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ワイヤ放電加工機において、ワイヤ電極の放電消耗により生じる上下寸法誤差を補正する鉛直方向に対する傾斜θを記憶する手段と、該傾斜θを補正してワークに対するワイヤの移動経路を求める手段とを備えるワイヤ放電加工機。」

同じく当審で通知した拒絶理由に引用された特開昭55-18367号公報(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.第1ページ右下欄第7?9行
「この発明はテーパ面形状の加工を可能にした例えばテーパカット用ワイヤカット方式などの電気加工機において」
イ.第2ページ左上欄第4?13行
「第2図のようにワイヤをX軸方向に角度θを傾斜させた場合・・・上部ガイドは・・・X軸方向に駆動されることになる。またワーク取付テーブルはNCテープで指定された移動量の外に上部ガイドを傾けたために生ずるテーブル面での誤差l1=tanθを補正する必要がある。この補正は下部ガイドを(6)をl1=tanθ動かしても出来る」

上記記載を、技術常識を踏まえ整理すると、上記刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ワイヤ放電加工機において、ワイヤを傾斜させる場合、上部ワイヤガイド及び下部ワイヤガイドを移動させること。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「上下寸法誤差を補正する鉛直方向に対する傾斜θ」と、本願発明の「真直度誤差を補正する真直度誤差補正量」とは、「誤差を補正するための値」である限りにおいて一致する。
さらに、刊行物1発明の「該傾斜θを補正してワークに対するワイヤの移動経路を求める手段」と、
本願発明の「該真直度誤差補正量から、移動経路がプログラムされているワーク上の第1の面上の移動経路に対するワイヤのオフセット方向の第1の補正量を求め、該第1の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第1の修正オフセット量により、前記第1の面上の移動経路を修正し、さらに、前記真直度誤差補正量から前記第1の面に平行なワーク上の第2の面上の移動経路に対するオフセット方向の第2の補正量を求め、該第2の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第2の修正オフセット量により、前記第2の面上の移動経路を修正し、前記第1の修正オフセット量、第2の修正オフセット量、ワイヤ電極を傾けるためのワーク上に設定された基準面の位置と、ワークの配置位置と機械構成で決まる設定定数、及び修正された前記第1の面上の移動経路と修正された前記第2の面上の移動経路に基づいて、上ワイヤガイド及び下ワイヤガイドのワークに対する移動経路を求める手段」とは、
「誤差を補正したワークに対するワイヤの移動経路を求める手段」である限りにおいて一致する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「ワイヤ放電加工機において、ワイヤ電極の放電消耗により生じる誤差を補正するための値を記憶する手段と、該誤差を補正したワークに対するワイヤの移動経路を求める手段とを備えるワイヤ放電加工機。」

そして、以下の点で相違する。
本願発明は、「誤差を補正するための値」が「真直度誤差を補正する真直度誤差補正量」であり、「誤差を補正したワークに対するワイヤの移動経路を求める手段」が「真直度誤差補正量から、移動経路がプログラムされているワーク上の第1の面上の移動経路に対するワイヤのオフセット方向の第1の補正量を求め、該第1の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第1の修正オフセット量により、前記第1の面上の移動経路を修正し、さらに、前記真直度誤差補正量から前記第1の面に平行なワーク上の第2の面上の移動経路に対するオフセット方向の第2の補正量を求め、該第2の補正量に、ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味した第2の修正オフセット量により、前記第2の面上の移動経路を修正し、前記第1の修正オフセット量、第2の修正オフセット量、ワイヤ電極を傾けるためのワーク上に設定された基準面の位置と、ワークの配置位置と機械構成で決まる設定定数、及び修正された前記第1の面上の移動経路と修正された前記第2の面上の移動経路に基づいて、上ワイヤガイド及び下ワイヤガイドのワークに対する移動経路を求める手段」であるのに対し、
刊行物1発明は、「誤差を補正するための値」が「上下寸法誤差を補正する鉛直方向に対する傾斜θ」であり、「誤差を補正したワークに対するワイヤの移動経路を求める手段」が「該傾斜θを補正してワークに対するワイヤの移動経路を求める手段」である点。

上記相違点について、検討する。
ワイヤの傾きを特定するためには、傾き角度による手法と、離間した2点を結ぶ線として特定する手法とに大別され、適宜選択可能であることは明らかである。
したがって、刊行物1発明における「傾斜θ」によるものに代えて、離間した2点による特定、すなわち、ワーク上の第1の面上に第1の補正量、ワーク上の第2の面上に第2の補正量とすることは、設計的事項にすぎない。
また、かかる2点による特定を行う場合は、補正量が0となる原点を定めることにより、計算上の利便性が高まることから、補正量が0となるワーク上の基準面を定めることに困難性は認められない。
さらに、ワークに対して、加工プログラムで形状を指定するためには、ワークのいずれかの高さに、そのための面が必要であるが、別途、面を選定することは、煩雑であるから、この面を前記の第1の面と兼ねることは、当業者が適宜なしうる事項にすぎない。
第1、第2の補正量に、「ワイヤ半径と放電ギャップによるオフセット量を加味」する点については、ワイヤカット放電加工においては、当然に考慮すべき事項であり、特開平6-312317号公報(当審における審尋で引用)の段落0002、特開昭56-9132号公報の第2ページ右上欄、特開昭59-142021号公報の第1ページ右下欄にみられるごとく周知である。
「ワークの配置位置と機械構成で決まる設定定数」については、本願発明の図1の例のごとく、ワークを載置台に直接置くのではなく、サブテーブル上に置くことも、必要に応じて行われているところ、かかる場合においては、サブテーブルを介することを考慮しなければならないことは当然であるから、経路を「ワークの配置位置と機械構成で決まる設定定数」に基づいて求めるものとすることは、装置の形態に応じて、当然考慮すべき設計的事項にすぎない。
「上ワイヤガイド及び下ワイヤガイドのワークに対する移動経路を求める」点については、ワイヤの移動経路を傾ける場合に、刊行物2発明は、「上部ワイヤガイド及び下部ワイヤガイドを移動させワイヤを傾斜させる」ものであり、ワイヤを傾ける手法に関するものであるから、かかる刊行物2発明の手法を、刊行物1発明に適用することに困難性は認められない。
請求人は、平成19年5月30日の意見書において、「引用例1(当審注、刊行物1)に記載されている事項は、ワイヤ電極の放電消耗を考慮してテーパ加工を行うという原理が記載されているだけで、加工形状を指令するプログラムの移動経路の補正については、何ら記載されていません。」と主張している。
しかし、刊行物1に「放電消耗を考慮してテーパ加工を行うという原理」が記載されている以上、経路の補正については、上記のとおり、刊行物2発明、周知技術をもとに、幾何学的に自然に求めうるものであって、本願発明のごとくすることに格別の技術的意義を見いだすことはできない。よって、請求人の主張を採用することはできない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-12 
結審通知日 2007-06-19 
審決日 2007-07-02 
出願番号 特願2002-310024(P2002-310024)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志加藤 昌人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 菅澤 洋二
加藤 昌人
発明の名称 ワイヤ放電加工機  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 竹本 松司  
代理人 魚住 高博  
代理人 湯田 浩一  

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