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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1162872
審判番号 不服2005-17994  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-20 
確定日 2007-08-16 
事件の表示 平成10年特許願第 77453号「一方向クラッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-270595〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成10年3月25日の出願であって、平成17年8月12日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年9月20日(受付日)に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年10月19日(受付日)付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年10月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年10月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】同心状に配設される内外2つの環体を同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換える一方向クラッチであって、
前記内外2つの環体の径方向対向空間において円周数カ所に形成されるくさび状空間に、それぞれ、ころおよびころをくさび状空間のロック側へ弾発付勢するコイルバネが周方向に並べて配設され、
前記くさび状空間は、内外2つの環体のうち内側環体の外周面に円周数カ所に形成した平坦なカム面と、外側環体の内周面との間に形成されるものであり、
前記コイルバネが、バネ線材を角筒形または楕円形に巻回された角巻きバネからなり、コイルバネ単体状態において、その伸縮方向両端部分が、伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定されているとともに、
前記平坦なカム面は径方向に対して直交する面に形成され、
前記コイルバネの伸縮方向は前記平坦なカム面に対してほぼ平行である、ことを特徴とする一方向クラッチ。」
と補正された。(なお、下線部は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書の記載に基づき、くさび状空間について「前記くさび状空間は、内外2つの環体のうち内側環体の外周面に円周数カ所に形成した平坦なカム面と、外側環体の内周面との間に形成されるものであり、」との限定を付加するとともに、くさび状空間のカム面について「前記平坦なカム面は径方向に対して直交する面に形成され、」との限定を付加し、さらに、コイルバネの伸縮方向について「前記コイルバネの伸縮方向は前記平坦なカム面に対してほぼ平行である、」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭57-168670号(実開昭59-72324号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、ローラ方式のワンウエイクラツチに関して、下記の事項ア?ウが図面とともに記載されている。
ア;「従来公知のワンウエイクラツチは、例えば第1図又は第2図に示すように,内輪2の外周面に適数個の溝4を形成して溝底面(カム面)7と外輪3の内周面8との間隔が漸変するようにし,溝4内に配置したローラ1をばね5でカム面7に係合する方向に付勢する。その結果,ローラ1によつてカム面7と内周面8との間に楔作用が生ずるので,内輪2は外輪3に対して左旋は可能であるが,右旋は不能となる。
ローラ1は,第1図に示すように切欠き9内に配置したばね5(圧縮コイルばね)で押圧部材6を押すことにより付勢されたり,又は第2図に示すように直接ばね5で付勢される。」(明細書第2頁19行?第3頁13行)

イ;「第5図に示すように,ばね20は互いに密着された3巻程度の大径部22と,らせん状に延びる5巻程度の小径部24とからなる。大径部22は一対の平行部22aと,両平行部を接続する一対の半円部22bとから成る長円形状を有する。一方,小径部24も一対の平行部24a(間隔は前記平行部22aの間隔に等しい)と,両平行部を接続する一対の半円部24b(曲率半径は前記半円部22bの曲率半径に等しい)とから成る長円形状を有する。」(明細書第4頁14行?第5頁4行)

ウ;第2図を参酌すれば、内輪2の外周面に形成された溝4の溝底面であるカム面7は、平坦なカム面とされていることが見てとれるものである。

(3)対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項ア?ウ及び第2図からみて、刊行物1には、下記の発明が記載されていると認めることができるものである。
「内輪2を外輪3に対して相対的に旋回可能状態と相対的に旋回不能状態とに切り換えることができるワンウエイクラツチであって、
内輪2の外周面に適数個の溝4を形成して溝底面(カム面)7と外輪3の内周面8との間隔が漸変するように構成し、該溝4内にローラ1及びローラ1を溝4内でカム面7と係合する方向へ付勢するばね5が周方向に並べて配設されているワンウエイクラツチ。」

そして、刊行物1に記載された発明の内輪2と外輪3は、同心状に配設されていることは自明の事項といえるものであり、また、刊行物1に記載された発明の「内輪2」、「外輪3」、「溝4」、「ローラ1」及び「ばね5(圧縮コイルばね)」は、それぞれ本願補正発明の「内側環体」、「外側環体」、「くさび状空間」、「ころ」及び「コイルバネ」に機能的に相当するものであって、その溝4のカム面7は平坦な形状で外輪3の内周面8との間隔が漸変するように構成されているものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「同心状に配設される内外2つの環体を同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換える一方向クラッチであって、前記内外2つの環体の径方向対向空間において円周数カ所に形成されるくさび状空間に、それぞれ、ころおよびころをくさび状空間のロック側へ弾発付勢するコイルバネが周方向に並べて配設され、前記くさび状空間は、内外2つの環体のうち内側環体の外周面に円周数カ所に形成した平坦なカム面と、外側環体の内周面との間に形成されるものである一方向クラッチ。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願補正発明では、コイルバネがバネ線材を角筒形または楕円形に巻回された角巻きバネからなり、コイルバネ単体状態において、その伸縮方向両端部分が、伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定されているものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ばね5は圧縮コイルバネとされるものであって、一つの圧縮ばね構造として一対の平行部と、両平行部を接続する一対の半円部とから成る長円形状の大径部と小径部とからなるばね20(本願補正発明でいうところの「角筒形または楕円形に巻回された角巻きバネ」に実質的に相当する圧縮ばね)とすることは記載されているものの、本願補正発明のようにばねの単体状態において、その伸縮方向両端部分が、伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定されているものであるかどうかまでは不明である点。

相違点2;本願補正発明では、内側環体の外周面に形成される平坦なカム面は、径方向に対して直交する面に形成され、コイルバネの伸縮方向は前記平坦なカム面に対してほぼ平行であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、内輪2の外周面に形成した溝4に形成されるカム面は径方向に対しては直交するようには形成されていないものであるが、ばね5(圧縮コイルばね)の伸縮方向は、一対の平行部がカム面7に対してほぼ平行に伸縮されるものとは認められる点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は、以下のとおりである。

《相違点1について》
コイルバネの単体状態において、その伸縮方向両端部分が、伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定することは、原査定の備考欄で周知例として3つの文献が例示(実公昭46-8492号公報、実願昭59-92223号(実開昭61-7633号)のマイクロフィルム(備考欄では、実開昭61-7633号公報と記載)、特開平7-27159号公報)されているように本願出願前当業者に普通に採用されている設計的事項(周知の事項)にすぎないものである。
してみると、刊行物1に記載された上記記載事項ア?ウ及び上記周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載されたばね5として一対の平行部と、両平行部を接続する一対の半円部とから成る長円形状の大径部と小径部とからなるばね20(角筒形または楕円形に巻回された角巻きバネ)を採用するとともに、その伸縮方向両端部分を上記周知の事項のように伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定して、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の設計的事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
クラッチの内側環体(内輪)と外側環体(外輪)との間にくさび状空間を形成する際、本願補正発明のように内側環体の外周面に形成する平坦なカム面を径方向に対して直交する面に形成するとともに、この平坦なカム面と外側環体の内周面とでくさび状空間を形成することは、本願出願前当業者に周知のくさび状空間構造の一つ(もし必要があれば、特開平3-249435号公報の〔従来の技術〕の内方部材1(内側環体)の外径面に形成した多角形カム面2と外輪3(外側環体)の内径面との間でくさび形間隙4を形成する点と第1図等を参照)にすぎないものである。
そして、内側環体(内輪)と外側環体(外輪)との間に形成するくさび状空間としては、刊行物1に記載された発明のようなくさび状空間に格別限定されるものでなく、くさび状空間を形成することができる構造であれば、本願出願前当業者に知られた各種のくさび状空間構造の中から適宜な構造を採用することができるものと認めることができるものである。
そして、コイルばねは、一対の平行部がカム面に沿ってほぼ平行に伸縮するようにくさび状空間内に配置されることは、当業者であれば自明の事項にすぎないものである。
してみると、刊行物1に記載された上記記載事項ア?ウ及び上記周知のくさび状空間構造を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のように内輪2の外周面に形成した溝4に形成したカム面7と外輪3の内周面とによるくさび状空間構造とすることに代えて、上記周知の内方部材の外径面に径方向に直交する面として形成された多角形カム面と外輪の内径面との間でくさび形間隙を形成するくさび状空間構造を採用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された事項及び上記本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、審判請求書中で「引用文献2(上記刊行物1)に記載の一方向クラッチ(ワンウエイクラッチ)は、内側環体の外周面のカム面が平坦面になっているものが開示されていますが、そのカム面は径方向に対して傾いたものが開示されています(第1図、第2図参照)。したがって、この引用文献2に開示された一方向クラッチの場合、径方向に対して傾いたカム面よりころがロック側へ偏りやすくなるおそれがあります。そのため、ロック解除側へのころの動作がなされにくくなるなどの問題を有しているものですが、このような問題点を解決しようとすることまでは引用文献1(「2」の誤記)には何ら開示や示唆されていないから、この問題点を解決する本願発明の課題や構成までは容易に見出せないと思料されます。」(平成17年11月24日(受付日)付け手続補正書の【本願発明が特許されるべき理由】の3.本願発明と引用文献に記載の発明との対比の<引用発明について及び本願発明との対比>の項参照)旨主張している。

しかしながら、一方向クラッチに採用するくさび状空間構造としては、本願出願前当業者に知られた各種のくさび状空間構造の中から適宜な構造のものが採用できるものであって、刊行物1に記載されたようなくさび状空間構造に代えて、上記周知のくさび状空間(本願補正発明のくさび状空間)構造を採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものである。
そうすると、上記刊行物1及び上記周知のくさび状空間構造を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のようなくさび状空間構造に代えて上記本願出願前周知のくさび状空間構造を採用して上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることが格別創意を要することでないことは、上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年10月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は、平成17年7月19日(受付日)付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】同心状に配設される内外2つの環体を同期回転させるロック状態と相対回転させるフリー状態とに切り換える一方向クラッチであって、
前記内外2つの環体の径方向対向空間において円周数カ所に形成されるくさび状空間に、それぞれ、ころおよびころをくさび状空間のロック側へ弾発付勢するコイルバネが周方向に並べて配設され、
前記コイルバネが、バネ線材を角筒形または楕円形に巻回された角巻きバネからなり、コイルバネ単体状態において、その伸縮方向両端部分が、伸縮方向に対してほぼ直交する形状に設定されている、ことを特徴とする一方向クラッチ。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭57-168670号(実開昭59-72324号)のマイクロフィルム(上記刊行物1)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項から、くさび状空間について「前記くさび状空間は、内外2つの環体のうち内側環体の外周面に円周数カ所に形成した平坦なカム面と、外側環体の内周面との間に形成されるものであり、」との限定を省くとともに、くさび状空間のカム面について「前記平坦なカム面は径方向に対して直交する面に形成され、」との限定を省き、さらに、コイルバネの伸縮方向について「前記コイルバネの伸縮方向は前記平坦なカム面に対してほぼ平行である、」との限定を省いたものに相当するものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載されて発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-13 
結審通知日 2007-06-19 
審決日 2007-07-02 
出願番号 特願平10-77453
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 礒部 賢
大町 真義
発明の名称 一方向クラッチ  
代理人 岡田 和秀  

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