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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1163023
審判番号 不服2006-5140  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-20 
確定日 2007-08-20 
事件の表示 平成7年特許願第503163号「鋼における超微細な顕微鏡組織への歪み誘起変態」拒絶査定不服審判事件〔平成7年1月12日国際公開、WO95/01459、平成8年12月17日国内公表、特表平8-512094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年6月29日の出願(優先日:1993年6月29日;オーストラリア)であって、平成17年12月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成18年3月20日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成18年4月19日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「オーステナイト相の鋼を変形する前に、該オーステナイト相の鋼を、鋼がオーステナイト化するように該鋼を加熱し且つ該オーステナイト相の鋼を予備冷却する段階と、
顕微鏡組織の1つ以上の領域において、変形中にまたはそれから1秒以内に最終的な超微細顕微鏡組織に90%が変態するように、実質的な相変態が開始される前に、50ミクロンよりも大きな平均オーステナイト粒径を有するオーステナイト相の鋼を変形する段階とを含む、超微細な顕微鏡組織の1つ以上の領域を有する鋼を製造する方法。」(以下、「本願発明」という。)

3.原査定の理由の概要
原査定の理由のうちの一つの概要は、次のとおりのものである。
本願の請求項1?23に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開昭58-123823号公報
刊行物2:特開昭58-221258号公報
刊行物3:特開昭59-170238号公報
刊行物4:特開昭59-229413号公報
刊行物5:特開昭62-156199号公報

4.引用刊行物とその記載事項
原査定の理由で引用された刊行物1(特開昭58-123823号公報)には、次の事項が記載されている。

(a)「(1) 通常の炭素鋼成分を基本とする成分の鋼に、該鋼のAr3変態点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域において合計圧下率80%以上の圧延を行ない、圧延により変態を起こさせることにより微細なフェライト結晶粒を生成しせめることを特徴とする極細粒高強度熱延鋼板の製造方法。
(2) Ar3変態点近傍の温度域をAr3+100℃? Ar3-30℃とする第1項記載の方法。
(3) 圧延終了後直ちに20℃/sec以上の冷却温度で600℃以下の温度に至らしめる事を特徴とする第1項記載の方法。
(4) 圧延終了後空冷する第1項記載の方法。
(5) Ar3点近傍の圧延を合計圧下率85%以上で行なう第1項記載の方法。」(特許請求の範囲)

(b)「本発明は熱延ままで極微細なフェライト結晶組織を有する延性の優れた細粒組織鋼板の製造方法に関するものである。
ここで言う細粒組織は微細フェライト相より成り、所望の機械的性質によってはフェライト相以外に他の微細な組織、例えばパーライト、マルテンサイト、残留オーステナイト等のうち一つまたは二つ以上を有しても良いし、カーバイドやナイトライド等の析出物を有していても良い。」(第1頁左下欄最下行?同頁右下欄第8行)

(c)「本発明者らは熱延鋼板の成分系、圧延・冷却プロセスについて研究した結果、前述したような従来の細粒化法と全く異なった原理を発見し、従来法では到底得る事のできない細粒組織からなる新しい高強度熱延鋼板の製造法を開発したのである。すなわち本発明は通常の炭素鋼成分を基本とする成分の鋼に該鋼のAr3点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域において合計圧下率80%以上の圧延を行ない、圧延により変態を起させることにより微細なフェライト結晶粒を生成せしめることを特徴とする細粒熱延鋼板の製造方法を提供するものである。
以下本発明について詳細に説明する。
本発明による鋼板の成分としては特殊合金成分を特に必要としない普通炭素鋼成分で良く、いわゆる仕上圧延段階までの工程は通常の工程で良い。すなわち通常に溶製された溶鋼は連続鋳造によってスラブにされても良いし、造塊-分塊工程によってスラブにされても良い。スラブは高温のまま圧延工程に持ち来たされても良いし、一旦冷却したものを再加熱しても良い。スラブの加熱・圧延条件としてはスラブが本発明の圧延工程直前にそのオーステナイト粒径が小さい程良くなるものが一般的に望ましいと言えるが、本発明の圧延工程以前の条件は通常もので良いので制限は設けない。本発明の特徴は該鋼を通常のAr3変態点(オーステナイト域で圧延を終了した鋼板が冷却途中でフェライト変態を開始する温度を指し、以下単にAr3点と言う)直上(Ar3+100℃)以下の温度において合計圧下率80%以上の圧延を開始し、Ar3直下( Ar3-30℃)以上の温度において圧延を終了させる事にある。圧延後は空冷ままでも良いが、より細粒を得るには冷却速度20℃/sec以上の範囲で冷却し600℃以下の温度に至らしめる。」(第3頁左上欄第19行?同頁左下欄第13行)

(d)「圧延温度域は圧延によりオーステナイト/フェライト変態が誘起または促進され、加工後短時間でフェライトが生成する様な温度である必要がある。前述した様に温度が高過ぎると加工後直ちにはフェライトが生成しないので適当な温度域はAr3直上付近になる。原理に即して言えば圧延はAr3以上の温度で終了すべきであるが、Ar3よりわずかに下がった温度になっても過冷度が小さいために過冷却によって生ずるフェライト粒は急速には大きくならずに加工により生ずる微細フェライトが隙間を埋めるので結果として微細整粒フェライトが得られ支障はない。すなわち圧延温度域は「Ar3点近傍でオーステナイト域を主体とする温度域」であり、多くの場合、Ar3+100℃?-Ar330℃となる。Ar3-30℃以下に温度が低下すると過冷却により大きな5μ以上のフェライトが生じもはや極細粒とは言えない組織になる。」(第4頁右下欄第12行?第5頁左上欄第8行)

(e)本発明の方法に従えば鋼成分中にNb等の細粒化を目的とした特殊合金成分を特に含有させなくとも圧延後の変態組織をフェライトを主要な組織とする平均結晶粒径4.5μ以下(粒度番号12.5番以上)の細粒とすることができ、すべての圧延・冷却条件が理想的に満たされれば平均結晶粒径を1.5μ以下(粒度番号15.5番以上)にすることも可能である。(第5頁右上欄第10?17行)

5.当審の判断
(1)引用発明
原査定で引用された刊行物1の上記(a)には、
「通常の炭素鋼成分を基本とする成分の鋼に、該鋼のAr3変態点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域において合計圧下率80%以上の圧延を行ない、圧延により変態を起こさせることにより微細なフェライト結晶粒を生成しせめることを特徴とする極細粒高強度熱延鋼板の製造方法。」と記載されている。この記載における「変態」は、刊行物1の上記(d)に「圧延温度域は圧延によりオーステナイト/フェライト変態が誘起または促進され、加工後短時間でフェライトが生成するような温度である必要がある。」と記載されているように、圧延加工後短時間で起こるものといえる。
以上の記載を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「通常の炭素鋼成分を基本とする成分の鋼に、該鋼のAr3変態点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域において合計圧下率80%以上の圧延を行ない、圧延により変態を起させることにより圧延加工後短時間で微細なフェライト結晶粒を生成しせめる極細粒高強度熱延鋼板を製造する方法。」

(2)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「合計圧下率80%以上の圧延」及び「高強度熱延鋼板」は、それぞれ、本願発明の「変形」及び「鋼」といえる。また、引用発明の「極細粒」は、刊行物1の上記(e)に「本発明の方法に従えば・・・圧延後の変態組織をフェライトを主要な組織とする平均結晶粒径4.5μ以下(粒度番号12.5番以上)の細粒とすることができ、すべての圧延・冷却条件が理想的に満たされれば平均結晶粒径を1.5μ以下(粒度番号15.5番以上)にすることも可能である。」と記載されているように、引用発明のフェライトは、本願発明の顕微鏡組織に相当するものであり、そのフェライトの平均結晶粒径が本願発明の超微細な顕微鏡組織と同等のレベルといえるから、本願発明の「超微細」な「顕微鏡組織」といえる。さらに、引用発明の変態が開始される前の組織は、刊行物1の上記(c)に「鋼のAr3変態点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域において合計圧下率80%以上の圧延を行ない、圧延により変態を起させる」と記載されているように、Ar3変態点近傍で実質的にオーステナイト域よりなる温度域での組織といえるから、「オーステナイト」といえる。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「顕微鏡組織の1つ以上の領域において、変形中にまたはそれから短時間に最終的な超微細顕微鏡組織に変態するように、実質的な相変態が開始される前に、オーステナイト相の鋼を変形する段階とを含む、超微細な顕微鏡組織の1つ以上の領域を有する鋼を製造する方法。」という点で一致し、次の点で一応相違しているといえる。

相違点(イ)
本願発明は、オーステナイト相の鋼を変形する前に、「オーステナイト相の鋼を、鋼がオーステナイト化するように該鋼を加熱し且つ該オーステナイト相の鋼を予備冷却する段階」を有するのに対して、引用発明は、オーステナイト相の鋼を変形する前に、このような段階を有するか否か不明である点

相違点(ロ)
本願発明は、変形中にまたはそれから「1秒以内」に「最終的な超微細顕微鏡組織に90%が変態」するように、オーステナイト鋼を変形するのに対して、引用発明は、変形中にまたはそれから「短時間」に「最終的な超微細顕微鏡組織に変態」するように、オーステナイト鋼を変形する点

相違点(ハ)
本願発明は、実質的な相変態が開始される前に、「50ミクロンよりも大きな」平均オーステナイト粒径を有するオーステナイト鋼を変形するのに対して、引用発明は、相変態が開始される前の平均オーステナイト粒径が不明である点

(3)相違点についての判断
次に、これらの相違点について検討する。
(3-1)相違点(イ)について
刊行物1の上記(c)に「仕上圧延段階までの工程は通常の工程で良い。・・・本発明の圧延工程以前の条件は通常もので良いので制限は設けない。」と記載されているように、引用発明の圧延工程以前の工程は、通常の工程といえる。一方、本願発明の圧延工程以前の工程も、オーステナイト化するように、鋼を加熱し該オーステナイト相の鋼を予備冷却するものであり、これは、通常の工程といえるものである。
してみると、相違点(イ)は、引用発明と実質的な相違点とはいえない。

(3-2)相違点(ロ)について
変態に要する時間の上限を数値限定することは、引用発明も変態を短時間で終了させるものであるから、当業者が容易に想到することといえる。また、変態量の下限を数値限定することは、引用発明も、本願発明と同様に、オーステナイトを超微細顕微鏡組織に変態させるものであるから、当業者が容易に想到することといえる。
してみると、相違点(ロ)は、当業者が容易に想到することといえる。

(3-3)相違点(ハ)について
上記(3-1)で述べたように、引用発明の圧延工程以前の工程は、通常の工程といえる。そして、特開平5-148545号公報(段落【0018】、【図1】)、特開平2-282418号公報(第1図)、特開平4-32512号公報(第5頁左上欄第18?19行、第3表比較例の欄)に示されているように、圧延工程以前の工程において通常の工程を経て得られた鋼板のオーステナイト粒径は、50ミクロンより大きい範囲をも含むといえる。そうすると、引用発明においても、相変態が開始される以前の鋼板の平均オーステナイト粒径が50ミクロンより大きいものを包含するといえる。
してみると、相違点(ハ)についても、実質的に差異はないといえる。

(4)小括
したがって、上記相違点(イ)及び相違点(ハ)は、それぞれ、上記(3-1)及び(3-3)で述べたように、実質的に差異がないことといえるし、相違点(ロ)は、上記(3-2)で、述べたように、当業者が容易に想到することといえるから、本願発明は、引用発明及び本出願前当業者によく知られた圧延前の通常の工程に関する事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-29 
結審通知日 2007-03-30 
審決日 2007-04-10 
出願番号 特願平7-503163
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 平塚 義三
井上 猛
発明の名称 鋼における超微細な顕微鏡組織への歪み誘起変態  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 吉田 裕  
代理人 岩本 行夫  

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