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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1163164
審判番号 不服2005-5120  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-24 
確定日 2007-08-23 
事件の表示 平成10年特許願第 29159号「ターボ分子ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 3日出願公開、特開平11-210674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成10年1月27日の出願であって、平成17年2月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年17年4月20日付けで手続補正がされたものである。

第2.平成17年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ポンプケーシング内部にステータと該ステータに非接触で支持された
ロータが設けられ、これにより、回転翼と固定翼によって構成される翼排気部と、回転筒状部と固定筒状部の少なくとも一方にねじ溝が形成された溝排気部とが構成されたターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータには、同一の素材を加工することによって前記回転翼と複数の前記回転筒状部が一体に形成され、
前記複数の回転筒状部で挟まれた領域に固定筒状部が配置されて該回転筒状部と固定筒状部との間に多段のねじ溝排気部が形成され、
前記多段のねじ溝排気部の各段の溝排気流路は、下流に行くに従って溝排気流路の間隔が徐々に狭くなるように構成され、
前記ポンプケーシングは、前記翼排気部を内部に収容する吸気側ケーシングと、該吸気側ケーシングと別体で前記溝排気部を内部に収容する排気側ケーシングから構成されていることを特徴とするターボ分子ポンプ。」
と補正された。

2.上記補正の内容について
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ポンプケーシング」について、「ポンプケーシングは、翼排気部を内部に収容する吸気側ケーシングと、該吸気側ケーシングと別体で溝排気部を内部に収容する排気側ケーシングから構成され」との限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか、について以下に検討する。

3.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3034699号公報(以下「引用刊行物1」という。平成9年2月25日発行。)には、「複合分子ポンプ」と題して、図面と共に次の記載がある。

・ 「【0006】
【課題を解決するための手段】
本考案が、上記課題を解決するために講じた技術的手段は、吸気口2及び排気口3とを有するケーシーング1内に、多段状の複数の動翼11を有するロータ9が回転自在に支持され、該動翼11と、動翼11間に嵌入される静翼13とからターボ分子ポンプ段6が構成され、しかも、前記ロータ9の動翼11よりも排気口3側には筒状ロータ部15が形成され、該筒状ロータ部15と筒状ロータ部15に対面するように設けられたステータ部24との少なくとも一方の周面にはねじ溝23が形成され、筒状ロータ部15とステータ部24とからねじ溝ポンプ段7が構成されている複合分子ポンプにおいて、前記動翼11及び静翼13における排気口3側の一部の対向面と、前記筒状ロータ部15及びステータ部24の対向面には、熱放射率の高い物質からなる被膜30がコーティングされていることにある。」
・ 「 【0011】
【考案の実施の形態】
以下、本考案の実施の形態について図面に従って説明する。
図1において、1はケーシングで、その上部には真空用チャンバー4に取付けられるフランジ1aを有するアルミニウム合金製等の本体ケーシング5aと該本体ケーシング5aの下方にシール25を介して嵌合されハウジング5bとからなり、本体ケーシング5aのフランジ1aには吸気口2が、ハウジング5bには排気口3がそれぞれ形成されている。
【0012】
また、本体ケーシング5aの下端とハウジング5bとの間には、間隙8が形成されており、本体ケーシング5aのベーキング時に、本体ケーシング5aの熱がハウジング5b側に伝わり難くなっている。
【0013】
6は吸気口2側のターボ分子ポンプ段で、7は該ターボ分子ポンプ段6よりも下方(下流側)に配置されたねじ溝ポンプ段をそれぞれ示し、回転自在なロータ9は、吸気口2側の動翼11と排気口3側の筒状ロータ部15とを一体に形成した複合型のものであり、筒状ロータ部15は、外側の筒状ロータ部15b及び内側の筒状ロータ部15aの内外2重筒状に形成されている。
【0014】
ロータ9は、ハウジング5b側に支持された駆動装置12を構成するモータのシャフト12aにボルト16を介して回転自在に取付けられている。また、ロータ9の上面には凹部9aが形成され、該凹部9aの底面には、前記シャフト12aの上端及びボルト16を気密状に覆うロータカバー18が、複数のボルト19により固定されている。
【0015】
前記本体ケーシング5a内周には、前記多段の動翼11間に嵌入される静翼13、各静翼13間に介在されたディスタンスピース13a が設けられ、前記動翼11及び静翼13により前記ターボ分子ポンプ段6が構成されている。
【0016】
また、前記筒状のロータ部15のそれぞれの内外面に対向するように、ねじ溝ステータ部(ステータ部)24が配置されている。即ち、ねじ溝ステータ部24は、外側の筒状ロータ部15bの外面と対向するように本体ケーシング5aの内面に設けられた円筒状の外ステータ部24aと、外側の筒状ロータ部15b及び内側の円筒ロータ部15aの間に位置するように、ハウジング5bに固定された円筒状の中ステータ部24bと、更に、内側の円筒ロータ部15aの内側に位置する内ステータ部24cとからなる。
【0017】
外ステータ部24aの内周面、中ステータ部24bの内外周面及び内ステータ部24cの外周面には、螺旋状のねじ溝23がそれぞれ形成され、筒状のロータ部15及びねじ溝ステータ24により前記ねじ溝ポンプ段7が構成されている。従って、通常の高流量対応型複合分子ポンプでは、ねじ溝ロータは単体の円筒で、その外面のみをねじ溝ポンプとして用いるが、本実施の形態では約4倍のねじ溝流路長を持つこととなる。
尚、ねじ溝ポンプ段7において、ねじ溝は筒状のロータ部15側にも形成しても、あるいは、筒状のロータ部15側にのみ形成することも可能である。
また、ロータ9、静翼13及び筒状のロータ部15はアルミニウム合金等からなる。」
・ 図1には、多段のねじ溝23が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「ケーシング5a内にモータと該モータのシャフト12aに取付けられたロータ9が設けられ、これにより、動翼11と静翼13によって構成されるターボ分子ポンプ段6と、筒状ロータ部15とねじ溝ステータ部24との少なくとも一方にねじ溝が形成されたねじ溝ポンプ段とが構成された複合分子ポンプにおいて、
前記ロータ9には、アルミニウム合金からなる、前記動翼11と内側の筒状ロータ部15aと外側の筒状ロータ部15bが一体に形成され、
前記内側の筒状ロータ部15aと前記外側の筒状ロータ部15bの間に位置するように、ハウジング5bに固定された円筒状の中ステータ部24bが配置されて、該筒状ロータ部と中ステータ部24との間に多段のねじ溝ポンプ段が形成された、複合分子ポンプ。」

(2) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-99306号(実開平3-41193号)のマイクロフィルム(以下「引用刊行物2」という。)には、「多段式ネジ溝形真空ポンプ」と題して、図面と共に次の記載がある。

・ 「回転しない同心二重円筒の内・外周にネジ溝を形成し、該二重円筒の内・外周間隙に回転する同心二重円筒を挿入して、回転する同心二重円筒と回転しない円心二重円筒のネジ溝作用により、空気を排気することを特徴とした多段式ネジ溝形真空ポンプ。」(明細書1頁4ないし9行)
・ 「ネジ溝の大きさはロータの吸い込み入口側から大きく、だんだん小さくして圧縮比を大きくして到達圧力の向上を図っている。」(同書3頁5ないし7行)
・ 第1図には、下流に行くに従ってネジ溝の間隔を徐々に狭くする点が示されている。

4.対比
(1) 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「ケーシング5a内に」は、本願補正発明の「ポンプケーシング内部に」に相当し、以下同様に、「動翼11」は「回転翼」に、「静翼13」は「固定翼」に、「ターボ分子ポンプ段6」は「翼排気部」に、「筒状ロータ部15」は「回転筒状部」に、「ねじ溝ステータ部24」は「固定筒状部」に、「ねじ溝が形成されたねじ溝ポンプ段」は「ねじ溝が形成された溝排気部」または「ねじ溝排気部」に、それぞれ相当する。また、「シャフト」を有する「モータ」は、固定子、即ち「ステータ」をその構成に含むことは、自明である。
(イ) 引用発明の「アルミニウム合金からなる、動翼11と内側の筒状ロータ部15aと外側の筒状ロータ部15bが一体に形成され」は、本願補正発明の「同一の素材を加工することによって回転翼と複数の回転筒状部が一体に形成され」に相当する。
(ウ) 引用発明の「内側の筒状ロータ部15aと外側の筒状ロータ部15bの間に、ハウジング5bに固定された円筒状の中ステータ部24bが配置されて、該筒状ロータ部と中ステータ部との間に多段のねじ溝ポンプ段が形成され」は、本願補正発明の「複数の回転筒状部で挟まれた領域に固定筒状部が配置されて該回転筒状部と固定筒状部との間に多段のねじ溝排気部が形成され」に相当する。
(エ) 引用発明の「複合型分子ポンプ」は、その作用・機能からみて、本願補正発明の「ターボ分子ポンプ」に相当するといえる。

すると、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。

(2) 一致点
「ポンプケーシング内部にステータとロータが設けられ、これにより、回転翼と固定翼によって構成される翼排気部と、回転筒状部と固定筒状部の少なくとも一方にねじ溝が形成された溝排気部とが構成されたターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータには、同一の素材を加工することによって前記回転翼と複数の前記回転筒状部が一体に形成され、
前記複数の回転筒状部で挟まれた領域に固定筒状部が配置されて該回転筒状部と固定筒状部との間に多段のねじ溝排気部が形成され、
(た)ターボ分子ポンプ。」

(3) 相違点
(ア) 相違点1
ロータに関して、本願補正発明のものは「ステータに非接触で支持された」構成であるのに対し、引用発明のものは、かかる構成が明確でない点。
(イ) 相違点2
ねじ溝排気部に関して、本願補正発明のものは、「多段のねじ溝排気部の各段の溝排気流路は、下流に行くに従って溝排気流路の間隔が徐々に狭くなるように構成され」ているのに対し、引用発明のものは、かかる構成が明確ではない点。
(ウ) 相違点3
ポンプケーシングに関し、本願補正発明のものは、「翼排気部を内部に収容する吸気側ケーシングと、吸気側ケーシングと別体で溝排気部を内部に収容する排気側ケーシングから構成され」ているのに対し、引用発明のものは一体である点。

5.判断
(1) 相違点1について
例えば、特開平9-112482号公報、特開平9-158847号公報にもあるように、ターボ分子ポンプにおいて、ロータが支持された回転軸に磁気軸受を設ける点は、出願前周知の技術である。
すると、上記周知の技術を踏まえ、引用発明のシャフトの軸受を磁気軸受として、上記相違点1に係る本願補正発明の構成をなすことは、当業者であれば適宜なし得たことである。

(2) 相違点2について
引用刊行物2には、円筒形のネジ溝形ポンプにおいて、ネジ溝は下流に行くに従って溝の間隔をだんだん狭くする技術が開示されている。
すると、引用発明のねじ溝ポンプ段において、引用刊行物2に記載された技術を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の構成を想到することは、当業者に容易である。

(3) 相違点3について
例えば、特公昭47-33446号公報(第3図)、特表平2-503703号公報(3頁右上欄4ないし6行、FIG1参照。)にもあるように、ターボ分子ポンプにおいて、翼排気部分と溝排気部分のケーシングを別体とすることは、出願前周知の技術である。
すると、引用発明において、上記周知の技術に基づき、上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

(4) そして、本願補正発明の全体構成により奏される効果も、引用刊行物1、2に記載された発明及び周知の技術から当業者であれば予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用刊行物1、2に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、審判請求書において、本願補正発明の有利な効果として、溝排気部の固定筒状部を排気ケーシングと一体に構成することにより、組立て時の寸法精度を向上させ、同心精度を向上させる旨主張している。しかしながらこの主張は、本願補正発明の構成に基づくものとはいえず、採用することはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成17年4月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年4月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「ポンプケーシング内部にステータと該ステータに非接触で支持されたロータが設けられ、これにより、回転翼と固定翼によって構成される翼排気部と、回転筒状部と固定筒状部の少なくとも一方にねじ溝が形成された溝排気部とが構成されたターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータには、同一の素材を加工することによって前記回転翼と複数の前記回転筒状部が一体に形成され、
前記複数の回転筒状部で挟まれた領域に固定筒状部が配置されて該回転筒状部と固定筒状部との間に多段のねじ溝排気部が形成され、
前記多段のねじ溝排気部の各段の溝排気流路は、下流に行くに従って溝排気流路の間隔が徐々に狭くなるように構成されていることを特徴とするターボ分子ポンプ。」

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物及びその開示事項は、前記「第2.3」に記載されたとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、「ポンプケーシング」について、「ポンプケーシングは、翼排気部を内部に収容する吸気側ケーシングと、該吸気側ケーシングと別体で溝排気部を内部に収容する排気側ケーシングから構成され」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明についても、本願補正発明と同様の理由により、引用刊行物1、2に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明については、特許法29条2項により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-20 
結審通知日 2007-06-26 
審決日 2007-07-09 
出願番号 特願平10-29159
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F04D)
P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 丸山 英行
渋谷 善弘
発明の名称 ターボ分子ポンプ  
代理人 渡邉 勇  
代理人 堀田 信太郎  

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