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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1163166
審判番号 不服2005-6394  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-11 
確定日 2007-08-23 
事件の表示 特願2003-363257「記録ヘッド、記録ヘッドの製造方法、及び複合ヘッド並びに磁気記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 87123〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年1月5日に出願した特願2000-490号の一部を平成15年10月23日に新たな特許出願としたものであって、平成17年1月27日付けで手続補正がなされ、その後平成17年3月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成17年4月11日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成17年4月11日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月11日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の、
(a)「【請求項1】 対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッドであって、前記記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、前記磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、20μm以下であることを特徴とする記録ヘッドであって、前記対向する第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍が、Co,Fe,Niを主成分とする材料より構成されるかまたは45NiFeより構成されていることを特徴とする記録ヘッド。」を、
(b)「【請求項1】 対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッドであって、前記記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、前記磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、20μm以下である記録ヘッドであって、前記対向する第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍が、Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料より構成されることを特徴とする記録ヘッド。」
と補正するものである。

本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「20μm以下であることを特徴とする記録ヘッド」を「20μm以下である記録ヘッド」と補正し、「前記対向する第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍」について、「Co,Fe,Niを主成分とする材料より構成されるかまたは45NiFeより構成されていること」を「Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料より構成されること」と補正することにより限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-143820号公報(以下「引用例1」という。)には、「インダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【請求項1】 上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッドと、読出し用の磁気抵抗(MR)ヘッドとを備えるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドであって、
前記上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、前記薄膜磁気ヘッドの所望のデータ転送レートX(Mbit/sec)に対して、L<8400/Xの関係を有することを特徴とするインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】 前記距離Lが60μm以下であることを特徴とする請求項1記載のインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)
(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような複合型薄膜磁気ヘッドにおいて高速・高密度記録を実現するためには、優れた記録能力を有する書込みヘッドが必要である。しかしながら、インダクティブヘッドのコイルを流れる書込み電流は、該コイルが持つインピーダンスにより遅れ成分が生じ、これが大きくなると、書込み電流の方形波に「なまり」と呼ばれる歪みが生じる。また、上下磁性膜のヨーク部分には、コイルを流れる書込み電流により渦電流損が生じ、これが更に上下磁極間の磁場の高周波成分に遅れを生じさせる。このため、記録媒体に高密度で信号を書き込む場合、隣接する磁化遷移が互いに干渉して、ノンリニア・トランジション・シフト(NLTS)と呼ばれる書込み位置の非線形なずれが記録媒体に生じ、これが信号の再生時に読取りエラーを増加させるという問題がある。
【0005】川島宏明らによる「高Bsポール インダクティブ/MRヘッド複合薄膜ヘッド」(日本応用磁気学会学術講演概要集(1995)第221頁)には、上部磁極の先端部に従来のNiFeと高磁束密度のFeZrNとの2層構造を採用することにより、NLTSを低減させた複合型薄膜磁気ヘッドが記載されている。これから分かるように、書込みヘッドの磁極部を形成する材料を、従来のNiFe(パーマロイ)から、より磁束密度の高い材料、例えばコバルト/ジルコニウム/タンタル(CoZrTa)やコバルト/ニオブ/タンタル(CoNbTa)、鉄/ジルコニウム/窒素(FeZrN)に変更すれば、上述した上下磁極間の磁場に生じる高周波成分の遅れを改善し得ることは容易に考えられる。
【0006】しかしながら、これら高磁束密度の材料でインダクティブヘッドの磁極部を形成した場合、特にウエハから各チップを切り出してスライダに成形加工するための切断・洗浄工程において、水や酸により腐食する虞がある。このため、従来の薄膜磁気ヘッドの製造工程をそのまま適用できないという問題が生じる。(略)
【0007】そこで、本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、インダクティブヘッドの磁極材料として従来のパーマロイを用いて、従来の工程をそのまま適用して容易に製造することができ、しかもNLTSを改善することができるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドを提供することにある。」
(ウ)「【0010】このようにして、データ転送レートに応じてインダクティブヘッドの上下磁性膜のヨーク部分の長さを制限することにより、コイルを流れる書込み電流による渦電流損の影響が少なくなるので、上下磁極間の磁場に生じる高周波成分の遅れが改善され、NLTSを減少させることができる。」(課題を解決するための手段の項の記載)
(エ)「【0011】
【発明の実施の形態】(略)図1及び図2には、本発明によるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドの好適実施例が示されている。この複合型薄膜磁気ヘッドは、従来と同様に、Al2O3-TiC系のセラミック材料からなる基板1上に、アルミナ又はSiなどの絶縁膜2を被着し、パーマロイ系合金、コバルト系合金、鉄系センダスト合金などの軟磁性材料をめっき又はスパッタ蒸着してなる下シールド3及び上シールド4と、それらの間に挟まれたMR素子5とを有する読出し用のMRヘッド6が形成されている。(略)
【0012】書込み用のインダクティブヘッドは、その下部磁性膜を兼ねる上シールド4の上に、従来技術の工程をそのまま利用して、磁気ギャップを形成するためのアルミナからなる磁気ギャップ膜7と、ノボラック系樹脂からなる有機絶縁層8、9と、Cuからなる単層構造の導体コイル10と、NiFeのめっき膜からなる上部磁性膜11とを積層することにより形成されている。コイル10の最内周部分及び最外周部分には、それぞれコイル引出線13、14が接続されている。
【0013】本実施例の複合型薄膜磁気ヘッドにおいて、その所望のデータ転送レートをX(Mbit/sec)とした場合、図2における上部磁性膜のヨーク部分の長さ即ち互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)は、L<8400/Xとなるように設定する。このように距離Lを短くすることにより、それに応じて前記ヨーク部分における渦電流損の影響が小さくなり、上下磁性膜の先端に磁気ギャップ膜7を介して対向する上下磁極における磁場の高周波成分の遅れが軽減される。更に、距離Lを短くすることによって、前記上下磁極間での磁束の漏れが低減されて、磁気効率が改善されるという効果がある。
【0014】他方、コイルのターン数は、前記インダクティブヘッドが書込みに必要な強さの磁場を発生するように決定する。上述したように、距離Lが小さくなると磁気効率が改善されるので、それだけ必要なコイルのターン数は少なくなる。
【0015】実際、距離Lは、必要なコイルターン数Tを実現するように、コイルピッチやコイルの構造によって決定される。(略)また、コイルを2層構造にした場合は、必要なコイルターン数が同一であってもLをより短くすることが可能となる。
【0016】また、必要なコイルターン数Tの最小値は、必要な書込み磁場の強さや磁極材料の飽和磁束密度により異なるが、一般に実用上5?8程度である。コイルピッチは、製造工程におけるホトリソグラフィ技術の精度により左右されることは言うまでもないが、一般に実用上1.5μm以下とされる。これらを奏合すると、現状では、距離Lの最小値は、10μm程度と考えることができる。
【0017】本実施例において、データ転送レートを140(Mbit/sec)とする複合型薄膜磁気ヘッドを製造し、その場合に生じるNLTSの大きさ(%)と距離Lとの関係を試験したところ、図3に示す結果が得られた。この試験に用いた薄膜磁気ヘッドは、下シールドを膜厚約2μmのNiFeめっき膜で、下ギャップ層を膜厚0.07μmのアルミナスパッタ膜で、MR素子をNiFeスパッタ膜からなる磁気抵抗薄膜とNiFeRhからなるバイアス膜とCoPtからなる磁区安定膜とで、上ギャップ層を膜厚0.9μmのアルミナ膜で、上部磁性膜を膜厚3.5μmのNiFeめっき膜でそれぞれ形成した。また、コイルのターン数Tは12で一定とし、コイルピッチを、距離L=100μmのとき7μm、距離L=50μmのとき3.5μmとした。
【0018】図3から明らかなように、NLTSは、上下磁性膜のヨーク部分の距離Lの増大に伴って大きくなることが分かる。更に、L=60μmでは、NLTSが20%以下となり、特に良好な特性が得られることが分かる。」
(オ)本発明によるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドの実施例の構造の断面図である図2には、絶縁膜9の媒体側端部で規定される点(以下「ゼロスロートハイトレベル」という。)から上下磁性膜の結合部の媒体側端部までの距離をLとして示す矢印が図示されている。
(カ)本実施例における距離LとNLTSの関係を示す線図である図3には、距離L(横軸)が10μm?60μmの値であるとき、NLTS(縦軸)が約5%?20%の値をとることが連続する線で示されている。

3.対比判断
(1)対比
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記2で摘示した記載事項、特に(ア)(エ)(下線部参照)によれば、引用例1には、
「上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッドと、読出し用の磁気抵抗(MR)ヘッドとを備えるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドであって、
上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、60μm以下であり、例えば10μmである、インダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「上下一対の磁性膜(上下磁性膜)」「磁気ギャップ」「上下磁性膜の結合部」「書込み用のインダクティブヘッド」「導体コイル」「絶縁膜」は、それぞれ補正後の発明の「第1の磁気コアと第2の磁気コア」「記録ギャップ」「磁気的接合」「記録を行う磁気ヘッド」「コイル」「絶縁体」に相当している。
引用例1に記載された発明の「書込み用のインダクティブヘッド」は、補正後の発明の「記録を行う磁気ヘッド」及び「記録ヘッド」に相当している。
引用例1に記載された発明の「インダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド」を構成する「書込み用のインダクティブヘッド」は、「上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した」ものであり、「上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と上下磁性膜の結合部」とを備えているから、補正後の発明の「対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッド」に相当する構成を備えている。
よって、補正後の発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点) 「対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッドである、記録ヘッド。」
(相違点1) 「第1及び第2の磁気コア」の寸法について、補正後の発明は、「記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、20μm以下である」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、「上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、60μm以下であり、例えば10μmである」点。
(相違点2) 「第1及び第2の磁気コア」の材料について、補正後の発明は、「対向する第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍が、Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料より構成されること」と特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、特定していない点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
引用例1に記載された発明の「上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)」は、「ヨーク部分の長さ」と呼ばれ(上記(エ)段落13参照)、ゼロスロートハイトから上下磁性膜の結合部の媒体側端部までの距離をLとして図2で詳細に図示されている(上記(オ)参照)。
引用例1において、上記距離Lは「ヨーク部分の長さ」と表現され、「距離Lを短くすることにより、それに応じて前記ヨーク部分における渦電流損の影響が小さくなり、上下磁性膜の先端に磁気ギャップ膜7を介して対向する上下磁極における磁場の高周波成分の遅れが軽減される」(上記(エ)段落13)や「NLTSは、上下磁性膜のヨーク部分の距離Lの増大に伴って大きくなる」(上記(エ)段落18)の記載によれば、ヨーク部分の長さが短くなると高周波特性やNLTSが改善されるという技術思想が示されている。
薄膜磁気ヘッドの分野において、従来より、ゼロスロートハイトレベル(上下磁気コアが磁気ギャップで交わる位置であり、非磁性絶縁膜の媒体側端部を指す。上記(オ)参照。)からエア・ベアリング面までの距離は、「スロートハイト」と呼ばれ、例えば、本願の背景技術として明細書に記載されている文献である特開平7-262519号公報(以下、「周知文献1」という。)(段落4等)、特開平7-225917号公報(以下、周知文献2」という。)(段落3?5等)、特開平7-296328号公報(以下、周知文献3という。)(段落5?6等)等に示されている。
補正後の発明で、「ヨーク長」は「記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、磁気的な接合の接点までの距離」と定義され、ここで補正後の発明の「ヨーク長」は、具体的には、引用例1の、「距離L」と、ゼロスロートハイトレベル(上記(オ)参照)から記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部(エア・ベアリング面に位置する)までの距離であるスロートハイトとの和に、対応している。一般的に、スロートハイトは、上下磁気コアのエア・ベアリング面から後部領域の磁気的な接合の接点までの距離(補正後の発明の「ヨーク長」に相当。)に比べると極めて短い距離である。寸法の例示はないが、先に示した周知文献1乃至3の図示等から明らかである。
よって、引用例1に記載された発明の「距離L」は、補正後の発明の「ヨーク長」と、ヨーク部分の長さを定義しようとするその技術的意義を共通にし、その値も概略同じ程度の距離であるといえる。そのことは、模式図ではあるが、引用例1の図2からも明らかである。なお、本願の明細書でも、ヨーク長が9.5μmで、スロートハイトが0.5μmの例(段落234,235)、ヨーク長が5μmで、スロートハイトが0.5μmの例(段落252)が記載されており、ヨーク長と、ヨーク長からスロートハイトを差し引いた距離とが、概略同じ程度の値になっている。
補正後の発明における「ヨーク長」は、引用例1において定義されている「距離L」と、概略同じ程度の距離であることを勘案すると、引用例1に記載された発明において距離Lが10μmであるということは、補正後の発明でいう「ヨーク長」が10μmよりわずかに大きい値であって、「20μm」より充分短い値といえる。また距離Lが10μm?60μmのものが線図で示されていること(上記(カ)、図3参照)をみれば、20μm以下のヨーク長を用いた記録ヘッドが、引用例1に実質的に示されている。
してみれば、引用例1に記載された発明の、「上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、60μm以下であり、例えば10μmである」は、補正後の発明の「第1及び第2の磁気コア」の寸法について、「記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、20μm以下である」と重複する距離を有しているものであり、実質的な相違点ではない。
また、ヨーク長が短いことが、記録ヘッドとして望ましいことが示され、その例示として、実質的に20μm以下の値であるものが示されているのであるから、上記相違点1のように、20μm以下と限定することは、当業者が、磁気ヘッドの諸寸法等に応じ適宜なし得ることにすぎない。
(相違点2について)
引用例1には、ヨーク部分の長さを制限することにより、コイルを流れる書込み電流による渦電流損の影響が少なくなるので、上下磁極間の磁場に生じる高周波成分の遅れが改善され、NLTSを減少させることができる旨(上記(ウ)段落10、(エ)段落13及び18参照)の作用効果が記載されている。当該作用効果は、寸法に係る問題であり、特定の磁性材料にのみ限定されるものではないことは明らかである。また、引用例1には、パーマロイ(NiFe合金)が例示されるとともに、コバルト系合金、鉄系センダスト合金などの軟磁性材料(上記(エ)段落11参照)が例示されていること、及び請求の範囲において特定の材料に限定されているものでないこと(上記(ア)参照)からすれば、引用例1に記載された発明は、従来公知の材料を適宜採用しうることを示唆するものである。
してみれば、引用例1に記載された発明において、第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍の材料として、周知の磁性材料である、「Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料」を採用し、そのヨーク長が10μm程度の、20μm以下の条件を満たす短いものを選択することは、当業者が容易に想到しうることである。
(請求人の主張に対して)
なお、請求人は、高Bs膜について磁歪が正であるために記録動作後の再生出力の変動が著しくなるという問題を解決するために、「ヨーク長が20μm以下」と特定することにより高Bs膜を実用化できた旨を主張し、また引用例1は従来のパーマロイを用いて性能を上げるためにヨーク長を短くするものであり、引用例1において解決しているのは、NLTSの減少であり、高Bs膜を用いればヨーク長を短くしなくても達成されるはずの性能であり、引用例1は高Bs膜を使わなくて良いようにするための発明であるから、引用例1に高Bs膜を組み合わせない旨主張している。
しかしながら、引用例1に記載された発明は、例示された材料のみに限らず、公知の磁気コア材料でも同様の作用効果があることが明らかであることは、先に示したとおりである。また、請求人は、高Bs膜で磁歪が正の材料であるものを前提として説明しているが、補正後の発明は、「Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料より構成される」のように広範囲な磁性材料に特定されているのであって、高Bs膜で磁歪が正の材料に限るものではない。なお、補正後の発明で特定される磁性材料でのうち例示されているようなCoNiFe磁性材料は、原審の拒絶理由において示された特開平10-199726号公報、特開平5-73839号公報等に記載されているように、既に周知の材料であり、たとえ補正後の発明において、 高Bs膜で磁歪が正の材料であるとさらに特定されたとしても、引用例1に記載された発明と周知の磁性材料の組み合わせは、容易というほかない。
また、引用例1において、高Bsの材料として例示されているCoZrTa、CoNbTa、及びFeZrNは、腐蝕のおそれがあり不適当として除外されているのであって、引用例1は、補正後の発明の対象とする「Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料」を除外しているわけではないので、当該材料を引用例1に記載された発明における磁気コアの材料として採用しないという阻害要因はない。
ところで、本願の出願当初の明細書には、「【0096】先ず、当該第1の実施形態の各特性値から判断すると、当該ヨーク長が、19μm以下であれば、当該磁性膜の構成や、その製造方法には関係なく、後述する出力変動率が1.0%以下であって、且つ、30%Roll-off周波数が100MHz以上であると言う磁気ヘッドとして良好なる特性を示す事が判った。これに対し、比較例1に示した様に、ヨーク長が長いと特に周波数特性が悪化する事が判った。」(後に当該段落は補正されている)と記載され、ヨーク長が磁性材料に関係しないこと、及びヨーク長の作用効果として周波数特性即ち高周波特性やNLTSが代表的に挙げられることが、本願の技術思想であったと窺われることから、請求人の主張は、矛盾しており、採用できないものである。
請求人は、引用例1には、補正後の発明の解決しようとする課題である「記録動作後の再生出力の変動」について記載されておらず、補正後の発明で問題としている「出力変動」は「磁歪が正である場合に記録動作後の上シールドの磁化状態が一定の状態に安定しにくくなり、再生特性に影響を与えるために生じるもので、引用例1で問題としている高周波特性やNLTSとは全く異なる現象である」と主張し、補正後の発明とは全く異なった磁性材料を用い異なった現象を問題にしている引用例1からは、容易に発明できない旨、主張している。
しかしながら、引用例1に記載された発明において、周知の磁気コア材料を用いることは当業者が適宜なし得ることであることは先に示したとおりであり、しかも、記録ヘッドのヨーク長を10μm程度の20μm以下のものとすることにより高周波特性の改善やNLTSの減少という効果をもたらすことが引用例1に記載され、補正後の発明も同様の作用効果を奏している(明細書段落96、105?108、126参照)ものであるから、引用例1に「出力変動」の作用効果の記載がなくとも、補正後の発明は引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得る構成である。
また、請求人の主張する「記録動作後の再生出力の変動」という作用効果は、「上シールドの磁化状態」が一定の状態に安定しにくくなり、再生特性に影響を与えるために生じるものと説明されているが、補正後の発明は、特許請求の範囲の記載からみて、上シールドを備えることを前提とするものに限られているわけではないから、請求人の主張する作用効果は、補正後の発明が必ず奏する作用効果とはいえず、請求人の主張は採用できない。なお、引用例1に記載された発明は、下の磁気コアが上シールドを兼用する構成において補正後の発明と共通しているのであるから、上シールドを備えることを前提としても、補正後の発明は引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものである。

そして、上記相違点を総合的に検討しても、補正後の発明の効果は、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。

4.むすび
以上のとおり、補正後の発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成17年4月11日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至18に係る発明は、平成17年1月27日付け手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至18に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】上記「第2の1の(a)」のとおり。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項は、上記「第2の2」に記載されたとおりである。

2.対比判断
本願発明は、上記「第2の3」で検討した補正後の発明から、「前記対向する第1、第2の磁気コアの少なくとも一方の磁気コアの記録ギャップ近傍」が「Co,Fe,Niを主成分とする材料より構成されるかまたは45NiFeより構成されていること」についての限定事項である「Co,Fe,Niから選択される少なくとも2種類の元素を主成分とし、かつ、必ずCoを含む材料より構成されること」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2の3」に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-20 
結審通知日 2007-06-26 
審決日 2007-07-09 
出願番号 特願2003-363257(P2003-363257)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 眞中村 豊富澤 哲生  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 横尾 俊一
中野 浩昌
発明の名称 記録ヘッド、記録ヘッドの製造方法、及び複合ヘッド並びに磁気記録再生装置  
代理人 机 昌彦  
代理人 下坂 直樹  
代理人 谷澤 靖久  

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