ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
---|---|
管理番号 | 1163230 |
審判番号 | 不服2003-19252 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-02 |
確定日 | 2007-08-20 |
事件の表示 | 平成 5年特許願第210589号「湿分硬化性シリル末端ポリマーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 6月21日出願公開、特開平 6-172648〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は平成5年8月25日(パリ条約による優先権主張1992年8月26日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成14年7月15日付け拒絶理由通知に対して同年10月21日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成15年7月2日付けで拒絶査定され、これに対して同年10月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年10月30日付けで手続補正書が提出されたが、当審において平成18年8月30日付けで拒絶理由通知を発したところ、平成19年3月1日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?3に係る発明は、平成14年10月21日付け手続補正書、平成15年10月30日付け手続補正書及び平成19年3月1日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 湿分硬化性シリル末端ポリマーの製造方法であって、(a)末端不飽和ポリエーテルモノオールを、ポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物と、前記多官能価のヒドロキシル反応性化合物中のヒドロキシル反応性官能基1モルあたり1モルのモノオールのモル比で反応させ、それぞれの端に末端不飽和を有する末端不飽和ポリマーを提供し、そして (b)前記末端不飽和ポリマーをジアルコキシアルキルシランと反応させ湿分と接触して硬化することができるジアルコキシアルキルシリル末端ポリマーを形成する、諸工程を特徴とし、 しかも、該シリル末端ポリマーの硬化後の硬化ポリマーは、210%?610%の範囲内の伸び率を有する、前記方法。 【請求項2】 充てん剤とシリル末端ポリエーテルとを含むポリマー組成物であって;該シリル末端ポリエーテルは、ヒドロキシル反応性官能基と反応可能な部位において、ポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物により結合されており;該ポリエーテルは、 (a)末端不飽和ポリエーテルモノオールを該多官能価のヒドロキシル反応性化合物と、前記多官能価のヒドロキシル反応性化合物中のヒドロキシル反応性官能基1モルあたり1モルのモノオールのモル比で反応させ、それぞれの端に末端不飽和を有する末端不飽和ポリマーを提供し、そして (b)前記末端不飽和ポリマーをジアルコキシアルキルシランと反応させ湿分と接触して硬化することができるジアルコキシアルキルシリル末端ポリマーを形成することを特徴とする方法により製造され、 しかも、該シリル末端ポリエーテルの硬化後の硬化ポリマーは、247%?610%の範囲内の伸び率を有する、前記ポリマー組成物。 【請求項3】 ポリアミンまたはポリアルコールまたはそれらの組合せの存在下に、湿分でシリル末端ポリエーテルを硬化させることを特徴とする方法により製造されたポリマー生成物であって;該シリル末端ポリエーテルは、ヒドロキシル反応性官能基と反応可能な部位において、ポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物により結合されており;該ポリエーテルは、 (a)末端不飽和ポリエーテルモノオールを該多官能価のヒドロキシル反応性化合物と、前記多官能価のヒドロキシル反応性化合物中のヒドロキシル反応性官能基1モルあたり1モルのモノオールのモル比で反応させ、それぞれの端に末端不飽和を有する末端不飽和ポリマーを提供し、そして (b)前記末端不飽和ポリマーをジアルコキシアルキルシランと反応させ湿分と接触して硬化することができるジアルコキシアルキルシリル末端ポリマーを形成することにより製造されるものであり、 しかも、該シリル末端ポリマーの硬化後の硬化ポリマーは、210%?610%の範囲内の伸び率を有する、前記ポリマー生成物。」 (以下、本願の請求項1?3に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。) 3.当審が通知した拒絶理由 平成18年8月30日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由IIIは、本願発明1?3は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記4.の刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 4.刊行物及び記載事項 当審が引用した、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物1は次のとおりである。 刊行物1:特開昭54-006097号公報 刊行物1には以下の事項が記載されている。 記載事項1-1:特許請求の範囲の請求項1,4,5 「1.式 (ここで、R1はアルキル基およびアリール基より選ばれる炭素数1?12の1価の炭化水素基;R2は水素又は炭素数1?20の1価の有機基;R3は炭素数1?20の2価の有機基;Xは・・・アルコキシ基・・・より選ばれる基;aは0,1又は2の整数;bは0又は1の整数)で示されるシリル基を少なくとも1つの末端に有し、主鎖が本質的にポリエーテル又はポリエステルである分子量500?15,000の新規な重合体を有効成分として含有する常温硬化性組成物。 ・・・ 4.式 (ここでR1,R2,R3,X,a,およびbは第1項に同じ・・・)で示されるシリル基を少なくとも1つの末端に有し、主鎖が本質的にポリエーテルである分子量500?15,000の新規な重合体を有効成分として含有する特許請求の範囲第1項記載の常温硬化性組成物。 5.重合体主鎖が 式 式 式 又は式 から選ばれる結合単位を主鎖中に少なくとも1個含有するポリエーテルである特許請求の範囲第4項記載の常温硬化性組成物。」 記載事項1-2:第2頁左下欄17行?同右下欄5行 「シリコン系に関してはポリマーが特殊であるため非常に高価格となり、用途が大きく制限されるという問題がある。 本発明者らは高性能でありかつ安価である常温硬化性組成物が得られないかどうかにつき種々検討を進めた結果、・・・本発明に到達した。」 記載事項1-3:第3頁左上欄3?10行 「本発明において(1)式で示されるシリル基を末端に有するポリエーテル又はポリエステルは 式 で示される水素化珪素化合物と 式 で示される末端不飽和基を有するポリエーテル又はポリエステルとを白金系触媒を用いて付加反応させる事により基本的には製造される。」 記載事項1-4:第4頁右上欄7行?同右下欄1行 「本発明において主鎖として使用されるポリエーテルは本質的には、 式 で示される化学的に結合された繰返し単位を含んでいる。・・・例えばアルキレンオキシド重合体としては具体的に以下のものが挙げられる。・・・ (b) アリルアルコールを開始剤としてプロピレンオキシド、エチレンオキシドなどのようなアルキレンオキシドのアニオン重合を行なつて得られる片末端にアリルエーテル基を有するアルキレンオキシド重合体。」 記載事項1-5:第5頁左上欄10行?同右下欄16行 「本発明において主鎖としては本質的にはポリエーテル・・・が使用されるが、、アルキレンオキシド重合体・・・の分子量が低い場合が多いので該重合体の末端ヒドロキシ基の反応性を利用し、該ヒドロキシ基と反応しうる反応基を1分子中に2個以上含む化合物と反応させる事により分子量を増大させて使用する方が単独で使用するよりも好ましい結果が得られる。該方法により分子量を増大させると 式 式 式 又は 式 で示されるエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合、およびカーボネート結合から選ばれる結合基がポリエーテル・・・主鎖中に導入される。例えば分子量を増大させる方法としては以下の方法が具体的に挙げられる。・・・ iii)アルキレンオキシド重合体・・・の末端ヒドロキシ基を 式 で示される多価イソシアナート化合物と反応させる。(13)式で示される結合基がポリエーテル・・・中に導入される。・・・ 本発明において式(7)・・・で示される化合物で、R6は炭素数1?20の2価の有機基であるが、特に炭素数1?20のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、およびアラルキレン基から選ばれる基が好ましい。」 記載事項1-6:第5頁右下欄17行?第6頁左上欄18行 「本発明においては式(3)で示される末端不飽和基を有するポリエーテル・・・に(2)式で示される水素化珪素化合物を反応させる事により(1)式で示されるシリル基を末端に有するポリエーテル・・・が製造される。 式(2)に示される水素化珪素化合物において、R1はアルキル基およびアリール基より選ばれた1価の炭化水素基である。水素化珪素化合物を具体的に例示すると・・・メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン・・・の如きアルコキシシラン類;・・・などが挙げられる。特にハロゲン化シラン類、アルコキシシラン類が好ましい。」 記載事項1-7:第6頁右下欄10?13行 「本発明に使用する珪素末端ポリエーテルは、大気中に暴露されると水分の作用により、3次元的に網状組織を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化する。」 記載事項1-8:第7頁左下欄2?3行 「本発明の珪素末端ポリエーテルは、種々の充填剤を混入する事により変性しうる。充填剤としては、・・・炭酸カルシウム、・・・酸化チタン、・・・などの如き充填剤・・・が使用できる。」 記載事項1-9:第8頁右上欄8?17行 「本発明において得られる組成物は1液および2液の弾性シーラントとして特に有用であり、建造物、船舶、自動車、道路などの密封剤として使用しうる。更に、単独あるいはプライマーの助けをかりて、・・・種々のタイプの密封組成物および接着組成物としても使用可能である。更に、又食品包装材料、注型ゴム材料、型取り用材料、塗料、吹付材としても有用である。」 記載事項1-10:第8頁右下欄12行?第9頁左上欄13行 「参考例2 窒素置換された撹拌機付耐圧反応容器に平均分子量3,400の脱水ポリプロピレングリコール340gをとる。続いて脱水トルエン200ml、ジブチル錫ジラウレート0.17g、トルエンジイソシアナート8.7gを加え90℃で10時間反応を行なう。続いてアリルイソシアナート8.3gを加え90℃で10時間反応させた後、減圧下で揮発分を留去せしめると、平均分子量が7000に増大したポリエーテルが得られる。該ポリエーテル70gを窒素置換された攪拌機付耐圧反応容器にとり、続いてメチルジメトキシシラン2.2g、塩化白金酸の触媒溶液(・・・)0.05mlを加え90℃で10時間反応させる。反応終了後減圧下で揮発分を溜去すると、ポリエーテル主鎖中に 基を平均して1個含み、 基を末端に全末端基中74%含むシリル基末端ポリエーテルが得られる。」 記載事項1-11:第10頁左上欄16行?同右上欄13行 「実施例3 参考例2の方法で製造したシリル基末端ポリエーテル100重量部に対し、ブチルベンジルフタレート30重量部、酸化チタン25重量部、脂肪酸処理炭酸カルシウム70重量部、無水ケイ酸5重量部、カーボンブラック0.2重量部・・・ジブチル錫ジラウレート1重量部を加え三本ペイントロールでよく混合し組成物をうる。該組成物を23℃、60%湿度で7日間硬化させた後、更に50℃7日間硬化養生させ厚さ2mmの硬化物シートを得る。JIS 6301に従つて引張試験を行なうと破断時強度16kg/cm2、破断時伸び300%という結果が得られる。」 5.対比・判断 (1)本願発明1について 刊行物1には、式 (ここで、R1はアルキル基およびアリール基より選ばれる炭素数1?12の1価の炭化水素基;R2は水素又は炭素数1?20の1価の有機基;R3は炭素数1?20の2価の有機基;Xは・・・アルコキシ基・・・より選ばれる基;aは0,1又は2の整数;bは0又は1の整数)で示されるシリル基を少なくとも1つの末端に有し、主鎖が本質的にポリエーテルである分子量500?15,000の重合体を有効成分として含有する常温硬化性組成物が記載されており(記載事項1-1)、前記重合体すなわちシリル基末端ポリエーテルは、大気中に暴露されると水分の作用により、3次元的に網状組織を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化するものであることも記載されている(記載事項1-7)。 前記重合体の製造方法については、 式 で示される水素化珪素化合物と 式 で示される末端不飽和基を有するポリエーテルとを白金系触媒を用いて付加反応させる事により基本的には製造されることが記載されており(記載事項1-3、1-6)、前記水素化珪素化合物としてはメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシランの如きアルコキシシラン類が好ましく用いられること(記載事項1-6)、前記主鎖として使用されるポリエーテルとしては、例えばアリルアルコールを開始剤としてプロピレンオキシド、エチレンオキシドなどのようなアルキレンオキシドのアニオン重合を行なつて得られる片末端にアリルエーテル基を有するアルキレンオキシド重合体が用いられること(記載事項1-4)、主鎖として本質的にはポリエーテルが使用されるが、分子量が低い場合が多いので該重合体の末端ヒドロキシ基の反応性を利用し、該ヒドロキシ基と反応しうる反応基を1分子中に2個以上含む化合物と反応させる事により分子量を増大させて使用する方が単独で使用するよりも好ましい結果が得られること(記載事項1-5)、そして、該分子量を増大させる方法として具体的にはアルキレンオキシド重合体の末端ヒドロキシ基を 式 で示される多価イソシアナート化合物と反応させる方法が挙げられ、 式 で示されるウレタン結合基がポリエーテル主鎖中に導入されること(記載事項1-5、1-1)が記載されている。 そうすると、刊行物1には、「大気中に暴露されると水分の作用により3次元的に網状組織を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化するシリル基末端ポリエーテルの製造方法であって、主鎖としては本質的にポリエーテルである片末端にアリルエーテル基を有するアルキレンオキシド重合体を用い、分子量を増大させるために該重合体の末端ヒドロキシ基の反応性を利用して、該ヒドロキシ基と反応しうる反応基を1分子中に2個以上含む化合物である 式 で示される多価イソシアナート化合物と反応させ、 式 で示されるウレタン結合基をポリエーテル主鎖中に導入することにより 式 で示される末端不飽和基を有するポリエーテルを製造し、得られた末端不飽和基を有するポリエーテルと 式 で示されるメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシランの如きアルコキシシラン類等の水素化珪素化合物とを、白金系触媒を用いて付加反応させることにより、 式 で示されるシリル基を末端に有する珪素末端ポリエーテルを製造する方法。」に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 本願発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「大気中に暴露されると水分の作用により3次元的に網状組織を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化する」という性質は、前者の「湿分硬化性」又は「湿分と接触して硬化することができる」という性質に相当し、後者における「片末端にアリルエーテル基を有するアルキレンオキシド重合体」は、前者における「末端不飽和ポリエーテルモノオール」に相当し、後者における 「 式 で示される多価イソシアナート化合物」は、前者における「ポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物」に相当し、後者におけるウレタン結合基をポリエーテル主鎖中に導入した 「 式 で示される末端不飽和基を有するポリエーテル」は、前者における「それぞれの端に末端不飽和を有する末端不飽和ポリマー」に相当し、後者における 「 式 で示される水素化珪素化合物」に包含される「メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン」は、前者における「ジアルコキシアルキルシラン」に相当し、後者において水素化珪素化合物としてメチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシランを用いた場合に得られる 「式 で示されるシリル基を末端に有する珪素末端ポリエーテル」は、前者における「ジアルコキシアルキルシリル末端ポリマー」に相当する。 そうすると、両者は、 「湿分硬化性の 式 で示されるシリル基を末端に有するポリマーの製造方法であって、 (a)片末端にアリルエーテル基を有する末端不飽和ポリエーテルモノオールを、 式 で示されるポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物と反応させ、それぞれの端に末端不飽和を有する末端不飽和ポリマーを提供し、そして、 (b)前記末端不飽和ポリマーをジアルコキシアルキルシランであるメチルジエトキシシラン又はメチルジメトキシシランと反応させ、湿分と接触して硬化することができるジアルコキシアルキルシリル末端ポリマーを形成する諸工程を特徴とする方法。」の点で一致し、 (i)ポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物の反応性官能基と、末端不飽和ポリエーテルモノオールのヒドロキシル基とのモル比が、前者においては1:1であるのに対して、後者においてはモル比が明らかでない点、及び、 (ii)シリル末端ポリマーの硬化後の硬化ポリマーの伸び率が、前者においては210%?610%であるのに対して、後者においては伸び率が明らかでない点、 で相違する。そこで、相違点について検討する。 相違点(i)について 刊行物1には、末端不飽和ポリエーテルモノオールとポリイソシアネートである多官能価のヒドロキシル反応性化合物との反応により生じる 式 の結合単位を重合体主鎖中に形成させることが記載されているところ(記載事項1-1)、水酸基とイソシアネート基との仕込比に関しての記載はない。しかし、水酸基とイソシアネート基とからウレタン結合を形成するための反応において化学量論的な比を仕込比として想起することは化学の常識に照らして当然のことであるから、ポリイソシアネートの有するイソシアネート基と末端不飽和ポリエーテルモノオールの有するヒドロキシル基との反応におけるモル比を1:1に設定することは、当業者が容易に導き出し得たことである。 相違点(ii)について 刊行物1の実施例3には、トルエンジイソシアナートにより平均分子量を7000に増大させた、主鎖中に 式 で示される基を平均して1個含む参考例2の末端不飽和ポリエーテルに、メチルジメトキシシランを付加反応させて得られた、 式 で示される基を末端に全末端基中74%含むシリル基末端ポリエーテル(記載事項1-10)100重量部に対し、充てん剤に相当する酸化チタン25重量部、脂肪酸処理炭酸カルシウム70重量部及び無水ケイ酸5重量部を含む組成物を23℃、60%湿度で7日間硬化させた後、更に50℃、7日間硬化養生させて得た硬化物シートの破断時伸びは300%であったと記載されている(記載事項1-11、1-8)。 これに対して、本願の明細書の段落【0034】、【0040】?【0041】の配合表I、表IV?表IVaには、ポリエーテル成分100.0重量部に対し、充てん剤を合計140.0重量部含むシーラント(硬化物)の伸び率として247%?610%という実験データが記載されているから、本願発明1により製造されたシリル末端ポリマーと引用発明1により製造されたシリル末端ポリマーとは、充てん剤を同程度の割合で含む組成物の硬化後の伸び率が同程度になるものと認められる。よって、硬化前のシリル末端ポリマーの化学構造の類似性も勘案すると、本願発明1と引用発明1とは実質的にシリル末端ポリマーの硬化後の硬化ポリマーの伸びの点においても一致するものと認められるので、相違点(ii)は実質的な相違点ではない。 発明の効果について 本願明細書の段落【0005】には湿分硬化性シーラントが優れた伸び率を有することと低価であること、段落【0034】には硬化した充てんシーラントの引張強さが市販されている充てんシーラントより優れていること、そして、段落【0040】?【0041】の表IV?表IVaには硬化した充てんシーラントの伸び率及び引張強さの実験データが記載されている。一方、刊行物1には硬化性組成物が高性能でありかつ安価であることが記載されており(記載事項1-2)、参考例2のシリル基末端ポリエーテルを含む組成物を硬化させたシートの破断時伸びは300%、破断時強度は16kg/cm2(約228psi)であったことも記載されていて(記載事項1-11)、いずれの効果も本願発明1により製造されたシリル末端ポリマーの奏する効果と同質のものであるから、本願発明の効果は当業者が十分に予測し得る程度のものと認められる。 平成19年3月1日付け意見書における請求人の主張について 請求人は上記意見書の「III.理由IIIについて」の項で、刊行物1はポリエステルを主鎖とするポリマーを中心に開示するもので、本願発明におけるようなポリエーテルモノオールとポリイソシアネートとを反応して得られたウレタンポリマーを開示しない旨のことを主張している。しかし、上記4.及び5.で指摘したとおり、刊行物1にも本願発明1と同じようにポリエーテルモノオールとポリイソシアネートとを反応させてウレタン結合で鎖延長されたポリエーテルを得ること、及び得られたポリエーテルをシラン化合物と反応させてシリル末端ポリマーを得ることが記載されているから、請求人の刊行物1の記載についての主張は当を得たものでなく、採用することができない。 以上のとおりであるから、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本願発明2、3について 刊行物1には、上記5.(1)に摘記した事項に加え、シリル基末端ポリエーテルに種々の充填剤を混入することが記載されている(記載事項1-8)。また、湿分硬化性シリル末端ポリマーの硬化を、ポリアミン又はポリアルコール又はそれらの組合せの存在下に行うことは、本願の優先権主張日前に周知の技術的事項である(もし必要であれば、国際公開第91/15536号パンフレット、特開昭60-067573号公報等を参照。)。 よって、上記5.(1)における検討を踏まえると、本願発明2及び3も刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明1?3は本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-03-27 |
結審通知日 | 2007-03-30 |
審決日 | 2007-04-10 |
出願番号 | 特願平5-210589 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 前田 孝泰 |
特許庁審判長 |
原 健司 |
特許庁審判官 |
天野 宏樹 鈴木 紀子 |
発明の名称 | 湿分硬化性シリル末端ポリマーの製造方法 |
代理人 | 小堀 貞文 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 浅村 皓 |