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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1163245
審判番号 不服2005-1109  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-19 
確定日 2007-08-20 
事件の表示 特願2002- 62950「文書データ処理装置、方法及びコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月19日出願公開、特開2003-263518〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成14年3月8日の出願であって、平成16年12月10日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成17年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年2月15日付で手続補正がなされたものである。

第2.平成17年2月15日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年2月15日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「取引文書データに対して電子署名データを添付することができるユーザの端末と、電子署名データの有効性を証明するための有効期間付きの証明データの失効情報の発行者名、失効情報の最終更新時間、失効したユーザの識別情報、失効時刻から構成される失効情報を発行する認証機関装置と、取引文書データの登録処理及び登録された日時を証明するタイムスタンプ情報を発行する処理を行うことにより取引文書データの原本性を保証する保証機関装置と、それぞれ通信可能に構成された装置であって、
上記ユーザの端末から送信された、取引文書データ、この取引文書データに添付された上記ユーザの電子署名データ及びこの電子署名データの証明データとを受け付けると共に、上記電子署名データを受け付けた時点での証明データの失効情報を上記認証機関装置から受付ける受付手段と、
上記保証機関装置に対して、上記取引文書データと上記電子署名データ、上記証明データ、上記失効情報データからハッシュ値を生成して、上記取引文書データの原本登録要求を行い、この原本登録要求に対して上記保証機関装置が発行した当該登録日時を証明するタイムスタンプ情報を取得するタイムスタンプ情報処理手段と、
上記受付けた取引文書データ、電子署名データ及び証明データに関連付けて、上記有効期間の途中で有効性を失った証明データを特定する失効情報と、上記取得したタイムスタンプ情報とを記憶することにより、上記取引文書データに添付された電子署名が有効であることを保証する記憶手段と、
を有することを特徴とする文書データ処理装置。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「失効情報」について「失効情報の発行者名、失効情報の最終更新時間、失効したユーザの識別情報、失効時刻から構成される失効情報」と限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
(1)引用例1
(1?1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-316779号公報(以下、「引用例1」という。なお、平成16年6月22日付拒絶理由通知書に記載の引用文献1は記載誤りであるものの、平成16年8月30日付意見書で「なお、拒絶理由通知書にある引用文献1の特開2002-216063号(2002年8月2日公開)については、本願の出願日(2002年3月8日)以降に公開された公報であり、特許法第29条第2項の引用文献としては不適切であることから、審査官殿の指示に従い、特願平11-316779号を引用文献1として以下、意見を述べます。」と記載される等、当該引用文献である旨合意している。)には、次の事項が開示されている。

ア.「【請求項7】 販売人から送られた販売人側記録に基づいて、前記販売人側記録毎に公証用書類を作成する公証用書類作成手段と、
該公証用書類作成手段によって作成した書類を公証局に送付し、該書類を前記公証局から更に前記販売人に送付する送付手段と、
前記販売人が、前記送付手段によって送付された前記書類の内容と、前記販売人側記録の内容が一致しているか確認する確認手段と、
該確認手段によって前記一致が確認されたとき、前記書類が正確であることを公証する公証局を含む立会人と、
該立会人によって公証された書類を記憶する記憶手段と、
該記憶手段に記憶した前記公証用書類を参照して、前記販売人に対して前記購買人が支払う支払明細書を作成する支払明細書作成手段と、
該支払明細書作成手段により作成した支払明細書に基づき、振り込み依頼を行う振込依頼手段と、
該振込依頼手段による振り込み依頼に基づいて前記販売人に振り込みが行われたとき、当該振り込みの事実を前記立会人に通知する通知手段と、
を有することを特徴とする立会人システムを利用した決済方式。」

イ.「【0010】一方、今日インターネットの普及に伴って、各種分野でEDI(電子データ交換)による情報交換システムの構築が試みられている。特に企業間において、このシステムを利用することにより、複雑な流通経路における物流、決済処理を効率良く行えるようになることが期待されている。
【0011】本発明は販売企業と購買企業間の効率良い物流、及び決済処理を行うべく、EDI(電子データ交換)を使用し、且つ情報の安全性を確保した立会人システム、及び当該立会人システムを利用した決済処理を提供するものである。」

ウ.「《第3実施形態例》次に、本発明の第3実施形態例について説明する。
【0098】第3実施形態例は、立会人を利用した決済システムにおいて安全に決済を行うための発明であり、購買企業1及び販売企業2を予め認証した後認証番号に従って処理を行う。また、購買企業1と立会人3、及び販売企業2と立会人3間で送受信するデータは全て暗号化し、データの安全を期するものである。以下、具体的に説明する。
【0099】図23は、本システムの具体的な構成を示す図である。同図において、5は前述の実施形態例と同様購買企業1のコンピュータであり、6は販売企業2のコンピュータである。また、公証局7及び立会人サーバ8は前述の立会人3に対応し、立会人PC9に含まれる。また、この立会人PC9は本システムに参加する企業を予め認証する認証局24を含む。また、本例では立会人PC9は購買企業1のコンピュータ5から出力される納品伝票データ等を公証し、又販売企業2のコンピュータ6から出力される確認応答を受信する。
【0100】立会人サーバ8は立会人PC9が公証した納品伝票等の公証書類を記憶する収納明細テーブル20、及び支払条件テーブル21、明細グループテーブル22等を有する。上述のコンピュータ5及び6は立会人サーバ8を直接アクセスし、上述の公証書類等を参照することができる。
【0101】また、図23に示すように、購買企業1のコンピュータ5は、企業証明書の取得処理(処理A)、企業登録処理(処理B)、及び公証依頼処理(処理C)、業務処理(処理D)を行う。一方、販売企業2のコンピュータ6は企業証明書の取得処理(処理E)、企業登録処理(処理F)、及び公証データ確認処理(処理G)、業務処理(処理H)を行う。
【0102】また、認証局24は購買企業1及び販売企業2(コンピュータ5及び6)が行う企業証明書取得処理(処理A及びE)に関して発行される証明書申請に対する認証を行う。また、公証局7も購買企業1又は販売企業2(コンピュータ5又は6)が行う企業登録処理(処理B及びF)に関して発行される証明書発行登録申請に対する公証を行う。」

エ.「<公証依頼処理(処理C)>この処理は購買企業1が行う処理であり、販売人側記録としての納品伝票、発注伝票、又は請求書に基づいて購買企業1が行う処理である。すなわち、購買企業1は販売企業2から送られた上述の伝票に基づいて公証用書類を作成し、立会人3に公証を求めるものである。
【0121】この処理を具体的に説明する図が図38である。同図は購買企業1及び販売企業2が受けた上述の証明書を添付して行う認証処理の模式図である。購買企業1は認証用書類に購買企業1の証明書である「A」を付加して立会人3に書類を送る(図38に示すの処理)。立会人3は送られた認証用書類をそのまま確認用として販売企業2に送る(図38に示すの処理)。販売企業2は送られた書類を確認し、例えば納品伝票の内容と一致しているか確認した後、内容に間違いがなければ販売企業2の証明書「B」を付加して立会人3に送る(図38に示す処理)。立会人3は前述の収納明細テーブル20に認証用書類のデータを登録すると共に、認証用書類を認証したことを示す通知を購買企業1及び販売企業2に送る(図38に示すの処理)。この時、立会人3の証明書「C」を付加して行う。このように各書類の送付に証明書を付加することで、公証局7(立会人3)は本システムに参加資格のある企業の書類であることを常に確認することができ、安全な手続きを行うことができる。
【0122】以下、図39を用いて具体的に説明する。先ず、A商店は購買企業1であるBスーパーに食料品を納入し、その際に納品伝票をBスーパーに送る(手渡す)。購買企業1(Bスーパー)は公証用書類Yとして上述の納品伝票のデータを作成する。この公証用書類Yには「納入者(販売企業2)名」、「納入日」、「納入物品名」、「納入金額」、等が含まれ、例えば「納入者名」として上述のA商店、「納入日」として98/02/10、「納入物品名」としてマグロ、「納入金額」として¥15,000が記載されている。この公証用書類Yは購買企業1から立会人3に送信される(図39に示す)。ここで、購買企業1から販売企業2に送付する公証用書類Yは暗号化されて送られる。
【0123】図40はその例である。同図において、ParticipantUとVはある企業Uから企業Vへ公証用書類Yを送る場合の一般例であり、上述の例に対応させると、同図に示すaの部分が購買企業1から販売企業2に送付する公証用書類Y1のメッセージ(Message)に対応する。すなわち、同図に示すDATAは上述の「納入者(販売企業2)名」、「納入日」等のデータであり、このデータをDESによって暗号化し、ハッシュ関数(SHA)を適用し、更に購買企業1の秘密キー(SKA)によって施鍵し、公証局7に送る。尚、前もって販売企業2用に、上記秘密キー(SKA)に対する公開キー(PKA)も送付しておく。購買企業1の秘密キー(SKA)で施鍵するのは、そのメッセージが購買企業1から送付されてきたことを販売企業2で確認するためである。
【0124】尚、企業Uから企業Vに送られる送信データの全体は、上述したメッセージと同じものにハッシュ関数(SHA)を適用したものを企業Uの秘密キー(SKU)で施鍵し、これを更に上述したメッセージとをDEKで施鍵したものに、DESに対応したDEKを企業Vの公開キー(PKV)で施鍵したものである。企業Vの公開キー(PKV)で施鍵するのは、その送信データ全体が企業Vのみで解読できるようにするためである。具体的には、上記送信データの全体は、購買企業1から販売企業2に対して送付される。
<公証データ確認処理(処理G)>次に、立会人3は納品伝票を送った販売企業2に対し上記公証用書類Yをそのまま販売企業2に送り、確認依頼を行う(図39に示す)。販売企業2は自己が発行した納品伝票等の内容と立会人3から送信された公証用書類Yの内容とを比較し、誤りがないか確認する。尚、上述のデータ(DATA)の解鍵は上述の公開キー(PKA)により行う。
【0125】尚、送信データ全体を受信した販売企業2は、先ず公開キー(PKV)に対応する秘密キー(SKV)で解鍵してDEKを得て、DEKでDESを解鍵し、次に上述したように、購買企業1の公開キー(PKA)を用いる。
【0126】上述のように確認作業は販売企業2が行うものである。但し、販売企業2が商品を納さめている購買企業は、上述の特定の企業(上述の購買企業1)に限らない。このため、販売企業2は上述の確認作業の際、コンピュータ6の初期メニュー(図27)の公証依頼確認のボタン10aを押下し、図41に示す公証データ一覧画面を表示して行う。
【0127】例えば、同図に示す例は公証データ一覧画面の検索ボタン20aを操作し、「(株)Bスーパー」を選択した例である。また、販売企業2はこの証明書を確認すべく明細ボタン20bを押下し、詳細画面の表示を行う。
【0128】ここで、上述の明細ボタン20bを押下し、詳細画面の表示を行うと、図42の詳細画面が表示される。販売企業2はこの画面を見ながら自己の発行した納品伝票等の内容と立会人3から送信された公証用書類Y1の内容を比較し、誤りがないか確認する。そして、両内容が一致していれば確認OKボタン21aを押下し、完了を立会人3に送信する(図39に示す)。
【0129】このとき販売企業2が立会人3に送付する確認応答は、上述の図40に示すbの部分である。すなわち、前述の公証用書類Y1の暗号データにハッシュ関数(SHA)と販売企業2の秘密キー(SKB)によって施鍵し、公証局7に送る。尚、この時、同時に公証局7に対し上記秘密キー(SKB)に対する公開キー(PKB)も送付する。
【0130】尚、前述の納品伝票等と公証用書類Y1との内容一致判断において両内容が不一致であれば、図42に示す確認NGボタン21bを押下し、図43に示す表示を行う。すなわち、この場合にはNGの理由を記述し、OKボタン22aを押下する。この場合、立会人は明細を公証することがなく、この時点で販売人2は購買人1の作成した明細に誤りがあることを知り、購買人1に対し通知し、例えば明細の内容を修正することにより、例えば収納明細テーブル20の内容を更新し正確な公証明細を作成させることができる(図39に示す)。
【0131】次に、立会人3は販売企業2から確認応答入力があると、上述の公証用書類Y1に関する認証済みの証明書を購買企業1、及び販売企業2に送信する(図2に示す)。
【0132】このとき販売企業2が立会人3に送付する証明書は、上述の図40に示すcの部分である。すなわち、前述の公証用書類Y1の暗号データと販売企業2からの確認応答を更にハッシュ関数(SHA)と立会人3の秘密キー(SKN)によって施鍵したメッセージである。また、この時購買企業1及び販売企業2に対し上記秘密キー(SKN)に対する公開キー(PKN)も送付する。
【0133】このようにして、立会人3から送信された暗号化情報は、購買企業1と販売企業2が互いに確認した証明書であり、納品伝票等に基づく認証用書類の内容に誤りがないことを証明する公証書類である。
【0134】上述のようにして公証処理が完了すると、収納明細テーブル20には多数の証明書が登録される。この状態において、収納明細テーブル20に登録した公証登録済みデータを参照する場合、図27に示す初期メニューの状態から公証済みデータ一覧を参照するボタン10cを押下し、図44に示す公証済みデータ一覧画面を表示する。この公証済データ一覧画面は、例えば取引先を選択することで、前述の「(株)〇〇フーズ」、「××ハム(株)」、「(株)□□」、等の取引のある購買企業1を選択でき、また区分のエリアにある「仕入」、「相殺」、「発注」、「売掛」、「支払修正」、「契約」の項目を指定して確認したい項目を選択する。また、詳細ボタン25aを押下することで、図45に示す公証済データ明細画面を表示する。」

(1-2)してみると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「納品伝票、発注伝票等の認証用書類に購買企業1の証明書を付加して、立会人3に書類を送ることができるものであって、データをDESによって暗号化し、ハッシュ関数(SHA)を適用し、更に購買企業1の秘密キー(SKA)によって施鍵し、公証局7に送り、前もって販売企業2用に、上記秘密キー(SKA)に対する公開キー(PKA)も送付しておくことができる購買企業1のコンピュータと、
販売企業2において送られた書類を確認し、例えば納品伝票の内容と一致しているか確認した後、内容に間違いがなければ販売企業2の証明書を付加して立会人3に送るものであって、公証用書類Y1の暗号データにハッシュ関数(SHA)と販売企業2の秘密キー(SKB)によって施鍵し、公証局7に送り、この時、同時に公証局7に対し上記秘密キー(SKB)に対する公開キー(PKB)も送付する販売企業2のコンピュータと、
購買企業1と立会人3、及び販売企業2と立会人3間でデータを送受信するものであって、認証局24は、本システムに参加する企業を予め認証するものであって、購買企業1及び販売企業2(コンピュータ5及び6)が行う企業証明書取得処理に関して発行される証明書申請に対する認証を行うものであり、公証局7は購買企業1又は販売企業2(コンピュータ5又は6)が行う企業登録処理に関して発行される証明書発行登録申請に対する公証を行うものであり、立会人PC9は購買企業1のコンピュータ5から出力される納品伝票データ等を公証し、立会人サーバ8は立会人PC9が公証した納品伝票等の公証書類を記憶する収納明細テーブル20、及び支払条件テーブル21、明細グループテーブル22等を有するものであって、立会人3は収納明細テーブル20に、送付された認証用書類のデータを登録するとと共に、立会人3の証明書を付加するものであって公証局7及び立会人サーバ8は前述の立会人3に対応し、公証局7及び立会人サーバ8、認証局24を含む立会人PC9と、
を含む立会人システム」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、「鈴木 優一,N+I Speaker's Forum 第2回(2) インフラとしてのPKI、現状と今後の展望,INTEROP MAGAZINE,ソフトバンクパブリッシング株式会社,2000年5月1日,第10巻第5号,第122-125頁」(以下、「引用例2」という。)には、オンラインで接続された認証機関や、有効期限付の証明書を用い、署名対象文書、電子署名と共に、失効情報、認証情報を付して管理する技術、および、公証・認証に係りタイムスタンプを用いる技術が開示されている。

(3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された「松尾真一郎他,公開鍵証明証と秘密鍵の事前失効方式の問題点とその改良,電子情報通信学会技術研究報告書,社団法人電子情報通信学会,2001年11月2日,第101巻,第403号,第23-29頁」(以下、「引用例3」という。)には、電子署名の検証に係り、公開鍵証明書の有効性を問い合わせる技術が開示されている。

(4)引用例4
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-105057号公報(以下、「引用例4」という。)には、公証に係り、情報のある時点での有効性を示すために、対象となる情報にタイムスタンプを付与する技術が開示されている。

3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「納品伝票、発注伝票」等の「認証用書類」のデータは、取引に係る文書であって電子的に送受信されるデータであることから、本願補正発明の「取引文書データ」に相当し、引用発明において証明書を付加することは、データにハッシュ関数を適用し、秘密キーによって施鍵することであることから、本願補正発明の「電子署名データを添付すること」に相当し、そして、引用発明の「購買企業1のコンピュータ」、「販売企業2のコンピュータ」は、取引文書データに対して電子署名データを添付することができるものといえるから、本願補正発明の「ユーザの端末」に相当する。

引用発明の、「認証局」は、企業が行う企業証明書取得処理に関して発行される証明書申請に対する認証を行うものであるから、本願補正発明の「認証機関装置」の機能を有し、また、引用発明の「公証」は各書類を認証するもの、すなわち、原本性を保証するものであることから、本願補正発明の原本性を保証する「保証機関装置」の機能を有するといえる。

そして、引用発明の「立会人PC」は、企業のコンピュータから公証用書類のデータが送付され、また、本願補正発明の「証明データ」に含まれる情報に相当する、引用発明の「公開キー」も送付されるものであるから、これは、本願補正発明の「上記ユーザの端末から送信された、取引文書データ、この取引文書データに添付された上記ユーザの電子署名データ及びこの電子署名データの証明データとを受け付ける」ための手段を有していると言えるので、本願補正発明の「受付手段」に相当する手段を有していると認められる。また、引用発明の「立会人PC」は、端末等と「データを送受信」するものであるから、本願補正発明の「それぞれ通信可能に構成された装置」の機能を有すると認められる。

そして、引用発明の、立会人PC9が公証した納品伝票等の公証書類を記憶する「収納明細テーブル等」は、公証した取引文書データ等を記憶するものであって、電子署名が有効であることを保証するものといえるから、本願補正発明の「記憶手段」に相当し、
引用発明の「立会人システム」は、本願補正発明の「文書データ処理装置」に相当する。

以上を踏まえると、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点が認められる。
[一致点]
「取引文書データに対して電子署名データを添付することができるユーザの端末と、
認証機関装置と、
保証機関装置と、
それぞれ通信可能に構成された装置であって、
上記ユーザの端末から送信された、取引文書データ、この取引文書データに添付された上記ユーザの電子署名データ及びこの電子署名データの証明データとを受け付ける受付手段と、
上記受付けた取引文書データ、電子署名データ及び証明データを記憶する記憶手段と、
を有することを特徴とする文書データ処理装置。」

[相違点]
(1)相違点1
本願補正発明が、失効情報を用い、「電子署名データの有効性を証明するための有効期間付きの証明データの失効情報の発行者名、失効情報の最終更新時間、失効したユーザの識別情報、失効時刻から構成される失効情報を発行する認証機関装置」と通信可能に構成された装置であり、証明データ等を「受け付けると共に、上記電子署名データを受け付けた時点での証明データの失効情報を上記認証機関装置から受付ける」ものであるのに対し、引用発明は、認証に係り、失効情報を用いる旨の記載はなく、そのようなものではない点。

(2)相違点2
本願補正発明がタイムスタンプを用い、「取引文書データの登録処理及び登録された日時を証明するタイムスタンプ情報を発行する処理を行うことにより取引文書データの原本性を保証する保証機関装置」と通信可能に構成された装置であって、「上記保証機関装置に対して、上記取引文書データと上記電子署名データ、上記証明データ、上記失効情報データからハッシュ値を生成して、上記取引文書データの原本登録要求を行い、この原本登録要求に対して上記保証機関装置が発行した当該登録日時を証明するタイムスタンプ情報を取得するタイムスタンプ情報処理手段」、「上記受付けた取引文書データ、電子署名データ及び証明データに関連付けて、上記有効期間の途中で有効性を失った証明データを特定する失効情報と、上記取得したタイムスタンプ情報とを記憶することにより、上記取引文書データに添付された電子署名が有効であることを保証する記憶手段」を有するのに対し、引用発明は、タイムスタンプについての記載はなく、取引文書データ等を記録する記憶手段を有するものである点。


4.当審の判断
(1)相違点1について
例えば、引用例2に記載されているように、通信可能に接続された認証機関による失効情報を用いることや、電子署名とともに、失効情報、及び、認証情報を併せて管理する技術は周知である。
また、電子署名の検証に係り、公開鍵証明書の有効性を問い合わせる技術も、例えば、引用例3に記載されるように周知である。
そして、失効情報の具体的な項目として、例えば、「八尾晃,貿易・金融の電子取引 基礎と展開,東京経済情報出版,2001年1月12日,第181-200頁(特に第194頁の図表8-4参照)」に、電子署名の係る認証に関し、認証情報の失効に係る情報としては、ISOで定義されている証明書失効リスト(CRL)の標準形式に、「CRLの発行者、更新日時、ユーザ証明書、失効日」(それぞれ、「失効情報の発行者名、失効情報の最終更新時間、失効したユーザの識別情報、失効時刻」に相当。(なお、「失効日」との「時点」を示す情報を、時刻とすることは容易))が含まれることが記載されているように、当該各項目を用いた失効に係る情報とすることは周知であり、失効情報を用いる際に当該各項目を用いたものとすることは、当業者が容易になし得る設計事項にすぎない。
そして、電子署名の検証をいつの時点におけるもととするか、検証に用いる失効情報をいつの時点のものとするかは、必要に応じて種々考えられるものであり、必要に応じて選択すべき設計事項にすぎず、電子署名データを受け付けた時点することは当業者であれば容易になし得る事項にすぎないと認められる。
してみれば、引用発明に上記周知技術を適用して、認証に係り、失効情報を用い、「電子署名データの有効性を証明するための有効期間付きの証明データの失効情報の発行者名、失効情報の最終更新時間、失効したユーザの識別情報、失効時刻から構成される失効情報を発行する認証機関装置」と通信可能に構成された装置とし、
証明データ等を「受け付けると共に、上記電子署名データを受け付けた時点での証明データの失効情報を上記認証機関装置から受付ける」ものとすることは、当業者であれば容易になし得た事項である。

(2)相違点2について
例えば、引用例2及び引用例4に記載されるように、公証・認証等に係り、情報のある時点での有効性を示すために、対象となる情報にタイムスタンプを付与する技術は周知である。
また、タイムスタンプを付与する際に、ハッシュ値を生成し、タイムスタンプを付与する技術、ネットワークで接続された計算機によりタイムスタンプを付与する技術は、例えば、拒絶査定時に示した特開2001-319097号公報、特開2001-229226号公報にも記載されるように、周知技術にすぎず、
また、認証等を行う際に、元となるデータそのものではなく、ハッシュ値を生成し、当該ハッシュ値を用いること、複数のデータ等に対してハッシュ値を得ることも、例えば引用例2にも記載されるように一般的に用いられる周知技術にすぎず、具体的にいかなるデータに対してタイムスタンプを付すかは設計事項にすぎないものであって、また、電子署名や証明書、失効情報等を用いた検証に係り、検証に対するタイムスタンプを付けることは、例えば、引用例2に、「検証のタイムスタンプを繰り返し付けていき」(引用例2の第125頁右欄第18-19行参照)と記載されるように周知である。
そして、関連する各情報を、関連付けて記憶することも周知の技術にすぎす、認証等に係る情報を関連付けて記憶することも、当業者が容易になし得る設計事項である。

してみれば、引用発明に上記周知技術等を適用して、タイムスタンプを用いるものとし、「取引文書データの登録処理及び登録された日時を証明するタイムスタンプ情報を発行する処理を行うことにより取引文書データの原本性を保証する保証機関装置」と通信可能に構成された装置とし、「上記保証機関装置に対して、上記取引文書データと上記電子署名データ、上記証明データ、上記失効情報データからハッシュ値を生成して、上記取引文書データの原本登録要求を行い、この原本登録要求に対して上記保証機関装置が発行した当該登録日時を証明するタイムスタンプ情報を取得するタイムスタンプ情報処理手段」、「上記受付けた取引文書データ、電子署名データ及び証明データに関連付けて、上記有効期間の途中で有効性を失った証明データを特定する失効情報と、上記取得したタイムスタンプ情報とを記憶することにより、上記取引文書データに添付された電子署名が有効であることを保証する記憶手段」を有するとすることは、当業者であれば容易になし得た事項である。

(3)作用効果について
本願補正発明の奏する作用効果は当業者が引用発明及び周知技術から予測しうるものであり、格別顕著な作用効果は認められない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条1第項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
平成17年2月15日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年8月30日付の手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「取引文書データに対して電子署名データを添付することができるユーザの端末と、電子署名データの有効性を証明するための有効期間付きの証明データの失効情報を発行する認証機関装置と、取引文書データの登録処理及び登録された日時を証明するタイムスタンプ情報を発行する処理を行うことにより取引文書データの原本性を保証する保証機関装置と、それぞれ通信可能に構成された装置であって、
上記ユーザの端末から送信された、取引文書データ、この取引文書データに添付された上記ユーザの電子署名データ及びこの電子署名データの証明データとを受け付けると共に、上記電子署名データを受け付けた時点での証明データの失効情報を上記認証機関装置から受付ける受付手段と、
上記保証機関装置に対して、上記取引文書データと上記電子署名データ、上記証明データ、上記失効情報データからハッシュ値を生成して、上記取引文書データの原本登録要求を行い、この原本登録要求に対して上記保証機関装置が発行した当該登録日時を証明するタイムスタンプ情報を取得するタイムスタンプ情報処理手段と、
上記受付けた取引文書データ、電子署名データ及び証明データに関連付けて、上記有効期間の途中で有効性を失った証明データを特定する失効情報と、上記取得したタイムスタンプ情報とを記憶することにより、上記取引文書データに添付された電子署名が有効であることを保証する記憶手段と、
を有することを特徴とする文書データ処理装置。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記第2.2.に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記第2の項で検討した本願補正発明から、「失効情報」に係る限定を除いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を減縮したものに相当する本願補正発明が、前記第2. 3.対比及び4.当審の判断に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明の奏する作用効果は当業者が引用発明及び周知技術から予測し得るものであり、格別顕著な作用効果は認められない。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-28 
結審通知日 2007-06-29 
審決日 2007-07-10 
出願番号 特願2002-62950(P2002-62950)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 博文  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 青柳 光代
野崎 大進
発明の名称 文書データ処理装置、方法及びコンピュータプログラム  
代理人 粕川 敏夫  

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