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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1163251
審判番号 不服2005-18216  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2007-08-20 
事件の表示 平成9年特許願第41672号「防眩処理剤、防眩膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年8月18日出願公開、特開平10-219136〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年2月10日の出願であって、平成16年4月15日に手続補正がされたが平成17年8月23日(発送日)に拒絶査定がされ、これに対し、同年9月22日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年10月7日に手続補正がされたものである。

第2 平成17年10月7日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月7日の手続補正を却下する。

[理由]
1. 補正の内容
平成17年10月7日の手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1
「溶剤に、少なくとも放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液に、チキソトロピー化剤を配合してなり、そのチキソトロピー化剤がエチルセルロース又は有機粘土からなると共に前記分散液中に溶解した状態で存在し、前記の放射線硬化型樹脂100重量部あたり平均粒径が0.1?10μmの微粒子を1?30重量部、チキソトロピー化剤を0.1?10重量部含有させて固形分濃度を5?70重量%に調製したものであることを特徴とする防眩処理剤。」を
「エタノール、トルエン、酢酸エチル又はメタノールからなる溶剤に、少なくとも放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液に、チキソトロピー化剤を配合してなり、そのチキソトロピー化剤が有機粘土からなると共に前記分散液中に溶解した状態で存在し、前記の放射線硬化型樹脂100重量部あたり平均粒径が0.1?10μmの微粒子を1?30重量部、チキソトロピー化剤を0.1?10重量部含有させて固形分濃度を5?70重量%に調製したものであり、厚さ1?30μmにおいてヘイズ値が5?20%の硬化処理層を形成することを特徴とする防眩処理剤。」
と補正(下線は補正箇所である。)することを含むものである。

2. 補正の適否
上記補正のうち、「厚さ1?30μmにおいてヘイズ値が5?20%の硬化処理層を形成する」という補正事項は、補正前の防眩処理剤という組成物の発明を特定するために必要な事項ではなかった、該防眩処理剤を硬化した後の硬化処理層の性質を特定するものであって、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものということはできないので、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当しない。また、同項の他の各号に規定する目的のいずれにも該当しないことは明らかである。
さらに、仮に上記補正がいわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するものとしても、補正後の明細書及び図面の記載は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないから、補正後の発明は、独立して特許を受けることができないものである。
すなわち、一般的に有機粘土として、「ベントナイト、モンモリロナイト、セピオライト等で例示される粘土を、アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、スルホニウム化合物等で例示されるオニウム化合物によつて処理することにより得られ、該粘土の有機化合物に対する膨潤性が向上したもの」(特開平1-085271号公報)が知られている。この一般的な有機粘土の記載からみて、その有機粘土は、補正後の発明の「エタノール、トルエン、酢酸エチル又はメタノールからなる溶剤に、少なくとも放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液」中に「溶解」した状態で存在できるものとは認められない。そうすると、補正後の請求項1?4に係る発明において用いられる有機粘土は、「エタノール、トルエン、酢酸エチル又はメタノールからなる溶剤に、少なくとも放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液」中に「溶解」した状態で存在できる特殊なものと認められるところ、具体的にどのようなものであるのか、どのようにしたら入手することができるのかが補正後の明細書又は図面に記載されていない。してみると、補正後の特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されているとはいえず、また、補正後の発明の詳細な説明には補正後の発明について当業者がその発明を実施しうる程度に明確かつ十分に記載されているともいえない。

3. むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しないものであり、さらに、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成17年10月7日の手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、平成16年4月15日の手続補正によって補正された明細書又は図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「溶剤に、少なくとも放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液に、チキソトロピー化剤を配合してなり、そのチキソトロピー化剤がエチルセルロース又は有機粘土からなると共に前記分散液中に溶解した状態で存在し、前記の放射線硬化型樹脂100重量部あたり平均粒径が0.1?10μmの微粒子を1?30重量部、チキソトロピー化剤を0.1?10重量部含有させて固形分濃度を5?70重量%に調製したものであることを特徴とする防眩処理剤。」(以下、「本願発明」という。)

第4 原査定の理由の概要
原査定は、本願発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、という理由を含むものである。



刊行物1 特開平6-18706号公報
刊行物2 特開昭62-230853号公報
刊行物3 社団法人 日本塗料工業会 塗料原料便覧作成委員会編「塗料原料便覧 第6版」第188頁(平成5年8月30日 改訂6版 社団法人 日本塗料工業会発行)
刊行物4 特開平7-228833号公報(周知技術)

第5 刊行物の記載事項
1. 刊行物1(特開平6-18706号公報)
刊行物1には以下の記載がある。
(1-1)「【実施例7】ポリエステルアクリレートとポリウレタンアクリレートとの混合物からなる紫外線硬化型樹脂(EXG:商品名:大日精化製)100重量部に、導電性顔料である粒径100Åの酸化スズSnO2(住友セメント製)を80重量部含有させて、帯電防止塗料を調製した。この帯電防止塗料を厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム上に膜厚4μm(乾燥時)になるように塗工し、80Wの高圧水銀灯下で20m/minのスピードで通過させることによってハーフキュア状態の半硬化にした。」(段落【0085】)
(1-2)「その半硬化塗膜上に、粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂(EXG40:商品名:大日精化製)をメチルエチルケトンで40重量%に希釈し、膜厚6μm(乾燥時)になるように塗工した。この塗工物を160Wの高圧水銀灯下を5m/minのスピードで2回通過させることによって、帯電防止性を有する厚さ80μmの耐擦傷性防眩フィルムを得た。このようにして得られた耐擦傷性防眩フィルムの表面抵抗値は2×1010Ω、ヘイズ値14%、全光線透過率86%、拡散透過率12%、60°グロス値72%の優れたものとなった。」(段落【0086】)
(1-3)「透明基板上に、導電性フィラーを含有する帯電防止層が形成され、その層の上に屈折率1.40?1.60の樹脂ビーズと電離放射線硬化型樹脂組成物から本質的に構成される防眩層が形成されていることを特徴とする耐擦過傷性防眩フィルム」(特許請求の範囲【請求項2】)
(1-4)「これらの樹脂ビーズの粒径は、3?8μmのものが好適に用いられ、樹脂100重量部に対して2?10重量部、通常4重量部程度用いられる。この塗料にこのような樹脂ビーズを混入させると、塗料使用時には容器の底に沈澱した樹脂ビーズを攪拌して良く分散させる必要がある。このような不都合を無くすために、前記の塗料に樹脂ビーズの沈降防止剤として粒径0.5μm以下、好ましくは0.1?0.25μmのシリカビーズを含ませてもよい。なお、このシリカビーズは添加すればするほど有機フィラーの沈降防止に有効であるが、塗膜の透明性に悪影響を与える。したがって、樹脂100重量部に対して、塗膜の透明性を損なわない程度に、しかも沈降防止することのできる範囲である0.1重量部未満程度が好ましい。」(段落【0027】)

2. 刊行物2(特開昭62-230853号公報)
刊行物2には以下の記載がある。
(2-1)「本発明に用いられる単粒子径0.1μm以下の超微粉充填剤としては、塗料や接着剤等の液状樹脂組成物のチキソトロピー性等の諸特性を向上させるために用いられる超微粉充填剤であれば特に限定されるものではなく、具体的には、例えばコロイダルシリカ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられる。」(第2頁右下欄第15行?第3頁左上欄第2行)

3. 刊行物3(社団法人 日本塗料工業会 塗料原料便覧作成委員会編「塗料原料便覧 第6版」第188頁(平成5年8月30日 改訂6版 社団法人 日本塗料工業会発行))
刊行物3には以下の記載がある。
(3-1)「3.2.1.9. 増粘・沈降防止剤,たれ(だれ)防止剤
チクソトロピック剤とは,塗料,接着剤,シーリング剤などに使用することにより,その懸濁液内部(顔料混合系)にチクソトロピック粘性を形成し,増粘・沈降防止・だれ防止効果などを付与するものである。現在一般的に言われているチクソトロピック粘性の説明は,分散粒子間の牽引力のため懸濁液の内部に連続的な構造がつくられ,この構造が剪断によって破壊されるときに初めて流動が起きるが,静置すると一旦破壊された構造が再び形成されるものである。」(第188頁下から第7行?末行)

4. 刊行物4(特開平7-228833号公報)
刊行物4には以下の記載がある。
(4-1)「本発明において使用される前記粘性付与剤は、塗料組成物をチキソトロピック性にし、得られる塗膜表面の微小の凹凸発生を解消し、それにより耐汚染性をよくするために配合するものである。粘性付与剤としては、具体的にはセルロースアセテートブチレート、エチルセルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、アセチルセルロース等の繊維素誘導体、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸アルミニウム、有機ベントナイト、ホワイトカーボン、脂肪族アマイド、ロジン系樹脂、ポリエチレン、ミクロゲル樹脂粒子、ポリイソシアネート-アミン反応物等が代表的なものとして挙げられる。」(段落【0016】)

第6 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「その半硬化塗膜上に、粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂(EXG40:商品名:大日精化製)をメチルエチルケトンで40重量%に希釈し、膜厚6μm(乾燥時)になるように塗工した。この塗工物を160Wの高圧水銀灯下を5m/minのスピードで2回通過させることによって、帯電防止性を有する厚さ80μmの耐擦傷性防眩フィルムを得た」(摘記1-2)ことが記載されている。
この「帯電防止性を有する厚さ80μmの耐擦傷性防眩フィルム」は、「帯電防止塗料を・・・トリアセチルセルロースフィルム上に・・・塗工し、・・・半硬化にした」(摘記1-1)半硬化塗膜上に「粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂(・・・)をメチルエチルケトンで40重量%に希釈し」たものを塗工することにより得られたフィルムであって、帯電防止塗料から得られた部分が帯電性を呈し、半硬化塗膜の上に塗工したものから得られた部分が防眩性を呈するものであることは、請求項2の記載(摘記1-3)からも明らかであるから、半硬化塗膜の上に塗工したものである「粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂(・・・)をメチルエチルケトンで40重量%に希釈し」たものは、防眩処理剤ということができる。
その「粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズ」の粒径は技術常識からみて平均粒径を表すものであるといえ、「ポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂」は、紫外線硬化型樹脂100重量部あたり、ポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを約4.2重量部含有すると計算される。
また、「メチルエチルケトン」は「紫外線硬化型樹脂」を溶解する溶剤と解され、「ポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズ」は、樹脂ビーズに他ならず、「このような樹脂ビーズを混入させると、塗料使用時には容器の底に沈殿した樹脂ビーズを撹拌して良く分散させる必要がある」との記載(摘記1-4)から、この樹脂ビーズは、メチルエチルケトンに分散した状態であると解される。
そして、この防眩処理剤は「・・・ビーズを4重量%含有する紫外線硬化型樹脂(・・・)をメチルエチルケトンで40重量%に希釈」したものであるから、固形分濃度を40重量%に調製したものといえる。
以上の記載及び認定によれば、刊行物1には、本願発明の表現ぶりにならって記載すると、
「溶剤に、紫外線硬化型樹脂を溶解させると共に、ポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを分散させてなる分散液であって、紫外線硬化型樹脂100重量部あたり、平均粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズを約4.2重量部含有を含有させた固形分濃度40重量%に調製した防眩処理剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「紫外線硬化型樹脂」は、本願発明の「放射線硬化型樹脂」に包含されるものであり、引用発明の「平均粒径6μmのポリメタクリル酸メチルアクリレートビーズ」は、本願発明の「微粒子」ということができるから、本願発明と引用発明とは
「溶剤に、放射線硬化型樹脂を溶解させると共に、微粒子を分散させてなる分散液に、平均粒径が6μmの微粒子を前記放射線硬化型樹脂100重量部あたり、約4.2重量部含有させて、固形分濃度を調製したものである防眩処理剤」
の点で一致し、以下の点で相違するといえる。
ア.本願発明においては、更にチキソトロピー化剤を配合し、チキソトロピー化剤がエチルセルロース又は有機粘土であり、分散液中に溶解した状態で存在するのに対して、引用発明においては、チキソトロピー化剤を配合していない点、
イ.本願発明においてはチキソトロピー化剤を放射線硬化型樹脂100重量部あたり、0.1?10重量部含有させて、固形分濃度を5?70重量%に調製した点。

3.相違点についての判断
以下、上記相違点について検討する。
(1) 相違点アについて
刊行物1には、樹脂ビーズを沈殿させないように、塗料に樹脂ビーズの沈降防止剤として粒径0.5μm以下、好ましくは0.1?0.25μmのシリカビーズを含ませてもよいことが記載されている(摘記1-4参照)。
他方、塗料などにおいて、「増粘・沈降防止剤,たれ(だれ)防止剤」として、懸濁液内部(顔料混合系)にチクソトロピック粘性を形成して増粘・沈降防止・だれ防止効果などを付与する「チクソトロピック剤」はよく知られたもの(刊行物3、摘記3-1)であること、例えば、コロイダルシリカ等が塗料等の液状樹脂組成物のチキソトロピー性等の諸特性を向上させるために用いられる(刊行物2、摘記2-1)ことが知られていることからすると、刊行物1には、塗料において樹脂ビーズの沈降防止のためにチキソトロピー化剤を含む沈降防止剤を用いることが示されているといえる。
さらに、刊行物1には、「なお、このシリカビーズは添加すればするほど有機フィラーの沈降防止に有効であるが、塗膜の透明性に悪影響を与える。したがって、樹脂100重量部に対して、塗膜の透明性を損なわない程度に、しかも沈降防止することのできる範囲である0.1重量部未満程度が好ましい」(摘記1-4)と記載され、シリカビーズを沈降防止剤として用いると塗膜の透明性に悪影響を与えることも示されている。この塗膜の透明性への悪影響は、シリカビーズが溶剤には溶解せず分散液に分散するものであることに起因すると解されるから、塗料に対し上記チキソトロピー化剤を含む沈降防止剤を適用するのに際しては、塗膜の透明性への悪影響を考慮して分散液に溶解するものを用いて分散液中に溶解した状態で存在するものを適用することは、当業者が適宜なし得る程度のことに過ぎないところ、塗料組成物において本願出願前周知のチキソトロピー化剤(例えば、刊行物4、摘記4-1)である「セルロースアセテートブチレート、エチルセルロースアセテートブチレート、エチルセルロース、アセチルセルロース等の繊維素誘導体」等は、溶解して溶液にチキソトロピー性を付与するものであることは明らかである。
してみると、樹脂ビーズを含む引用発明において、樹脂ビーズの沈降防止のためにチキソトロピー化剤を含む沈降防止剤を用いること、それに際しその沈降防止剤を、塗膜の透明性への悪影響を考慮して、溶解して溶液にチキソトロピー性を付与するものであるエチルセルロースを用い、分散液中に溶解した状態で存在するものとすることは、当業者が容易になし得る程度のことに過ぎない。

(2) 相違点イについて
刊行物1には、沈降防止剤であるシリカビーズの好適添加量は、樹脂100重量部に対して、透明性を損なわない程度で、しかも沈降防止することのできる0.1重量部未満程度(摘記1-4参照)であることが記載されている。しかし、透明性について考慮する必要はない溶解性の沈降防止剤においては、シリカビーズを用いた場合の好適添加量である0.1重量部未満よりも沈降防止効果がより大きい0.1重量部以上の量であって、通常の量(例えば、刊行物4の実施例1では樹脂100重量部に対して1重量部である。)の範囲、例えば、0.1?10重量%程度の量を用いることは当業者が容易になし得ることである。そして、引用発明の防眩処理剤の固形分濃度は40重量%であるから、これにチキソトロピー化剤を0.1?10重量%程度加えて固形分濃度範囲5?70重量%の範囲内に調製することも当業者が容易になし得ることである。

(3) 本願発明の効果の予測性について
本願明細書には、チキソトロピー化剤をエチルセルロースとした場合の具体的効果については記載されてはいない。ただ、段落【0006】に本願発明の効果として、「チキソトロピー化剤を用いたことにより、溶剤を使用した良好な塗工性と高精度な薄膜展開性を達成しつつ、微粒子の均一分散性に優れヘイズ値の面方向均一性に優れ、高ヘイズ値でそのバラツキが少ない防眩膜を形成できる防眩処理剤を得ることができ、これは分散液にチキソトロピー性を付与して微粒子の沈降を抑制したことに基づく」ことが記載されている。
そして、「チクソトロピック粘性」(チキソトロピック粘性)とは、「分散粒子間の牽引力のため懸濁液の内部に連続的な構造がつくられ,この構造が剪断によって破壊されるときに初めて流動が起きるが,静置すると一旦破壊された構造が再び形成されるものである」(刊行物3、摘記3-1)から、チキソトロピー性を付与した塗料は、塗工時は、懸濁液の内部の連続的な構造が剪断によって破壊されて流動性であり、塗工後は、静置され一旦破壊された構造が再び形成されることにより顔料等の沈降が防止されるものであるといえる。
すると、引用発明に上記各相違点に係る本願発明の特定事項を具備させたもの(所定量のエチルセルロースによりチキソトロピー性を付与したもの)においては、溶剤及びチキソトロピー化剤を用いているから、良好な塗工性と、高精度な薄膜展開性を与えることができ、静置時には微粒子の沈降が防止され、微粒子が均一に分散される、という効果を奏することは当業者が予期できることである。
また、引用発明に上記各相違点に係る本願発明の特定事項を具備させたものは、分散液に塗工性とチキソトロピー性を付与して微粒子の沈降を抑制し微粒子が均一に分散されているから、面方向に均一に塗工及び分散がされると解するのが自然であり、ヘイズ値の面方向の均一性に優れ、したがって、ヘイズ値にバラツキが少ないものが得られる、という効果を奏することも当業者が予期できることである。
してみると、本願発明の効果は、引用発明に上記各相違点に係る本願発明の特定事項を具備させたものの奏すると予測される効果に比し格別顕著なものということはできない。

4.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-05 
結審通知日 2007-06-12 
審決日 2007-06-26 
出願番号 特願平9-41672
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C09D)
P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
岩瀬 眞紀子
発明の名称 防眩処理剤、防眩膜及びその製造方法  
代理人 藤本 勉  

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