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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) G02F
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) G02F
管理番号 1163280
審判番号 無効2005-80138  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-06 
確定日 2007-09-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2029146号発明「電界制御型液晶セル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2029146号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.本件の経緯の概要
本件特許第2029146号についての手続きの経緯の概要は以下のとおりである。

昭和60年 5月17日 特許出願(優先権主張1984年5月18日、仏国)
平成 8年 3月19日 特許権設定登録
平成16年10月 6日 訂正審判請求(訂正2004-39227)
平成16年12月20日 訂正審決(認容)
平成17年 5月 6日 本件無効審判請求(無効2005-80138)
平成17年 8月30日 答弁書提出
平成17年11月11日 口頭審理

第2.本件発明
本件の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本件発明」という。)の要旨は、訂正2004-39227により訂正された特許訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 電極プレートに電圧が印加されない時にホメオトロピック構造を有する液晶層とこの液晶層の両面に配設された電極プレートとを有する組立体からなり、その電極プレートの少なくとも一つは透明であり、前記組立体の両面の少なくとも一方が光線の入射面であり、前記組立体の入射面となる側にはリニア偏光子と遅延プレートを含む、前記光線を偏光させる偏光手段が設けられ、所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されていることを特徴とする電界制御型液晶セル。」

第3.請求人の請求の趣旨及び理由の概要
請求人(日本サムスン株式会社)は、「特許第2029146号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提示し、以下の理由により、本件発明に係る特許は、無効にすべきものであると主張している。

無効理由1(新規性の欠如):
本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。

無効理由2(進歩性の欠如):
本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明のうち、何れか二つの発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。

無効理由3(記載不備):
本件発明は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でないので、昭和62年改正前特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。


甲第1号証:特開昭57-56818号公報
甲第2号証:R.A.Soref and M.J.Rafuse“Electrically Controlled Birefringence of Thin Nematic Films”,Journal of Applied Physics Volume43,Number5,pp.2029-2037.
甲第3号証:特開昭55-600号公報
甲第4号証:特公平7-69536号公報
甲第5号証:松本正一編著,「液晶ディスプレイ技術」,初版,産業図書株式会社,1996年11月8日
甲第6号証:「マグローヒル科学技術用語大辞典」,第1版,株式会社日刊工業新聞社,1979年3月20日
甲第7号証:「マグローヒル科学技術用語大辞典」,改訂第3版,株式会社日刊工業新聞社,2000年3月15日
甲第8号証:「新版 電気電子用語辞典」,第1版,株式会社オーム社,1988年9月1日
甲第9号証:「IEEE 電気・電子用語辞典」,丸善株式会社,1989年9月30日

第4.被請求人の反論の概要
被請求人は、平成17年8月30日付答弁書において、概ね、以下のように反論している。

1.本件発明の要旨
本件発明は、電圧が印加されないときに液晶がガラス基板に対して垂直に(ホメオトロピック)配列する、電界制御型と称する液晶表示装置に関する。本件発明は、この形式の液晶表示装置が有する、画面を斜めから見るとコントラストが低く、表示が見難いという課題を解決することを目的としている。
上記の問題を解決するために、発明者は、ホメオトロピック構造を有する液晶層と遅延プレートが斜め方向に伝播する光に与える影響に着目し、
1)遅延プレートに直線偏光した光が斜め方向から入射すると、当該直線偏光した光は、長軸の方向が当該直線偏光の方向に対して回転した楕円偏光に変化する、さらに、
2)液晶層に楕円偏光した光が斜め方向から入射すると、当該楕円偏光した光は、液晶層の複屈折のために、液晶層の厚さ方向に伝播するに従って楕円の長軸の方向が次第に回転する、
との認識に基づいて、リニア偏光子と遅延プレートを含む偏光手段および液晶層の層厚を適切に選択すれば、遅延プレートによって液晶層の複屈折を補償して斜めから見た場合のコントラストを改善することができることを発見して本発明に至ったものである。

本件特許の明細書によれば、液晶層および遅延プレートを伝播する光の偏光特性は、これらが複屈折性を有することから以下のように変化する。
1)直線偏光した光が遅延プレートに斜め方向から入射すると、直線偏光した光は、長軸の方向が当該直線偏光の方向に対して回転した楕円偏光に変化する、さらに、
2)楕円偏光した光が液晶層に斜め方向から入射すると、楕円偏光した光は、液晶層中を厚さ方向に伝播するに従って楕円の長軸の方向が次第に回転する。
したがって、光が液晶層の中を特定の厚さだけ進んだ位置では、遅延プレートによって生じた楕円偏光の長軸方向の回転が液晶層による長軸方向の回転によって相殺されることになる(本件特許の明細書では、このときの液晶層の厚さをe0と称している)。そこで、1つの典型的な例として、液晶層の厚さをe0の2倍に設定しておけば、液晶層を通り抜けたときに光は、長軸の方向が液晶層に入射した光とは逆方向に傾斜した楕円偏光になる。当該楕円偏光した光は、第2の遅延プレートを通過することによって、再度直線偏光した光に変換される。
上記のような現象の結果、黒表示状態の液晶層に斜めから入射した光も、第2のリニア偏光子によって完全にブロックされることになるので純粋な黒に近い表示が得られることになる。上述の例では、液晶層の厚さを2e0としているが、実際には液晶層の厚さが2e0ではなくても、適切な範囲の値が選択されていれば、黒表示のときに斜め方向から漏れ出る光が低減されて、コントラストが向上する結果が得られる。
そこで、所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に、液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように偏光手段と層厚とを選択することが本件発明の特徴である。

2.甲各号証と本件発明との対比
2-1.甲第1号証と本件発明との対比
1)甲第1号証(特開昭57-56818号公報)は、電極板に電圧が印加されないときに液晶が基板と垂直に(ホメオトロピック)配列する、電界制御型液晶表示装置に関するものである点で、本件発明と共通するが、甲第1号証は、反射型の表示装置に特有の問題であるパララックスの回避を解決課題としており、本件発明とは解決課題が異なる。

2)請求人は、甲第1号証に、「液晶層の厚さは、できるだけその最適な比厚の近くに選択される」、「大きい視角範囲」、「コントラストが最適」等の記載があることから、甲第1号証は本件発明と実質的に同一である、あるいは甲第1号証と他の甲号証に基づいて本件発明を容易に想到することができたと主張しているが、以下に示すように、甲第1号証は本件発明とまったく異なるもので、引用された上述の部分が意味するところも本件特許発明とは無関係である。
以下に、引用された各記載について検討する。

甲第1号証が引用するフランス国特許明細書第2201005号には、いわゆるホメオトロピック構造を有する液晶表示装置が開示されている。
同フランス特許明細書には、「液晶層の厚さは、できるだけその最適な比厚の近くに選択される。」ことが記載されていると甲第1号証に記載されているので、同フランス特許明細書(対応日本出願の公開公報である特開昭49-71952号公報(乙第1号証))をみると、液晶層の最適厚さについて以下のように記載されている。
「液晶の最も望ましい厚さとは、予め選択された励振状態でセルの光度レスポンスの零復帰が2つのパルスの間隔の時間に等しい時間に行われるごとき厚さを意味する。前述のごとく励振状態及び液晶の層の厚さの函数として零復帰グラフを本発明に企図されるごとく各ネマチック物質のために実験的に描くか理論的に予測することが可能であるから、附勢パルスの間隔の間に加えられる光度レスポンスの所望の零復帰時間の平均RMS電圧に対応する最も望ましい液晶層厚さを規定しえることは明白である。」(6頁右下欄最下行?7頁左上欄10行)
上記の記載から明らかなように、フランス特許明細書第2201005号には確かに液晶層の最適厚さという概念が開示されているが、それは「レスポンスの零復帰が2つのパルスの間隔の時間に等しい時間に行われる」ような厚さを意味しており、本件発明が対象としている斜め方向から見た場合のコントラストを向上させることとは関係がない。

「電界作動状態(Feld-Ein-Zustand)では、電場により、セル壁面と平行な方向への分子軸の段階的に増大する傾斜、それも詳しくは対向するセル壁面から出発し、セルの中央部で、セル板1,2の面の直角方向に対する傾斜角の最大値(一般に70°?89°)にまでの傾斜が得られる。コントラストが最適である場合に、光軸の傾斜が円偏光を相殺する。」(3頁右下欄4?11行)
との記載は電界作動状態(「白」を表示した状態)に関する記述である。
「反射型」の表示装置の場合「白」を表示する電界作動状態においては、反射して帰ってきた光の偏光方向は、リニア偏光子に入射する際は、リニア偏光子の偏光方向と平行でなければならない。電圧が印加されていない状態では、前述のように円偏光子によって偏光方向の90°回転が起こり「黒」表示になるので、「白」を表示するには、円偏光子によって生じる偏光方向の90°回転を液晶層によって相殺して0°に戻す必要がある。また、液晶層が、円偏光子によって生じる偏光方向の90°回転を完全に相殺すると、表示は完全な「白」表示(最大コントラスト)になり、液晶層が、円偏光子によって生じる偏光方向の90°回転の一部のみを相殺すると、表示は「グレー」になる。
これらは何れも「反射型」の表示装置の基本的な動作、つまり、画面を垂直方向から見た場合の表示機能に関する説明であって、斜めから見た場合の表示に関する記述ではない。
つまり、「コントラストが最適である場合に、光軸の傾斜が円偏光を相殺する」という記載は、「反射型」の表示装置の基本的な動作として、液晶の光軸(分子)が傾斜した結果、円偏光子によって生じた円偏光が相殺されたときに(画面に垂直な方向から見て)完全な「白」が表示されるということを述べたに過ぎず、本件発明の課題である斜めから見た場合のコントラストの低下に関する記載ではないし、斜めから見た場合のコントラストを、「液晶層の複屈折を偏光手段によって補償」することで改善するという解決手段を開示したものでもない。

「電界作動状態で、液晶6の光軸が光の入射方向にほぼ直角に、かつ偏光方向に約45°傾斜する。次いで複屈折により、出射する光が同じ強度の異常光束と正常光束へ分割される。正常光束と異常光束とは、内部リフレクタにまで通過することによりλ/4の光路差を有し、かつ反射しかつ再び液晶層を通過することにより直線偏光子8でλ/2の光路差を有し、これは偏光方向の旋光度約90°に匹敵する。」(4頁左上欄3?11行)
上記記載は、電界作動状態においては液晶層が複屈折性を示すために、光が液晶層内を往復することによって偏光方向が90°回転するという、「反射型」の液晶表示装置で「白」を表示する原理(垂直方向から見た場合の表示特性)について記載したものである。
「黒」を表示した状態でも、斜め方向から見ると光が漏れ出て「グレー」に見えるという本件発明が解決課題とする現象、および、「液晶層の複屈折を偏光手段によって補償」することでこの問題を解決するという解決手段と関連するところはない。

「本発明による液晶表示装置は大きいマルチプレツクス特性により優れている。液晶5,6の最適層厚は、透過形駆動と比べEN-18で半分程度の大きさ(?5μm)であるにすぎない。この特性が、スイツチング時間を透過形駆動の場合の4分の1に低減させかつ、角度特性、すなわち表示がなお良コントラストを有する視角範囲を約±45°に改善する。」(4頁左上欄15行?同頁右上欄2行)
甲第1号証は、反射型の液晶表示装置(ここでは、電圧を印加しない状態で「黒」を表示するものと「白」を表示するものの両方を含む)なので、光が液晶層を2度通ることから、透過型の液晶表示装置に比較して液晶層の厚さは1/2で済むことが特徴である。上記記載のうち、「半分程度の大きさ(?5μm)であるにすぎない」との記載はこのことを示唆している。また、「角度特性、すなわち表示がなお良コントラストを有する視角範囲を約±45°に改善する」とは、甲第1号証によってパララックスの問題が改善されたことを意味する記述である。
つまり、この記載も、反射型の表示装置特有の問題であるパララックスの回避に関する記述であり、前述した本件発明の解決課題及び解決手段とは無関係な記述である。

3)甲第1号証に関するまとめ
以上の比較検討から明らかなように、甲第1号証は、目的(パララックスの回避)、構成(反射面をガラス基板の内側に設ける)、効果(パララックスの消滅)とも本件発明とまったく異なるもので、本発明とはホメオトロピック構造を有する液晶を用いた表示装置に関するものという以上の共通点はない。甲第1号証の記載のうち、請求人が引用した部分が意味するところも、本件発明とはまったく無関係であることは上述の通りである。

2-2.甲第2号証と本件発明との対比
1)甲第2号証に開示された発明
甲第2号証 (R.A.Soref and M.J.Rafuse“Electrically Controlled Birefringence of Thin Nematic Films”,Journal of Applied Physics Volume43,Number5,pp.2029-2037.)は、ホメオトロピック構造を有する液晶を用いた液晶表示装置の閾値電圧、閾値幅、光学コントラスト、周波数応答、視野角、消費電力、過渡応答など、多くの側面について実験および理論解析を通じて検討した論文である。本論文では、液晶層の2種類の厚さについて行った実験結果に基づいて、液晶層の層厚が小さいほど広い視野角範囲にわたって一定値以上のコントラストが得られる、つまり、広い視野角を確保するためには液晶層の層厚が小さいほど良く、おそらく1?5μmの層厚が望ましいだろうと結論している点が液晶層の層厚に関する唯一の教示である。
しかし、本論文には、偏光手段に対して液晶層の層厚を適切に選択することによって明瞭なコントラストが得られるという本件発明の技術思想に関連する記載はまったくない。

2)甲第2号証と本件発明との対比
以下に、請求人が引用した記載のそれぞれについてその開示内容について検討する。
「透過モード[図2(a)]において、電気光学装置はPockelセルまたはKerrセルのように、一対の直線偏光アナライザーの間に置かれている。有用な処理は、偏光子を横切ることである。装置が閾値よりも低いときは、これは光透過の消滅(バルブの締切り)となる。閾値より高いときは、装置の複屈折は増加し、光透過が高まり、バルブを開ける。
動作の反射モード[図2(b)]は光入射表面における円偏光子を必要とする。ミラーを装置の後ろに置くことができ[図2(b)]、または装置の2番目の電極は反射型とすることができる。円偏光子は1/4波長板の上の直線偏光子により構成される。入力直線偏光は1/4波長板に沿った直交の構成部分αおよびβを有している。位相差板を通じたその最初の作動においてβはαに対して90°の遅延を被る。ネマチック・フイルムは閾値以下のときは、如何なる相対的シフトも導入しないし、ミラーもまたαおよびβの位相を同等に扱うものである。反射後かつ位相差板を経たその2回目の伝播(trip)の後、βは更なる90°の相対的遅延を受ける。従って、合成直線偏光α+(-β)の光は直線偏光子に戻り、そして当初の偏光α+(-β)に直交するために吸収される、即ち、バルブが閉鎖される。上記の閾値は、フイルムがβに追加の位相遅延を生じさせる。そのため、直線偏光子に戻る光線は、むしろ直線的に偏光するよりも楕円形に偏光し、光はバルブを透過する。」(2030頁左欄15?44行【訳出】)
引用された図面(a),(b)は、本論文の対象である透過型と反射型の2種類の液晶表示装置の概念を示している。右の図に示された反射型の表示装置の場合には、リニア偏光子と1/4波長板から構成される円偏光子が用いられている旨が記載されているが、反射型の表示装置に円偏光子が必要であることは甲第1号証の記載に関連してすでに述べたとおりである。
上記の引用部分は、反射型の液晶表示装置の作動原理を説明した部分である。電圧の印加、正確に言えば閾値を越える電圧の印加によって液晶がホメオトロピック方向から向きを変え、電圧に応じてグレーないし白を表示することも甲第1号証に関連して記載したとおりである。
上記翻訳の上から2,3行目、「有用な処理は、偏光子を横切ることである。」は誤訳であって、正しくは、「有用な処理は、偏光子を交差させる(cross)ことである。」との記載である。上から9行目「入力直線偏光は・・・構成部分αおよびβを有している。」は「入力直線偏光・・・成分αをおよびβを有している。」の誤訳である。また、下から3行は、「閾値を越えていると、フィルムがβにさらに位相遅れを生じさせる。そのため、直線偏光子に戻った光線は、直線偏光ではなく楕円偏光しており、光はバルブを通過する。」と訳すべき記載と思われる。
いずれも反射型表示装置の、画面に対して垂直に進行する光を対象とした作動原理を説明した部分で、技術的に正しい記載であるが、斜め方向に進行する光に関するものである本願発明の課題や解決手段の構成とは特に関連はない。

「光バルブの視野角領域を、白色光のコリーメートされた10-mmビームが偏光子に通常投射している、一対の固定された交差直線偏光子の間のサンプルを傾斜することにより決定した。これはネマチックフイルムヘの非通常投射を与えている。入射光線は投射平面に対して45°に偏光されている。サンプル6.3Bおよび12.5Cのデータは、9図に記載され、傾斜角度の関数としての透過光強度を示している。」(2033頁右欄下から9?1行【訳出】)
上記の部分に相当する原文の第1文と第2文は、正しくは以下のように翻訳すべき記載と思われる。
「白色光のコリメートされた10-mmビームを偏光子に垂直に入射させながら、偏光方向が交差する方向に固定された1対のリニア偏光子の間で、サンプルを傾斜させることによって、光バルブの視野角領域を決定した。これによってネマチックフイルムヘの垂直でない入射が与えられる。」
図9は、傾斜角度と透過光強度との関係を、6.3μmおよび12.5μmの、2種類の液晶層厚について測定したものである。

「図9からは[on]および[off]状態の間の光学的コントラスト比率は6.3-μmサンプル(400/1最大)の20°の円錐内のl00/1より大きく、並びに12.5-μmサンプルにつき11°の円錐内の100/1より大きい。1/8ミルのサンプルにこの結果を外挿すると、3.1-μm装置につき40°の視界を予想する。」(2034頁左欄2?8行【訳出】)
上述の部分の原文は、以下のように訳すべき記載と思われる。
「図9からは[on]および[off]状態の間の光学的コントラストは、6.3μmサンプルの場合20°の円錐内で100/1より大きく(最大400/1)、12.5μmサンプルの場合11°の円錐内で100/1より大きい。この結果を1/8ミルのサンプルに外挿すると、3.1μmの装置については40°の視野角が予想される。」
上記の部分には、液晶層が薄いほど視野角が改善される(あるいは液晶層の層厚と視野角が反比例の関係にある)との認識が開示されており、本件発明の基礎となる、偏光手段と液晶層の層厚とを適切に選択すれば斜めから見た場合のコントラストを改善することができるという認識も、偏光手段によって液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得るという解決手段も開示されていない。
甲第2号証に開示されている「液晶層が薄いほど視野角が改善される」との認識は、偏光手段との関係に基づいて液晶層の厚さを適切に選択することがコントラストの改善につながるという本願発明の発想をむしろ阻害する考え方である。液晶層の層厚を適切に選択することは必ずしも薄いほど良いということを意味していないし、偏光手段との関係で、斜めから見た場合のコントラストを改善することのできる液晶層厚は、ゼロでない特定の厚さである。
黒を表示した(液晶分子がホメオトロピック方向に向いた)液晶表示装置の画面を45°の角度から見た際の光透過率と液晶層の層厚との関係をコンピュータによってシミュレートすると、遅延プレートを有さない構造の場合には、液晶層の層厚が小さいほど光透過率が小さくなっており、斜め45°から見た際の黒表示を黒くするには液晶層の層厚を小さくすれば良いことが示されている。この結果は、甲第2号証の記載とも符合している。これに対して、遅延プレートを有する構造の場合には、液晶層厚(セルギャップ)が特定の値(4μm程度)のときに光透過率が極小値を示しており、遅延プレートを有さない構造とは顕著に異なる傾向が表れてる。つまり、この構造の場合には、斜め45°から見た黒表示の状態で、表示をなるべく黒くするには液晶層の層厚を4μm前後にすることが有効であって、薄いほど良いわけではないことになる。
光透過率が最小になる液晶層の厚さそのものは、偏光手段の光学パラメータ等に依存するのでここでは重要ではないが、本件発明のように(リニア偏光子と遅延プレートを含む)偏光手段を有する液晶表示装置の場合には、液晶層の厚さが特定の値のときにコントラストが向上することは、甲第2号証には開示も示唆もされていない現象である。

「図9からは、1?5μm範囲のより薄いフィルムは、より広い角度視界範囲を与えることが結論できる。ディスプレイ応用における視界範囲の重要さのために、より薄い装置は更なる研究に値する。」(2036頁左欄11?15行【訳出】)
上述の部分もまた前述の、液晶層が薄いほど視野角が改善されるとの認識に基づく記載で、偏光手段と液晶層の層厚の関係に関する記載や、液晶層の複屈折を偏光手段で補償して鮮明なコントラストを得るという本件発明の解決手段につながる記載はない。

3)甲第2号証に関するまとめ
以上の検討から明らかなように、甲第2号証は、ホメオトロピック液晶に関して種々の研究を行った論文であるものの、視野角を拡大することに関しては、単に液晶層が薄いほど良いとの認識を示しているに過ぎない。液晶層は単に薄いほど良いとの認識は、偏光手段と液晶層の層厚を適切に選択すること(液晶層の層厚は薄いほど良いというわけではない)によって斜めから見た場合のコントラストを改善するという本件発明の技術思想をむしろ阻害するものである。

2-3.甲第3号証と本件発明との対比
甲第3号証(特開昭55-600)は、捩れネマチック(TN)型の液晶装置に関するもので、視野角を拡大するために遅延板を用いるという点において本発明と関連するものである。
しかし、甲第3号証は、発明の構成と技術的意義に関する記載に技術的に不明瞭な部分があり、そのために発明を正確に把握することができない。また、推測によってある程度記載の技術的意味を汲み取ろうとしてもなお意味が不明な記載になっている。
また、甲第3号証によれば、「液晶セルの複屈折の垂直成分」を相殺することが、斜め方向から見た場合の観覧性を改善する方法であるが、本件発明はいかなる意味においても「垂直成分を相殺する」ものとは異なるので、甲第3号証から本発明の解決手段を創作するための手掛かりを読み取ることはできない。
さらに、甲第3号証には、偏光手段および液晶層の層厚を適切に選択すれば、遅延プレートによって液晶層の複屈折を補償して斜めから見た場合のコントラストを改善できることについてはまったく開示も示唆もされていないことを考えると、甲第3号証には本件発明を創出するために有意な情報はない。

3.無効理由に対する反論
3-1. 無効理由1(新規性の欠如)に対する反論
審判請求人は、前記甲第1号証または甲第2号証に開示された発明は、本件発明と実質的に同一であるから本件特許発明は新規性を有しないものとして特許法第29条第1項に該当するから無効とされるべきであると主張している。
しかし、各甲号証に記載された発明と本件特許発明とは目的、構成および効果のいずれをとっても顕著に異なっていることは既に述べたとおりであるから、審判請求人の前記主張は妥当ではない。

3-2. 無効理由2(進歩性の欠如)に対する反論
審判請求人は、甲第1号証?甲第3号証のうちの何れか二つの組み合わせに基づけば当業者は本件発明に容易に想到することができたはずなので、本件発明は進歩性を有しないものとして特許法第29条第2項に該当するから無効とされるべきであると主張している。
しかし、甲号証の何れも本件発明と目的、構成および効果が異なるのみならず、いずれも、リニア偏光子と遅延プレートを含む偏光手段および液晶層の層厚を適切に選択すれば、遅延プレートによって液晶層の複屈折を補償して斜めから見た場合のコントラストを改善することができることについては開示も示唆もしておらず、あるいは当該発想をむしろ阻害する認識を示しているため、これらに基づいて本件発明に容易に想到できるとは考えられない。

3-3. 無効理由3(記載不備)に対する反論
1)無効審判請求人の主張
無効審判請求人は、明細書の記載からは、当業者は、「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように」、「前記偏光手段と層厚と」を選択することができないと主張し、したがって明確性要件(昭和62年改正前特許法第36条第4項)に違反するから無効にされるべきであると主張している。

2)液晶層厚の決定方法
しかし、当業者にとっては、本件特許の明細書の記載に基づいて偏光手段と層厚とを選択することは容易なので、そのことについて以下に説明する。
本件特許の明細書には、遅延プレートに斜めに入射した直線偏光が、遅延プレートを通過することによって、長軸が座標軸y’に対して角度uだけ傾斜した楕円偏光となることを開示している。またさらに、当該楕円偏光が液晶層に入射すると、液晶層内を伝播するに従って、楕円の長軸が次第に回転して一定の厚さの位置では長軸が座標軸Y’と平行になること、液晶層の厚さは例えばこの2倍の厚さであれば良いことを詳細に記述してる。(明細書4頁、右欄、5?25行、図4?7)さらに、明細書には、当該厚さは当業者によって、実験またはデータシミュレーションによって決定することができると記載されている。(明細書4頁、右欄、26?28行)

実験的な方法
そこで、まず液晶層の厚さを実験的に決定する方法について記載する。
まず、遅延プレートに斜め方向から直線偏光を入射させて、遅延プレートを通過した光の楕円偏光の性状を測定する。楕円偏光は、長軸と座標軸Y’が成す角度uおよび長軸と短軸の大きさによって特定されるが、ここでは角度uのみを測定することで十分である。角度uは、遅延プレートを通過した光を更に測定用のリニア偏光子を通過させ、測定用のリニア偏光子を回転させながら透過光の強度を測定することによって把握できる。測定用のリニア偏光子を透過する光の強度が最大になる方向が角度uの方向である。
次に、遅延プレートと測定用のリニア偏光子の間に液晶セルを置き、再度測定用のリニア偏光子を回転させながら透過光の強度が最大になる方向を測定する。このときの透過光の強度が最大になる角度がv、液晶層の層厚がdであるとすると、最適な液晶層厚doptは、液晶層から出射する光の長軸が-uになる厚さであるから、比例関係を用いて以下の式によって求められる。
dopt=2d・u/(u-v)
つまり、遅延プレートと、任意の層厚を有する液晶層について斜め入射光の偏光方向を測定すれば、最適な液晶層厚は簡単に求めることができる。

データシミュレーションによる方法
次に、データシミュレーションによる液晶層の層厚の決定について説明する。
光学異方性を有する媒体内を通過した光の偏光特性を計算する手法はR.C.JonesによるJournal of Optical Society,A.31.488,1941年の論文に発表されたいわゆるジョーンズマトリックス法およびD.W.Berreman,“Optics in stratified and anisotropic media:4×4-matrix formulation”,Journal of Optical Society of America,502-510,1972年に発表された4×4ベールマンマトリックス法等、本件特許が出願された時点においては種々の方法が知られており、当該方法をプログラムしたソフトウエアが多数用いられていた。したがって、遅延プレートに斜め方向から入射した光の性状を計算すること、および当該光が斜め方向から入射して液晶層を通過した際の出射光の性状を計算することは、何れも容易に行うことができる。
これらの値が算出されれば、実験によってこれらの値を測定した場合と同じ方法によって最適な液晶層厚を算出することは容易である。
また、この計算はコンピュータプログラムを用いなくても、手計算でも可能な程度のものであることを付記する。

3)無効理由3(記載不備)に対する反論のまとめ
上述のように、本件特許の明細書の記載に基づいて、簡単な測定または計算を行えば液晶層の厚さを容易に決定できるので、当業者は「前記偏光手段と層厚」とを選択することができないので明確性要件(昭和62年改正前特許法第36条第4項)に違反するとの審判請求人の主張は根拠がない。

第5.当審の判断
1.無効理由1(新規性の欠如)について
1-1.甲各号証に記載された技術的事項
本件の出願日の前に頒布された刊行物である、甲第1号証?甲第3号証に記載された技術的事項について記載する。

なお、甲第2号証については、請求人の提出した翻訳文を基礎に摘記箇所を示したが、一部被請求人が誤訳訂正する(被請求人の誤訳訂正箇所に下線を付した)とともに当審でも誤訳訂正している。

甲第1号証(以下、「刊行物1」という。)
刊行物1には、
(1a)「本発明は、特許請求の範囲第1項の上意概念記載の液晶表示装置に関する。
マルテーゼおよびオツタビ(P.Maltese und C.M.Ottavi)(Alta Frequenza,第47巻,第9号,1978年)によれば、誘電率の負の異方性および境界からのホメオトロピック配向性を有し、液晶セルの前後に右旋-ないしは左旋偏光性の偏光子を有するネマチツク形の電界効果液晶表示装置が公知である。
前記発明者によるフランス国特許明細書第2201005号からは、負の誘電異方性およびホメオトロピック配向性の液晶を有する液晶表示装置が公知である。この液晶が、少なくともその1方が透明である2枚のキヤリヤプレート間にある。液晶層の厚さは、できるだけその最適な比厚の近くに選択される。」(2頁左上欄6行?同頁右上欄1行)、

(1b)「本発明の課題は、大きい視角範囲、大きいマルチプレックス度数で全てのパララツクスを回避しかつ、透過駆動と比べスイツチング時間が著るしく低減するように前記種類の液晶装置を改善することである。」(2頁左下欄5?9行)、

(1c)「これらセル板は、相対向する面に、二酸化錫より成る透明な前側の電極層3および必然的に不透明な後側の電極層4が被覆され、これらの層は蒸着またはスパツタリングにより施こされる。」(3頁左上欄5?9行)、

(1d)「前側のセル板1の、セルと反対の面に、普通市販の円偏光子13が配置されている。この偏光子は、4分の1波長板および、これに接着された、偏光箔の形の直線偏光子8より成る。」(3頁左上欄10?14行)、

(1e)「セル板1,2が、それらの間にネマチツク液晶5,6より成る層を包囲する。この液晶の複屈折異方度は0.04?0.15である。」(3頁右上欄4?6行)、

(1f)「前側の電極層3および/または内部リフレクタ11の酸化物層の表面は、液晶5,6をホメオトロピックに配列させるため、ラビングおよび引続くシラン処理法により処理される。」(3頁右上欄9?13行)、

(1g)「図面の左側で、液晶5が無電界状態にある。液晶5の分子軸が、垂直ないしは、傾斜角1°でほぼ垂直に、前方および後方のセル板1,2の面に直角に整列する。」(3頁左下欄1?4行)、

(1h)「光源10から出る光が、偏光子13により円偏光された後、板ガラス1および前側の透明な電極層3を通りセル中へ入射する。」(3頁左下欄12?14行)、

(1j)「電界作動状態(Feld-Ein-Zustand)では、電場により、セル壁面と平行な方向への分子軸の段階的に増大する傾斜、それも詳しくは対向するセル壁面から出発し、セルの中央部で、セル板1,2の面の直角方向に対する傾斜角の最大値(一般に70°?89°)にまでの傾斜が得られる。コントラストが最適である場合に、光軸の傾斜が円偏光を相殺する。」(3頁右下欄4?11行)、

(1k)「電界作動状態で、液晶6の光軸が光の入射方向にほぼ直角に、かつ偏光方向に約45°傾斜する。次いで複屈折により、出射する光が同じ強度の異常光束と正常光束へ分割される。正常光束と異常光束とは、内部リフレクタにまで通過することによりλ/4の光路差を有し、かつ反射しかつ再び液晶層を通過することにより直線偏光子8でλ/2の光路差を有し、これは偏光方向の旋光度約90°に匹敵する。」(4頁左上欄3?11行)、

(1m)「本発明による液晶表示装置は大きいマルチプレツクス特性により優れている。液晶5,6の最適層厚は、透過形駆動と比べEN-18で半分程度の大きさ(?5μm)であるにすぎない。この特性が、スイツチング時間を透過形駆動の場合の4分の1に低減させかつ、角度特性、すなわち表示がなお良コントラストを有する視角範囲を約±45°に改善する。」(4頁左上欄15?同頁右上欄2行)、
が記載されている。

甲第2号証(以下、「刊行物2」という。)
刊行物2には、
(2a)「この論文はネマチック液晶の電界誘導再配列を報告する。負の誘電異方性を有する薄いネマチックフィルムは、最初はホメオトロピックである。」(翻訳文1頁7?8行)、

(2b)「透過モード[図2(a)]において、電気光学装置はPockelセルまたはKerrセルのように、一対の直線偏光アナライザーの間に置かれている。有用な処理は、偏光子を交差させる(cross)ことである。装置が閾値よりも低いときは、これは光透過の消滅(バルブの締切り)となる。閾値より高いときは、装置の複屈折は増加し、光透過が高まり、バルブを開ける。
動作の反射モード[図2(b)]は光入射表面における円偏光子を必要とする。ミラーを装置の後ろに置くことができ[図2(b)]、または装置の2番目の電極は反射型とすることができる。円偏光子は1/4波長板の上の直線偏光子により構成される。入力直線偏光は1/4波長板に沿った直交の成分αをおよびβを有している。位相差板を通じたその最初の作動においてβはαに対して90°の遅延を被る。ネマチック・フイルムは閾値以下のときは、如何なる相対的シフトも導入しないし、ミラーもまたαおよびβの位相を同等に扱うものである。反射後かつ位相差板を経たその2回目の伝播(trip)の後、βは更なる90°の相対的遅延を受ける。従って、合成直線偏光α+(-β)の光は直線偏光子に戻り、そして当初の偏光α+(-β)に直交するために吸収される、即ち、バルブが閉鎖される。閾値を越えていると、フィルムがβにさらに位相遅れを生じさせる。そのため、直線偏光子に戻った光線は、直線偏光ではなく楕円偏光しており、光はバルブを通過する。」(同2頁下から5行?3頁11行)、

(2c)「薄いネマチック・フィルムは平行する電極プレートの間に挟まれている。フィルムの厚さは1/4ミル(6.3μm)かまたは1/2ミル(12.5μm)のいずれかであり、電極は透明電導酸化インジュウム(1平方シート抵抗50Ω)で皮膜された平板ガラスにより構成されている。」(同9頁6?9行)、

(2d)「白色光のコリメートされた10-mmビームを偏光子に垂直に入射させながら、偏光方向が交差する方向に固定された1対のリニア偏光子の間で、サンプルを傾斜させることによって、光バルブの視野角領域を決定した。これによってネマチックフイルムヘの垂直でない入射が与えられる。入射光線は投射平面に対して45°に偏光されている。サンプル6.3Bおよび12.5Cのデータは、9図に記載され、傾斜角度の関数としての透過光強度を示している。」(同12頁下から5?最下行)、

(2e)「図9からは[on]および[off]状態の間の光学的コントラスト比は、6.3μmサンプルの場合20°の円錐内で100/1より大きく(最大400/1)、12.5μmサンプルの場合11°の円錐内で100/1より大きい。この結果を1/8ミルのサンプルに外挿すると、3.1μmの装置については40°の視野角が予想される。」(同13頁2?5行)、

(2f)「反射光バルブは、透過型バルブと同じコントラストおよび視界範囲を有している。サンプル6.3Bの結果は象徴的である。このサンプルはアルミ化されたミラーの背部表面に接触し、かつ表面をポラロイドHNCP37円偏光子で覆ったモード[図2(b)]で操作された。He-Neレーザー光線はバルブに斜めに入射され、光検知器は鏡面反射ビームを収集するために位置している。レーザー・ビームは入射平面に対して45°に偏光されている。反射強度はバルブの[on]および[off]の状態の双方における幾つかの入射角で計測された。平常の入射角ではon状態のバルブの反射率はバルブに入射する光強度に対して32%であった。光学on/offコントラスト比は平常の入射角で145/1であった。入射角がいずれかの方向に増加すると、コントラスト比は減少し、入射角度が±9°で100/1に落ちる。反射および透過バルブにつき同様な結果が期待できる、何故ならば、反射バルブは、半波長板が挿入された2つの平行直線偏光子を有している透過バルブと同等であるからである。」(同13頁6?16行)、

(2g)「光学異方性ne-noは図5および式(7)からのネマチック混合物Cにつき決定された。図5において、我々はネマチック配列の角度θは印加電圧が29V(第5番目のミニマム)に上昇したときθ≒90°で飽和すると想定する。図5におけるθの飽和は、式(3)および(4)を使用してδ対Vをプロットすることにより確証できる。更に、通常の入射については式(10)θ=ψmにより飽和は予想されている。従って、sin2θ≒1,s=5,λ=0.633μmおよびd=12.5μmとすると、式(7)からはne-no=0.25と認められる。」(同18頁下から6?最下行)、

(2h)「図9からは、1?5μm範囲のより薄いフイルムは広い角度視界範囲を与えることが推論できる。ディスプレイ応用における視界範囲の重要さのために、より薄い装置は更なる研究に値する。」(同19頁1?3行)、
が記載されている。

また、図2(b)からは、
(2j)「光を示す矢印が円偏光子の観察者側のある方向から入射し、液晶装置を通過して液晶装置の背後にある鏡面で反射され、再び液晶装置および円偏光子を通過して観察者側に至る様子」、
が見て取れる。

刊行物2発明
上記(2a)ないし(2j)の記載事項からみて、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「光が入射する側には透明電極を、他方側には反射電極を備えた一対の平板ガラスの間に、負の誘電異方性を有し電圧無印加時にホメオトロピック配向をするネマチック液晶が挟持された液晶セルを有し、
入射側の平板ガラスの上には1/4波長板および直線偏光子がその順に積層され、両者で円偏光子を構成しており、上記液晶セルと円偏光子とを併せて反射光バルブを構成している。
上記反射光バルブは、液晶の光学異方性がne-no=0.25、同層厚が6.3μmで、光の入射角度が±9°のときに、100/1のコントラスト比を有している。また、ホメオトロピック配向をする透過型バルブと同じコントラスト比および視界範囲を有していることからみて、層厚が半分(3.1μm)になると同じコントラスト比(100/1)の視野角(入射角度)は±20°に、さらに層厚が1?5μmの範囲で、より広い視野角が得られる。」

甲第3号証(以下、「刊行物3」という。)
刊行物3には、
(3a)「しかし液晶は一般に複屈折性であるから、ディスプレイの光軸から離れた(off-axis)ところの性能はディスプレイが360°回転すると、どこでも一様というわけではない。例えばディスプレイの光軸に対して45°の角度でディスプレイ装置が観覧されていると仮定する。さて装置が360°回転されるとき、ディスプレイ上の前部偏光板の光軸に平行を光軸外方向および垂直な光軸外方向では良好な観覧が行われるが、これらの位置の中間、特に偏光板の光軸に垂直または平行を観覧角度の場所から45°ディスプレイが回転した時に像は多かれ少かれぼんやりとなり、観覧が非常に困難となる。
この効果は前述の透明板の表面に直角に記向している液晶物質の複屈折により生ずることが決定された。この効果は合理的な厚さをもつディスプレイにおいては非常に邪魔なことである。この効果は薄いディスプレイを造ることによつて減少できるが、このような薄いディスプレイは異なる波長での屈折率が異なるために光の散乱を生ずる傾向があり、ディスプレイが付活されないときに色彩を乱す原因となる。
この発明はこのタイプの液晶ディスプレイの光軸外の性能(off-axis/performance)を、遅い光軸が互に直角に交さする少なくとも2枚の遅延板装置であって、各遅延板装置の正味の減速度が液晶セルの正味の減速度に等しいか或はそれより小さい遅延板装置を備えることによって改善できることを見出した点にある。このようにして、液晶セルの複屈折の垂直成分は装置が動作(オン)の時は相殺(compensated)され、光軸外の観覧性能は改善される。」(2頁右上欄下から2行?同頁右下欄11行)、

(3b)「ガスケット14によつて分離された一対の透明板10および12を備え、該ガスケット14は前記透明板を約0.013mm(0.0005インチ)の空間を隔てて隔離させる。透明板10と12との間にガスケット14によつて囲まれた空間には液晶物質の層がある。この発明の説明のためには、液晶物質はファーガソンに許与された米国特許第3,918,796号に教示されているような正の誘電異方性をもつネマテック型のものであると仮定する。」(3頁左上欄13行?同頁右上欄2行)、

(3c)「さて、5ボルト程度またはそれ以上の電位が板10および12上の導電性物質フィルム間にかけられていると、液晶ユニットはもはや板10上の付勢されたストリップの区域で偏光面を90°回転しない。従つてこれらの環境下では第2偏光板48は電位がかけられている区域では光をさえぎり、電位源に接続した付勢されたストリップは白色の地に暗色に見える像を生する。付勢されるストリップに応じて1?0の任意の数を見えるようにすることができる。
いま記述した、この発明の実施例におけるように交さした偏光板を備える代りに、平行な偏光板を備えることも可能で、その場合には液晶層を通して電位がかけられないときに光がさえぎられる。電位がかけられると、白色の数字が黒い地の上に見ることができる。
上に説明したように、第1図に示すようなデイスプレイに使用される液晶は複屈折性のものである。この作用は観覧する四分円に応じたパターンを生ずることである。これは例えば第2図に説明される。」(4頁右上欄下から4行?同頁左下欄下から4行)、

(3d)「この発明によれば、上述の状態はディスプレイがオンの時に複屈折の垂直成分を相殺(compensated)することによつて軽減される。このことは前部透明板10と第1偏光板46との間に挿入される2枚の遅延板64および66(第1図参照)の使用によって達成される。遅延板64および66は互に直交する遅い光軸をもち、一方の軸は矢印68により示され、これは偏光板46の偏光方向に平行で、他方の遅延板64は遅い光軸70をもち、この軸は第2偏光板48の偏光方向に平行である。矢印68と70とはそれぞれの透明な板10および12上の摩擦方向に平行である。遅延板64と66との各々の正味の遅延は液晶セルの正味の遅延に等しいか或はより小さい。このことは第2図に示した視角を20°未満から少くとも45°に増大させる効果をもつ。この正味の効果の結果はるかに広い角度に亘って観覧できる表示が得られることである。各遅延板は一方の偏光板に平行で、他方に垂直であるから、垂直の入射光に対しては遅延板の効果はなく、視角については実質上増大した性能の表示となす。」(4頁右下欄14行?5頁左上欄15行)、
が記載されている。

1-2.本件発明と刊行物2発明との対比
本件発明と刊行物2発明とを対比する。
(ア)刊行物2発明の「光が入射する側には透明電極を、他方側には反射電極を備えた一対の平板ガラス」、「負の誘電異方性を有し電圧無印加時にホメオトロピック配向をするネマチック液晶」は、本件発明の「電極プレート」、「電圧が印加されない時にホメオトロピック構造を有する液晶層」に各々相当する。

(イ)上記(ア)の相当関係からみて、刊行物2発明の「光が入射する側には透明電極を、他方側には反射電極を備えた一対の平板ガラスの間に、負の誘電異方性を有し電圧無印加時にホメオトロピック配向をするネマチック液晶が挟持された液晶セルを有し、」が、本件発明の「電極プレートに電圧が印加されない時にホメオトロピック構造を有する液晶層とこの液晶層の両面に配設された電極プレートとを有する組立体からなり、その電極プレートの少なくとも一つは透明であり、前記組立体の両面の少なくとも一方が光線の入射面であり、」に相当することは明らかである。

(ウ)刊行物2発明の「直線偏光子」、「1/4波長板」は、本件発明の「リニア偏光子」、「遅延プレート」に各々相当する。

(エ)上記(ウ)の相当関係からみて、刊行物2発明の「入射側の平板ガラスの上には1/4波長板および直線偏光子がその順に積層され、両者で円偏光子を構成しており、」が、本件発明の「前記組立体の入射面となる側にはリニア偏光子と遅延プレートを含む、前記光線を偏光させる偏光手段が設けられ、」に相当することは明らかである。

(オ)また、刊行物2発明の「反射光バルブ」が、電極プレートの電極間に加えられた電界により制御される「電界制御型液晶セル」であることは自明である。

以上の(ア)ないし(オ)の対比および検討結果を踏まえると、本件発明と刊行物2発明とは、
「電極プレートに電圧が印加されない時にホメオトロピック構造を有する液晶層とこの液晶層の両面に配設された電極プレートとを有する組立体からなり、その電極プレートの少なくとも一つは透明であり、前記組立体の両面の少なくとも一方が光線の入射面であり、前記組立体の入射面となる側にはリニア偏光子と遅延プレートを含む、前記光線を偏光させる偏光手段が設けられた電界制御型液晶セル。」
である点で一致しており、以下の点で一応相違している。

相違点:
本件発明は、「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と(液晶層の)層厚とが選択されている」のに対して、刊行物2発明は、斜め方向±9°から観察を行う場合に100/1以上のコントラスト比が得られ、さらに液晶層厚を1?5μmに選択するとより広い視野角が得られるものとみられるものの、液晶層の複屈折を補償するように偏光手段と(液晶層の)層厚とが選択されているかどうかは明らかでない点。

1-3.相違点についての判断
上記相違点に係る本件発明の技術的事項、すなわち「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と(液晶層の)層厚とが選択されている」を、刊行物2発明が具備しているか否かを判断するためには、両者の偏向手段と液晶層との光学異方性に伴うリタデーションが同じであるか否かを検討する必要がある。
何故ならば、液晶装置における偏光の振る舞いを決めるのはリタデーションであり、当該リタデーションが同じであれば両者を通過する偏光は同様な変調を受けることになり、その結果一方の装置で「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と(液晶層の)層厚とが選択されている」というのであれば、他方の装置でも同様に選択されているといえるからである。

そこで、刊行物2発明の反射光バルブに対応する本件発明の図8に示された実施例(以下、「本件実施例」という。)について、その偏向手段と液晶層との光学異方性に伴うリタデーションについて以下に検討する。

(1)本件実施例について
本件訂正明細書には、本件実施例について以下のような記載がある。
(a)「更に他の実施態様として、少なくとも一方の電極プレートが液晶層を介して偏光手段とは反対側に位置されて反射面を備え、前記偏光手段はホメオトロピック方向に伝搬する入射平面波を円偏光させることが可能で、前記観察面はホメオトロピック方向に平行で、かつ、前記偏光手段は前記観察面内で斜めに入射する平面波に楕円偏光を与えて該楕円偏光の長軸が観察面と一定の角度を形成させ、かつ、液晶層は前記斜めに入射する平面波がその液晶層の厚さを透過し終ったときに前記楕円偏光の長軸と前記観察面との為す角度を相殺する厚さに選定されていることを特徴とする。」(便宜的に本件公告公報である特公平7-66121号公報の当該箇所を示す。以下同じ。3頁右欄3?13行)

(b)「図8に示された液晶セルは、また、ガラス板26、27に平行な板状の直線偏光子28を有し、入射光を受光するガラス板26の近傍で、遅延プレート29と共に、その直線偏光子28は両ガラス板と液晶層とからなる組立体の外側に配置されている。その遅延プレート29は直線偏光子28とガラス板26との間に配置され、この遅延プレート29は直線偏光子28とガラス板26とに平行である。・・・遅延プレート29は直線Δに沿って直線偏光子28に当たる平面波に関して円偏光子を形成するように選択される。
液晶層25の厚さは既に述べたように固有の厚さe0に等しく作られる。・・・このように、液晶層25の複屈折性が補償される。四分の一波長板が好ましくは遅延プレート29の製造に用いられる。直線偏光子28に当たる平面波で、金属電極27aで反射され、直線偏光子28から出て来る平面波の場合には、液晶層の複屈折性の補償、すなわち、当該直線偏光子28から離間する平面波の消光、は厳密に使用される遅延プレートの光学的遅れの4倍に等しい所定波長によって与えられる。」(5頁左欄6?39行)

上記(a),(b)によれば、本件実施例の遅延プレートは、1/4波長板であって、斜め入射する直線偏光が遅延プレートを出射するときには楕円偏光となっていることが理解できるが、上記直線偏光を楕円偏光に変調せしめる遅延プレートのリタデーション(以下、これを「遅延プレートのリタデーション」という。)については開示がない。また、液晶層の層厚および光学異方性については、層厚が固有の厚さe0と記載されているのみであるが、透過型液晶セルに関する本件訂正明細書の以下の(c)の記載から、本件実施例の液晶層のリタデーション等を推定することが可能である。

(c)「本発明では、液晶層18の厚さは固有な厚さe0の2倍の採用されている。それは当業者によって決定される(実験的にまたはデータジュミュレーションによって)。
このように、第2偏光子から離れるに従って平面波の全吸収が、角度iがゼロであろうとなかろうと存在する。従って、コントラストが斜めに入射に対して維持される。
遅延プレートを製造するためには一軸媒体よりも二軸媒体の方が好ましい。液晶層の高い光学的厚さを補償するに対して適正化される。進み軸R′1、R′2は進み軸R1R2よりも進むように選択される。
開示はするがこれに限定されるものでないが、遅延プレート23、24は200マイクロメートルの厚さのセルローズ二酢酸帯状片から形成され、それは、入射角ゼロの条件のもとで約150ナノメーターの光路差遅れを得るようにして抽出される。液晶はシッフ基族から中から選択され、液晶層は約5ミクロンの厚さに製造される。その光学的異方性は0.2に等しい(重屈折率は0.2)。また、フェニルシクロヘキサン群から液晶を選択することもでき、10ミクロンの厚さの液晶層を製造し、光学的異方性を0.1とすることもできる。」(4頁右欄26?45行)

すなわち、上記下線を付した箇所の記載からみて、液晶層厚e0は、e0の2倍が5μm(または10μm)であるから、2.5μm(または5μm)であり、また、光学的異方性は0.2(または0.1)に等しいのであるから、リタデーションは、
2.5μm(または5μm)×0.2(または0.1)=0.5
となる。

(2)刊行物2発明と本件実施例との対比および判断
最初に刊行物2発明の液晶層のリタデーションが、どの程度であるか求めておくと、光学異方性が0.25、液晶層厚が1?5μmであるから、リタデーションは、
1?5μm×0.25=0.25?1.25
となる。そこで両者の偏向手段と液晶層との光学異方性に伴うリタデーション等を対比すると以下のようになる。

本件実施例 刊行物2発明
遅延プレート 1/4波長板 1/4波長板
液晶層光学異方性Δn 0.2(または0.1) 0.25
液晶層厚d(μm) 2.5(または5) 1?5
リタデーションR=Δn・d 0.5 0.25?1.25

なお、刊行物2発明および本件実施例の液晶層厚、液晶層光学異方性Δnについては、口頭審理(平成17年11月11日)において両当事者が陳述したとおりである。

遅延プレートについて
そこで、上記対比の結果を踏まえて検討を加えると、遅延プレートについては、両者とも1/4波長板であって、差異はない。

液晶層のリタデーションRについて
本件実施例の液晶層のリタデーションは上記のとおり0.5である。また、刊行物2発明の同リタデーションは、液晶層厚を1?5μmとすると0.25?1.25の範囲であり、これは本件実施例の0.5を含む範囲である。
そして、刊行物2には上記(2e)および(2f)に、液晶層厚を種々変更して、それによる視野角改善の効果を探索した点が記載されており、また、刊行物2発明の液晶層厚を1?5μmとすることの技術的な意義は、上記(2h)の記載から明らかなように視野角の改善を図ることにあるのであるから、刊行物2発明において、より良好なコントラスト比を求めて、液晶層厚を1?5μmの範囲で調整することは、刊行物2発明の射程の範囲というべきであり、したがって、液晶層のリタデーションを0.5とすることは引用例2発明に記載されている事項といえる。

(3)相違点についてのまとめ
以上のとおり、引用例2発明には液晶層のリタデーションを0.5とすることが記載されており、また両者の遅延プレートに相違はないから、結局、偏向手段と液晶層との光学異方性に伴うリタデーションについては、両者の間に差異があるとはいえない。
そうすると、引用例2発明と同じリタデーションを有する本件実施例が「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と(液晶層の)層厚とが選択されている」構成を有するのであるから、引用例2発明も同様の構成を有することは明らかであり、両者は、実質的に同一であるといえる。

1-4.甲第2号証(刊行物2発明)に関する被請求人の主張についての検討
被請求人は、答弁書(平成17年8月30日付)および上申書(平成17年11月25日付)において、本件発明が甲第2号証(刊行物2発明)とは異なる旨縷々主張しているので、これらについて一応検討しておく。

(1)「本件特許発明のように(リニア偏光子と遅延プレートを含む)偏光手段を有する液晶表示装置の場合には、液晶層の厚さが特定の値のときにコントラストが向上することは、甲第2号証には開示も示唆もされていない現象です。」(答弁書23頁)

被請求人の上記主張について検討すると、刊行物2発明は、本件発明と同様にリニア偏光子と遅延プレートとを含むホメオトロピック配向した黒表示の反射型液晶表示装置(反射光バルブ)であって、摘記事項(2d)?(2h)および図9の記載から明らかなように、液晶層の層厚を変更することにより視野角の拡大を試みるものであり、それにより、層厚が1?5μmの範囲でより広い視野角が得られることを認識した発明である。
そして、視野角を拡大するということは、斜めから見た場合のコントラストを改善することに他ならず、その意味で、刊行物2発明もコントラストが向上するような液晶層の厚さを1?5μmの範囲で示唆しているのであるから、被請求人の上記主張は失当であるという他はない。

(2)「甲第2号証は、ホメオトロピック液晶に関して種々の研究を行った論文であるものの、視野角を拡大することに関しては、単に液晶層が薄いほど良いとの認識を示しているに過ぎません。液晶層は単に薄いほど良いとの認識は、偏光手段と液晶層の層厚を適切に選択すること(液晶層の層厚は薄いほど良いというわけではありません)によって斜めから見た場合のコントラストを改善するという本件特許発明の技術思想をむしろ阻害するものです。」(答弁書23?24頁、「3)甲第2号証に関するまとめ」)

被請求人は、遅延プレートを持たないホメオトロピック配向した黒表示の透過型液晶表示装置を刊行物2に記載された同透過型液晶表示装置(図2(a)の装置、視野角の検討については摘記事項(2d)、(2e)、(2h)および図9を参照)にみたて、これについてコンピュータシミュレーションを行い、図5(答弁書22頁)の結果を得ている。そして図5によれば、同液晶表示装置は、液晶層の層厚が薄いほど光の透過率が減少しているのが見て取れる。これらの結果から、被請求人は、「甲第2号証は、・・・視野角を拡大することに関しては、単に液晶層が薄いほど良いとの認識を示しているに過ぎ」ないと主張している。
しかしながら、刊行物2の上記摘記事項(2d)、(2e)、(2h)および図9の記載からは、さらに層厚が1?5μmの範囲で、より広い視野角が得られると認められるものの、刊行物2の上記記載に「液晶層の層厚は薄いほど良い」との明示の記載があるわけではない。しかも、刊行物2の図4?6にも記載されているように、液晶装置の透過率は液晶層のリタデーション変化(印加電圧の変化、液晶層の層厚の変化、観察角度の変化などにより変化する)により周期的に変動することは、いわば当該分野の技術常識であるから、かかる観点からも刊行物2の上記記載事項からみて「液晶層の層厚は薄いほど良い」と単純に結論づけることはできないというべきである。
さらに刊行物2発明は、上記シミュレーションの対象となった透過型液晶表示装置とは異なり、遅延プレートを有するホメオトロピック配向した黒表示の反射型液晶表示装置(反射光バルブ)であり、刊行物2の上記摘記事項(2d)?(2h)および図9の記載より「さらに層厚が1?5μmの範囲で、より広い視野角が得られる。」と認定できる発明なのであるから、上記図5の透過型液晶表示装置に関するシミュレーション結果、およびそれから導出された被請求人の上記主張に何ら拘束される理由はないのである。
また、視野角を拡大するということは、斜めから見た場合のコントラストを改善することに他ならないのであるから、刊行物2発明において液晶層厚を種々変えて、その場合の視野角の変化を観察するという行為は、結果的に液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように偏光手段と液晶層の層厚とを調整していることになり、それにより、視野角が拡大したのであれば、当該視野角において偏光手段と液晶層の層厚が織りなすリタデーションは補償されているといえるのである。
したがって、「甲第2号証は、・・・偏光手段と液晶層の層厚を適切に選択すること・・・によって斜めから見た場合のコントラストを改善するという本件特許発明の技術思想をむしろ阻害する」との被請求人の主張には合理的理由がないというべきである。

(3)「甲第2号証に記載された反射型液晶表示装置について偏光手段と液晶層の層厚との関係が鮮明なコントラストを得ることができるものであるか否かをコンピュータシミュレーションによって検討したところ、コントラストが最適となる液晶層厚は0.22μmであり、1?5μmの範囲にも入っていません。したがって、甲第2号証の記載は本件発明の技術思想とはかけ離れたものであり、本件発明を創作するための手掛かりを与えるものであるとは到底考えられません。」(上申書23?24頁、「4.5.3甲第2号証の開示と本件特許発明の関係」)

上記によれば、コンピュータシミュレーションによって検討した結果、コントラストが最適となる液晶層厚は0.22μmであったとのことであるが、上申書の記載内容を検討すると、液晶層厚が1?5μmの範囲については、同層厚が1μmと5μmの場合についてのみ検討したにすぎず、その間の範囲については検討をしないで上記の結論を導いている。
しかしながら、液晶層厚1?5μmの範囲外についてまで探索して最適層厚が0.22μmであったと結論づけているにもかかわらず、1μmと5μmとを除く1?5μmの範囲については検討していないこと、一方で甲第1号証について同様な検討を加えた図8(上申書16頁)では、液晶層厚を0.01?5μmの範囲で変化させてその間の反射率(黒表示における最適コントラスト)の変化を計算していることを併せ考えると、甲第2号証についての上記の検討手法はきわめて不自然であり、係る検討手法に基づき導かれた検討結果は信憑性に欠けるといわざるを得ない。
したがって、被請求人の上記「甲第2号証の記載は本件発明の技術思想とはかけ離れたものであり、本件発明を創作するための手掛かりを与えるものであるとは到底考えられません。」との主張は採用できない。

2.無効理由2(進歩性の欠如)について
請求人は、「本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明のうち、何れか二つの発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである」(無効理由2)と主張するが、上記1.ですでに検討したように、本件発明は刊行物2(甲第2号証)に記載された発明と実質的に同一であり、特許を受けることができないものであるから、無効理由2について検討するまでもなく特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にすべきものである。

3.無効理由3(記載不備)について
請求人が主張する無効理由3の趣旨は、
(1)「本件特許発明の構成要件Eにおける『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている』との記載によれば、偏光手段と液晶層の層厚という複数の技術的事項を結合した構成により『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができる』点に本件特許発明の特徴があるものと解されるところ、『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている』との記載のみからでは、偏光手段と液晶層の層厚とが如何なる関係にあるのかを具体的に把握することは困難であり、技術的要素の相互関係が全て明確に記載されていると認めることはできない。」(審判請求書46頁下から7行?47頁5行)

(2)「本件特許出願人の(平成5年10月12日付意見書の)主張を前提とすれば、『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得る』ためには『液晶層の厚さを固有の厚さに選択する』ことが必要とされるのであるところ、請求項1には『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている』とのみ記載されており、当該液晶層の厚さが『固有の厚さに選択される』との限定はないのであり、本件特許出願人のいうところの液晶層の『固有の厚さ』とは具体的に如何なるものであるか、つまり、どのような『固有の厚さ』に液晶層の厚みを選択することで『所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができる』こととなるのかを、当業者が出願時の技術常識に基づいて理解できるものと認めることはできない。」(審判請求書48頁9行?20行)
というものである。

そこで、上記無効理由2が昭和62年改正前特許法第36条第4項の規定に違反するものであるのか以下に検討する。

上記(1)については、すなわち、「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている」なる記載のみからは、偏光手段と液晶層の層厚とが如何なる関係にあるのかを具体的に把握することは困難であり、技術的要素の相互関係が全て明確に記載されていないとの主張である。
しかしながら、偏光手段と液晶層の層厚との関係を「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている」なる記載のみから読み解く必要はないのである。請求項1には、前提となる装置の構成がかかる特徴となる構成の前段に記載されており、それによればホメオトロピック配向において、上記性能が得られるよう「前記偏光手段と層厚とが選択されている」なる関係を具体的に把握することができるから、構成要素の相互関係は明確であり、請求人の主張には理由がない。

また上記(2)については、液晶層の厚さが「固有の厚さに選択される」との限定はないとの主張であるが、本件発明によれば「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができるように、前記偏光手段と層厚とが選択されている」のであるから、液晶層の層厚は、鮮明なコントラストを得ることができるように、言い換えれば、鮮明なコントラストを得ることができる所定の層厚に選択されると解することができるから、その意味で、液晶層の厚さは「固有の厚さに選択される」のであり、どのような「固有の厚さ」に液晶層の厚みを選択することで「所定の観察面内で斜め方向から観察を行う場合に前記液晶層の複屈折を補償して鮮明なコントラストを得ることができる」こととなるのか、当業者が出願時の技術常識に基づいて理解できない、という請求人の主張には理由がない。
なお、「偏向手段・・・が選択されている」については、偏向手段が変わるとそれに応じて液晶層の「固有の厚さ」も変化することが予想され、それが「固有の厚さ」といえるのかどうか疑問無しともしないが、そもそも本件明細書には本件発明の液晶装置を斜め方向から見た時のコントラストに及ぼす偏向手段のリタデーション(遅延量)については何ら開示されていないのであるから、その量についてまで考慮することには無理があり、本件発明の射程の範囲外と解するのが相当である。

第6.むすび
以上のとおり、本件発明は、本件の出願日の前に頒布された刊行物2に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-07 
結審通知日 2006-02-09 
審決日 2006-02-22 
出願番号 特願昭60-104104
審決分類 P 1 112・ 532- Z (G02F)
P 1 112・ 113- Z (G02F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 平井 良憲
吉野 三寛
登録日 1996-03-19 
登録番号 特許第2029146号(P2029146)
発明の名称 電界制御型液晶セル  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  
代理人 高橋 淳  
代理人 市橋 智峰  
代理人 大場 正成  
代理人 大野 聖二  
代理人 片山 健一  
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