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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C25D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C25D |
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管理番号 | 1163432 |
審判番号 | 不服2005-8234 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-05-06 |
確定日 | 2007-08-30 |
事件の表示 | 特願2000-396188「電解処理方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年8月23日出願公開、特開2002-235192〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯・本願発明 本願は、平成12年12月26日(優先権主張 平成12年4月20日、平成12年12月4日)の出願であって、平成17年4月1日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年5月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年6月1日付で手続補正がなされたものである。 II.平成17年6月1日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年6月1日付の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりとなった。 「【請求項1】陽極と陰極の一方の電極との接点を持ち表面を上向きにした被処理基板と該被処理基板の上方に対峙させて配置した他方の電極との間に満たした電解液中の少なくとも一部に、多孔質物質からなり、該多孔質物質の内部に複雑に入り込ませた電解液によって電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体を設けて被処理基板表面の電解処理を行うことを特徴とする電解処理方法。」(以下、「本願補正発明1」という。) 上記補正は、補正前の請求項1において、「陽極と陰極の一方の電極との接点を持つ被処理基板と該被処理基板に対峙させた他方の電極」を、「陽極と陰極の一方の電極との接点を持ち表面を上向きにした被処理基板と該被処理基板の上方に対峙させて配置した他方の電極」と補正するものであって、被処理基板は表面を上向きにしたものであること、及び、他方の電極は被処理基板の上方に対峙させて配置したものであることを限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 次に、本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である特開2000-87299号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。 (1)引用例1:特開2000-87299号公報 (1a)「【請求項1】メッキ液を収容したメッキ槽内にメッキを施す被メッキ基板と陽極電極を対向して配置した構成の基板メッキ装置において、前記被メッキ基板と陽極電極との間にイオン交換膜又は多孔質中性隔膜を配置し、前記メッキ槽を該イオン交換膜又は多孔質中性隔膜で被メッキ基板側領域と陽極電極側領域とに区分したことを特徴とする基板メッキ装置。」 (1b)「【0010】上記のように被メッキ基板と陽極電極との間にイオン交換膜又は多孔質中性隔膜を配置することにより、該イオン交換膜又は多孔質中性隔膜はメッキ液の電気抵抗の増加役割を果たし、被メッキ基板と陽極電極の間の距離を大きくしたのと同じ効果が得られ、被メッキ基板と陽極電極の間隔を小さくできる。」 (1c)「【0022】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の基板メッキ装置の概略構成を示す図である。同図において、図5と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示す。本基板メッキ装置は図示するように陰極(被メッキ基板2)と陽極電極3との間に陽イオン交換膜8を配置している。 【0023】上記のように、被メッキ基板2の表面のメッキ膜厚の均一性を向上させるには、被メッキ基板2と陽極電極3との間の一次電流分布が均一になるようにすれば良く、この一次電流分布を均一にするには、被メッキ基板2と陽極電極3との間の距離を大きくすればよい。しかしながら、被メッキ基板2と陽極電極3との間の距離を大きくすれば、上記のように大きいメッキ槽1を必要とするので、ここでは被メッキ基板2と陽極電極3との間に陽イオン交換膜8を配置することにより、後に説明するように、被メッキ基板2と陽極電極3の間の距離を大きくしたのと等価になるようにした。なお、陽イオン交換膜8はメッキ槽1の内部を被メッキ基板2の配置領域と陽極電極3の配置領域の2領域に区分している。」 (1d)「【0028】なお、上記例では被メッキ基板2と陽極電極3との間に陽イオン交換膜8を配置したが、該陽イオン交換膜8に換えて微粒子除去作用を有する多孔質中性隔膜でも同様な作用効果が得られる。 【0029】・・・・・また、多孔質中性隔膜としては、合成樹脂からなる極めて小さく、均一な孔径を有する多孔質膜を用いる。例えば、ユアサアイオニクス株式会社製の骨材にポリエステル不織布を用い、膜材質がポリフッ化ビニリデン+酸化チタンの商品名「YUMICRON」を用いる。」 (1e)「【0037】上記のように被メッキ基板18と陽極電極17との間に陽イオン交換膜19が配置されていることから、上述のように被メッキ基板18と陽極電極17の間のメッキ液Qの電気抵抗が増加したのと等価となり、被メッキ基板18と陽極電極17の間の距離が小さくとも、被メッキ基板18と陽極電極17の間の一次電流分布を均一にすることができ、被メッキ基板18の表面に均一の膜厚のメッキ膜を形成できる。」 (1f)図1?4には、被メッキ基板2(18)と陽極電極3(17)がそれぞれ対向して配置され、被メッキ基板2(18)と陽極電極3(17)の間に多孔質中性隔膜又はイオン交換樹脂膜8(19、31)が配置されていることが図示されている。 3.当審の判断 3-1.引用例1に記載の発明 引用例1の摘記事項(1a)によれば、メッキ液を収容したメッキ槽内にメッキを施す被メッキ基板と陽極電極を対向して配置した構成の基板メッキ装置において、前記被メッキ基板と陽極電極との間に多孔質中性隔膜を配置し、前記メッキ槽を該多孔質中性隔膜で被メッキ基板側領域と陽極電極側領域とに区分した基板メッキ装置が記載されている。 また、摘記事項(1b)によれば、多孔質中性隔膜は、被メッキ基板と陽極電極との間に配置することにより、メッキ液の電気抵抗の増加役割を果たすこと、摘記事項(1e)によれば、被メッキ基板と陽極電極の間のメッキ液の電気抵抗が増加したのと等価となることが記載されており、多孔質中性隔膜は、被メッキ基板と対峙させて配置した陽極電極との間に満たしたメッキ液中の少なくとも一部に、メッキ液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体であることが理解できる。 さらに、摘記事項(1c)、(1f)によれば、本基板メッキ装置は図1に図示するように陰極(被メッキ基板2)と陽極電極3との間に多孔質中性隔膜8を配置しており、被メッキ基板と陽極電極はそれぞれ対向して配置されるものであるから、被メッキ基板は陰極電極との接点を持つことにより、その表面に電解メッキ処理されることは明らかである。 そこで、引用例1の摘記事項(1a)?(1f)の記載を総合すれば、引用例1には、 「メッキ液を収容したメッキ槽内にメッキを施す被メッキ基板と陽極電極を対向して配置した構成であって、前記被メッキ基板と陽極電極との間に多孔質中性隔膜を配置し、前記メッキ槽を該多孔質中性隔膜で被メッキ基板側領域と陽極電極側領域とに区分した基板メッキ装置を用いて、陰極電極との接点を持つ被メッキ基板と該被メッキ基板に対峙させて配置した陽極電極との間に満たしたメッキ液中の少なくとも一部に、多孔質中性隔膜からなり、メッキ液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体を設けて被メッキ基板表面の電解メッキを行う電解メッキ方法。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。 3-2.対比・判断 本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「メッキ液」、「被メッキ基板」、「陽極電極」、「多孔質中性隔膜」、「電解メッキ」は、本願補正発明1の「電解液」、「被処理基板」、「他方の電極」、「多孔質物質」、「電解処理」に、それぞれ相当するから、両者は、 「陰極電極との接点を持つ被処理基板と該被処理基板に対峙させて配置した他方の電極との間に満たした電解液中の少なくとも一部に、多孔質物質からなり、電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体を設けて被処理基板表面の電解処理を行う電解処理方法。」で一致し、次の点で相違する。 相違点: (イ)本願補正発明1は、被処理基板が「表面を上向きにした」ものであり、他方の電極が「被処理基板の上方に」配置したものであるのに対し、引用例1発明は、被処理基板の表面を他方の電極(陽極電極)と対向して配置した構成としている点。 (ロ)本願補正発明1は、高抵抗構造体が、「多孔質物質の内部に複雑に入り込ませた電解液によって」小さい電気伝導率を有するようにしたのに対し、引用例1発明は、高抵抗構造体が小さい電気伝導率を有するものの、このような点が記載されていない点。 次に、上記相違点(イ)、(ロ)について検討する。 相違点(イ)について 被処理基板の表面を上向きにし、他方の電極を該被処理基板の上方に対峙させて配置した電解処理方法は、例えば、次のとおり周知である。 周知例1:特開平1-294888号公報 特許請求の範囲の請求項1には、「・・・電解メッキ装置において、前記基板を前記メッキ液中で基板表面を上向きにして設置し、・・・たことを特徴とする電解メッキ装置。」と記載され、3頁右上欄16?19行には、「基板表面2aを上向きに設置したため、基板2、つまりカソードに対向するアノード5はカップ部21内において基板2より上側に位置している。」と記載されている。 周知例2:特開平10-226896号公報 特許請求の範囲の請求項4には、「【請求項4】メッキ処理槽底部上にウエハ上面を上向きに載置する工程と、・・・上記ウエハ上面にメッキ層を堆積する工程と、・・・を含むことを特徴とするメッキ処理方法。」と記載され、【0010】には、「・・・図1(a)に示すように、・・・メッキ処理槽底部9上にウエハ6(全面に給電用金属層形成済)がセットされ、・・・図中、14はアノードメッシュ板・・・である。・・・」と記載されている。さらに、図1(a)には、ウエハ6の上方にアノードメッシュ板14が配置されることが図示されている。 上記周知の事項を勘案すると、引用例1発明において、被処理基板の表面を上向きにし、他方の電極(陽極)を該被処理基板の上方に対峙させて配置したものとすることにより、本願発明1の相違点(イ)の特定事項を備えたものとすることは、当業者にとって格別な創意工夫を要することではない。 相違点(ロ)について 引用例1の摘記事項(1d)によれば、多孔質物質(多孔質中性隔膜)として、合成樹脂からなる極めて小さく、均一な孔径を有する多孔質膜を用いることが記載されており、引用例1発明の多孔質物質は、その内部に極めて小さく、均一な孔径を有し、電解液(メッキ液)の電気抵抗の増加役割を果たすものであるから、多孔質物質の内部に入り込んだ電解液を備えていることが理解できる。 そして、電解液が抵抗値を有することは技術常識であって、引用例1発明の高抵抗構造体、すなわち、多孔質物質からなり、電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体においては、多孔質物質の内部に入り込ませた電解液が持つ抵抗値も寄与して、高抵抗構造体が電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようになることは明らかであり、引用例1発明では、被メッキ基板と陽極電極の間のメッキ液Qの電気抵抗が増加したのと等価となり、被メッキ基板と陽極電極の間の距離が小さくとも、被メッキ基板と陽極電極の間の一次電流分布を均一にすることができ、被メッキ基板の表面に均一の膜厚のメッキ膜を形成できる(摘記事項(1e))のであるから、その電解液の備え方を、より多孔質物質の内部に複雑に入り込ませるようにすることは、当業者ならば容易に想到し得ることである。 そして、本願補正発明1の奏する効果も、引用例1の記載事項、及び上記周知の事項から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。 したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載された発明、及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、審判請求書の平成17年6月1日付手続補正書において、「つまり、本願発明は、多孔質物質の内部に電解液を複雑に入り込ませ、この複雑に入り込ませた厚さ方向に長い経路を辿る電解液自体の抵抗で高抵抗構造体の電気抵抗値が高くなるようにしている。・・・しかしながら、引用文献1の多孔質中性隔膜は、被めっき基板と陽極電極との間に配置され、内部に入り込ませためっき液の抵抗を考慮することなく、多孔質中性隔膜自体に電気抵抗を増加する役割を果たさせていると考えられる。このことは、多孔質中間隔膜の具体例として、・・・商品名「YUMICRON」が挙げられており、」(3頁下から14行?4頁2行)と主張している。 しかし、引用文献1(引用例1)の多孔質中間隔膜の具体例は、あくまでも例示に過ぎず、上記したとおりの多孔質膜を使用できるものであって、又多孔質膜という以上、孔が多数存在することが前提である。一方本願補正発明1は「多孔質物質の内部には複雑に入り込ませた電解液」としか特定されていないのであるから、引用例1発明の「多孔質中性隔膜からなり、・・・高抵抗構造体」において、多孔質物質の内部には複雑に入り込ませた電解液とすることも、上記のとおり当業者ならば容易に想到し得ることであるから、上記主張は採用することはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定によって読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 III.本願発明について 1.本願発明 平成17年6月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成17年3月14日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】陽極と陰極の一方の電極との接点を持つ被処理基板と該被処理基板に対峙させた他方の電極との間に満たした電解液中の少なくとも一部に、多孔質物質からなり、該多孔質物質の内部に複雑に入り込ませた電解液によって電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体を設けて被処理基板表面の電解処理を行うことを特徴とする電解処理方法。」 2.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。 3.当審の判断 本願発明1と、前記「II.3.3-1」に記載した引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「メッキ液」、「被メッキ基板」、「陽極電極」、「多孔質中性隔膜」、「電解メッキ」は、本願補正発明1の「電解液」、「被処理基板」、「他方の電極」、「多孔質物質」、「電解処理」に、それぞれ相当するから、両者は、 「陰極との接点を持つ被処理基板と該被処理基板に対峙させた他方の電極との間に満たした電解液中の少なくとも一部に、多孔質物質からなり、電解液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するようにした高抵抗構造体を設けて被処理基板表面の電解処理を行う電解処理方法。」で一致し、次の点で相違する。 相違点(a):本願発明1は、高抵抗構造体が、「多孔質物質の内部に複雑に入り込ませた電解液によって」小さい電気伝導率を有するようにしたのに対し、引用例1発明は、高抵抗構造体が小さい電気伝導率を有するものの、このような点が記載されていない点。 次に、相違点(a)について検討すると、相違点(a)は、前記「II.3.3-2」に記載した本願補正発明1と引用例1発明との相違点(ロ)と同一である。そうであれば、前記「II.3.3-2」に記載したと同様に、相違点(a)は当業者が容易に想到し得るものであるから、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-06-26 |
結審通知日 | 2007-07-03 |
審決日 | 2007-07-19 |
出願番号 | 特願2000-396188(P2000-396188) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C25D)
P 1 8・ 575- Z (C25D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀧口 博史 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
前田 仁志 小川 武 |
発明の名称 | 電解処理方法及びその装置 |
代理人 | 堀田 信太郎 |
代理人 | 渡邉 勇 |
代理人 | 堀田 信太郎 |
代理人 | 渡邉 勇 |