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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23F
管理番号 1163582
審判番号 不服2005-21229  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2007-08-27 
事件の表示 特願2004-370684「歯車歯面の円滑化加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月 6日出願公開、特開2006-175545〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成16年12月22日の特許出願であって、同17年6月14日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同17年8月18日に意見書と共に明細書、特許請求の範囲及び図面について手続補正書が提出されたが、同17年9月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同17年11月4日に本件審判の請求がされ、その後、同17年12月2日に特許請求の範囲について再度手続補正書が提出された。
これに対し、当審において、平成19年3月19日付けで平成17年12月2日付けの手続補正を却下するとともに、同日付けで拒絶の理由が通知されたが、その指定期間内に応答はされなかった。

第2 本件発明について
平成17年12月2日付けの補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成17年8月18日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの「歯車歯面の円滑化加工方法」であると認める。
「表面硬化歯車、およびその後の機械研削やショットピーニング処理した表面硬化歯車の摺動面へ湿式砥粒研削を適用し、形成される均一で微細滑らかな摺動面の形状を、表面粗さと潤滑を考慮した形状潤滑、表面粗さ尖り部の滑らかさを考慮した表面粗さ形状、表面凹み形状と深さを表示した表面形状の各制御パラメータにて加工区分することにより、高面圧負荷時の歯車表面強度特性対応が調整可能な歯車歯面の円滑化加工方法。」

第3 引用例
これに対して、当審での拒絶の理由に引用された本件出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-48036号公報(以下「引用例」という。)の記載内容は以下のとおりである。
(1)引用例記載の事項
引用例には以下の事項が記載されている。
ア 【特許請求の範囲】
「【請求項1】 浸炭焼入れ、または浸炭焼入れ後研削処理した歯車に、ショットピーニング処理を施し、その後にバレル処理を施したことを特徴とする超高品質歯車の製造方法。」
イ 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は超高品質歯車の製造方法に関し、特に、浸炭歯車の面圧強度等を向上させる高強度歯車の製造方法に関するものである。」
ウ 段落【0007】?【0012】
「【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。浸炭歯車は、歯車素材をホブ加工することにより歯切りを行い、焼準を施して浸炭焼入れ・焼戻し(以下、単に浸炭焼入れという)を行う。
本発明に係る製造方法は、浸炭焼入れ、または浸炭焼入れ後研削処理した歯車に対して、歯車精度を損わずに曲げ疲労強度と面圧強度をともに飛躍的に向上させるのに高度な技術的困難を伴わずに行えることに特徴がある。そのため、曲げ疲労強度の向上に関しては、適切なショットピーニング処理を施し、面圧強度の向上に関してはバレル処理を施す、といった二工程を組合せることにより、超高品質な歯車が得られる。以下、各工程について説明する。
(1)ショットピーニング処理
浸炭焼入れ、または浸炭焼入れ後研削処理した歯車の歯面と歯元へショットピーニングを行なう。ショットピーニングは、ショット(鋳鉄または鋼(硬鋼線)の小球)またはグリット(鋳鉄の破砕粒)を、鋼材表面に圧縮空気による噴射または遠心力で投射し、表面に加工硬化を生じさせて残留圧縮応力下にある状態にし、外的応力が加えられて材料表面に引張応力が作用するとき、この残留圧縮応力によって相殺して耐疲労性を大きくする処理である。ショットピーニングを行う場合、面圧強度と曲げ疲労強度をともに向上されるという観点から次の様な配慮が必要である。すなわち、面圧強度の向上という観点からは、ショットピーニング処理を施すことにより、表面粗さをそれ程粗さないことが必要である。その目安はDowsonのEHL理論から下式のD値にて評価し、(2)式の範囲が好ましい。
D=(ΣRmaxi)/hmin ・・・(1)
ここで、hmin:負荷時の油膜厚さ、ΣRmaxi:相対すべり,ころがりを伴う相対する摺動部表面の最大粗さの和である。Dが小さい程、面圧強度上有利であり、D≦1は金属接触が生じ難いことを示しているが、このためには表面粗さを一般的には精密な超仕上げにする必要がある。
D<20?30 ・・・(2)
(2)式を満たす浸炭焼入れ材のショット条件は、例えば図1に示したショットピーニング条件が目安となる。この場合の表面粗さの変化は、Hv(ビッカ-ス硬さ)700、表面粗さRmax=3?5μmにてΔRmax<0.2?2μmが得られる。一方、この条件下において、ショットピーニング処理により残留応力が増加するので(図2参照)、曲げ疲労強度は15%以上も向上している(図3参照)。
(2)バレル処理
上記ショットピーニング後、セラミック焼結材等を砥料とするバレル処理を施すことにより表面粗さの低減を図ることができる。これにより面圧強度の向上が期待される。バレル仕上げは、回転するバレル(俗にがら箱)の中に回転または静止する工作物,砥料(メデア),コンパウンドおよび工作液を入れ、工作物が砥料と衝突する間にその表面の凹凸を除去し、滑らかな仕上面をうる方法である。砥料としては砥石小片,砥粒,天然および人造の石塊,石英,砂,鉄球,皮,おがくずなど仕上の程度に応じて用いる。コンパウンド(compound)は防錆作用,研磨作用の促進,または光沢を出すために用いる水溶性薬品である。溶液としては水のほか、軽油,グリセリン,乳剤などが用いられる。」
エ 段落【0016】
「ショットピーニングを施さず、Rmax≒0.2μmに研削仕上げした浸炭焼入れ鋼ロ-ラの面圧強度はσmax=2300MPa以上である。表面粗さは後者のバレル処理したものより小さいにもかかわらず(図7(c),(d)参照)、バレル処理したロ-ラの面圧強度が高かった原因としては、ショットピーニング処理に基づく圧縮残留応力の増加、加工硬化および被動ロ-ラの接触幅両端の角の丸み効果も考えられるが、バレル処理を施した接触表面の粗さの山が適度な丸みを帯びたために、効果的ななじみが起こったことが主因と推察される。」
(2)引用例記載の発明
引用例記載の事項を技術常識を考慮しながら本件発明に照らして整理すると引用例には以下の発明が記載されていると認める。
「浸炭焼入れした表面硬化歯車、およびその後の機械研削やショットピーニング処理した表面硬化歯車の摺動面へバレル処理を施し、形成される均一で微細滑らかな摺動面を、DowsonのEHL理論に基づくD=(ΣRmaxi)/hmin(ここで、hmin:負荷時の油膜厚さ、ΣRmaxi:相対すべり,ころがりを伴う相対する摺動部表面の最大粗さの和)が20?30より小さくなるように加工することにより、歯車の面圧強度等を向上させる高強度歯車の製造方法。」

第4 対比
本件発明と引用例記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
引用例記載の発明において、バレル処理を施すことは、本件発明において、湿式砥粒研削を適用することに相当する。
また、本件発明の形状潤滑パラメータについて本件明細書の段落【0016】に「形状潤滑パラメータとしてD値であらわす。D値は歯車同志の摺動面でのそれぞれの最大表面粗さRmaxの和ΣRmaxiと潤滑油膜厚さHとの比である。D値が1に近いほど金属接触はなくなり歯車表面損傷はなくなる。」と記載されており、上記段落【0016】記載のD値は、引用例記載の発明のDと同一であることからみて、引用例記載の発明のDは、本件発明の表面粗さと潤滑を考慮した形状潤滑パラメータに相当し、引用例記載の発明において、表面硬化歯車の摺動面をDowsonのEHL理論に基づくD=(ΣRmaxi)/hmin(ここで、hmin:負荷時の油膜厚さ、ΣRmaxi:相対すべり,ころがりを伴う相対する摺動部表面の最大粗さの和)が20?30より小さくなるように加工することは、本件発明において、摺動面の形状を、表面粗さと潤滑を考慮した形状潤滑パラメータにて加工することに相当する。
また、引用例記載の発明は、歯車の面圧強度等を向上させる高強度歯車の製造方法として表現されているが、高面圧負荷時の歯車表面強度特性対応が可能な歯車歯面の円滑化加工方法としても表現できるものである。
したがって、本件発明と引用例記載の発明とは、以下の点で一致している。
「表面硬化歯車、およびその後の機械研削やショットピーニング処理した表面硬化歯車の摺動面へ湿式砥粒研削を適用し、形成される均一で微細滑らかな摺動面の形状を、表面粗さと潤滑を考慮した形状潤滑パラメータにて加工することにより、高面圧負荷時の歯車表面強度特性対応が可能な歯車歯面の円滑化加工方法。」
そして、本件発明と引用例記載の発明とは、以下の点で相違している。
本件発明では、摺動面の形状を、形状潤滑パラメータの外に、表面粗さ尖り部の滑らかさを考慮した表面粗さ形状、表面凹み形状と深さを表示した表面形状の各制御パラメータにて加工区分することにより、高面圧負荷時の歯車表面強度特性対応が調整可能となるようにしているのに対して、引用例記載の発明では、そのようにしているのかどうか明らかでない点。

第5 相違点についての検討
本件発明の表面粗さ尖り部の滑らかさを考慮した表面粗さ形状パラメータについて本件明細書の段落【0017】には「表面粗さ形状パラメータに関しては、表面粗さの尖り部形状に着目し、その尖り部の円弧近似丸み半径ρμmにて次式のごとく加工区分する。ρが大きいほど有効接触面積は増え、高面圧負荷に有利となる。」と記載されている。
しかしながら、表面粗さ尖り部の滑らかさが、高面圧負荷時の表面強度特性に影響を及ぼすことは、引用例において、上記エとして摘記したように段落【0016】に「バレル処理したロ-ラの面圧強度が高かった原因としては、・・・・、バレル処理を施した接触表面の粗さの山が適度な丸みを帯びたために、効果的ななじみが起こったことが主因と推察される。」と記載されていることからも窺うことができるほか、例えば、当審での拒絶理由で引用された特開2000-288936号公報(段落【0006】参照。)、特開2000-280120号公報(段落【0012】、【0017】等参照。)に示されているように従来周知である。
また、本件発明の表面凹み形状と深さを表示した表面形状パラメータについて本件明細書の段落【0018】には「表面形状パラメータは特にショットピーニングを施した場合に効果的に用いうる。ショットピーニング等にて表面に油溜り部が形成されていれば高面圧負荷時の歯車摺動部での潤滑油切れがなくなり、湿式砥粒研削によるランダム方向の研削目つまり研削溝との相互効果にて、途切れない潤滑油流れが生じる。」と記載されている。
しかしながら、ショットピーニング等にて形成される表面凹みが油溜り部として機能することは、先に挙げた特開2000-288936号公報(段落【0017】参照。)のほか、当審での拒絶理由で引用された特開平8-232964号公報(段落【0003】、【0013】等参照。)に示されているように従来周知である。
そうしてみると、上記周知の各事項を引用例記載の発明に適用して、摺動面を加工するに当たり、形状潤滑パラメータだけでなく、表面粗さ尖り部の滑らかさを考慮した表面粗さ形状パラメータ及び表面凹み形状と深さを表示した表面形状パラメータを採用することは、当業者が格別の創意を要することなく容易に想到するところである。
また、本件発明では、摺動面の形状を、上記各制御パラメータにて加工区分することにより、高面圧負荷時の歯車表面強度特性対応が調整可能となるようにしているが、歯車において、どの程度に加工するかは、当審での拒絶理由で引用された特許第2770487号公報(第1欄第14行-第2欄第14行参照。)に示されているように、JIS等で等級が決められているとおり、加工後の歯車に要求される性能や加工コスト等を勘案して決定すればよい事項にすぎず、本件発明のように制御パラメータを利用して摺動面の形状を加工区分して歯車表面強度特性対応を調整可能とすることは、上記適用に当たって適宜なし得る事項である。

第6 むすび
したがって、本件発明は、引用例記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-20 
結審通知日 2007-06-26 
審決日 2007-07-09 
出願番号 特願2004-370684(P2004-370684)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 嘉章中村 泰二郎  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 加藤 昌人
豊原 邦雄
発明の名称 歯車歯面の円滑化加工方法  

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