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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H04M |
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管理番号 | 1163601 |
審判番号 | 無効2005-80156 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-05-27 |
確定日 | 2006-04-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2672085号発明「電話の通話制御システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2672085号に係る発明についての出願は,昭和61年1月13日(パリ条約による優先権主張1985年1月13日,1985年11月10日,イスラエル国)にされたものであって,平成7年4月5日付け及び平成9年5月7日付けで手続補正がなされ,平成9年7月11日にその発明についての特許の設定登録がなされ,平成17年5月27日に本件無効審判の請求がなされた。 2.本件発明 本件発明は,特許明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのもの(以下,「本件発明」という。)である。なお,説明の都合上,A:?J:と分節してある。 「【請求項1】 A:特殊な交換部(A)を有する電話の通話制御システムであって, B:特殊な交換部(A)は,メモリー手段(86)とコード確認手段(83)と預託金額確認手段(84)と制御手段(88)とを有し, C:メモリー手段(86)は,特殊コードが所定の預託金額と一連で記憶され,通信費用を差し引いた預託金額の残高が記録され, D:その特殊コードは預託金額に対応する支払いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるものであり, E:コード確認手段(83)は,発呼者の入力する特殊コードを確認し, F:預託金額確認手段(84)は,メモリー手段(86)に記憶された預託金額またはその残高を確認し, G:制御手段(88)は,接続・遮断手段(92)と比較手段(93)とを有し, H:比較手段(93)は,メモリー手段(86)に記憶された預託金額またはその残高と,通話を開始するための最小費用またはその後の通話費用とを比較し, I:接続・遮断手段(92)は,発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段(86)に記憶されたものと一致したときにおいて,メモリー手段(86)に記憶された預託金額またはその残高が,通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断するJ:電話の通話制御システム。」 3.請求人の主張 請求人は,「特許第2672085号の請求項1に係る発明についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,証拠方法として以下の甲第1号証を提出し,本件発明は,甲第1号証に記載された発明,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである,旨主張している。 甲第1号証:英国特許公開公報第2141309A号 4.甲第1号証記載の事項 請求人が提出した甲第1号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。 なお,被請求人は,答弁書冒頭で,甲第1号証からの引用は英語のままですべきであるとの主張をしているが,甲第1号証は英語で書かれたものであり,本件発明は日本語であり,現実的には対比がしにくいため,甲第1号証中の対応箇所を括弧書き「()」で明示した上で,概ね適正と認められる,請求人による翻訳文を摘記した。また,甲第1号証中の「SPECIFICATION」及び「CLAIMS」は,全体として1頁であるため,頁の指摘は省略し,行数についても,甲第1号証に記載のものを使用した。 イ.(表紙のアブストラクト) 「電話呼モニター装置は,いくつかの口座の残高を保持することのできるメモリー6を有する。ユーザーは,発呼する前に,アクセスコードまたは機械読み取り式のトークンにより,ユーザー自身を識別する。その結果通話費用は,ユーザーの個人口座に累積される。1は従来式の電話機である。マイクロコンピュータ4は,2,15のダイアリング能力を制御し,ディスプレイ5を介して残高を表示する。マイクロコンピュータ4はまた,計量パルス3をモニターし,それに従って,メモリー内容を修正する。モニターはローカルに置かれるか,あるいは,いくつかの回線がモニターされ,口座の残高を示すための音声合成器を設けることができる場合は,交換機に置かれる。」(以下,「記載事項イ」という。また,以下,「ロ」?「ワ」も同。) ロ.「電話機が数人で使用されるような場合,既存のシステムでは各人の通話料は人手によって計算されるため悪用されやすいシステムである。さらに,1人のユーザーが複数のクライアントのために働く場合には,電話機の利用料を全員分まとめて記録し,その後,各クライアントに適切な費用を請求したいと思うことがある。」(第8?15行) ハ.「電話呼モニター装置」(第3行他) ニ.「本発明によれば,電話機は各ユーザー毎にメモリーをもっている。各ユーザーは,各通話の前に,ユーザー固有のアクセスコードまたは機械読取り式のトークンを用い,本発明に対して自身を識別する。」(第16?20行) ホ.「通信費用を課金する方法は,通常,交換機から送られるパルス信号を計測することによりもたらされる。各ユーザーが通話をする時,適切な課金単位数がユーザーのメモリーから減算される(または,加算される)。」(第20?24行) ヘ.「ユーザーの残高が0に達した場合には,そのユーザーがさらなる通話を行うことを禁止し,他のユーザーにはそのまま通話させることができる。」(第24?26行) ト.「各ユーザーが,そのメモリー中に残高を設定するための手段が提供される。」(第26?28行) チ.「管理者がユーザーのメモリーを指定の課金単位数に初期設定するための安全な方法を提供することもできる。」(第28?30行) リ.「本発明は,電話機中に組み込むことができ,または,電話機と主交換機との間の任意の位置に配置することができる。」(第30?33行) ヌ.「得られた出力および入力回線はマイクロコンピュータ4に接続され,これはまた,ディスプレイ5,メモリー6およびキーパッド7が接続されている。」(第51?54行)。 ル.「(1または複数の)電話機13および,交換機14が,中継器15を介して接続される。」(第76,77行) ヲ.「前記口座が,特殊なコードの入力により識別される」(第91,92行) ワ.「ユーザーの口座がある値に達した場合,その口座のユーザーがさらなる通話をするのを自動的に禁止する」(第99?101行) 5.対比 記載事項イ,リによれば,「電話呼モニター装置」は「交換機」に置かれることができ, 記載事項ニにおける「ユーザー固有のアクセスコードまたは機械読取り式のトークンを用い,本発明に対して自身を識別」によれば,「電話呼モニター装置」中にはアクセスコード確認手段が実質的に存在することは明らかであり, 記載事項ホ?チによれば,「ユーザーのメモリー」には予め設定しておく「課金単位数」という程度の意味において,預託課金単位数ともいうべきものがあり,それは,記載事項チによって,初期設定され,また,ユーザーが通話するとき,その通話によって発生した通信費用に相当する課金単位数が減算されて残高が求められる旨示されているから,そこには,預託課金単位数確認手段というべきものがあり, 記載事項ヘによれば,さらなる通話はその「預託課金単位数」の残高がある間可能であり,また,課金単位数の最小値は,通常,通話費用の最少単位に相当するものであるから,通話は,通話を行うのに必要な課金単位数の残高があることが前提条件であり, 記載事項ヘによれば,課金単位数が「0」になるとさらなる通話が禁止されることから,残高は0と比較されているものということができ,そこには,当然,なんらかの比較手段があり, 電話呼モニターは,電話の通話制御システムの一部であることは自明である, ということができる。 したがって,甲第1号証についての上記摘記事項及び技術常識を加味すると,同号証には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているということができる。 なお,説明の都合上,本件発明の上記文節「A:」?「J:」に対応させて,「A:」?「J:」と分節してある。 「A:電話呼モニター装置が置かれた交換機を有する電話の通話制御システムであって, B:電話呼モニター装置が置かれた交換機は,メモリーとアクセスコード確認手段と預託課金単位数確認手段とマイクロコンピュータとを有し, C:メモリーは,所定の預託課金単数が記憶され,通信費用に相当する課金単位数を差し引いた預託課金単位数の残高が記録され, D:通話は預託課金単位数の初期設定があった後,通話を行うのに必要な預託課金単位数の残高がある間可能とされるものであり, E:アクセスコード確認手段は,ユーザーの入力するアクセスコードを確認し, F:預託課金単位数確認手段は,メモリーに記憶された預託課金単位数またはその残高を確認し, G:中継器と比較手段とを有し, H:比較手段は,メモリーに記憶された預託課金単位数またはその残高と,0を比較し, I:中継器は,被呼者との通話を接続し,被呼者との通話接続を遮断する J:電話の通話制御システム。」 ところで,引用発明中の「電話呼モニター装置が置かれた交換機」は「電話呼モニター」が置かれているという意味において特殊な交換部といえ, 同「メモリー」はメモリー手段であり, 同「アクセスコード確認手段」はコード確認手段の一種であり, 同「マイクロコンピュータ」は,甲第1号証についての上記記載事項イ等の記載から明らかなように,制御をしているから制御手段であり, 同「アクセスコード」は,上記記載事項ヲにもあるが,コードの特殊なものということができるから特殊コードであり, 同「ユーザー」は発呼しているから発呼者であり, 同「中継器」は記載事項ヘ,ル,Figure.2の「15」等の記載より接続・遮断をしていると解されるから接続・遮断手段である。 また,本件発明中の「預託金額」も引用発明中の「預託課金単位数」も預託値ということができ,同様に,本件発明中の「預託金額確認手段」も引用発明中の「預託課金単位数確認手段」も預託値確認手段ということができ, 本件発明中の「通信費用」も引用発明中の「通信費用に相当する課金単位数」も通信費用に係る量といえ, 本件発明中の「その特殊コードは預託金額に対応する支払いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるもの」において,特殊コードが使用できることは通話を可能にしていることであるから,引用発明中の「通話は預託課金単位数の初期設定があった後,通話を行うのに必要な預託課金単位数の残高がある間可能とされるもの」とは,通話を預託値の残高によって制限するという点で一致し, 本件発明中の「通話を開始するための最小費用またはその後の通話費用」も引用発明中の「0」もある値であるから, 本件発明と引用発明とは,以下の[一致点]で一致し,[相違点]で相違する。 なお,説明の都合上,本件発明及び引用発明の上記文節「A:」?「J:」に各々対応させて,「A:」?「J:」と分節してある。 [一致点] 「A:特殊な交換部を有する電話の通話制御システムであって, B:特殊な交換部は,メモリー手段とコード確認手段と預託値確認手段と制御手段とを有し, C:メモリー手段は,所定の預託値が記憶され,通信費用に係る量を差し引いた預託値の残高が記録され, D:通話を預託値の残高によって制限するものであり, E:コード確認手段は,発呼者の入力する特殊コードを確認し, F:預託値確認手段は,メモリー手段に記憶された預託値またはその残高を確認し, G:接続・遮断手段と比較手段とを有し, H:比較手段は,メモリー手段に記憶された預託値またはその残高と,ある値とを比較し, I:接続・遮断手段は,被呼者との通話を接続し,被呼者との通話接続を遮断する J:電話の通話制御システム。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点] ・相違点1 構成B:,C:に関し,預託値が,本件発明では,「預託金額」であるのに対して,引用発明では,「預託課金単位数」である。またそれに伴って,預託値確認手段についても,本件発明では,「預託金額確認手段」であるのに対して,引用発明では,「預託課金単位数確認手段」であり,同様に,通信費用に係る量についても,本件発明では,「通信費用」そのものであるのに対して,引用発明では,「通信費用に相当する課金単位数」である。 ・相違点2 構成C:に関し,メモリー手段に,本件発明では,「特殊コードが所定の預託金額と一連で記憶され」ているのに対し,引用発明では,預託値である「預託課金単位数」が記憶されているものの,特殊コードである「アクセスコード」は,所定の「預託課金単位数」(預託値)と一連で記憶されていない点で相違する。 ・相違点3 構成D:に関し,本件発明では,「その特殊コードは預託金額に対応する支払いがあった時から,通話を行うのに必要な預託金額の残高がある間使用可能とされるもの」であるのに対して,引用発明では,「通話は預託課金単位数の初期設定があった後,通話を行うのに必要な預託課金単位数の残高がある間可能とされるもの」である。 ・相違点4 構成G:に関し,接続・遮断手段(中継器)と比較手段は,本件発明では,「制御手段」が有しているが,引用発明では,前者は電話呼モニター装置が有しており,後者はどこに存在しているのか不明である。 ・相違点5 構成H:に関し,比較対象である「ある値」について,本件発明は,「通話を開始するための最小費用またはその後の通話費用」であるのに対して,引用発明では,「0」である。 ・相違点6 構成I:に関し,被呼者との通話の接続,遮断について,本件発明では,「発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段に記憶されたものと一致したときにおいて,メモリー手段に記憶された預託金額またはその残高が,通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」という条件を付加しているが,引用発明では,そのような条件は明示されていない。 6.当審の判断 ・相違点1について 通話費用を課金単位数で表すことは,周知であるから,預託金額とするか預託課金単位数とするかは単なる設計的事項にすぎない。そして,引用発明での「預託課金単位数確認手段」を「預託金額確認手段」とすることも,引用発明での「通信費用に相当する課金単位数」を「通信費用」とすることも,当然の帰結事項である。 ・相違点2について 記載事項ニの「電話機は各ユーザー毎にメモリーをもっている」との記載,記載事項ホの「各ユーザーが通話する時,適切な課金単位数がユーザーのメモリーから減算される」と記載,あるいは,記載事項ヘの「ユーザーの残高が0に達した場合には,そのユーザーがさらに発呼することを禁止し,他のユーザーにはそのまま通話させることができる」との記載等から明らかなように,メモリーにおいて,「預託課金単位数」はユーザー別に管理されているということができ,一方,ユーザーはアクセスコードで電話呼モニター装置にアクセスしているから,アクセスコードが預託課金単位数に関連づけられていることは明白である。してみると,この関連づけを,本件発明のように,「預託課金単位数」(預託値)と一連で記憶することは特に創意工夫を要することではない。 ・相違点3について アクセスコードの使用に制限をかけることによって,システムの使用を制限することは,システムの管理手法として特に目新しいこととはいえないから,通話の制限にこれを用いることに格別な創意工夫を認めることはできない。そこで,「預託課金単位数の初期設定があった後」という事項から,「預託金額に対応する支払いがあった時から」という事項が容易に導き出せるかについて検討する。 引用発明中の「交換機」がどの種の交換機を対象としているか,具体的には,例えば,電話運営企業体の局交換機なのか,構内交換機なのか,宅内交換機なのか,等は,甲第1号証には明確に記載されておらず,しかも,引用発明について実質的な開示をするべき「SPECIFICATION」,「CLAIMS」にいたっては,2つの実施例の開示がなされているものの,第1の実施形態としては,「電話呼モニター装置」が電話機中に組み込まれたものが,第2の実施形態としては,ラウドスピーカ11が記載されていることからして,電話機に近いところに置かれたものが開示されるにとどまっている。これらのことから,「電話呼モニター装置」は,電話運営企業体の局交換機のような箇所に設置されるものではなく,宅内のような小規模な交換機乃至電話機に設置されるものを対象としていると解するのが相当である。 しかし,そのような交換機においては,通信費用の支払い自体を結びつけたものがほとんど知られておらず,せいぜい,記載事項ロ程度のことが知られているだけであって,それにしても,通信費用の支払いは電話機と結びついていて,交換機との関係はほとんどない。してみると,通信費用の支払い自体が想起できないのに,通信費用の前払い方式である,「預託金方式」を想起することは,なおのこと困難であるといわざるを得ない。 そして甲第1号証の全ての記載を参酌しても,「預託金方式」を想起させる記載も示唆もない。 したがって,「預託課金単位数の初期設定」ということのみをもって,直ちに,「預託金額に対応する支払いがあった時から」を導き出すことはできない。 この相違点3について,請求人は,以下のような主張をしている。 記載事項チ,ニ,ホ,ヘ,トにより,「アクセスコードは通話可能料金に対応する設定があった時から,通話を行うのに必要な通話可能料金の残高がある間使用可能とされる」ことが示唆されている。そして,前払い式テレホンカードシステムは周知であるから,設定された前記「通話可能料金」を前払いにすることは当業者が容易に想到できたことである。つまり,記載事項チから,「通話可能料金」の支払いによって,ユーザーのメモリーを通話可能料金に初期設定することは,当業者が容易に想到できたことである。この場合の「通話可能料金」は「預託金額」にほかならないから,「構成D:」は甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できた。 しかし,上記検討のように,課金単位数を設定することが,直ちに通話費用の前払いを意味するものでないことは,明白で,この点を補うために,請求人は,「前払い式テレホンカードシステムは周知であるから,設定された前記「通話可能料金」を前払いにすることは当業者が容易に想到できた」と主張しているが,そもそも,「前払い式テレホンカードシステム」は,電話運営企業体が運営する大規模な電話システムで用いられるものであって,引用発明の適用対象である,宅内のような小規模な交換機からなる電話システムとは明らかに異なり,しかも,上記検討から明らかなように,そのような小規模な交換機からなる電話システムにおいては,通信費用の支払い自体を結びつけたものがほとんど知られていない以上,周知の「前払い式テレホンカードシステム」によって,「預託課金単位数の初期設定」から「預託金額に対応する支払い」を導き出すことはできない。さらにいえば,テレホンカードにおける前払い方式は,あくまで,公衆電話機における,コイン・現金の使用の不便さを解消することにその目的があり,前払いの前提となる課金システムは,テレホンカードと公衆電話機の範囲に止まっており,(局)交換機における預託金方式を示唆するものでもないから,「前払い」「後払い」という単なる表現上の関連性のみによって,あるいは,通話に対しての課金システムであるという漠然とした共通性にのみよって,引用発明に,テレホンカード課金システムの存在を根拠として,前払い方式を適用することを容易に発想できたとすることはできない。したがって,請求人の上記主張を認めることはできない。 以上のとおり,上記相違点3に係る「預託金額に対応する支払いがあった時から」との構成により,本件発明は,引用発明に基づいて容易に発明できたとすることはできない。よって,上記[相違点]に記載した他の相違点4?6について検討するまでもなく,引用発明に基づいて容易に発明できたものといえないことは明らかであるが,以下,相違点4?6に関しても,一応検討しておく。 ・相違点4について 本件発明において,接続・遮断手段(中継器)と比較手段は,「制御手段」が有しているが,「制御手段」に付属させた点に格別な技術的意義があるとはいえず,必要な動作が支障なく行えるように構成されればよいだけのことであるから,相違点4に係る本件発明の構成は,単なる設計的事項の域を出ない。 ・相違点5について 課金単位数の最小値が,通話費用の最少額に相当するものであり,通常,この金額が通話を開始するための最小費用であるという常識からして,引用発明における「預託課金単位数またはその残高と,0を比較」することから,本件発明における「預託金額またはその残高と,通話を開始するための最小費用を比較」することを導き出す程度のことは,格別な創意工夫を要するものとはいえない。 ・相違点6について 本件発明の構成「A:」?「H:」の構成及び上記「・相違点1について」?「・相違点5について」の検討によって,「発呼者の入力した特殊コードがメモリー手段に記憶されたものと一致したときにおいて,メモリー手段に記憶された預託金額またはその残高が,通話を開始するための最小費用より多い場合には,被呼者との通話を接続し」は,甲第1号証中に記載されているに等しい事項であるから,その余の構成である「その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」について検討する。 記載事項ヘ,ワによれば,甲第1号証では,「さらなる通話」を禁止しているが,この「さらなる通話」は,原文の「making further calls」の訳であり,概ね,新たに電話をかけること,あるいは,新たな発呼の意味であると解すべきであって,通話を続行する,すなわち,通話相手との話しを継続するという意味での通話の義ではない。一方,本件発明では,「被呼者との通話を接続し,その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」と記載されているから,普通に読めば,一旦,被呼者との通話が開始され,そのまま通話中であって,その後の分の通話費用を負担できなくなった場合に,被呼者との通話接続を遮断する,ということになる。してみると,引用発明は,新たな発呼の遮断であり,本件発明は,通話中の通話継続の遮断であるから,両者は,技術的に全く異なったことである。そして,甲第1号証の他のどの記載にも,この「通話中の通話継続の遮断」について,記載も示唆もされていない。したがって,甲第1号証の記載から,本件発明中の「その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」との構成を,容易になし得たとすることはできない。 この点について,請求人は,記載事項ヘ,ワに示される「0またはある値に達した場合」は,本件発明の「その後の通話費用を負担し得なくなった場合」に相当するから,容易に発明できた旨主張しているが,前記検討から明らかなように,これは,通話という語の曖昧性と,「その後の通話費用を負担し得なくなった場合・・・」とその直前の「被呼者との通話を接続し」を分離したために生じた,誤った認定である。 したがって,「その後の通話費用を負担し得なくなった場合」を単独で取り出し,「相当する」とした上記主張は失当である。よって,前記主張を認めることはできない。 したがって,上記「・相違点3について」,さらにいえば「・相違点6について」で検討したように,本件発明は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。 7.むすび 以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件請求項1に係る発明の特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-25 |
結審通知日 | 2006-02-01 |
審決日 | 2006-02-28 |
出願番号 | 特願昭61-6163 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(H04M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松野 高尚、吉見 信明 |
特許庁審判長 |
山本 春樹 |
特許庁審判官 |
小林 紀和 衣鳩 文彦 |
登録日 | 1997-07-11 |
登録番号 | 特許第2672085号(P2672085) |
発明の名称 | 電話の通話制御システム |
代理人 | 田中 香樹 |
代理人 | 根本 浩 |
代理人 | 飯塚 暁夫 |
代理人 | 田邉 壽二 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 森▼さき▲ 博之 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 尾崎 英男 |