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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H04M |
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管理番号 | 1163617 |
審判番号 | 無効2005-80157 |
総通号数 | 94 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-10-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-05-27 |
確定日 | 2006-04-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2997709号発明「電話の通話制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2997709号に係る発明についての出願は,昭和61年1月13日に出願した特願昭61-6163号(パリ条約による優先権主張1985年1月13日,1985年11月10日,イスラエル国)の一部を平成9年5月7日に新たな特許出願としたものであって,平成9年6月6日付け及び平成11年7月5日付で手続補正がなされ,平成11年11月5日にその発明についての特許の設定登録がなされ,平成17年5月27日に本件無効審判の請求がなされた。 2.本件発明 本件発明は,特許明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1,10,17,24に記載された以下のとおりのものである。なお,説明の都合上,A:?J:と分節してある。 「【請求項1】 A:特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ, D:発呼者の電話(81)から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し, F:この受信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記受信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し, H:前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し, I:前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする, J:電話の通話制御方法。」(以下,「本件発明1」という。) ・・・【請求項2】?【請求項9】は省略・・・ 「【請求項10】 A:特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ, D:発呼者の電話(81)から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し, F:この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し, H:前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し, I:前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし, X:前記特殊な交換部(A)が,使用可能な預託金額の残高を発呼者に報知する, J:電話の通話制御方法。」(以下,「本件発明2」という。) ・・・【請求項11】?【請求項16】は省略・・・ 「【請求項17】 A:特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ, D:発呼者の電話(81)から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し, F:この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し, H:前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し, I:前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし, X’:前記特殊な交換部(A)が,送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え,この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する, J:電話の通話制御方法。」(以下,「本件発明3」という。) ・・・【請求項18】?【請求項23】は省略・・・ 「【請求項24】 A:特殊な交換部(A)を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て,これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ, D:発呼者の電話(81)から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部(A)が受信し, F:この送信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記送信された特殊コードの預託金額の残高と,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し, H:前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し, I:前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターし, X”:通話費用を預託金額から差し引く, J:電話の通話制御方法。」(以下,「本件発明4」という。) ・・・【請求項25】?【請求項33】は省略。 3.請求人の主張 請求人は,「特許第2997709号の請求項1,10,17,24に係る発明についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,証拠方法として以下の甲第1号証を提出し,本件発明1?4は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである,旨主張している。 甲第1号証:英国特許公開公報第2141309A号 4.甲第1号証記載の事項 請求人が提出した甲第1号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。 なお,甲第1号証は英語で書かれたものであり,本件発明は日本語であり,そのままでは対比がしにくいため,甲第1号証中の対応箇所を括弧書き「()」で明示した上で,概ね適正と認められる,請求人による翻訳文を摘記した。また,甲第1号証中の「SPECIFICATION」及び「CLAIMS」は,全体として1頁であるため,頁の指摘は省略し,行数についても,甲第1号証に記載のものを使用した。 イ.(表紙のアブストラクト) 「電話呼モニター装置は,いくつかの口座の残高を保持することのできるメモリー6を有する。ユーザーは,発呼する前に,アクセスコードまたは機械読み取り式のトークンにより,ユーザー自身を識別する。その結果通話費用は,ユーザーの個人口座に累積される。1は従来式の電話機である。マイクロコンピュータ4は,2,15のダイアリング能力を制御し,ディスプレイ5を介して残高を表示する。マイクロコンピュータ4はまた,計量パルス3をモニターし,それに従って,メモリー内容を修正する。モニターはローカルに置かれるか,あるいは,いくつかの回線がモニターされ,口座の残高を示すための音声合成器を設けることができる場合は,交換機に置かれる。」(以下,「記載事項イ」という。また,以下,「ロ」?「ワ」も同。) ロ.「電話機が数人で使用されるような場合,既存のシステムでは各人の通話料は人手によって計算されるため悪用されやすいシステムである。さらに,1人のユーザーが複数のクライアントのために働く場合には,電話機の利用料を全員分まとめて記録し,その後,各クライアントに適切な費用を請求したいと思うことがある。」(第8?15行) ハ.「電話呼モニター装置」(第3行他) ニ.「本発明によれば,電話機は各ユーザー毎にメモリーをもっている。各ユーザーは,各通話の前に,ユーザー固有のアクセスコードまたは機械読取り式のトークンを用い,本発明に対して自身を識別する。」(第16?20行) ホ.「通信費用を課金する方法は,通常,交換機から送られるパルス信号を計測することによりもたらされる。各ユーザーが通話をする時,適切な課金単位数がユーザーのメモリーから減算される(または,加算される)。」(第20?24行) ヘ.「ユーザーの残高が0に達した場合には,そのユーザーがさらなる通話を行うことを禁止し,他のユーザーにはそのまま通話させることができる。」(第24?26行) ト.「各ユーザーが,そのメモリー中に残高を設定するための手段が提供される。」(第26?28行) チ.「管理者がユーザーのメモリーを指定の課金単位数に初期設定するための安全な方法を提供することもできる。」(第28?30行) リ.「本発明は,電話機中に組み込むことができ,または,電話機と主交換機との間の任意の位置に配置することができる。」(第30?33行) ヌ.「得られた出力および入力回線はマイクロコンピュータ4に接続され,これはまた,ディスプレイ5,メモリー6およびキーパッド7が接続されている。」(第51?54行)。 ル.「(1または複数の)電話機13および,交換機14が,中継器15を介して接続される。」(第76,77行) ヲ.「前記口座が,特殊なコードの入力により識別される」(第91,92行) ワ.「ユーザーの口座がある値に達した場合,その口座のユーザーがさらなる通話をするのを自動的に禁止する」(第99?101行) 5.対比 記載事項イ,リによれば,「電話呼モニター装置」は「交換機」に置かれることができ,電話の通話制御をしており, 記載事項ニにおける「各ユーザーは,各通話の前に,ユーザー固有のアクセスコードまたは機械読取り式のトークンを用い,本発明に対して自身を識別」によれば,「電話呼モニター装置」には,「アクセスコード」が記憶されており,各ユーザーは,各通話の前に,電話機からアクセスコードを入力しており,当然,このアクセスコード(として使用可能であるか)の確認が行われおり, 記載事項ホ?チによれば,「ユーザーのメモリー」には,予め設定しておく「課金単位数」という程度の意味において,預託課金単位数ともいうべきものがあり,それは,記載事項チによって,初期設定され,また,他のユーザーのメモリーとの区別をすることは当然すべき自明事項であるから,アクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当てられているといえ,ユーザーが複数いる以上,課金単位数及びアクセスコードの組合わせが複数存在し,また,ユーザーが通話するとき,その通話によって発生した通信費用に相当する課金単位数が減算されて残高が求められ, 記載事項ヘによれば,さらなる通話はその「預託課金単位数」の残高がある間接続され,また,課金単位数の最小値は,通常,通話費用の最少単位に相当するものであり, 記載事項ヘによれば,課金単位数が「0」になるとさらなる通話が禁止されることから,残高は0と比較されており, 被呼者の電話番号を発呼時に送信することは技術常識であり,また,アクセスコードの確認が通話の前提である以上,発呼時に,アクセスコードと被呼者の電話番号を送信することも自明であり, アクセスコード及び被呼者の電話番号を電話呼モニター装置が置かれた交換機が受信することは,電話呼モニターの動作上自明といえるから,甲第1号証についての上記摘記事項及び技術常識を加味すると,同号証には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているということができる。 なお,説明の都合上,本件発明1?3の上記文節「A:」?「J:」に対応させて,「A:」?「J:」と分節してある。 A:電話呼モニター装置が置かれた交換機を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:電話呼モニター装置が置かれた交換機においてアクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当て, これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:通話は,対応する預託課金単位数の初期設定を条件として可能とされ, D:ユーザーの電話から,入力されたアクセスコードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記アクセスコード及び被呼者の電話番号を電話呼モニター装置が置かれた交換機が受信し, F:この受信されたアクセスコードが,記憶されたアクセスコードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記受信されたアクセスコードの預託課金単位数の残高と,0とを比較し, H:前記預託課金単位数の残高が0より多い時に,ユーザーの電話を被呼者の電話に接続する, J:電話の通話制御方法。」 次に,記載事項イには「ディスプレイ5を介して残高を表示」及び「口座の残高を示すための音声合成器を設けることができる」と記載されているから,引用発明1の上記構成を加味すれば,甲第1号証には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているということができる。 A:電話呼モニター装置が置かれた交換機を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:電話呼モニター装置が置かれた交換機においてアクセスコード対し所定の預託課金単位数を予め割り当て, これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:通話は,対応する預託課金単位数の初期設定を条件として可能とされ, D:ユーザーの電話から,入力されたアクセスコードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記アクセスコード及び被呼者の電話番号を電話呼モニター装置が置かれた交換機が受信し, F:この受信されたアクセスコードが,記憶されたアクセスコードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記受信されたアクセスコードの預託課金単位数の残高と,0とを比較し, H:前記預託課金単位数の残高が0より多い時に,ユーザーの電話を被呼者の電話に接続する, X:前記電話呼モニター装置が置かれた交換機が,使用可能な預託課金単位数の残高をユーザーに報知する, J:電話の通話制御方法。」 次に,記載事項ホには「各ユーザーが通話する時,適切な課金単位数がユーザーのメモリーから減算される」と記載されており,このことは,「通話費用を預託課金単位数から差し引く」ことを意味するから,引用発明1の構成を加味すれば,甲第1号証には,次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されているということができる。 A:電話呼モニター装置が置かれた交換機を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:電話呼モニター装置が置かれた交換機においてアクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当て, これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:通話は,対応する預託課金単位数の初期設定を条件として可能とされ, D:ユーザーの電話から,入力されたアクセスコードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記アクセスコード及び被呼者の電話番号を電話呼モニター装置が置かれた交換機が受信し, F:この受信されたアクセスコードが,記憶されたアクセスコードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記受信されたアクセスコードの預託課金単位数の残高と,0とを比較し, H:前記預託課金単位数の残高が0より多い時に,ユーザーの電話を被呼者の電話に接続する, X”:通話費用を預託課金単位数から差し引く, J:電話の通話制御方法。」 ところで,引用発明1中の「電話呼モニター装置が置かれた交換機」は「電話呼モニター」が置かれているという意味において特殊な交換部といえ, 同「アクセスコード」は,上記記載事項ヲにもあるが,コードの特殊なものということができるから特殊コードであり, また,本件発明1中の「預託金額」も引用発明1中の「預託課金単位数」も預託値ということができ, 本件発明1中の「所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て」も引用発明1中の「アクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当て」も,所定の預託値と特殊コードが予め関係付けられていることであり, 本件発明1中の「前記特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ」において,特殊コードは通話を可能とする条件といえるから,引用発明1中の「通話は,対応する預託課金単位数の初期設定を条件として可能とされ」とは,通話は,対応する預託値に関した特定の条件のもとに可能とされる点で一致し, 本件発明1中の「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」も引用発明1中の「0」もある値であり, 同「ユーザー」は発呼しているから発呼者であるから, 本件発明1と引用発明1とは,以下の[一致点]で一致し,[相違点]で相違する。 なお,説明の都合上,本件発明1及び引用発明1の上記文節「A:」?「J:」に各々対応させて,「A:」?「J:」と分節してある。 [一致点] A:特殊な交換部を利用し,次のステップを含む電話の通話制御方法であって, B:この特殊な交換部において所定の預託値と特殊コードが予め関係付けられており,これら預託値及び特殊コードの複数組合わせを記憶し, C:通話は,対応する預託値に関した特定の条件のもとに可能とされ, D:発呼者の電話から,入力された特殊コードと被呼者の電話番号を発呼時に送信し, E:前記特殊コード及び被呼者の電話番号を特殊な交換部が受信し, F:この受信された特殊コードが,記憶された特殊コードの一つと一致して使用可能であるかを確認し, G:前記受信された特殊コードの預託値の残高と,ある値とを比較し, H:前記預託値の残高がある値より多い時に,発呼者の電話を被呼者の電話に接続する, J:電話の通話制御方法。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点] ・相違点1 構成B:に関し,預託値が,本件発明1では,「預託金額」であるのに対して,引用発明1では,「預託課金単位数」であり,また,本件発明では,「所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て」ているが,引用発明1では,「アクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当て」ている。 ・相違点2 構成C:に関し,通話を可能とするための条件として,本件発明1では,「特殊コードは,対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ」ているのに対し,引用発明1では,「対応する預託課金単位数の初期設定を条件として可能とされ」ている。 ・相違点3 構成G:に関し,ある値として,本件発明1では,「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」としているのに対して,引用発明1では,「0」である。 ・相違点4 構成I:に関し,本件発明1では,「前記預託金額の残高が,発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニター」しているが,引用発明1には,この様な構成はない。 次に, 本件発明2と引用発明2とを比較すると, その構成上の一致点及び相違点は,本件発明1と引用発明1の場合と同じである。 次に, 本件発明3と引用発明2とを比較すると,本件発明1と引用発明1についての上記[一致点]及び[相違点]の他に,以下の相違点がある。 ・相違点5 構成X’:に関し,本件発明3中の「X’:前記特殊な交換部(A)が,送信された被呼者の電話番号に基いて使用可能な預託金額の残高を使用可能な通話時間に変え,この使用可能な通話残り時間を発呼者に報知する」の構成について,引用発明2には「使用可能な預託課金単位数の残高をユーザーに報知する」との構成はあるものの,「送信された被呼者の電話番号に基」く点,及び「残高を使用可能な通話時間に変え」る点がない。 次に, 本件発明4と引用発明3とを比較すると, その構成上の一致点及び相違点は,本件発明1と引用発明1の場合と同じである。 6.当審の判断 (1)本件発明1について ・相違点1について 通話費用を課金単位数で表すことは,周知であるから,預託金額とするか預託課金単位数とするかは単なる設計的事項にすぎない。 また,引用発明1で,「アクセスコードに対し所定の預託課金単位数を予め割り当て」ているものの,要は,アクセスコードと所定の預託課金単位数の対応関係が決められていればよいのであるから,この関係を逆にし,「所定の預託課金単位数に対しアクセスコード所定の預託課金単位数を予め割り当て」る程度のことは,単なる設計的事項にすぎない。 したがって,本件発明1における「所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て」ることに,格別の創意工夫を認めることはできない。 ・相違点2について アクセスコード(特殊コード)の使用に制限をかけることによって,システムの使用を制限することは,システムの管理手法として特に目新しいこととはいえないから,通話の制限にこれを用いることに格別な創意工夫を認めることはできない。そこで,「対応する預託課金単位数の初期設定」という事項から,「対応する預託金額の支払いを条件として」という事項が容易に導き出せるかについて検討する。 引用発明1中の「交換機」がどの種の交換機を対象としているか,具体的には,例えば,電話運営企業体の局交換機なのか,構内交換機なのか,宅内交換機なのか,等は,甲第1号証には明確に記載されておらず,しかも,引用発明1について実質的な開示をするべき「SPECIFICATION」,「CLAIMS」にいたっては,2つの実施例の開示がなされているものの,第1の実施形態としては,「電話呼モニター装置」が電話機中に組み込まれたものが,第2の実施形態としては,ラウドスピーカ11が記載されていることからして,電話機に近いところに置かれたものが開示されるに止まっている。これらのことから,「電話呼モニター装置」は,電話運営企業体の局交換機のような箇所に設置されるものではなく,宅内のような小規模な交換機乃至電話機に設置されるものを対象としていると解するのが相当である。 しかし,そのような交換機においては,通信費用の支払い自体を結びつけたものがほとんど知られておらず,せいぜい,記載事項ロ程度のことが知られているだけであって,それにしても,通信費用の支払いは電話機と結びついていて,交換機との関係はほとんどない。してみると,通信費用の支払い自体が想起できないのに,通信費用の前払い方式である,「預託金方式」を想起することは,なおのこと困難であるといわざるを得ない。 そして甲第1号証の全ての記載を参酌しても,「預託金方式」を想起させる記載も示唆もない。 したがって,「対応する預託課金単位数の初期設定」ということのみをもって,直ちに,「対応する預託金額の支払いを条件として」を導き出すことはできない。 この相違点2について,請求人は,以下のような主張をしている。 記載事項チにより,指定の通話可能料金を設定することによって,そのユーザーのメモリーが開設されることがわかる。そして,前払い式テレホンカードシステムは周知であるから,設定された前記「通話可能料金」を前払いにすることは当業者が容易に想到できたことである。また,記載事項ニの「識別」は,通話可能料金が支払われてメモリーが開設された後でなければ,当然行われないから,アクセスコードが,対応する通話可能料金の支払いを条件として使用可能になることは明らかである。したがって,「構成C:」は甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に想到できた。 しかし,上記検討のように,課金単位数を設定することが,直ちに通話費用の前払いを意味するものでないことは,明白で,この点を補うために,請求人は,「前払い式テレホンカードシステムは周知であるから,設定された前記「通話可能料金」を前払いにすることは当業者が容易に想到できた」と主張しているが,そもそも,「前払い式テレホンカードシステム」は,電話運営企業体が運営する大規模な電話システムで用いられるものであって,引用発明1の適用対象である,宅内のような小規模な交換機からなる電話システムとは明らかに異なり,しかも,上記検討から明らかなように,そのような小規模な交換機からなる電話システムにおいては,通信費用の支払い自体を結びつけたものがほとんど知られていない以上,周知の「前払い式テレホンカードシステム」によって,「対応する預託課金単位数の初期設定」から「対応する預託金額の支払いを条件として」を導き出すことはできない。さらにいえば,テレホンカードにおける前払い方式は,あくまで,公衆電話機における,コイン・現金の使用の不便さを解消することにその目的があり,前払いの前提となる課金システムは,テレホンカードと公衆電話機の範囲に止まっており,(局)交換機における預託金方式を示唆するものでもないから,「前払い」「後払い」という単なる表現上の関連性のみによって,あるいは,通話に対しての課金システムであるという漠然とした共通性にのみよって,引用発明1に,テレホンカード課金システムの存在を根拠として,前払い方式を適用することを容易に発想できたとすることはできない。したがって,請求人の上記主張を認めることはできない。 以上のとおり,上記相違点2に係る「対応する預託金額の支払いを条件として」との構成により,本件発明1は,引用発明1に基づいて容易に発明できたとすることはできない。よって,上記[相違点]に記載した他の相違点3,4について検討するまでもなく,引用発明1に基づいて容易に発明できたものといえないことは明らかであるが,以下,相違点3,4に関しても,一応検討しておく。 ・相違点3について 課金単位数の最小値が,通話費用の最少額に相当するものであり,通常,この金額が通話を開始するために必要な最小費用であるという常識からして,引用発明1における「預託課金単位数の残高と,0を比較」することから,本件発明1における「預託金額の残高と,発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較」することを導き出す程度のことは,格別な創意工夫を要するものとはいえない。 ・相違点4について 記載事項ヘ,ワによれば,甲第1号証では,「さらなる通話」を禁止しているが,この「さらなる通話」は,原文の「making further calls」の訳であり,概ね,新たに電話をかけること,あるいは,新たな発呼の意味であると解すべきであって,通話を続行する,すなわち,通話相手との話しを継続するという意味での通話の義ではない。一方,本件発明1では,「発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には,発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように,発呼者の電話(81)が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで」と記載されており,またそれ以前の「構成H:」において,「・・・発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し」ているから,普通に読めば,一旦,被呼者との通話が開始され,そのまま通話中であって,その後の分の通話費用を負担できなくなった場合に,発呼者と被呼者の通話接続を遮断する,ということになる。してみると,引用発明1は,新たな発呼の遮断であり,本件発明1は,通話中の通話継続の遮断であるから,両者は,技術的に全く異なったことである。そして,甲第1号証の他のどの記載にも,この「通話中の通話継続の遮断」について,記載も示唆もされていない。したがって,甲第1号証の記載から,本件発明1中の「その後の通話費用を負担し得なくなった場合には,被呼者との通話接続を遮断する」との構成を,容易になしえたとすることはできない。いわんや,「通話接続を遮断する」との構成が開示されていない以上,構成「I:」における「発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする」ことなどを,容易になしえたということはできない。 この点について,請求人は,記載事項ホに「通信費用を課金する方法は,通常,交換機から送られるパルス信号を計測することによりもたらされる。」と記載され,記載事項ワには通話可能残料金の残高がある値に達した場合に,記載事項ヘには通話可能残料金の残高が0に達した場合に,通話接続を遮断する旨示されているから,「発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターする」は甲第1号証に開示されているのと同然であると主張しているが,記載事項ワには「・・・さらなる通話をするのを・・・禁止する」と記載されているのであり,記載事項ヘには「・・・さらなる通話を行うことを禁止し」と記載されているのであるから,ここにおける「通話」は,上記検討から明らかなように,新たに電話をかけること,あるいは,新たな発呼の意味であって,通話を続行するとの意味ではない。 したがって,請求人による上記主張は,通話の意味の誤認に基づくものであり,失当といわざるをえない。 したがって,上記「・相違点2について」,さらにいえば「・相違点4について」に検討したように,本件発明1は,甲第1号証に記載された引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。 (2)本件発明2について 本件発明2も,引用発明2に対し,本件発明1における上記相違点1?4に係る構成を有しているから,上記の本件発明1についての判断と同様の理由で,容易に発明できたものとすることはできない。 (3)本件発明3について ・相違点5について 「送信された被呼者の電話番号に基いて」,残額を「使用可能な通話時間に変え」ることに関して,請求人は,甲第1号証に口座残高を報知する旨の開示があるから,通話時間に変えて報知する程度のことは単なる設計的事項にすぎない,と主張しているが,「変える」点についての根拠のない主張であり,しかも,通話時間に変えることや,使用可能な通話時間を報知することが広く知られているとも認められないから,失当である。 したがって,本件発明3も,引用発明2に対し,本件発明1における上記相違点1?4に係る構成に加えて,この相違点5に係る構成も追加されているから,上記の本件発明1についての判断と同様の理由,及び上記「・相違点5について」の検討により,容易に発明できたものとすることはできない。 (4)本件発明4について 本件発明4も,引用発明3に対し,本件発明1における上記相違点1?4に係る構成を有しているから,同様の理由で,容易に発明できたものとすることはできない。 7.むすび 以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件請求項1,10,17,24に係る発明の特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-25 |
結審通知日 | 2006-02-01 |
審決日 | 2006-02-28 |
出願番号 | 特願平9-117138 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(H04M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉見 信明、松野 高尚 |
特許庁審判長 |
山本 春樹 |
特許庁審判官 |
小林 紀和 衣鳩 文彦 |
登録日 | 1999-11-05 |
登録番号 | 特許第2997709号(P2997709) |
発明の名称 | 電話の通話制御方法 |
代理人 | 森▼さき▲ 博之 |
代理人 | 尾崎 英男 |
代理人 | 根本 浩 |
代理人 | 田邉 壽二 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 飯塚 暁夫 |
代理人 | 田中 香樹 |
代理人 | 稲葉 良幸 |