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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580341 審決 特許
無効200580033 審決 特許
無効200680198 審決 特許
無効200680168 審決 特許
無効2007800031 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  E04G
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  E04G
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  E04G
管理番号 1163744
審判番号 無効2006-80219  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-27 
確定日 2007-09-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3416789号発明「型枠用セパレーターの回り止め付き調節金具」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件の特許第3416789号に係る出願は,平成7年5月11日に特許出願され,その後の平成15年4月11日に,その特許請求の範囲に記載された発明につき,特許の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人より平成18年10月27日に本件無効審判の請求がなされ,被請求人より平成19年1月15日に答弁書が提出され,請求人より平成19年4月12日に弁駁書が提出された。

2.特許請求の範囲の記載
本件の特許第3416789号の明細書の特許請求の範囲には,次のように記載されている。
「全螺子部を持ったボルトを螺合し得る雌ネジ部を両端に施された円筒状の金具の一端に、ボルト軸線上よりボルト長螺子が螺合出来得る間隔を存じさせ、その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた上方板を設けた軸線に平行な平行板を固定し、且つ平行板の中心部に軸方向に舌状の部分を突出させ、その水平軸線上の両端部に切り欠き部を設ける。前記上方板を下方に叩くことにより、舌状の部分がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する事を特徴とする型枠用セパレーターの回り止め付き調節金具。」

そして,本件の特許請求の範囲の記載を分説すると,構成要件A?構成要件Gに規定される次のとおりのものである。

A 全螺子部を持ったボルトを螺合し得る雌ネジ部を両端に施された円筒状の金具の一端に、
B ボルト軸線上よりボルト長螺子が螺合出来得る間隔を存じさせ、
C その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた上方板を設けた軸線に平行な平行板を固定し、
D 且つ平行板の中心部に軸方向に舌状の部分を突出させ、
E その水平軸線上の両端部に切り欠き部を設ける。
F 前記上方板を下方に叩くことにより、舌状の部分がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する
G 事を特徴とする型枠用セパレーターの回り止め付き調節金具。

3.請求人の主張
これに対して,請求人は,本件特許を無効とするとの審決を求め,審判請求書及び弁駁書において,甲第1号証(特許実用新案審査基準)及び参考資料(平成18年(ワ)第1841号の原告準備書面(3))を挙げ,次の(I)(a)?(d)及び(II)(a)?(c)を主張する。
(I)特許第3416789号(以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という)は,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下,単に「旧法」という)第36条第4項,同条第5項第1号及び同項第2号の規定に違反してされたものであり,旧法第123条第1項第4号の規定に基づき無効とされるべきであるとし,具体的には,以下の(a)?(d)を挙げる。
(a)「ボルト軸線上よりボルト長螺子が螺合出来得る間隔を存じさせ」なる構成(構成要件B)について
「構成要件Bにおける「ボルト軸線上より」が「螺合出来得る」にかかるのか,「間隔を存じさせ」にかかるのか明らかでない。むしろ、「ボルト軸線上より」は「螺合出来得る」にかかると解釈されるところ、この構成要件Bにおける「間隔」が何と何の間隔なのか明らかでない。」(請求書4頁9?13行,6頁17行?8頁3行),
「被請求人は、構成要件Bが「平行板の固定位置を説明するものである」として、あたかも構成要件Bが平行板(6)とボルト長螺子との間隔であるかの如く主張しながら,続く上記「間隔(5)」についての具体的な説明では平行板(6)に突設されている舌状部(8)とボルト長螺子の間隔であるかのように主張しており、「間隔(5)」がどの構成とどの構成との間隔を指すのか特許請求の範囲の記載では明確にしきれていない。」(弁駁書4頁20?26行)。

(b)「平行板の中心部に軸方向に舌状の部分を突出させ」なる構成(構成要件D)における「軸方向」及び「上方板を下方に叩くことにより,舌状の部分がボルト軸方向に押し出され」なる構成(構成要件F)における「ボルト軸方向」について
「構成要件Fにいう「舌状の部分がボルト軸方向に押し出され」とは「舌状の部分が「ボルト軸線の延びる方向」に押し出され」る状態を意味するものであり、かかる状態はどのような状態をいうのか、また「ボルト軸線の延びる方向』に押し出されることにより、螺合されたボルトをどのように一方向から押し、さらに舌状部の先端部をどのようにして螺子山に食い込ませるのか、その構成について明細書には何ら記載されておらず、特許を受けようとする発明を把握することができない。したがって、本件特許請求の範囲の記載中「軸方向」及び「ボルト軸方向」なる用語は不明確」(請求書8頁下5行?9頁4行),
「「軸方向」について「ボルト軸が存在する方向」と解釈すると、舌状の部分が「ボルト軸が存在する方向」、すなわち左図(請求書9頁…合議体注)に示すように、舌状の部分がボルト軸側に向かつて平行板に垂直な方向に突出することを構成要件(構成要件D)とするものであるところ、左図の調整金具か、特許からも明らかなように、この調整金具について上方板を下方に叩いても、舌状の部分は「ボルト軸が存在する方向」に押し出されることはなく、逆に「ボルト軸が存在する方向」と反対側に向かって回動することから螺合されたボルトが一方向から押されることはなく、構成要件Fとの整合性がとれないことになる。」(請求書9頁下6行?10頁5行)。

(c)「その水平軸線上の両端部に切り欠き部を設ける」なる構成(構成要件E)における「その水平軸線」について
「構成要件Eの「その水平軸線上の両端部に」における「その」とは構成要件Dにいう「平行板」を指すともいえるし、「舌状の部分」を指すとも解され、しかも、平行板にしろ、舌状の部分にしろ、水平軸線は無数に存し、これが各部の如何なる部分の水平軸線なのか、すなわち先端部のものであるのか、基端部のものであるのか、或いは中央部のものであるのか等々、明らかでなく、構成要件Eの文言は一義的に明らかとはいえず、また発明の詳細な説明にも何ら具体的な構成が記載されていない。」(請求書10頁14?20行)。

(d)「構成要件Fにおける「螺合されたボルトを一方向から押し」の技術的意義を理解することができない。」(請求書4頁下7?6行)

(II)平成14年12月19日付提出の手続補正書による補正は,旧法第17条の2第2項に規定する要件を満たしておらず,このため本件特許は,旧法第17条の2第2項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり,旧法第123条第1項第1号の規定の規定に基づき無効とされるべきであるとし,具体的には,以下の(a)?(c)を挙げる。
(a)「垂直軸線上」を「ボルト軸線上」と変更したことについて(構成要件B)
「本件発明の特許明細書又は図面には、「ボルト軸線上」との表現は一切記載されておらず、また、現実に記載されているものから自明であるともいえない。」(請求書12頁8?10行),
「被請求人は、答弁書において、「なお、本件特許の第1図(参考図A)を参照すると、「ボルト軸線」とはボルト軸を通る線であり、当初明細書の「垂直軸線」に対応することは当業者に自明である。」旨主張する(答弁書第8頁下から3?1行目)。しかしながら、本件特許の第3図には水平軸に沿って配設されたボルト長螺子が表されており、該記載に鑑みれば、「ボルト軸線」と「垂直軸線」とが一致していないことは明らかである。」(弁駁書7頁9?11行)。

(b)「その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた」と変更し,「垂直軸線」を単に「軸線」と変更したことについて(構成要件C)
「構成要件Cのうち「その上部を折り曲げした」なる文言を「その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた」なる文言に変更する補正は、ボルト軸線の何を内側としてその外側と特定しているのか不明であり、日本語自体を理解することができない。従って、上記補正は、少なくとも補正後の日本語を理解することができないので、該補正により追加変更された事項が当初明細書に現実に記載されている事項から自明な事項でないことは明らかである。
また、構成要件Cのうち「垂直軸線」なる文言を「軸線」なる文言に変更する補正は、「軸線」が該文言について当初明細書に記載された「垂直軸線」「水平軸線」「軸中心線」、或いはそれ以外の軸線を指すのか不明であり、少なくとも該補正により変更された事項が当初明細書に現実に記載されている事項から自明な事項でないことは明らかである。」(請求書13頁14行?14頁1行)

(c)「前記上方板を下方に叩くことにより、舌状の部分がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する事」なる構成(構成要件F)の付加について
「ア 「上方板を下方に叩く」
構成要件F中の「上方板を下方に叩く」なる文言は当初明細書又は図面に一切記載がなく、また上方板の打撃方向が下方に限定されるなどの記載も示唆もないことから、上方板の打撃方向が下方であることが自明な事項とは到底考えられない。
イ 上方板の叩く位置
上記補正は、叩く位置について「上方板の先端部」から先端部に限定されない「上方板」と訂正する(補正…合議体注)ものであり、当初明細書又は図面には上方板の先端部を叩くことしか記載されておらず、また先端部以外に叩くことを許容する記載も示唆もないので、上記補正は当初明細書に現実に記載されている事項、該事項から自明な事項でないことは明らかである。」(請求書14頁6?16行),
「本件特許について考えると、当初明細書等の中には上方板の叩く位置について「上方板の先端部」とあるものの、上方板のどこでも良い旨の明示的な記載はなく、またその叩く位置について「上方板の先端部」との記載に接した当業者は、その文言のまま理解すると考えるのが自然であり、この記載が「上方板のどこでも良い」と同義であると理解するとは到底考えられないものである。(弁駁書8頁下7行?2行)。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は,答弁書において,乙第1号証(平成18年(ワ)第1841号の第5回口頭弁論調書)及び乙第2号証(平成14年12月19日付け意見書及び補正書)を挙げ,請求人の主張に次のように反論し,本件審判請求は成り立たない,審判費用は審判請求人の負担とするとの審決を求めている。

(I)(a)に対して
「標記構成は、平行板の固定位置を説明するものであるところ、本件特許公報第1図(前々ページの参考図A(答弁書4頁…合議体注)参照)記載のとおり、廻り止め効果を施すために、2aの雌ネジ部にボルト長螺子を螺合させる際、8の舌状の部分が、4のボルト螺子部に接触することなく、螺合させられ、上方板を叩くことによって8の舌状部が押し出されたとき(前ページの参考図B(答弁書5頁…合議体注)参照)に、同部の先端(11)が、確実に、4のボルト螺子部に食い込むような間隔を持つような構成を意味している。」(答弁書6頁15?21行)

(I)(b)に対して
「標記構成は、舌状部(8)の先端(11)がボルト軸中心に近づくように、上方板(7)を下方に叩くことによって、舌状部分(11)をボルト軸に向けて、突出させることを意味する。…以上より、「軸方向」及び「ボルト軸方向」が「ボルト軸線」の方向を意味することは明らかである。」(答弁書7頁6?15行),
「審判請求人が作成する当該仮想的な調製金具の図(請求書9頁…合議体注)は、本件特許の構成要件Fの「前記上方板(7)を下方に叩くことにより、舌状の部分(8)がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルト(4)を一方向から押し、尚且つ舌状(8)の先端部(11)を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する」という構成を無視した図であり、当該仮想的な図を提示して自説を展開する審判請求人の主張は失当である。」(答弁書7頁下8行?下3行)

(I)(c)に対して
「「切り欠き部(9a,9b)」を設ける位置の説明として、舌状部(8)の水平軸線上の両端部という記載がなされていることから、標記構成における「水平軸線」が「ボルト軸線」を垂直軸とした場合の水平軸を意味することは明らかである。」(参考図A参照)。(答弁書8頁3?6行)

(II)(a)に対して
「「垂直軸線上」を「ボルト軸線上」と変更したことは、当初出願に係る明細書(【作用】及び【実施例】)及び図面上、特定されている平行板(6)の設置位置につき、より明瞭にするために、「ボルト軸線上」という表現に置換したものであり、何ら新規事項の追加ではない。なお、本件特許の第1図(参考図A)を参照すると、「ボルト軸線」とはボルト軸を通る線であり、当初明細書の「垂直軸線」に対応することは当業者に自明である。」(答弁書8頁下6?1行)

(II)(b)に対して
「「その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた」と変更し、「垂直軸線」を「軸線」と変更したことは、当初出願に係る明細書(【作用1及び【実施例】)及び図面上、特定されている上方板の上部(「平行板の上部」の誤記,合議体注)の折り曲げについて補充したものであって、何ら新規事項の追加ではない。なお、本件特許の第1図(参考図A)を参照すると、「ボルト軸線」とはボルト軸を通る線であり、当初明細書の「垂直軸線(=軸線)」に対応することは当業者に自明である。」(答弁書9頁3?8行)

(II)(c)アに対して
「上方板を叩く方向が、「下方」であることは、当初出願に係る明細書(【課題を解決するための手段】、【作用】及び【実施例】)並びに図面上、明らかであるから、当業者は、「下方に叩く」という構成を導き出すことが可能であり、同追記は、新規追加事項ではなく、補充説明であると解される。また、上方板を叩く位置について、確かに、当初出願に係る明細書の【作用】欄には、「上方板の先端部を叩くことにより」との記載があるが、同記載は、上方板を叩く位置を「上方板の先端部」に限定するものではない。上方板を叩きさえすれば、力の伝わり方の効率の問題は別にして、本件発明の作用が発揮されることは自明であることや、上方板を叩く位置を先端部に限定する趣旨の記載がないことからすれば、当初出願に係る明細書の【作用】欄の上記記載が、上方板を叩く位置を「上方板の先端部」のみに限定するものではないことは明らかである。」(答弁書9頁下7行?10頁4行)

(II)(c)イに対して
「上方板を叩きさえすれば、力の伝わり方の効率の問題は別にして、本件発明の作用が発揮されることは自明であることや、上方板を叩く位置を先端部に限定する趣旨の記載がないことからすれば、当初出願に係る明細書の【作用】欄の上記記載が、上方板を叩く位置を「上方板の先端部」のみに限定するものではないことは明らかである。」(答弁書9頁下1行?10頁4行)

5.当審の判断
請求人の言うところに従い,本件特許3416789号に係る発明を,以下,「本件発明」という。
(I)(a)について
構成要件Aの「・・・・・金具の一端に、」と構成要件Cの「平行板を固定し、」からみて,金具に固定されるのは平行板であり,構成要件B「ボルト軸線上よりボルト長螺子が螺合出来得る間隔を存じさせ」は,該平行板を規定する構成であり,ボルト長螺子(ボルト軸線)と平行板との間隔を規定したものであることは,これら構成要件の文言からみて明らかである。
また,本件発明が「調節金具」である以上,構成要件Fの「・・・・ボルト(長螺子部)の回転を阻止する」機能を果たすためには、前の段階においては,ボルト長螺子部が雌ネジ部(2a,2b)に調節自在に螺合しなくてはならないが,舌状の部分(8)を含む平行板(6)と,ボルト長螺子との間隔が近すぎる場合,両者は接触してしまう。そのためには,舌状の部分(8)を含む平行板(6)と,ボルト長螺子(ボルト軸線)との間隔は,ボルト長螺子が螺合でき得るものでなければならないことは明らかであって,このことを規定したのが、上記構成要件Bであるから,構成要件Bの「間隔」は不明確であるとまではいえない。

(I)(b)について
本件発明は、構成要件F「…螺合されたボルトを一方向から押し,尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する」ことが,発明に欠くことのできない事項であるところ,構成要件Fにいう「舌状の部分がボルト軸方向に押し出され」を,一般的な意味である「舌状の部分が「ボルト軸線の延びる方向」に押し出され」るものであるとすると,舌状の部分とボルト長螺子は,平行線を辿り,いつまで経っても,舌状の先端部をボルト長螺子の螺子山当接させることはできず,このように解することは,構成要件F「…螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する」ことが実現できないから,技術常識的にあり得ない。
また,請求人は,「軸方向」について「ボルト軸が存在する方向」と解釈する場合,その前提として,請求書9頁の図面を示し「舌状の部分がボルト軸側に向かつて平行板に垂直な方向に突出することを構成要件」とし,意図的に,上方板を叩いても舌状の先端部がボルト長螺子部の螺子山に当接しないものを示して,構成要件Dと構成要件Fとが整合性がとれないとしているが,前述したように,本件発明は,構成要件F「…螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませることによりボルトの回転を阻止する」ことが,発明に欠くことのできない事項であるから,この構成を無視して,前記前提のように「舌状の部分がボルト軸側に向かって平行板に垂直な方向に突出する」と限定して解釈するのは不合理である。
したがって,特許請求の範囲の構成要件Dの「軸方向」と構成要件Fの「ボルト軸方向」を一般的な「ボルト軸線の延びる方向」という意味に解する余地はないから,構成要件Dの「軸方向」と構成要件Fの「ボルト軸方向」は,答弁書5頁【参考図B】に示されるような「ボルトが存在する方向」と解釈でき,本件特許請求の範囲の記載中構成要件Dの「軸方向」及び構成要件Fの「ボルト軸方向」なる用語は不明確であるとまではいえない。

(I)(c)について
構成要件Fによれば,「上方板を下方に叩くことにより、舌状の部分がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルトを一方向から押し、尚且つ舌状の先端部を螺子山に食い込ませる」ことが,本件発明の欠くことのできない事項である。そして,叩くのは上方板であり,切り欠き部が曲がり易いことは技術常識であるから,「平行板」(6)に「切り欠き部」(9a,9b)を設ければ,構成要件Fの舌状の先端部をボルト軸方向に押し出すことが可能となることから,構成要件Eの「その」は,「平行板」を意味することは明らかである。
また,構成要件Fによれば,「上方板を下方に叩くことにより、舌状の部分がボルト軸方向に押し出され、螺合されたボルトを一方向から押し出す」のであり,「平行板」における「切り欠き部」(9a,9b)の位置は,このような機能を果たす「水平線」であればよく,例えば,舌状の部分の根元部分に相当する本件発明の実施例が考えられる。したがって,構成要件Eの「その水平軸線」は,不明確であるとまではいえない。

(I)(d)について
平行板(具体的には「舌状の部分」)を「ボルト軸線上よりボルト長螺子が螺合出来得る間隔を存じさせ」(構成要件B)た状態から,構成要件Fの「上方板を下方に叩くことにより,舌状の部分がボルト軸方向に押し出され」(構成要件F)た状態になることを意味しており、技術的意義は十分理解できる。

(II)(a)について
「垂直軸線上」を「ボルト軸線上」と変更したことは,平行板(6)の設置位置につき,より明瞭にするために,「ボルト軸線上」という表現に置換したものであり,本件特許の第1図(答弁書4頁の参考図A)を参照すると,「ボルト軸線」とはボルト軸を通る線であり,当初明細書の「垂直軸線」に対応するから,上記変更は,当初明細書に記載の範囲内の事項であり,新規事項の追加であるとまではいえない。
また,第1,2,4図は,本件発明の「…調節金具」自体を図示したものであり,第3図は,使用例なので,両者で,「垂直軸線」の方向が異なるとしても,新規事項の追加であるとまではいえない。

(II)(b)について
「その上部をボルト軸線上より外側に折り曲げた」と変更し,「垂直軸線」を「軸線」と変更したことは、当初明細書(【作用】及び【実施例】)及び図面上,特定されている平行板の上部の折り曲げについて,明りょうにしたものであって,当初明細書に記載の範囲内の事項であり,新規事項の追加であるとまではいえない。
また,本件発明のような「金具」は,垂直方向,水平方向にどのようにも載置し,持ち運びできるものであって,それ自身,どちらが垂直方向で,どちらが水平方向かは,一概に決められないものであるが,特許請求の範囲に規定する際には,便宜上,ある方向を垂直方向と決めて,特許請求の範囲を記載することは差し支えないものであり,このことを考慮すると,「垂直軸線」を「軸線」と補正したからといって,直ちに,新規事項の追加であるとまではいえない。

(II)(c)アについて
「上方板を下方に叩く」の「下方」については,上記「(II)(b)について」の後段に述べたことと同様のことがいえ,「下方」と補正したからといって,直ちに,新規事項の追加であるとまではいえない。

(II)(c)イについて
「上方板の叩く位置」については,被請求人が答弁書において述べているように,上方板を叩きさえすれば,力の伝わり方の効率の問題は別にして,本件発明の作用が発揮されることは自明であることや,上方板を叩く位置を先端部に限定する趣旨の記載がないことからすれば,当初明細書の【作用】欄の上記記載が,上方板を叩く位置を「上方板の先端部」のみに限定するものではないことは明らかであるから,当初明細書の「上方板の先端部を叩く」を特許請求の範囲の「上方板を叩く」に補正したとしても,新規事項の追加であるとまではいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由によっては,本件の特許請求の範囲に記載された発明に係る特許を,無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-09 
結審通知日 2007-07-13 
審決日 2007-07-24 
出願番号 特願平7-149377
審決分類 P 1 113・ 561- Y (E04G)
P 1 113・ 534- Y (E04G)
P 1 113・ 531- Y (E04G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊波 猛  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 小山 清二
砂川 充
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3416789号(P3416789)
発明の名称 型枠用セパレーターの回り止め付き調節金具  
代理人 椿 豊  
代理人 酒井 將行  
代理人 吉田 昌司  
代理人 樋口 次郎  
代理人 深見 久郎  
代理人 小谷 悦司  

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