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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1163763
審判番号 不服2003-5697  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-04 
確定日 2007-09-05 
事件の表示 平成 3年特許願第351685号「歯の人工代替物、歯科補綴物などとして有用な、個々に設計された三次元物体の製造方法と製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 3月 5日出願公開、特開平 5- 53632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件出願は、平成3年12月11日の特許出願(優先権主張 1990年12月12日 スウェーデン王国)であって、その請求項1乃至19に係る発明は、平成18年5月22日付けの手続補正書により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至19に記載されたとおりと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】以下の工程を含む、少なくとも一つの三次元の物体を製造する方法:
a)少なくとも一つの模型を検出するための条件を設定し、ここで前記条件は、前記模型の縦軸に関する少なくとも一つのセンサの角度、及び前記模型の回転速度と、前記模型の前記縦軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度との間の関係を少なくとも含み;
b)前記模型を回転させ、同時に前記模型と前記センサの少なくとも一つを、前記模型の前記縦軸に平行な方向において相互に関して移動させ、同時に前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される複数の距離を検出してデータの第一の組を得;
c)前記設定された条件及び前記データの第一の組を、前記三次元の物体を製造するための少なくとも一つの作業ツールを制御するための少なくとも一つの制御手段に伝送し;
d)少なくとも一つの作業ツール及び少なくとも一つのブランクのためにそれぞれ前記少なくとも一つのセンサ及び前記少なくとも一つの模型の前記設定された条件を実質的に再現し;そして
e)前記作業ツールが前記ブランクから材料を選択的に除去して前記ブランク上に前記模型の前記表面を実質的に再現するように、前記センサと前記模型の間の相互作用によって生成された前記検出された距離に対応する前記ブランクに関する前記作業ツールの位置を変化させることによって、前記三次元の物体を製造する。」

2.刊行物に記載の発明及び事項
これに対して、当審における平成17年11月24日付けで通知した拒絶の理由に引用した、優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭57-200144号公報(以下、「刊行物1」という。)、及び上記拒絶の理由で周知技術として例示した、優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特表昭63-503123号公報(以下、「刊行物2」という。)には以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1
(1-ア)第2頁左上欄第19行?右下欄第19行
「本発明は患者から採取された石膏をもとに該石膏形状を三次元座標自動測定装置により計測し、該計測において採取されたデータに基づいて具体的な入れ歯の加工をおこなうことに特徴がある。
また本発明の他の特徴は石膏による形状採取時における対向歯や他の歯との咬合部位の応力状態の模擬により形状修正をおこなうとともに修正された最終データにより入れ歯の加工をおこなうことにある。
以下本発明の具体的なシステムについて説明する。第1図は本発明を構成するシステムの概略図を示す。計算機4にはデータ入力装置1、図形表示装置2、2次元座標入力装置3、3次元座標計測装置5、工作機械6が結合されている。
第2図は、図形表示装置としてCRTグラフイツクデイスプレイの場合を、2次元座標入力装置としてデータタブレツト3´を使用した場合の例である。このシステムにおける最適形状を有した入れ歯の作成手順について説明する。
第1工程
入れ歯と対向する複数の歯牙の型をとつた臨床石膏50を、高精度三次元座標測定装置5の測定台に設定する。ついで、歯牙の高さ方向をZ軸とし、Z軸との垂直面であるxy平面上の矩形領域内のメツシユ格子の各格子点における複数歯牙の咬合面の高さ(Zの値)を計算機による自動測定のための制御により計測する。3次元座標測定装置5は例えば第3図に示されるような咬合面のメツシユ分割例にしたがつてデータが採取される。メツシユは細かいほどデータが詳細に採取できる。計測は接触探子による方法の例を第2図に示したが、レーザービームを利用する方法であつてもよい。計算機4はあらかじめ定められたメツシユ単位に接触子を送り順次第3図に対応するz方向のデータを採取する。
第2工程
入れ歯の左右の複数歯牙の形状臨床石膏から、高精度三次元座標測定5を用いて、左右歯牙群の咬合面形状をZ方向から計測・入力する。第4図は入れ歯の左右歯牙の咬合面のメツシユ分割図例である。」
(1-イ)第3頁左上欄第12行?左下欄第7行
「第5工程
‥‥‥‥‥‥
(1)第4工程で得られた入れ歯形状および対向歯牙形状のメツシユ分割図(例:第8図)
‥‥‥‥‥‥
第6工程
本システムの操作者は、グラフイツクデイスプレイ上に、入れ歯ならびにその対向歯牙群の咬合面形状と、その形状各部位における応力分布等を表示する。第9図は、等応力図の例である。次いでこの応力分布を見て、応力集中度合の高い部位を探し、その応力が軽減するよう、入れ歯の形状修正を計算機4に指示する。
計算機4は、修正された入れ歯形状を第5工程の入力として再び第5工程の処理に戻る。‥‥‥‥計算機4は工作機械6を稼動制御させるための、入れ歯形状加工用数値制御データ(NCデータ)を作成し、これを工作機械に転送し、所定の入れ歯を加工する。第10図はこれら一連の工程を示すフロー図である。」

上記摘記事項(1-ア)、(1-イ)、及び第1?4、8、10図の記載からみて、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の工程を含む、入れ歯を加工する方法:
入れ歯に対向及び隣り合う歯牙から形成した臨床石膏50の歯牙の高さ方向をZ軸とし、メツシユ単位に接触端子を送り、Z軸との垂直面であるxy平面上の矩形領域内のメツシユュ格子の各格子点における複数歯牙の咬合面の高さ(Zの値)を計測し、咬合面のメツシユ分割例にしたがつたデータを採取し、咬合面形状を得、
計算機4は前記咬合面形状を利用して修正された入れ歯形状を求め、工作機械6を稼動制御させるための、入れ歯形状加工用数値制御データ(NCデータ)を作成し、これを工作機械に転送し、所定の入れ歯を加工する。」

(2)刊行物2
(2-ア)第3頁左下欄第24行?右下欄末行
「第1図において、第一対のエレメントは第1エレメント(1)及び第2エレメント(2)からなるものとして示されている。これらのエレメント(1)、(2)はそれらの各軸(3)及び(4)のまわりにおいて回転できるように構成されている。それらエレメントの回転は、例えば液圧モータなどのようなモータにより駆動される。モータはその駆動シャフト(6)上に駆動歯車(7)を装備している。エレメント(1)及び(2)は支持シャフト(8)および(9)を有し、これらのシャフトは例えばボールベアリングなどを介してベアリングハウジング(10)内に支持されている。支持シャフトはモータ(5)の駆動歯車(7)と噛合する歯車(11)及び(12)をそれぞれ有する。したがって、駆動歯車(7)はエレメント(1)及び(2)を同方向(13)及び(14)に回転させることになる。これらの歯車はまた、エレメント(1)及び(2)を同期回転させるように構成されている。
エレメント(1)及び(2)はクランプ装置(チャック)(15)及び(16)を有し、これらのクランプ装置によりホルダ(17)及びホルダ(18)を保持するようになっている。これらのホルダは三次元体(21)及び素材(22)のための支持装置(19)及び(20)を保持するものである。三次元体(21)の外部輪郭は複製されるべきものであり、その外部輪郭となるように加工されるべき素材(22)は例えばチタン又は金属合金などからなっている。この三次元体(複製物)及び素材は接着剤又は接合装置などによりそれぞれ支持装置(19)及び(20)に取り付けられる。これらの支持装置は周知のクランプ原理を用いた保持装置内に保持されている。ハウジング(10)はガイド(23)及び(24)上に取り付けられたことによりエレメント(1)及び(2)をそれらの回転軸(3)及び(4)に沿って矢印(25)で示す方向に軸方向変位させることができるようなっている。この軸方向変位は、例えば液圧シリンダなどのような軸方向変位装置(26)により達せられる。この液圧シリンダのピストン(27)はハウジング(10)に取り付けられている。軸方向変位の速度は特定の加工作業に適するように調整することができる。」
(2-イ)第4頁左上欄第6?11行
「第3のエレメントは前記装置枠に関して移動することができる検出装置(31)の支持要素を構成するものである。ここに示した実施例において、装置(31)は第3のエレメント内で軸方向変位できるように配置されたピン又は針形を有する。第3のエレメントはまた軸方向変位可能な液圧ピストン(32)のための支持機能をも有する。このピストンは後述の通り、サーボピストンとして作用するものである。」
(2-ウ)第4頁左下欄第10?13行
「ピン(31)は回転軸(3)に対向した軸線(31a)を有し、これによって鈍角(α)が形成される。1つの好ましい実施例において、この角度は約135゜にされる。しかしながら、角度は90°?約170°程度までの範囲で選択することができる。」
(2-エ)第4頁左下欄第23行?右下欄第4行
「エレメント(29)はそれがサーボピストン及びアタッチメントの矢印(51)で示す軸方向変位を追従するようにアタッチメント(43)内に堅固に支持されている。エレメントは素材(22)を加工するための工具(52)を支持している。この工具は素材がチタン又は他の硬質合金からなっている場合、硬質金属のフライス又はミリングカッタ(52)から構成される。エレメント(29)の軸線(53)は軸(4)と角度(β)をなす方向に突出しているが、この角度(β)はなるべくなら角度(α)と同じ大きさにすべきである。」
(2-オ)第4頁右下欄第14?23行
「上記の装置の動作モードは次の通りである。第1及び2のエレメント(1)及び(2)は例えば、1000rpmの速度で回転し、同時にピン(31)及び工具(52)に向かって前進する。この変位中において、ピンは複製物(21)の先端(21a’)から基部(21a”)までの輪郭を検出することができる。この検出に応じて堅固に構成されたエレメント(28)内のサーボピストン(32)は、ピン(31)による検出に従って軸方向変位を生ずるように駆動される。これらの運動はアタッチメント(34)、従ってエレメント(29)に伝達される。これにより工具(52)は素材(22)上において、ピン(31)により検出された輪郭に対応する運動パターンを実行する。かくして複製物(21)に対応する三次元体は素材(22)から製作される。」

上記摘記事項(2-ア)?(2-オ)、及びFig.1?3の記載事項を、技術常識を勘案しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物2には次の事項(以下、「刊行物2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
「以下の工程を含む、複製物21に対応する三次元体を製作する方法:
複製物21を検出するための条件が設定されており、ここで前記条件は、前記複製物21の回転軸3に関するピン31等を含むエレメント28の角度α、及び前記複製物21の回転速度と、前記複製物21の前記回転軸3に沿った前記エレメント28と前記複製物21の相互に関する軸方向変位速度との間の関係を少なくとも含み;
前記複製物21を回転させ、同時に前記複製物21を、前記複製物21の前記回転軸3に沿って相互に関して軸方向変位させ、同時に前記ピン31等を含むエレメント28と前記複製物21の外部輪郭との間の相互作用によって生成される距離を検出し;
前記複製物21の回転軸3に関するエレメント28の角度αと素材22の回転軸4に関するエレメント29の角度βとを同じとし、前記複製物21の回転と前記素材22の回転を同期させ、前記複製物21の前記回転軸3に沿った前記エレメント28と前記複製物21の相互に関する軸方向変位速度と、前記素材22の前記回転軸4に沿った前記エレメント29と前記素材22の相互に関する軸方向変位速度とを同じとし;そして
工具52を含む前記エレメント29が前記素材22を加工して前記素材22上に前記複製物21の前記外部輪郭を複製するように、前記エレメント28と前記複製物21の間の相互作用によって生成された前記検出された距離に対応する前記素材22に関する前記エレメント29の位置を変化させることによって、前記複製物21に対応する三次元体を製作する。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「入れ歯」は、本願発明における「少なくとも一つの三次元の物体」に相当し、以下同様に、「臨床石膏50」は、「少なくとも一つの模型」に、「接触端子」は、「センサ」に、「計算機4」は、「制御手段」に、「工作機械6」は、「作業ツール」に、それぞれ相当している。
また、引用発明では、「入れ歯に対向及び隣り合う歯牙から形成した臨床石膏50の歯牙の高さ方向をZ軸とし、メッシュ単位に接触端子を送り、Z軸との垂直面であるxy平面上の矩形領域内のメッシュ格子の各格子点における複数歯牙の咬合面の高さ(Zの値)を計測し、咬合面のメツシユ分割例にしたがつたデータを採取」することから、臨床石膏50を検出するための条件が設定されていること、及び臨床石膏50と接触端子のうち接触端子を、相互に関して移動させ、同時に接触端子と臨床石膏50の表面である咬合面との間の相互作用によって生成される複数の距離としての高さ(Zの値)を検出して複数のデータを得ていることは明らかである。そうすると、引用発明の「入れ歯に対向及び隣り合う歯牙から形成した臨床石膏50の歯牙の高さ方向をZ軸とし、メッシュ単位に接触端子を送り、Z軸との垂直面であるxy平面上の矩形領域内のメッシュ格子の各格子点における複数歯牙の咬合面の高さ(Zの値)を計測し、咬合面のメツシユ分割例にしたがつたデータを採取」することは、「模型とセンサの少なくとも一つを、相互に関して移動させ、同時にセンサと模型の表面との間の相互作用によって生成される複数の距離を検出して複数のデータを得」ている限りにおいて、本願発明の「前記模型を回転させ、同時に前記模型と前記センサの少なくとも一つを、前記模型の前記縦軸に平行な方向において相互に関して移動させ、同時に前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される複数の距離を検出してデータの第一の組を得」ることと共通する。
さらに、引用発明の「計算機4は工作機械6を稼動制御させるための、入れ歯形状加工用数値制御データ(NCデータ)を作成し、これを工作機械に転送し、所定の入れ歯を加工する」ことは、「作業ツールが検出された複数のデータを利用して三次元の物体を製造する」ことに限り、本願発明の「前記作業ツールが前記ブランクから材料を選択的に除去して前記ブランク上に前記模型の前記表面を実質的に再現するように、前記センサと前記模型の間の相互作用によって生成された前記検出された距離に対応する前記ブランクに関する前記作業ツールの位置を変化させることによって、前記三次元の物体を製造する」ことと共通する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
「以下の工程を含む、少なくとも一つの三次元の物体を製造する方法:
少なくとも一つの模型を検出するための条件を設定し、
前記模型とセンサの少なくとも一つを、相互に関して移動させ、同時に前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される複数の距離を検出して複数のデータを得;
作業ツールが検出された前記複数のデータを利用して前記三次元の物体を製造する。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、
a)少なくとも一つの模型を検出するための設定された条件が、模型の縦軸に関する少なくとも一つのセンサの角度、及び模型の回転速度と、模型の縦軸に平行な方向におけるセンサと模型の相互に関する移動速度との間の関係を少なくとも含み;
b)模型を回転させ、同時に模型とセンサの少なくとも一つを、模型の縦軸に平行な方向において相互に関して移動させることによりデータの第一の組を得;
d)少なくとも一つの作業ツール及び少なくとも一つのブランクのためにそれぞれ少なくとも一つのセンサ及び少なくとも一つの模型の設定された条件を実質的に再現し;そして
e)作業ツールがブランクから材料を選択的に除去してブランク上に模型の表面を実質的に再現するように、センサと模型の間の相互作用によって生成された検出された距離に対応するブランクに関する作業ツールの位置を変化させることによって、三次元の物体を製造するのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
[相違点2]
本願発明は、設定された条件及びデータの第一の組を、三次元の物体を製造するための少なくとも一つの作業ツールを制御するための少なくとも一つの制御手段に伝送しているのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。

上記相違点1、2について検討する。
[相違点1について]
本願発明と刊行物2記載の事項とを対比すると、刊行物2記載の事項における「複製物21に対応する三次元体」は、本願発明の「少なくとも一つの三次元の物体」に相当し、以下同様に、「製作」は、「製造」に、「複製物21」は、「少なくとも一つの模型」に、「ピン31等を含むエレメント28」は「少なくとも一つのセンサ」に、「軸方向変位速度」は、「移動速度」に、「軸方向変位」は、「移動」に、「外部輪郭」は、「表面」に、「工具52等を含むエレメント29」は、「少なくとも一つの作業ツール」に、「素材22」は、「少なくとも一つのブランク」に、「複製」は、「実質的に再現」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物2記載の事項では、「複製物21を検出するための条件が設定されており、ここで前記条件は、前記複製物21の回転軸3に関するピン31等を含むエレメント28の角度α、及び前記複製物21の回転速度と、前記複製物21の前記回転軸3に沿った前記エレメント28と前記複製物21の相互に関する軸方向変位速度との間の関係を少なくとも含」んでいることから、「少なくとも一つの模型を検出するための条件が設定されており、ここで前記条件は、前記模型の軸に関する少なくとも一つのセンサの角度、及び前記模型の回転速度と、前記模型の前記軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度との間の関係を少なくとも含」んでいることが明らかである。
また、刊行物2記載の事項における「回転軸3、4」は、「軸」である限りにおいて、本願発明の「縦軸」と共通し、以下同様に、「回転軸3、4に沿った」は、「軸に平行な方向」である限りにおいて、「縦軸に平行な方向」と共通し、「前記ピン31等を含むエレメント28と前記三次元体の外部輪郭との間の相互作用によって生成される距離を検出」することは、「前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される距離を検出」することに限り、「前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される複数の距離を検出してデータの第一の組を得」ることと共通する。
さらに、刊行物2記載の事項の、「前記三次元体の回転軸3に関するエレメント28の角度αと素材22の回転軸4に関するエレメント29の角度βとを同じとし、前記三次元体の回転と前記素材22の回転を同期させ、前記三次元体の前記回転軸3に沿った前記エレメント28と前記三次元体の相互に関する軸方向変位速度と、前記素材22の前記回転軸4に沿った前記エレメント29と前記素材22の相互に関する軸方向変位速度とを同じと」することは、「前記模型の軸に関する少なくとも一つのセンサの角度と少なくとも一つのブランクの軸に関する少なくとも一つの作業ツールの角度とを同じとし、模型の回転とブランクの回転を同期させ、前記模型の前記軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度と、前記ブランクの前記軸に平行な方向における前記作業ツールと前記ブランクの相互に関する移動速度とを同じ」とすることに限り、本願発明の「少なくとも一つの作業ツール及び少なくとも一つのブランクのためにそれぞれ少なくとも一つのセンサ及び前記少なくとも一つの模型の前記設定された条件を実質的に再現」することと共通する。
さらにまた、上記摘記事項(2-エ)を参酌すると、引用発明の工具52は、「フライス又はミリングカッタ」であることから、工具52が素材22を加工することは、工具52が素材22から材料を選択的に除去していることに他ならない。
してみれば、刊行物2には、
「以下の工程を含む、少なくとも一つの三次元の物体を製造する方法:
a)少なくとも一つの模型を検出するための条件が設定されており、ここで前記条件は、前記模型の軸に関する少なくとも一つのセンサの角度、及び前記模型の回転速度と、前記模型の前記軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度との間の関係を少なくとも含み;
b’)前記模型を回転させ、同時に前記模型を、前記模型の前記軸に平行な方向において相互に関して移動させ、同時に前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される距離を検出し、
d’)前記模型の軸に関する少なくとも一つのセンサの角度と少なくとも一つのブランクの軸に関する少なくとも一つの作業ツールの角度とを同じとし、模型の回転とブランクの回転を同期させ、前記模型の前記軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度と、前記ブランクの前記軸に平行な方向における前記作業ツールと前記ブランクの相互に関する移動速度とを同じとし;そして
e)作業ツールが前記ブランクから材料を選択的に除去して前記ブランク上に前記模型の前記表面を実質的に再現するように、前記センサと前記模型の間の相互作用によって生成された前記検出された距離に対応する前記ブランクに関する前記作業ツールの位置を変化させることによって、前記三次元の物体を製造する。」
が記載されているとすることができる。
そして、上記刊行物2記載の事項も引用発明も、三次元の物体を製造する方法という同一の技術分野に属するものということができ、刊行物2記載の事項を引用発明に適用することは、当業者が容易になし得たことである。
またこのとき、センサと模型の相互に関する移動方向及び作業ツールとブランクの相互に関する移動方向を模型の縦軸に平行な方向とすることは、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
さらに、引用発明では、模型の回転とブランクの回転を同期させていること、ブランク上に模型の表面を実質的に再現していることを勘案すれば、模型の回転速度とブランクの回転速度を実質的に同じとすることも、当業者が適宜設定し得る設計的事項であり、すなわち、「前記模型の軸に関する少なくとも一つのセンサの角度と少なくとも一つのブランクの軸に関する少なくとも一つの作業ツールの角度とを同じとし、模型の回転とブランクの回転を同期させ、前記模型の前記軸に平行な方向における前記センサと前記模型の相互に関する移動速度と、前記ブランクの前記軸に平行な方向における前記作業ツールと前記ブランクの相互に関する移動速度とを同じ」とすることにおいて「模型の回転速度とブランクの回転速度を実質的に同じ」とし、「少なくとも一つの作業ツール及び少なくとも一つのブランクのためにそれぞれ少なくとも一つのセンサ及び前記少なくとも一つの模型の前記設定された条件を実質的に再現」することは、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
さらにまた、刊行物2に記載の事項を引用発明に適用することにより、センサと模型の表面との間の相互作用によって生成される距離を検出したものは、複数の距離を検出したデータとして三次元物体の製造に供されることとなることは明らかであるとともに、該複数のデータを1つのまとまりとしての第一の組として取り扱うことも当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
したがって、引用発明に刊行物2記載の事項を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
加工のためのデータ等を制御手段に伝送し、該制御手段により作業ツールを制御することは、文献を挙げるまでもなく、優先権主張日前に周知の技術手段である。
また、刊行物2記載の事項では、「前記模型を回転させ、同時に前記模型を、前記模型の前記軸に平行な方向において相互に関して移動させ、同時に前記センサと前記模型の表面との間の相互作用によって生成される距離を検出し」ているのであるから、「前記設定された条件」と「前記データの第一の組」とは、対応関係があることが明らかである。
してみれば、刊行物2記載の事項を引用発明に適用して、模型の表面を実質的に再現するように三次元の物体を製造するに際して、「前記設定された条件」及び「前記データの第一の組」を制御手段に伝送することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の作用効果は、引用発明、及び刊行物2記載の事項、周知の技術手段、及び設計的事項から予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の事項、周知の技術手段、及び設計的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項2?19に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-05 
結審通知日 2007-04-10 
審決日 2007-04-24 
出願番号 特願平3-351685
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木 誠  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 豊原 邦雄
中島 昭浩
発明の名称 歯の人工代替物、歯科補綴物などとして有用な、個々に設計された三次元物体の製造方法と製造装置  
復代理人 浅野 典子  
復代理人 風早 信昭  

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