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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1163782
審判番号 不服2004-22448  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-01 
確定日 2007-09-05 
事件の表示 平成 7年特許願第279534号「透明な熱保存性のフィルムを備えた光源」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月17日出願公開、特開平 8-241694〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成7年10月27日(パリ条約による優先権主張1994年10月31日、米国)の出願であって、平成16年7月27日付け(発送日同年8月3日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年12月1日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成16年12月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月1日付けの手続補正を却下する。
[理由]
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の

「【請求項1】密閉室を有するガラス質の光透過性エンベロープと、
前記密閉室内で光を発生することができる発光手段と、
可視光線を透過しながら、紫外線を吸収することができる透明フィルムとを備え、
前記密閉室が、前記透明フィルムを設けないで作動された場合にホット領域およびコールド領域を生じるものであり、前記透明フィルムが前記コールド領域のみを覆っていて、前記コールド領域に付加的な熱負荷を加えることを特徴とする、光を生成するように作動可能な光源。」
を、

「【請求項1】密閉室を有するガラス質の光透過性エンベロープと、
前記密閉室内で光を発生することができる発光手段と、
可視光線を透過しながら、紫外線を吸収することができる透明フィルムとを備え、
前記密閉室が、前記透明フィルムを設けないで作動された場合にホット領域およびコールド領域を生じるものであり、前記透明フィルムが高屈折率材料の層と低屈折率材料の層との交互の層よりなる二色性被膜であり、前記透明フィルムが前記コールド領域のみを覆っていて、前記コールド領域に付加的な熱負荷を加えることを特徴とする、光を生成するように作動可能な光源。」

と補正することを含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した構成要件に「前記透明フィルムが高屈折率材料の層と低屈折率材料の層との交互の層よりなる二色性被膜であり、」を追加するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前である昭和61年11月8日に頒布された特開昭61-250958号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、

(1-1)「以下、本発明の実施例について説明する。第1図は、本発明を適用したメタルハライドランプの実施例を示す外観図である。図において、1は石英製の発光管で、両端にタングステン製の主電極2,2と、一方の主電極に接近して始動極3とが設けられており、該発光管1は支持金具4で支持され、外管5内に収納されている。この実施例では、発光管1として、1cm3の内容積を有し、定格電力100Wで壁面負荷が18W/cm2となるものを用いている。そして該発光管1内には、水銀と、始動を容易にするためのアルゴン等の希ガスと共に、赤外領域に強い発光スペクトルを有する沃化セシウムCsIと、赤外線を10%以上良好に吸収すると共に可視光を発光する沃化ディスプロシウムDyI3及び沃化タリウムTlIとを総量で3mg封入している。
また、発光管1の外周面には、セシウムCsの赤外領域の発光波長(852nm、894nm)を中心とした波長に対する反射特性をもち、且つ可視光に対し高い透過性をもつ反射膜として、酸化チタンTiO2と酸化ケイ素SiO2の薄膜を交互に積層してなる、TiO2-SiO2-TiO2-SiO2-TiO2の5層の薄膜で形成した選択反射膜6が設けられている。
所望の波長の光源を反射させるための反射膜の膜厚dは、一般に反射膜の屈折率をn、所望の反射光の中心波長をλとしたとき、λ=4n・dを満足するように選定される。
本実施例においては、TiO2及びSiO2の屈折率をそれぞれ、2.3及び1.46とすると、TiO2-SiO2-TiO2-SiO2-TiO2の各層の膜厚は、97nm-150nm-97nm-150nm-97nmに設定される。」(2頁右下欄6行?3頁左上欄16行)

(1-2)「第3図に示すように、・・・赤外光Riは、反射膜6によってその大部分が反射され、その反射赤外光の一部は管壁に凝集している沃化物8に吸収される。」(3頁右上欄17行から左下欄1行)

(1-3)「なお、上記反射膜6は紫外領域の反射効果を備えているので、ディスプロシウムDyから放射される紫外領域の発光が、この反射膜6によって反射され、この反射紫外線によっても凝集している沃化物の加熱が行われ、蒸気圧の向上作用が行われている。」(3頁左下欄11行?16行)

が記載されている。

そして、第3図によれば、
(1-4)「沃化物8が凝集している管壁と沃化物8が凝集していない管壁の存在」
を見て取ることができる。

したがって、これらの記載事項によると、引用例1には、次のとおりの発明、
「密閉室を有する石英製(ガラス質に相当。)の光透過性エンベロープと、
発光管1内(前記密閉室内に相当。)で光を発生することができる主電極2,2(発光手段に相当。)と、
可視光に対し高い透過性をもつ(可視光線を透過しながらに相当。)、選択反射膜6(透明フィルムに相当。)とを備え、前記密閉室が、前記選択反射膜6(透明フィルムに相当。)を設けないで作動された場合に沃化物8が凝集していない管壁(ホット領域に相当。)および沃化物8が凝集している管壁(コールド領域に相当。)を生じるものであり、前記選択反射膜6(透明フィルムに相当。)が高屈折率材料TiO2の薄膜(高屈折率材料の層に相当。)と低屈折率材料SiO2の薄膜(低屈折率材料の層に相当。)との交互の積層(交互の層に相当。)よりなる二色性被膜であり、前記選択反射膜6(透明フィルムに相当。)が発光管1の外周面(前記コールド領域のみに対応。)を覆っていて、前記沃化物8が凝集している管壁(コールド領域に相当。)に加熱が行われる(付加的な熱負荷を加えるに相当。)ことを特徴とする、光を生成するように作動可能な発光管1(光源に相当。)。」(以下、これを「引用例1に記載の発明」という。)

が記載されているものと認める。

(2)対比・判断
本件補正発明1と引用例1に記載の発明とを対比する。
引用例1に記載の発明における「石英製」、「発光管1内」、「主電極2,2」、「可視光に対し高い透過性をもつ」、「選択反射膜6」は、それぞれ、
本件補正発明1における「ガラス質」、「前記密閉室内」、「発光手段」、「可視光線を透過しながら」、「透明フィルム」に相当する。
そして、引用例1に記載の発明における「沃化物8が凝集していない管壁」は、温度が低いために沃化物8が凝集している領域であるから、本件補正発明1における「コールド領域」をなし、同じく「沃化物8が凝集している管壁」は、本件補正発明1における「ホット領域」をなしていると認められる。
さらに、引用例1に記載の発明における「高屈折率材料TiO2の薄膜」、「低屈折率材料SiO2の薄膜」、「交互の積層」、「加熱が行われる」、「発光管1」は、それぞれ、
本件補正発明1における「高屈折率材料の層」、「低屈折率材料の層」、「交互の層」、「付加的な熱負荷を加える」、「光源」に相当する。
また、引用例1に記載の発明における「発光管1の外周面」も、本件補正発明1における「コールド領域」も、共に、「光源の領域」である。
したがって、両者は、

【一致点】
「密閉室を有するガラス質の光透過性エンベロープと、
前記密閉室内で光を発生することができる発光手段と、
可視光線を透過する、透明フィルムとを備え、
前記密閉室が、前記透明フィルムを設けないで作動された場合にホット領域およびコールド領域を生じるものであり、前記透明フィルムが高屈折率材料の層と低屈折率材料の層との交互の層よりなる二色性被膜であり、前記透明フィルムが光源の領域を覆っていて、前記コールド領域に付加的な熱負荷を加えることを特徴とする、光を生成するように作動可能な光源。」
で一致し、

【相違点1】
「本件補正発明1では、透明フィルムが、紫外線を吸収することができるのに対して、
引用例1に記載の発明では、選択反射膜6(透明フィルムに相当。)が、紫外線を吸収することができるかどうか不明である点」

【相違点2】
「本件補正発明1では、透明フィルムが覆っている光源の領域が、コールド領域のみであるのに対して、
引用例1に記載の発明では、選択反射膜6(透明フィルムに相当。)が覆っている光源の領域が、発光管1の外周面である点」

で相違する。

そこで、上記【相違点1】について検討する。
酸化チタンや酸化チタンおよび酸化ケイ素の交互層からなる多層の赤外反射フィルムは、紫外線を吸収するから
[例えば、
特開昭62-131462号公報の
「酸化チタンは紫外線を吸収する性質を有する。」(2頁左上欄18行?19行)の記載、
特開平2-7347号公報の
「この内部エンベロープ16は、好ましくはその外表面にコーティング42をもっていてもよく、このコーティングは、好ましくは酸化タンタルおよび二酸化ケイ素、または酸化チタンおよび二酸化ケイ素の交互層からなる多層の赤外反射フィルム(膜)が好ましい。この多層の赤外反射フィルムは、アーク温度が上昇して励起源からの入力をさらに増大しなくても維持されるように、ランプから発した赤外エネルギをランプのアークの方に向かって反射することによって、作動ランプ16(後述)の効率を改善する。この赤外反射コーティング42はまた、ランプ16の紫外エネルギを付随的に吸収するという意味でも有利である。」(4頁左下欄6行?19行)の記載、
参照。]、
引用例1に記載の発明における、TiO2の薄膜とSiO2の薄膜との交互の積層よりなる、選択反射膜6(透明フィルムに相当。)も、紫外線を吸収することができると認められる。

つぎに、上記【相違点2】について検討する。
透明フィルムが覆っている光源の領域を、コールド領域のみとすることは、周知であるから
[例えば、
特開平3-194848号公報の
「つまり上側のアークに近いほうが温度が上がり、下側のアークから遠い部分の温度が下がり」(1頁右下欄18行?20行)
「膜として例えばCeO2(高屈折率膜 n≒2.2)及びMgF2(低屈折率膜)しかし実際には膜の種類は重要ではない。赤外部のスペクトルを反射するランプチューブの下部にあるということが重要である。このことによってランプ管壁の温度不均一は大幅に改善される。」(2頁左下欄3行?8行)の記載、
特開平4-206437号公報の
「本発明はこれらの問題点を解決するためになされたもので、管壁負荷を高めずに発光管内壁の最冷部の温度を高め、ハロゲン化物の蒸気圧を上昇させることにより、動程特性が安定しかつ演色性にすぐれたメタルハライドランプを提供するものである。」(2頁左上欄4行?9行)
「さらに、赤外線反射膜を発光管の下部にのみ塗布することにより、発光管上部の最高温部分の温度の上昇を抑制する一方で、溶融ハロゲン化物が存在する発光管下部の内壁温度およびハロゲン化物の温度を高めることができる。」(2頁右上欄9行?13行)
「発光管1の中心軸と直交した発光管断面上において発光管1の中心軸を中心として角度θが90°となる範囲に発光管最下部を中心にして、発光管1の下側部にTiO2-SiO2系の赤外線反射膜5が形成されている。」(2頁左下欄10行?15行)の記載、
参照。]、
引用例1に記載の発明において、その選択反射膜6(透明フィルムに相当。)が覆っている発光管1の外周面(光源の領域に相当。)を、沃化物8が凝集している管壁のみ(コールド領域のみに相当。)とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件補正発明1の効果は、引用例1に記載の発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が予測可能な範囲のものである。

したがって、本件補正発明1は、引用例1に記載の発明、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成16年12月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成16年7月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】密閉室を有するガラス質の光透過性エンベロープと、
前記密閉室内で光を発生することができる発光手段と、
可視光線を透過しながら、紫外線を吸収することができる透明フィルムとを備え、
前記密閉室が、前記透明フィルムを設けないで作動された場合にホット領域およびコールド領域を生じるものであり、前記透明フィルムが前記コールド領域のみを覆っていて、前記コールド領域に付加的な熱負荷を加えることを特徴とする、光を生成するように作動可能な光源。」


4.引用例記載の発明
引用例記載の発明は、前記「2.(1)」に記載したとおりである。


5.対比・判断
本願発明1は、前記「2.」で検討した本件補正発明1から「前記透明フィルムが高屈折率材料の層と低屈折率材料の層との交互の層よりなる二色性被膜であり、」の構成要件を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明1が、前記「2.(2)」に記載したとおり引用例1に記載の発明、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、本件補正発明1についての判断で示したのと同様の理由により、引用例1に記載の発明、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例1に記載の発明、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-06 
結審通知日 2007-04-10 
審決日 2007-04-24 
出願番号 特願平7-279534
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村田 尚英  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 小川 浩史
山川 雅也
発明の名称 透明な熱保存性のフィルムを備えた光源  
代理人 黒川 俊久  
代理人 伊藤 信和  
代理人 小倉 博  
代理人 松本 研一  

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