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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1164438
審判番号 不服2006-22466  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2007-09-13 
事件の表示 特願2001-9585「異方性導電粘着シート及びそれを用いた電気及び/又は電子素子」拒絶査定不服審判事件〔平成14年7月31日出願公開、特開2002-212518〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年1月18日の出願であって、平成16年3月11日の手続補正により補正され、平成18年6月2日(起案日)に拒絶理由通知がされ、同年8月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同月28日(起案日)に拒絶査定がされ、同年10月5日に拒絶査定に対する審判が請求され、同年12月27日に実験成績証明書が提出されたものである。
その発明は、平成16年3月11日及び平成18年8月7日の手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載のとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「粘着剤層中において導電性粒子が平面方向に互いに実質的に接触しない程度に1層に配列分散し、且つ、2導電性微細素子間に該粘着層を挟み込んで圧着すると該2導電性微細素子相互の電気的な接続を可能とする様に構成されている粘着剤層をセパレータ上に有する異方性導電粘着シートであって、該導電性粒子が、金-ニッケル被覆カーボン粒子、金被覆金属粒子、金-ニッケル被覆樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料であり、該導電性粒子の粒子直径が3?50μmであり、且つ、粘着剤層の粘着剤だけの部分の厚みが導電性粒子の直径の±4μmの範囲内であることを特徴とする異方性導電粘着シート。」

2 原査定の理由の概要
原査定の理由は、平成18年6月2日付け(起案日)の拒絶の理由であるところ、その理由の対象とされた請求項のうちの請求項2が、同年8月7日の手続補正により本願発明1に相当するものとなったと認められる。
すると、原査定の理由は、本願発明1は、その出願前頒布された下記刊行物A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものであるといえる。



刊行物A:特開昭62-188184号公報
刊行物B:特開昭64- 89209号公報

3 刊行物の記載
(1) 刊行物A(特開昭62-188184号公報)
刊行物Aには以下の事項及び第10頁下欄「第1表」の記載がある。
(A-1) 「絶縁性の接着剤成分と導電性粒子とよりなる回路接続用の接着剤組成物において、以下(イ)、(ロ)の条件を満足する導電性粒子を0.1?15体積%含有することを特徴とする回路接続用接着剤組成物。(イ)・・・、(ロ)・・・。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2) 「接着剤成分が感熱貼付性を有するものである特許請求の範囲第1項記載の回路接続用接着剤組成物。」(特許請求の範囲第5項)
(A-3) 「接着剤成分が感圧貼付性を有するものである特許請求の範囲第1項記載の回路接続用接着剤組成物。」(特許請求の範囲第6項)
(A-4) 「・・・これらはいずれもその基本思想は、相対峙する回路間に金属粒子等の導電材料を含む異方導電性の接続部材層を設け、加圧または加熱加圧手段を講じることによって、回路間の電気的接続と同時に隣接回路間に絶縁性を付与し、相対峙する回路を接着固定するといういわゆる異方導電接続材料による方法である。」(第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第4行)
(A-5) 「ここで接続時の加圧および加熱加圧により軟化あるいは変形可能である理由は、回路接続時に導電性粒子同士あるいは導電性粒子と回路との接触面積を増加するために必要であり、常温においてのいわゆる感圧接着剤による感圧接続および400℃迄の加熱を併用した感熱接続によることも可能である。400℃以上では回路基板に対して熱損傷を与える恐れがあり、本発明には適用できない。」(第4頁左下欄第16行?同頁右下欄第4行)
(A-6) 「被覆に用いられる金属2としては各種の金属、金属酸化物、合金等が用いられるが、下記を考慮して選択される。(1)・・・。(2)・・・。・・・これら(1)(2)の条件を満足する金属元素の例としては、Zn,Al,Sb,U,Cd,Ga,Ca,Au,Ag,Co,Sn,Se,Fe,Cu,Th,Pb,Ni,Pd,Be,Mg,Mnなどがあり、これらを単独もしくは複合して用いることが出来、・・・」(第5頁左上欄第11行?同頁右上欄第11行)
(A-7) 「接着剤中に占める導電性粒子は0.1?15体積%が適当である。0.1体積%以下では満足する導電性が得られず、15体積%以上では隣接回路との絶縁性が低下し接着剤フィルムの透明性も得られない。」(第6頁左上欄第15?19行)
(A-8) 「本発明にかかる接着剤組成物においては、高分子核材に被覆された金属は接続時の加圧あるいは加熱加圧により、導電性粒子相互あるいは導電回路部と接触して導通路を形成する。・・・一方絶縁回路部における粒子には、回路間の粒子ほどには圧力がかからない為、導電性粒子の粒径や添加量を選択することと合わせて隣接回路との絶縁性は充分に保たれる。」(第8頁右欄第13行?同頁左下欄第5行)
(A-9) 「実施例1?9及び比較例-1 (1)接着剤組成物の作製 表面がAuでメッキ被覆された粒径および被覆層厚みの異なるポリスチレン樹脂の球状粒子を、スチレンブタジェンブロック共重合体(MI2.6)100部と軟化点120℃のテルペン系粘着付与剤40部およびトルエン200部よりなる接着剤溶液中に添加量を変えて配合し、この配合物を超音波分散して導電性粒子混合の接着剤組成物を得た。(2)フィルムの作成 この接着剤組成物をバーコータを用いて、セパレータ(シリコーン処理ポリエステルフィルム)上に塗布し、100℃で厚みに応じて5分間?30分間の乾燥により溶剤を除去して接着剤フィルム化した。(3)評価 ライン巾0.1mm、ピッチ0.2mm、厚み35μmの回路を有する全回路幅100mmのフレキシブル回路板(FPC)に、接着巾3mm、長さ100mmに切断した上記接着フィルムを載置して120℃-10Kg/cm2-5秒の加熱加圧により仮貼付して接続部材付FPCを得た。そのあとセパレータを剥離して、他の同一ピッチを有するFPCをセパレータ剥離面に載せて顕微鏡でFPC回路の位置合わせをした後、温度150℃、圧力20Kg/cm2で20秒間加熱加圧して回路を接続した。評価結果を第1表に示したが、各実施例において接着シートは透明性を有しているため、透過光の助けにより回路の位置合わせが容易であった。特性を第1表に示した。各実施例において得られた接続体は良好なる導通抵抗および隣接回路との絶縁性を示し信頼性試験後もその特性は良好であった。」(第9頁左上欄第12行?同頁左下欄第7行)
(2) 刊行物B(特開昭64-89209号公報)
刊行物Bには、以下の事項の記載がある。
(B-1) 「樹脂製微球体の表面にニッケルからなる第1導電メッキ層が形成され、該第1メッキ層表面に金からなる第2導電メッキ層とが形成されたダブルメッキ微球体が、絶縁性接着シート中に分散されてなることを特徴とする異方導電性接着シート。」(特許請求の範囲第1項)
(B-2) 「本発明異方導電性接着シートは、上述の如く、樹脂製微球体上に第1導電ニッケルメッキ層と第2導電メッキ層とが形成されたダブルメッキ微球体が導電剤として用いられているので、ニッケル粉等を導電剤として用いた従来の異方導電接着シートに比して、温度や湿度の過酷な条件下でも長期に亘って異方導電性を保持することができ、実用的価値が高いものである。」(第3頁右下欄第1?8行)

4 刊行物Aに記載された発明
刊行物Aは、「絶縁性の接着剤成分と導電性粒子とよりなる回路接続用の接着剤組成物」(摘記(A-1))に関するものであり、その接着剤組成物の具体例として実施例1?9などが記載されている。それらの実施例における接着剤組成物は、摘記(A-9)に「表面がAuでメッキ被覆された粒径および被覆層厚みの異なるポリスチレン樹脂の球状粒子を、スチレンブタジェンブロック共重合体(MI2.6)100部と軟化点120℃のテルペン系粘着付与剤40部およびトルエン200部よりなる接着剤溶液中に添加量を変えて配合し、この配合物を超音波分散して導電性粒子混合の接着剤組成物」であって、「バーコータを用いて、セパレータ(シリコーン処理ポリエステルフィルム)上に塗布し、100℃で厚みに応じて5分間?30分間の乾燥により溶剤を除去して接着剤フィルム化した」ものであることが記載されている。
そして、刊行物Aの第1表(第10頁下欄)によれば、実施例2の接着剤フィルムは、接着剤層の厚みが50μmであり、導電性粒子の平均粒子径は50μmであることが記載されている。すると、その導電性粒子は、その平均粒子径50μmがフィルムの厚みと同等であり、フィルムに分散されていると認められるから、フィルム層中に単粒子状で配列分散されている、すなわち、平面方向に1層に配列分散しているものと認められる。
すると、実施例2の接着剤フィルムは、その導電性粒子が、粒子直径が50μmで表面がAuでメッキ被覆されたポリスチレン樹脂の球状粒子、すなわち、金被覆樹脂粒子であって、接着剤層中において平面方向に1層に配列分散し、かつ、接着剤層の接着剤だけの部分の厚みが導電性粒子の直径と同じである接着剤フィルムであるといえる。
また、接着剤フィルムを、「ライン巾0.1mm、ピッチ0.2mm、厚み35μmの回路を有する全回路幅100mmのフレキシブル回路板(FPC)に接着巾3mm、長さ100mmに切断した上記接着フィルムを載置して120℃-10Kg/cm2-5秒の加熱加圧により仮貼付して接続部材付FPCを得た。その後セパレータを剥離して、他の同一ピッチを有するFPCをセパレータ剥離面に載せて顕微鏡でFPC回路の位置合わせをした後、温度150℃、圧力20Kg/cm2で20秒間加熱加圧して回路を接続し」(摘記(A-9))て評価した結果、得られた接続体は「良好なる導通抵抗および隣接回路との絶縁性を示し信頼性試験後もその特性は良好」(摘記(A-9))なものであるとされている。その評価の記載における「ライン巾0.1mm、ピッチ0.2mm、厚み35μmの回路」は、導電性の微細素子といえるから、実施例2の接着剤フィルムは、2導電性微細素子間に接着剤層を挟み込んで加熱加圧して導電性微細素子相互の接続を可能とするように構成されている接着剤層をセパレータ上に有するものであるということができる。
そして、実施例2の接着剤フィルムは、「相対峙する回路を接着固定するといういわゆる異方導電接続材料」(摘記(A-4))等の記載からみて異方導電接続材料であるということができ、「接着剤フィルム」は「各実施例において接着シートは透明性を有しているため、透過光の助けにより回路の位置合わせが容易であった。」(摘記(A-9))との記載において「接着シート」という用語と互換性を持って使用されているので、異方(性)導電接着シートということができるから、結局、実施例2の接着剤フィルムは、接着剤層中において、2導電性微細素子間に接着剤層を挟み込んで加熱加圧して導電性微細素子相互の接続を可能とするように構成されている接着剤層をセパレータ上に有する異方性導電接着シートということができる。
さらに、刊行物Aの第1表(第10頁下欄)及び摘記(A-9)によれば、実施例2において得られた接続体は「良好なる導通抵抗および隣接回路との絶縁性を示し信頼性試験後もその特性は良好」なものである。この良好な特性は、「接着剤中に占める導電性粒子は0.1?15体積%が適当である。0.1体積%以下では満足する導電性が得られず、15体積%以上では隣接回路との絶縁性が低下し」(摘記(1-7))及び「本発明にかかる接着剤組成物においては、高分子核材に被覆された金属は接続時の加圧あるいは加熱加圧により、導電性粒子相互あるいは導電回路部と接触して導通路を形成する。」(摘記(A-8))等の記載からみて、その導電性粒子が、平面方向では互いに実質的に接触しない程度に分散していることによってもたらされるものということができる。
そうしてみると、刊行物Aには、
「接着剤層中において導電性粒子が平面方向に互いに実質的に接触しない程度に1層に配列分散し、2導電性微細素子間に該接着層を挟み込んで加熱加圧して接着すると該2導電性微細素子相互の電気的な接続を可能とする様に構成されている接着剤層をセパレータ上に有する異方性導電接着シートであって、該導電性粒子が金被覆樹脂粒子であり、該導電性粒子の粒子直径が50μmであり、且つ、接着剤層の接着剤だけの部分の厚みが導電性粒子の直径と同じであるの異方性導電接着シート」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

5 本願発明1と引用発明との対比
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「平均粒子径」は本願発明1の「粒子直径」に相当し、引用発明の「接着」も本願発明1の「粘着」も共に「貼着」ということができるから、両者は、
「貼着剤層中において導電性粒子が平面方向に互いに実質的に接触しない程度に1層に配列分散し、且つ、導電性微細素子間に該貼着層を挟み込んで貼着すると該導電性微細素子相互の電気的な接続を可能とする様に構成されている貼着剤層をセパレータ上に有する異方性導電貼着シートであって、該導電性粒子の粒子直径が50μmであり、且つ、貼着剤層の貼着剤だけの部分の厚みが導電性粒子の直径が同じである異方性導電貼着シート」である点で一致し、以下の点で相違する。
ア 貼着及び貼着手段が本願発明1においては、「粘着」であり、「圧着」であるのに対し、引用発明においては、「接着」であり、「加熱加圧による接着」である点
イ 導電性粒子が、本願発明1においては、「金-ニッケル被覆カーボン粒子、金被覆金属粒子、金-ニッケル被覆樹脂粒子からなる群から選ばれた少なくとも一種の材料」であるのに対し、引用発明においては、「金被覆樹脂粒子」である点
(以下、これら相違点をそれぞれ「相違点ア」、「相違点イ」という。)

6 相違点の判断
(1) 相違点アについて
刊行物Aにおいては、接着剤成分が「感熱貼付性を有するもの」も、「感圧貼付性を有するもの」も共に用いられることが記載されており(摘記(A-2)、(A-3)及び(A-5))、感圧貼付性を有するものを用いた場合と感熱貼付性を有するものを用いた場合において、導電性粒子の粒径や形状との関係等において異なる配慮が必要であることは記載されてない。
すると、引用発明において感熱貼付性を有するものも感圧貼付性を有するものもともに適宜互換使用しうるものといえるから、引用発明における貼着剤成分を感熱貼付性を有するのものに代えて感圧貼付性を有するものとすること、すなわち粘着剤とすることは当業者が適宜なし得ることである。
そして、貼着剤成分を粘着剤とすると、貼着手段は「圧着」となることは明らかであるが、「圧着」においては加熱は不要であるから、本願発明1の「圧着状態での加熱工程が不要となり、時間的及びコスト的に極めて有利である。」(段落【0019】【発明の効果】)という効果は、引用発明において粘着剤を用いたものが奏すると予測される効果であって、格別顕著なものではない。また、本願発明1の「加熱によって基板やIC等の上の断線等の微細素子破壊の虞があり、歩留まり低下の原因となり得るが、本発明の異方性導電粘着シートを用いた場合は、かかる虞は全く無い。」(段落【0019】【発明の効果】)という効果も、刊行物Aの摘記(A-5)に、「400℃以上では回路基板に対して熱損傷を与える恐れがあ」るとの記載も考慮すれば、引用発明において粘着剤を用いたものが奏すると予測される効果であって、格別顕著なものではない。
(2) 相違点イについて
刊行物Aには、導電性粒子の被覆に用いられる金属元素として、Au(金)やNi(ニッケル)などが例示され、これらを単独若しくは複合して用いることができることが記載されている(摘記(A-6)参照)。また、刊行物Bには、異方導電性接着シートに用いられる導電剤として、「樹脂性微球体の表面にニッケルからなる第1導電層が形成され、該第1メッキ層表面に金からなる第2導電メッキ層とが形成されたダブルメッキ微球体」(摘記(B-1))が、「従来の導電性接着シートに比して、温度や湿度の過酷な条件下でも長期に亘って異方導電性を保持することができ」(摘記(B-2))好ましいことが記載されている。この「樹脂性微球体の表面にニッケルからなる第1導電層が形成され、該第1メッキ層表面に金からなる第2導電メッキ層とが形成されたダブルメッキ微球体」は、「金-ニッケル被覆樹脂粒子」に他ならないから、引用発明において、金-被覆樹脂粒子に代えて、好ましいとされる金-ニッケル被覆樹脂粒子を用いてみることは、当業者が容易になし得ることである。

7 請求人の主張
(1) 請求人は、平成18年12月27日に実験成績証明書を提出し、その末尾に、「金-ニッケル被覆樹脂粒子入り粘着剤の場合、粘着剤層が薄くなると極端に接着力が低くなり粘着剤層が厚くなれば接着力は確保できるが導通は確保が困難になることがわかった。」、「今回の試験結果から接着力を確保しつつ導通を確実にキープできるのは、金-ニッケル被覆樹脂粒子の±4μm程度の粘着剤厚みにする必要があることがわかった。」と結論づけ、『「粘着剤層中において導電性粒子が平面方向に互いに実質的に接触しない程度に1層に配列分散」していることと「粘着剤層の粘着剤だけの厚みが導電性粒子の直径の±4μmの範囲内である」ことが必須条件であることを見出した。粘着剤を用いる粘着シートの場合についてこのような必須要件を教示も開示もしていない引用例から、かかる必須要件は容易に導き出せるものではない。』((d)項)と主張する。
(2) この実験成績証明書は、特定のアクリル系粘着剤100重量部、エポキシ系樹脂0.5重量部、「ブライト11GNR15-MX」なる「直径15μm金-ニッケル被覆樹脂粒子」5重量部を配合した粘着剤について、粘着剤層の厚みを7?23μmまで2μmごとに変えた9種のサンプルをSUS板で挟み込み、初期及び40℃24時間放置後の導通状態並びに初期接着力を測定した試験結果を示すものであって、その結果によれば、初期導通状態は粘着剤層の厚さが7?19μmで「導通」、21、23μmで「絶縁」、24時間後の導通状態は19μmで「圧力をかけた場合かろうじて導通」となること以外は初期導通状態と同じであること、初期接着力は粘着剤層の厚さが厚くなるほど高くなることが示されている。
(3) しかしながら、粘着剤層の厚さが導電性粒子の直径に比して厚くなると、他の条件が同じであれば、1層に配列分散している導電性粒子の上下端と導電性微細素子との接触総面積はより小さくなるから、導通の確保が困難になり、また、粘着剤層の厚さが導電性粒子の直径に比して薄くなれば、導電性微細素子間を接着する粘着剤と導電性微細素子との接触総面積が少なくなるから、接着力が低くなることは、当然のことにすぎず、この実験成績証明書の結果は、当然予測される結果を示すに過ぎないものである。
(4) また、この実験成績証明書においては、特定のアクリル系粘着剤100重量部、エポキシ系樹脂0.5重量部、「ブライト11GNR15-MX」なる「直径15μm金-ニッケル被覆樹脂粒子」5重量部を配合した粘着剤と「SUS板」で挟み込むという特定の場合についての接着力や導通性の結果が示されているにすぎないし、又「SUS板で挟み込み」がどの程度の圧力条件であるかも不明である。
接着力や導通性は、導電性粒子と粘着層の厚さの差の他に、挟む板や導電性粒子の変形しやすさ、その挟み込みの圧力の大きさ、粘着剤の種類などによっても異なるものと考えられるから、所望の接着力や導通性のために好適な導電性粒子と粘着層の厚さの差の範囲は、これらが異なれば異なるはずである。
例えば、実験で用いられた導電性粒子である「ブライト11GNR15-MX」なる「金-ニッケル被覆樹脂粒子」は樹脂粒子であるが、一般的には樹脂粒子よりも本願発明1に包含される導電性粒子である「金被覆金属粒子」や「金-ニッケル被覆カーボン粒子」の方が剛直で変形しにくいと認められる。剛直で変形しにくい粒子の場合、特に、粘着剤の厚みが導電性粒子の直径未満であるときは、圧力をかけたとしてもその粒子やSUS板は変形しにくいから、粘着剤との接触総面積を樹脂粒子の場合より増やすことができず、接着固定しにくい、又は接着固定できない、ことも考えられる。さらに、樹脂粒子であっても、その樹脂の種類により変形しやすさの程度は異なるから、所望の接着力や導通性のために好適な粘着剤の厚みと導電性粒子の直径との差の範囲が異なるものと考えられる。
すると、特定の金-ニッケル被覆樹脂粒子を含む特定の粘着剤を用いて特定の「SUS板」で何らかの「挟み込み」圧力で行った実験結果において、「粘着剤層の粘着剤だけの厚みが導電性粒子の直径の±4μmの範囲内である」ことが「接着力を確保しつつ導通を確実にキープ」するための条件であるといえるとしても、本願発明1の他の導電性粒子である「金-ニッケル被覆カーボン粒子」、「金被覆金属粒子」、「金-ニッケル被覆樹脂粒子」を含む他の粘着剤を用いた場合や、SUS板とは異なる板で別の「挟み込み」圧力で行った場合においても、「±4μm」が好適な粘着剤の厚みと導電性粒子の直径との差の範囲であると直ちにいうことはできない。
すると、本願発明1において、導電性粒子と粘着層の厚さの差「±4μm」の数値に臨界的意義があるということはできない。
(5) よって、請求人の実験成績証明書に基づく主張は、採用することはできない。

8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物である刊行物A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-17 
結審通知日 2007-07-19 
審決日 2007-07-31 
出願番号 特願2001-9585(P2001-9585)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
安藤 達也
発明の名称 異方性導電粘着シート及びそれを用いた電気及び/又は電子素子  
代理人 三浦 進二  
代理人 三浦 進二  
代理人 三浦 進二  

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