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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1164594
審判番号 不服2005-8981  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-12 
確定日 2007-09-12 
事件の表示 特願2001- 7647「複数素子からの同時信号読み出し方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月31日出願公開、特開2002-214040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年1月16日の出願であって、平成17年4月8日付で拒絶査定がなされ(発送日:同年4月12日)、これに対し、同年5月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月13日付で手続補正がなされたものである。

II.平成17年6月13日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年6月13日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成17年6月13日付の手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1乃至14は、本件補正前の、平成16年3月18日付手続補正書により補正された
「【請求項1】 複数の素子群を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号を加算し、この加算信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すことを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項2】 前記複数の素子群をそれぞれn×m型マトリックスの列方向に配列し、各素子群を構成する素子からの信号を前記n行の各行毎に加算するとともに、この加算信号を1つの信号線上に取り出し、全体としてn個の加算信号を読み出すようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項3】 前記複数の素子群を構成する前記素子は、ブリッジ型回路を構成することを特徴とする、請求項1又は2に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項4】 前記信号の加算は、信号加算器を用いて行うことを特徴とする、請求項1?3のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項5】 前記信号加算器は、多重入力型の超伝導量子干渉素子又は多重入力型のバランストランスから構成されることを特徴とする、請求項4に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項6】 前記複数の素子群を構成する前記素子は、それぞれ受動素子を具えることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項7】 前記受動素子は、マイクロカロリメータであることを特徴とする、請求項6に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項8】 前記交流バイアスの位相を90度異なるようにしたことを特徴とする、請求項1?7のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読みだし方法。
【請求項9】 複数の素子を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、前記複数の素子から得られた複数の信号のそれぞれを加算し、前記複数の信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すとともに、前記複数の素子は、ブリッジ型回路を構成することを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項10】 前記信号の加算は、信号加算器を用いて行うことを特徴とする、請求項
9に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項11】 前記信号加算器は、多重入力型の超伝導量子干渉素子又は多重入力型のバランストランスから構成されることを特徴とする、請求項10に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項12】 前記複数の素子は、それぞれ受動素子を具えることを特徴とする、請求項9?11のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項13】 前記受動素子は、マイクロカロリメータであることを特徴とする、請求項12に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項14】 前記交流バイアスの位相を90度異なるようにしたことを特徴とする、請求項9?13のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読みだし方法。」
から、
「【請求項1】 複数の素子群を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号を加算し、この加算信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すことを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項2】 前記複数の素子群をそれぞれn×m型マトリックスの列方向に配列し、各素子群を構成する素子からの信号を前記n行の各行毎に加算するとともに、この加算信号を1つの信号線上に取り出し、全体としてn個の加算信号を読み出すようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項3】 前記複数の素子群を構成する前記素子は、ブリッジ型回路を構成し、前記ブリッジ型回路を構成する抵抗の抵抗値を制御することによって、前記交流バイアスの大きさを、前記素子から発せられた前記信号に対して減少させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項4】 前記信号の加算は、信号加算器を用いて行うことを特徴とする、請求項1?3のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項5】 前記信号加算器は、多重入力型の超伝導量子干渉素子又は多重入力型のバランストランスから構成されることを特徴とする、請求項4に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項6】 前記複数の素子群を構成する前記素子は、それぞれ受動素子を具えることを特徴とする、請求項1?5のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項7】 前記受動素子は、マイクロカロリメータであることを特徴とする、請求項6に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項8】 前記交流バイアスの位相を90度異なるようにしたことを特徴とする、請求項1?7のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読みだし方法。
【請求項9】 複数の素子を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、前記複数の素子から得られた複数の信号のそれぞれを加算し、前記複数の信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すとともに、前記複数の素子は、ブリッジ型回路を構成し、前記ブリッジ型回路を構成する抵抗の抵抗値を制御することによって、前記交流バイアスの大きさを、前記素子から発せられた前記信号に対して減少させることを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項10】 前記信号の加算は、信号加算器を用いて行うことを特徴とする、請求項9に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項11】 前記信号加算器は、多重入力型の超伝導量子干渉素子又は多重入力型のバランストランスから構成されることを特徴とする、請求項10に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項12】 前記複数の素子は、それぞれ受動素子を具えることを特徴とする、請求項9?11のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項13】 前記受動素子は、マイクロカロリメータであることを特徴とする、請求項12に記載の複数素子からの同時信号読み出し方法。
【請求項14】 前記交流バイアスの位相を90度異なるようにしたことを特徴とする、請求項9?13のいずれか一に記載の複数素子からの同時信号読みだし方法。」(下線部は補正個所)
と補正された。
上記補正は、請求項3,9に記載した発明を特定するために必要な事項である「ブリッジ型回路を構成」する工程について「ブリッジ型回路を構成する抵抗の抵抗値を制御することによって、前記交流バイアスの大きさを、前記素子から発せられた前記信号に対して減少させる」との限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する、請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

なお、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正がなされなかった請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかについて以下で検討しているが、この点に関して、知財高裁判決(平成18年2月16日言渡:平成17年(行ケ)第10266号)は、
<<改正前(当審注:「平成6年改正前」)特許法17条の2第3項は,「前項において準用する前条第2項に規定するもののほか,第1項第4号及び第5号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。」と規定した上,その2号において,「特許請求の範囲の減縮(前号に規定する一の請求項に記載された発明(‥‥‥以下この号において「補正前発明」という。)と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において,その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものに限る。)」と規定している。そして,同条4項は,「第126条第3項の規定は,前項の場合に準用する。この場合において,同条3項中『第1項ただし書第1号』とあるのは,『第17条の2第3項第2号』と読み替えるものとする。」と規定し,改正前(当審注:「平成6年改正前」)特許法126条3項は,「第1項ただし書第1号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」
と規定している。
上記によれば,改正前(当審注:「平成6年改正前」)特許法17条の2第3項2号において問題とされているのは,「特許請求の範囲」全体について減縮があったか否かであって,「特許請求の範囲」全体に減縮があれば,同条4項により,「特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明」について独立特許要件の判断が必要となるものと解するのが相当である。独立特許要件の判断の要否を「特許請求の範囲」に含まれる個々の請求項ごとに考えるべきである旨の原告の主張は,採用できない(原告の指摘する同条3項2号括弧書きの規定は,補正が許される場合を,「特許請求の範囲の減縮」のうち一定の場合に限定することを規定したにすぎず,原告の上記主張を裏付けるものではない。)。>>
と、判示しているところであり、特許請求の範囲全体について減縮があったか否かについてが問題とされていることに関しては、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の規定も同様であるから、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討することは、特許法の趣旨に基づくものである。

2.引用例
ア.原査定の拒絶の理由に引用された「電気学会研究会資料 NE-00-12?20 (社)電気学会 (2000年9月12日) p.7?11」(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「<3・1>半導体マイクロカロリメータ 図3はRF駆動マイクロカロリメータの基本回路(半導体マイクロカロリメータを用いた場合)である。この方式では高周波をバイアスとしてマイクロカロリメータに流し、その振幅変化を抵抗値の変化として測定する。ただしバイアス電流の変化によってマイクロカロリメータの温度が変化してはならないので、バイアスに使用する高周波電流の周波数はマイクロカロリメータの熱的な時定数(1?10kHz)より十分速く取らなくてはならない(100k?1MHz)。」(第8ページ右欄図3下第1乃至9行)

(2)「マイクロカロリメータのRF駆動には1/fノイズを大幅に減らす以外にも大きな利点がある。それは多チャンネル化が容易であるという点である。図5はRFバイアスを利用した、マイクロカロリメータの2チャネル読み出しシステムである。マイクロカロリメータの信号帯域の2倍以上離したRFバイアスを2つ用意し、図3の回路を2つ並列に並べ、バッファーの出力を合成して冷凍器の外に取り出すことにより、1対の配線で2つのカロリメータの出力を読み出すことが可能になる。
さらに図6のように図5の回路を並列に接続すると半導体マイクロカロリメータの並列読み出しが可能になる。また図のようにバイアス回路にバッファーを入れて干渉を防ぐことによりバイアスラインを共通化できるから、あまり配線数を増やさずにチャネル数を多くすることが可能である上、バッファーがマイクロカロリメータの直前に置かれるため、長いケーブルを通してマイクロカロリメータを駆動することによるデメリットは小さくなる。この時、1周波数あたりのバイアス線が2本、1系統あたりの読み出し線が2本、電源ラインに2本の線が必要だとすると、n2個のカロリメータの信号を読み出すために、4n+2本の配線が必要になる。例えば100ピクセルのカロリメータの駆動読み出しに必要な配線数は42本である。これをピクセルごとにバイアスをかけ、読み出すと全部で402本の配線が必要なことになるが、これは現実的でない。」(第9ページ右欄第31行乃至第10ページ左欄第9行)

(3)マイクロカロリメータが図中何れの部分を指すのかに関し;
「<2・1>半導体マイクロカロリメータ 典型的な半導体マイクロカロリメータの読み出し回路を図1に示す。この例では直列に大きな抵抗RLを入れることにより、マイクロカロリメータを定電流駆動している。」(第7ページ右欄下から2行目乃至第8ページ左欄2行)
「<2・2>TES型マイクロカロリメータ 一般的なTES型マイクロカロリメータの読み出し回路を図2に示す。マイクロカロリメータに並列に小さなロード抵抗RLを入れることにより、定電圧駆動し、マイクロカロリメータを流れる電流の変化をSQUIDで増幅して冷凍器の外に信号を取り出す。」(第8ページ左欄15乃至20行)

(4)TES型マイクロカロリメータの多チャンネル化に関し;
「図7はTES型マイクロカロリメータをRF駆動して多チャンネル読み出す場合の最も基本的な回路である。この例では2つのマイクロカロリメータを異なる周波数で駆動し、その電流をフィードバックをかけていないSQUIDで読み出す。・・・SQUIDの出力はステップアップトランスでインピーダンス変換した後室温に置いた増幅器で増幅し、周波数ごとに読み出す。」(第10ページ右欄第9乃至16行)

(5)また、「RF駆動マイクロカロリメータの多チャネル化」と題した図5には、当審にて該図5中の各要素に附番した下記「参考図5」をもとに説明すると、次の記載がある。
可変抵抗記号にてあらわされた第1のマイクロカロリメータC1には、高周波源f1から第一のRFバイアスが流され、同じく第2のマイクロカロリメータC2には、高周波源f2から第二のRFバイアスが流され、該各マイクロカロリメータC1,C2の出力は「hybrid」と書かれた合成器h1で合成され、1本の配線out1により取り出されること。

[参考図5]

(6)また、「RF駆動によるマイクロカロリメータのマトリックス化」と題された図6は、上記(2)摘記したとおり、図5を並列化したものであり、当審にて該図6中の各要素に附番した下記「参考図6」をもとに説明すると、次の記載がある。
第一の高周波源f1は、バッファを構成するFETであるB1,B3をそれぞれ介してマイクロカロリメータC1,C3に接続され、第二の高周波源f2は、バッファを構成するFETであるB2,B4をそれぞれ介してマイクロカロリメータC2,C4に接続され、f1,f2からの異なる周波数のRFバイアスによるC1,C2の出力は合成器h1で合成され、1本の配線out1により取り出され、同様に、f1,f2からの異なる周波数のRFバイアスによるC3,C4の出力は合成器h2で合成され、1本の配線out2により取り出されること。


[参考図6]

これらの記載および前記参考図5,6を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

「RFバイアスを2つ用意し、マイクロカロリメータC1,C3に第一のRFバイアスf1を流して駆動し、マイクロカロリメータC2,C4には前記第一のRFバイアスとはマイクロカロリメータの信号帯域の2倍以上離れた周波数の第二のRFバイアスf2を流して駆動し、前記C1,C2からの出力を合成器h1で合成して1本の配線out1で取り出し、前記C3,C4からの出力を合成器h2で合成して一本の配線out2で取り出す、複数のマイクロカロリメータからの並列読み出し方法。」

3.対比・判断
(1)対比
引用発明1の「マイクロカロリメータ」が、測定回路全体ではなく、上記参考図5,6で「C1」乃至「C4」と附番した可変抵抗記号で描かれた各素子を指すことは、上記2.ア.(3)の各記載と図1,2との対比から明らかであるから、該引用発明1の「マイクロカロリメータ」は、本願補正発明の「素子」に相当する。よって、引用発明1の
(a)「RFバイアス」、(b)「マイクロカロリメータC1」と「マイクロカロリメータC3」の組,及び「マイクロカロリメータC2」と「マイクロカロリメータC4」の組、(c)「マイクロカロリメータC1」と「マイクロカロリメータC2」の組,及び「マイクロカロリメータC3」と「マイクロカロリメータC4」の組、
は、それぞれ本願補正発明の
(a)「交流バイアス」、(b)複数の「素子群」、(c)「相異なる素子群にそれぞれ属する素子」、
に相当することが明らかである。
また、引用発明1の
(d)「出力」、(e)「取り出し」、(f)「並列」、(g)「1本の配線」
が、それぞれ本願補正発明の
(d)「発せられた信号」、(e)「取り出して、読み出す」、(f)「同時」、(g)「1つの信号線」
に相当することも明らかである。
また、引用発明1に於いて、各RFバイアスf1,f2が相互に異なる周波数のものであることは明らかである。よって、引用発明1に於ける第一・第二の「2つ」の「RFバイアス」は、本願補正発明の「それぞれ異なる周波数の交流バイアス」に相当する。
また、引用発明1の「合成」は文言上、本願補正発明の「加算」の上位概念に相当するから、両発明に於いては、相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号は共に「合成」される点で一致する。
よって両者は、
(一致点)
「複数の素子群を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号を合成し、この合成信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すことを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。」
の点で一致し、
(相違点)
相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号の合成が、本願補正発明では「加算」によって行われるのに対し、引用発明1では、単に「合成」とされるのみである点、
で相違する。

(2)相違点についての判断
周波数の異なる複数の交流信号を合成する際の具体的な処理として、「加算」処理は最も一般的な処理の一つであり、「合成」なる用語が「加算」と同義に用いられる例も少なくない。そして、引用例1の記載に於いて、合成処理で加算以外の特殊な合成処理が用いられていることを示す記載もなく、必然性もない。よって、該相違点は実質的な相違点とは認められない。
また、仮に、引用発明1に於ける「合成」工程が「加算」処理以外の何らかの合成方法を用いうるものであるとしても、引用発明1は多チャンネル化に関するものであり、その目的や、引用例1の上記2.ア.(4)の記載事項からみて、一旦「合成」された複数素子の出力は最終的に各チャンネルごとに、即ち異なる素子に対応する各周波数ごとに分離されるべきものであることから、電気通信や光通信の分野での複数周波数の信号の合成・分離を伴う多チャンネル通信に於いて慣用の信号合成処理である、加算処理を採用することは、当業者が容易に為し得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1および周知技術から当業者であれば予測できる範囲のものである。

(3)審判請求の理由に於ける請求人の主張について
審判請求の理由に於いて請求人は、本願補正発明について、
「本願の第1の読み出し方法では、上述したように、(a)複数の素子を素子群毎に分割して配置し、(b)各素子群に対して異なる交流バイアスを印加することによって駆動し、(c)各素子群に属する前記素子から発せられた信号を加算して、1つの信号線上に取り出すことを特徴とするものであります。すなわち、極めて多数の素子が存在する場合に、それらが互いに並列に接続されているか否かとは無関係に、前記素子を群に分割して、分割した各群毎に異なる交流バイアスを印加し、各素子群に属する前記素子から発せられた信号を加算して1つの信号線上に取り出すようにし、前記素子毎に配線を設けることなく、結果として、配線数を増大させることなく、チャネル数を増大させることができるものであります。」
と述べ、引用発明1との相違について、
「したがって、本願の第1の読み出し方法と引用文献1に記載の発明とでは、複数の素子から発せられた信号を加算して、1つの信号線上に取り出し、配線数を減少させるという、本願の第1の読み出し方法における構成要件(c)については共通していますが、引用文献1には、本願発明の構成要件である(a)及び(b)については何ら教示していません。」
と主張している。
しかし、上記平成17年6月13日付の手続補正後の請求項1に記載された本願補正発明の構成から明らかなとおり、本願補正発明は、前記構成要件(a)の工程を備えていない。よって、引用発明1が前記構成要件(a)の構成を備えていない旨の前記請求人の主張は、特許請求の範囲の記載にその根拠が無く、採用できない。
また、前記構成要件(b)に対応する構成として、本願補正発明は、「複数の素子群を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動する」との工程を備えているが、これに引用発明1の、「マイクロカロリメータC1,C3に第一のRFバイアスf1を流して駆動し、マイクロカロリメータC2,C4に・・・第二のRFバイアスf2を流して駆動」する旨の構成が相当すること、及び、引用発明1に於いて前記第一・第二のRFバイアスが異なる周波数を有することは、上記II.3.(1)で述べたとおりである。さらに説明すれば、同じく上記II.3.(1)で、一致点(b)として述べたとおり、引用発明1の前記構成に於ける「マイクロカロリメータC1,C3」の組及び「マイクロカロリメータC2,C4」の組がそれぞれ、本願補正発明の「素子群」に相当し、これら両組の総称が本願補正発明の「複数の素子群」に相当することも、明らかである。
また、請求人は審判請求の理由に於いてさらに、
「引用文献1では、最初に複数の素子を並列に接続することを要求しますが
、本願の第1の読み出し方法では、最初に複数の素子を群に分割することが要求されます。この群の分割に際しては、当然のことながら、引用文献1に開示されているように、並列に接続された素子同士を群に分割することも可能ですが、これは極めて限られた例であって、前記群分割は必要に応じて如何様にも設定することができます。
また、引用文献1では、並列に接続された素子毎に交流バイアスを印加しますが、本願の第1の読み出し方法では、並列接続の如何とは無関係に素子群ごとに接続交流バイアスを印加します。」
とも主張しているが、これも、複数の素子の並列接続と群分割の何れを先に行うかという、何れも本願補正発明が備えない「並列接続」及び「群分割」なる各工程の順序に関する相違点の主張であり、特許請求の範囲の記載にその根拠が無く、採用できない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
平成17年6月13日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という)は、平成16年3月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものであって、これは、上記本願補正発明と変わりがない。
「【請求項1】 複数の素子群を、それぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するとともに、相異なる素子群それぞれに属する素子から発せられた信号を加算し、この加算信号を1つの信号線上に取り出して、読み出すことを特徴とする、複数素子からの同時信号読み出し方法。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
上述のとおり、本願発明は、前記II.で検討した本願補正発明と、その内容に於いて変わりがない。
そうすると、本願補正発明が、前記II.3.に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2乃至14に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2007-06-28 
結審通知日 2007-07-03 
審決日 2007-07-18 
出願番号 特願2001-7647(P2001-7647)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01J)
P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 樋口 宗彦
秋田 将行
発明の名称 複数素子からの同時信号読み出し方法  
代理人 杉村 憲司  
代理人 岩佐 義幸  
代理人 杉村 興作  
代理人 来間 清志  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 藤原 英治  
代理人 徳永 博  
代理人 冨田 和幸  

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