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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1164745
審判番号 不服2003-24234  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-15 
確定日 2007-09-20 
事件の表示 特願2001-152103「プリンタ、及び、プリンタ制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月15日出願公開、特開2002- 11925〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成11年3月10日に出願した特願平11-63877号の一部を平成13年5月22日に新たな特許出願としたものであって、当審にて平成19年2月9日付で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、これに対して同年3月27日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされるとともに、同日付で意見書(以下、「当審意見書」という。)が提出された。

第2 本願発明

本件補正により、補正前の請求項5が削除され、補正前の請求項6,7が請求項5,6に繰り上がるとともに、補正前の請求項1,5?7について補正が行われている。そのうち、特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願発明」という。)は、以下のように補正された。

「第1バッファメモリと補助記憶装置とを備え、前記第1バッファメモリから前記補助記憶装置にデータが出力されるプリンタであって、
外部から受信した印刷データを前記第1バッファメモリに格納する通信タスクと、前記第1バッファメモリから印刷データを読み出して前記補助記憶装置に格納する補助記憶装置書き込みタスクと、前記補助記憶装置に格納された前記印刷データを読み出す補助記憶装置読み出しタスクと、印刷データをもとに印刷要求を生成するイメージ生成タスクと、前記印刷要求に基づいて印刷エンジンの制御に関する処理を行う印刷タスクとを、当該プリンタの演算処理部が、それぞれの優先度に応じて排他的に選択して実行し、さらに、
前記補助記憶装置書き込みタスクの優先度と前記イメージ生成タスクの優先度に基づく相対的な優先順位を、前記イメージ生成タスクにより生成され前記印刷タスクにより消費されるべく蓄積された印刷要求の数に応じて、前記蓄積された印刷要求の数が所定数よりも多い場合には、前記補助記憶装置書き込みタスクの優先度を、前記イメージ生成タスクの優先度よりも相対的に高くし、前記蓄積された印刷要求の数が所定数よりも多くない場合には、前記補助記憶装置書き込みタスクの優先度を、前記イメージ生成タスクの優先度よりも相対的に低くする、ことを特徴とするプリンタ。」

第3 本願発明についての当審の判断

1.引用例

(1)当審拒絶理由に引用した特開平6-95814号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「本実施例のレーザビームプリンタ(以下、LBPと略す)の断面図を図4に示す。このLBPは不図示のデータ源から文字パターンの登録や提携書式(フォームデータ)などの登録が行える。
図において、100はLBP本体であり、外部に接続されているホストコンピュータから供給される印刷情報(文字コード等)やフォーム情報或いはマクロ命令などを入力して記憶するとともに、それらの情報に従って対応する文字パターンやフォームパターンなどを作成し、記録媒体である記録紙上に像を形成する。112は操作のためのスイッチ及び各種メッセージを表示するLCD表示器などが配されている操作パネル、101はLBP100全体の制御及びホストコンピュータから供給される文字情報などを解析するプリンタ制御ユニットである。このプリンタ制御ユニット101は主に文字情報を対応する文字パターンのビデオ信号に変換してレーザドライバ102に出力する。」(公報段落【0010】,【0011】)

(イ)「図1に実施例のLBPのブロック構成図とデータ発生源との関係を示す。尚、図示で符号1?96上述したプリンタ制御ユニット101に含まれるものであり、記録部120の構成は図4で説明した通りである。
さて、図示において、1はプリンタ制御ユニット101及び本装置全体の制御を司るCPU、2はホストコンピュータからのデータを受信する外部インターフェース部(内部に所定量のバッファメモリを有する)、3はCPU1の動作処理手順(後述する図2或いは図3のフローチャートに対応するプログラムを含む)を記憶しているROM、4はワークエリアやページデータ(印刷データに基づいて生成される中間データで、イメージ展開処理する場合の基になるデータ)を記憶するためのRAMである。5は1ページ分のドットイメージを展開するためのフレームメモリであって、ここに展開されたドットイメージはビデオ信号として記録部120に転送される。記録部120は図4で示した通りである。6は外部インターフェース部2を介して受信した印刷データを蓄える(受信バッファとして作用する)と共に、フォントデータ等を記憶しているハードディスク装置である。尚、説明が前後するが、実施例におけるホストコンピュータ200とLBP100とは、SCSI(Small Computer System Interface)で接続されているものである。
上記構成において、ホストコンピュータ200はケーブル201を介して印刷データを出力する場合に、LBP100内の外部インターフェース部2とハードディスク装置6との間のバス解放要求信号を出力する。これを受けて、CPU1は外部インターフェース部2を介してホストコンピュータ200に了解した旨の信号を出力する。
ホストコンピュータ200は、この信号を確認すると、印刷データを外部インターフェース部2を介して直接ハードディスク6に書き込む。つまり、ハードディスク装置6が、あたかもホストコンピュータ200内に設けられている場合と同じようにデータ転送を行う。従って、印刷データの転送速度を、これまでのそれより格段に高速にすることができる。
さて、1つの印刷データの固まり(いわゆるJOB)の転送が済むと、外部インターフェース2を介してLBP100内のCPU1に転送が完了したことを報知する信号を出力する。これを受けて、CPU1は外部インターフェース部2とハードディスク装置6とのバス権を獲得し、書き込まれた印刷データを順序取り出してページデータを作成し、その作成されたページデータに基づいて印刷処理を行うことになる。」(公報段落【0013】?【0017】)

(ウ)「ステップS1で、ホストコンピュータ200から印刷データ送信要求が来た場合には、外部インターフェース部2とハードディスク装置6との間のバス権をホストコンピュータ200側に解放する。この後、ステップS2、S3において、ホストコンピュータ200は印刷データを直接ハードディスク装置6に転送する(書き込む)処理を行う。こうして、一連の印刷データの転送処理が終了すると、外部インターフェース部2を介して、CPU1に印刷データ転送処理が完了したことを知らせる信号を出力する。
この信号を受けると、処理はステップS4に進んで、ハードディスク装置6に格納された印刷データ(1つのファイルとして記憶されることになる)を取り出し、ページデータを作成する。尚、上記説明ではページデータはRAM上に作成されると説明したが、ハードディスク装置6内に1つのファイルとして作成しても構わない。
さて、ページデータの作成が済むと、ステップS5、S6でもってそのページデータに基づくイメージをフレームメモリ5に展開していく。1ページ分のイメージ展開が完了すると、ステップS7に進んで、フレームメモリ5に展開されたイメージデータをビデオ信号として記録部120に転送し、画像を生成する。そして、1枚の画像生成が済むと、処理はステップS8に進んで、全てのページデータに対する印刷処理が完了したかどうかを判断し、未完であると判断した場合には、ステップS5に戻って次のページの印刷処理を行う。」(公報段落【0019】?【0021】)

(エ)「印刷装置が何らかの原因でエラーを発生した場合(例えば、ジャム等が発生した場合)でも、印刷データの転送は続行されるので、少なくともこれまでのように印刷データの転送が不可になることはない。このような状況の場合、エラーを取り除いた時点で(例えば電源の再投入時やリセット時、或いは操作パネルより所定の指示があった場合等)、ハードディスク装置6内に未処理のデータが含まれるかどうかを判断し(不揮発性記憶装置に記憶されているので、その内容が消去されることはない)、それが存在すればそのデータを取り出して印刷処理を続行するようにすれば良い。」

(オ)「<第3の実施例の説明>また、上記実施例では、ホストコンピュータ200は印刷データの全てをハードディスク装置6に転送した後、印刷処理が開始されるものとして説明したが、これによって本発明が限定されるものではない。
例えば、ホストコンピュータ200が印刷データを転送中にも、印刷装置側のCPU1がハードディスク6をアクセスし、印刷処理を行うようにしてもよい。この場合、ホストコンピュータ200からのデータ転送と印刷装置内のCPU1がハードディスク装置6からデータを取り出すことは、厳密には同時にはできないので、外部インターフェース部2に受信バッファ、読み出しバッファの2つを設ける。
そして、ホストコンピュータ200から転送されてきたデータは一旦受信バッファに記憶し、それがフル状態になったときにハードディスクに書き込むようにする。そして、転送されてきた印刷データをハードディスクに書き込んでいない状態、すなわち、受信バッファに順次印刷データが転送されつつある状態のとき、ハードディスク装置6をアクセスし、所定量の印刷データを読み出しバッファに転送する。このようにすることで、少なくとも見かけ上、印刷データの高速転送中にも印刷処理が行われることになるので、最終的に印刷結果を得ることを早くすることが可能になる。ただし、この場合、ハードディスク装置6に対するアクセス権所得の処理は、外部インターフェース部2が行うようにするので、第1、第2の実施例で説明したように、CPU1がその制御を行う必要はない。」(公報段落【0036】?【0038】)

よって、引用例1の記載(ア)?(オ)を含む全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「プリンタ制御ユニット101及び本装置全体の制御を司るCPU1、ホストコンピュータ200からのデータを受信する外部インターフェイス部2に設けられた受信バッファ、外部インターフェイス部2を介して受信した印刷データを蓄えるハードディスク装置6を備えたレーザービームプリンタであって、
ホストコンピュータ200から転送されてきたデータは一旦受信バッファに記憶し、それがフル状態になったときにハードディスクに書き込むようにし、転送されてきた印刷データをハードディスクに書き込んでいない状態のとき、ハードディスク装置6をアクセスし、書き込まれた印刷データを取り出してページデータを作成し、その作成されたページデータに基づいて印刷処理を行うレーザービームプリンタ。」

(2)当審拒絶理由に引用した特開平7-134639号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「プリンタと、
前記プリンタでプリントを行うためのプリントデータを含むプリント要求を送信する情報処理装置と、
記憶媒体に設けられたスプールと、前記情報処理装置から前記プリンタでプリントを行うためのプリントデータを含むプリント要求を受信した場合に前記受信したプリント要求のプリントデータを前記スプールに蓄積する受信プロセスと、スプールにプリントデータが蓄積されている場合に前記プリントデータをスプールから取り出してプリンタへ送信する送信プロセスと、を各々所定の動作優先度で実行する処理手段と、前記スプールの空き容量を検出する検出手段と、を備えたプリント管理装置と、
を含むプリントシステムであって、
前記プリント管理装置に、前記検出手段によって検出されたスプールの空き容量が所定値以下になったときに、前記受信プロセスの動作優先度を低くする、及び前記送信プロセスの動作優先度を高くする、の少なくとも一方を行う優先度制御手段を更に設けた、
ことを特徴とするプリントシステム。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(イ)「プリントシステム10は、伝送媒体12に本発明の情報処理装置としての複数台のワークステーション14と、レーザビームプリンタ16と、本発明に係るプリンタシステムのプリント管理装置としてのワークステーション18(以下、ゲートウェイ18と称する)と、が接続されて構成されている。
ゲートウェイ18は、CPU18A、ROM18B、RAM18C、入出力ポート18Dを備えており、これらはバス20を介して互いに接続されている。入出力ポート18Dは通信制御ユニット22を介して前述の伝送媒体12に接続されている。ゲートウェイ18はプロトコルを変換する本発明のゲートウェイとしての機能を兼ね備えており、通信制御ユニット22を介して所定の通信プロトコル(例えばTCP/IP等)で各ワークステーション14と通信すると共に、通信制御ユニット22を介して前記所定の通信プロトコルと異なる通信プロコトル(例えばXNS等)でレーザビームプリンタ16と通信できるようになっている。
また、入出力ポート18Dにはハードディスクを含んで構成された外部記憶装置24が接続されている。外部記憶装置24の記憶領域のうちの一部は後述するスプールとして割当てられている。」(公報段落【0024】?【0026】)

(3)当審拒絶理由に引用した特開平10-65894号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「原稿を読取り読取データを格納する格納動作、原稿データの送受信動作及び受信データファイルの印刷動作を同時に行い、ハードディスクへの書込と該ハードディスクからの読出のために使用するバッファを備えたファクシミリ装置であり、
前記格納動作、前記送受信動作及び前記印刷動作に優先度を設定する優先度設定手段と、
前記バッファの残りエリアを監視し、残りブロック数が所定値以下になると、前記優先度設定手段で設定された最優先度の動作を、前記バッファ及び前記ハードディスクに対して優先的に行う優先制御手段とを有することを特徴とするファクシミリ装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(4)当審拒絶理由に引用した特開平9-71012号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「【従来の技術】印刷装置等の画素処理装置においては、一般に、プリンタエンジン部における画像の出力処理が、外部装置から印刷データを受け取る速度より遅いため、画像の出力は、プリンタエンジン部の処理速度に依存して遅延する。
従来、例えば、複数のホストコンピュータから印刷データが送られた場合、受け取った印刷データを、一旦バッファとしての機能を有するハードディスク装置等に格納し、各印刷データに関する印刷処理が終了するのを待って、格納した印刷データを順次フレームメモリ上に展開し、プリンタエンジン部に供給するという一連の処理を開始していた。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来例においては、プリンタエンジン部に1つの印刷データに関するビットマップデータを供給している間、そのビットマップデータを保持したフレームメモリが当該印刷データに関する処理から解放さない。そのため、次の印刷データを受信しているにも拘わらず、その印刷データを展開することができず、印刷処理の高速化を妨げる原因の1つになっていた。」(公報段落【0002】?【0004】)

(イ)「ホストコンピュータ1?3のいずれかから印刷データを受信すると、I/F140は、CPU150に対して割り込み要求を発生する(受信割り込み)。CPU150は、この割り込み要求に基づいて受信ルーチンを実行する。なお、この受信ルーチンは、CPU150が割り込みを許可しているときに限り実行される」(公報段落【0022】)

(ウ)「ビットマップデータが存在する場合には、ステップS304において、そのビットマップデータをプリンタエンジン130に転送可能か否かを判定する。ここで、本実施の形態において「転送可能」な場合とは、プリンタエンジン131において、印刷をすることが可能な状態(すなわち、紙なし、紙詰まり、トナー切れ等のエラーがない状態)であって、プリンタエンジン131が印刷のためのデータを要求している場合(或いは取り込むことが可能な場合)を言う。
ビットマップデータを転送可能な場合には、ステップS305?S307において、割り込み(前述の受信割り込み)を禁止した上で印刷(ビットマップデータをプリンタエンジン131に転送)し、その後再び割り込みを許可する。ステップS306における印刷処理は、ビットマップデータをプリンタエンジン130に可能な限り転送すれば良く、中途で転送不能になった場合(例えば、プリンタエンジン部131における処理が遅いため)には、一旦その処理を終了してステップS307において割り込みを許可し、ステップS303に戻れば良い。」(公報段落【0030】,【0031】)

2.対比

そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

i)引用発明1の「受信バッファ」,「ハードディスク装置6」及び「レーザービームプリンタ」は、本願発明の「第1バッファメモリ」,「補助記憶装置」及び「プリンタ」にそれぞれ相当する。

ii)引用発明1では、ホストコンピュータ200から転送されてきた印刷データは一旦受信バッファに記憶されていることから、これは本願発明の「外部から受信した印刷データを第1バッファメモリに格納する」ことに相当し、即ち引用発明1でも本願発明でいう「通信タスク」を実行していることは明らかである。

iii)引用発明1では、ハードディスク装置6をアクセスし、書き込まれた印刷データを取り出していることから、これは本願発明の「補助記憶装置に格納された印刷データを読み出す」ことに相当し、即ち引用発明1でも本願発明でいう「補助記憶装置読み出しタスク」を実行していることは明らかである。

iv)引用発明1では、ハードディスク装置6をアクセスし、書き込まれた印刷データを取り出してページデータを作成し、この作成されたページデータに基づいて印刷処理を行っている。一方、本願発明では「補助記憶装置に格納された印刷データを読み出す補助記憶装置読み出しタスク」を実行し、「印刷データをもとに印刷要求を生成するイメージ生成タスク」を実行し、「印刷要求に基づいて印刷エンジンの制御に関する処理を行う」としている。
ここで、引用発明1でも「補助記憶装置に格納された印刷データを読み出す補助記憶装置読み出しタスク」を実行することは前記「iii)」ですでに述べたとおりであり、一方「印刷処理」は、本願発明の「印刷エンジンの制御に関する処理」と実態として同じである。
そして、引用発明1の「ページデータ」と本願発明の「印刷要求」は、共に、「補助記憶装置タスク」により読み出された印刷データから生成され、印刷エンジンの制御に関する処理を行っている点で共通している。
そうであれば引用発明1の「ページデータ」は本願発明の「印刷要求」に相当する。
すると、引用発明1と本願発明は「印刷データをもとに印刷要求を生成」している点で共通であり、即ち引用発明1でも本願発明でいう「イメージ生成タスク」を実行していることは明らかである。
また、引用発明1の「印刷処理」と、本願発明の「印刷エンジンの制御に関する処理」は実態として同じことであるから、引用発明1でも「印刷要求に基づいて印刷エンジンの制御に関する処理」を行っているので、即ち引用発明1でも本願発明でいう「印刷タスク」を実行していることは明らかである。

してみれば、本願発明と引用発明1とは、

「第1バッファメモリと補助記憶装置とを備え、前記第1バッファメモリから前記補助記憶装置にデータが出力されるプリンタであって、
外部から受信した印刷データを前記第1バッファメモリに格納する通信タスクと、前記第1バッファメモリから印刷データを読み出して前記補助記憶装置に格納する補助記憶装置書き込みタスクと、前記補助記憶装置に格納された前記印刷データを読み出す補助記憶装置読み出しタスクと、印刷データをもとに印刷要求を生成するイメージ生成タスクと、前記印刷要求に基づいて印刷エンジンの制御に関する処理を行う印刷タスクとを、実行するプリンタ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点a]
本願発明では、通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスク、印刷タスクはプリンタの演算処理部が、それぞれの優先度に応じて排他的に選択して実行しているのに対し、引用発明1では、そのような特定を有さない点。

[相違点b]
本願発明では、補助記憶装置書き込みタスクの優先度と前記イメージ生成タスクの優先度に基づく相対的な優先順位を、前記イメージ生成タスクにより生成され前記印刷タスクにより消費されるべく蓄積された印刷要求の数に応じて、前記蓄積された印刷要求の数が所定数よりも多い場合には、前記補助記憶装置書き込みタスクの優先度を、前記イメージ生成タスクの優先度よりも相対的に高くし、前記蓄積された印刷要求の数が所定数よりも多くない場合には、前記補助記憶装置書き込みタスクの優先度を、前記イメージ生成タスクの優先度よりも相対的に低くしているのに対し、引用発明1では、そのような特定は有さない点。

3.判断

[相違点a]について
引用発明1のレーザービームプリンタは、プリンタ制御ユニット101及び本装置全体の制御を司るCPU1を備えていることから、CPU1がレーザービームプリンタの動作全般に関わりをもっていることは明らかである。
よって、引用発明1において、一般的な意味で「プリンタの演算処理部」といえるものは「CPU1」である。
そうすると、CPU1は通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスクにも何らかの関わりをもっているはずである。
実際、引用例1の記載事項(1)(イ)の「CPU1は外部インターフェース部2とハードディスク装置6とのバス権を獲得し、書き込まれた印刷データを順序取り出してページデータを作成し、その作成されたページデータに基づいて印刷処理を行うことになる。」との記載に鑑みると、ページデータを作成すること即ち「イメージ生成タスク」と、印刷処理を行うこと即ち「印刷タスク」はCPU1が実行しているといえる。
一方、外部から受信した印刷データを第1バッファメモリに格納する「通信タスク」や、第1バッファメモリから印刷データを読み出して補助記憶装置に格納する「補助記憶装置書き込みタスク」についてみると、引用例1の記載事項(1)(オ)には、「ホストコンピュータ200から転送されてきたデータは一旦受信バッファに記憶し、それがフル状態になったときにハードディスクに書き込むようにする。・・・ただし、この場合、ハードディスク装置6に対するアクセス権所得の処理は、外部インターフェース部2が行うようにするので、第1、第2の実施例で説明したように、CPU1がその制御を行う必要はない。」との記載からすると、CPU1が必ずしも「通信タスク」や「補助記憶装置書き込みタスク」を直接、実行する必要がないことが読み取れる。
しかしながら、このようにプリンタなどの装置に実装されたCPUがその全ての処理を直接的に実行せずに、一部の制御をCPU以外の手段(前記のものでは外部インタフェース部)により代替させることはCPUに負荷が集中することを防止するためなどから従来より行われていたことである。むしろ、CPUにすべての制御をまかせることは単純かつ初歩的な技術手法に属するものといえる。
そして、CPUへの負荷の集中をあえて許容するか、負荷が低いため集中を考慮する必要がなかったり、構造の簡略化やコスト低減を重視すること等を理由に制御を代替する手段を省略して、すべて制御をCPUに集中させることは当業者が装置に求められる性能とを勘案して適宜選択する設計事項の範疇といえる。
よって、引用発明1において、通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスクのすべてをCPU1で実行することは設計事項である。
また、引用例1の頒布が平成6年4月8日であることを考慮すれば、技術常識からして引用発明1のようにレーザービームプリンタに実装される程度のCPU1として、当時としては非常に高機能といえる同時に複数の命令が実行可能なCPUが採用されることはほぼあり得ないことである。
すると、引用発明1のCPU1が同時に複数の命令を実行せずに、一つの命令を順次処理していくものであるとの前提にたつことが常識的であり、そうであれば、それぞれのタスクが排他的に行われることも各タスクのすべてをCPU1で実行させることに伴い必然的に生ずる事項といえる。

さらに、本願発明ではプリンタの演算処理部が、通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスク、印刷タスクを、それぞれの優先度に応じて排他的に選択して実行している。
例えば、通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスクが同速度で処理可能であれば、これらタスクを時系列的に処理していけば滞ることなくプリントは完結する。しかし、それぞれのタスクの処理速度には差があることが通常で、速度の遅いタスクで処理が滞る問題があることは従来から一般に知られた事情といえる。
実際に、引用例4の記載事項(4)(ア)にもプリンタエンジン部の処理の遅いことに起因する問題が記載されている。そして、同(4)(イ),(ウ)の記載からは、プリンタエンジン部の処理が遅いことを前提に、受信割り込みを禁止した上でビットマップーデータをプリンタエンジンに可能な限り転送する(印刷タスクに相当する)ことをしているので、これは印刷タスクに相当する処理を優先して実行しているといえる。
そうすると、速度の遅いタスクに高い優先度を与えればプリンタ全体の印刷処理の効率上有利なことは当業者が普通に想到できる事項といえる。

よって、引用発明1においても速度の遅いタスクがあって処理が滞る問題があり、そのために速度の遅いタスクに優先度を与えることは当然といえ、そのときに、通信タスク、補助記憶装置書き込みタスク、補助記憶装置読み出しタスク、イメージ生成タスク、印刷タスクに何らかの優先度を与えることは当業者が当然考慮すべき事項であり、その際にプリンタの演算処理部が、それぞれの優先度に応じて排他的に選択して実行するようにすることも当業者が容易に想到できるものである。

[相違点b]について
引用発明1において、イメージ生成タスクで印刷要求に相当するページデータを生成している。
ここで、ページデータは引用例1の記載事項(1)(イ)には「4はワークエリアやページデータ(印刷データに基づいて生成される中間データで、イメージ展開処理する場合の基になるデータ)を記憶するためのRAMである。」と記載されるように、RAMに記憶される。
また、同記載事項(1)(ウ)には「ページデータの作成が済むと、ステップS5、S6でもってそのページデータに基づくイメージをフレームメモリ5に展開していく。1ページ分のイメージ展開が完了すると、ステップS7に進んで、フレームメモリ5に展開されたイメージデータをビデオ信号として記録部120に転送し、画像を生成する。そして、1枚の画像生成が済むと、処理はステップS8に進んで、全てのページデータに対する印刷処理が完了したかどうかを判断し、未完であると判断した場合には、ステップS5に戻って次のページの印刷処理を行う。」との記載がみられる。ここで、「全てのページデータに対する印刷処理が完了したかを判断し」と記載されていることからして、RAMに記憶されるページデータは複数のページに対応した複数のページデータであることが理解される。
引用例1では、RAMにどの程度の数のページデータが記憶されるのか、また、ページデータが作成されているときに印刷データの受信がある場合に具体的にどのような動作をするかは明記されてはいない。
しかしながら、引用例1のRAMは当然に有限の容量をもつものであり、かつ引用発明1が補助記憶装置であるハードディスク装置6を有していることから考えて、RAMに極端な大容量を与えているとは考えがたく、少なくともハードディスク装置6の容量より相当程度少ないと考えることが自然である。
そうであれば、補助記憶装置に記憶された印刷データがイメージ生成タスクによりページデータとして生成される際に、RAMの容量が生成する必要のあるページデータに対して不足することも想定し得る。その場合、RAMの容量を超えてイメージ生成タスクを継続することは不可能となるので、不可能となったイメージ生成タスクを実行待ちのような状態で継続して他のタスクを行わせないようにすると、イメージ生成タスクに加え、他のタスクの処理も滞ることとなり効率の上で考えると無駄であり現実的ではない。
よって、RAMの容量を越えてしまったら、ひとまずイメージ生成タスクを中断して、必要に応じ他のタスクを実行すればよいことは当業者が容易に想到できることである。
また、引用例1の記載事項(エ)には「印刷装置が何らかの原因でエラーを発生した場合(例えば、ジャム等が発生した場合)でも、印刷データの転送は続行されるので、少なくともこれまでのように印刷データの転送が不可になることはない。」との記載があり、なんらかの要因で印刷装置の印刷ができなくなっていても印刷データの転送つまり通信タスクが実行できることが記載されている。このことを考慮すれば、仮に外部から印刷データを受信して通信タスクを行う必要があれば、イメージ生成タスクではなく通信タスクを行ってよいことも当業者であれば容易に想到できる。

また、引用発明1にて各タスクに優先度を与えることが当業者にとって容易であることは[相違点a]で既に述べた。さらに、引用例2の記載事項(2)(ア)によれば、ある条件で受信プロセスと送信プロセスの動作優先度を変更することが記載されており、引用例3の記載事項(3)(ア)によれば格納動作、送受信動作、印刷動作に優先度設定した上で、ある条件で最優先の動作を制御することが記載されているので、各タスクの優先度の相対的な高低を種々の条件で入れ替えることも引用例2,3に記載のごとく周知慣用技術であるといえる。
そうであれば、前記のごとくイメージ生成タスクを継続せずひとまず中断して通信タスクを行わせるに際し、タスクの優先度を変更してこれを実現することも、前記引用例2,3の周知慣用技術を考慮すれば設計事項の範疇といえる。

また、このとき引用発明1においてイメージ生成タスクにより複数のページデータを生成してRAMに記憶させているときに、イメージ生成タスクを中断し通信タスクを優先して行わせるほどの容量に達しているのであれば、その「量」をなんらかの手段で判断する必要があることは当然で、そのための判断基準を設けることも当業者が当然考慮すべき事項である。
このとき、判断基準となる「量」として、ページデータの容量により判断するか、ページデータの数により判断するかは設計事項の範疇である。というのも、ある容量をもったデータが複数あった場合、その全体の「量」をデータの数として捉えるか、全体のデータ量として捉えるかはいずれも普通に行われていることだからである。これは、例えば特開平7-253860号公報に記載のように、プリンタに未処理の印刷が蓄積するに際し、未処理の印刷要求数を判断したり、未処理の印刷データ量を判断したりすることによりいずれでも実現できるように周知慣用技術が記載されていることからも裏付けられる。

してみれば、引用発明1において[相違点b]に係る構成を採用することは当業者にとって容易である。

また、本願発明の効果も引用発明1及び引用例2,3並びに周知慣用技術から予測できる範囲内のものであり、本願発明は引用発明1及び引用例2,3並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

4.予備的判断

なお、請求人は当審意見書にて以下のような主張をしているので予備的に検討しておく。

「引用文献2では、1ページ毎に生成される印刷要求の数が多い場合でも、少ない場合でも、スプールされているデータ量が同じであれば、受信ルーチンの優先度は同じになってしまう。しかし、スプールされているデータ量が同じでも、ページあたりのデータ量が少ない場合には印刷要求の数は多くなり、逆に、ページあたりのデータ量が多い場合には印刷要求の数は少ない。
一方、本願の請求項1では、データ量が同じであっても、1ページ毎に生成される印刷要求の数が所定数よりも多い場合には、補助記憶装置書き込みタスクの優先度が、イメージ生成タスクの優先度よりも高くなる。逆に、1ページ毎に生成される印刷要求の数が所定数よりも多くない場合には、補助記憶装置書き込みタスクの優先度が、イメージ生成タスクの優先度よりも低くなる。このため、本願の請求項1に係るプリンタでは、蓄積されている印刷要求の数に基づいて、適切に優先度を制御することができる。すなわち、多数の印刷要求が蓄積されている場合には、そのデータ量に拘わらず、それ以上、印刷要求を生成しても印刷タスクの処理は追いつかないことから、補助記憶装置書き込みタスクの優先度を高くするのである。」(当審意見書第2頁第第10?23行目)

この主張は要すれば、「印刷要求の数」と「印刷要求のデータ量」が異なる旨主張するものである。
しかしながら、蓄積された印刷要求(ページデータ)を、印刷要求の数として捉えるか印刷要求のデータ量として捉えるかは設計事項の範疇である点は既に述べた。
この点、当審意見書ではページあたりのデータ量の大小により印刷要求の数が大きくなったり小さくなったりすることから、印刷要求の数で捉えることの意義を主張しているものだが、本願の当初明細書中にはその主張の根拠となる印刷要求のページあたりデータ量がどのようなものであるかについて具体的に言及する記載はない。
印刷要求については例えば明細書段落【0025】には、「「印刷要求」とは、「印刷要求構造体」とも呼ばれ、用紙サイズの指定、コピー枚数(印刷部数)の指定、印刷する場所が用紙の表面か裏面かの指定、及びそのページに含まれる全ての画像データなどの情報を含んでいる。つまり、「印刷要求」を解析することにより、そのページの印刷に必要な用紙及び画像の情報が全て得られるようになっている。」と記載されているが、該記載を考慮したとしても「印刷要求」のデータ量に大小があることを直接的に説明する点は一切無い。
むしろ、本願の明細書段落【0077】には「HD書き込みタスク12の優先順位を未処理の印刷要求の数に応じて変化させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。これ以外にも、例えば、印刷要求のうち未処理のものの画像データの量に応じてタスクの優先順位を変化させてもよい。」との記載があり、印刷要求の数のみならず、印刷要求のデータ量に応じて優先度を変化させることが例示されており、優先度の変化させる判断基準としての印刷要求の「量」はデータ量でも数でも同様に捉えられることが記載されているとみることが自然である。
してみれば、当審意見書にて「印刷要求の数」と「印刷要求のデータ量」との違いを技術的意義に関連付けて主張する点に根拠はなく、「印刷要求の数」として捉えるか「印刷要求のデータ量」として捉えるかは設計事項の範疇であると言わざる得ない。

第4 むすび

以上のとおり本願発明は引用発明1および引用例2,3並びに周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-23 
結審通知日 2007-07-24 
審決日 2007-08-08 
出願番号 特願2001-152103(P2001-152103)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
島▲崎▼ 純一
発明の名称 プリンタ、及び、プリンタ制御方法  
代理人 関根 毅  
代理人 吉武 賢次  
代理人 橘谷 英俊  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 川崎 康  
代理人 吉元 弘  

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