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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43L
管理番号 1164758
審判番号 不服2004-19565  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-22 
確定日 2007-09-20 
事件の表示 平成11年特許願第250064号「壁掛け取付具およびその壁掛け取付具を用いた掲示板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 71684〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年9月3日の出願であって、平成16年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年9月22日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月22日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 平成16年10月22日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、補正前特許請求の範囲請求項1乃至6の記載を、補正後特許請求の範囲請求項1乃至6の記載のとおり補正することを含むものである。

・補正前特許請求の範囲請求項1乃至6の記載
「【請求項1】 支持部材と、その支持部材に係止可能なフック部材とを備えた壁掛け取付具において、
前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、
前記フック部材は、前記係止片部と係合される係合部が形成された係合板を備えており、
前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと略同一かそれより大きく形成されていることを特徴とする壁掛け取付具。
【請求項2】 前記フック部材の1つは、前記係合部の溝の幅が前記係止片部の外形幅と略同一に形成されると共に、前記フック部材の他のものは、前記係合部の溝の幅が前記係止片部の外形幅より広く形成されていることを特徴とする請求項1記載の壁掛け取付具。
【請求項3】 前記フック部材は、前記係合板の下端部分から下方へ向かって傾斜しつつ延出されたフック傾斜板を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の壁掛け取付具。
【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載の壁掛け取付具を備えたことを特徴とする掲示板。
【請求項5】 前記フック部材より下方に取着されると共に、壁面に当接される脚を裏面に備えていることを特徴とする請求項4記載の掲示板。
【請求項6】 裏面の四隅に、壁面に当接される脚を備えていることを特徴とする請求項4記載の掲示板。」

・補正後特許請求の範囲請求項1乃至6の記載
「【請求項1】 支持部材と、その支持部材に係止可能なフック部材とを備えた壁掛け取付具において、
前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、
前記フック部材は、前記係止片部と係合される係合部が形成された係合板を備えており、
前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されていることを特徴とする壁掛け取付具。
【請求項2】 前記フック部材の1つは、前記係合部の溝の幅が前記係止片部の外形幅と同一に形成されると共に、前記フック部材の他のものは、前記係合部の溝の幅が前記係止片部の外形幅より広く形成されていることを特徴とする請求項1記載の壁掛け取付具。
【請求項3】 前記フック部材は、前記係合板の下端部分から下方へ向かって傾斜しつつ延出されたフック傾斜板を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の壁掛け取付具。
【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載の壁掛け取付具を備えたことを特徴とする掲示板。
【請求項5】 前記フック部材より下方に取着されると共に、壁面に当接される脚を裏面に備えていることを特徴とする請求項4記載の掲示板。
【請求項6】 裏面の四隅に、壁面に当接される脚を備えていることを特徴とする請求項4記載の掲示板。」

(2)補正目的要件の適否
本件補正では、補正前の特許請求の範囲請求項1における、「その係止片部の端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」を「その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」と、また、「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと略同一かそれより大きく形成されている」を「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」と補正する以外、その他の請求項についての補正はなされていない。
そして、補正前後を通じて、特許請求の範囲請求項2乃至6は、同請求項1を直接的或いは間接的に引用したものである。
なお、発明の詳細な説明については、前記のごとくに特許請求の範囲を補正したのに伴い、これを引用している箇所を合致させる補正が行われている。

前記請求項1に係る補正について検討する。
第1点として、補正前には、「その係止片部の端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」とあり、「テーパー部」が「その係止片部の端部」にあるものの、係止片部に存在する二つの端部のうちいずれか一つにあるのか、両方の端部にあるのかの特定がなかったところ、補正後の「その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」によれば、両方の端部にあることが特定されたものとなっている。
また、第2点として、補正前には「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと略同一かそれより大きく形成されている」と、係合板の厚さと係止片部の厚さとを対比して、略同一であるとされていたが、補正後の「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」では、「略同一」から「同一」とすることで、これに続く「それより大きく」と相俟って、係合板の厚さが係止片部の厚さよりも小さい場合を削除したものであることが特定されたものとなっている。
よって、これらの特定を加えることで、全体として、本件補正前の請求項1の記載により特定される発明を減縮補正したものとなっており、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲を越えるものではないから、本件補正は特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

(3)補正発明の独立特許要件
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由には、実願昭62-88571号(実開昭63-197192号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)と、実願昭61-81465号(実開昭62-191916号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)が引用されており、そのうち、刊行物2には、以下の記載が図示とともにある。

〔産業上の利用分野〕
「本考案は固定金具、特に、板状金属部品や板金金具の組立や取付け時に使用する固定金具に関する。」

〔従来の技術〕
「従来の固定金具は、ネジ・リベット又は第5図に示すように直径W3の平板9を一端に有し軸径W4で長さl3のひっかけピン10の壁面等に固定したものと、直径がW4,W5の穴11及び12と穴11,12をつなげる幅W5の切欠き13を具備し、折れ曲げ高さl4の受け具14から成るひっかけ式固定金具等がある。」

〔考案が解決しようとする問題点〕
「上述した従来の固定金具は、ネジ・リベットでは脱着の作業に工数がかかり、特に、リベットでは取りはずし時に「切断」という再使用が不可能な作業が入るなど、作業能率の低下、コストアップが生じていた。また、第5図のひっかけ式固定金具では長さl3>高さl4にする必要があり、ひっかけ後には軸方向にガタつきが生じ、さらに、ひっかかりの確認が正確に取りづらいという欠点があった。」

〔問題点を解決するための手段〕
「本考案の固定金具は、直径W2長さl2の円柱の一端に前記直径W2から直径W1に至るまで直線的に直径が増加してゆくピンヘットを有する全長がl1の固定ピン部と、前記固定ピン部を受けるところの、前記直径W1よりわづかに大きい直径を持つ第1の穴と、前記直径W2より少さく前記直径W2より大きい第2の穴と、前記直径W2よりわづかに大きい幅で前記第1の穴と前記第2の穴とをつなぐ切欠きと、前記第2の穴の外周をおおう長切欠と、前記長さl2より大きく前記全長l1より少さい寸法の折れ曲げ高さを有する受け具部とを含んで構成される。」

〔実施例〕
「次に、本考案の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
第1図は本考案の一実施例を示す斜視図、第2?4図は第1図に示す固定金具の一使用例を示す正面図および、側面図である。
全長l1の固定ピン1は軸径w2、長さl2とその一端に直径w2,w1の円錐台形をもつ。板金製の受け具7は、折れ曲げ高さL、直径W3,W1の2つの穴4並びに3と前記穴3と4を結ぶ幅W2の切欠5と穴4と切欠き5の外周をおおう切欠き6を有している。
穴径W1,W3切欠き幅W2、直径w1,w2長さl1,l2、高さLは次の関係がある。
W1>w1>W3>W2>w2 (20)
l1>L>l2 (21)
W3<{(L-l2)(w1-w2)/(l1-l2))}+w2 (22)
次に動作を説明する。第2?4図において、固定ピン1を平板15にネジ止や圧入等で垂直に固定し、受け具7を固定ピン1にかぶせる。この時円錐台形2の一部が受け具7の穴3よりつき出ているが、受け具7と固定ピン1の間にすき間がある。次に受け具7を穴3から穴4の方向へ平板15に押しつけながら移動する。
式(22)から、円錐台形2のため受け具7の長切欠6が平板15の方向へ押さえられる。この状態で固定ピン1と受具7は固定ピン軸方向に固定されている。さらに受け具7を穴3から穴4の方向へ移動する。固定ピン1が穴4に入ると同時に、固定ピン1と受け具7はロック状態に入り移動は終了し、固定が完了する。この時作業者には、バネ板15のたわみの急激な復帰により衝撃、感覚で固定終了がわかる。
取りはずしでは受け具7を穴4から穴3の方向へ移動する際に、ロック状態でたわんだ部分を平板方向へさらに押しながら、移動する事により容易に可能である。」

なお、添付された第1図を参照するに、受け具7は、板を折り曲げることによって形成されたものであることが看取できる。

上記各記載からみて、当該刊行物2には、以下の、固定金具が記載されている。
「直径w2長さl2の円柱の一端に前記直径w2から直径w1に至るまで直線的に直径が増加してゆくピンヘットを有する全長がl1の固定ピンと、前記固定ピンを受けるところの、前記直径w1よりわづかに大きい直径W1を持つ第1の穴と、前記直径w2より少さく前記直径w2より大きい直径W3を持つ第2の穴と、前記直径w2よりわづかに大きい幅W2で前記第1の穴と前記第2の穴とをつなぐ切欠きと、前記第2の穴の外周をおおう長切欠と、前記長さl2より大きく前記全長l1より小さい寸法の折れ曲げ高さを有する受け具とを含んで構成される固定金具。」
以下、「刊行物2記載発明」という。

(3-2)対比
補正発明である壁掛け取付け具においては、「支持部材」と「フック部材」のいずれが壁側に固定し、いずれが壁掛け状態に取付けられる部材側に取付けられるのかが特定されていない。
なるほど、壁掛け取付具において、「支持部材」と「フック部材」のいずれを壁側に固定したとしても、これと対をなす他方部材を適宜に用いれば、壁掛け状態が得られること自体は容易に理解できるものの、壁に掛けられる部材の荷重を壁側に配した部材によって支えるのであることから、補正発明における「支持部材」と「フック部材」のいずれを壁側に固定するかを明らかにしないと、刊行物2記載の発明との対比がなし得ないので、両者の対比に先立ち、補正発明における「支持部材」と「フック部材」のいずれが壁側に固定されるものかに関して本願明細書及び添付された図面の記載を参照する。
本願明細書における段落【0017】?【0059】には、補正発明に係る好ましい実施例が開示されている。
そして、本願明細書の【図面の簡単な説明】には、【図1】に関し、「本実施例の掲示板取付具が用いられる電子黒板Eを概略的に示した斜視図である。」との記載があり、同じく【図6】に関し、「(a)は、壁面に固着されている支持部材の側断面図であり、(b)は、支持部材へフック部材が係合された状態の側断面図である。」と記載されている。
また、【符号の説明】には、各図に付された符号について、
「1 掲示板取付具、2 支持部材、2a 係止片部、2b 第1テーパー部(テーパー部)、2c 第2テーパー部(テーパー部)、3,4 フック部材、3a 係合板、3b,4b 係合部、3c フック傾斜板、8 脚、E 電子黒板(掲示板)、W 壁面」
と記載されている。
これらの記載からみて、当該【図6】(a)、(b)を参照するに、「支持部材2」が壁面に固定されており、「フック部材3,4」は壁掛けされる電子黒板(掲示板)Eに取付られることが把握できる。
よって、補正発明に係る実施例では、「支持部材」を壁側に固定し、「フック部材」が壁掛けされる部材側に取り付けられたものを想定していることから、補正発明のこれら部材についても、同様に解すべきである。

そこで補正発明と刊行物2記載の発明とを比較すると、刊行物2記載発明の「ピンヘットを有する固定ピン」は壁側に固定されていることから、補正発明の「支持部材」に相当し、刊行物2記載発明の「受け具」は板を折り曲げ形成したものであって壁掛けされる部材に取り付けられていることから、補正発明の係合板を備えた「フック部材」に相当し、両者は「壁掛け取付具」である点においても共通する。
また、刊行物2記載発明の「受け具」における「ピンヘットを有する固定ピン」を受ける(すなわち係合する)「第1の穴」は、補正発明の「フック部材」における「支持部材」の「係止片部」と係合される「係合部」に相当し、刊行物2記載発明の「固定ピン」の「受け具」の「第1の穴」と係合する部位は、補正発明の「支持部材」の「前記フック部材を係止する係止片部」にひとまず相当する。
そして、刊行物2記載発明の「固定ピン」は、前記〔実施例〕の記載によれば、「全長l1の固定ピン1は軸径w2、長さl2とその一端に直径w2,w1の円錐台形をもつ」形状をなしており、「固定ピン」の頭方向に向かい上昇傾斜したテーパ部を形成したものと解し得るので、当該「テーパ部」は、補正発明の「支持部材」に形成される「その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」のうち、当該「支持部材」の外端部方向に向かい上昇傾斜したテーパ部にひとまず相当する。

よって、両者は、
「支持部材と、その支持部材に係止可能なフック部材とを備えた壁掛け取付具において、
前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その外端部方向に向かい上昇傾斜したテーパ部とが形成されており、
前記フック部材は、前記係止片部と係合される係合部が形成された係合板を備えている
壁掛け取付具。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]補正発明は、「前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、
前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」との特定を有するのに対し、刊行物2記載発明は、このような特定がない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

刊行物2に記載される固定ピンは、前記〔実施例〕に係る記載によれば、その一端に直径w2,w1の円錐台形をもつものであって、これに係合される板金製の受け具7は、折れ曲げ高さL、直径W3,W1の2つの穴4並びに3と前記穴3と4を結ぶ幅W2の切欠5と穴4と切欠き5の外周をおおう切欠き6を有しており、これら両者の形状に関して、「穴径W1,W3切欠き幅W2、直径w1,w2長さl1、l2、高さLは次の関係がある。」として、式(20)?(22)が掲げられている。
「W1>w1>W3>W2>w2 (20)
l1>L>l2 (21)
W3<{(L-l2)(w1-w2)/(l1ーl2))}+w2 (22)」

ここで、これらの寸法関係において、固定動作がどのように行われるかについて、検討する。
まず、固定ピン1の頭部である円錐台形2の直径w1は、受け具7の穴3の直径W1より小さく、固定ピン全長l1は受け具7の折れ曲げ高さLよりも長いことからして、前記〔実施例〕に係る動作の説明におけるように、まず受け具7を固定ピン1にかぶせた際には、円錐台形2の一部が受け具7の穴3よりつき出て、受け具7と固定ピン1の間にすき間がある。
そして、円錐台形2の直径w1は、受け具7の切欠き5の幅W2よりは大きいことから、次に、受け具7を穴3から穴4の方向へ移動させる際には、切欠き6により形成された切欠き板16がたわんでいること(第3図参照)が推察される。
さらに、受け具7が穴3から穴4の方向に移動して、固定ピン1が穴4に入ると、穴3の直径W3は、円錐台形2の直径w1よりも小さいので、前記切欠き板16のたわみは若干減少するものの、固定ピン1の円錐台形2を除いた長さl2は受け具7の折れ曲げ高さLよりも小さいことからして、切欠き板16のたわみは解消するまでには至らず、固定が完了した時点において、切欠き板16の穴4が、円錐台形2の小径部w2と係合していないことが推察される。
よって、前記寸法関係で規定される各部の寸法差がどの程度であるか、また、切欠き板16のたわみがどの程度までたわみ得るかに因るが、切欠き板16の穴4は、円錐台形2の小径w2部に係合しているというよりも、円錐台形2の小径w2側と係合していると推察される。

他方、補正発明における固定動作がどのように行われるかについて検討する。
まず、【図6(b)】の下に点線で示された位置にある支持部材2に対して、フック部材3が上方から接近させられると、係合板3のフック傾斜板3cにより外方へ誘導されることで、拡大溝部3dがフック部材3に対面し、しかる後に、係合板3の係合部3aが支持部材2の第1テーパー部2bまたは第2テーパー部2cのいずれかに接触が開始される。
この時、係合部3が、支持部材2の第1テーパー部2bまたは第2テーパー部2cのいずれに接触したかにより、その後の作動が異なることとなる。
第1テーパー部2bに接触した場合には、その斜面に誘導されて、フック部材3の係合部3aは、【図6】(b)の右方向へ誘導され、他方、第2テーパー部2cに接触した場合には、その斜面に誘導されて、フック部材3の係合部3aは、【図6】(b)の左方向へ誘導され、いずれも最終的には係止片部2aの位置へと作動される。

ここで、補正発明においては、「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」との特定がなされていることから、前記最終的なフック部材3と支持部材2との係合状態には、二様の形態が想定される。
まず、「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一に形成されている」場合には、前記最終的な係合状態において、フック部材3の係合部3bが、支持部材2の係止片部2aにピッタリ嵌り込んだ状態となる。
他方、「前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さより大きく形成されている」場合には、
前記最終的な係合状態において、フック部材3の係合部3bは、支持部材2の係止片部2aにピッタリ嵌り込んだ状態とはならず、前記支持部材2の第1テーパー部2bと第2テーパー部2cの両方に跨って係合した状態となる。

してみると、刊行物2記載発明と、補正発明とは、前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その外端部方向に向かい上昇傾斜したテーパ部とが形成されている一致点に起因して、フック部材の係合部が、前記支持部材の外端部方向に向かい上昇傾斜したテーパ部に接触を開始した際の作動においては、ほぼ同様に最終的な係合位置に誘導される点で共通している。
しかしながら、補正発明においては、刊行物2記載発明とは異なり、
(a)前記テーパー部(第1のテーパー部2bが相当)に加えて、支持部材の壁面側に向かい上昇傾斜したテーパ部(第2のテーパー部2cが相当)を備えていることにより、作動に際して、後者のテーパ部にフック部材が接触した際には、当該テーパ部により最終的な係合位置に誘導される点、
(b)フック部材3の係合部3bと支持部材2の係止片部2aの寸法関係により、これら両者が同一の場合には、最終的にフック部材3の係合部3bが支持部材2の係止片部2aに係合状態となる点、さらに、
(c)フック部材3の係合部3bが支持部材2の係止片部2aの寸法より大きい場合には、フック部材3の係合部3bが支持部材2の係止片部2aに係合せず、支持部材2の第1テーパー部2bと第2テーパー部2cの両方に跨って係合した状態となる点、
において相違する場合がある。

ここで、なるほど、刊行物2記載発明においては、前記テーパー部(第1のテーパー部2bが相当)のみしか設けられていないことから、支持部材である固定ピンの前記テーパー部との接触しかあり得ず、補正発明における、支持部材の壁面側に向かい上昇傾斜したテーパ部(第2のテーパー部2cが相当)による作用効果は得られるものではない。
しかし、刊行物2の前記〔実施例〕に係る記載では、板金製受け具7の折れ曲げ高さLと、固定ピン1の長さl1及び円錐台形2を除いたその長さl2との間に前記(21)式の関係があり、最終的な固定ピン1と板金製受け具7との係合状態が得られた状態においては、切欠き板16に設けられた穴4が固定ピン1の円錐台形2と係合状態を導くように、当該寸法関係が規定されている。
すると、少なくとも、刊行物2に記載された固定ピンと受け具のような寸法関係を有する固定金具においては、補正発明とは異なる構成(前記寸法関係)によるものであるが、最終的な係合状態を導いている点においては、補正発明と同様な作用効果が期待されているものといえる。

整理してみるに、刊行物2記載発明においては、補正発明の備える「前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、
前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」との特定を有さず、この特定に基づく作用効果を奏し得ない。
換言するに、この補正発明が奏する作用効果は、「前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、」なる特定に基づくものといえる。
すなわち、当該特定に係る、支持部材2に設けられた、その係止片部2aの両端に形成されたテーパー部である、第1テーパー部2bと第2テーパー部2cの構成が、補正発明の作用効果をもたらしているのである。
そこで、この補正発明における前記のごとく二つのテーパー部を組み合わせて構成する点についての容易想到性を検討する。

補正発明である「壁掛け取付具」は、要は、取付られる側の部材と取付ける部材の両者に、取付関係を規定する取付具を配するものである。
そして、このような取付具は、こと「壁掛け取付具」に限られず、あらゆる技術分野において用いられているものであって、他の技術分野に係る取付具構成を流用し合うことは、従来からきわめて一般的である。
ここで、自動車の前照灯又は指示灯等のユニットの取付装置に係る特開平4-231229号公報、或いは部品取付用クリップに係る実願昭59-149232号(実開昭61-64507号)のマイクロフィルムにみられるように、取付位置に対して係合する部分を導き、取付け後は、その係合位置を概ね保持する目的で、テーパー形状をなす係合面と、これに係合する部分を用いた取付具の構成となすことは、一般的に採用されている周知手段であって、格別なものとはいえない。
また、刊行物2に記載される固定ピンと受け具からなる取付具においては、両者の寸法関係をもって、係合状態における相対位置を保持する機能を与えているが、前記周知手段はきわめて一般的であることに照らせば、これを刊行物2に記載される固定ピンと受け具からなる取付具の寸法関係にかかる構成に置換することに格別阻害要因があるともいえない。
してみるに、前記補正発明と刊行物2記載の発明との相違点は、当業者であれば必要に応じて適宜採用し得た程度のものであって、これによりもたらされる作用効果も、当業者が容易に予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物2記載の発明及び周知手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定に違反しているので、同法第159条第1項において読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年4月15日付けで補正された特許請求の範囲請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 支持部材と、その支持部材に係止可能なフック部材とを備えた壁掛け取付具において、
前記支持部材には、前記フック部材を係止する係止片部と、その係止片部の端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部とが形成されており、
前記フック部材は、前記係止片部と係合される係合部が形成された係合板を備えており、
前記係合板の厚さは前記係止片部の厚さと略同一かそれより大きく形成されていることを特徴とする壁掛け取付具。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、上記「第2 平成16年10月22日付け手続補正についての補正却下の決定」の「(3-1)引用刊行物」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記補正発明における「テーパー部」に係る「その係止片部の両端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」の特定を、「その係止片部の端部から外方へ上昇傾斜したテーパー部」と、また、「係合板の厚さ」に係る「前記係止片部の厚さと同一かそれより大きく形成されている」の特定を、「前記係止片部の厚さと略同一かそれより大きく形成されている」としたものとなっている。
そして、前記「テーパー部」に係る特定においては、本願発明の場合、係止片部の両端側にテーパー部が存在するものでなく、一端にのみテーパー部が存在するものをも包含したものとなっており、他方、前記「係合板の厚さ」に係る特定においては、本願発明の場合、係止片部の厚さとほぼ同等(若干大きいあるいは若干小さいの両者を含む)に形成するものをも包含したものとなっている。
そうすると、本願発明の特定事項の全部をその特定事項とし、さらに、他の特定事項である前記「テーパー部」及び「係合部の厚さ」に係る特定事項としたものに相当する補正発明が、前記「第2 平成16年10月22日付け手続補正についての補正却下の決定」における「(4)判断」に記載したとおり、刊行物2記載の発明及び周知手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様な理由により、刊行物2記載の発明及び周知手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結び
以上のとおりであるから、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-18 
結審通知日 2007-07-24 
審決日 2007-08-09 
出願番号 特願平11-250064
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B43L)
P 1 8・ 121- Z (B43L)
P 1 8・ 121- Z (B43L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤木 啓二  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 名取 乾治
七字 ひろみ
発明の名称 壁掛け取付具およびその壁掛け取付具を用いた掲示板  

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