• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1164794
審判番号 不服2005-12773  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-06 
確定日 2007-09-20 
事件の表示 平成11年特許願第348280号「イエロートナー及びそれを用いたフルカラー現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月22日出願公開、特開2001-166540〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年12月8日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年7月20日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 下記の(YA)成分と(YB)成分との混合物からなるイエロートナーであって、
(YA);以下の(YA1)成分、(YA2)成分、及び(YA3)成分を含有するトナー粒子
(YA1);以下の(1)?(7)の特性を満足するポリエステル系樹脂
(1)酸価≦30KOHmg/g
(2)数平均分子量(Mn)2,000?20,000
(3)重量平均分子量(MW)5,000?300,000
(4)数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(MW)の比(MW/Mn)2?150
(5)テトラヒドロフラン可溶分70?100重量%
(6)軟化温度80?160℃
(7)ガラス転移温度50?75℃
(YA2);C.I.ピグメント・イエロー155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品
(YA3);負荷電性帯電制御剤
(YB);比表面積が5?500m2/gであるシリカ、チタニア、及びアルミナからなる群より選択されたいずれかの無機質微粉末
前記(YA2);C.I.ピグメント・イエロー155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品を作製する際に使用するポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分が、前記(YA1)成分のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分以上であることを特徴とするイエロートナー。」
なお、平成17年7月20日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の末尾は「請求項1に記載のイエロートナー。」である。
しかし、請求項1において請求項1の記載を引用して記載することの意味が不明であること、及び、審判請求書の「2.補正の適法性」の欄において、請求人は、平成17年7月20日付け手続補正書による補正は、該補正前の請求項2である旧請求項2を新請求項1として、旧請求項3ないし11を新請求項2ないし10とするものである旨主張していることからみて、上記「請求項1に記載のイエロートナー。」のうち、「請求項1に記載の」との記載は、旧請求項2の記載をそのまま転記したことによる誤記であると認められるから、上記のとおり認定した。

2.引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開平10-268570号公報)、引用文献6(特開平11-202558号公報)、引用文献8(特開平10-312088号公報)、引用文献9(特開平9-218537号公報)及び引用文献10(特開平11-249341号公報)には、以下の事項が記載されている。

〔引用文献1〕
(1a)「【請求項1】 多色画像を再現するフルカラー画像形成に使用されるイエロー現像剤において、このイエロー現像剤が、少なくとも酸価1?30KOHmg/gのバインダー樹脂、ピグメントイエロー180に分類される化合物、及び下記一般式(A)及び(B)

(式中、Xはカチオンを示し、nは1または2の整数を示す。)から選択される少なくとも1種の化合物を含有してなる負荷電性非磁性トナー粒子を含有することを特徴とするイエロー現像剤。
【請求項2】 前記バインダー樹脂のガラス転移点が55?75℃、軟化点が95?120℃、数平均分子量が2500?6000及び重量平均分子量/数平均分子量が2?8である請求項1記載のイエロー現像剤。
【請求項3】 前記イエロー現像剤が非磁性一成分現像剤である請求項1記載のイエロー現像剤。」(【請求項1】?【請求項3】)
(1b)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した問題を解決したフルカラー画像形成用のイエロー現像剤を提供することを目的とする。
即ち、本発明は、透光性および色再現性に優れたイエロー現像剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、多色画像形成時にも優れた転写性を有するイエロー現像剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、非磁性一成分現像方式においても適用できるイエロー現像剤を提供することを目的とする。」(【0008】?【0011】)
(1c)「上述した特定の酸価を有するバインダー樹脂、特にポリエステル樹脂はC.I.ピグメントイエロー180の分散性が向上されているが、この酸価に起因して負荷電性が非常に強くなっている。このためフルカラー用トナーとして使用すると転写性が不十分になるという問題が生じる。また、荷電の立ち上がり特性も不十分でありカブリ等が生じやすく、特に非磁性1成分トナーとして用いた場合に顕著になる。
これらの問題を解決するために本発明においては下記一般式(A)および(B)
:(一般式A,Bは省略する。)・・・から選択される少なくとも1種の化合物をトナーに含有させる。この化合物の含有によって上記酸価を有するトナーの過剰な負帯電量を低下させて適正な帯電量に調整することができ、またトナーの帯電の立ち上がり特性も向上させることができる。また上記化合物は耐熱性に優れておりトナーの製造時や加熱定着時に分解することがなく、さらに無色の物質でありフルカラートナーに用いても透光性や色再現性に悪影響を及ぼさないという特性も有している。」(【0025】?【0028】)
(1d)「製造過程でイエロー顔料を添加する際にはマスターバッチ処理あるいはフラッシング処理されたイエロー顔料を用いることが、その分散性を向上させる観点から好ましい。」(【0033】)
(1e)「本発明においては、イエロートナー粒子に対して0.2?3重量%の無機微粒子を外添することが流動性等を向上させる観点で好ましい。このような無機微粒子としてはシリカ、チタニア、アルミナ、チタン酸ストロンチウム、酸化錫等を単独であるいは2種以上混合して使用することができる。無機微粒子は疎水化剤で表面処理されたものを使用することが環境安定性向上の観点から好ましい。」(【0035】)
(1f) PO(ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)を、4.0モル、EO(ポリオキシエチレン(2,0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)を6.0モル、TPA(テレフタル酸)9.0モル縮重合させて、Mn=3300、Mw/Mn=4.2、Tg=68.5℃、Tm=110.3℃、酸価=3.3KOHmg/gであるポリエステル樹脂Aを得たこと、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(807-IT型;日本分光工業社製)を使用し、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを使用して、ポリスチレン換算により分子量を求めたこと(【0040】?【0042】)
(1g) 実施例1として、ポリエステル樹脂Aと、C.I.ピグメントイエロー180とを7:3の重量比で混練し、粉砕して、顔料マスターバッチを得たこと(【0047】)、
(1h) 該マスターバッチ10重量部と、ポリエステル樹脂A93重量部、及び、下記式(C)で示される化合物1重量部

を混練、粉砕、分級してイエロートナー粒子を得、それに疎水性シリカ(TS-500;キャボジル社製)0.5重量部及び疎水性酸化チタン(STT30A;チタン工業社製)1.0重量部を添加してイエロートナーAを作製したこと(【0048】?【0051】)
(1i) イエロートナーAは、OHP透光性及び色再現性、転写性、耐光性、耐熱性に優れ、カブリ、中抜けのない優れたフルカラープリントを与えること(【0086】)
(1j) Mn=3400、Mw/Mn=4.5のポリエステル樹脂B、Mn=3800、Mw/Mn=3.0のポリエステル樹脂C、Mn=2800、Mw/Mn=2.3のポリエステル樹脂D、Mn=5200、Mw/Mn=4.3のポリエステル樹脂Eを製造し、これらのポリエステル樹脂を用いて実施例1と同様にして製造したイエロートナーBないしEは、イエロートナーAと同じく、OHP透光性及び色再現性、転写性、耐光性、耐熱性に優れ、カブリ、中抜けのない優れたフルカラープリントを与えること(【0040】、【0041】、【0052】?【0057】、【0086】)

〔引用文献6〕
(6a)「【請求項1】 電子写真トナー及び現像剤、粉末又は粉末塗料、エレクトレット材料、カラーフィルター及びインクジェットインク中で着色剤として式(1)
【化1】

のアゾ顔料を使用する方法。
【請求項2】 電子写真トナーが液状トナー又は粉末トナーである、請求項1記載の使用方法。」(【請求項1】、【請求項2】)
(6b)「【発明の属する技術分野】本発明は着色剤としてC.I.ピグメントイエロー155を主体とする、電子写真トナー及び現像剤、粉末塗料及びインクジェットインクに関する。」(【0001】)、
(6c)「C.I.ピグメントイエロー155の製造は公知であり、たとえば・・・に記載されている。この顔料──それ自体がポリエステルに不適当である(・・・)──が極めて良好な性質、たとえば極めて良好な分散性及び極めて高い透明性をポリエステルを主体とするトナー樹脂中でさえ示すことは、新規であり、驚くべきことである。更に、顔料は中性静電特有作用の点で優れていることは驚くべきことである。」【0012】
(6d)「本発明のC.I.ピグメントイエロー155の特別の利点は、・・・・・・C.I.ピグメントイエロー180に比して明らかである。・・・。
C.I.ピグメントイエロー155は、たとえば著しい中性摩擦電気作用を示すが、C.I.ピグメントイエロー180は予想可能な摩擦電気作用を示す。すなわちたとえば5%P.Y.155を有するトナーは、顔料不含の純粋な樹脂システムとほとんど同一の電荷能力を静電的に示すが、P.Y.180の静電電荷能力をかなり変化させる。更に何が要求されるかに応じてP.Y.155はより一層透明であるか又はより一層隠ぺい性であるように調製される。
更に、P.Y.155の色合は、P.Y.155と他の顔料の混合によって多彩に影響される。電子電気カラートナー、摩擦電気的に噴霧されうる粉末塗料又はインクジェットインクに関連してしばしば直面する課題は、色調の色合が変化されること及び色調を使用上の特異的要求に適合させることである。この目的に有機着色顔料、無機顔料及び塗料が特に適する。色調の色合が変化されるために、有機着色顔料をP.Y.155との混合物としてP.Y.155に対して0.01?50重量%、好ましくは0.1?25重量%、特に好ましくは0.1?15重量%の濃度で使用するのが好ましい。」(【0019】?【0023】)、
(6e)「本発明に従って使用される顔料を、混合物全体に対して0.1?60重量%、好ましくは0.5?20重量%、特に好ましくは0.1?5.0重量%の濃度で均質に──たとえば押出し又は捏和によって──夫々のトナー(液状又は乾燥)、現像剤、塗料、粉末塗料、エレクトレット材料のバインダー又は静電的に分離されうるポリマーのバインダー中に慎重に混入する。この際本発明に従って使用される顔料も上記電荷調節剤も、乾燥されかつ粉砕された粉末、たとえば有機及び(又は)無機溶剤中の分散液又は懸濁液、プレスケーキ(たとえばいわゆるフラッシング処理に使用することができる。)、上述のような噴霧乾燥プレスケーキとして又はマスターバッチ、配合物、仕上げられたペーストとして、・・・あるいはいくつかの他の形で添加することができる。プレスケーキ及びマスターバッチ中の顔料含有量は、通常5?70重量%、好ましくは20?50重量%である。」【0086】
(6f) 合成例1.1により合成されたC.I.ピグメントイエロー155顔料を、トナーバインダ(ビスフエノールAを主体とするポリエステル、商品名 Almacryl T500)に混入させ、粉砕、分級して、トナー粒子を作成したこと(【0106】)
(6g)「更に、特別のマスターバッチ──すなわち選ばれた樹脂中で高度に濃縮された顔料前分散物──によって顔料の摩擦作用をどの程度抑制できるか記載されている(・・・)。付加的な処理工程の他に、この方法は、夫々のトナー樹脂に慣習に従って仕上げられたマスターバッチを使用しなければならないという欠点を有する。このことは極めて困難であり、市場で有益でない。上記のスタンダード樹脂を主体とするマスターバッチのみを使用した場合、トナーシステムは外来(foreign)樹脂によって汚染されることになる。」(【0014】)

〔引用文献8〕
(8a)「少なくともマゼンタトナー、シアントナー、イエロートナーの3色からなるフルカラー画像形成用のトナーにおいて、
該トナーが少なくとも結着樹脂と着色剤からなり、
該着色剤として、マゼンタトナーがC.Iピグメントレッド122及びC.Iピグメントレッド57:1、シアントナーがC.Iピグメントブルー15:3、イエロートナーがC.Iピグメントイエロー180を用いることを特徴とするフルカラートナー組成物。」(【請求項1】)
(8b)「前記結着樹脂が数平均分子量Mn=2500?4500、重量平均分子量Mw=7000?30000、軟化点が95?120°C、ガラス転移点が60?75°Cであるポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフルカラートナー組成物。」(【請求項4】)
(8c)「前記結着樹脂のテトラヒドロフラン不溶分が0?10重量%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフルカラートナー組成物。」(【請求項5】)
(8d)「前記イエロートナーが、着色剤として、前記ポリエステル樹脂とC.Iピグメントイエロー180とをフラッシング処理したフラッシング処理生成物、あるいは前記ポリエステル樹脂とC.Iピグメントイエロー180の乾燥顔料とを加熱溶融して、高剪断力を付与しながら、混合することによって作成した高濃度顔料ペレットを用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のフルカラートナー組成物。」(【請求項10】)、
(8e)「<イエロートナーの調整>
(高濃度顔料ペレットの調整)実施例1に使用のポリエステル樹脂100重量部とC.I.PigmentYellow180の乾燥顔料50重量部を、バンバリーミキサーにて加熱溶融混合し、更に加熱型3本ロールにて5回パスさせ、高濃度顔料ペレットを得た。
(イエロートナーの調整)高濃度顔料ペレットの調整に使用したものと同じポリエステル樹脂75重量部と、高濃度顔料ペレット25重量部よりなる混合物を、エクストルーダーによって溶融・混練し、カッターミルで粗粉砕し、さらにジェット気流を用いた微粉砕機を用いて粉砕した。得られた粉砕物を風力分級機を用いて分級し、平均粒径7ミクロンの粒子を得た。この粒子100重量部と、酸化チタン微粒子0.8重量部をヘンシェルミキサーを用いて混合し、イエロートナーを得た。」(【0035】)

〔引用文献9〕
(9a) 「【請求項1】 結着樹脂、着色剤及び帯電制御剤を含有する非磁性一成分現像剤において、該結着樹脂として、数平均分子量が2500?3500、重量平均分子量が8000?15000、軟化点が110?130℃の範囲にあって、テトラヒドロフラン不溶分を実質的に有しないポリエステル樹脂を含有し、また、帯電制御剤として、下記式(1)で表される金属錯塩化合物を含有してなることを特徴とする非磁性一成分現像剤。
(式(1)は省略する。)
【請求項2】 ポリエステル樹脂は、酸価が5?20であることを特徴とする請求項1に記載の非磁性一成分現像剤。」(【請求項1】、【請求項2】)
(9b) テトラヒドロフラン不溶分が0%のポリエステル樹脂1ないし4を製造し、それらを結着樹脂としてトナー粒子を製造し、シリコーンオイル処理シリカ(粒径12nm)を外添混合してトナーとして画像形成を行ったところ、長期に亘り画像濃度の変動が少なく、カブリ、現像機内汚れ等の問題がなく、定着性の良好な優れた画質の画像がえられたこと(【0035】?【0044】)

〔引用文献10〕
(10a)「【請求項2】 前記結着樹脂として、THF不溶分が5wt%以下のポリエステルまたは/及びポリオール樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の非磁性一成分現像用カラートナー。」(【請求項2】)
(10b) 結着樹脂として、THF不溶分が5wt%以下のポリエステル樹脂を含有することで、トナー中でワックスの分散がより均一になり、耐オフセット性、カラートナーとして必要な透明性、光沢性を得ることが可能となり、さらに現像ローラーへのトナーのフィルミングや、トナーを薄層化するためのブレード等の部材へのトナーの融着が防止できるなど、定着に関する特性と、一成分現像装置における安定した現像性が、両立できることが明らかになったこと(【0020】)
(10c) トナーの製造に、THF不溶分6wt%のポリエステル樹脂(【0066】)、同じく3wt%のポリエステル樹脂(【0070】)、同じく1wt%のポリエステル樹脂(【0073】)、同じく0wt%のポリエステル樹脂(【0077】)を使用したこと
(10d) 結着樹脂として、THF不溶分が5wt%以下のポリエステル樹脂を含有することにより、現像ローラー上のトナー特性を安定化維持しつつ、更に光沢、透明性を向上できること(【0089】)

3.対比、判断
引用文献1の記載事項1f,1jに記載されたMn及びMw/Mnの値に基づきMwを計算すると、6400?22360の範囲の値になる。また、ピグメントイエロー180に分類される化合物は顔料マスターバッチとしてバインダー樹脂に添加され、該マスターバッチはバインダー樹脂と同じ樹脂を用いて作製されている(1g,1h)。
してみると、上記記載事項1a?1jからみて、引用文献1には下記の発明が記載されていると云える。
「多色画像を再現するフルカラー画像形成に使用されるイエロー現像剤において、このイエロー現像剤が、少なくとも酸価1?30KOHmg/gのバインダー樹脂、ピグメントイエロー180に分類される化合物、及び下記一般式(A)及び(B)

(式中、Xはカチオンを示し、nは1または2の整数を示す。)から選択される少なくとも1種の化合物を含有してなる負荷電性非磁性トナー粒子を含有し、 前記バインダー樹脂がポリエステル樹脂であり、そのガラス転移点が55?75℃、軟化点が95?120℃、重量平均分子量が6400?22360、数平均分子量が2500?6000、重量平均分子量/数平均分子量が2?8であり、前記ピグメントイエロー180に分類される化合物は顔料マスターバッチとして前記バインダー樹脂に添加されたものであり、さらに、該トナー粒子に対して流動性等を向上させるためにシリカ、チタニア、アルミナ等の無機微粒子が添加されており、前記顔料マスターバッチを作製する際に使用する樹脂がバインダー樹脂と同じものである非磁性一成分イエロー現像剤。」

本願発明1と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、後者における「一般式(A)及び(B)から選択される化合物」、「無機微粒子」、「顔料マスターバッチ」は、それぞれ、前者における「負荷電性帯電制御剤」、「無機質微粉末」、「マスターバッチ処理品」に相当する。そして、後者における「ピグメントイエロー180に分類される化合物」も「イエロー顔料」であり、後者の「非磁性一成分イエロー現像剤」は「イエロートナー」と云えるものである。
してみると、両者は、
「下記の(YA)成分と(YB)成分との混合物からなるイエロートナーであって、
(YA);以下の(YA1)成分、(YA2)成分、及び(YA3)成分を含有するトナー粒子
(YA1);以下の(1)?(7)の特性を満足するポリエステル系樹脂
(1)酸価1?30KOHmg/g
(2)数平均分子量(Mn)2,500?6,000
(3)重量平均分子量(MW)6,400?22,360
(4)数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(MW)の比(MW/Mn)2?8
(6)軟化温度95?120℃
(7)ガラス転移温度55?75℃
(YA2);イエロー顔料のマスターバッチ処理品
(YA3);負荷電性帯電制御剤
(YB);シリカ、チタニア、及びアルミナからなる群より選択されたいずれかの無機質微粉末
であるイエロートナー。」
で一致し、下記の点で相違する。
〔相違点1〕
本願発明1が、イエロー顔料として、C.I.ピグメントイエロー155(以下、「P.Y.155」と呼称する。「ピグメントイエロー180に分類される化合物」についても同様に「P.Y.180」と呼称する。)を使用し、P.Y.155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品を作製する際に使用するポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分が、(YA1)成分のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分以上であるのに対して、引用文献1に記載された発明は、イエロー顔料としてP.Y.180を使用しており、顔料マスターバッチを作製する際に使用する樹脂としてバインダー樹脂と同じ樹脂を使用している点
〔相違点2〕
本願発明1が、ポリエステル系樹脂(YA1)のテトラヒドロフラン可溶分が70?100重量%と特定しているのに対して、引用文献1に記載された発明では、ポリエステル系樹脂のテトラヒドロフラン可溶分に関する特定はない点
〔相違点3〕
本願発明1が、シリカ、チタニア、及びアルミナからなる群より選択されたいずれかの無機質微粉末の比表面積について5?500m2/gと特定しているのに対して、引用文献1に記載された発明では、無機質微粉末の比表面積についての特定はない点

まず、〔相違点1〕について検討する。
引用文献6には、ポリエステル樹脂を主体とする粉末トナーの着色剤としてP.Y.155を用いることが記載され(6a?6c,6f)、さらに、顔料に起因するトナー特性の点について引用文献6には、P.Y.155は、P.Y.180に比べてトナーの樹脂システムそのものの帯電性に大きな影響を与えず、より一層透明に調整することができ、さらに、他の顔料との混合によって、多彩な色合いに調製可能なことが記載されている(6d)。
よって、引用文献1に記載された発明において、イエロー顔料として、P.Y.180の代わりにP.Y.155を用いることは、引用文献6の記載から当業者が容易に想到し得たことである。
また、顔料を樹脂中に混合する操作を伴う各種業界において、顔料を樹脂中にいきなり混合することなく、マスターバッチを作製した後、そのマスターバッチを樹脂と混合することは、樹脂中の顔料の分散状態の向上や、作業性の向上を含めて、いわば慣用手段である。当該技術分野においても、トナー粒子を調製する際に、顔料をマスターバッチ処理品として後、トナーのバインダー樹脂と混練することは、ごく通常に行われることである。引用文献6にも、P.Y.155をマスターバッチ処理品としてバインダー樹脂中に添加することが記載されているところである(6e)。
ところで、本願発明1には「C.I.ピグメント・イエロー155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品を作製する際に使用するポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分が、前記(YA1)成分のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分以上である」との特定があるが、この特定は、C.I.ピグメント・イエロー155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品を作製する際に使用するポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分と、前記(YA1)成分のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分が同じである場合を含むことは明らかである。
そして、マスターバッチ処理品を作製するに際し、トナーのバインダー樹脂と同じ樹脂を用いることは従来より広く行われていることである。例えば、引用文献1に記載された発明においても、顔料マスターバッチを作製する際に使用する樹脂はトナーのバインダー樹脂と同じものであり、引用文献8の記載事項8eにも同様のことが記載されている。そして、マスターバッチを作製する際に使用する樹脂とトナーのバインダー樹脂とが同じ樹脂であることは、マスターバッチを作製する際に使用する樹脂とトナーのバインダー樹脂のテトラヒドロフラン可溶分が同じであることを意味するものである。
よって、P.Y.155のイエロー顔料のマスターバッチ処理品を作製する際に使用するポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分と、前記(YA1)成分のポリエステル樹脂のテトラヒドロフラン可溶分を同じとすることは、当業者が通常行っていることにすぎない。

なお、請求人は、上記記載事項6gの記載を捉えて、引用文献6に記載されたP.Y.155は、マスターバッチに適さないことが記載されている旨、主張するが、該記載は、既製の顔料マスターバッチ製品には、すでに樹脂が含まれており、そのようなマスターバッチ製品を使用することで、その樹脂がトナーを形成するために使用する樹脂と、種類や特性が一致しないことによって生起する障害を述べているにすぎないから、該記載を以てP.Y.155のマスターバッチ適用を否定する根拠とはならない。

次に、〔相違点2〕について検討する
引用文献8には、テトラヒドロフラン不溶分が0?10重量%(8c)、即ち、テトラヒドロフラン可溶分が90%重量より多いカラートナー用のポリエステル樹脂が記載され、引用文献9には、テトラヒドロフラン不溶分を実質的に有さない(9a)、即ち、テトラヒドロフラン可溶分が実質的に100重量%であるカラートナー用のポリエステル樹脂が記載され、引用文献10には、テトラヒドロフラン不溶分が5重量%以下(10a)、即ち、テトラヒドロフラン可溶分が95重量%より多いカラートナー用のポリエステル樹脂が記載されているとおり、カラートナー用のポリエステル樹脂として、テトラヒドロフラン不溶分が70?100重量%のものは、本願出願前周知である。
しかも、引用文献8、9には、本願明細書に記載されているのとほぼ同じ原料組成で作製され、酸価、Mn、Mw、Mw/Mn、軟化温度、ガラス転移温度が本願発明1で特定する範囲にあるカラートナー用ポリエステル樹脂(8b,9a,9b)について上述のテトラヒドロフラン不溶分が記載されている。
してみれば、引用文献1に記載された発明において、ポリエステル系樹脂のテトラヒドロフラン可溶分を70?100重量%と特定する程度のことは当業者が容易に想到し得たことである。

最後に、〔相違点3〕について検討する。
トナー粒子と混合されるシリカ、チタニア、及びアルミナからなる群より選択されたいずれかの無機質微粉末として、比表面積が5?500m2/gのものは、例えば特開平7-311477号公報の【0022】、特開平9-127724号公報の【請求項5】に記載されているとおり本願出願前周知のものであり、引用文献1に記載された発明においても、それぞれ、比表面積が、225m2/g及び110m2/gである、疎水性シリカ(TS-500;キャボジル社製)及び疎水性酸化チタン(STT30A;チタン工業社製)が用いられているところである(1h、必要であれば、特開平8-220797号公報の【0059】参照)。
してみれば、シリカ、チタニア、及びアルミナからなる群より選択されたいずれかの無機質微粉末の比表面積を5?500m2/gと特定する程度のことは、当業者が適宜為し得たことである。

そして、本願明細書の記載を検討しても、ポリエステル系樹脂(YA1)とイエロー顔料としてP.Y.155を組み合わせたことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたとは認められず、また、ポリエステル系樹脂のテトラヒドロフラン可溶分を70?100重量%と特定したこと、無機質微粉末の比表面積を5?500m2/gと特定したことにより当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとも認められない。

したがって、本願発明1は、引用文献1、6、8、9及び10に記載された発明、及び、本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献1、6、8、9及び10に記載された発明、及び、本願出願前周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-18 
結審通知日 2007-07-24 
審決日 2007-08-09 
出願番号 特願平11-348280
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 中澤 俊彦
阿久津 弘
発明の名称 イエロートナー及びそれを用いたフルカラー現像用トナー  
代理人 長谷川 曉司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ