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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1164838
審判番号 不服2007-5455  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-21 
確定日 2007-09-21 
事件の表示 特願2005- 75890「精神機能を活性化する運動機能評価訓練用具」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日出願公開、特開2006-223804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成17年2月17日の出願であって、平成19年1月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるともに、同日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成19年2月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成19年2月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

(1)本件補正の内容及び目的

本件補正により、本件補正前の平成18年8月24日付け手続補正(平成18年10月26日付けで方式補正されている)により補正された請求項1?4が、
「【請求項1】床または地上に広げて敷く、縦2列以上横2列以上の網目からなる歩行用の網で、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を持ち、これによって少なくとも歩行者の周囲に対する認知力、注意力、集中力といった精神機能の向上と、歩行や移動、方向転換といった基本的運動機能を高めることを目的とする運動機能評価訓練用具。
【請求項2】床または地上に広げて敷く、縦2列以上横2列以上の網目からなる歩行用の網で、これを足で踏んだ回数を利用して、少なくとも歩行者の周囲の認知力、注意力、集中力といった精神機能の活動や、移動能力、歩行能力といった運動機能の評価を行うことを特徴とする運動機能評価訓練用具。
【請求項3】上記歩行用の網は、幅Sは30mm<S<100mm、厚さTは1mm<T<2mmの帯状の部材Nを用いることを特徴とする運動機能評価訓練用具。
【請求項4】上記歩行用の網は、一辺の長さが500mm<W<1200mmである四辺形の網目Fを形成することを特徴とする運動機能評価訓練用具。」から

「【請求項1】 床または地上に広げて敷くために縦2列以上横2列以上の網目状に形成され、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を備えており、幅Sが30mm<S<100mm、厚さTが1mm<T<2mmの帯状部材Nにより構成されていることを特徴とする運動機能評価訓練用具。
【請求項2】 請求項1において、着地点に両足を着地可能に一辺の長さWが500mm<W<1200mmの四辺形の網目状に形成されていることを特徴とする運動機能評価訓練用具。
【請求項3】 請求項1または請求項2において、運動者が正面から向かい合ってすれ違えるよう、縦3列横2列以上の網目状に形成されていることを特徴とする運動機能評価訓練用具。」

と補正された。

平成18年8月24日付け手続補正により補正された請求項(以下、「旧請求項」という。)1?4は、いずれも他の請求項を引用することなく、独立した請求項として記載されている。
すると、本件補正により、いずれの旧請求項が、補正後の請求項(以下、「新請求項」という。)に対応するかに関し、異なる態様があり得るので、以下、順に検討する。

ここで、旧請求項3、旧請求項4は、いずれも引用形式で記載されていないが、「上記歩行用の網は」(下線は当審による)とあることから、旧請求項3又は旧請求項4は、先行する旧請求項1又は旧請求項3を引用するものと解される。

請求人は、審判請求書で、新旧請求項の対応関係を記載していないが、旧請求項3、新請求項1のいずれもが、歩行用の網に係る帯状の部材について、幅、厚さを特定する内容であることから、旧請求項3が新請求項1に、また、旧請求項4、新請求項2のいずれもが、歩行用の網に係る網目の四辺形の大きさを特定する内容であることから、旧請求項4が新請求項2に対応していると考えられるので、その場合、本件補正には次の補正事項が含まれる。

・旧請求項1を削除し、旧請求項1を引用した旧請求項3の表現を改め、新請求項1とすること。
・旧請求項1を引用した旧請求項3をさらに引用した旧請求項4を、「着地点に両足を着地可能に」と限定し、表現を改め、新請求項2とすること。
・新請求項1又は新請求項2を限定した新請求項3を設けること。

この様態において、新請求項3は、補正前に対応する請求項がなく、新たな請求項が追加されたものである。しかし、新請求項3について、旧請求項2を限定したものであるという主張も想定されるため、以下に検討する。

旧請求項1と旧請求項2を比較すると、前段である「床または地上に・・・網で、」までが同じ表現で、これに続く後段として、旧請求項1は「運動者に足の・・・目的とする」という表現が続き、旧請求項2は「これを足で踏んだ・・・評価を行うことを特徴とする」という表現が続き、末尾はいずれも「運動機能評価訓練用具」となっている。
そうすると、旧請求項1に係る前記後段は目的を示すのみであることから、その前段記載により、機能や目的という運動機能評価訓練用具の構成に関連した内容で表現しようとしているのに対して、旧請求項2は前段構成は共通するものの、主として、これを用いて評価を行うことを特徴として表現している。したがって、旧請求項2が請求しているものは、「運動機能評価訓練用具」ではなく、それを使用した評価方法に係る発明であると捉えざるを得ない。よって、旧請求項2は、「運動機能評価訓練用具」に係る発明である新請求項3の対応する請求項には成り得ず、新請求項3は、新たな請求項が追加されたものであり、このような補正は「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りようでない記載の釈明」のいずれにも該当せず、平成18年改正前特許法第17条の2条第4項の規定に違反している。

次に、旧請求項1が新請求項1に、旧請求項3が新請求項2に、旧請求項4が新請求項3に対応しているとの様態も想定されるので、以下に検討する。

旧請求項1には「網」との特定事項が記載されているのに対し、新請求項1は「網目状に形成され」の表現しかなく、「網」が削除されている。通常、「網」は、針金、紐などを編んで作ったものを意味し、「網」という表現を削除して「網目状に形成され」と表現することにより、形式上「網」以外のもの、つまり、編んで作成されない網目状のものが含まれることになる。他の対応する請求項についても同様なことがいえ、このような補正は特許請求の範囲の減縮に該当しない。
また、旧請求項4は網目の一辺の長さと形状を特定しているのに対し、新請求項1を引用する新請求項3は網目の一辺の長さ、形状が特定されていない。そうすると、新請求項1を引用する新請求項3は、網目の一辺の長さと形状についての形状が削除されたことになり、このような補正は特許請求の範囲の減縮に該当しない。

よって、本件補正は、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りようでない記載の釈明」のいずれにも相当しないから、特許法第17条の2条第4項の規定に違反しており、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

上記のごとく、本件補正は、補正目的に違反しているものであるが、出願人は審判請求書において、運動機能評価訓練用具の幅と厚みについて、作用効果を主張していることから、本件補正が、以下平成18年改正前特許法第17条の2第5項により準用される同報第126条第5項に規定される特許出願の際独立して特許を受けることができるもの(独立特許要件)であるか否かについても、以下、念のため検討しておく。

(2)補正発明の認定

本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、前記「1.本件補正の内容及び目的」で示した、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりのものと認める。

(3)補正発明1の独立特許要件の判断

(3-1)引用文献

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に頒布された特開2004-305529号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図示とともにある。

(1)「【請求項3】 略平板状を呈するマット体のマット体上面およびマット体下面を貫通して形成され、運動者の足部の少なくとも一部が緩挿可能に形成された開口部を有し、前記運動者による歩行訓練の運足場所を表示可能な複数の歩行表示部と、互いに隣接する前記歩行表示部の間、および前記マット体の外周部と前記歩行表示部との間にそれぞれ形成され、前記歩行表示部の境界を示す境界部とを具備し、前記マット体を所定の載置面に載置することにより、前記載置面および前記マット上面により所定高さの段差が形成されることを特徴とする運動用具。」

(2)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】 そこで、最近は高齢者を対象とした健康教室が各地のコミュニティーセンター等で盛ん行われるようになり、高齢者に対して持久力、筋力、バランス、および柔軟性に基礎をおいた運動指導を行っている。しかしながら、転倒予防を目的として、筋力とバランス感覚とを養うのに効果的な歩行運動を指導するものは少なかった。

【0007】 そこで、本発明は、上記実情に鑑み、転倒予防を目的とした歩行運動に用いる運動用具の提供を課題とする。」

(3)「【0009】 ここで、運動者は、加齢により筋力等が低下している高齢者、および事故、病気等により筋力等が低下している患者等が想定される。また、足部は、足首より下の部分を称する。そして、歩行訓練は、指定された場所に指定された順序で運足するものであり、転倒予防運動が例示される。なお、転倒予防運動とは、つまずかないための運動、およびつまずいた後の転倒回避能の向上を目的とした運動である。つまずかないための運動は、地面の突起物や滑りやすい床面に対応できる安定した下半身、上半身、および体幹の筋力作りを目的としており、具体的には、足を引上げる大腰筋、大腿四頭筋、足首を固定するのに重要な前頚骨筋、姿勢維持に重要な腹直筋、腹斜筋、脊柱起立筋、および下半身とのバランスを保つ上腕筋群、三角筋、僧房筋を強化するものである。一方、転倒回避能を向上させる運動は、つまづいた時にとっさのフォロー動作を行う調整力を養うものである。ここで、調整力は、体のふらつきを助ける平衡性、および素早く体を移動する敏捷性等を含む。

【0010】 また、運足場所の表示とは、歩行訓練を実施する運動者に対して、足部を着地させる領域を視覚的に示すことである。すなわち、歩行表示部は、足部を着地させる領域を、運動者に視認させるように区画されたものである。

【0011】 そして、マット体は、全体を四角形、円形等種々の形状に形成することができ、ゴム、プラスチック等の樹脂、および人工芝等種々の素材が適用可能である。また、開口部および接地面の形状は、四角形状、円形状等種々の形状で形成することが可能である。例えば、ゴムを使用して形成すると、運動者の足が接地面に着地した際の足への衝撃を吸収することができ、さらに、マット体、および歩行表示部を、四角形状に形成すると複数の歩行表示部の配置が容易となり、保管も容易であるため、係る素材および形状の選択が好適である。なお、年齢、性別、および運動者の運動能力等に応じて、歩行表示部の大きさを変更するものであってもよい。」

(4)「【0027】 図1に示すように、運動用具1は、長方形状を呈するマット体2のマット体上面2aに、格子状の境界部3が配設され、正方形状を呈する接地面4および開口部5を有する歩行表示部6が「7×4」に整列して形成されている。そして、図2に示すように、境界部3は、断面略半円形状を呈しており、マット体2のマット体上面2aから突出している。ここで、寸法は、マット体2は、縦156cm、横90cm、接地面4は、20cm四方、開口部5は、22cm四方、および境界部3は、半径1cmであり、境界部3は、マット体上面2aから最大1cm突出している。さらに、開口部5は、境界部3の接地面4からの高さが最大の点を結んだ正方形を呈している(図1に、説明を簡略化するために、一部を一点鎖線で示す。)。なお、運動用具1は、弾性があり、足部Fへの衝撃を吸収するゴムを用いて、マット体2および境界部3を一体にして形成されている。」

(5)「【0034】 図6に示すように、運動用具101は、略平板状を呈するマット体102のマット体上面102aおよびマット体下面102bを貫通して形成され、正方形状を呈する開口部103を有する歩行表示部104、隣接する歩行表示部104の間、および歩行表示部104とマット体102の外周部との間に形成される境界部105とを主に有する。ここで、マット体102は、マット体上面102aが縦135cm、横108cmの長方形状、マット体下面102bが縦137cm、横110cmの長方形状を呈し、厚さが1cmに形成されている。そして、開口部103は、27cm四方の正方形状、および境界部104(当審注:105の誤記)は、断面が底辺2cm、高さ1cmの二等辺三角形状を呈している(図7)。なお、運動用具101も、第一実施形態の運動用具1と同様のゴムを用いて形成されている。

【0035】 本実施形態の運動用具101は、体育館、および自宅等の平滑な床面(載置面に相当)上に載置されることにより、床面上を境界部105によって複数に区画することができ、歩行表示部104によって、運動者Eが運足する場所を表示することができる。したがって、第一実施形態の運動用具1において示した運動と同様の運動を実施し、同様の効果を得ることができる。さらに、屋外の芝面上に載置して、裸足で歩行訓練を実施することもできる。このとき、運動者Eは、広い場所で、日光を浴び、足の裏に心地よい刺激を感じ、運動をすることができ、心身ともにリラックスした状態で筋力等を養うことができる。

【0036】 さらに、歩行表示部104は、マット体102を貫通して形成されるため、運動用具101の全体の重量を軽減することができる。したがって、例えば、体育館の倉庫に保管されている運動用具101を、運動を実施する際に持出す場合、高齢者等の力が弱い者でも、自分自身で持出し、準備することができる。また、第一実施形態の運動用具1と比較すると、接地面4を有さないため、比較的薄いマット体102を用いて運動用具101を形成することが可能である。したがって、折畳んで収納することがさらに容易となり、小さいスペースで保管することができる。」

(6)「【0040】 また、境界部3,105は、つまずく危険性の少ない傾斜を有する形状、例えば、断面台形状、および略山型状等であってもよい。さらに、接地面4および床面等からの高さは、安全面および踏んだという感覚を伝えることを考慮して、0.5cm?1.5cm程度の範囲で変更することが可能である。」

(7)【図6】からは、格子状に形成された境界部105により、縦4列、横5列の歩行表示部104が形成された運動用具が、【図7】からは、境界部105は断面が二等辺三角形状を呈している点が看取できる。

上記(6)に高さについて、0.5cm?1.5cm程度の範囲で変更することが可能であることが記載されているから、高さ0.5cmの運動用具が認識される。

この記載事項及び図6を含む引用文献1全体の記載によると、引用文献1には、「床面上に載置される、縦4列、横5列の格子状に形成された境界部105により形成された、正方形状を呈する開口部103を有する歩行表示部104を有し、境界部105は、断面の底辺が2cm、高さ0.5cmである運動機能訓練用具。(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、本願の出願の日前に頒布された登録実用新案第3037747号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図示とともにある。

(1)「【0001】 【考案の属する技術分野】 本考案は、運動場或いは体育館において使用され、競技者の脚力及び瞬発力を強化する訓練に適したトレーニング器具に関する。」

(2)「 【0007】 【実施の形態】 図1において、10は、トレーニング器具であり、偏平な2本のロープ11,11と、このロープ11,11間にその長手方向に対し直角に張り渡された複数のプレート12,12,…よりなる。ロープ11,11はアクリル繊維糸を、袋綴じ織りと称される方法にて織ったものであり、幅15mm、厚さ2mm 、長さ9mの寸法とした。アクリル繊維糸の織布は滑りにくいという特性があるため、かかるロープ11,11の材料として適している。またアクリル繊維に代えて綿の織布、又はアクリル繊維と綿の混紡織布を使用してもよい。これらの織布も滑りにくいという特性を有する。プレート11,11は、軟質弾性体にて偏平に形成されたもので、その材料としては、硬度(JISA)60の軟質ポリ塩化ビニル樹脂が使用できる。この樹脂は滑りにくいという特性を有するため、かかるトレーニング器具に適している。プレート12,12,…は、長さ50cm、主要部分の厚さ 6mm、幅20mm とすることができ、ロープ11,11に50cm間隔で配設されている。プレート12の材料としては、軟質ポリ塩化ビニル樹脂のほか、ウレタン系エラストマー樹脂又はオレフィン系エラストマー樹脂が使用できる。これらの樹脂も滑りにくいという特性を有する。」

(3)「【0010】 使用に際しては、地面又は床面にロープ11及びプレート12部分が密着するようにトレーニング器具10を拡げて置き、プレート12で区切られる枠を利用して、ステップやジャンプをするのである。図4及び図5は、使用方法の一例であり、クィックラントレーニングと呼ばれるものである。訓練者25は、トレーニング器具10の1枠に1歩づつ足を入れて、駆け抜けるのである。このトレーニング器具10は、直線、湾曲線或いは90度屈曲させた曲線とする等トレーニングの種類に応じて、任意に折り曲げることができる。」

(4)【図1】からは、ロープ11、プレート12が帯状であることが看取できる。

この記載事項を含む引用文献2全体の記載によると、引用文献2には、帯状部材であるロープ間にプレートを直角に張り渡し、使用者が通過する部分であるプレートの厚さが6mm、幅が20mmであるトレーニング器具10が記載されているものと認められる。

(3-2)対比

補正発明1と引用発明を対比する。

引用発明の「格子状」、「運動機能訓練用具」は、補正発明の「網目状」、「運動機能評価訓練用具」に相当する。
補正発明1の「床または地上に広げて敷くために」の記載からは、補正発明1は、床又は地上に広げて敷くことが可能な構成を有しているといえる。一方、引用文献1【0035】「本実施形態の運動用具101は、体育館、および自宅等の平滑な床面(載置面に相当)上に載置される」、【0036】「折畳んで収納することがさらに容易となり、小さいスペースで保管することができる。」の記載から、引用文献1に記載された運動用具も、床面に広げて敷くことが可能な構成であることが認められるから、引用発明も、床に広げて敷くためのものといえる。
また、引用文献1【0035】「歩行表示部104によって、運動者Eが運足する場所を表示することができる。」の記載より、引用文献1に記載された運動用具も、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を備えているといえる。
引用発明の「境界部」と補正発明の「帯状部材」は、いずれも「目を形成する部材」で共通する。

したがって、補正発明1と引用発明は、
「床に広げて敷くために縦2列以上横2列状の網目状に形成され、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を備えており、目を形成する部材により構成されている運動機能評価訓練用具。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]目を形成する部材に関し、補正発明1が、幅Sが30mm<S<100mm、厚さTが1mm<T<2mmの帯状部材Nにより構成されているのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(3-3)判断

[相違点]について検討する。
引用文献2には、帯状部材からなる運動用具が記載されており、引用発明に記載された網目状の運動用具を、帯状部材から形成し、補正発明1の構成とすることは、当業者にとって容易である。
引用文献2には、使用者である競技者が通過する部材の厚みが6mmであることが記載されており、一方、引用文献1には、使用者である高齢者が、転倒防止を目的とした運動に用いる運動機能訓練用具において、安全面を考慮する旨記載されており、使用者である高齢者が、使用にあたって運動機能訓練用具を踏んだという感覚を伝えることを考慮しても、健常者に適用される厚み6mmより薄い厚みを5mmとすることが記載されている。すると、運動用具の使用者が高齢者である場合、健常者が使用する場合と比較して厚みを薄くすることは、両文献を対比すれば示唆されているといえるのであり、さらなる安全を考慮して薄くすることは、当業者にとって容易と言わざるを得ない。その際、どの程度の厚みとするかは、当業者が必要に応じ設計する事項である。
幅についても、使用者が安全に使用するために、視認性を高める必要があることは、当業者ならば当然認識していることであるから、どの程度の幅にするかは、使用者にあわせて当業者が必要に応じ設計する事項である。

そして、補正発明1の作用効果も、引用文献1、2に記載の発明から当業者が予測出来る範囲のものである。

以上のとおり、少なくとも補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、特許出願の際独立して特許をうけることができないものである。

(4)むすび

本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定される目的のいずれにも該当しないものであり、また、仮に、該目的に該当するとしても、補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないのであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

3.本願発明について

(1)本願発明の認定

平成19年2月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年8月24日付け手続補正(平成18年10月26日付けで方式補正されている)によって補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定された次のとおりのものと認める。

「床または地上に広げて敷く、縦2列以上横2列以上の網目からなる歩行用の網で、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を持ち、これによって少なくとも歩行者の周囲に対する認知力、注意力、集中力といった精神機能の向上と、歩行や移動、方向転換といった基本的運動機能を高めることを目的とする運動機能評価訓練用具。」

(2)対比、判断

前記2.における「(3-1)引用文献」に記載したとおり、引用文献1には、「床面上に載置される、縦4列、横5列の格子状に形成された境界部105により形成された、正方形状を呈する開口部103を有する歩行表示部104を有する運動機能訓練用具。(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

前記2.における「(3-2)対比」に記載したように、引用発明の「運動機能訓練用具」は、補正発明の「運動機能評価訓練用具」に相当する。また、引用発明も床に敷くものであり、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を備えており、歩行用の目を有する点で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明を比較すると、
「床に広げて敷く、縦2列以上、横2列以上の歩行用の目を有し、運動者に足の着地を許す地点を示す機能を持つ運動機能評価訓練用具。」の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1] 本願発明は、運動機能評価訓練用具において、目を有するものが「網目からなる網」であるのに対し、引用発明においては、そのような特定がない点。
[相違点2] 本願発明は、運動機能評価訓練用具において、「これによって少なくとも歩行者の周囲に対する認知力、注意力、集中力といった精神機能の向上と、歩行や移動、方向転換といった基本的運動機能を高めることを目的とする」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点。

以下、相違点について検討する。

[相違点1]について、目を有するものとして、網目からなる網は周知のものであり、該周知のものである網を採用して、本願発明の相違点のような構成とすることは、当業者にとって容易である。

[相違点2]について、「これによって少なくとも歩行者の周囲に対する認知力、注意力、集中力といった精神機能の向上と、歩行や移動、方向転換といった基本的運動機能を高めることを目的とする」は、運動機能評価訓練用具を使用する目的について単に述べられたものにすぎない。したがって、この記載によっては運動機能評価訓練用具の構成に何の限定も付加されず、実質的な相違点にあたらない。

そして、本願発明の作用効果は、引用文献に記載の発明及び周知の技術から当業者が予測出来る範囲のものである。

したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願発明は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-17 
結審通知日 2007-07-18 
審決日 2007-08-09 
出願番号 特願2005-75890(P2005-75890)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 571- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
七字 ひろみ
発明の名称 精神機能を活性化する運動機能評価訓練用具  
代理人 佐川 慎悟  

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