ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J |
---|---|
管理番号 | 1164862 |
審判番号 | 不服2006-7359 |
総通号数 | 95 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-17 |
確定日 | 2007-09-20 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第535004号「印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 9日国際公開、WO97/36751、平成11年 6月22日国内公表、特表平11-506989〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、1997年3月18日(優先権主張1996年3月29日 英国特許)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月6日付で拒絶査定がなされた。 これに対し、平成18年4月17日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月17日付で明細書に対する補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 平成18年5月17日付けの手続補正の却下の決定 [補正却下の結論] 平成18年5月17日付の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正事項 本件補正により、特許請求の範囲は、 「1.キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、印刷ヘッド(17)が位置付けられた印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、さらに、各々が印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリアから隣接する前記台(11)に対して静止状態に保持された基板(21)上に転写する複数の印刷要素を持つ前記印刷ヘッド(17)とを備えた印刷装置(10)における印刷方法において、 該方法が、前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を静止状態に保持された前記基板(21)に向けて移動させる工程と、 印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と前記基板(21)との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる工程と、 印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させる工程、とから成ることを特徴とする印刷方法。 2.印刷作業中に、前記使用済みキャリア巻き取りスプール(13)に前記駆動手段により回転運動を与えることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の印刷方法。 3.前記基板(21)に対して前記キャリヤ(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように、印刷作業中は、前記キャリヤ(15)の移動が、キャリヤ移動感知手段によって監視されることを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載の印刷方法。 4.印刷作業が、制御手段(20)に制御されて実行されることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか1項に記載の印刷方法。 5.印刷作業に次いで、前記印刷ヘッド(17)が前記基板(21)から離れる方向に移動してさらなる印刷作業が実行されるように開始位置に復帰し、さらに、前記印刷ヘッド(17)の復帰動作中に、新しい基板(21)が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーション(16)のところに持ち来たされることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第4項のいずれか1項に記載の印刷方法。 6.前記印刷装置(10)が、複数の印刷作業を連続的に実行し、各々の印刷作業中に、印刷される画像が実質的に同一の長さのものであり、前記印刷ヘッド(17)の前記開始位置への復帰動作中は、前記キャリア(15)が概ね静止状態に保持されることを特徴とする特許請求の範囲第5項に記載の印刷方法。 7.キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、印刷ヘッド(17)が位置付けられた印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、さらに、各々が印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリア(15)から隣接する前記台(11)に対して静止状態に保持された基板(21)上に転写する複数の印刷要素を持つ前記印刷ヘッド(17)とを備え、 前記印刷ヘッドが、前記印刷ステーションにおいて、印刷時には前記基板に向かって移動可能であり、印刷完了時には該基板から離れる方向に移動可能であり、印刷作業中において、前記キャリアと前記印刷ヘッドの各々の印刷要素と前記基板との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる手段を備え、 更に、印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させることを特徴とする特許請求の範囲第1項乃至第6項に記載の印刷方法を実施するための印刷装置。」 から、 「【請求項1】 キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、 印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、 印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、 さらに、各々が、印刷作業中は前記台(11)に対し静止状態に保持されかつ前記キャリアに隣接配置された基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成された前記印刷ヘッド(17)と、から構成される印刷装置(10)による印刷方法において、 該方法が、前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を静止状態に保持された前記基板(21)に向けて移動させる工程と、 印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と前記基板(21)との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる工程と、 印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させる工程とから成り、 前記基板(21)に対して前記キャリヤ(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように、印刷作業中は、前記キャリヤ(15)の移動が、キャリヤ移動感知手段によって監視され、 印刷作業が、制御手段(20)に制御されて実行され、 印刷作業に次いで、前記印刷ヘッド(17)が前記基板(21)から離れる方向に移動してさらなる印刷作業が実行されるように開始位置に復帰し、 さらに、前記印刷ヘッド(17)の復帰動作中に、新しい基板(21)が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーション(16)のところに持ち来たされることを特徴とする印刷方法。 【請求項2】 印刷作業中に、前記使用済みキャリア巻き取りスプール(13)に前記駆動手段により回転運動が与えられることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。 【請求項3】 前記印刷装置(10)が、複数の印刷作業を連続的に実行し、各々の印刷作業中に、印刷される画像が実質的に同一の長さのものであり、前記印刷ヘッド(17)の前記開始位置への復帰動作中は、前記キャリア(15)が概ね静止状態に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷方法。」 と補正された。 本件補正により請求項の数は7から3に変更された。 さらに本件補正による、請求項1乃至3に係る発明はすべて印刷方法である。 このことに鑑みれば補正前の請求項7は印刷装置であるので、請求項7が削除されたことは明らかである。 そこで、本件補正前の請求項1乃至6と本件補正後の請求項1乃至3の対応関係について検討する。 本件補正前後の請求項2に何等変更はない。よって本件補正前の請求項2は本件補正後の請求項2に対応することは明らかである。同様に本件補正前の請求項6と本件補正後の請求項3も請求項数の減少により引用する請求項が繰り上がっているものの、その内容に実態として変更がないことから、両者が対応関係にあるものとみなせる。 すると本件補正前の請求項1、3乃至5のうち何れかを補正後の請求項1として、残りの請求項を削除したものとなる。 この場合、本件補正後の請求項1は補正前の請求項3乃至5のいずれかであるが、同時に本件補正後の請求項2は依然として請求項1を引用している。 よって、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応するものと解することが妥当であるので、本件補正後の請求項1について補正事項を検討する。 本件補正は以下の補正事項を含むものと認められる。 a.補正前の「印刷ヘッド(17)が位置付けられた印刷ステーション(16)」との記載を「印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)」とする補正(以下、「補正事項a」という。)。 b.補正前の「各々が印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリアから隣接する前記台(11)に対して静止状態に保持された基板(21)上に転写する複数の印刷要素を持つ前記印刷ヘッド(17)とを備えた印刷装置(10)」との記載を「各々が、印刷作業中は前記台(11)に対して静止状態に保持されかつ前記キャリアに隣接配置された基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成された前記印刷ヘッド(17)と、から構成される印刷装置(10)」とする補正(以下、「補正事項b」という。)。 c.補正後の請求項1として、「前記基板(21)に対して前記キャリヤ(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように、印刷作業中は、前記キャリヤ(15)の移動が、キャリヤ移動感知手段によって監視され」との特定を付する補正(以下、「補正事項c」という。)。 d.補正後の請求項1として、「印刷作業が、制御手段(20)に制御されて実行され、 印刷作業に次いで、前記印刷ヘッド(17)が前記基板(21)から離れる方向に移動してさらなる印刷作業が実行されるように開始位置に復帰し」との特定を付する補正(以下、「補正事項d」という。)。 e.補正後の請求項1として、「さらに、前記印刷ヘッド(17)の復帰動作中に、新しい基板(21)が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーション(16)のところに持ち来たされる」との特定を付する補正(以下、「補正事項e」という。)。 2.補正目的 そこで補正事項a?eが、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号を目的としたものであるかについて検討する。 a)補正事項aについて 補正事項aは、補正前の「印刷ヘッド(17)が」と「位置付けられた印刷ステーション」の間に「、前記台上に」との特定事項を挿入する補正を行っている。 ここで、「、前記台上に」と挿入することは一見、補正前の発明特定事項を限定したようにもみえるが、本件補正後の「印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)」の意味するところが、実態として不明である(この点については後記する。)。 すると、本件補正で挿入された「、前記台上に」との記載がどの発明特定事項を限定しているか定かでないので、厳密な意味で特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当するか否かの判断が困難である。 しかしながら、本件補正事項aが形式的には限定的に減縮した形をとっていることに鑑み、記載の不明確な点については独立特許要件で判断することとし、ここでは一応、特許請求の範囲の減縮を目的としたものとして検討する。 b)補正事項bについて 補正前の「各々が印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリアから隣接する前記台(11)に対して静止状態に保持された基板(21)上に転写する複数の印刷要素を持つ前記印刷ヘッド(17)とを備えた印刷装置(10)」との記載と、補正後の「各々が、印刷作業中は前記台(11)に対して静止状態に保持されかつ前記キャリアに隣接配置された基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成された前記印刷ヘッド(17)と、から構成される印刷装置(10)」との間には表現の違いこそあるが、実態として発明特定事項を変更するものではない。 このような場合、補正事項bは特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものに該当しないし、補正前に明らかな誤記があったとも認められないことから誤記の訂正とも認められない。さらに、拒絶理由通知に係る拒絶理由についてする明りようでない記載の釈明とも認められず、請求項の削除でないことも明らかである。 すると、補正事項bは平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号を目的としたものであるとは認められない。 c)補正事項cについて 補正事項cは、キャリヤ(15)の移動について「前記基板(21)に対して前記キャリヤ(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように」とした点は、限定をしたものと認めら得る余地があるものの、補正事項cにより「キャリヤ移動感知手段」との発明特定事項が加えられている。 本件補正前の請求項1には「キャリヤ移動感知手段」について一切記載されておらず、「キャリア移動感知手段」が本件補正前の発明特定事項を限定したものとも認められない。 すると、補正事項cは特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものに該当しないし、補正前に明らかな誤記があったとも認められないことから誤記の訂正とも認められない。さらに、拒絶理由通知に係る拒絶理由についてする明りようでない記載の釈明とも認められず、請求項の削除でないことも明らかである。 すると、補正事項bは平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号を目的としたものであるとは認められない。 d)補正事項dについて 補正事項dは、印刷作業について制御手段(20)で制御される点、さらに印刷作業に次いでさらなる印刷作業が実行される点について特定したと認められるので、補正前の発明特定事項である「印刷作業」を限定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。 e)補正事項eについて 補正事項eは、印刷ヘッド(17)について、復帰動作を行いそのときのさらなる印刷作業の準備について特定したと認められるので、補正前の発明特定事項である「印刷ヘッド(17)」を限定したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。 したがって、本件補正において請求項1についてする補正事項b、cは平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号を目的としたものとは認められないので、本件補正は却下されなければならない。 しかし、補正事項a,eは特許請求の範囲の減的的減縮を目的としており、かつ補正事項bにより発明特定事項の変更はない点、さらに補正事項cは本件補正前の請求項3の発明特定事項を繰り入れることを意図している可能性もある(前記のごとく本件補正後の請求項1が補正前の請求項3に対応することは認められないが)ので、補正後の請求項1に係る発明について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて以下に検討しておく。 3.請求項1の記載不備(独立特許要件その1)について 本件補正により補正された請求項1において「印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)」なる記載が認められる。 ここでの文意として、印刷ヘッドが位置付けられた印刷ステーションであるとの意味で解釈をすると「前記台上に」が何を規定(文章として修飾)しようとしているのか不明である。 また、印刷ステーションは前記台上に位置付けられているとの意味であると解釈すると、「印刷ヘッドが」がどのような意味合いをもつものか不明となる。 このように、「印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)」の文意の理解が困難であり、本願補正発明の記載は不明確といわざる得ない。 よって、本願補正発明すなわち請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に違反しており、本件出願の明細書又は図面の記載は不備であるので特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.本願補正発明の進歩性(独立特許要件その2)の判断 前記のごとく前記「印刷ヘッド(17)が、前記台上に位置付けられた印刷ステーション(16)」の文意は明確とはいえないが、この意味を「印刷ヘッド(17)が位置付けられた、前記台上にある印刷ステーション(16)」と解釈して、以下に進歩性の判断をしておく。 4-1.本願補正発明の認定 本件補正による補正され、当審にて認定する請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、前記の解釈に鑑み以下のとおりのものと認める。 「キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、 印刷ヘッド(17)が位置付けられた、前記台上の印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、 印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、 さらに、各々が、印刷作業中は前記台(11)に対し静止状態に保持されかつ前記キャリアに隣接配置された基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成された前記印刷ヘッド(17)と、から構成される印刷装置(10)による印刷方法において、 該方法が、前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を静止状態に保持された前記基板(21)に向けて移動させる工程と、 印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と前記基板(21)との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる工程と、 印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させる工程とから成り、 前記基板(21)に対して前記キャリヤ(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように、印刷作業中は、前記キャリヤ(15)の移動が、キャリヤ移動感知手段によって監視され、 印刷作業が、制御手段(20)に制御されて実行され、 印刷作業に次いで、前記印刷ヘッド(17)が前記基板(21)から離れる方向に移動してさらなる印刷作業が実行されるように開始位置に復帰し、 さらに、前記印刷ヘッド(17)の復帰動作中に、新しい基板(21)が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーション(16)のところに持ち来たされることを特徴とする印刷方法。」(当審注:下線部は、当審の認定によるもの。) ただし、本件補正により補正された請求項1では「キャリア(15)」と「キャリヤ(15)」と、同一の発明特定事項につき異なる表現がされているが、両者に実体的な違いがあるわけではないので以下当審では「キャリア(15)」と表現することとする。 4-2.引用例 (1)本願の優先日前に頒布された特開平2-194972号公報(以下、「引用例A」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。 (ア)「1.プラテンと、受像紙と、インクシートと、感熱ヘッドとからなり、該感熱ヘッドの発熱作用によって該プラテン上の受像紙に該インクシートのインキを転写する感熱転写記録装置であって、前記プラテンが平板状をなし、該プラテン上に前記受像紙を固定する固定手段と、該受像紙上に前記インクシートを順次移送し固定する移送手段と、該インクシート上を前記感熱ヘッドが移動する移動手段とを具備したことを特徴とする感熱転写記録装置。 2.プラテンと、受像紙と、インクシートと、感熱ヘッドとからなり、該感熱ヘッドの発熱作用によって該プラテン上の受像紙に該インクシートのインキを転写する感熱転写記録装置であって、前記プラテンが平板状をなし、該プラテン上に前記受像紙を固定する固定手段と、該受像紙上に前記インクシートを移送し固定する移送手段と、該インクシート上を前記感熱ヘッドが移動する移動手段と、該インクシートを該受像紙から剥離する剥離手段とを具備したことを特徴とする感熱転写記録装置。」(特許請求の範囲、請求項1,2) (イ)「3は感熱ヘッド(以下、ヘッドと称す)であり、キャリッジ7に取り付けられている。キャリッジ7に回転可能に取り付けたヘッドカム6の回転により、ヘッド3は上下方向に移動可能である。キャリッジ7は、プーリ9とプーリ10で張られたベルト8に固定されている。プーリ9はパルスモータ12で回転駆動され、ベルト8とキャリッジ7を介してヘッド3を左右方向へ移動する。また、移送軸11は、ヘッド3を水平に移動するために、キャリッジ7を直線運動方向に支持する剛体軸である。 ヘッド3はインクシート2と受像紙1を介して、ゴム等の弾性材料から成る平板状のプラテン4と対向する。プラテン4は、記録面積より大きい寸法をもち、剛性材料からなる支持台5に取り付けられている。」(第3頁右下欄第10行目?第4頁左上欄第5行目) (ウ)「受像紙1は、ロール状に巻かれた紙円筒24から供給され、一対のガイドローラ25の間を通り、押圧体19とプラテン台5の右端平面部の間を経て、プラテン4の面と接触し、搬送ローラ27と偏心ローラ28に挾持される。」(第4頁右上欄第5?9行目) (エ)「インクシート2は第2図に示すように、・・・供給ロール29から送り出され、回転可能に設けたインクローラ46と、上下方向に移動可能な押圧ローラ26で案内される。さらに、インクシート2は、プラテン4に固定された受像紙1の上を経て、押圧体16と押圧体19の間を通り、巻取ロール31に巻き取られる。供給ロール29はS摩擦クラッチ30を介してモータ35で駆動される。一方、巻取ロール31はT摩擦クラッチ32を介してモータ34で駆動される。」(第4頁右上欄第10行目?同左下欄第1行目) (オ)「第1図は、本実施例の記録動作時の状態を示している。本実施例をコントロールする制御回路43を第3図に示す。制御回路43は、マイクロプロセッサや各モータのドライバ回路、各センサの増幅器等から構成されており、本実施例の動作を司どる。 最初に、受像紙1とインクシート2を所定の位置に装着する受像紙のセット101と、インクシートのセット102を行う。」(第4頁右下欄第3?11行目) (カ)「このテンションにより、受像紙1はプラテン4の全面に接触した状態を維持しつづける。この受像紙セット101と平行して、インクシートセット102を行う。」(第5頁左上欄第7?10行目) (キ)「受像紙セット101の終了後、押圧ローラ26を降下させて、インクシート2と受像紙1を介してプラテン4に押圧する。」(第5頁左上欄第20行目?同右上欄第2行目) (ク)「つぎに、ヘッドセット103を行う。パルスモータ12を駆動して、センサ40が「ON」する位置までキャリッジ7を移動し、ヘッドカム6を回わして、ヘッド3をインクシート2と受像紙1を介してプラテン4に押圧する。 記録動作104は、パルスモータ12を駆動し、ヘッド3を左方向へ移動させながら、制御回路43からの出力信号に従って、ヘッド3が励起され、インクシート2の、イエロインキが受像紙1に転写される。この場合、記録長さに相当するパルス数だけパルスモータ12でヘッド3を移動して停止し、ヘッドカム6を回転させてヘッド3の押圧を解除する。」(第5頁右上欄第16行目?同左下欄第8行目) (ケ)「第2色目のマゼンダの記録を行う。第1色目の一連の動作うち、受像紙セット101が不要になり、また、ヘッドセット103の中の「キャリッジの位置決め」の代わりに、「ヘッドリターン」の動作が入る。ヘッドリターンとは、ヘッド3を記録時に移動したパルス数だけ、戻す動作である。」(第5頁左下欄第16行目?同右上欄第2行目) (コ)「記録後、押圧体19による受像紙1の固定を解除し、モータ36とモータ45を協動させて受像紙1を所定長さだけ左方向へ搬送し、回転型カッタ39で受像紙1を切断する。」(第5頁右下欄第5?8行目) 引用例Aには、感熱熱転写記録装置による受像紙セット101、ヘッドセット103及び記録動作104等が一連の動作として、印刷方法が記載されていることが認められる。 よって、引用例1の記載(ア)?(コ)を含む全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認める。 「インクシート2は、供給ロール29から送り出されプラテン4に固定された受像紙1の上を経て、モータ34で駆動される巻取ロール31に巻き取られ、感熱ヘッドであるヘッド3は、プーリ9とプーリ10で張られたベルト8に固定されたキャリッジ7に取り付けられ、ヘッド3は上下方向に移動可能であり、プーリ9はパルスモータ12で回転駆動され、ベルト8とキャリッジ7を介してヘッド3を左右方向へ移動するようにされた感熱転写記録装置の印刷方法において、 制御回路43により受像紙1をプラテン4の全面に接触した状態を維持する受像紙セット101を行い、センサ40が「ON」する位置までキャリッジ7を移動し、ヘッドカム6を回して、ヘッド3をインクシート2と受像紙1を介してプラテン4に押圧するヘッドセット103を行い、記録動作104は、パルスモータ12を駆動しヘッド3を左方向に移動させながら、ヘッド3が励起され、インクシート2のインキが受像紙1に転写され、この際、記録長さに相当するパルス数だけパルスモータ12でヘッド3を移動して停止し、ヘッドカム6を回転させてヘッド3の押圧解除し、記録後、受像紙1の固定を解除し、受像紙1を所定長さだけ左方向へ搬送し、回転型カッタ39で受像紙1を切断する印刷方法。」 (2)本願の優先日前に頒布された特開昭58-201686号公報(以下、「引用例B」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。 (ア)「多数の記録素子が配設された記録ヘッドと、プラテンローラとの間の記録部にインクシートと記録紙とを搬送させながらデジタル画情報に応じた熱転写による記録を順次行わせるプリンタにおいて、インクシートを記録部に送る専用の送りローラ手段を設け、記録時に送りローラによるインクシートの送り速度がプラテンローラにより記録部に搬送される記録紙の速度よりも遅くなるように送りローラ手段を駆動するようにしたことを特徴とする熱転写式プリンタ。」(第1頁左下欄、特許請求の範囲) (イ)「一般に、熱転写式プリンタは、第1図に示すように、記録媒体としてフィルムベース上に熱溶融性または熱昇華性の乾性インク層が形成されたインクシート1を使用し、そのインクシート1と記録紙(普通紙)2とを副走査方向に搬送させて、複数の記録素子が主走査方向に1ライン分配設された記録ヘッド3とプラテンローラ4との間にインクシート1と記録紙2とを圧接させながら各1ライン分のデータに応じた熱転写による記録を順次行わせるようにしている。」(第1頁右下欄第18行目?第2頁左上欄第10行目) (ウ)「従来、この種の熱転写式プリンタにあっては、インクシート1と記録紙2とを等速で副走査送りをなして記録を行わせるようにしており、そのためインクシート1の消費量が大きなものになってしまっている。」(第2頁左上欄第18行目?同右上欄第2行目) (エ)「記録位置ではインクシート1と記録紙2とが摺動関係になるようにしている。」(第3頁左上欄第11?13行目) (オ)「記録画情報が1ライン単位で間欠的(または連続的)に記録ヘッド3に逐次与えられるとともに(第3図中の印字タイミング中のA期間は各1ライン分の印字所要時間を示している)、インクシート1および記録紙2が記録ヘッド3とプラテンローラ4との間に搬送されて1ラインずつの熱転写による記録が順次行なわれることになる。その際、本発明では特に、A期間中に記録紙2がステップモータ9の4ステップ駆動によって副走査方向に1ライン分ずつ送られ、同じくA期間中にインクシート1がステップモータ5の1ステップ駆動によって送られるようにするとともに、各ステップモータ5,9の各1ステップ駆動で記録紙2とインクシート1との搬送量が等しくなるように送りローラ対6とプラテンローラ4との各ローラ径、減速比がそれぞれ設定されている。すなわち、この実施例では、インクシート1として同一箇所で4回の熱転写を行なわせることができるもを使用し、記録紙2の副走査方向における1ライン分の送りに対してインクシート1の送りがその1/4になるようにしている。」(第3頁左下欄第1行目?同右下欄第4行目) (カ)「インクシート1の送りローラ対6と記録紙2を送るプラテンローラ4とが同一のステップモータ20を駆動源としてそれぞれ駆動されるようにするとともに、ギヤ比によってインクシート1と記録紙2との送り速度比が所定の関係になるように構成している。」(第4頁右上欄第1?7行目) (キ)「記録期間中電磁クラッチ26を投入状態にし、かつ第1のギヤ25と第2のギヤ29とのギヤ比を適宜設定することにより、ステップモータ29の順方向駆動によってインクシート1と記録紙2との送り速度比の関係を所定に保持させることができるようになる。」(第4頁左下欄第8?14行目) (3)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平3-104682号公報(以下、「引用例C」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。 (ア)「(1)転写材の有するインクを記録媒体に転写して記録する熱転写記録装置であつて、 前記転写材に作用して転写記録を行うための記録ヘツドを搭載したキヤリツジと、 画像記録時、前記キヤリツジの走査方向と一致する方向に前記転写材を搬送する搬送手段と、を有することを特徴とする熱転写記録装置。 (2)前記搬送手段は所定記録当たり、前記記録媒体に転写される記録される記録長よりも短い長さになるように前記転写材を搬送するように構成されていることを特徴とする請求項第1項に記載の熱転写記録装置。」(公報第1頁左下欄第5?16行目) (イ)「熱転写プリンタには、記録ヘッドを主走査方向に走査して逐次記録するシリアル型のプリンタと、記録媒体の幅とほぼ同じ長さのライン型のヘッドを用いて記録を行うラインプリンタがあるが、いずれの形態でも、従来の転写材は1回の画像記録によりほぼ完全にインクが記録媒体に転写されるものであった。従って、1回の画像記録が終了すると、その記録に使用されたインク部分に対応する長さだけ転写材を搬送し、次に記録する位置には転写材の未使用のインク部分をもってくる必要がある。このため、転写材の使用量が大きくなり、感熱紙に記録する従来の感熱プリンタに比べてランニングコストが高くなるという問題があった。」(公報第1頁右下欄第13行目?第2頁左上欄第10行目) (ウ)「記録紙11はプラテン12にバックアップされた状態で紙送りローラにピンチローラ13によって押圧されている。プラテン12の前側にはシヤフト14がプラテン12と平行に設置され、このシヤフト14にキヤリツジ15が矢印A1とA2方向に移動可能に案内指示されている。即ち、キヤリツジ15は記録紙11の幅方向に亙り往復移動することができる。」(公報第3頁左上欄第12行目?同右上欄第3行目) (エ)「キヤリツジ15にはインクリボンカセツト(第3図、第4図)を搭載するためのキヤリツジテーブル22が設けられている。」(公報第3頁左下欄第5?8行目) (オ)「モータM1はサーマルヘツド18を記録紙を介してプラテン12に圧接或は離反(サーマルヘツドアツプ・ダウン)させるためのものである。 第2図において、サーマルヘツド18がダウンすることにより・・・巻取りギア29はラツク21の歯部21aと噛合する。こうしてサーマルヘツド18がダウンすると巻取りギア29はラツク21と噛合し、キヤリツジ15が矢印A1方向に移動すると、巻取りギア29は時計回り方向に回転する。この回転は巻取りシヤフト51に伝達され、巻取りシヤフト51が反時計回り方向に回転する。第3図は実施例のインクリボンカセツト30の下ケース30aを示した図で、ここでは、インクリボン34はコア42に捲回された状態でコア受け部43に回転可能に装填されている。インクリボン34はコア42から引出され、回転可能なコロ35?37を通り、凹部38で一旦カセツト外に引出され、サーマルヘッド18により加熱され転写記録される。こうして転写記録に使用されたインクリボンは再びカセツト内に引込まれ、コロ39を通って巻取りコア40に巻取られる。この巻取りコア40に、前述した巻取りシヤフト51が係合し、キヤリツジ15の移動に伴ってインクリボン34を巻取っている。」(公報第3頁右下欄第6行目?第4頁右上欄第2行目) (カ)「サーマルヘツド18は凹部38に位置し、サーマルヘツド18がダウンした状態でキャリツジ15がA1方向に移動する記録時に、インクリボン34を画像信号に応じて加熱し、記録紙11に転写記録を行っている。このときのインクリボン34の巻取り量は、・・・・インクリボン34と記録紙11とが相対速度を有するように設定されている。 これにより、いま記録長lを記録するときのインクリボンの搬送長をl/n(nは2以上の整数)とし、画像記録方向(A1方向)とインクリボン34の移動方向とを一致させることにより、サーマルヘツド18からみたとき、記録時における記録紙11の移動方向(A1と逆方向)とインクリボン34の移動方向(A1方向)とを逆にし、それらの間の相対速度を大きくすることができる。」(公報第4頁右上欄第7行目?同左下欄第10行目) (キ)「巻取りシヤフト51に連結している巻取りコア40の巻取り径が大きくなり、同じ長さだけキヤリッジ15を移動してもリボンの巻取り量が長くなってしまう。これは、前述したインクリボン34の搬送長を記録長の1/nにするとき、そのnの値が小さくなることを意味している。そこで第5図に示すように、インクリボン34の搬送をローラ44と45との摩擦により行い、巻取りコア40における巻取り径の変動によるインクリボン34の搬送長の変動を抑えるようにしている。」(公報第4頁左下欄第14行目?同右下欄第8行目) (ク)「インクリボン34の使用量l/nの設定値nに合わせて、各ギア60,61,62のギア比を考慮して設計することにより、インクリボン34の使用開始(巻取りコア40の巻取り径が最小)から使用終了(巻取りコア40の巻取り径が最大)まで、キヤリツジの移動量に対応して常に一定量のインクリボン34を巻取ることができる。」(公報第5頁左上欄第9?16行目) (4)原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-214849号公報(以下、「引用例D」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。 (ア)「繰出ロールより繰出され巻取ロールによって巻き取られるインクリボンと、前記巻取ロールを回転駆動するモータとを備えた熱転写型プリンタにおける印字中の前記インクリボンの搬送速度を一定に保つよう制御するインクリボンの巻取制御装置において、 前記モータを一定電力で駆動して前記巻取ロールを回転させて前記インクリボンのインクを頭出しする際に、前記インクリボンの搬送速度を検出する検出手段と、 前記検出手段によって得られた前記インクリボンの搬送速度と印字中において前記インクリボンの搬送速度を一定とするだけの前記モータに与える電力との関係を設定した関係テーブルと、 前記インクリボンのインクの頭出し動作中においては前記モータを前記一定電力として駆動すると共に、印字中においては前記関係テーブルによって得られた電力によって前記モータを駆動するよう制御する制御手段とを設けて構成したことを特徴とするインクリボンの巻取制御装置。」(特許請求の範囲【請求項1】) (イ)「必要とされることは印字中のインクリボン2の搬送速度を一定とすることである。巻取ロール2bを一定の力、即ちモータ11を一定の電力(例えば定格最大の電力)として駆動すると、モータ11はインクリボン2を巻き取るのに十分なトルクを持っているので、巻取ロール2bの回転速度は一定となる。インクリボン2の搬送速度は図5に示すように巻取ロール2bの巻取径に比例する。従って、巻取ロール2bをモータ11によって常時一定の電力で駆動したとすると、印字中のインクリボン2の搬送速度を一定とすることができない。 そこで、印字中のインクリボン2の搬送速度を一定とするためには、インクリボン2の搬送状態に応じて(インクリボン2がどれだけ搬送されたかによって)モータ11に与える電力を減少させればよいことが分かる。インクリボン2の搬送速度と巻取ロール2bの巻取径とは上記のように比例関係であるので、モータ11を一定の電力(最大電力)としてインクリボン2を駆動した場合のインクリボン2の搬送速度・・・が分かれば、インクリボン2がどれだけ搬送されたかが分かる。本実施例ではインクリボン2の搬送速度を求めてモータ11に与える電力を制御する例について示す。モータ11を最大電力として駆動した場合のインクリボン2の搬送速度と印字中にモータ11に与える電力との関係を図6に示すように設定すれば、即ち、搬送速度が増加するに従ってモータ11に与える電力を減少させれば、印字中のインクリボン2の搬送速度を一定とすることができる。」(段落【0009】,【0010】) (ウ)「本発明のインクリボンの巻取制御装置では次のようにインクリボン2の搬送速度を求め、巻取ロール2bを制御駆動している。図1において、サーマルヘッド3に対してインクリボン2の搬送方向の上流側にはインクリボン2の搬送に伴って回転するローラ6が設けられており、このローラ6の端部には羽車7が取り付けられている。羽車7の直上には中央部に凹部を有し羽車7の羽がその凹部を通過する毎にパルスを発生するセンサ8が設けられている。従って、インクリボン2が搬送されると羽車7が回転して回転量、即ちインクリボン2の移動量に応じたパルスを出力することになる。このパルスはCPU回路9に入力される。CPU回路9は入力されたパルスの間隔を計数することにより、インクリボン2の移動速度を検出する。即ち、羽車7,センサ8及びCPU回路9はインクリボン2の搬送速度を検出する手段として動作している。」(段落【0013】) 4-3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明Aを対比する。 i)引用発明Aの「インクシート2」,「供給ロール29」及び「巻取ロール31」は、本願補正発明の「キャリア」,「キャリア貯蔵スプール」及び「キャリア巻き取りスプール」にそれぞれ相当する。 また、引用発明Aで「モータ34で駆動される巻取ロール31に巻き取られ」とあることから、この「モータ34」は本願補正発明でいう「印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段」に相当することは明らかである。 ii)本願補正発明で特定される「基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写する」ことは、例えば本件補正により補正された明細書の翻訳文段落【0021】に「制御手段20が印刷ヘッド17の印刷要素を選択的に通電して、インクまたは他の刻印媒体のピクセルをリボン15から除去し、このピクセルを基板上に堆積させて画像を印刷する一方で、印刷ヘッド17が基板21上を矢印Aの方向に移動する。」との記載からすれば、印刷媒体とはリボン15(本願補正発明の「キャリア」に相当する。)から熱により除去され得るインクのことであり、そのピクセルを基板上に転写していると理解できる。 一方、引用発明Aでは、インクシート2のインキが受像紙1に転写されていることからして、本願補正発明と同様に印刷媒体を転写している。 引用発明Aでは印刷媒体(インキ)がピクセルであるかは明示的に特定されているわけではないが、インクシートから転写記録されるインキは通常、ピクセル状となっていることは自明といえる。 また、引用発明Aではインキが転写記録される対象は「受像紙1」であるのに対し本願補正発明では「基板(21)」である。 しかし、引用発明Aにせよ本願補正発明にせよ印刷すべき対象にインキが転写記録される点では同じであり、引用発明Aと本願補正発明では印刷すべき対象に印刷媒体のピクセルを転写する点で共通する。 さらに、引用発明Aでも「プラテン4に固定された受像紙1」とあり、受像紙セット101が行われてから記録動作104が行われ、さらにプラテン4は例えば引用例Aの図面第1図を参照すれば全体として静止状態にあることは明らかなので、印刷作業中に受像紙1すなわち印刷すべき対象が静止状態に保持されている点で引用発明Aと本願補正発明で共通する。 また、引用発明Aではインクシート2と受像紙1をプラテン4に押圧することから、印刷すべき対象がキャリアに隣接配置されている点でも本願補正発明と共通である。 iii)引用発明Aの「感熱ヘッドであるヘッド3」はその構造について具体的な特定はなされていない。しかしがなら、感熱ヘッドは、複数の印刷要素で構成されていて、その各々がインキ(印刷媒体)のピクセルを転写できるように構成されていることが通常である。 したがって、各々が、印刷すべき対象に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成される点において引用発明Aの「感熱ヘッドであるヘッド3」は、本願補正発明の「印刷ヘッド(17)」に相当する。 iv)本願補正発明で特定される「印刷ステーション(16)」は、その構造について具体的に特定されていない。ただし、印刷ステーション(16)に印刷ヘッド(17)が位置付けられている点、印刷ステーション(16)のところで基板(21)が保持される点、新しい基板(21)がさらなる印刷作業の準備のため印刷ステーション(16)のところに持ち来たされる点、及び本件補正により補正された明細書の翻訳文段落【0020】の「印刷ステーション16のところにはプラテン22が存在する」との記載を勘案すると、「印刷ステーション(16)」とは、通常はプラテンが存在して印刷ヘッドにより印刷すべき対象に転写がなされる場所を全体として「印刷ステーション(16)」と呼称しているものと解される。 一方、引用発明Aにおいてそのような場所はプラテン4上でヘッド3が移動させられインクシート2のインキが受像紙1に転写される場所のことであるといえるので、引用発明Aにおいても「印刷ステーション」を有していることは明らかである。 V)引用発明Aにおいて「インクシート2は、供給ロール29から送り出されプラテン4に固定された受像紙1の上を経て、モータ34で駆動される巻取ロール31に巻き取られ」とあることから、キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路を有していることは明らかである。 また、引用発明Aでインクシート2はプラテン4に固定された受像紙1の上を経てとあり、前項のiv)で述べたごとく、プラテン4の位置する場所は印刷ステーションに相当するので、インクシート2は印刷ステーションを通っていることは明らかである。 さらに、引用発明Aの印刷ヘッド(ヘッド3)はプラテン4上で移動が規定されていることから印刷ヘッドが位置付けられた印刷ステーションである点も本願補正発明と共通である。 Vi)引用発明Aが本願補正発明で特定される台(11)を有するかについて検討する。 一般に「台」とは、物や人をのせるもの(例えば広辞苑の「台」の項参照)をいうから、キャリア貯蔵スプール及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)、印刷ヘッドが位置付けられた前記台上の印刷ステーション(16)、印刷作業中は台(11)に対し印刷すべき対象を静止状態に保持されるとあるように、それぞれの「台」が同一であるということは、「台」に相対運動を許容しない状態で、同一のもの(すなわち「台」)に、キャリア貯蔵スプール、使用済みキャリア巻き取りスプール、印刷ステーション、印刷すべき対象が固定されているといえる。 一方、引用発明Aにて「台(11)」に相当する特定事項は明示されていないが、例えば引用例Aの図面第1図を参照すれば、キャリア貯蔵スプール(供給ロール)、使用済みキャリア巻き取りスプール(巻き取りロール)、印刷ステーション(プラテン4の位置する場所)、印刷すべき対象(受像紙1)が印刷作業中には相対運動を許容しない状態であることは明らかである。ここで、引用例Aの図面第1図には、キャリア貯蔵スプール(供給ロール)、使用済みキャリア巻き取りスプール(巻き取りロール)、印刷ステーション(プラテン4の位置する場所)、印刷すべき対象(受像紙1)が共通の対象に固定されていることは明示されていないものの、これらは図面の表記を簡潔とするために部材の固定関係を一部省略して記載しているものであり、実態としてはなんらかの形で固定されていると解するのが自然である。そして、前記のごとくキャリア貯蔵スプール(供給ロール)、使用済みキャリア巻き取りスプール(巻き取りロール)、印刷ステーション(プラテン4の位置する場所)、印刷すべき対象(受像紙1)が相対運動を許容しないように構成されており、かつ引用例Aの図面第1図に示される装置が全体として一体のものであることを考慮すれば、これらはなんらかの形で装置内の共通の固定対象に(直接的であれ、間接的であれ)固定されていることも明らかである。 してみれば、引用発明Aにおいても実質的に「台」に相当する構成を有しているとみるのが妥当であり、キャリア貯蔵スプール(供給ロール)、使用済みキャリア巻き取りスプール(巻き取りロール)、印刷ステーション(プラテン4の位置する場所)、印刷すべき対象(受像紙1)が固定されているとみることができるので、この点でも引用発明Aは本願補正発明と共通する。 Vii)引用発明Aにおいて、ヘッド3は上下方向に移動可能であり、ヘッドカム6を回して、ヘッド3をインクシート2と受像紙1を介してプラテン4に押圧するヘッドセット103を行うとあることから、印刷ステーションにおいて、印刷ヘッドを静止状態に保持された印刷すべき対象に向けて移動させる工程を有する点で本願補正発明と共通している。 Viii)引用発明Aにおいて、記録動作104は、パルスモータ12を駆動しヘッド3を左方向に移動させており、印刷作業中において印刷ヘッドを印刷すべき対象に対して横切るように移動させている限度で本願補正発明と共通している。 iX)引用発明Aにおいて、受像紙セット101、ヘッドセット103、記録動作104等の一連の動作は制御回路43により行われていることから、引用発明Aの「制御回路43」は、本願補正発明の「制御手段(20)」に相当し、印刷作業が、制御手段により制御されて実行されている点でも共通である。 X)また、引用発明Aにおいて、転写がなされたあとにヘッドカム6を回転させてヘッド3の押圧解除し、記録後、受像紙1の固定を解除し、受像紙1を所定長さだけ左方向へ搬送していることから、印刷作業に次いで、印刷ヘッドが印刷すべき対象から離れる方向に移動している点で本願補正発明で共通することは明らかである。 さらに、引用発明Aにおいて、印刷動作に先立ちセンサ40が「ON」する位置までキャリッジ7を移動し(キャリッジには印刷ヘッドが取り付けられている)とあることから、当然にさらなる印刷作業が実行されるように印刷ヘッドを開始位置に復帰する点でも本願補正発明と共通している。 Xi)引用発明Aの「感熱転写記録装置」と、本願補正発明の「印刷装置(10)」とは単なる表現上の違いに過ぎず、実質的な差異とはならない。 また、引用発明Aで特定される一連の印刷方法は、印刷のための工程であることも明らかである。 してみれば本願補正発明と引用発明Aとは、 「キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、 印刷ヘッド(17)が位置付けられた、前記台上の印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、 印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、 さらに、各々が、印刷作業中は前記台(11)に対し静止状態に保持されかつ前記キャリアに隣接配置された印刷すべき対象上に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成された前記印刷ヘッド(17)と、から構成される印刷装置(10)による印刷方法において、 前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を静止状態に保持された印刷すべき対象に向けて移動させる工程と、 印刷ヘッドを印刷すべき対象に対して移動させる工程を有し、 印刷作業が、制御手段(20)により実行され、 印刷作業に次いで、前記印刷ヘッド(17)が印刷すべき対象から離れる方向に移動してさらなる印刷作業が実行されるように開始位置に復帰する印刷方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点A] 印刷すべき対象が本願補正発明では、「基板(21)」であるのに対し、引用発明Aでは、「受像紙1」である点。 [相違点B] 本願補正発明では、印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と前記基板(21)との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる工程と、印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させる工程を有しているのに対し、引用発明Aではそれらの工程について特定されていない点。 [相違点C] 本願補正発明では、基板(21)に対して前記キャリア(15)が、少なくとも次の印刷動作中に前記巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように、印刷作業中は、前記キャリア(15)の移動が、キャリア移動感知手段によって監視されているのに対し、引用発明Aではそのような特定を有しない点。 [相違点D] 本願補正発明では、印刷ヘッド(17)の復帰動作中に、新しい基板(21)が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーション(16)のところに持ち来たされるのに対し、引用発明Aではそのような特定を有しない点。 4-4.判断 [相違点A]について 本願補正発明において、基板が具体的にどのようなものであるか、その硬さや素材、用途等、何等特定されていない。ある特定の技術分野や特定用途を前提にするならば「基板」を化学反応を起こす基質や、電気回路の回路基板等として把握も可能であるが、本願においてどのような技術分野や用途を前提として「基板」と称しているかは定かでない。 とすれば、「基板」との文言のみからでは平らで一定の広さの面を有する板もしくはシート状の部材という程度の解釈に止まる。 すると、そのような部材には一般的な受像紙も包含され得るものであり、印刷対象として平らで一定の広さの面を有する板もしくはシート状の部材を呼称する上での表現上の微差に過ぎないといえ、実質的に技術上の意義を有するほどの差異ということはできない。 なお、印刷すべき対象としてどのようなものを想定するかは当業者がその要請に応じて適宜選択すべき事項であり、印刷すべき対象が仮に特定の意味を有する基板だったとしても、その点に何等困難さは認められない。 [相違点B]について 引用例Bの記載事項「4-2.(2)(オ)」によれば、「記録紙2の副走査方向における1ライン分の送りに対してインクシート1の送りがその1/4」となるようにしているとの記載によれば、記録紙2とインクシート1に相対的移動が生じていることは明らかである。 また、引用例Cの記載事項「4-2.(3)(カ)」によれば、「インクリボン34と記録紙11とが相対速度を有するように設定されている。・・・記録長lを記録するときのインクリボンの搬送長をl/n(nは2以上の整数)とし、画像記録方向(A1方向)とインクリボン34の移動方向を一致させる」との記載によれば、記録紙11とインクリボン34でも相対的移動が生じていることは明らかである。 ここで引用例B,Cでこのようにしていることは、いずれもインクシート若しくはインクリボン(即ち本願補正発明のキャリア)の消費を抑えること目的としており、そのような目的のために前記のごとくキャリアと記録紙(即ち印刷すべき対象)に相対的移動が生じるようにすることは周知の技術であるといえる。 そして、この場合にキャリアと記録紙のそれぞれと印刷ヘッドが相対的移動する関係になっていることも自明なので、引用発明Aにおいて[相違点B]のごとくキャリアと印刷ヘッドの各々の印刷要素と基板との間に同時に相対的移動を生じさせることは当業者にとって容易である。 さらに、前記のごとく引用発明Aでキャリアと印刷ヘッドの各々の印刷要素と基板との間に同時に相対的移動を生じさせるようにした場合、キャリアと印刷ヘッドの移動方向を同じにせず逆にしたり、キャリアの移動速度を印刷ヘッドの移動速度より大きくしたのではキャリアの消費はむしろ増大するので、キャリアと印刷ヘッドの移動方向を同じにして、キャリアを印刷ヘッドより遅い速度で同時に進行させることは当業者が当然に考慮する事項といえる。 また、このとき印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させて印刷媒体のピクセルを転写させることも明らかである。 [相違点C]について 引用例Cの記載事項の「4-2.(3)(キ)」によればインクリボン34の巻き取りコアの巻き取り径が最小から最大まで常に一定量のインクリボン34を巻き取ることができることが記載されている。このように、インクリボン(本願補正発明のキャリア)を巻き取りコア(本願補正発明の巻き取りスプール)の直径と無関係に予め定められた量だけ移動せしめる必要があることは引用例Cに開示されており、前記[相違点B]について検討した周知技術を引用発明Aに適用するにあたり、巻き取りスプール(13)の直径とは無関係の予め定められた値だけ移動されるように考慮することは引用例Cに開示された技術から当業者が容易に想到できるものである。 さらに、キャリアの移動をキャリア移動感知手段を設けて予め定められた値だけ移動されるようにすることも例えば引用例Dに記載のごとく通常行われている慣用技術であるといえる。 [相違点D]について 引用発明Aにおいても、次の印刷作業のための新しい印刷すべき対象が持ち来されることは明らかである。引用発明Aでは特定されないが、記録後、「回転型カッタ39で受像紙1を切断する」と特定されていることから、受像紙1は連続紙であることが示唆されているといえ、この場合、新しい印刷すべき対象とは、連続紙の印刷に使用されていない新しい部分のことともいえる。 これに対し本願補正発明では、「新しい基板」とは通常、印刷が行われていない新しい基板のことであり、印刷された基板とは別の基板が持ち来されていると解される。 ここで、新しい基板と、すでに印刷された基板が連続したものでないとすると引用発明Aとは、その点で差異があるものの、受像紙にせよ基板にせよ新しい印刷のための対象を持ち来すにあたり、それが連続紙のような形で持ち来されるか、単票紙のような個々の印刷すべき対象が独立した形で持ち来されるようにするかは当業者が適宜選択すべき設計事項の範疇である。 次に、引用発明Aでは印刷ヘッドが復帰動作を行っているものの、この復帰動作と新しい基板が持ち来されるタイミングの関係は特定されておらず不明である。 しかし、通常新しい印刷すべき対象が持ち来されるにあたり、そのタイミングは印刷ヘッドの復帰動作が完全に終わってからか、復帰動作中に行われるかいずれかである。 そして、連続的に印刷を行うなど印刷速度の効率を考慮するならば、印刷ヘッドの復帰動作中に新しい印刷すべき対象を持ち来す方が有利であることは当業者にとって自明な事項である。 ここで、印刷ヘッドの復帰動作中に新しい印刷すべき対象を持ち来すならば、印刷すべき対象の搬送に支障があってはならないが、引用発明Aで復帰動作は印刷ヘッドがプラテンから離れる方向に移動した上で行っていることから、新しい印刷すべき対象を持ち来すことを阻害するものはない。 してみれば、引用発明Aにおいて印刷ヘッドの復帰動作中に、新しい印刷すべき対象即ち基板が、さらなる印刷作業の準備のために前記印刷ステーションのところに持ち来たされるようにすることは当業者にとって容易である。 また、本願補正発明の効果も引用発明A及び引用例B乃至Dから当業者が容易に想到可能なものである。 してみれば、本願補正発明は引用発明A及び引用例B乃至Dから当業者が容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に違反しており、仮に同項第2号の規定に該当するとしても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本件審判請求について当審の判断 1.本願発明の認定 平成18年5月17日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年11月16日付で補正された請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置した台(11)と、印刷ヘッド(17)が位置付けられた印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、さらに、各々が印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリアから隣接する前記台(11)に対して静止状態に保持された基板(21)上に転写する複数の印刷要素を持つ前記印刷ヘッド(17)とを備えた印刷装置(10)における印刷方法において、 該方法が、前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を静止状態に保持された前記基板(21)に向けて移動させる工程と、 印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と前記基板(21)との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを該基板に対して横切るように移動させる工程と、 印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させる工程、とから成ることを特徴とする印刷方法。」 2.引用例 (1)「第2 4-2.(2)」で提示した原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-104682号公報である引用例Cの、前記「第2 4-2.(2)」の(ア)?(キ)を含む全記載及び図示からみて、次の発明(以下、「引用発明C」という。)が記載されていると認める。 「インクリボンカセット30が搭載されるキャリッジ15は記録紙11の幅方向に亙り往復移動することができ、インクリボンカセット30では、インクリボン34はコア42に捲回された状態でコア受け部43に回転可能に装填されており、インクリボン34はコア42から引出され、回転可能なコロ35?37を通り、凹部38で一旦カセット外に引き出され、サーマルヘッド18により加熱され転写記録紙11に転写記録され、転写記録紙11はプラテン12にバックアップされた状態で紙送りローラにピンチローラ13によって押圧されており、転写記録に使用されたインクリボンは再びカセット内に引込まれ、コロ39を通って巻き取りコア40に巻取られ、この巻取りコア40に、巻き取りシャフト51が係合し、キヤリツジ15の移動に伴ってインクリボンを巻取る熱転写記録装置において、 サーマルヘツド18を記録紙を介してプラテン12に圧接させ、インクリボン34を画像信号に応じて加熱し、記録紙11に転写記録をおこない、そのときのインクリボン34の巻取り量は、インクリボン34と記録紙11とが相対速度を有するように設定され、記録長lを記録するときのインクリボンの搬送長をl/n(nは2以上の整数)とし、画像記録方向(A1方向)とインクリボン34の移動方向とを一致させることにより、サーマルヘッド18からみたとき、記録時における記録紙11の移動方向(A1と逆方向)とインクリボン34の移動方向(A1方向)とを逆にし、それらの間の相対速度を大きくした、熱転写記録装置の印刷方法。」 3.対比 そこで、本願発明と引用発明Cを対比する。 I)引用発明Cの「インクリボン34」,「コア42」及び「巻き取りコア40」は、本願発明の「キャリア(15)」,「キャリア貯蔵スプール(12)」及び「使用済みキャリア巻き取りスプール(13)」にそれぞれ相当する。 また、引用発明Cの「巻取りコア40」は、巻取りシャフト51が係合してインクリボンを巻取ることから、キャリッジの移動に伴ってインクリボンを巻き取っていると解される(キャリッジの移動のための駆動手段が存在することは自明である)。すると、キャリッジを移動させている駆動手段が「巻き取りコア40」を回転駆動していることになるので、これは本願発明の印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段に相当する。 II)本願発明で特定される「基板(21)上に印刷媒体のピクセルを転写する」ことは、例えば本件補正により補正された明細書の翻訳文段落【0021】に「制御手段20が印刷ヘッド17の印刷要素を選択的に通電して、インクまたは他の刻印媒体のピクセルをリボン15から除去し、このピクセルを基板上に堆積させて画像を印刷する一方で、印刷ヘッド17が基板21上を矢印Aの方向に移動する。」との記載からすれば、印刷媒体とはリボン15(本願発明の「キャリア」に相当する。)から熱により除去され得るインクのことであり、そのピクセルを基板上に転写していると理解できる。 一方、引用発明Cでは、インクリボン34がサーマルヘッド18により加熱され記録紙11にインクが転写記録される。さらに、インクリボン34から転写記録されるインクは通常、ピクセル状となっていることは自明である。 また、引用発明Cではインクが転写記録される対象は「記録紙11」であるのに対し本願発明では「基板(21)」である。しかし、引用発明Cにせよ本願発明にせよ印刷すべき対象にインクが転写記録される点では同じであり、引用発明Cと本願発明では印刷すべき対象に印刷媒体のピクセルを転写する点で共通し、このとき印刷すべき対象はキャリアに隣接配置されている点でも共通である。 III)引用発明Cの「サーマルヘッド18」は、その具体的構造について特定はされていない。しかしながら、通常サーマルヘッドは、複数の印刷要素で構成されていて、その各々がインク(印刷媒体)のピクセルを転写できるように構成されている。したがって、各々が、印刷すべき対象に印刷媒体のピクセルを転写するための複数の印刷要素で構成される限度において引用発明Cの「サーマルヘッド18」は、本願発明の「印刷ヘッド(17)」に相当する。 IV)本願発明で特定される「印刷ステーション(16)」は、その構造について具体的に特定されていない。ただし、印刷ステーション(16)に印刷ヘッド(17)が位置付けられている点、印刷ステーション(16)のところで基板(21)が保持される点、及び明細書の翻訳文第3頁第21行目の「印刷ステーション16のところにはプラテン22が存在する」との記載を勘案すると、「印刷ステーション(16)」とは、通常はプラテンが存在して印刷ヘッドにより印刷すべき対象に転写がなされる場所を全体として「印刷ステーション(16)」と呼称しているものと解される。 すると、そのような機能を有する場所は一般的なインクリボンからサーマルヘッドによりプラテンの存在する場所で転写を行う印刷装置で通常備えており、引用発明Cにおいても例外ではなく、印刷ステーションを備えているといえる。 V)引用発明Cでも本願発明と同様にキャリア(インクリボン34)が印刷ステーションを通ってキャリア貯蔵スプール(コア42)から使用済みキャリア巻き取りスプール(巻き取りコア40)に至るキャリア経路を有していることも自明である。 また、引用発明Cのサーマルヘッド18は記録紙を介してプラテン12に圧接し、インクリボン34の転写記録を行っていることからして、サーマルヘッド18即ち印刷ヘッドが位置付けられた印刷ステーションとなっていることも明らかである。 VI)引用発明Cではサーマルヘツド18を記録紙を介してプラテン12に圧接させていることから、これは本願発明と同様に印刷ステーションにおいて印刷ヘッドを印刷すべき対象に向けて移動させていることに他ならない。 VII)引用発明Cの「熱転写記録装置」は、本願発明の「印刷装置」に包含されており、単に表現上の差異に過ぎない。 VIII)引用発明Cにおいて、インクリボン34の巻取り量は、インクリボン34と記録紙11とが相対速度を有するように設定されていることから、本願発明と同様にキャリアと印刷ヘッドの印刷要素との間に相対的移動が生じていることは明らかである。 さらに、引用発明Cにおいて、インクリボン34の巻取り量は、インクリボン34と記録紙11とが相対速度を有するように設定されていることから、記録すべき対象(記録紙若しくは基板)とキャリアの間に相対的移動が生じていることは明らかである。 さらに、引用発明Cでもキャリッジ15は記録紙11の幅方向に亙り往復移動していることから、キャリッジに搭載された印刷ヘッドの印刷要素が印刷すべき対象に対して、横切るように移動していることも明らかなので、両者の間に相対的移動が生じていることも自明である。 よって、引用発明Cと本願発明では、印刷作業中において、キャリアと印刷ヘッドの各々の印刷要素と印刷すべき対象との間に同時に相対移動が生じている点で共通である。 IX)引用発明Cにおいて、記録長lを記録するときのインクリボンの搬送長をl/n(nは2以上の整数)とし、画像記録方向(A1方向)とインクリボン34の移動方向とを一致させるとの特定があることから、本願発明と同様に印刷ヘッドの移動方向と同じ方向にキャリアを印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させていることは明らかである。 さらにこのとき、引用発明Cにおいても印刷媒体のピクセルを印刷すべき対象にキャリアを介して転写していることも自明であり、さらにそのためにキャリアに対して印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に作動させていることも、引用発明Cのようなインクリボンからインクをピクセルとして転写する印刷装置においては、常識といえる。 X)引用発明Cで特定される印刷動作が印刷のための工程であることも明らかである。 してみれば、本願発明と引用発明Cとは、 「キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)と、 印刷ヘッド(17)が位置付けられた印刷ステーション(16)を通って前記キャリア貯蔵スプールから使用済みキャリア巻き取りスプールに至るキャリア経路と、 印刷中に使用されたキャリア(15)を巻き取るために前記キャリア巻き取りスプールを回転駆動するための駆動手段と、 各々が、印刷中に印刷媒体のピクセルを前記キャリアから隣接する印刷すべき対象上に転写する複数の印刷要素をもつ前記印刷ヘッド(17)と、を備えた印刷装置(10)における印刷方法において、 該方法が、前記印刷ステーション(16)において、前記印刷ヘッド(17)を印刷すべき対象に向けて移動させる工程と、 印刷作業中において、前記キャリア(15)と前記印刷ヘッド(17)の各々の印刷要素と印刷すべき対象との間に同時に相対的移動を生じさせるために、前記印刷ヘッドを印刷すべき対象に対して横切るように移動させる工程と、 印刷媒体のピクセルを、前記印刷ヘッドの移動方向と同じ方向に該キャリアを該印刷ヘッドより遅い速度でかつ同時に進行させながら前記基板上に該キャリアを介して転写するために、該キャリアに対して前記印刷ヘッドの複数の印刷要素の各々を選択的に動作させる工程、とから成る印刷方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点a] 印刷すべき対象が、本願発明では基板(21)であるのに対し、引用発明Cでは記録紙11である点。 [相違点b] 本願発明では、キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)を載置しているのが台(11)であり、刷作業中に基板(21)は台(11)上に静止状態に保持されるのに対し、引用発明Cでは、キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)はキャリッジに載置されており、印刷すべき対象である記録紙11が静止状態に保持されるか否かの特定は明確でない点。 4.判断 [相違点a]について 本願発明において、基板が具体的にどのようなものであるか、その硬さや素材、用途等、何等特定されていない。ある特定の技術分野や特定用途を前提にするならば「基板」を化学反応を起こす基質や、電気回路の回路基板等として把握も可能であるが、本願においてどのような技術分野や用途を前提として「基板」と称しているかは定かでない。 とすれば、「基板」との文言のみからでは平らで一定の広さの面を有する板もしくはシート状の部材という程度の解釈に止まる。 すると、そのような部材には一般的な記録紙も包含され得るものであり、印刷対象として平らで一定の広さの面を有する板もしくはシート状の部材を呼称する上での表現上の微差に過ぎないといえ、実質的に技術上の意義を有するほどの差異ということはできない。 なお、印刷すべき対象としてどのようなものを想定するかは当業者がその要請に応じて適宜選択すべき事項であり、印刷すべき対象が仮に特定の意味を有する基板だったとしても、その点に何等困難さは認められない。 [相違点b]について 一般に「台」とは物や人をのせるもの(例えば広辞苑の「台」の項目参照。)をいうから、キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプールを載置すもの並びに基板(11)すなわち印刷すべき対象が静止状態で保持されるものが同一の「台」であるということは、これらキャリア貯蔵スプール(12),使用済みキャリア巻き取りスプール及び印刷すべき対象が相対運動を許容しない状態で、同一のものに固定されていることをいうものである。 しかし、このようにキャリア貯蔵スプール(12),使用済みキャリア巻き取りスプール及び印刷すべき対象を相対運動を許容しない状態として同一のものに固定し、かつ印刷すべき対象を静止状態に保持することは例えば前記引用例Aである特開平2-194972号公報及び特開昭59-229344号公報記載のごとく周知の印刷方式として知られている。 このような周知の技術を引用発明Cに適用し、キャリア貯蔵スプール(12)及び使用済みキャリア巻き取りスプール(13)と、刷作業中に印刷すべき対象を同じ台に静止状態に保持するようにすることは当業者にとって容易である。 また、本願発明の効果も引用発明C及び周知技術から当業者が容易に想到可能なものである。 したがって、本願発明は引用発明C及び周知技術から当業者が容易に発明できたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明C及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-04-19 |
結審通知日 | 2007-04-24 |
審決日 | 2007-05-08 |
出願番号 | 特願平9-535004 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J) P 1 8・ 572- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畑井 順一 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
尾崎 俊彦 島▲崎▼ 純一 |
発明の名称 | 印刷方法 |
代理人 | 添田 全一 |
代理人 | 本多 弘徳 |
代理人 | 萩野 平 |