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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1164881
審判番号 不服2005-5665  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-01 
確定日 2007-09-05 
事件の表示 平成 6年特許願第523167号「外科手術の際に身体構造をよく見える様にするコンピュータ・グラフィック及びライブ・ビデオ・システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年10月27日国際公開、WO94/24631、平成 7年 9月21日国内公表、特表平 7-508449号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1994年3月10日(パリ条約による優先権主張1993年4月20日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年12月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
その請求項1に係る発明は、平成17年4月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「 患者の像を外科医に対して表示する実時間外科装置に於て、
(a)前記患者の内部構造の3次元(3D)作像データを求める医療用作像装置と、
(b)前記患者を外科医が観察した視点とほぼ同じ視点である、前記患者に対する位置(x、y、z)及び向きの角度(α、φ、θ)のカメラ視点から前記患者の露出面の実時間ビデオ像を作るビデオカメラ装置と、
(c)前記患者の内部構造のセグメント分割されたモデルを作る前記3D作像データを受取って、前記ビデオカメラ装置と同じ、位置(x、y、z)及び向き(α、φ、θ)から見た、セグメント分割されたモデルの選択された表面のコンピュータ像を生成するワークステーションと、
(d)主として前記ビデオ像または前記コンピュータ像を表示する複合像の領域となる可動の窓に前記露出面のビデオ像及び前記複合像の大部分となる前記内部構造の選択された表面のコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段と、
(e)前記外科医から見た前記患者と、前記内部構造に正確に組み合わされた半透明の露出面の像となる前記複合像を表示し、外科手術に際し、見ることの出来る外部表面に対応した内部構造の位置を示す表示手段と、
を有する実時間外科装置。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、特開平4-183446号公報(以下、「引用例1」という。)には、「画像合成による手術支援システム」に関して以下の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「[産業上の利用分野]
本発明は手術の支援、医療診断等にも利用可能な画像合成による手術支援システムに関するものである。」(1頁右下欄15?18行)
(イ)「[発明が解決しようとする課題](中略)
本発明は上記課題を解決し、容易な手術計画の立案、侵襲の少ない外科手術を実現するためのものである。即ち各種断層像撮影装置のもつそれぞれの画像描出性を活かして患部の立体像を作成し、さらに得られた立体像の長所のみを重ね合わせて観察できるようにすることにより、極めて有効な画像情報を提供でき、医療の支援を行うことができる画像合成による手術支援システムを提供することを目的とする。」(2頁右上欄12行?左下欄8行)
(ウ)「[課題を解決するための手段]
本発明の画像合成による手術支援システムは、複数の異なる断層像撮影手段と、各断層像撮影手段からの断層像の輪郭をそれぞれ抽出する複数の輪郭抽出手段と、血管情報抽出手段と、各輪郭抽出手段および血管情報抽出手段からの画像を接続して立体像を作成する複数の三次元再構成手段と、各三次元再構成手段からの立体像を統合して一つの立体モデル像を作成する統合処理手段と、作成された立体モデル像を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。また、統合処理手段は、各三次元再構成手段からの立体像を変形操作処理して統合すること、標準モデルを参照して各三次元再構成手段からの立体像を変形処理して統合すること、統合処理手段により作成された立体モデル像に、さらに他の画像(術野画像、X線テレビ画像、超音波画像等)を重ね合わせる重ね合わせ手段を備えたこと、複数の異なる断層像撮影手段として、X線CT、MRI、超音波CT等を用いることを特徴とする。」(2頁左下欄9行?右下欄8行)
(エ)「[作用]
本発明はX線CT、MRI、超音波断層像等、核断層画像について、各断層像を接続することにより立体画像を作成し、次に各立体画像の重心位置を合わせて変形操作し、また必要に応じて標準モデルを参照することによりこれらを統合し、一つの立体モデルを作成するようにしたものであり、各種画像撮影装置の長所を活かした患部の立体モデルを作成することができ、体内臓器の三次元的位置情報が切開を要することなくリアルタイムの立体画像として得られるので手術計画、手術現場、術後管理等の支援等に極めて有効に利用することができる。特に術中においては、統合された立体モデルと、X線TV、超音波画像、術野画像等を重ね合わせて画像表示することにより、より的確に患部を認識することができるので医療行為にとって極めて有効な画像を作成して提示することができる。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄6行)
(オ)「[実施例]
以下、図面を参照して本発明の詳細な説明する。
第1図は本発明の画像合成による手術支援システムの機能ブロック構成を示す図、第2図は装置構成を示す図である。図中、1はX線CT、2はMRI、3、4は輪郭抽出手段、5は血管情報抽出手段、6、7、8は三次元再構成手段、9は統合処理手段、10は標準モデル、11は重ね合わせ手段、12は術野画像、13はX線TV画像、14は超音波画像、15は表示装置、20は画像処理装置、21は記憶装置、22はスーパーインポーザ、23はCRTである。
本発明のシステム構成は第2図に示すようになっている。すなわち、X線CTl、MRI2のように複数の異なる断層像撮影装置からの画像データを、コンピュータからなる画像処理装置20に取込み、X線CTで得られた断層像、MRIで得られた断層像を画像処理してそれぞれ三次元立体像を作成するとともに、各三次元立体像を統合して一つの立体モデルを作成し、高解像度のCRT23に表示する。また、得られた立体モデルに、必要に応じて患者を撮影した術野画像、X線TV画像、超音波画像等をスーパーインポーザ22でミキシングして重畳し、CRT23に表示することにより、的確に患部の位置関係を把握することができる。」(3頁左上欄7行?右上欄13行)
(カ)「この統合処理により、第9図に示すように、骨組織まで含まれるX線CTの立体モデル90と、MRIにより得られた臓器モデル91、血管モデル92を統合し、一つの患部の立体モデル93が得られる。この立体モデルは、各種画像撮影装置の長所が取り入れられたことになり、手術、診察等の医療に対して極めて有効な情報を提供することができる。
一方、こうして統合された一つの立体モデルは、コンピュータグラフィックス技術により、移動・拡大縮小・回転等の様々な表示を行うことができる。また、切断面表示、半透明表示、色によるラベル付けを行うことによって術者の特に必要としている情報を強調して表示することも可能である。
更に統合処理により得られた立体モデルに、術野画像12、X線TV画像13、超音波画像14等を重ね合わせ手段11により重ねることもできる。これらの画像は術中に大いに効力を発揮する。
この画像は、立体視によりその三次元位置情報を容易に理解できるようにするためのものであり、複数の画像をリアルタイムで重ね合わせるものである。
例えば、X線ステレオ透視装置を使用し、左右両眼に相当する二つのX線焦点を持ったX線管によって人体のX線立体透視像を得る。また、テレビカメラを使用し、患部の実際の様子を二台のテレビカメラによって立体画像として撮影し、いわば術者の目に相当する画像を得るようにしてもよい。これらの画像を合成すれば患者の透視画像を提供することになる。また、二台のカメラを人間の瞳孔間距離よりも離して配置することにより、立体感を容易に強調することが可能となり、微細な手術操作に効果的である。また、さらに超音波画像を用いて重ねるようにしてもよい。
こうして、X線透視像、カメラによって撮影された実体像、超音波画像、コンピュ-タグラフィックス(三次元立体像)をミキシングし、術者の要求に応じてフェードイン・フェードアウトを行い、立体視覚装置等で術者の左右両眼に提示する画像を作成することができる。」(5頁左上欄2行?左下欄1行)
(キ)「この場合の画像合成も単純に重ね合わせるだけでは不十分である。例えば、カメラによる実体像撮影においては、左右両テレビカメラの視点を術者の注目点に持ってくることによって立体視を容易にしており、従ってこの場合の視線は注目点を交点として交差している。」(5頁左下欄4行?9行)
(ケ)「[発明の効果]
以上のように本発明によれば、各種医用画像撮影装置の長所を活かして体内の立体モデルを作成することができるので、体内臓器の三次元的位置情報が切開を要することなく術中にリアルタイムで立体画像として得られ、穿刺のような侵襲の少ない治療手段が熟練を要することなく容易に行え、また必要以上に多くの侵襲を伴う手術が少なくなり、手術がより安全かつ確実に実行される。」(5頁右下欄1?9行)

上記の(ア)?(ケ)の記載事項を総合すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「X線CT、MRI、超音波CT等の複数の異なる断層像撮影手段と、各断層像撮影手段からの画像データをコンピュータからなる画像処理装置に取り込み、X線CT、MRI、超音波CT等からの画像データを処理してそれぞれ三次元立体像を作成するとともに、各三次元立体像を統合して一つの立体モデル像を作成する統合処理手段と、作成された立体モデル像を移動、回転させて切断面表示、半透明表示を行う表示手段と、作成された立体モデル像に、術者の注目点に応じた視点からカメラによって撮影された術野画像をリアルタイムで重ね合わせる重ね合わせ手段とを備えた、画像合成による手術支援システム。」

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「X線CT、MRI、超音波CT等の複数の異なる断層像撮影手段と、各断層像撮影手段からの画像データをコンピュータからなる画像処理装置に取り込み、X線CT,MRI、超音波CT等からの画像データを処理してそれぞれ三次元立体像を作成するとともに、各三次元立体像を統合して一つの立体モデルを作成する統合処理手段」は、複数の異なる断層像撮影手段からの画像データをコンピュータからなる画像処理装置に取り込んで、一つの立体モデルを作成するものであるから、前者の(a)の「前記患者の内部構造の3次元(3D)作像データを求める医療用作像装置」に相当する。
後者の「作成された立体モデル像を移動、回転させて切断面表示、半透明表示を行う表示手段」は、前者の(c)の「前記患者の内部構造のセグメント分割されたモデルを作る前記3D作像データを受取って、」「セグメント分割されたモデルの選択された表面のコンピュータ像を生成するワークステーション」と、前者(e)の「前記外科医から見た患者と、前記内部構造に正確に組み合わされた半透明の露出面の像となる前記複合像を表示し、外科手術に際し、見ることの出来る外部表面に対応した内部構造の位置を示す表示手段」とに相当する。
後者の「術野画像」は、「患者を撮影した」、「術者の注目点に応じた視点からカメラによって撮影された実体像」であって、「術者の要求に応じてフェードイン・フェードアウトを行い、立体視覚装置等で術者の左右両眼に提示する画像を作成することができる」ことから、前者の(b)の「前記患者を外科医が観察した視点とほぼ同じ視点である、」「前記患者に対する位置」「及び向きの角度」「のカメラ視点から前記患者の露出面の実時間ビデオ像」、また、(c)の「前記ビデオカメラ装置と同じ、位置」「及び向き」「から見た」に相当し、後者の「カメラ」は前者の「ビデオカメラ装置」に相当する。
後者の「作成された立体モデル像に、術者の注目点に応じた視点からカメラによって撮影された術野画像をリアルタイムで重ね合わせる重ね合わせ手段」は、「表示手段」によって表示される作成された立体モデル像を移動、回転させて、切断面表示したものに対して術野画像を重ね合わせるものであるから、前者(d)の「主として前記ビデオ像または前記コンピュータ像を表示する複合像」、「に前記露出面のビデオ像及び前記複合像の大部分となる前記内部構造の選択された表面のコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段」に相当する。
後者の「画像合成による手術支援システム」は、患者を撮影した術野画像を断層像からの立体モデル像にリアルタイムで重ね合わせる点で、前者の「実時間外科装置」に相当するといえる。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は
「患者の像を外科医に対して表示する実時間外科装置に於て、
(a)前記患者の内部構造の3次元(3D)作像データを求める医療用作像装置と、
(b)前記患者を外科医が観察した視点とほぼ同じ視点である、前記患者に対する位置及び向きの角度のカメラ視点から前記患者の露出面の実時間ビデオ像を作るビデオカメラ装置と、
(c)前記患者の内部構造のセグメント分割されたモデルを作る前記3D作像データを受取って、前記ビデオカメラ装置と同じ、位置及び向きから見た、セグメント分割されたモデルの選択された表面のコンピュータ像を生成するワークステーションと、
(d)主として前記ビデオ像または前記コンピュータ像を表示する複合像に前記露出面のビデオ像及び前記複合像の大部分となる前記内部構造の選択された表面のコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段と、
(e)前記外科医から見た前記患者と、前記内部構造に正確に組み合わされた複合像を表示し、外科手術に際し、見ることの出来る外部表面に対応した内部構造の位置を示す表示手段と、
を有する実時間外科装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点1>
ビデオカメラ装置に関し、前者では、患者に対する位置(x,y,z)及び向きの角度(α,φ,θ)のカメラ視点から患者の露出面の実時間ビデオ像を作るものであるのに対し、後者では不明である点。

<相違点2>
前記露出面のビデオ像及び前記複合像の大部分となる前記内部構造の選択された表面のコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段に関し、前者では、主として前記ビデオ像または前記コンピュータ像を表示する複合像の領域となる可動の窓に、ビデオ像及びコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段としたのに対し、後者ではそうした点が明らかでない点。

4.判断
<相違点1>について
患者に対する実時間ビデオ像を作るビデオカメラ装置を後者も備える以上、患者に対する位置として(x,y,z)からなる座標系、患者に対する向きとして(α,φ,θ)からなる角座標系により、位置及び向きを設定することは、当業者であれば当然行うことであって、容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
患者の露出面のビデオ像及び内部構造の選択された表面のコンピュータ像の所望の混合である複合像を作るミクサ手段に関し、可動の窓に複合像を作ることは、手術している際には、複合像を作る窓は動きうるものであるから、可動の窓に複合像を作ることは、立体モデル像に術者の注目点に応じた視点からカメラによって撮影された術野画像をリアルタイムで重ね合わせる以上、当業者であれば当然行うことであって、容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の上記相違点1,2に係る事項とすることによる効果も格別なものではない。

5.むすび
以上のことから、本願発明は引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-30 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-16 
出願番号 特願平6-523167
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義松永 謙一  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 中田 誠二郎
増沢 誠一
発明の名称 外科手術の際に身体構造をよく見える様にするコンピュータ・グラフィック及びライブ・ビデオ・システム  
代理人 小倉 博  
代理人 松本 研一  
代理人 伊藤 信和  
代理人 黒川 俊久  

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