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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1164947
審判番号 不服2005-19990  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-14 
確定日 2007-09-27 
事件の表示 特願2001- 98222「セラミック動圧軸受、軸受付きモータ、ハードディスク装置及びポリゴンスキャナ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 9日出願公開、特開2002-295453〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成13年(2001年)3月30日の出願であって、平成17年9月13日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年10月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年11月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年11月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年11月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】外周面を有する第一部材と、挿通孔を有した第二部材とを有し、前記第二部材の前記挿通孔に該第一部材が挿通されるとともに、前記第二部材の挿通孔内周面と、これに挿通される前記第一部材の外周面とをそれぞれラジアル動圧隙間形成面として、それらラジアル動圧隙間形成面の間にラジアル動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記ラジアル動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成され、前記第一部材及び前記第二部材とはいずれもアルミナが90重量%以上のセラミックにて構成され、さらに、前記第二部材の、前記挿通孔内周面の軸線方向における平均内径をDA、他方、前記第一部材の外周面の軸線方向における平均外径をdAとして、(DA-dA)/2が2?6μmであり、
前記第一部材の外周面と前記第二部材の前記挿通孔の内周面は、前記軸線方向に一方の端縁部が他方の端縁部より径大となるように、2μm未満の範囲のテーパが形成され、各々テーパが生じている前記第一部材の前記外周面と、前記第二部材の前記挿通孔の内周面との、各径大側となる端縁側を第一側、径小側となる端縁側を第二側として、第一側同士及び第二側同士が互いに一致する関係にて、前記第一部材が前記第二部材の挿通孔に挿通されていることを特徴とするセラミック動圧軸受。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書の記載に基づき、セラミックの材料成分について「アルミナが90重量%以上の」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-173944号公報(以下、「刊行物1」という。)には、起動、停止時の摩擦トルクを低減し、情報機器等の軸受に要求される頻繁な起動、停止に対しての耐久性、信頼性を有し、軸受の摺動による摩擦粉の発生が極めて少ないクリーンな環境で使用するのに好適な気体動圧軸受に関して、下記の事項ア?オが図面とともに記載されている。
ア;「【従来技術】近年、ハードディスクドライブ装置(HDD)や磁気テープ記憶装置等の情報機器に使用されるスピンドルモータやドラムモータは高精度の回転性能と低消費電力化が要求され、その軸受に気体動圧軸受を採用する試みがなされている。しかしながら、気体動圧軸受は、起動、停止時に軸受の摺動面が接触しており、摺動面の材質、加工状態、或いは組立精度によっては摺動面の摩擦による摩耗が著しく進行し耐久性に問題を生じる場合が多い。
この対策として、軸受の摺動部に耐久性に優れ、加工時の寸法精度を維持し易いことから、セラミック材の使用が検討され試みられている。これらの軸受は軸受を構成する部材の全てをセラミックス材とし、摺動面を研磨等により平滑に仕上げるか、又は軸受を構成する部材をステンレス鋼やアルミニウム等の金属で構成し、平滑に仕上げられた摺動面に例えば炭化硅素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックス材をコーティングする等の方法が提案されている。」(第2頁2欄13行?31行;段落【0002】及び【0003】参照)

イ;「【課題を解決するするための手段】上記課題を解決するため本発明は、円筒状のラジアル軸受部材の両端に第1及び第2のスラスト板を直接当接させ一体化した主軸受部材と、円筒状でその内周面及び両端面が主軸受部材のラジアル軸受部材の外周面及び第1及び第2のスラスト板の対向面に対向して協動するラジアルスリーブとによりラジアル気体動圧軸受部及びスラスト気体動圧軸受部を構成し、スラスト気体動圧軸受を構成するラジアルスリーブの両端面又は、両端面に対向する主軸受部材の第1及び第2のスラスト板の面のいずれか一方に動圧発生用溝が設けられ、ラジアル気体動圧軸受部及びスラスト気体動圧軸受部の少なくとも一方の気体動圧軸受の相対向する摺動面の少なくとも一方の摺動面に均一な水素化アモルファスカーボン(a-C:H)膜を設けたことを特徴とする。
また、前記スラスト気体動圧軸受部及びラジアル気体動圧軸受部の少なくとも摺動部がセラミックス材で構成されていることを特徴とする。
また、前記摺動部のセラミックス材が水素化アモルファスカーボン膜と密着性の良い炭化硅素(SiC)又は窒化珪素(Si3N4)又はアルミナ(Al2O3)であることを特徴とする。」(第4頁5欄21行?42行;段落【0020】?【0022】参照)

ウ;「軸受摺動部材料にセラミックス材、特に炭化硅素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)を用いることにより、水素化アモルファスカーボン膜との密着生に優れ、良好な結果が得られる。」(第4頁6欄24行?27行;段落【0029】参照)

エ;「前記円筒状のラジアル軸受部材1の両端面に第1、第2のスラスト板2、3を直接当接させ、円筒状のラジアル軸受部材1の中央に設けた貫通穴に、主軸5を貫通させ、下端部に固定ナット6を螺合させ、締め付けることにより、円筒状のラジアル軸受部材1とその両端の第1、第2のスラスト板2、3を一体的に固定し、主軸受部材を構成する。主軸5にはその半径方向に延長された段付き部5a及び該段付き部5aに設けられた軸方向に直角な平面よりなる胴付き面5bを有し、第1のスラスト板2は該胴付き面5bと円筒状のラジアル軸受部材1の上面との間に挟持され、第2のスラスト板3は円筒状のラジアル軸受部材1の下面とワッシャー12の上面との間に挟持されている。
上記ラジアル軸受部材1の外周面1aとラジアルスリーブの内周面4aでラジアル気体動圧軸受部を構成し、第1、第2のスラスト板2、3の対向面2a、3aとラジアルスリーブ4の両端面4b、4cでスラスト気体動圧軸受部を構成している。ラジアル気体動圧軸受及びスラスト気体動圧軸受の摺動部において、平面度、円筒度及び真円度等は全て1ミクロン以下の精度で加工されており、動圧発生部のクリアランスは2乃至10ミクロンに管理されている。」(第5頁7欄41行?8欄12行;段落【0037】及び【0038】参照)

オ;「(2)軸受摺動部材料にセラミックス材、特に炭化硅素(SiC)、窒化珪素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)を用いることにより、水素化アモルファスカーボン膜との密着性に優れ、良好な結果が得られる。特に、軸受摺動部材料が金属の場合、水素化アモルファスカーボン膜との線膨張係数の差が大きく、膜生成時の反応による基板温度上昇に起因する残留内部応力により膜に亀裂が生じ易く問題となることがあるが、この場合金属の基板材料の表面を前記セラミックス材でコーティングを施し、その上に水素化アモルファスカーボン膜を形成することにより、密着性のよい高品質な膜を生成することができる。」(第7頁12欄32行?43行;段落【0065】参照)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?オ及び図面の記載からみて、本願補正発明の記載に倣えば、刊行物1には、下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。
「外周面を有するラジアル軸受部材1と、挿通孔を有したラジアルスリーブ4とを有し、前記ラジアルスリーブ4の前記挿通孔に該ラジアル軸受部材1が挿通されるとともに、前記ラジアルスリーブ4の挿通孔内周面と、これに挿通される前記ラジアル軸受部材1の外周面とをそれぞれラジアル動圧隙間形成面として、それらラジアル動圧隙間形成面の間にラジアル動圧隙間が形成され、それらラジアル軸受部材1とラジアルスリーブ4との相対回転に伴い、前記ラジアル動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成され、前記ラジアル軸受部材1及び前記ラジアルスリーブ4とはいずれもアルミナのセラミックス材にて構成され、さらに、前記ラジアルスリーブ4の、前記挿通孔内周面の軸線方向における平均内径をDA、他方、前記ラジアル軸受部材1の外周面の軸線方向における平均外径をdAとして、(DA-dA)/2(動圧発生部のクリアランス)が2?10μmであり、前記ラジアル軸受部材1の外周面と前記ラジアルスリーブ4の前記挿通孔の内周面は、前記軸線方向に一方の端縁部が他方の端縁部より径大となるように、1μm以下の円筒度及び真円度に形成されているセラミックス製気体動圧軸受。」

<刊行物2>
同じく引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-190047号公報には、ポリゴンミラーのように高速かつ安定回転が要請される気体動圧軸受に使用する高速回転体に関して、下記の事項カ及びキが図面とともに記載されている。
カ;「このため、この種の高速回転体に必要な軸受剛性や回転精度を得るために、軸受すきまは、数μm以下であることが必要で、かつ真円度、円筒度といった軸受形状が1?2μm程度以下の高精度であることを必要としている。」(第2頁2欄29行?33行;段落【0009】参照)

キ;「図1に示すように、高純度アルミナ(Al2O3)粉末に焼結助剤と成形助剤を加え混合し顆粒化した粉末をプレス成形金型に充填し、500kg/cm2の圧力でプレスすることでアルミナ製成形体スリーブを得た。上記成形体を、常法に従い脱脂した後、1650℃の酸化雰囲気で焼結し、高密度アルミナスリーブ素材11(図1(a))を得た。
焼結した高密度アルミナスリーブ素材11は、そのままでは高速回転体13を構成するセラミックスリーブ11として用いることができないためダイヤモンド砥石やダイヤモンド砥粒を用いて所定の形状に研削加工する必要がある。図1(a)に示すこのセラミックスリーブ素材11は、外径をセンタレス研削盤又は円筒研削盤によって図1(b)に示すように所定寸法に加工した。このとき上記セラミックスリーブ11の外径11aの形状精度は、真円度1μm、円筒度2.0μmであった。
次いで、図1(b)に示すように、上記外径11aを加工したセラミックスリーブ11に、予め内径を所定の寸法に精密切削加工したポリゴンミラー形状に加工した高純度アルミ素材12を焼きばめした(図1(c))。このときの焼きばめ代(焼きばめ代=金属製回転体の内径-セラミックスリーブの外径)は16?24μmで、焼きばめ温度は170?180℃であった。常温下で、上記高純度アルミ製ポリゴンミラー素材12は、上記セラミックスリーブ11に外周から圧縮応力を作用させセラミックスリーブ11の内径11bを2?3μm圧縮変形させた。
そして、図1(C)のように上記高純度アルミ製ポリゴンミラー用素材12を上記セラミックスリーブ11の外周に焼きばめした高速回転体13は、内径を円筒内径研削盤とホーニング研削盤によって図1(d)のように所定つづみ形状に研削加工した。この時、上記内径の形状精度は、真円度0.6μm、円筒度2μmでゆるやかなつづみ状であった。この後、上記セラミックスリーブ11の内径14を基準にして、上記高純度アルミ製ポリゴンミラー用素材12を所定のポリゴンミラー形状に精密切削加工し高速回転体13(図1(d))とした。」(第3頁4欄49行?第4頁5欄37行;段落【0020】?【0023】参照)

刊行物2に記載された上記記載事項カ及びキ並びに図面の記載からみて、刊行物2には、ポリゴンミラーのように高速かつ安定回転が要請される気体動圧軸受に使用する高速回転体の発明に関して、下記の技術的事項が記載されているものと認めることができるものである。
技術的事項1;高速回転体に必要な軸受剛性や回転精度を得るために、軸受すきまは、数μm以下であることが必要で、かつ真円度、円筒度といった軸受形状が1?2μm程度以下の高精度であることを必要としていること。

技術的事項2;気体動圧軸受を構成する高速回転体のセラミックスリーブの材質として高純度アルミナ(Al2O3)粉末に焼結助剤と成形助剤を加え混合し顆粒化した粉末を使用すること。

(3)対比・判断
刊行物1に記載された発明の気体動圧軸受の各部材の奏する機能に照らせば、刊行物1に記載された発明の「ラジアル軸受部材1」は本願補正発明の「第一部材」に機能的に相当し、以下同様に、「ラジアルスリーブ4」は「第二部材」に、「気体動圧軸受」は「セラミック動圧軸受」に機能的に相当するものと認めることができるものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「外周面を有する第一部材と、挿通孔を有した第二部材とを有し、前記第二部材の前記挿通孔に該第一部材が挿通されるとともに、前記第二部材の挿通孔内周面と、これに挿通される前記第一部材の外周面とをそれぞれラジアル動圧隙間形成面として、それらラジアル動圧隙間形成面の間にラジアル動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記ラジアル動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成され、前記第一部材及び前記第二部材とはいずれもアルミナのセラミックにて構成され、さらに、前記第二部材の、前記挿通孔内周面の軸線方向における平均内径をDA、他方、前記第一部材の外周面の軸線方向における平均外径をdAとして、(DA-dA)/2(動圧発生部のクリアランス)が2?6μmであり、前記第一部材の外周面と前記第二部材の前記挿通孔の内周面は、前記軸線方向に一方の端縁部が他方の端縁部より径大となるように、1μm以下の範囲のテーパが形成(精度で加工)されているセラミック動圧軸受。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願補正発明では、第一部材及び第二部材とはいずれもアルミナが90重量%以上のセラミックにて構成されているのに対して、刊行物1に記載された発明では、ラジアル軸受部材1及びラジアルスリーブ4を構成するセラミック材料としてアルミナ(Al2O3)を用いることができるものではあるが、セラミック中に占めるアルミナの重量%については不明である点。

相違点2;本願補正発明では、第一部材の外周面と第二部材の挿通孔の内周面は、軸線方向に一方の端縁部が他方の端縁部より径大となるように、2μm未満の範囲のテーパが形成され、各々テーパが生じている前記第一部材の前記外周面と、前記第二部材の前記挿通孔の内周面との、各径大側となる端縁側を第一側、径小側となる端縁側を第二側として、第一側同士及び第二側同士が互いに一致する関係にて、前記第一部材が前記第二部材の挿通孔に挿通されているものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ラジアル軸受部材1の外周面とラジアルスリーブ4の内周面の真円度及び円筒度は1μm以下の精度で加工されているものであって、ラジアルスリーブ4の挿通孔にラジアル軸受1を挿通するに際して、本願補正発明のように1μm以下の真円度及び円筒度(テーパ)を考慮して挿入するように構成されているものとまでは認めることができない点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は下記のとおりである。
《相違点1について》
気体動圧軸受の高速回転体のセラミックスリーブに使用するセラミック材として高純度アルミナ(Al2O3)粉末に焼結助剤と成形助剤を加え混合し顆粒化した粉末を使用することは、刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
また、アルミナを90重量%以上としたセラミック材を軸受部材等に使用することは、本願出願前当業者に周知の事項(もし必要があれば、特開平7-237961号公報等参照)にすぎないものであって、アルミナが90重量%以上のセラミック材は格別な成分構成を有したセラミック材とは認めることができないものである。
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された事項並びに上記周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のラジアル軸受部材1及びラジアルスリーブ4を、アルミナが90重量%以上の高純度アルミナにより構成して上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
高速回転する気体動圧軸受の動圧発生部のクリアランス(本願補正発明の「(DA-dA)/2」に実質的に相当)は、2?10μm(本願補正発明では「2?6μm」)程度の僅かな間隙を保つ必要があることは、上記刊行物1及び刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた事項にすぎないものである。
そして、この動圧発生部のクリアランスを確保するために、ラジアル軸受部材1の外周面及びラジアルスリーブ4の内周面は、真円度及び円筒度が1μm以下の精度で加工されるものであって、その外周面及び内周面には研削加工において不可避的に僅かなテーパが形成された(真円度及び円筒度が1μm以下の状態)ものとなることも当業者に知られた事項にすぎないものである。
また、ラジアル軸受部材1の外周面及びラジアルスリーブ4の内周面の真円度及び円筒度が0に近い値(極めて僅かなテーパであって、テーパを考慮しなくても動圧発生部のクリアランスを確保できるもの)であれば、テーパの状態を考慮することなくラジアル軸受部材1をラジアルスリーブ4の挿通孔に挿通することができるものであるが、ラジアル軸受部材1の外周面及びラジアルスリーブ4の内周面に或る程度の大きさのテーパを有するものであれば、そのラジアル軸受部材1の外周面の径大側の端縁とラジアルスリーブ4の内周面の径小側の端縁とが一致する関係でラジアルスリーブ4の挿通孔にラジアル軸受部材1を挿通した際には、その端縁側で動圧発生部のクリアランスが狭くなり、一方、他方の端縁側では動圧発生部のクリアランスが広くなって、動圧発生部のクリアランスが一様でなくなることは、当業者であれば普通に理解できる技術的事項にすぎないものである。
してみると、上記技術事項を理解した当業者であれば、ラジアル軸受部材1の外周面及びラジアルスリーブ4の内周面が或る程度の大きさのテーパを有するように研削加工がなされたものであれば、そのテーパ状態を考慮して、動圧発生部のクリアランスが一様となるようにラジアル軸受部材1の外周面の径大側の端縁とラジアルスリーブ4の内周面の径大側の端縁とが一致する関係(他側では、ラジアル軸受部材1の外周面の径小側の端縁とラジアルスリーブ4の内周面の径小側の端縁とが一致する関係)にてラジアル軸受部材1をラジアルスリーブ4の挿通孔に挿通して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて適宜採用することができる程度の設計的事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、上記刊行物1及び刊行物2に記載された技術事項並びに上記本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、審判請求書中で「引用文献1(上記刊行物1)には、その公報の請求項2や段落番号[0036]等に、『ラジアル気体動圧軸受部がセラミック材で構成されている』という内容の記載があります。また、同公報の段落番号[0038]には、『ラジアル気体動圧軸受部の摺動部において、平面度、円筒度、真円度は1ミクロン以下、動圧発生部のクリアランスは2?10ミクロンに管理されている』という内容の記載があります。しかしながら、引用文献1には、本願発明(請求項1;本願補正発明)の、『第1部材と第2部材とのクリアランスである(DA-dA)/2が2?6μm』、『第1部材と第2部材とが同方向にテーパ形状とされ、テーパ量が2μm未満』、及び『第1部材と第2部材とは、アルミナが90重量%以上』という内容の記載はありません。」(平成17年12月21日付け手続補正書(方式)の【本願発明が特許されるべき理由】の(2)本願発明と引用文献との対比のa)引用文献1との対比の項参照)旨主張している。

しかしながら、高速回転する気体動圧軸受において、ラジアル気体動圧発生部のクリアランスを数μm以下のものとすることが必要であることは、刊行物1だけでなく、刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた設計的事項にすぎないものであって、本願補正発明のように「2?6μm」とすることは、当業者であれば普通に考慮することができる程度の設計的事項であって、さらに、その限定した数値範囲も格別臨界的意義を認めることができないものである。
また、本願補正発明においてテーパ量を2μmとしたことの技術的意義について検討しても、上記刊行物2に記載されたダイヤモンド砥石を使用した研磨方法により研磨することにより不可避的に生じるテーパであって、真円度や円筒度はできるだけ0に近い値にすることが好ましいものであることは、上記刊行物1及び刊行物2にも記載されている事項(真円度及び円筒度を1μm以下、或いは、1?2μmとする)からみても普通に理解できる事項にすぎないものである。
そして、テーパの大きさが2μm以下であっても無視できないほどの大きさで存在するものであれば、同方向のテーパ形状の関係にて第1部材(ラジアル軸受部材1)を第2部材(ラジアルスリーブ4)の挿通孔に挿通するようにしなければ、ラジアル気体動圧発生部のクリアランスが一様なものとならず、一端側で狭くなる一方、他方側では狭くなることは当業者であれば普通に理解できる程度の技術的事項であって、何ら格別のことでないことも上記のとおりである。
さらに、刊行物1に記載された発明の気体動圧軸受においてもラジアル軸受部材1とラジアルスリーブ4ニ使用するセラミック材としてアルミナを採用することは好ましいものであって、高純度アルミナを気体動圧軸受の高速回転体のセラミック材として使用することは、上記刊行物2にも記載されているように当業者に知られた事項にすぎないものであり、また、軸受部材等に使用するセラミック材としてアルミナを90重量%以上としたものを使用することも本願出願前周知の事項であることを考慮すれば、本願補正発明のように第1部材(ラジアル軸受部材1)と第2部材(ラジアルスリーブ4)とをアルミナが90重量%以上としたセラミック材で構成することは、当業者であれば格別創意を要することでないことも上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年11月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項9に係る発明は、平成17年1月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】外周面を有する第一部材と、挿通孔を有した第二部材とを有し、前記第二部材の前記挿通孔に該第一部材が挿通されるとともに、前記第二部材の挿通孔内周面と、これに挿通される前記第一部材の外周面とをそれぞれラジアル動圧隙間形成面として、それらラジアル動圧隙間形成面の間にラジアル動圧隙間が形成され、それら第一部材と第二部材との相対回転に伴い、前記ラジアル動圧隙間に流体動圧を発生させるよう構成され、前記第一部材及び前記第二部材とはいずれもセラミックにて構成され、さらに、前記第二部材の、前記挿通孔内周面の軸線方向における平均内径をDA、他方、前記第一部材の外周面の軸線方向における平均外径をdAとして、(DA-dA)/2が2?6μmであり、前記第一部材の外周面と前記第二部材の前記挿通孔の内周面は、前記軸線方向に一方の端縁側が他方の端縁側よりも径大となるように、2μm未満の範囲のテーパが形成され、各々テーパが生じている前記第一部材の前記外周面と、前記第二部材の前記挿通孔の内周面との、各径大側となる端縁側を第一側、径小側となる端縁側を第二側として、第一側同士及び第二側同士が互いに一致する関係にて、前記第一部材が前記第二部材の挿通孔に挿通されていることを特徴とするセラミック動圧軸受。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-173944号公報(上記刊行物1)及び特開平7-190047号公報(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項から、セラミックの材料成分について「アルミナが90重量%以上の」との限定を省いたものに実質的に相当するものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項(但し、本願出願前周知の事項は本願補正発明で限定された相違点1について)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-25 
結審通知日 2007-07-31 
審決日 2007-08-16 
出願番号 特願2001-98222(P2001-98222)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔冨岡 和人  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 水野 治彦
大町 真義
発明の名称 セラミック動圧軸受、軸受付きモータ、ハードディスク装置及びポリゴンスキャナ  
代理人 足立 勉  

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