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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16G
管理番号 1165003
審判番号 不服2005-6766  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-14 
確定日 2007-09-28 
事件の表示 特願2001-244644「無段変速機用ベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月26日出願公開、特開2003- 56649〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年8月10日の出願であって、平成17年3月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月14日に拒絶査定不服審判請求がなされ、その後、当審において平成19年4月13日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明について
(1)本願発明1
本願の請求項1?4に係る発明は、平成16年9月30日付け手続補正、及び平成19年6月13日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。なお、平成17年5月10日付け手続補正は、平成19年4月13日付けで当審において決定をもって却下されている。
「【請求項1】炭素工具鋼で形成した多数の金属エレメント(32)を金属リング集合体(31)に支持した無段変速機用ベルトにおいて、
前記金属エレメント(32)は、金属リング集合体(31)の内周面に当接するサドル面(44)と、プーリ(6,11)のV面(38)に当接するプーリ当接面(39)とが形成されたエレメント本体部(34)を備え、
前記エレメント本体部(34)のサドル面(44)がネック部(36)に連なる接続部と、前記エレメント本体部(34)の半径方向内縁とに凹部(46,52,48)を形成し、その凹部(46,52,48)の炭素濃度を他の部分よりも低くして靱性を高めたことを特徴とする無段変速機用ベルト。」
(2)引用例
(2-1)引用例1
今回の拒絶理由で引用した実公平5-14028号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「このベルト式無段変速機に使用される動力伝達用ベルトの一つとして、複数枚の無端状金属フープと、この金属フープ上に摺動可能に互いに隣接して数珠繋ぎ状に取り付けられた多数のV型ブロツクとから構成されてなるVベルトが広く知られている(例えば、特公昭55-6783号公報)。
この種のVベルトに用いられるV型ブロツクとして、第8図及び第9図に示すような形状のV型ブロツク30が提案されている(例えば、特開昭55-100443号公報)。このV型ブロツク30は、プーリ当接面(テーパ面)34及びフープ通り面35を有する本体部31と、その本体部31からフープ外周方向に突出した柱状首部32と、その柱状首部32に連結されたフープ押さえ面36を有する頭部33とを備えている。そして、柱状首部32の両側に於ける本体部31のフープ通り面35に無端状金属フープの内周面を摩擦係合させ、第6図に示すようにV型ブロツク30が無端状金属フープ20上に数珠繋ぎ状に取付けられて無段変速機用ベルト10を構成している。」(第1頁右欄第8?27行参照)
(い)「しかしながら、上述した従来構成の無段変速機用ベルトに於いては、高負荷状態で連続的に運転すると、第10図及び第11図に示すように、V型ブロツク30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37のA点(実際には第12図に示すA1?A4点のうちのいずれか)を起点に疲労破壊を生じるといつた問題があつた。」(第2頁左欄第4?11行参照)
(う)「従つて、本考案の技術的課題は、上述したモーメントM2による最大繰り返し応力部とモーメントM1による最大繰り返し応力部とが首下部にて重なり、応力が集中することがないようにして、高負荷連続運転時に発生するV型ブロックの疲労破壊の問題を解消することにある。」(第2頁左欄第27?32行参照)
(え)「具体的には、第1図、第2図及び第6図を例に取つて説明すると、無段変速機用ベルト10は無端状金属フープ20とそのフープ20上に摺動可能に互いに隣接して取り付けられた多数のV型ブロツク30とからなつている。そして、V型ブロツク30はプーリ当接面34及びプーリ通り面35を有する本体部31と、その本体部31からフープ20の外周方向に突出した柱状首部32と、その柱状首部32とフープ通り面35との繋ぎ目部である首下部37に本体部31幅方向に該フープ通り面35より掘り下げられて設けられた逃がし部と、該柱状首部32に連結されたフープ押え面36を有する頭部33とを備えていると共に、そのV型ブロツクは進行方向前面には位置決めのための係合用突起38、後面にはその係合用突起38に対応した係合用穴39とをそれぞれ備えている無段変速機用ベルトにおいて、前記逃がし部の底部が、V型ブロツクの板厚方向において前後方向両端部に比べ略中央が頂点となる凸形状に形成されている。
[作用]
上述の手段によれば、無段変速機用ベルトを高負荷状態で連続的に運転した場合、第3図に示すようにモーメントM1の変動による最大繰り返し応力部が首下部37のV型ブロツク板厚方向に凸形状に面取りされた部位の略中央である頂点付近B1,B2に集中し、その端部であるA1?A4点の応力は低減される。このため、モーメントM2による最大繰り返し応力部と重なることがなく、首下部37のA1?A4点の組合せ繰り返し応力が減少する。」(第2頁右欄第1?31行参照)
(お)「また、V型ブロツク30は高剛性金属材料、例えば軸受鋼(SUJ2)の焼入れ材やセラミツクスなどから製作される。」(第3頁左欄第42?44行参照)
(ああ)「さて、V型ブロック30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37に設けられた逃がし部に、面取り40が施されている。この面取り40によつて逃がし部底部のV型ブロツク板厚方向の断面形状が、第2図に示す如く略中央が頂点となるようなアール形状に形成されている。面取り40は、例えばV型ブロツク30の粗材をプレス加工した後、機械加工にて形成することが出来る。」(第3頁右欄第25?33行参照)
また、引用例1の第1図、及び第8図をみると、V型ブロック30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37には凹部が形成されていることが看取できる。
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、下記の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「高剛性金属材料、例えば軸受鋼(SUJ2)の焼入れ材で形成した多数のV型ブロツク30を無端状金属フープ20に支持した無段変速機用ベルトにおいて、
V型ブロツク30は、無端状金属フープ20の内周面に当接するフープ通り面35と、プーリ当接面34とが形成された本体部31を備え、
V型ブロツク30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37に凹部を形成した無段変速機用ベルト。」
(2-2)引用例2
同じく今回の拒絶理由で引用した特開平8-134700号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【産業上の利用分野】
この発明は、エンジンにおけるクランク軸などの金属材の表面処理法に関する。
【従来の技術】
エンジンにおける金属材であるクランク軸では、ジャーナルなどの表面に大きい負荷が与えられるため、摩耗し易いなど寿命上の問題が生じるおそれがある。。そこで、従来より、上記クランク軸の母材の表面にガス軟窒化等により表面硬化処理を施して、その表面に化合物層と拡散層とで構成される硬化層を形成し、このクランク軸の耐摩耗性や強度を向上させることが行われている。
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記した表面硬化処理などの工程においては、上記クランク軸に曲がりが生じることがあるため、これを加圧して、適正形状となるように上記曲がりを修正することが行われている。
しかし、クランク軸の表面は前記硬化層が形成されていて脆いため、上記のように修正しようとして加圧すると、この加圧で歪が集中する歪集中部の上記硬化層中の化合物層に多くの亀裂が生じることがあり、これが生じると、上記歪集中部の疲れ限度が低下して、クランク軸の寿命の向上が十分には得られないという問題を生じる。
【発明の目的】
この発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、金属材の母材の表面に硬化層を形成した後、この金属材を加工してその曲がりを修正した場合でも、金属材の寿命を十分に長くできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためのこの発明の請求項1は、母材13の表面に硬化層14を形成し、その後、この硬化層14の一部16を除去するようにしたものである。
請求項2は、上記請求項1において、母材13の表面を窒化処理してこの母材13の表面に硬化層14を形成したものである。
請求項3は、上記請求項1、もしくは2において、硬化層14の一部16を電解研磨により除去するようにしたものである。
請求項4は、上記請求項3における電解研磨に代えて、機械研磨にしたものである。
請求項5は、上記請求項3における電解研磨に代えて、ピーニングにしたものである。
【作 用】
上記構成による作用は次の如くである。
なお、この「作用」の項において、下記した( )内の用語は、特許請求の範囲の用語に対応するものである。
クランク軸(金属材)3の母材13の表面に硬化層14を形成した後、このクランク軸(金属材)3を加圧してその曲がりを修正する場合には、このクランク軸(金属材)3への加圧により、歪が集中し易いと考えられる歪集中部15における硬化層14の少なくとも一部16を除去する。
そして、上記クランク軸(金属材)3を加圧して曲がりを修正する。この際、上記歪集中部15には歪が集中するが、上記硬化層14の一部16が除去されたことにより、上記歪集中部15の靭性が向上する。このため、この歪集中部15における亀裂の発生限界が上昇して、疲れ限度の低下が上記クランク軸(金属材)3の歪集中部15に局部的に生じるということが防止される。
【実施例】
以下、この発明の実施例を図面により説明する。
図1において、符号1は自動二輪車に搭載された内燃機関であるエンジンで、このエンジン1はクランクケース2と、このクランクケース2内に収容される金属材であるクランク軸3と、このクランク軸3をその軸心4回りに回転自在となるよう上記クランクケース2に支承させる軸受5とを備えている。
上記クランク軸3は、上記軸心4上に位置して軸受5に直接的に支承されるクランク主軸7と、このクランク主軸7の径方向外方に向ってこのクランク主軸7から突出するクランクアーム8と、上記軸心4から偏心した位置で上記クランクアーム8に取り付けられるクランクピン9と、上記クランクアーム8の突出方向の反対方向に向ってこのクランクアーム8から突出するクランクウェブ10とで構成されている。
上記クランク軸3の素材には、例えば炭素鋼であるS50Cや、合金鋼であるSCM440が用いられる。上記クランク軸3の成形に際しては、まず、素材が鍛造されて熱処理され、これが母材13とされる。次に、この母材13の表面が切削加工され、この母材13の表面にガス軟窒化等の表面硬化処理が施されて硬化層14が形成される。そして、この硬化層14により、上記クランク軸3は軸受5との接触による摩耗等が防止されて、このクランク軸3の寿命が向上させられる。
上記硬化層14は、その表面側が化合物層14aとされ、この化合物層14aから母材13に至る部分が拡散層14bとされている。上記化合物層14aは鉄と窒素とが化学的に結合した極めて硬い層であり、一方、拡散層14bは窒素が過飽和に固溶した硬い層である。上記硬化層14の表面から、上記化合物層14aと拡散層14bとの境界面に至る距離はL1 であり、つまり、化合物層14aの厚さはL1 であり、これは例えば10?15μmである。また、同上硬化層14の表面から、上記拡散層14bと母材13との境界面に至る距離はL2 であり、つまり、拡散層14bの厚さは(L2 -L1 )である。
上記クランク軸3の母材13の表面に硬化層14を形成した後には、このクランク軸3を加圧してその曲がりが修正される。この場合、このクランク軸3への加圧により、歪が集中し易いと考えられる歪集中部15において硬化層14の化合物層14aの少なくとも面方向での一部16が除去される。
上記一部16は、図例では、上記クランク主軸7とクランクアーム8の結合部におけるジャーナルフィレット(すみ部)であり、上記硬化層14の表面から上記除去後の表面に至る距離はL0 であり、図例ではL1 ≦L0 <L2 となっている。
また、上記歪集中部15は軸受5とは接触しない部分のため、この歪集中部15における硬化層14の一部16を除去しても何ら支障がない。
そして、上記クランク軸3を加圧して曲がりを修正する。この際、上記歪集中部15には歪が集中するが、上記硬化層14の一部16が除去されたことにより、上記歪集中部15の靭性が向上する。このため、この歪集中部15における亀裂の発生限界が上昇して、疲れ限度の低下が上記クランク軸3の歪集中部15に局部的に生じるということが防止される。
上記クランク軸3の上記したジャーナルフィレット等の歪集中部15は、エンジン1の運転中の爆発力や慣性力による繰り返し荷重で、応力が集中し易い部分でもある。このため、上記歪集中部15の疲れ限度は、他の部分に比べて著しく偏って短時間に低下するおそれがある。
しかし、上記したように、歪集中部15における硬化層14の化合物層14aの一部16が除去されて、上記歪集中部15の靭性が向上させられているため、上記歪集中部15の疲れ限度の低下が抑制され、クランク軸3の寿命の向上が達成される。」(段落【0001】?【0025】参照)
(き)「なお、以上は図示の例によるが、母材13の表面硬化処理は、浸炭法によるものであってもよい。」(段落【0041】参照)
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「V型ブロック30」は、本願発明1の「金属エレメント(32)」に相当し、以下、同様に、「無端状金属フープ20」は「金属リング集合体(31)」に、「本体部31」は「エレメント本体部(34)」に、「フープ通り面35」は「サドル面(44)」に、「プーリ当接面34」は「プーリ当接面(39)」に、「柱状首部32」は「ネック部(36)」に、「首下部37」の「凹部」は「凹部(46,52)」にそれぞれ相当する。また、同様に「柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37」は実質的に「エレメント本体部(34)のサドル面(44)がネック部(36)に連なる接続部」に相当する。
したがって、本願発明1の用語に倣ってまとめると、両者は、
「多数の金属エレメント(32)を金属リング集合体(31)に支持した無段変速機用ベルトにおいて、
金属エレメント(32)は、金属リング集合体(31)の内周面に当接するサドル面(44)と、プーリのV面に当接するプーリ当接面(39)とが形成されたエレメント本体部(34)を備え、
エレメント本体部(34)のサドル面(44)がネック部(36)に連なる接続部に凹部(46,52)を形成した無段変速機用ベルト。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1は、金属エレメント(32)が炭素工具鋼で形成されているのに対し、引用例1発明は、V型ブロツク30が高剛性金属材料、例えば軸受鋼(SUJ2)の焼入れ材で形成されている点。
[相違点2]
本願発明1は、「前記エレメント本体部(34)のサドル面(44)がネック部(36)に連なる接続部と、前記エレメント本体部(34)の半径方向内縁とに凹部(46,52,48)を形成し、その凹部(46,52,48)の炭素濃度を他の部分よりも低くして靱性を高めた」のに対し、引用例1発明は、「V型ブロツク30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37に凹部を形成」しているものの、本体部31の半径方向内縁に凹部を形成しておらず、また、その両凹部の炭素濃度を他の部分よりも低くして靱性を高めたという事項を具備していない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明のVブロツク30の材質は適宜設計する事項であり、高剛性金属材料として炭素工具鋼を採用することは、そのような設計の一態様として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
上記(2-1)に摘記したとおり、引用例1には、第3図、第10図、及び第11図に示すようにV型ブロック30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37に応力集中が発生することが記載されており、したがって、引用例1発明の凹部に応力集中が発生し得ることが示唆されている。
一方、上記(2-2)に摘記したとおり、引用例2には、エンジンにおけるクランク軸などの金属材の表面処理法であって、クランク軸(金属材)3の母材13の表面にガス軟窒化等や浸炭法により硬化層14を形成した後、このクランク軸(金属材)3を加圧してその曲がりを修正する場合には、このクランク軸(金属材)3への加圧により歪が集中し易いと考えられる歪集中部15における硬化層14の少なくとも一部16を除去すること、そして、クランク軸(金属材)3を加圧して曲がりを修正する際、歪集中部15には歪が集中するが、硬化層14の一部16が除去されたことにより、歪集中部15の靭性が向上し、このため、この歪集中部15における亀裂の発生限界が上昇して、疲れ限度の低下がクランク軸(金属材)3の歪集中部15に局部的に生じるということが防止されることが記載されている。このことから、母材の表面にガス軟窒化等や浸炭法により硬化層を形成した金属材の曲がり修正時の歪集中部における硬化層の少なくとも一部を除去して、歪集中部の靱性を向上させるという事項を把握することができる。ここで、引用例1発明の凹部に生じ得る応力集中により凹部に歪が集中し得ること、及び、母材表面の硬化層を除去して靱性を向上し得ることはガス軟窒化や浸炭法による硬化層に限定されるものではなく、焼入れ等のその他の手段による硬化層の場合にも奏し得ることは当業者が容易に推知できることであるから、引用例1発明に引用例2の上記事項を採用して、焼入れによる凹部の硬化層の少なくとも一部を除去して靱性を向上させることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。なお、この点に関連して、請求人は平成19年6月13日付け意見書において「しかしながら、引用文献2にはエンジンのクランク軸に関する記載しかなく、本願発明の無段変速機用ベルトの金属エレメントに関する記載は全くありません。しかも引用文献2における硬化層14の除去は、クランク軸3の曲がりの修正時にジャーナルフィレットに亀裂が発生するのを防止することを課題としており、無段変速機の運転中に荷重を受け、エレメント本体部(34)のサドル面(44)とネック部(36)とを接続する凹部(46,52)、あるいはエレメント本体部(34)の半径方向内縁の凹部(48)に応力が集中して折損するのを防止する、という本願発明の課題とは異なっています。つまり引用文献2に記載された発明は、クランク軸3の熱処理後の曲がりの修正に関するものであり、その技術思想をベルト式無段変速機の運転時における金属エレメント(32)のエレメント本体部(34)の応力集中緩和に適用することには、当業者にとって決して容易なことではありません。」と主張しているが、引用例2に記載された上記事項の歪集中部における硬化層の少なくとも一部を除去して歪集中部の靱性を向上させるという点がクランク軸に限定されるものではないことは、引用例2の記載、及び当業者の技術常識に照らして明らかである。
また、無段変速機用ベルトの金属エレメント本体部の半径方向内縁部に凹部を形成したものは、特開平3-229038号公報(特に第1図。なお、これは今回の拒絶理由で引用例3として引用したものである。)、及び特開昭57-65444号公報(特に第3図)に示されているように周知であると認められ、引用例1発明にこのような周知事項を採用することは設計的事項にすぎない。そして、引用例1発明にそのような凹部を形成した場合、その凹部にも応力集中が発生し得ることは当業者に明らかであるから、そのような凹部についても、V型ブロツク30に於ける柱状首部32と本体部31との繋ぎ目に位置する首下部37に形成された上記凹部の場合と同様に引用例2の上記事項を採用して、焼入れによる凹部の硬化層の少なくとも一部を除去して靱性を向上させることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
以上のようにしたものが、「前記エレメント本体部(34)のサドル面(44)がネック部(36)に連なる接続部と、前記エレメント本体部(34)の半径方向内縁とに凹部(46,52,48)を形成し、その凹部(46,52,48)の炭素濃度を他の部分よりも低くして靱性を高めた」という事項を実質的に具備することは明らかである。
そして、本願発明1の作用効果も、引用例1発明、及び引用例2に記載された事項から、当業者が予測できる範囲のものである。
(5)むすび
したがって、本願発明1は、引用例1、及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-26 
結審通知日 2007-08-01 
審決日 2007-08-16 
出願番号 特願2001-244644(P2001-244644)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16G)
P 1 8・ 575- WZ (F16G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 山岸 利治
礒部 賢
発明の名称 無段変速機用ベルト  
代理人 仁木 一明  
代理人 落合 健  

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