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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F21V
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F21V
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F21V
管理番号 1165153
審判番号 不服2003-24735  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-22 
確定日 2007-10-01 
事件の表示 平成7年特許願第305379号「技術的照明のための反射器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年8月30日出願公開、特開平8-222018号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成7年11月24日(パリ条約による優先権主張1994年11月24日、スイス国)の出願であって、「技術的照明のための反射器の製造方法」に関するものと認められる。

2.当審の拒絶理由
これに対して当審において、平成18年10月6日付けで通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。

請求項1において、「(a)強めあう干渉のために、d・n=k・λ/2±20nm」とあるが、発明の詳細な説明の記載からみて、強めあう干渉のためには、d・n=k・λ/2も含むものとすべきであるから、この記載事項は、発明を明確に特定するものとはいえない。
また、請求項1において、「酸化物層の所望の厚さd(nmで測定)について、下記の判断基準に従って選択される一定の電解質電圧U(ボルト):d/1.4≦U≦d/1.2を選択して設定する」とあるが、発明の詳細な説明には、「印加電圧の関数としての厚さは、電解質の組成及び温度に依存する」旨記載されているのみで、厚さd(nmで測定)と電解質電圧U(ボルト)が、d/1.4≦U≦d/1.2を満足する条件が示されていないから、請求項1に係る発明を実施できる程度に技術が開示されているとは認められないし、この記載事項も、請求項1に係る発明を明確に特定するものとはいえない。

3.本願の補正後の特許請求の範囲
当審の拒絶理由通知に対し、請求人は、平成19年4月10日付けで意見書及び手続補正書を提出し、意見書において、d・n=k・λ/2±20nmとは、k・λ/2-20nm≦d・n≦k・λ/2+20nmを表しているから、明確であると主張する一方、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正した。
「アルミニウムからなる反射面と、20℃において6?10.5の誘電率を有していて陽極処理によって形成された酸化アルミニウムからなる透明な保護無孔バリヤー層とを有する反射器の製造方法であって、バリヤー層が下記の条件(a)(b)(c)のうちの一つを満たす厚さdを有していて:
(a)強めあう干渉のために、
d・n=k・λ/2±20nm
(b)色調が調和した反射器面を得るために、
[k・λ/2+20nm]<d・n<[(k+1)・λ/2-20nm]、又は
(c)反射率を強める低屈折率/高屈折率多層被膜を有する反射器を製造するための出発物質としての使用のために、
d・n=l・λ/4±20nm
[式中、nはバリヤー層の屈折率であり、λは反射器の表面に衝突する光線の平均波長であり、kは自然数であり、lは奇数である自然数である]
バリヤー層の厚さが60?490nmの範囲内であり、アルミニウム面の全体にわたって前記厚さが±5%より大きく変化せず、
アルミニウム面を、酸化アルミニウム層を再溶解しない電解質中で電解酸化し、生じる酸化物層の所望の厚さd(nmで測定)について、下記の判断基準に従って選択される一定の電解質電圧U(ボルト):
d/1.4≦U≦d/1.2
を選択して設定することによって、前記所望の厚さdが得られることを特徴とする、反射器の製造方法。」

4.当審の判断
ア.d・n=k・λ/2±20nmとは、d・n=k・λ/2+20nm又はd・n=k・λ/2-20nmを意味するものであることは、数式の定義から明らかなことであり、k・λ/2-20nm≦d・n≦k・λ/2+20nmを意味するのであれば、そのような表記とすべきことは当然であり、あえてd・n=k・λ/2±20nmとするのは、発明を不明確にするものである。

イ.発明の詳細な説明においては、実施例として、ただ一つのものが記載されているのみで、酸化物層の所望の厚さd(nmで測定)と、電解質電圧U(ボルト)の関係が、d/1.4≦U≦d/1.2となる条件については、技術の開示がなされていない。
そして、発明の詳細な説明においては、再溶解しない電解質の例として、「例えば、低濃度の硫酸もしくはリン酸、ホウ酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸、又はこれらの混合物のような無機酸もしくは有機酸、またはこれらの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩もしくはナトリウム塩の溶液、特にこれらの混合物が好ましい。これらの溶液は全体で、電解質中に溶解したアンモニウム塩もしくはナトリウム塩の20g/l以下、有効には2?15g/lの濃度を有する。クエン酸もしくは酒石酸のアンモニウム塩の溶液又はリン酸のナトリウム塩の溶液が非常に好ましい。」と記載しているが、これらの溶液が、d/1.4≦U≦d/1.2となる条件を満たすための条件は記載されておらず、更に、これらの溶液が再溶解しない電解質(溶液)となるのかさえ明らかではない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、発明を実施できる程度に技術を開示しているとは認められないし、請求項1の記載は発明を明確に特定していない。

したがって、本願は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

また、本願の補正された請求項1の記載における、「再溶解しない電解質(溶液)」が、実施例に記載された1g/l濃度のクエン酸溶液であると解釈し、d・n=k・λ/2±20nmが、k・λ/2-20nm≦d・n≦k・λ/2+20nmを意味すると解釈したとしても、該請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、原査定の理由により特許を受けることができない。
以下、理由を述べる。
[理由]
(1)本願発明
本願発明におけるバリヤー層の厚さdについての条件(a)を上記のように解釈すると、条件(a)又は(b)は、λ/2-20nm≦d・nということになり、バリヤー層の厚さd(nmで測定)の満たすべき条件は、
「λ/2-20nm≦d・nであるか、又は、反射率を強める低屈折率/高屈折率多層被膜を有する反射器を製造するための出発物質としての使用のために、λ/4-20nm≦d・n≦λ/4+20nmである」ということになる。
λ=550nm、n=1.6を代入して、dを求めると、159nm≦d程度であれば条件を満足することとなる。

したがって、本願発明は、次のとおりのものである。
「アルミニウムからなる反射面と、20℃において6?10.5の誘電率を有していて陽極処理によって形成された酸化アルミニウムからなる透明な保護無孔バリヤー層とを有する反射器の製造方法であって、バリヤー層が厚さdを有し:
λ/2-20nm≦d・nであるか、又は、反射率を強める低屈折率/高屈折率多層被膜を有する反射器を製造するための出発物質としての使用のために、λ/4-20nm≦d・n≦λ/4+20nmを満たしており[式中、nはバリヤー層の屈折率であり、λは反射器の表面に衝突する光線の平均波長である。]、
バリヤー層の厚さが60?490nmの範囲内であり、アルミニウム面の全体にわたって前記厚さが±5%より大きく変化せず、
アルミニウム面を、酸化アルミニウム層を再溶解しない電解質である1g/l濃度のクエン酸溶液中で電解酸化し、生じる酸化物層の所望の厚さd(nmで測定)について、下記の判断基準に従って選択される一定の電解質電圧U(ボルト):
d/1.4≦U≦d/1.2
を選択して設定することによって、前記所望の厚さdが得られることを特徴とする、反射器の製造方法。」

(2)引用例
一方、原査定の拒絶の理由に引用した刊行物である、特開昭51-17135号公報(以下、「引用例」という。)には、
「本願第1発明による陽極酸化処理用電解液は、燐酸/ナトリウム、燐酸/カリウム等の1種又は複数種からなる第1成分(アルミニウム溶解剤)の1?70g/lと、クエン酸、酒石酸等の1種又は複数種からなる第2成分(アルミニウム溶解抑制剤)の10?飽和g/lとの混合水溶液である。
本発明者の実験研究によれば、燐酸/ナトリウム等の第1成分はアルミニウムを溶解する作用を有するが、これのみによっては陽極酸化皮膜を形成することはできず、又クエン酸等の第2成分はこれのみではバリヤ型の皮膜を形成するに止まる。」
(1ページ右下欄19行?2ページ左上欄9行)と記載されており、引用例には、
「クエン酸のみを成分とする水溶液を陽極酸化処理用電解液として、バリヤ型の被膜を形成する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、陽極酸化被膜が、本願発明においては、「20℃において6?10.5の誘電率を有していて、無孔であり、バリヤー層の厚さdがλ/2-20nm≦d・nであるか、又は、反射率を強める低屈折率/高屈折率多層被膜を有する反射器を製造するための出発物質としての使用のために、λ/4-20nm≦d・n≦λ/4+20nmを満たしており[式中、nはバリヤー層の屈折率であり、λは反射器の表面に衝突する光線の平均波長である。]かつ、60?490nmの範囲内であり、アルミニウム面の全体にわたって前記厚さが±5%より大きく変化せず、その厚さdについて、電解質電圧U(ボルト)をd/1.4≦U≦d/1.2として選択して設定する」のに対し、引用発明においては、バリヤー層の厚さが不明であり、かつ、他の上記要件を満たしているか明らかでない点で相違する。
そこで、上記相違点について検討すると、クエン酸溶液中で陽極酸化被膜を形成する場合、印加電圧、溶液の濃度を適宜選択するのは設計上当然のことである。
そして、本願発明においては、上記他の要件即ち、バリヤー層が、20℃において6?10.5の誘電率を有していて、無孔であり、アルミニウム面の全体にわたって前記厚さが±5%より大きく変化せず、その厚さdと電解質電圧U(ボルト)について、d/1.4≦U≦d/1.2を満足するものが、電解質を1g/l濃度のクエン酸溶液とするのみで、格別の条件を課すことなく得られるものとされている。
バリヤー層の厚さdが、印加電圧により制御可能であることは周知の事項であり、バリヤー層の厚さdを、「バリヤー層の厚さdがλ/2-20nm≦d・nであるか、又は、反射率を強める低屈折率/高屈折率多層被膜を有する反射器を製造するための出発物質としての使用のために、λ/4-20nm≦d・n≦λ/4+20nmを満たし、かつ、60?490nmの範囲内である」という要件を満足する、159nm≦d≦490nm程度とすることに、技術的意義も認められないから、引用発明において、クエン酸溶液の濃度を例えば1g/lとなるように設定し、バリヤ層の厚さdを159nm≦d≦490nm程度として、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願は特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
また、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-08 
結審通知日 2007-05-10 
審決日 2007-05-22 
出願番号 特願平7-305379
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F21V)
P 1 8・ 537- WZ (F21V)
P 1 8・ 121- WZ (F21V)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 鏡 宣宏
一色 貞好
発明の名称 技術的照明のための反射器の製造方法  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 社本 一夫  

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