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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1165254
審判番号 不服2004-16819  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-12 
確定日 2007-10-04 
事件の表示 平成 9年特許願第293312号「ターボ機械」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月27日出願公開、特開平11-117898〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成9年10月9日の出願であって、その請求項1?5に係る発明は、平成16年6月21日付け及び平成19年4月27日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「羽根なしディフューザを有するターボ機械において、低流量運転時における逆流域の不安定変動を抑止する、1または複数の安定化部材を、前記ディフューザの流路内に該ディフューザの側板側の壁面との間に隙間を設けて配置したことを特徴とするターボ機械。」

2.引用例
これに対して、当審において平成19年2月21日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平9-25894号公報(平成9年1月28日公開;以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は遠心圧縮機および遠心ブロワなどの遠心流体機械に多く用いられる羽根なしディフューザに関するものである。」(【0001】)
イ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】この発明が解決しようとする課題は、従来の羽根なしディフューザでは旋回失速が起きるような少ない流量においても、流体機械を安定に性能良く運転できる羽根なしディフューザを作成することである。」(【0005】)
ウ.「【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、上述の課題に鑑みてなされたもので、羽根なしディフューザを構成する環状の壁面の一方あるいは両方の壁面に、半径の大きい部分から始まって半径の小さい部分に達する溝を設けたことを特徴とする羽根なしディフューザである。」(【0006】)
エ.「【0008】図1および図2に示される本発明の羽根なしディフューザ3においては、環状壁面の半径の大きい部分から半径の小さい部分に達する複数の溝6が掘られている。従来の羽根なしディフューザ内においては、図5に示されるように両側の壁面に近付くほど流速は遅く流れが円周方向となす角は小さくて、流量が減少した運転状態では図6に示されるように壁面上を半径内向きの角度で逆流する壁面近くの境界層の流体は、溝6が設けられるべき壁面の上をほぼ円周方向に通過している。もしも、溝6が設けられれば、溝6の中では、半径方向の圧力差によって溝に沿って羽根車の方に向かう流れが生じるから、壁面上を内向きに逆流する恐れのある壁面に近い境界層の流体は、溝の上を通過する際に溝に吸い込まれて溝の中を羽根車に向かって流れる。すなわち本発明の羽根なしディフューザ3においては、壁面近くにあって流速が遅く逆流する恐れのある流体は早めに排除され、図7に示されるように速度も大きく円周方向に対する流れ角も大きい主流部の流れが壁面に近付いて、その強い旋回速度によって半径方向の圧力勾配に耐えることができ、少ない流量での運転状態になっても羽根なしディフューザに旋回失速が起きることはない。
【0009】すなわち従来の羽根なしディフューザにおいては、壁面近くで逆流する流れは勝手に集団を作って気ままな運動をして振動の原因になっていた。本発明ではそのような流体を溝に集めて流し、羽根車の外周にまで送り届けることによってディフューザ壁面上の逆流をなくし、安定な流れの状態を確保するものである。」(【0008】?【0009】)
オ.「【0014】本発明の溝6は環状壁面3aや3bに沿った速度の遅い流体を集めて羽根車の近くまで運ぶためのものであるから、(以下、略)」(【0014】)
カ.「【0007】(前略)羽根車からの流量が少なくなれば羽根車からの流れの半径方向の速度成分は減少するが、円周方向の速度成分はむしろ増加する傾向があるから、流れの方向は円周方向に近付いて通路幅全体の流れ角が小さくなり、壁面13aや13bの近くの境界層の流れは特に半径方向の速度成分が顕著に減少して、ついには図6に示すように壁面近くでは内向き流れが生じる。この内向き流れの量が多くなると、それが円周方向の数箇所に集まって逆流域を形成し、その逆流領域は羽根車の周囲を移動することが知られており、旋回失速と言われる。その領域の移動にともなって羽根車には振動力が加わり、流れは不安定になって流体機械は運転不能になることもある。」(【0007】)

上記記載事項ア.?カ.によると、引用例1には、
「羽根なしディフューザ3を有する遠心流体機械において、流量が減少した運転状態におけるディフューザ環状壁面3a,3b上の逆流をなくし安定な流れの状態を確保する、ディフューザ環状壁面3a,3bの半径の大きい部分から半径の小さい部分に達する複数の溝6を、ディフューザ環状壁面3a,3bの一方あるいは両方の壁面に配置した遠心流体機械。」
の発明(以下、「引用例1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

同じく、当審において平成19年2月21日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開昭50-20310号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
サ.「この発明はターボ圧縮機、ターボ冷凍機のような遠心圧縮機に使用されるデイフユーザに関するものである。」(第1頁左下欄下から6?4行)
シ.「デイフユーザベーン3は羽根車1の出口側に設けられたデイフユーザ部2に配設され、かつデイフユーザ2の側壁4に設けた凹部4aに出入自在に設けられている。すなわち側壁4に取付けた移動機構5とデイフユーザベーン3はロツド8により連結され(中略)したがつて(中略)移動機構5を作動させることによりデイフユーザベーン3はデイフユーザ部2の幅方向に移動して凹部4aに出入される。」(第1頁右下欄18行?第2頁左上欄10行)
ス.「上記と逆に設計点より風量が減少すれば、デイフユーザベーン3は上記と同様にして第2図(ハ)に示すように凹部4aに収納される。この場合には羽根車1の前面シユラウド11側の流速が小となり流路後半では流れがねて境界層は著しく発達するから、損失は増加してサージングの原因となる。このためデイフユーザベーン3が第2図(ハ)に示すように境界層厚さtだけ凹部4aより突出するようにする。」(第2頁右上欄4?12行)
セ.「またサージング点Rは従来のベーン付きデイフユーザおよびベーンレスデイフユーザのサージング点P,Qよりも小風量側にあるから安定して使用することができる利点がある。」(第2頁右上欄19行?同頁左下欄2行)

同じく、当審において平成19年2月21日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開昭48-90007号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
タ.「ディフューザ内の流れは低流量の場合には、第2図に示すに主流々線Aの流れ角度が減少し円周方向に寝た状態になるが、周壁近くの境界層においては、流線Bは特に流速が低いためますます寝た状態になる。すなわち捩れ境界層が発達し、ついには内向き方向の流れとなり三次元的剥離(逆流)を起す。このような状態ではディフューザの性能を低下させるばかりでなく、不安定な流れとなり流体機械の性能に悪影響を与える。」(第1頁右下欄3?11行)

3.対比
本願発明1と引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1に記載された発明の「羽根なしディフューザ3」は、その技術的意義からみて、本願発明1の「羽根なしディフューザ」に相当し、以下同様に、「遠心流体機械」は「ターボ機械」に、「流量が減少した運転状態」は「低流量運転時」に、「ディフューザ環状壁面3a,3b上の逆流をなくし安定な流れの状態を確保する」は「逆流域の不安定変動を抑止する」に、「ディフューザ環状壁面3a」は「ディフューザの側板側の壁面」に、それぞれ、相当する。また、引用例1に記載された発明の「ディフューザ環状壁面3b」は、当該技術分野において、「ディフューザの主板側の壁面」とも呼称される。さらに、引用例1に記載された発明の「溝6」と本願発明1の「安定化部材」とは、「(低流量運転時における逆流域の不安定変動を抑止する)安定化対策手段」の限りにおいて一致する。
してみると、両者は、
「羽根なしディフューザを有するターボ機械において、低流量運転時における逆流域の不安定変動を抑止する、複数の安定化対策手段を配置したターボ機械。」
の点で一致し、次の点で相違している。
[相違点]
本願発明1においては、安定化対策手段としての安定化部材を、ディフューザの流路内に該ディフューザの側板側の壁面との間に隙間を設けて配置したのに対し、引用例1に記載された発明においては、安定化対策手段としての溝6を、ディフューザの主板側の壁面及び側板側の壁面の一方あるいは両方の壁面に配置した点。

4.当審の判断
引用例2には、上記記載事項サ.?セ.によると、遠心圧縮機、すなわちターボ機械において、「デイフユーザベーン3をデイフユーザ部2の側壁4に設けた凹部4aに出入自在に配設し、風量減少時に該デイフユーザ部2に発達する境界層を抑制するために、前記デイフユーザベーン3を境界層厚さtだけ凹部4aより突出し、サージング点Rを従来のベーンレスデイフユーザのサージング点Qよりも小風量側にする」技術(以下、「引用例2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。ここで、境界層の発達が逆流域の形成と密接に関係していることは、当該技術分野の技術常識(引用例1の上記記載事項カ.及び引用例3の上記記載事項タ.参照。)というべきものである。
一方、引用例1に記載された発明は、安定化対策手段としての溝6を、ディフューザの主板側の壁面及び側板側の壁面のいずれか一方に配置する点を含むものである。
そうすると、引用例1に記載された発明において、ディフューザの主板側の壁面に配置された安定化対策手段としての溝6に代えて、引用例2に記載された技術を適用し、もって、本願発明1のような構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものと認められる。
そして、本願発明1の効果についてみても、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-27 
結審通知日 2007-07-31 
審決日 2007-08-20 
出願番号 特願平9-293312
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 和寛  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 石井 孝明
小谷 一郎
発明の名称 ターボ機械  
代理人 堀田 信太郎  
代理人 渡邉 勇  

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