• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1165282
審判番号 不服2005-6458  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-12 
確定日 2007-10-04 
事件の表示 平成10年特許願第306967号「液中の正イオン・負イオン検出分析装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月12日出願公開、特開2000-131283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年10月28日の出願であって、平成16年12月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成17年2月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成17年3月3日付けで拒絶査定がなされた。そして、平成17年4月12日付けで拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2.平成17年4月12日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月12日付け手続補正(本件補正)を却下する。
[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりに補正された。
「【請求項1】ボディ上部に配装された同軸円筒構造を有するセンサー部、集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部、及びボディ下部に配装され、測定試料が入れられる容器が載せられ、該容器をセンサー部向けに上下動させる昇降台を内蔵した信号検出箱と、前記信号検出部より出力される信号を処理してイオン量に応じて検出表示し、また、そのデータの記録機能、及び液質の差に応じて測定時間を変えうるとともにセンサー部に対し液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する印加電圧を出力することのできる計測部本体を備えたことを特徴とする液中の正イオン・負イオン検出分析装置。」(下線は、補正箇所を示す。)
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「計測部本体」について「液質の差に応じて測定時間を変えうる 」、及び、センサー部に対し「液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する」印加電圧を出力することのできるとの限定を付加するものであって、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.原審における拒絶理由及び拒絶査定の内容
(1)原審における拒絶理由通知の内容は次のとおりである。
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明には、請求項に係る発明の「正イオン・負イオン検出分析装置」の測定原理が記載されておらず、出願時の技術常識に基づいても、当業者が請求項に係る発明を実施できるものとは認められない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。
(出願時において、正イオン及び負イオンを検出する技術が技術常識であることを意見書にて主張される場合は、それを裏付ける証拠を挙げて主張されたい。)
(なお、請求項に記載された「資料」は、「試料」の誤記であるものと思われる。)」

(2)また、拒絶査定の内容は次のようなものである。
「この出願については、平成16年12月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
出願人は平成17年2月10日付け意見書において、空気中の正イオンおよび負イオンの測定技術に関する技術文献1-4を挙げ「正イオンおよび負イオンを検出する技術が出願時の技術常識であるといえます。そして上記の測定原理は電磁気学において周知の静電誘導作用を利用するものでありますので、液中の正イオンおよび負イオンの測定にも適用可能であることは容易にわかります。」と主張している。
しかしながら、液体(水)は導電性を有するので、空気中のイオンと同じ方法で液体(水)中のイオンを検出できることは容易には理解できない。よって、技術文献1-4に記載されているような、空気中における正イオンおよび負イオンの測定技術が知られているからといって、水中における測定技術が知られていたということはできない。
よって、出願人の主張を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。」

3.請求人の主張の内容
請求人は、平成17年2月10日付けの意見書で次のように主張している。
「(2)正イオンおよび負イオンを検出する技術が出願時の技術常識である旨の意見
正イオンおよび負イオンを検出する技術は、例えば技術文献1(特開昭59-160749号公報)に開示されています。技術文献1の請求項1や第1図などに開示されているように、測定部(A)は、円筒状をなすシールド電極(1)と、直流電源装置(8)に極性および電圧を制御可能な選択器(9)を介して接続される印加電極(2)と、外部測定機構(7)と導線(6)を介して接続される集電極(3)とを備えています。シールド電極(1)の内側に印加電極(2)が同心状に配置され、印加電極(2)の内側に集電極(3)が同心状に配置されています。これらはそれぞれ絶縁物(4)、(5)によって支持されています。技術文献1の第2頁左下のコラムの上から12行目?15行目に記載されていますように、印加電圧を正電圧、負電圧と変えることにより種々な移動度範囲の正イオン、負イオン密度を測定します。なお、本願発明のセンサー部は、前記測定部(A)に相当します。
技術文献1に開示された装置の測定原理を電磁気学の周知の知識に基づいて更に詳しく説明しますと、印加電極(2)に負電圧を印加すると、静電誘導作用により、印加電極(2)の内側に配置された集電極(3)の周囲に負イオンが集まります。その結果、集電極(3)に負の電位が発生します。このように電位が負側に変化しますので、導線(6)内で電位差が生じて、この変化に応じた電流が導線(6)内に流れます。この電流Iは、測定試料が空気の場合、測定試料の量をΦ、素電荷量をe、負イオン密度をnとすると、I=Φenと表すことができます(下記技術文献2および3参照)。この式より、負イオンの密度n=I/eΦを求めることができます。以上により、電流Iを求めれば負イオンの密度nを求めることができます。
同様にして印加電極(2)に正電圧を印加すると、静電誘導作用により、集電極(3)の周囲に正イオンが集まります。その結果集電極(3)に正の電位が発生し、上記同様、導線(6)に電流が流れます。もちろん電流の流れる方向は逆となります。この電流を計測することで正イオンの密度を求めることができます。
一方印加電圧を零(0V)にすれば、集電極(3)に、その周囲の正イオン及び負イオンの分布に応じた電位差が生じます。その結果上記同様、導線(6)に電流が流れます。この電流を求めることで電荷密度を求めることができます。
上記の測定原理を裏付ける他の技術文献として、例えば技術文献2(2005年1月26日検索、インターネット<URL:http://www.n-ion.com/theory 3 a.html>)、技術文献3(北川信一郎編著、「大気電気学」東海大学出版会出版、1996年6月10日、p.47-51、76)、および技術文献4(特開平6-194340号公報、段落番号(0002))を挙げることができます。
以上より、正イオンおよび負イオンを検出する技術が出願時の技術常識であるといえます。そして上記の測定原理は電磁気学において周知の静電誘導作用を利用するものでありますので、液中の正イオンおよび負イオンの測定にも適用可能であることは容易にわかります。」

そして、平成17年4月12日提出の審判請求書で次のように主張している。
「そもそも、電磁気学における周知の静電誘導とは、例えば技術文献5(岩波理化学辞典第3版、1971年5月20日発行、P.714)に記載されていますように、「帯電体の近傍に導体または誘電体があるとき、その帯電体に近い側の面にこれと反対の電荷、遠い側の面に同種の電荷が現れる現象」であり、この静電誘導は帯電体(正または負の電荷を帯びたもの)が気体であるか液体であるとに拘わらず成立するものであります。この静電誘導現象を利用して空気中の正イオンおよび負イオンを測定する測定技術が、平成17年2月10日付け意見書に記載の技術文献1-4に開示された測定技術であります。その他静電誘導を利用したものとしては、例えば周知の平行平板コンデンサを挙げることもできます。
ところで本願発明は、具体的に液体(水)中において、上述した測定原理が適用できることを確認した上でなされたものであります。本願発明を上記の原理(静電誘導)に具体的に当てはめますと、同軸円筒構造を有するセンサ部が上記の導体に相当し、液体が帯電体(正イオンや負イオンを含む液体)に相当します。従って上記のセンサ部を液体中に浸漬し、例えばセンサー部の印加電極に正電圧を印加しますと、上記の静電誘導現象により、センサー部の集電極が見かけ上、負に帯電し、集電極の周辺に正の電荷を帯びた正イオンが集まります。その結果この正イオンにより集電極に電流が流れます。そしてこの電流を検知することにより正イオン(量)を測定することが可能となります。このように、本願発明では、上記のような周知の原理(静電誘導)を用いて液体中の正イオンおよび負イオンを測定しております。以上の測定原理は、当業者であれば容易に理解できると考えます。 」

4.明細書の補正の内容
(1)平成17年2月10日付け手続補正書の内容について
請求人は、平成17年2月10日付け手続補正書で、上記拒絶理由通知で指摘された誤記について、明細書の特許請求の範囲及び段落【0008】、【0012】並びに【0018】の記載における「資料」を「試料」と訂正した。

(2)平成17年4月12日付け手続補正書(以下、単に「前置補正書」という。)の内容について
次いで、前置補正書の内容は、明細書の特許請求の範囲及び段落【0008】について、平成17年2月10日付けで補正されたそれらの箇所を、次のように補正するものである。(下線は、補正箇所を示す。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】ボディ上部に配装された同軸円筒構造を有するセンサー部、集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部、及びボディ下部に配装され、測定試料が入れられる容器が載せられ、該容器をセンサー部向けに上下動させる昇降台を内蔵した信号検出箱と、前記信号検出部より出力される信号を処理してイオン量に応じて検出表示し、また、そのデータの記録機能、及び液質の差に応じて測定時間を変えうるとともにセンサー部に対し液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する印加電圧を出力することのできる計測部本体を備えたことを特徴とする液中の正イオン・負イオン検出分析装置。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の液中の正イオン・負イオン検出分析装置は、ボディ上部に配装された同軸円筒構造を有するセンサー部、集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部、及びボディ下部に配装され、測定試料が入れられる容器が載せられ、該容器をセンサー部向けに上下動させる昇降台を内蔵した信号検出箱と、前記信号検出部より出力される信号を処理してイオン量に応じて検出表示し、また、そのデータの記録機能、及び液質の差に応じて測定時間を変えうるとともにセンサー部に対し液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する印加電極に対し印加電圧を与えることのできる計測部本体を備えたことを特徴とする。」

5.当審の判断
イ)本願補正発明は、上記「4.(2)」の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される「液中の正イオン・負イオン検出分析装置」であるところ、上記2回の明細書の補正は、上記拒絶理由で指摘した、いかなる測定原理で液中の正イオンおよび負イオンを検出分析するのかという点について、明確にするものではない。
すなわち、請求人は、上記拒絶理由通知に対する意見書において、気体(大気)中のイオン測定装置についての特許公報2件(技術文献1,4)および技術文献2件(技術文献2,3)を挙げて、正イオンおよび負イオンを検出する技術が出願時の技術常識であり、その測定原理は電磁気学において周知の静電誘導作用を利用するものであるので、液中の正イオンおよび負イオンの測定にも適用可能であることは容易にわかり、上述した測定原理によれば、測定試料が液体であっても気体であってもその中の正イオンおよび負イオンを測定することが可能である旨の意見を述べると共に、本件審判の請求の理由においても、技術文献5として(株)岩波書店発行「理化学辞典第3版」の「静電誘導」の項を挙げて、同様の主張をしているものの、明細書を補正して明確にしているものではない。
そして、技術文献1(特開昭59-160749号公報)には、筒状のシールド電極1内に印加電極2および集電極3をそれぞれ絶縁物4,5を介して同心状に支持させ、それらの電極間の空間に大気を吸引している気体吸引イオン自動分析装置が、また技術文献2(インターネット<URL:http://www.n-ion.com/theory 3 a.html>)、技術文献3(北川信一郎編著、「大気電気学」東海大学出版会出版、1996年6月10日、p.47-51、76)には、「ゲルディエン法」と呼ばれている二重同心円筒を用い、二重円筒間に空気を流し、外円筒に電圧Vを印加し、内筒を接地して空気中に含まれているイオンを円筒間の電界によって内筒面に流れ込ませ、内筒に捕捉させて、空気中の正イオン、負イオンの濃度を測定できる装置が記載されている。なお、技術文献4(特開平6-194340号公報)には、球形の電極1を備えたイオン測定装置が記載されている。

ロ)一方、本願補正発明の構成である「センサー部」について、明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、液中の正イオン、負イオンの濃度を測定するための「センサー部」が具体的にどのような形状、構造の部材からなるものであるのかについては、「同軸円筒構造を有する」という記載があるだけで、何と何とが“同軸円筒構造を有する”のかなど、何ら記載されていない。
また、「センサー部5」が図示されている図1の記載も、容器(ビーカー)C内に下方部分が挿入されている棒状部材を図示するだけで、「センサー部」の具体的な構成を示すものではない。

ハ)また、「集電極」についても、「集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部」と記載されているだけで、どこにどの様に配置されていて、どのような形状、構造の電極であるのか、「センサー部」とどのような関係にあるのかなど、装置の他の部材との関連も含め、発明の詳細な説明および図面に何ら記載されていない。
そして、そのような記載を含む「集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部」という装置構成部分も、結局どのような形状、構造のものか発明の詳細な説明および図面に具体的に記載されていない。

ニ)さらに、明細書の段落【0008】の「センサー部の印加電極に対し印加電圧を与えることのできる計測部本体」という記載、及び段落【0013】等の「センサー印加電圧の波形や、周波数、電圧を可変させて測定することにより、」との記載から、センサー部には印加電圧が与えられる印加電極が存在し、液中のイオン量の測定に際しては印加電圧が与えられることは記載されているが、印加電極が、どこにどの様に配置されていて、どのような形状、構造の電極であるのかは何ら記載されていない。

ホ)請求人は、正イオン・負イオン検出装置において、印加電極及び集電極を備えたセンサー部が技術常識であるとして技術文献1?4を挙げているが、これら技術文献に記載された、印加電極と集電極とを同軸円筒構造で有する気体(大気)中の正イオン・負イオン検出装置(以下、単に「気体中正イオン・負イオン検出装置」という。)においては、試料である気体(大気)は、それらの円筒状電極間を軸方向に一定の流速で流れていなければイオンの濃度は測定できないものである。
それに対し、本願補正発明では、仮にセンサー部が「気体中正イオン・負イオン検出装置における同軸円筒構造の電極」と同様の電極からなるものであるとしても、容器内に収容された試料液にセンサー部が浸漬されるだけであるから、円筒状電極間の軸方向に試料液が一定の流速で流れることはなく、「気体中正イオン・負イオン検出装置」と同様にイオン濃度が測定できるとは考えられない。

ヘ)しかも、水のような試料液中に浸漬された印加電極および集電極には、電解質溶液である試料液が接しているため、両電極間に電位差をかけると、液中のイオンは電位勾配によって加速されて移動し、その結果試料液に電流が流れるが、その大きさは、当然試料液に存在するイオンを含めた成分に影響される電極間の電気抵抗や電極面積及び電極間距離により左右されるものであって(例えば、「分析化学ハンドブック」(株)朝倉書店、1992年11月30日初版発行、259?260頁等参照)、気体中正イオン・負イオン検出装置におけるように装置の電圧・電流特性曲線(上記技術文献2のFig.3、技術文献3の図3-4参照)の飽和電流isが存在し、その値から直ちにイオンの濃度が求められるものとも考えられない。
すなわち、電解質溶液の試料液が接している電極表面では、イオンの移動だけでなく、特に印加電圧の条件次第では試料液中に存在する成分によっては電極表面での酸化還元反応や電気分解などの電極反応が生じ、それらの現象に伴う電流発生もあり得るし、電極反応には電極の材料や電極への物質の拡散なども影響する。電極表面における酸化還元や電気分解などは、気体中正イオン・負イオン検出装置においてはあり得ない現象であるから、電解質溶液の試料液における電圧・電流特性曲線を作成してみても、気体中正イオン・負イオン検出装置におけるような電圧・電流特性曲線になるとは考えられない。
本願明細書には、検出された電流値が、正イオン濃度及び負イオン濃度を示すことの理論的又は実験的説明は何ら記載されていない。

ト)そして、本願の図4、図5をみると、「蒸留水」と「水道の水」、そしてその内容は不明な「機能強化水」の3種の試料水について、検出電流が異なることは認められるものの、組成が異なる試料水であるから、その導電率(抵抗)は当然異なり、検出電流が異なることは当然の結果にすぎない。しかも、その曲線は測定時間によって変化しているものが多くみられ、検出電流が試料水に存在する正イオン、負イオンの量だけに対応した電流を示しているのであれば、試料水中のイオン量は試料水が同一であるにもかかわらず変化していることになり、矛盾しているし、その増減傾向にも印加電圧の極性の相違により異なっているという、イオンの移動だけでは理解できないデータが示されている。特に、機能強化水の測定データとして「(-)極性印加時」とある場合の、検出電流値がマイナス値であるとは、どのような現象を意味するのか理解できない。
また、印加電圧がゼロであるとき、電極間への電圧の印加に伴う正・負イオンの移動は存在しないはずであるから、その際にも検出電流が存在するということは、電極表面で何等かの電子の授受を伴う現象が生じていることを示唆しているものと考えられるが、このような現象は、電極に対して電解質溶液が接していない気体中正イオン・負イオン検出装置において生じるとは考えられない。

チ)また、検出電流が図4,図5の如く測定時間により変化するというのであれば、どの測定時間で検出した検出電流から正イオン、負イオンの濃度が測定できるのかも、本願発明の液中の正イオン・負イオン検出分析装置の測定原理が発明の詳細な説明に全く記載されていない状態では理解できないし、図4,図5の検出電流自体も、どのような電極を有する装置でどのような印加電圧で測定したのか、具体的な測定条件データも全く記載されていない。

リ)さらに、本願補正発明においては、「液質の差に応じて測定時間を変えうるとともにセンサー部に対し液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する印加電極に対し印加電圧を与える」という構成を採用しているが、具体的にどのように液質の差に応じて測定時間を変えたり、センサー部に対し液質のどのような差に応じてどのように異なる波形、周波数または電圧を有する印加電圧を与えるのかも明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されていない。

ヌ)そうすると、請求人の主張するように、気体中のイオン量に比例した信号を出力する気体中正イオン・負イオン検出装置において、同軸円筒構造を有する印加電極と集電極を備えることが、技術文献1?5にみられるように技術常識であるとしても、「液中の正イオン・負イオン検出分析装置」に関する本願補正発明において、同軸円筒構造を有する印加電極と集電極を備えることが技術常識ということはできず、本願明細書の「ボディ上部に配装された同軸円筒構造を有するセンサー部、集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部」という記載や、センサー部に印加電圧が与えられる印加電極が存在すること等の記載から、本願補正発明を当業者が実施できるものとは認められない。

ル)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記請求項1に記載された事項により特定される「液中の正イオン・負イオン検出分析装置」の発明(本願補正発明)について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件出願は、平成14年改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成17年4月12日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年2月10日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ボディ上部に配装された同軸円筒構造を有するセンサー部、集電極に触れる液中イオン量に比例した信号を出力する信号検出部、及びボディ下部に配装され、測定試料が入れられる容器が載せられ、該容器をセンサー部向けに上下動させる昇降台を内蔵した信号検出箱と、前記信号検出部より出力される信号を処理してイオン量に応じて検出表示し、また、そのデータの記録機能、及びセンサー部に対し印加電圧を出力することのできる計測部本体を備えたことを特徴とする液中の正イオン・負イオン検出分析装置。」

2.当審の判断
本願発明は、上記「第2.」で検討した本願補正発明から「計測部本体」の限定事項である「液質の差に応じて測定時間を変えうる」及び「液質の差に応じた波形、周波数または電圧を有する」との構成のみを省いたものである。
そうすると、上記「第2.」の「5.当審の判断」の中の、記載不備の指摘事項は、リ)を除いて、本願発明についても該当するものである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

3.むすび
以上検討したところによれば、本件出願は、平成14年改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-24 
結審通知日 2007-07-31 
審決日 2007-08-20 
出願番号 特願平10-306967
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 樋口 宗彦
門田 宏
発明の名称 液中の正イオン・負イオン検出分析装置  
代理人 古川 安航  
代理人 西谷 俊男  
代理人 角田 嘉宏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ