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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1165309
審判番号 不服2004-20536  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-04 
確定日 2007-10-03 
事件の表示 特願2000-540889号「延性蝶番を有する拡張式医療器具」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 7日国際公開、WO99/49928、平成14年 4月 2日国内公表、特表2002-509775号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1999年3月26日(パリ条約による優先権主張1998年3月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年1月21日付けで拒絶理由通知書が通知され、平成16年4月26日付けで手続補正がなされ、その後、平成16年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成16年11月4日付けで手続補正がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年11月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「拡張式医療器具であって、第1直径から第2直径へと拡張可能である略円筒形の器具を形成するために相互に結合し、それぞれが周方向にビーム幅を有する複数の細長いビームと、蝶番全長の少なくとも1/3である蝶番長の一部に沿った周方向の寸法にほぼ一定の幅と蝶番の厚さを有し、前記略円筒形の器具内で複数のビームを相互に接続する複数の延性蝶番と、を備え、前記蝶番幅は前記蝶番の厚さ及びビーム幅より小さく、前記器具が第1直径から第2直径に拡張すると、前記延性蝶番が塑性変形する一方、前記ビームは塑性変形しないことを特徴とする拡張式医療器具。」

2.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成10年2月12日に頒布された国際公開第98/05270号パンフレット(日本語訳は日本国特許庁に提出された翻訳文(特表2000-516486号公報を参照)による。)(以下、「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(1)「The present invention relates・・・, including stents and grafts.(本発明は、広くは、半径方向に拡大可能な、ステントおよび移植片を含む管状プロテーゼに関し)」(第1ページ第11?14行)
(2)「As a result of such radially expansive forces,・・・to increase the diameter and peripheral dimension of the prostheses.(このような半径方向拡大力を加えることにより、ヒンジ領域が降伏しかつストラットが互いに離れる方向に開いて、プロテーゼの直径および周方向寸法が増大される)」(第2ページ第1?4行)
(3)「A separate problem in stent construction and deployment relates・・・if the cross-section of their components are sufficiently large.(ステントの構造および展開に際しての別の問題は、展開作業中にステントをX線透視手法で検出できる能力に関するものである。ニッケルチタン合金および他の放射線不透過材料からなるステントは、これらのコンポーネントの断面積が十分に大きければX線透視手法で容易に観察できる。)」(第3ページ第9?14行)
(4)「The prostheses may be in the form of stents,・・・, intended for protecting or enhancing the strength of the luminal wall.(プロテーゼは、管腔の開通性を維持することを意図したステントの形態、または管腔壁の強度を保護しまたは向上させることを意図した移植片の形態に構成できる。)」(第4ページ第18?21行)
(5)「Typically, all hinge regions will be “ weak “ relative to the struts.・・・While deflecting relative to each other about the hinge regions.(一般に、全てのヒンジ領域はストラットに比べて「弱い」であろう。すなわち、プロテーゼが拡大されるとき、ストラットは変形に抵抗しかつ本質的に直線状を維持すると同時に、ヒンジ領域の回りで互いに撓む。)」(第6ページ第19?23行)
(6)「Usually, the hinge will have a section in which the height in the radial direction remains constant・・・relative to the non-weakened hinge regions.(通常、ヒンジは、半径方向の高さが一定を維持する(すなわち、ヒンジが、その残部ストラットおよび管状プロテーゼの他の部分と同じになる)と同時に、周方向の幅が非弱化ヒンジ領域に比べて30%まで縮小される)」(第7ページ第9?15行)
(7)「Fig.17A and 17B illustrate the opening characteristics of a first embodiment of a hinge region having a pair of opposed narrowed sections.(第17A図および第17B図は、1対の対向幅細セクションを備えたヒンジ領域の第1実施形態の開き特性を示す図面である)」(第10ページ第15?17行目)
(8)「The body segments of the tubular prostheses will comprise a plurality of struts joined together by hinge regions.(管状プロテーゼの本体セグメントは、ヒンジ領域により一体結合された複数のストラットを有する)」(第11ページ第31?33行目)
(9)「Another hinge region 120 is illustrated in Fig.17A and 17B. ・・・only a small portion of the opening of struts 122.(第17A図および第17B図には、他のヒンジ領域120が示されている。ヒンジ領域120自体は、隣接ストラット122とほぼ同じ幅を有している。ヒンジ領域の開き特性は、ヒンジのU形頂点と隣接ストラット122のビームとの間の移行部に設けられた1対の幅細領域124により定まる。ストラット122が開かれるとき、第17B図に示すように、幅細領域124に優先的に曲げが生じる。ストラット122の開きの極く小さい部分を占めるに過ぎないが、幾分かの開きおよび曲げがヒンジ120のU形部分に生じる。)」(第17ページ第4?15行目)
(10)17A図には、管状プロテーゼを形成するために、それぞれが周方向に幅を有する複数の細長い隣接ストラット122とヒンジ領域から成り、ヒンジ領域が備える幅細領域124の幅が、隣接ストラット122の幅より小さい構成が図示されている。

上記(1)乃至(10)の記載事項及び図示内容からみて、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

「半径方向に拡大可能な管状プロテーゼであって、
管状プロテーゼを形成するためにヒンジ領域により一体結合され、それぞれが周方向に幅を有する複数の細長い隣接ストラット122と、半径方向の高さが一定を維持する(すなわち、ヒンジが、その残部ストラットおよび管状プロテーゼの他の部分と同じになる)と同時に、周方向の幅が非弱化ヒンジ領域に比べて30%まで縮小される幅を有し、ヒンジのU形頂点と隣接ストラット122のビームとの間の移行部に設けられた1対の幅細領域124を備えたヒンジ領域と、を備え、
幅細領域124の幅が、隣接ストラット122の幅より小さく、プロテーゼが拡大されるとき、隣接ストラットは変形に抵抗しかつ本質的に直線状を維持すると同時に、ヒンジ領域の回りで互いに撓む管状プロテーゼ。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「半径方向に拡大可能な管状プロテーゼ」は、本願発明の「拡張式医療器具」、「略円筒形の器具」に相当し、以下同様に「隣接ストラット122」は、「複数の細長いビーム」に、「ヒンジのU形頂点と隣接ストラット122のビームとの間の移行部に設けられた1対の幅細領域124」は「複数のビームを相互に接続する複数の延性蝶番」に、「幅細領域124の幅が、隣接ストラット122の幅より小さく」は、「蝶番幅はビーム幅より小さく」に、「プロテーゼが拡大されるとき、隣接ストラットは変形に抵抗しかつ本質的に直線状を維持すると同時に、ヒンジ領域の回りで互いに撓む」は、「前記器具が第1直径から第2直径に拡張すると、前記延性蝶番が塑性変形する一方、前記ビームは塑性変形しない」にそれぞれ相当する。

また、引用発明の「管状プロテーゼを形成するために、それぞれが周方向に幅を有する複数の細長い隣接ストラット122」は、引用発明の管状プロテーゼが半径方向に拡大可能な構成を備えていることから、本願発明の「第1直径から第2直径へと拡張可能である略円筒形の器具を形成するために相互に結合し、それぞれが周方向にビーム幅を有する複数の細長いビーム」に相当する。
そして、引用発明は、「半径方向の高さが一定を維持する・・・一対の幅細領域を備えたヒンジ領域」を備えており、「半径方向の高さ」とは本願発明の「厚さ」に相当することから、引用発明の「幅細領域」においても「厚さ」が一定であるといえる。

そうすると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、
「拡張式医療器具であって、
第1直径から第2直径へと拡張可能である略円筒形の器具を形成するために相互に結合し、それぞれが周方向にビーム幅を有する複数の細長いビームと、
ほぼ一定の蝶番の厚さを有し、前記略円筒形の器具内で複数のビームを相互に接続する複数の延性蝶番と、を備え、前記蝶番幅はビーム幅より小さく、前記器具が第1直径から第2直径に拡張すると、前記延性蝶番が塑性変形する一方、前記ビームは塑性変形しない拡張式医療器具。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明において、「蝶番全長の少なくとも1/3である蝶番長の一部に沿った周方向の寸法にほぼ一定の幅と蝶番の厚さを有」するのに対し、引用発明は幅細領域において一定の厚さを有するものの、それ以外の点において該構成を備えているかは不明な点。
(相違点2)
本願発明において、「蝶番幅は蝶番の厚さより小さい」のに対し、引用発明は該構成を備えているか不明な点。

4.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
まず、「蝶番全長」の定義について検討すると、「蝶番全長」が具体的にどの部分を示しているのかが明細書を参照しても明りょうではないが、本願明細書に「支柱の収縮区間32は、円筒形構造の蝶番として機能する。能力/歪み集中機構32は、概ね延性の材料の塑性変形範囲へと動作するよう設計されるので、延性蝶番と呼ばれる。」(段落【0027】)と記載されていることから、収縮区間全体が「蝶番全長」であり、引用発明における「幅細領域全長」が「蝶番全長」に相当するといえる。
次に、「幅細領域」の形状について検討してみると、一般に、全てのヒンジ領域はストラットに比べて「弱い」(2.(5)参照)ことから、幅細領域の幅がストラットに比べて小さいという条件はあるものの、幅をどの程度の長さにわたって一定とするかは、どの程度の力で降伏するか等により適宜決定し得る設計事項に過ぎない。
したがって、引用発明においても「幅」と「厚さ」を本願発明のように「蝶番全長(ヒンジ領域)の少なくとも1/3である蝶番長の一部に沿った周方向の寸法にほぼ一定」とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用例には「ストラット122が開かれるとき、第17B図に示すように、幅細領域124に優先的に曲げが生じる」構成(2.(9)参照)、及び「コンポーネントの断面積が十分に大きければX線透視手法で容易に観察できる」(2.(3)参照)ことが記載されており、どの程度の力によってストラットが開くようにするか、あるいは、X線透視を考慮しコンポーネントの断面積をどの程度とするかを勘案して「ヒンジ領域」の幅と厚さを実験的に最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
そして、ヒンジ領域において幅細領域の幅を厚さよりも小さい寸法とすることは、単に相対的な寸法関係を決めたに過ぎず、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

なお、請求人は「「延性蝶番の幅は延性蝶番の厚さより小さい」という形状的な特徴を有する」ことにより「幅が厚さより小さいので、幅が比較的小さいことにより高い可撓性を保ちつつ、厚さが比較的大きいことにより放射線不透過性を高くし、蛍光透視装置やX線機器においてより鮮明に認識されるという効果を有する」旨主張しているが、高い可撓性を保つようにすること、放射線不透過性を高くすることは、それぞれ寸法の絶対値に技術的な意味があり、幅と厚さにおける寸法の相対的な関係を規定することの技術的な意義が不明りょうである。
そして、高い可撓性を保つために、また、放射線不透過性を高くするためにそれぞれの寸法を決定することは、上述したように当業者の通常の創作能力の発揮であり、その結果として幅を厚さより小さくすることは適宜なし得る設計事項に過ぎない。

3-4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)
この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2007-04-27 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-23 
出願番号 特願2000-540889(P2000-540889)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門前 浩一  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 北村 英隆
一色 貞好
発明の名称 延性蝶番を有する拡張式医療器具  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 曾我 道照  
代理人 鈴木 憲七  

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