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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10H
管理番号 1165316
審判番号 不服2005-10253  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-01 
確定日 2007-10-03 
事件の表示 平成 9年特許願第118497号「波形データ圧縮装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月17日出願公開、特開平10-307581〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成9年5月8日の出願であって、平成17年4月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成17年6月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし31に記載されたものと認められ、その請求項14に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項14】
所定区分に区分けされた圧縮データを受けて、各区分ごとの圧縮データを得て、 各区分の圧縮データに含まれる抽出係数データに基づいて、各抽出係数に対応する周期波を特定し、
特定された複数の周期波を合成して、各区分ごとの区分波形を再現して接続することにより波形を再現することを特徴とする波形データ解凍方法。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-261398号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が図面と共に開示されている。
ア 「2.特許請求の範囲
(1)音響信号をサンプリングすることによってデジタルの波形データの形式に変換するサンプリング手段を備えるサンプリング楽器の楽音発生装置において、
上記サンプリング手段により得られた上記波形データから、上記音響信号の音質を特徴づける周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットとを抽出する時間可変スペクトル抽出手段と、
正弦波合成タイプの楽音発生手段と、
を有し、
上記楽音発生手段は、上記時間可変スペクトル抽出手段により抽出された上記周波数のセットと上記エンベロープのセットとに基づいて、楽音信号を発生することを特徴とするサンプリング楽器の楽音発生装置。
(2)特許請求の範囲第1項記載のサンプリング楽器の楽音発生装置において、上記時間可変スペクトル抽出手段は、上記波形データから抽出した上記周波数のセットを基準周波数に対する相対的な周波数比のセットに変換する手段を含み、上記楽音発生手段は、サンプリング楽器の演奏入力装置より与えられる可変の音高指定情報に対し、上記各周波数比に従って較正された各周波数の正弦波信号を発生する手段を含むことを特徴とするサンプリング楽器の楽音発生装置。」(1ページ左下欄4行ないし2ページ右下欄12行)
イ 「したがって、サンプリングした音を正弦波合成タイプの音源に適合するデータ構造に変更できれば、音質の劣化の問題特に高音域において発生される楽音の品質の低下を防止できる。これが、第2の着眼点である。
そして、適合するデータ構造への変更は、時間可変スペクトル抽出手段により、原音を特徴づける周波数のセットと各周波数についてのエンベロープ(時間可変振幅情報)のセットを、原音の波形データから抽出することにより達成される。
したがって この発明によれば、音を発生する基になるメモリの容量を節約できる。」(3ページ左上欄8ないし19行)
ウ 「すなわち、押鍵に起因する楽音の発生においては、正弦波発生器コントローラ6はCPU3より送られてくる情報(音高データ、タッチデータなど)から、各正弦波発生器群8に与えるべき情報、すなわち、レスポンスデータの値T、キーフォローデータの値K、周波数比N、そのエンベロープEを正弦波発生用ワークメモリ7より取り出し、関係する正弦波発生器群8に送出する。各正弦波発生器では与えられた情報に従って、正弦波の波形データ(周波数比で較正された周波数をもつ)、キーフォロー、レスポンス、エンベロープを反映した波形データC(t)を生成し、両者を乗算する。各正弦波発生器の出力は累算器において累算され、最終的な楽音信号が形成される。」(5頁左下欄9ないし右下欄3行)

前記アないしウの記載によると、引用例には、「音響信号をサンプリングすることによる波形データから、上記音響信号の音質を特徴づける周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットとを抽出する時間可変スペクトル抽出手段と、抽出された周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットに基づいて、各正弦波発生器では正弦波の波形データ、エンベロープを反映した波形データC(t)を生成し、両者を乗算し、各正弦波発生器の出力を累算器において累算し楽音信号が形成される楽音発生手段とを有する楽音発生装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセット」は、前掲イの箇所に記載されたように音響信号をサンプリングすることによる波形データを、音を発生する基とした場合と比較して「メモリの容量を節約できる」ものであるから、「圧縮データ」といえる。
そして、引用発明は、圧縮データといえる「周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセット」から、解凍した波形データといえる楽音信号を形成する楽音発生装置に関するものであるから、本願発明と同じ「波形データ解凍方法」に関するものといえる。

引用発明の「楽音発生手段」は、時間可変スペクトル抽出手段で抽出された周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットに基づいて楽音信号を発生するものであるから、圧縮データといえる、周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットを時間可変スペクトル抽出手段から「受けて」、周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットを「得て」楽音信号を形成しているといえる。

引用発明の時間可変スペクトル抽出手段で抽出される「各周波数ごとのエンベロープ」は、波形データの各周波数に対応する振幅であり、楽音発生手段において対応する周波数の正弦波の波形データと乗算される係数データといえるから、「圧縮データに含まれる抽出係数データ」といえる。
引用発明の各正弦波発生器で得られる、正弦波の波形データと、エンベロープを反映した波形データC(t)とを乗算したデータは、各周波数ごとのエンベロープに基づいて特定される、各周波数ごとのエンベロープに対応した「周期波」といえる。
そして、引用発明の各正弦波発生器の出力を累算器において累算する処理は、「特定された複数の周期波を合成」する処理といえ、その結果形成される楽音信号がエンベロープの抽出対象となったと波形データを再現したものといえることは当業者にとって明らかな事項であるから、引用発明の、「抽出された周波数のセットと各周波数ごとのエンベロープのセットに基づいて、各正弦波発生器では正弦波の波形データ、エンベロープを反映した波形データC(t)を生成し、両者を乗算し、各正弦波発生器の出力を累算器において累算し楽音信号が形成される楽音発生手段」は、圧縮データに含まれる抽出係数データに基づいて、各抽出係数に対応する周期波を特定し、特定された複数の周期波を合成して、波形を再現しているといえる。

以上を踏まえると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
【一致点】 圧縮データを受けて、圧縮データを得て、圧縮データに含まれる抽出係数データに基づいて、各抽出係数に対応する周期波を特定し、特定された複数の周期波を合成して、波形を再現する波形データ解凍方法。

【相違点】
本願発明の「波形データ解凍方法」が、「所定区分に区分けされた」圧縮データを受けて、「各区分ごとの」圧縮データを得て、「各区分の」圧縮データに含まれる抽出係数データに基づいて、各抽出係数に対応する周期波を特定し、特定された複数の周期波を合成して、「各区分ごとの区分」波形を再現して「接続することにより波形を再現する」方法であるのに対し、引用発明は、圧縮データが所定区分に区分けされたものではなく、各区分ごとの圧縮データに基づいて各区分ごとの区分波形を再現して接続することにより波形を再現する処理を行っていない点。

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
波形データを分析し、再現パラメータを抽出し、再現パラメータに基づいて波形を再現する際に、波形データを所定区分に区分けし、「所定区分に区分けされた」再現パラメータを抽出し、「各区分の」再現パラメータに基づいて「各区分ごとの区分」波形を再現し、「各区分ごとの区分」波形を接続することにより波形を再現することは、特開平5-108077号公報、特開平5-119781号公報、特開平7-334162号公報に示されるように周知技術であるから、波形データを分析し、再現パラメータを抽出し、再現パラメータに基づいて波形を再現する楽音発生装置である引用発明に前記周知技術を採用し、「所定区分に区分けされた」圧縮データを受けて、「各区分ごとの」圧縮データを得て、「各区分の」圧縮データに含まれる抽出係数データに基づいて、各抽出係数に対応する周期波を特定し、特定された複数の周期波を合成して、「各区分ごとの区分」波形を再現して「接続することにより波形を再現する」ことは当業者が容易に想到し得ることといえる。

前記特開平5-108077号公報には、「連続した楽音波形データを複数の部分データに分割して各部分データごとのスペクトルの周波数および強度を分析する分析手段と、分析手段が分析した各部分データごとのスペクトル周波数および強度を分析パラメータとして記憶する記憶手段と、前記分析パラメータを順次読み出して楽音波形データを再合成する合成手段」(請求項1)について記載されている。
前記特開平5-119781号公報には、「【0011】この分析部1にはPCM波形データが入力される。PCM波形データは32kHzのサンプリングクロックでサンプリングされたものである。分析部1は連続する2048サンプルを1組のデータ(1フレーム)として扱う。ただし、各フレームは64サンプルづつのずれでオーバーラップしている(図3参照)。分析部1の各チャンネルは1フレーム分のサンプリングデータが入力されたときそのフレームの周波数データFreqと強度データMagを出力する。ここで、1フレームを構成するサンプル数は2048に限らず、フレーム間隔も64サンプルに限定されない。【0012】記憶部2は、各チャンネルの周波数データFm n と強度データMm n を各フレームごとにテーブル化して記憶している(図4)。1波形データに対応する複数フレームのテーブル群をボイスデータという。各音色に対応してこのボイスデータが記憶されている。また、マルチサンプリング(音域や強度別に1音色の複数波形を記憶する方式)の場合には、1音色に複数のボイスデータが含まれることになる。【0013】以上の分析部1による波形データの分析(ボイスデータ化)および記憶部2への記憶が、演奏以前に行われる前処理となる。【0014】補間部3は、ボイスデータを読み出して波形データを形成するとき各サンプリングクロックのデータを形成する回路部である。すなわち、フレームデータは64クロックごとに出力されるが、各フレーム間の63サンプリングタイミングにおける周波数データ,強度データをその前後のフレームデータから直線補間して算出する(図5参照)。補間は各チャンネルごとに同一チャンネルのデータを用いて行われる。算出されたデータはシフト部4に出力される。【0015】シフト部4は鍵盤等で指定された音高(周波数)の楽音を発音するために、周波数データのみをシフトする回路である。サンプリングした波形データの周波数と指定された周波数とに基づいてシフト量が決定される。なお、マルチサンプリングにより全ての鍵(音高)に対応するボイスデータを有する場合はこのシフト処理は不要となる。【0016】合成部5は各チャンネルごとの周波数データ,強度データを合成して1個の波形データを合成する回路である。合成は逆FFT合成を用いてもよく、加算合成を用いてもよい。」(段落0011ないし16)と記載されている。
また、前記特開平7-334162号公報には、「楽音信号は発音から消音までを32kHzの周波数でサンプリングされ、ディジタルの楽音波形データとされる。この楽音波形データから連続する2048サンプルを抽出して1フレームとする。この1フレームの楽音波形データをフーリエ解析して周波数スペクトルを求め、これを図2に示すようなフィルタアレイによって128チャンネルの周波数帯域に分割する。フィルタアレイの各フィルタ毎に、その周波数帯域におけるピークの周波数データとその強度データを抽出する(図3参照)。このようにして1フレームにつき、128個のピークデータ(周波数データ,強度データ)が抽出される。これをフレームデータとする。このフレームデータは楽音信号合成時には瞬時値データとして扱われ、これを時系列に連続して読み出すことによって楽音波形データが再合成される。」(段落0016)と記載されている。

そして、本願発明の奏する効果を検討してみても、引用例に記載された発明、及び前記周知技術から想定される範囲を越える格別なものとはいえない。

5 結論
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-02 
結審通知日 2007-08-06 
審決日 2007-08-20 
出願番号 特願平9-118497
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 剛史  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 伊知地 和之
松永 稔
発明の名称 波形データ圧縮装置および方法  
代理人 古谷 栄男  
代理人 松下 正  

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