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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1165499
審判番号 不服2004-22784  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-04 
確定日 2007-10-11 
事件の表示 平成11年特許願第276863号「プリント配線基板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月13日出願公開、特開2001-102708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年9月29日に出願されたものであって、平成16年9月30日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年12月3日付で手続補正がなされたものである。

II.平成16年12月3日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月3日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりとなった。
「【請求項1】無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた複合体からなる強化層の両面に、前記含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層が形成されてなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたスルーホール内に少なくとも金属粉末を充填してなるスルーホール導体と、該スルーホール導体の少なくとも一端に形成され且つ前記絶縁基板表面に埋設されてなる金属箔からなる配線回路層とを具備してなり、前記樹脂層の平均厚さをX、前記配線回路層の平均厚さをY、前記スルーホール導体の最大径をZとした時、
Y/X ≦ 0.9
Z/X ≧ 1
の関係を満足することを特徴とするプリント配線基板。」(以下、「本願補正発明1」という。)

上記補正は、補正前の請求項1の「熱硬化性樹脂と無機繊維の織布または不織布との複合体」を、「無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた複合体」に補正し、「複合体」を熱硬化性樹脂を含浸させたと限定すると共に、補正前の請求項1の「前記熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層」を、「前記含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層」と限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、補正前の請求項1の「前記ビアホール導体の最大径」を、「前記スルーホール導体の最大径」に補正するものであるが、補正前の請求項1には、前記とする「ビアホール導体」の記載がなく、明らかに「スルーホール導体」の誤記であると認められるから、これは、特許法第17条の2第4項第3号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。

次に、本願補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された特開平11-87870号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平11-87870号公報
(1a)「【請求項1】樹脂含浸繊維シートおよびその少なくとも一方の側に配置された耐熱性フィルムにより構成される絶縁基板を貫通して設けられた貫通孔に充填された導電性材料によって、絶縁基板の両側に形成された所定の配線パターンが電気的に接続されていることを特徴とする両面配線板。」

(1b)「【0016】【課題を解決するための手段】発明者らは・・・圧縮性を有する、プリプレグとしての樹脂含浸繊維シートの少なくとも一方の主表面上に、樹脂含浸繊維シートと実質的に相溶しない平坦な耐熱性フィルム、好ましくは耐熱性樹脂フィルムを配置した複合体を絶縁基板として使用し、その上に配線パターンを形成することにより、樹脂含浸繊維シートの表面が実質的に平坦でない(即ち、凹凸形状を有する)場合であっても、配線パターンが上に形成される絶縁基板の表面は実質的に平坦となり、その結果、微細な配線パターンの形成が可能となること、また、それによって、配線の電気的接続の信頼性の確保が容易になることを見出して、本発明を完成した。」

(1c)「【0023】・・・樹脂含浸繊維シートは、基材としての繊維製品、例えば不織布、織布・・・等に熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂等を含浸させて、半硬化させたものであってよい。繊維製品は、無機繊維・・・、有機繊維・・・からできていてよい。・・・」

(1d)「【0026】・・耐熱性フィルムとは、絶縁基材が加熱・加圧されてそれに含まれる熱硬化性樹脂が硬化される場合に、溶融しないフィルムを意味し、本発明の配線板において、少なくとも樹脂含浸繊維シートから離れた側の耐熱性フィルムの表面は実質的に平坦である。耐熱性フィルムは、絶縁性を有し、樹脂含浸繊維シートと相溶性を有さないものである。具体的には、耐熱性フィルムは・・・有機物質(例えば、芳香族ポリアミドやポリイミドのような種々の耐熱性樹脂)によってできていてもよい。そのようなフィルムは、絶縁基材が遭遇する加熱・加圧条件下において、溶融せず、また、実質的に変形しないのが最も好ましい。しかしながら、樹脂含浸繊維シートの表面の凹凸の影響のために、樹脂含浸繊維シートから離れた側の耐熱性フィルムの表面の平坦性を維持できなくなることが無い限り、加熱・加圧条件下で変形するようなフィルムも使用できる。」

(1e)「【0029】耐熱性フィルムの厚さは、樹脂含浸繊維シートの表面の凹凸の影響が絶縁基材に出ない程度であれば、特に限定されるものではないが・・・例えば10?30μmの厚さであってよい。」

(1f)「【0039】尚、貫通孔は、・・・スルーホールとも呼ばれることがあり、一般には、その中に導電性ペーストまたは金属微粉末のような導電性材料が充填され・・・導電性ペーストは・・・通常、微細な導電性材料、例えば金属(銀、銅等)微粒子および熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)により構成され、スクリーン印刷等により貫通孔に充填することができるものである。貫通孔に充填された導電性ペーストは、加熱・加圧処理された場合、樹脂含浸繊維シートの圧縮性故に、少なくとも一部分の樹脂成分が貫通孔から樹脂含浸繊維シート内に移行し、その結果、金属微粉のような導電性材料を構成する要素の密度が増加した(即ち、導電性材料を構成する要素が緻密に充填された)導電性材料となり、絶縁基板の両側の配線パターンを接続する。」

(1g)「【0050】・・・図1は、具体的態様1にかかる本発明の両面配線板の模式的な(配線板の主表面に対して垂直な方向の)断面図であり、図2はその一部を拡大した模式的断面図である。・・・
【0051】図2に示すように、耐熱性フィルム15は、その材質に応じてその片面または両面に、樹脂含浸繊維シート11および/または配線パターン14との接着性を補強するために、例えばポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の接着剤層16を有することが好ましい。・・・接着剤層16が耐熱性フィルム15と樹脂含浸繊維シート11との間に存在しなくても、耐熱性フィルム15との十分な接着性を確保できる場合が多い。・・・配線パターン14と耐熱性フィルム15との間の接着性は必ずしも十分でないことがあり、そのような場合には、接着剤層16を配線パターン14と耐熱性フィルム15との間に設ける(図2参照)ことにより、配線パターン14と耐熱性フィルム15との間の十分な接着性を確保するのが好ましい。」

(1h)「【0052】図3は、上述の本発明の具体的態様1にかかる両面配線板の製造方法の工程を模式的に示す、図1と同様の断面図である。図3(a)に示すように、樹脂含浸繊維シート11として、例えば芳香族ポリアミド(例えばアラミド)繊維・・・の不織布に熱硬化性エポキシ樹脂・・・を含浸させた厚さ150μmの多孔質プリプレグ(エポキシ樹脂は半硬化状態である)を準備し、その両面に耐熱性樹脂フィルム15を熱圧着により貼着し、更に、その外側表面に・・・剥離性フィルム17を熱圧着により設け、配線板予備体を得る。耐熱性樹脂フィルム15として、例えば厚さ19μmの全芳香族ポリアミドフィルム・・・の両面に10μmの厚さにゴム変性エポキシ樹脂またはポリイミドシロキサンよりなる接着剤16(図3では図示せず)を塗布したものを使用できる(図2参照)。
【0053】次に、図3(b)に示すように、剥離性フィルム17を有する絶縁基板10の所定の箇所に・・・レーザ加工により孔径200μmの貫通孔12を形成する。次に・・・導電性材料13を貫通孔12に充填した後、図3(c)に示すように、離型性フィルム17を剥離除去する。・・・」

(1i)「【0054】次に、図3(d)に示すように、露出した接着剤層16(図3では図示せず)上に、例えば厚さ35μmの銅箔18を夫々載置する。その後、図3(d)の状態のものを、加熱・加圧して、熱圧着する、即ち、プリプレグ状態の絶縁基板11および導電性ペースト13が圧縮され、含浸樹脂および導電性ペーストの樹脂が硬化されると共に、両側の銅箔18が同時に耐熱性フィルム15に接着されて一体化する。・・・その結果、図3(e)に示すような貫通孔12内の導電性材料13を介して銅箔が電気的に接続された両面銅箔貼着回路用基板が得られる。最後に、図3(f)に示すように、銅箔18をフォトリソグラフ法によりパターンニングすることにより、配線パターン14a、14bを形成し、両面に配線パターンを備えた配線板19が得られる。」

(1j)「【0060】具体的態様2
図7に、具体的態様2にかかる本発明の両面配線板を製造する工程を模式的に(基板の主表面に対して垂直な方向の)断面図にて示す。最初に、図7(a)に示すように、プリプレグ状態の樹脂含浸繊維シート11aおよびその両側の耐熱性フィルム15を有して成る絶縁基板10を形成し、その両側に剥離性フィルム17を配置する。尚、図示した態様では、耐熱性フィルム17は、剥離性フィルム17との間に接着剤層16を有する。次に、図7(b)に示すように、貫通孔12を形成する。その後、貫通孔12の中に導電性材料13を充填し、図7(c)に示すように剥離性フィルム17を除去し、接着剤層16を露出させる。このような図7(a)?(c)の工程は、図3(a)?(c)に示す工程と実質的に同じ工程である。そのような工程に続き、図7(d)に示すように、プリプレグ状態の絶縁基板11aの両側に、例えば芳香族系ポリイミドフィルム・・・よりなる耐熱性樹脂フィルム15(露出表面には接着剤層16を有する)が設けられ、貫通孔12内に導電性ペースト13が充填されて形成された絶縁基板10の両側に、別途準備され、配線パターン21aおよび21bが片側表面上に夫々形成された剥離性の配線パターン支持プレート22aおよび22bを、配線パターン21aおよび21bが絶縁基板10に面するように配置した後、熱圧着処理において、これらを一緒に加熱、加圧することによって、プリプレグ状態の樹脂含浸繊維シート11aおよび導電性ペースト13を圧縮、硬化する。それによって、耐熱性フィルム15の表面に塗布されている接着剤16を介して配線パターン21aおよび21bを絶縁基板10の両側に接着し、導電性ペースト13によって配線パターン21aおよび21bが電気的に接続される。」

(1k)「【0061】上述の熱圧着処理が終了した後、剥離性プレート22aおよび22bを剥離することにより、図7(e)に示すような表面が平滑化された両面に配線パターンを備えた両面配線板が得られる。このように、剥離性配線支持プレート22aおよび22bに予め形成した配線パターン21aおよび21bを、転写法により平坦性に優れた耐熱性樹脂フィルム上に接着剤層16を介して転写することにより、より微細な配線パターンを高精度に形成することが可能となる。」

(1l)「【0062】図8は、上述の具体的態様2にかかる両面配線板24および25(図7(e)と類似のもの)を、以下に説明する中間接続体23を挟むようにして積層して得られる4層の配線層を有する多層配線板の製造工程を示す模式的断面図である。この中間接続体23は、図7(c)に図示した絶縁基板と実質的に同じ構造のものである。先ず、図8(a)に示すように、中間接続体23として、例えば、アラミド繊維の不織布に熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させた多孔質プリプレグ11aの両面に、全芳香族ポリエステルフィルム・・・よりなる耐熱性樹脂フィルム15の両面に接着剤16(・・・、簡単のため、樹脂含浸繊維シート11aと耐熱性フィルム15との間の接着剤層は図示していない)を塗布したものを設けたものを使用した。中間接続体23を、図7(a)?(c)に示す工程と同様に作製した。・・・」

(1m)具体的態様1の両面配線板を図示した図1の一部拡大図である図2には、絶縁基板10は、樹脂含浸繊維シート11の両側に耐熱性樹脂フィルム15が配置され、両側の耐熱性樹脂フィルム15の両面にはそれぞれ接着剤層16を有する構造であることが図示されている。

(1n)図3(a)?(f)は、具体的態様1の両面配線板の製造工程断面図であって、(a)?(c)には、樹脂含浸繊維シート11およびその両側に耐熱性樹脂フィルム15を有する絶縁基板に、貫通孔12を形成し、その後、貫通孔に導電性材料13を充填する工程が図示されており、(d)?(f)には、耐熱性樹脂フィルム15上に銅箔18を接着一体化した後、パターンニングすることにより配線パターンを形成する工程が図示されている。ただし、耐熱性フィルム15の両面に設けられた接着剤層16は図示されていない。

(1o)図7(a)?(e)は、具体的態様2の両面配線板の製造工程断面図であって、(a)?(c)には、樹脂含浸繊維シート11aおよびその両側に耐熱性樹脂シート15を有し、耐熱性樹脂シート上には接着剤層16が露出している絶縁基板に、導電性材料が充填された貫通孔を設ける工程が図示され、(d)、(e)には、耐熱性樹脂フィルムの露出表面の接着剤層16上に、配線パターン21a、21bを転写する工程が図示され、図7(e)から、具体的態様2の両面配線板は、両面の配線パターン21a、21bがそれぞれ耐熱性フィルム15表面の接着剤層16に埋設され表面が平滑化されていることが看取できる。

3.当審の判断
3-1.引用例1に記載の発明
引用例1の摘記(1a)によれば、樹脂含浸繊維シートおよびその両側に配置された耐熱性フィルムにより構成される絶縁基板を貫通して設けられた貫通孔に充填された導電性材料によって、絶縁基板の両側に形成された所定の配線パターンが電気的に接続されている両面配線板が記載され、摘記(1c)によれば、樹脂含浸繊維シートは、無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維シートであることが理解できる。
又摘記(1d)によれば、耐熱性フィルムは、耐熱性樹脂によってできていてもよいことが記載されているから、耐熱性樹脂フィルムといえ、そして、摘記(1f)によれば、貫通孔の中に金属微粒子を含有する導電ペーストまたは金属微粉末のような導電性材料を充填することが記載されている。
また、摘記(1j)(1k)によれば、具体的態様2にかかる両面配線板は、図7(a)?(e)の工程で製造されるものであって、図7(a)?(c)の工程は、図3(a)?(c)の工程と実質的に同じ工程であること、及びプリプレグ状態の絶縁基板11aの両側に、耐熱性樹脂フィルム15(露出表面には接着剤層16を有する)が設けられることが記載され、摘記(1l)によれば、中間接続体23は、図7(c)に図示した絶縁基板と実質的に同じ構造のものであり、アラミド繊維の不織布に熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させた多孔質プリプレグ11aの両面に、耐熱性樹脂フィルム15の両面に接着剤16を塗布したものを設けたものを使用したと記載されているから、具体的態様2にかかる両面配線板は、耐熱性樹脂フィルム15の両面に接着剤16を塗布したものを使用する態様も理解できる。
そして、摘記(1h)によれば、図3(a)(b)に示すように、樹脂含浸繊維シート11の両面に、厚さ19μmの耐熱性樹脂フィルム15が配置され、各耐熱性樹脂フィルム15の両面にはそれぞれ厚さ10μmの接着剤層16を有する絶縁基板に、導電性材料が充填された孔径200μmの貫通孔を形成することが記載されているから、上記具体的態様2にかかる両面配線板は、耐熱性樹脂フィルム15の厚さを19μm、その両面の接着剤層16の厚さをそれぞれ10μm、貫通孔の孔径を200μmとなし得ることが理解できる。
さらに、摘記(1j)、(1k)によれば、図7(d)、(e)の工程では配線パターン21a、21bを接着剤層16を介して転写することが記載されているところ、摘記(1i)によれば、厚さ35μmの銅箔をパターンニングして配線パターン14a、14bを形成する図3(d)?(f)の工程が記載されているから、図7(d)、(e)の工程において転写により形成される配線パターン21a、21bとして、厚さ35μmの銅箔を用い得ることも理解できる。
摘記(1k)には、配線パターン21aおよび21bを、転写法により平坦性に優れた耐熱性樹脂フィルム上に接着剤層16を介して転写することが可能となることが記載され、図7(e)から、具体的態様2の両面配線板は、両面の配線パターン21a、21bがそれぞれ耐熱性フィルム15表面の接着剤層16に埋設され表面が平滑化されている(摘記(1o))のであるから、配線パターンは、貫通孔に充填された導電性材料、即ちスルーホール導体の少なくとも一端に形成され且つ接着剤層に埋設されているといえる。

そこで、引用例1の摘記事項(1a)?(1o)の記載を総合すれば、引用例1には、「無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維シートの両面に、接着剤層を両面に有する耐熱性樹脂フィルムを備えた絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたスルーホール内に少なくとも金属粉末を充填してなるスルーホール導体と、該スルーホール導体の少なくとも一端に形成され且つ前記接着剤層に埋設されてなる銅箔からなる配線パターンとを具備してなり、前記接着剤層と前記耐熱性樹脂フィルムの合計厚さをx(x=39μm)、前記配線パターンの厚さをy(y=35μm)、前記スルーホール導体の径をz(z=200μm)とする両面配線板。」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。

3-2.対比・判断
本願補正発明1と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「樹脂含浸繊維シート」、「配線パターン」、「両面配線板」、「y」、「z」は、それぞれ本願補正発明1の「複合体からなる強化層」、「配線回路層」、「プリント配線基板」、「Y」、「Z」に相当し、引用例1発明の「接着剤層を両面に有する耐熱性樹脂フィルム」は、全体で「樹脂層」を構成しているといえるから、「x」は本願補正発明1の「X」に相当し、Y/X=35/39≒0.9、Z/X=200/39≒5.1となっており、本願補正発明1のその関係と重複している。また、引用例1発明の「接着剤層に埋設されてなる銅箔」は、「絶縁基板表面に埋設されてなる金属箔」といえる。
そうすると、両者は、
「無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた複合体からなる強化層の両面に、樹脂層が形成されてなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたスルーホール内に少なくとも金属粉末を充填してなるスルーホール導体と、該スルーホール導体の少なくとも一端に形成され且つ前記絶縁基板表面に埋設されてなる金属箔からなる配線回路層とを具備してなり、前記樹脂層の平均厚さをX、前記配線回路層の平均厚さをY、前記スルーホール導体の最大径をZとした時、Y/X=0.9、Z/X=5.1の関係を満足するプリント配線基板。」で一致し、次の点で相違する。

相違点:本願補正発明1は、樹脂層が、「含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層」であるのに対し、引用例1発明は、接着剤層を両面に有する耐熱性樹脂フィルムである点。

次に、上記相違点について検討する。
引用例1発明の耐熱性樹脂フィルムは、摘記(1d)によれば、絶縁基材が加熱・加圧されてそれに含まれる熱硬化性樹脂が硬化される場合に、溶融しないフィルムを意味し、樹脂含浸繊維シートから離れた側の耐熱性フィルムの表面は実質的に平坦であるとし、また、絶縁性を有し、樹脂含浸繊維シートと相溶性を有さないともしている。更に、絶縁基材が遭遇する加熱・加圧条件下において、溶融せず、また、実質的に変形しないのが最も好ましいとしているが、樹脂含浸繊維シートの表面の凹凸の影響のために、樹脂含浸繊維シートから離れた側の耐熱性フィルムの表面の平坦性を維持できなくなることが無い限り、加熱・加圧条件下で変形するようなフィルムも使用できるとしている。課題を解決するための手段にも、樹脂含浸繊維シートと実質的に相溶しない平坦な耐熱性フィルムを用いること(摘記(1b))が記載されている。
一方、特許請求の範囲の請求項1には、摘記(1a)に記載されるとおり、耐熱性フィルムが、樹脂含浸繊維シートと実質的に相溶しない平坦なものであることは特に限定されるものでなく、相溶しないことを必須のものとはしていない。
そうすると、耐熱性樹脂フィルムは、溶融しないフィルムを意味し、樹脂含浸繊維シートから離れた側の耐熱性フィルムの表面は実質的に平坦であることは最低限必要なことであって、このような特性を備えることにより、複合体からなる強化層(樹脂含浸繊維シート)の表面が実質的に平坦でない(即ち、凹凸形状を有する)場合であっても、配線パターンが上に形成される絶縁基板の表面は実質的に平坦となり、その結果、微細な配線パターンの形成が可能となり、また、それによって、配線の電気的接続の信頼性の確保が容易になるという作用、効果を奏するものである(摘記(1b)参照)ことが理解できる。

ところで、無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた複合体からなる強化層の両面に、前記含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層が設けられることは、例えば、次のとおり周知である。

周知例1:特開昭62-183338号公報
(周1a)「1 熱硬化性樹脂をガラス紙布基材に含浸・乾燥させてなるプリプレグと多層用内層板とを交互に組み合わせ、組み合わせたものの少なくとも片面に、該プリプレグにおけると同一の熱硬化性樹脂を箔面に塗布してなる樹脂付銅箔を配置し、加熱加圧一体化することを特徴とする多層プリント配線板。」(特許請求の範囲 1)
(周1b)「薄いガラスクロスは、厚い7628タイプのガラスクロスに比べて高価で、かつ銅箔表面を十分平滑化するとはいえず、逆にガラスクロスの目の凹凸が発現し、ドリルの軸ぶれ等の原因となる欠点があった。
[発明の目的]
本発明は、上記の問題点および欠点を解決または解消するためになされたもので、その目的は、高価な薄いガラスクロスを用いることなく銅箔表面が平滑で、小径のドリル加工をした場合に、ドリルの軸ぶれ、ドリルスミアがなく、内壁粗さの良好な多層プリント配線板を提供しようとするものである。」(2頁左上欄4?16行)
(周1c)「[発明の効果]
・・・本発明の多層プリント配線板は、プリプレグと同一の樹脂を銅箔に塗布させることによって、従来のように薄物のガラス基材を用いることなく、銅箔表面が平滑で、ドリルの軸ぶれ、ドリルスミアがなく、内壁粗さの良好な穴あけができ、かつ安価なものである。 そして、特に小径のスルーホールが必要な平面実装用多層プリント配線板として好適なものである。」(5頁4?13行)と記載されている。

周知例2:特開平4-142793号公報
(周2a)「〔実施例〕 難燃化エポキシ樹脂・・・を配合してワニスとし、これをガラス布・・・に・・・塗布した後、乾燥してBステージのプリプレグを得た。・・・次に、上記ワニスを・・・塗布し、Bステージ状態で約50μm厚となるように乾燥した。」(2頁右下欄末行?3頁左上欄19行)と記載されている。

周知例3:特開平7-263828号公報
(周3a)「【0035】(実施例1) ・・・離型性フィルム1・・・を準備する。つぎに・・・熱硬化型樹脂2を塗布し・・・乾燥をする。熱硬化型樹脂にはエポキシ樹脂を主成分とする・・・耐熱性を有する樹脂が選択できる。・・・次に基材3を・・・配して接着させる。用いる基材は・・・アラミド(芳香族ポリアミド)のような有機質の繊維、またはガラスの織布または不織布が使用できる。本実施例では・・・アラミドペーパー・・・を用いた。このアラミドペーパーに前記と同様の熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグを・・・熱硬化・・・させ・・・たものを基材3とした。」と記載されているから、ガラスの織布または不織布に熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させた基材に、同様の熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂層を設けることが開示されている。
(周3b)「【0050】・・・熱硬化型樹脂層を有する離型フィルムで挟み込まれた基材を用い・・・基材をさらに銅箔で挟みこみ積層することによって、安定に表面の平滑性に優れた・・・両面プリント基板が得られる。・・・」
なお、(実施例2)には、離型性フィルムに熱硬化型樹脂(エポキシ樹脂)を厚み20μm塗布し(【0039】)、貫通孔(穴径約0.4mm)形成し(【0040】)、18μm厚みの両面粗面化銅箔で積層すること(【0041】)、即ち本願補正発明1のX、Y、Zの関係を満足することが記載されている。

さらに、上記周知の含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層は、無機繊維の織布または不織布に熱硬化性樹脂を含浸させた複合体からなる強化層の表面が実質的に平坦でない(即ち、凹凸形状を有する)場合であっても、強化層に接していない表面は平坦に形成できること、並びに、加熱加圧により、強化層および配線回路層とを一体化できることは、当業者にとっては明らかである。
そうすると、引用例1発明における、両面配線板の表面配線パターン面は平坦であることが求められているのであるから、接着剤層を両面に有する耐熱性樹脂フィルムに代えて、含浸熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層を適用することは当業者ならば容易に想到し得ることである。

そして、本願補正発明1の奏する効果も、引用例1の記載事項、および上記周知の事項から予測することができる程度のものであって、格別顕著であるとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1に記載された発明、および上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定によって読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成16年12月3日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成16年9月16日付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】熱硬化性樹脂と無機繊維の織布または不織布との複合体からなる強化層の両面に前記熱硬化性樹脂を主体とする樹脂層が形成されてなる絶縁基板と、該絶縁基板に設けられたスルーホール内に少なくとも金属粉末を充填してなるスルーホール導体と、該スルーホール導体の少なくとも一端に形成され且つ前記絶縁基板表面に埋設されてなる金属箔からなる配線回路層とを具備してなり、前記樹脂層の平均厚さをX、前記配線回路層の平均厚さをY、前記ビアホール導体の最大径をZとした時、
Y/X ≦ 0.9
Z/X ≧ 1
の関係を満足することを特徴とするプリント配線基板。」
ただし、上記「前記ビアホール導体」は、「前記スルーホール導体」の誤記と認められるから、上記「前記ビアホール導体」は「前記スルーホール導体」と見なして、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明1を特定するために必要な事項を全て含み、さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1は、前記「II.3.」に記載したとおり、引用例1に記載された発明、および上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由で、引用例1に記載された発明、および上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-09 
結審通知日 2007-08-17 
審決日 2007-08-30 
出願番号 特願平11-276863
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 落合 弘之長屋 陽二郎  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 小川 武
正山 旭
発明の名称 プリント配線基板  

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