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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1165526
審判番号 不服2005-24267  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-15 
確定日 2007-10-11 
事件の表示 平成 8年特許願第321025号「軸受用軌道輪」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月26日出願公開、特開平10-141379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成8年11月15日の出願であって、平成17年11月8日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年12月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年1月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年1月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年1月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
プレス成形された鋼製軌道輪であって、
その表面に、平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した硬い窒化層が形成されたことを特徴とする軸受用軌道輪。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、出願当初の明細書の記載に基づき、軸受用軌道輪の表面に形成する窒化層について「むらなく」及び「積層した」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭46-2705号公報(以下、「刊行物1」という。)には、外側支持のために壷形の質量のあるケースを備えた自在継手の十字ジャーナル支承用のローラ軸受に関して、下記の事項ア?オが図面とともに記載されている。
ア;「(1)外側支持のために壷形の質量のあるケースを備えた、特にロール用自在継手の十字ジヤーナル支承用ローラ軸受に於て、外レースウエイをケース(7)内に押込んだ板金スリーブ(5)の内壁に備え、前記スリーブの端部をローラ(4)用の案内縁(6)として使用することを特徴とするローラ軸受。
(2)板金ケース(5)が僅かな硬化深さを示すように窒化処理されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のローラ軸受。」(第1頁左下欄5行?14行;特許請求の範囲)

イ;「又、ニードル軸受のローラの環のための外レースウエイを円筒状板金スリーブの内壁に備え、前記スリーブがローラの環を軸線方向内で鍔付きのスラスト側縁で両側から案内する如き構成のものは既知である。」(第1頁右下欄10行?14行)

ウ;「本発明は、新規なローラ軸受の外レースウエイを質量のあるケース内に押込んだ板金スリーブの内壁に備え、前記板金スリーブの端部をローラ用の案内側縁として使用することにより既知のニードル軸受に存した課題を解決しようとするものである。」(第1頁右下欄19行?第2頁左上欄4行)

エ;「本発明によれば板金ケースを硬化することだけを必要とする。このことは質量のあるケースの熱処理に要するよりも実質的に僅かな費用をもつて達し得られるのである。特に板金スリーブは窒化処理糟内で、小さな硬化深さを得るように窒化処理することができる。従つて、前記スリーブの材料は心部が弾力性を有したままとなつているのに対して、その表面では磨滅の少い走路に必要な硬度を有することができる。」(第2頁左上欄10行?18行)

オ;「前記ローラの環4のための外レースウエイは絞り加工した板金スリーブ5の内周面により構成される。前記スリーブの鍔付き端部6はローラの環4を軸線方向の両側で保持する。板金スリーブ5自体は壷形の質量のあるケース7内に支持される。」(第2頁右上欄17行?左下欄2行)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?オ及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明が記載されているものと認めることができるものである。
「絞り加工した板金スリーブ5から成る外レースウエイであって、その表面に僅かな硬化深さを示すように窒化処理された外レースウエイ。」

<刊行物2>
同じく引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-54123号公報(以下、「刊行物2」という。)には、鋼の表面に窒化層を形成して耐摩耗性等を向上させる鋼の窒化方法に関して、下記の事項カ?ケが図面とともに記載されている。
カ:「【従来の技術】耐摩耗性、耐食性、疲労強度等の機械的性質を向上させる目的で、鋼の表面に窒化物の層を形成する窒化法あるいは、浸炭窒化法として従来使用されてきた方法は次のようなものである。
(イ)NaCN、KCNO等のシアン系溶融塩による方法(タフトライド法)
(ロ)グロー放電による窒化(イオン窒化)
(ハ)アンモニアまたはアンモニアと炭素源を有するガス(例えばRXガス)との混合ガスによる窒化(ガス窒化、ガス軟窒化)
これらのうち、(イ)の方法は、有害な溶融塩を用いるので作業環境、廃棄物処理等の点で将来的に好ましくない。また、(ロ)の方法は、低真空のN2+H2雰囲気中でグロー放電により窒化するもので、スパッタリングに伴う清浄化作用により酸化皮膜の影響は少なくなるが、局部的な温度差による窒化ムラが発生しやすい。また、この方法は、処理物の形状寸法に制約が大きく、コスト高となるという問題点がある。さらに、上記(ハ)の方法は、窒化ムラが生じやすい等、処理の安定性に問題があり、しかも深い窒化層を得るためには長時間を要するという問題点もある。」(第2頁1欄12行?32行;段落【0002】及び【0003】参照)

キ;「【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑み、窒化処理前洗浄後の残存有機無機異物や、被処理物の酸化皮膜による窒化ムラ等の発生を効果的に解消すること、およびこの目的を達成するため、処理プロセス上シンプルなシステムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、この発明の鋼の窒化方法は、鋼の表面に窒素を反応させて硬質の窒化層を形成する鋼の窒化方法において、鋼を予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成するという構成をとる。ここで、窒化方法とは、浸炭窒化法、酸窒化法、浸硫窒化法等の各種窒化法を包含する。
本発明で使用されるフッ素含有反応ガスとしては、例えばNF3,BF3,CF4,SF6,F2等のフッ素化合物もしくはフッ素を含むハロゲンガスがある。これらフッ素化合物のうち、反応性、取扱い性等の面でNF3が最も優れており、実用的である。上記フッ素化合物を含有する反応ガス雰囲気下で鋼の被加工物を例えばNF3の場合150?350℃の温度に加熱保持し、被加工物を表面処理した後、公知の窒化用ガス、例えばアンモニアを用いて窒化処理(または浸炭窒化処理)を行うのである。フッ素を含む反応ガス雰囲気のフッ素化合物濃度は例えば1000?10000ppmであり、該雰囲気中での保持時間は、鋼種、ワークの形状寸法、加熱温度等に応じて適当な時間を選べばよく、通常は十数分?数十分である。」(第2頁2欄22行?49行;段落【0007】?【0009】参照)

ク;「上記本発明の操作プロセス上の大きな特徴の一つは、フッ化膜を形成させる反応ガスとしてのNF3のような常温で反応性がなく、ガス状の取扱い易い物質を用いることにより、メッキ処理や固体のPVC液体の塩素源を用いるなどの方法に比べて処理が連続操作となるなどプロセスがシンプルな点にある。タフトライド方式は、窒化層の付き廻り性や疲労強度の向上への効果等ですぐれた方法といえるが作業環境、公害設備等への大きな費用がかかる点で将来にひらけた方法とはいえない。上記プロセスでは処理廃ガスを除害化するための簡易な装置だけで充分であり、タフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラの排除が可能となるほか、タフトライド方式が浸窒と同時に浸炭も進行するのに比べて、純窒化のみも可能である。」(第3頁3欄50行及び4欄14行?26行;段落【0017】参照)

ケ;「【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明の窒化方法は従来のガス窒化、ガス軟窒化を改良するもので、均一な窒化層を迅速に得ることが可能となった。また、鋼種、加工段階、前処理状態等の如何にかかわらず良好な窒化層を得ることができ、穴やスリットを有する部品でも窒化が可能である。さらに、オーステナイト系ステンレス鋼のような窒化困難な鋼種に対しても、容易に窒化できる等の利点がある。」(第4頁6欄13行?20行;段落【0028】参照)

刊行物2に記載された上記記載事項カ?ケ及び図面の記載からみて、刊行物2には鋼の窒化方法の発明に関して、下記の技術的事項が記載されているものと認めることができるものである。
技術的事項1;鋼の表面に窒素を反応させて硬質の窒化層を形成する鋼の窒化方法において、鋼を予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成するという構成をとれば、タフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラの排除が可能となるほか、タフトライド方式が浸窒と同時に浸炭も進行するのに比べて、純窒化のみも可能であること。

技術的事項2;本発明(刊行物2に記載の特許請求の範囲に係る発明)の窒化法は従来のガス窒化、ガス軟窒化を改良するもので、均一な窒化層を迅速に得ることが可能となり、また、鋼種、加工段階、前処理状態等の如何にかかわらず良好な窒化層を得ることができ、穴やスリットを有する部品でも窒化が可能であり、さらに、オーステナイト系ステンレス鋼のような窒化困難な鋼種に対しても、容易に窒化できること。

(3)対比・判断
刊行物1に記載された発明の自在継手の十字ジャーナル支承用ローラ軸受の各部材の奏する機能に照らせば、刊行物1に記載された発明の「絞り加工した板金スリーブ5(外レースウエイ)」は本願補正発明の「プレス成形された鋼製軌道輪」に機能的に相当し、また、刊行物1に記載された発明の「板金スリーブ5(外レースウエイ)の表面に僅かな硬化深さを示すように硬化処理で形成される窒化層」は本願補正発明の「軸受軌道輪の表面に形成された硬い窒化層」に機能的に相当するものと認めることができるものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「プレス成形された鋼製軌道輪であって、その表面に硬い窒化層が形成された軸受用軌道輪。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願補正発明では、軸受軌道輪の表面に形成された硬い窒化層が、平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層したものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、板金スリーブ5(外レースウエイ)の表面に形成された硬い窒化層が上記本願補正発明のような窒化層の構成を有するものであるかどうか不明である点。

上記相違点について検討するに、本願補正発明においてプレス成形された鋼製軌道輪の表面に形成する硬い窒化層を「平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した」ものとしたことの技術的意義について本願補正明細書の記載及び図面を参酌して検討しても、鋼製軌道輪の表面に形成する窒化層の形成方法として従来周知のタフトライド法に代えて上記刊行物2に記載されたような鋼の窒化方法(フッ化処理の後に窒化処理を行う方法)を採用して形成した窒化層の構造を意味するにすぎないものであって、「平均粒子径が1μm以下」と規定したことに格別臨界的意義を認めることができないばかりでなく、「窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した」ことも上記刊行物2に記載された鋼の窒化方法によって形成される「被処理物の酸化皮膜による窒化ムラ等の発生を効果的に解消して形成した均一な窒化層」(上記摘記事項(キ)及び(ケ)を参照)を実質的に意味するものであって、何ら格別な窒化層構成を意味しているものとは認めることができないものである。
そして、刊行物2に記載された鋼の窒化方法を刊行物1に記載された発明のローラ軸受の板金スリーブ5の表面の窒化処理方法に採用することを妨げる格別の事情がないことは、当業者であれば、普通に理解できる事項にすぎないものである。
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された上記事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の板金スリーブ5の表面の窒化処理方法として上記刊行物2に記載された発明の鋼の窒化方法(フッ化処理の後に窒化処理を行う方法)を採用して板金スリーブ5の表面に酸化皮膜による窒化ムラ等の発生を効果的に解消して形成した均一な窒化層(本願補正発明でいうところの「平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した窒化層」に実質的に相当)を形成することにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、上記刊行物1及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ところで、請求人は、審判請求書中で「本願請求項1の発明の構成B(その表面に、平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した硬い窒化層が形成されたこと)については、引用文献1(上記刊行物1),2,3(上記刊行物2)のいずれにも記載はありません。」(平成18年1月13日付け手続補正書(方式)の[3]本願発明が特許されるべき理由の4.本願請求項1の発明と各引用文献との対比の項参照)旨主張している。

しかしながら、刊行物1に記載された発明では、板金スリーブ5の窒化処理方法には周知の各種の窒化処理方法を採用することができるものであって、刊行物2に記載されたような鋼の窒化処理方法を採用することを妨げる格別な事情は認めることができないものであって、適宜採用することができるものであることは上記のとおりである。
そして、本願補正発明において鋼製軌道輪の表面に形成する硬い窒化層を「平均粒子径が1μm以下の窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した」こととすることの技術的意義について検討しても、従来周知のタフトライド法に代えて刊行物2に記載された鋼の窒化方法(フッ化処理の後に窒化処理を行う方法)を採用して形成した窒化層の構成を意味するにすぎないものであって、「平均粒子径が1μm以下」と規定したことに格別臨界的意義を認めることができないばかりでなく、「窒化物が緻密かつむらなく均一に積層した」ことも上記刊行物2に記載された鋼の窒化方法によって形成される「被処理物の酸化皮膜による窒化ムラ等の発生を効果的に解消して形成した均一な窒化層」を実質的に意味するものであって、何ら格別な窒化層の構成を意味するものとは認められないものであることも上記のとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本願補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年1月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年5月13日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】
プレス成形された鋼製軌道輪であって、
その表面に窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密かつ均一な硬い窒化層が形成されたことを特徴とする軸受用軌道輪。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭46-2705号公報(上記刊行物1)及び特開平7-54123号公報(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項から、「むらなく」及び「積層した」との限定を省いたものに実質的に相当するものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-08 
結審通知日 2007-08-14 
審決日 2007-08-27 
出願番号 特願平8-321025
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨岡 和人鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 大町 真義
礒部 賢
発明の名称 軸受用軌道輪  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 川崎 実夫  

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