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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1165580
審判番号 不服2004-16517  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-06 
確定日 2007-10-09 
事件の表示 平成 8年特許願第 88021号「電子写真装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 4月28日出願公開、特開平 9-109458〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年4月10日(優先権主張平成7年8月11日)の出願であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成16年1月16日付け及び平成19年6月15日付け手続補正により補正された明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりの以下のものと認められる。

【特許請求の範囲】
「【請求項1】
複数本のレーザ光を発生する光源と、前記光源から発生した複数本のビームを変調する変調器と、前記変調器を通過したビームを偏向走査する回転多面鏡と、光軸上に固定された固定レンズとを有し、前記複数本のビームを感光体上に結像する電子写真装置において、前記複数本のビームは前記回転多面鏡による走査方向に対して角度θを有して前記感光体上に照射され、前記固定レンズの前段位置および/または後段位置の前記光軸に対し進退自在に支持するレンズユニットを設け、該レンズユニットと前記固定レンズでレンズ群を構成し、前記レンズ群から出射される光は平行光となるように前記レンズユニットは少なくとも2枚の単レンズから構成され、前記レンズユニット全体を光軸に対し進退動作させるためのレンズユニット駆動機構を備え、前記光軸上における前記レンズユニットの有無により複数本のビームのスポット径と各走査線のピッチ間隔を切り換えるとともに、前記変調器の変調クロック周波数と前記回転多面鏡の回転数を切り換える制御手段とを有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項2】
前記レンズユニットを光軸上に挿入することにより、前記固定レンズからのビームのスポット径をh倍に変更したとき、前記回転多面鏡の回転数をh倍、前記変調器の変調クロック周波数をh2倍にそれぞれ変更することを特徴とする請求項1記載の電子写真装置。
【請求項3】
前記固定レンズを、前記回転多面鏡に対しビーム進行方向前段に配置したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子写真装置。」
(以下、本願請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)

2.引用刊行物
これに対して、当審における、平成19年4月25日付けで通知した拒絶の理由に引用した本願の優先権主張の日前に頒布された各刊行物には、以下の記載事項が認められる。

2-1 刊行物1:特開昭60-169820号公報
(特許請求の範囲)
「(1) レーザー光源、該レーザー光源からのレーザー光ビームを、後段の光軸上に適宜配置し得るよう構成された受光素子により検出し、該受光素子からの検出信号に応じて光量制御するための光量調整部、該光量制御されたレーザー光ビームを、複数本のレーザー光ビームに分割するためのビームスプリッタ、該分割された複数本のレーザー光ビームを、画像信号に応じて、それぞれ独立に変調し得るよう構成された多チャンネル型音響光学光変調素子、該変調された各レーザー光ビームのビーム間ピッチを調整するべく配置されたズームレンズ式のビームコンプレッサ、及び該ビームコンプレッサからの各レーザー光ビームを集光し、記録面上に微小光点を形成するよう配置された結像レンズから成る画像走査記録装置の記録ヘッド。
(2) ズームレンズ式ビームコンプレッサを、ズームレンズ、および該ズームレンズと焦点を共有する凸レンズの組合わせで構成した特許請求の範囲第(1)項に記載の画像走査記録装置の記録ヘッド。」

1頁右下欄7?11行「(産業上の利用分野)
本発明は、カラースキャナ等のように、光変調されたレーザー光ビームにより、所望画像を記録するための画像走査記録装置に関し、さらには画像走査記録装置の記録ヘッドの構成に関する。」

2頁右上欄2?15行「(発明の構成)
本発明に係る装置は、並列的な複数本のレーザー光ビームを、音響光学光変調手段により、画像信号に応じて、それぞれ独立に変調制御することにより、所望の複製画像を記録するようにした画像走査記録装置において、画像信号に応じて光変調されたレーザー光ビームを、ズームレンズを使用したビームコンプレッサにより、該光ビームのビーム間ピッチを所要の寸法に変換し、そのビームコンプレッサからの出力光ビームを、所要の結像レンズを介して集光するとともに、結像レンズの焦点位置付近、望ましくはビームウエスト位置に、記録面を設定した構成としたことを特徴としている。」

2頁右上欄19行?左下欄3行「第1図は、レーザー光源(1)から放射されるレーザー光ビームで、画像記録面、たとえばカラースキャナの記録ドラム(2)に装着された感光材料(2a)上に、所望の複製画像を記録するようにした画像走査記録装置の記録ヘッドの構成を示している。」

2頁右下欄16行?3頁左上欄15行「(11)は、光変調された複数本のレーザー光ビーム(6)のビーム間ピッチを可変制御するためのビームコンプレッサで、第2図に示す如く、レンズ系の主点が(12a)で示されたズームレンズ(12)と、凸レンズ(13)とによつて構成されている。このビームコンプレッサ(11)では、第2図の実線で示すように、入射光線の光路が形成され、複数本の平行に入射するレーザー光ビーム(6)の各ビーム間のピッチを、次に説明するように、無段階に調整できるようになっている。
次にそれについて説明する。まず、ズームレンズ(12)に入射した平行光ビーム(61)(62)…は、凸レンズ(13)との間の光軸上で集光され、両レンズ(12)(13)の焦点(f12)(f13)が共通になるよう配置された凸レンズ(13)から、所要のビーム間ピッチおよびビーム径で、再び平行に放射される。ここで、第2図に示すように、上記ズームレンズ(12)では、そのレンズ系の主点を、(12a)から(12a')に移動することによつて、各レーザー光ビーム(61)(62)…間のピッチおよびビーム径が変更されることがわかる。」(第2図参照)

4頁左上欄11?19行「(発明の効果)
本発明に係る画像走査記録装置の記録ヘッドにおいては、所要の走査線数に応じて、複数本の平行レーザー光ビーム間ピッチを可変する場合に、従来のように、マスク板のアパーチャの像をプリズム等の光学的手段で、平行レーザー光ビームを傾ける必要がなく、ビームコンプレッサを構成するズームレンズを調整するだけで良いため、走査線数の切換え操作が簡便になる。」

前記記載にあるように、当該刊行物1記載の画像走査記録装置においては、並列的な複数本のレーザー光ビームを、音響光学光変調手段により、画像信号に応じて、それぞれ独立に変調制御されることから、「複数本のレーザ光を発生する光源」と、「前記光源から発生した複数本のビームを変調する変調器」とを備えている。
そして、当該刊行物1記載の画像走査記録装置においては、変調された各レーザー光ビームのビーム径およびビーム間ピッチを調整するべく配置されたズームレンズ式のビームコンプレッサ、及び該ビームコンプレッサからの各レーザー光ビームを集光し、記録面上に微小光点を形成するよう配置された結像レンズとを備えることから、変調器を通過したビームを光走査するに際し、「光軸上に位置されたレンズ」を有し、「前記複数本のビームを記録面上に結像するように構成されている」といえる。
また、当該刊行物1記載の画像走査記録装置は、感光材料を装着された記録面にビームコンプレッサからの出力ビームを導くことで、画像形成が行われることからして、前記変調器を通過したビームを記録面(感光体)へ光走査する手段を当然に有しているといえる。

してみると、当該刊行物1には、以下のものが記載されている。
「複数本のレーザ光を発生する光源と、前記光源から発生した複数本のビームを変調する変調器と、前記変調器を通過したビームを光走査する手段と、光軸上に固定されたビームコンプレッサ(レンズユニット)とを有し、前記複数本のビームを記録面(感光体)上に結像する画像走査記録装置において、前記ビームコンプレッサは、
マルチレーザビームのピッチを縮小させる縮小光学系であるズームレンズ12(通常複数の単レンズから構成される)と、凸レンズ13(固定されている)とを結像レンズ14に対して常に平行光を出力させるように配置され、該結像レンズ14の焦点位置は固定したままとして、ズームレンズ12の光学系の主点を調整することにより、前記複数本のビームのビーム径、及び所要の走査線数に応じて前記複数本のビームのピッチ間隔を切り換えるとともに、前記変調器の変調クロック周波数を切り換える制御手段とを有する画像走査記録装置。」
以下、「刊行物1記載発明」という。

2-2 刊行物2:特開平05-212899号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】以下の要素を有するレーザープリンタ装置(a)レーザビーム光を発生するレーザー光源、(b)上記レーザー光源から発生されたレーザービーム光を用いて所定の経路をもつレーザー光路を形成するレーザー光路形成手段、(c)上記レーザー光路形成手段により形成されたレーザー光路の所定の位置に設けられ、レーザービーム光のビーム径を変更する径変更手段。」

段落【0005】「【発明が解決しようとする課題】従来のレーザープリンタ装置は以上のように構成されているのでスリットの形状やコリメータレンズの位置決めに高精度な加工をしなければならず、しかも組立を精度良くすることが必要で、またビーム径が安定しないなどの問題点があった。」

段落【0006】「この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、印字において高速度印字の場合は大きなスポット径でレーザー光を照射させ、高密度印字の場合は小さなスポット径でレーザー光を照射させることができるとともに、容易にしかも簡単な構造でスポット径を変えることができるレーザープリンタ装置を得ること目的とする。」

段落【0012】「図1において、レーザープリンタ装置は、光源として、半導体レーザー1からレーザービーム光が照射され、ビーム絞りレンズ10でビーム径を絞り、ポリゴンミラー3にて、感光体ドラム4の軸方向に走査される。ポリゴンミラー3にて走査されたレーザービームは、5のレンズAを通り、6のレンズBを通過して、反射ミラー7に導かれる。そのビームが感光体ドラム4に照射されて潜像を感光体ドラム4上につくるようになっている。ビーム径調整レンズ11は例えば、ビーム絞りレンズ10でビーム径を高密度印字に適した小さいビームとしている時は、ビーム径調整レンズ11を挿入することによりビームをひろげるよう作用させて高速印字が実現できるようにする。この例ではビーム径調整レンズ11にソレノイド12を係合させて、ビーム径調整レンズ11を光軸に挿入したり、光軸外に退避させたりするようになつている。」

段落【0013】「このような構成になっているので、高密度印字をするときは、ソレノイド12の動作でビーム径調整レンズが退避して小さなビーム径となり、高密度な印字がなされる。高速度印字をするときはソレノイド12が非動作となり、図示しないバネの働きでビーム径調整レンズ11が挿入されて高速印字に適した比較的大きなビーム径にするようにして高速印字がなされる。」

段落【0014】「上記説明ではビーム径調整レンズ11を挿入することによりビームをひろげるように説明したが、ビーム絞りレンズ10でビーム径を高速度印字に適した径としておき、ビーム径調整レンズ11を挿入することによりビームを絞るようにしたものであっても、この発明が実施できることは明白である。」

これらの記載からみて、当該刊行物2には、半導体レーザおよびポリゴンミラー間の光路に対して挿脱自在なレンズを設け、光路に対する前記レンズの退避/挿入によって高密度印字用のビーム径と、高速度印字用のビーム径とを切り換える構成が開示されている。

2-3 刊行物3:特開平6-208068号公報
段落【0006】「アフォーカルビームエクスパンダでは、各倍率が大きいと出射ビームのビーム径は小さくなる。また、ガウシアンビームの特性から、走査レンズ通過後の感光媒体面上におけるビーム径は、走査レンズ通過前のビーム径に依存して変化する。従って、感光媒体面上におけるビーム径は、アフォーカルビームエクスパンダからのビームの出射角度に依存して変化することになる。そのため、アフォーカルビームエクスパンダを用いてビーム間隔を変更する光学走査装置では、解像度を切り換えたときに、ビーム間隔とビーム径とが同時に変更される。」

3.対比・判断
3-1 本願発明1について
3-1-1 対比
本願発明1と刊行物1記載発明とを対比すると、レーザ光からなるビームを光走査するための機構を備えた画像走査記録装置である点において、本願発明の「電子写真装置」と刊行物1記載発明の「画像走査記録装置」とは共通する。
そして、本願発明1の「前記変調器を通過したビームを偏向走査する回転多面鏡」と、刊行物1記載発明の「前記変調器を通過したビームを光走査する手段」 とは、いずれも、「前記変調器を通過したビームを光走査する手段」である点において共通している。
さらに、本願発明1の「レンズユニット」と刊行物1記載発明の「ビームコンプレッサ」とは、いずれもレーザ光からなるビームの光軸上に存在させられるレンズ構成(レンズユニット)であって、少なくとも、複数本のビームのビーム径(「スポット径」とも呼ばれる。)及びビーム走査線のピッチ間隔を切り換えるために用いられている点において共通している。
そして、本願発明1の「固定レンズ」と刊行物1記載発明の「凸レンズ13(固定されている)」は、各々前記本願発明1の「レンズユニット」あるいは刊行物1記載発明の「ビームコンプレッサ」と協働してレンズ群を構成している点で共通している。
また、本願発明1の「感光体」と刊行物1記載発明の「記録面」とは、いずれも記録を行う対象物である点において共通している。
よって、両者は以下の点で一致する一方、以下の点で相違している。

<一致点>
「複数本のレーザ光を発生する光源と、前記光源から発生した複数本のビームを変調する変調器と、前記変調器を通過したビームを光走査する手段と、光軸上に固定されたレンズユニットとを有し、前記複数本のビームを記録面上に結像する画像走査記録装置において、前記レンズユニットを調整することにより、前記複数本のビームのビーム径、及び所要の走査線数に応じて前記複数本のビームのピッチ間隔を切り換えるとともに、前記変調器の変調クロック周波数を切り換える制御手段とを有する画像走査記録装置。」

<相違点1>
本願発明1では、電子写真装置において、「変調器を通過したビームを光走査する手段」として、「回転多面鏡」が用いられているものであると特定されているのに対して、刊行物1記載発明では、前記特定がない点。

<相違点2>
本願発明1では、「前記複数本のビームは前記回転多面鏡による走査方向に対して角度θを有して前記感光体上に照射され、」なる特定がなされるのに対して、
刊行物1記載発明では、複数本のビームに関して前記特定がなされていない点。

<相違点3>
本願発明1では、光軸上に固定された固定レンズが存在し、これと協働するものとして「レンズユニット」が存在しており、
「前記固定レンズの前段位置および/または後段位置の前記光軸に対し進退自在に支持するレンズユニットを設け、該レンズユニットと前記固定レンズでレンズ群を構成し、前記レンズ群から出射される光は平行光となるように前記レンズユニットは少なくとも2枚の単レンズから構成され、前記レンズユニット全体を光軸に対し進退動作させるためのレンズユニット駆動機構を備え、」なる特定がなされているのに対して、
刊行物1記載発明では、レンズユニットに相当するビームコンプレッサは、マルチレーザビームのピッチを縮小させる縮小光学系であるズームレンズ12(通常複数の単レンズで構成される)と、凸レンズ13(固定されている)とを結像レンズ14に対して常に平行光を出力させるように配置されるものであるが、前記特定のものとは異なる点。

<相違点4>
本願発明1では、「前記光軸上における前記レンズユニットの有無により複数本のビームのスポット径と各走査線のピッチ間隔を切り換えるとともに、前記変調器の変調クロック周波数と前記回転多面鏡の回転数を切り換える制御手段とを有する」と特定されるのに対して、
刊行物1記載発明では、ビームコンプレッサがマルチレーザビームのピッチを縮小させる縮小光学系であるズームレンズ12(通常複数の単レンズで構成される)と、凸レンズ13(固定されている)とを結像レンズ14に対して常に平行光を出力させるように配置したものであって、該結像レンズ14の焦点位置は固定したままとして、ズームレンズ12の光学系の主点を調整することにより、前記所要の走査線数に応じて、複数本のビームのピッチ間隔を切り換えるとともに、前記変調器の変調クロック周波数を切り換える制御手段とを有するものの、レンズユニットの有無によって、複数本のビームのスポット径と各走査線のピッチ間隔を共に切り換えるものではなく、また、回転多面鏡を用いるものでない故に、変調器の変調クロック周波数とビームを偏向走査する手段の制御を行うものとの記載はなく、前記特定を備えていない点。

3-1-2 相違点に係る判断
〈相違点1について〉
相違点1について検討するに、刊行物1においては、電子写真方式のものであるか否かについて明記はないものの、当該電子写真装置は半導体レーザーを記録面に光走査して記録する画像走査装置の一形態であるから、この点により格別の差異があるものとはいえない。
また、前記刊行物2にみられるように、半導体レーザを記録面に光走査するに際して、ポリゴンミラー、すなわち回転多面鏡を用いた偏向走査を行うことは、電子写真装置を含めてレーザー光を用いた画像走査記録装置における周知の技術手段であって、このような回転多面鏡を用いた走査を採用することにより格別な特徴があるものとはいえない。

〈相違点2について〉
当該相違点2は、今回の補正により新たに加入された特定であって、請求人自身は、本願明細書のいずれの箇所の記載に基づくものかを明示していないが、本願明細書の段落【0017】においては、図5あるいは図6を参照して、「複数本のビームを走査方向に対して角度θだけ傾けて一括走査する場合」の説明があり、ここに記載根拠のある特定と認められる。
しかしながら、複数本のビームをもって走査するに際して、このように走査方向に対してある角度傾け、副走査方向成分を基準ピッチに調整して、倍率の自由度すなわち光学系や機構系の設計の自由度を確保することは従来から慣用されていること(必要ならば特開平7-27988号公報、特開平5-93878号公報あるいは特開昭56-42248号公報等参照)であって周知の技術手段に相当し、当該特定を加えることは当業者であれば必要に応じて適宜に採用し得た程度のことと認められる。

〈相違点3について〉
相違点3について検討するに、刊行物1記載発明のようにズームレンズを用いる場合と、本願発明1のように複数のレンズの組合せ構成を光軸に対して直交する方向の出退により取り換える場合では、両者の基本的レンズ構成が異なることは理解できるものの、既に、ズームレンズにより焦点を異ならせることで、ビーム径及びビーム間隔を変更する原理が知られているのであってみれば、すなわち、ズームレンズを利用する以前を想定すれば、焦点距離変更手段は、求められる焦点距離用にレンズを種々組み合わせたものを複数用意して、これらを取り換えて使用することがむしろ普通であったことに照らせば、単レンズを組合せること、また、組み合わせるレンズを取り換え自在とする程度の発想は当業者であれば容易に想到し得る程度のものである。
また、仮に、このようになすことが従来行われていなかったとすれば、何らかの不都合(たとえば、光軸に対して直交する方向での出退を行った場合に、光軸ズレが発生することを防止することが困難である等)が存在していたことが予想される。
すると、そのような不都合を回避する構成が提言されているのであれば、当該構成の格別な特徴について検討を要するともいえるが、本願各発明においては、単に「前記レンズユニット全体を光軸に対し進退動作させるためのレンズユニット駆動機構を備え、」なる「光軸に対し進退動作させる」ことの基本概要としての特定があるのみで、前記したような不都合を回避し得る特定の構成に該当するようなものが明示的に特定されているものではない。
よって、少なくとも2枚の単レンズから構成されたレンズユニットを、ズームレンズに代えて採用することは、当業者であれば、設計に際していずれかを適宜に採用し得た程度のことといわざるを得ない。
さらに、前記刊行物3の段落【0006】記載を参照するに、ビームコンプレッサと呼び得る「アフォーカルビームエクスパンダ」を用いた場合には、解像度の切り換えに際して、ビーム間隔とビーム径とを同時に変更可能であるとされ、これも、当業者であれば技術常識に属することであるし、前記刊行物3の段落【0004】記載のように、この「アフォーカルビームエクスパンダ」は、「光軸に平行に入射した近軸光線が光軸に平行に射出されるような光学系」をいうのであって、相違点3に抽出した「レンズ群から出射される光は平行光となるように」なる機能を備えているものである。
すると、ビームコンプレッサを少なくとも2枚の単レンズから構成されたレンズユニットに代える際に、レンズ群から射出される光が平行光となるようにすることも周知の技術手段であって、当業者が容易に採用し得た程度のことである。
また、所要解像度を得るためにビーム径のみを切替える目的であるものの、刊行物2には固定焦点といえる単レンズを光軸に対し進退動作させるものが記載されていることからして、「光軸に対し進退動作させる」構成自体についても、当業者であれば必要に応じて適宜に採用し得たことといえる。
してみるに、相違点3に係る構成を採用することは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得た程度のことである。

〈相違点4について〉
最後に、相違点4について検討する。
前記刊行物2においては、光路に対する前記レンズの退避/挿入によって高密度印字用のビーム径と、高速度印字用のビーム径とを切り換える構成が開示されている。
そして、このように解像度を切り換える場合には、走査速度もこれに応じて変更すべきであって、このために必要となる変調クロック周波数の切り換えのみならず偏向走査手段の作動をも切り換えなければならないことは技術常識に属することであるから、これらが連動して切り換えられるように構成することは、解像度を切り換えるに際して、当然に求められることである。
してみれば、相違点1に抽出したように、刊行物1記載発明においては、「回転多面鏡」を用いることの特定がないとしても、当該「回転多面鏡」は走査手段として慣用されるものであるから、これを採用するに際して、用いられるレーザビームを生成する変調器の変調クロック周波数と当該「回転多面鏡」の周波数を共に切り換えるための制御手段を要することは技術常識であって、相違点4は、当業者が必要に応じて適宜に採用し得た程度のことである。

3-1-3 まとめ
以上を総合すれば、各相違点に係る本願発明1の構成は、周知の技術手段を採用したものであって、当業者にとって想到容易な構成でしかないといわざるを得ず、それらにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものでしかない。

請求人は、平成19年6月15日付け意見書において、刊行物1におけるズームレンズ構成が、光軸方向の移動でスポット径を変える技術思想であり、ズームレンズの場合には無段階(多段)切り替えやレンズ退避空間を必要としない利点を有するものの、本願明細書で指摘するように、構成が複雑であること、また、刊行物2の段落【0004】にあるように、「距離の僅かな違いや光軸のズレによりビームが安定しない」という問題点もあるので、本願発明1におけるように、「少なくとも2枚の単レンズから構成されたレンズユニット」を採用することで、簡単な構成でビームピッチおよびビーム径を可変させるメリットが生まれると主張する。
なるほどズームレンズが焦点変更の動作機構をも含むものであって、この動作機構に所定の精度を要することは認めるが、他方、固定焦点のレンズ構成を取り換え自在にするためにはレンズ構成自体に動作する箇所が存在しないとしても、光軸方向に対して進退動作させる駆動機構が別途必要となるのであってみれば、必要な光学的精度を期待する上で動作機構あるいは駆動機構の両者に求められる精度に違いがあるものとはいえない。
むしろ、刊行物2には、ズムーレンズを用いることに代えて固定焦点のレンズ構成を用いることの示唆があるのであって、刊行物1記載発明におけるズームレンズを固定焦点のレンズ構成に取り換えようとする動機付けが示されているといえる。
そして、この光学的基本機能を同じくする手段のいずれを採用するかは、当業者が設計段階において総体としてのメリット・デメリットを検討して適宜の手段を採用することが常であることからして、ズームレンズのデメリットのみを強調する請求人主張が、ズームレンズを用いることに代えて固定焦点のレンズ構成を採用することの困難さの論拠にはならない。

したがって、本願発明1は、刊行物1ないし3記載の発明及び周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1ないし3記載の発明及び周知・慣用の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-16 
結審通知日 2007-08-17 
審決日 2007-08-28 
出願番号 特願平8-88021
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
島▲崎▼ 純一
発明の名称 電子写真装置  

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