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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1165592
審判番号 不服2005-18754  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-29 
確定日 2007-10-09 
事件の表示 特願2001-338367「エチレン系重合体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月14日出願公開、特開2003-138071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年11月2日の出願であって、平成17年5月27日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年8月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成17年8月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年9月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年1月18日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

II.本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成17年8月5日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、請求項1?4には次のとおり記載されている。
「【請求項1】 エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー(A1)を主成分とし、これとオレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体(A2)を含む組成物(A)100重量部当たり、アルキルスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合成分(B)を0.1?10重量部配合してなるエチレン系重合体組成物。
【請求項2】 組成物(A)に、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー(A1)及びオレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体(A2)以外にポ
リオレフィン(A3)を配合してなる請求項1記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項3】 (A1)成分が、中和度5?80%のアイオノマーである請求項1又は2記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項4】 オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体(A2)における不飽和エポキシモノマーが、不飽和グリシジルエステルである請求項1?3のいずれかに記
載のエチレン系重合体組成物。」(以下、「本願発明1」?「本願発明4」という。)

III.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は、
「この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1?2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。



引用文献
1.特開2001-261906号公報
2.特開昭60-86141号公報」
というものである。
以下、上記引用文献1、2をそれぞれ「刊行物1」、「刊行物2」という。

IV.当審の判断
前記拒絶の理由が妥当であるか否かについて検討する。
1.刊行物に記載の事項
(1)刊行物1(特開2001-261906号公報)に記載の事項
(1-1)
「【請求項1】 エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基が金属イオンで5?80%中和されてなるアイオノマー(A)50?94.5重量部、グリシジル(メタ)アクリレート又はグリシジル不飽和エーテルを含有するエチレン及び/又はα-オレフィン共重合体、あるいはさらにビニルエステル又は不飽和カルボン酸エステルを含有する三元共重合体(B)0.5?10重量部及びポリオレフィン(C)5?40重量部からなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】 アイオノマー(A)における金属イオンの少なくとも一部が2価金属イオンである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1、2)
(1-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加工性、作業性、耐傷付き性、耐磨耗性、耐熱性が良好で、意匠性(艶消し外観)に優れ、また滑り摩擦係数が小さい表面特性を有する成形品を製造することが可能な熱可塑性樹脂組成物、その製法及びその用途に関する。とくには、床材、手摺、壁紙等の建築材料や自動車内外装部品、玩具、文具、雑貨などの用途に好適なアイオノマーを主要成分とする熱可塑性樹脂組成物、その製法及びその用途に関する。」(明細書段落【0001】)
(1-3)
「【0017】エチレン及び/又はα-オレフィンとグリシジルモノマーの共重合体(B)において、エチレン及び/又はα-オレフィンが40?99重量%、とくに50?98重量%、グリシジルモノマーが0.5?20重量%、とくに1?15重量%、上記他の単量体が0?49.5重量%、好ましくは5?40重量%の範囲で共重合されているものが好ましい。グリシジルモノマー含量が少なすぎると、耐熱性、耐艶戻り性の改良が顕著でなく、一方その量が多くなりすぎると、アイオノマーとの反応が強くなりすぎ、樹脂粘度が急激に上昇して成形が困難となったり、また組成物中にゲルが発生するなどの問題を起こすことがある。」(明細書段落【0017】)
(1-4」)
「【0023】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アイオノマー(A)、エチレン及び/又はα-オレフィン・グリシジルモノマー共重合体(B)及びポリオレフィン(C)を溶融混合することによって得ることができる。溶融混合に際しては、スクリュー押出機、ロールミキサー、バンバリミキサー等の通常の混合装置を使用することができる。また溶融混合は上記3成分を同時に配合して行うことができるが、最も好ましいのは(B)と(C)を予め溶融混合したものと(A)を溶融混合する方法である。この方法によれば、(B)が(C)に希釈されることにより(A)との反応が局部的に起こらず均一となるためで、優れた諸性質を有する組成物を品質安定性よく製造できるという利点がある。先に(A)と(B)を溶融混合した後、(C)を混合するというような方法を取ると、局部的な反応によりゲルが発生する恐れがあるので避けたほうがよい。」(明細書段落【0023】)
(1-5)
「【0024】本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内においてその他の重合体や各種添加剤を配合することができる。このような添加剤の一例として、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材などを挙げることができる。」(明細書段落【0024】)

(2)刊行物2に記載の事項(特開昭60-86141号公報)
(2-1)
「1 アイオノマー樹脂、該樹脂100重量部に対しアルキルスルホネート金属塩もしくはアルキルベンゼンスルホネート金属塩0.4?20重量部およびポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルエーテル0.1?10重量部を配合してなることを特徴とする帯電防止性アイオノマー樹脂組成物。
2 アルキルスルホネート金属塩もしくはアルキルベンゼンスルホネート金属塩とポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルエーテルとの配合割合が1/1?4/1である特許請求の範囲第1項記載の帯電防止性アイオノマー樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1?2項)
(2-2)
「従来、アイオノマー樹脂は、包装用フイルムやスキー靴、自動車部品などの成形品として、耐油性、耐摩耗性などその特性を生かした各種用途に用いられており、配合される帯電防止剤もポリオレフィン系樹脂用のものが使用されてきた。しかしながらアイオノマー樹脂はポリオレフィン樹脂の変成物であるにもかかわらず、ポリオキシエチレンアルキルアミンや多価アルコール脂肪酸エステルなどポリオレフィン系樹脂に対して有効な帯電防止剤は十分な効果、特に帯電防止の持続性がないという欠点があった。」(1頁右下欄3?13行)
(2-3)
「本発明において使われるアイオノマー樹脂はイオン架橋されたエチレン鎖もしくはプロピレン鎖を基本構造として有するもので、アイオノマー樹脂としての特性を損なわない範囲でポリオレフィン系樹脂をブレンドしたものでも良い。」(2頁左上欄5?9行)
(2-4)
「本発明においてアルキルスルホネート金属塩もしくはアルキルベンゼンスルホネート金属塩は、帯電防止の主たる効果を示す作用を有するが、後述する特定のノニオン系界面活性剤と併用しなければこの効果は持続しない。アルキルスルホネート金属塩としては、炭素数が8?30のアルキル基のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などがあり、」(2頁左上欄10?17行)
(2-5)
「本発明における、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルエーテルは、これらの物質のみでは、アイオノマー樹脂に配合しても帯電防止効果は認められないが、前記のスルホネート金属塩と併用することにより帯電防止効果が増大し、また効果が持続することから、・・・ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、炭素数が6?16のアルキル基を有するものでオキシエチレンの繰り返し単位が20?100のものが使用される。」(2頁右上欄7?左下欄2行)
(2-6)
「本発明においてアルキルスルホネート金属塩もしくはアルキルベンゼンスルホネート金属塩およびポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルもしくはポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用量は、アイオノマー樹脂100重量部に対してそれぞれの0.4?20重量部および0.1?10重量部である。・・・また両者の配合割合は、1対1?4対1が適当でありこの範囲内において帯電防止効果が最も優れる。」(2頁左下欄3?15行)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基が金属イオンで5?80%中和されてなるアイオノマー(A)50?94.5重量部と、グリシジル(メタ)アクリレートを含有するエチレン共重合体(B)0.5?10重量部、及びポリオレフィン(C)5?40重量部からなる熱可塑性樹脂組成物」[摘示記載(1-1)]が記載されており、さらにこの熱可塑性樹脂組成物に帯電防止剤を配合できること[[摘示記載(1-5)]も記載されている。
そして、刊行物1に記載の発明の「エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基が金属イオンで5?80%中和されてなるアイオノマー(A)50?94.5重量部」は、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを主成分」とするものであるし、また、「グリシジル(メタ)アクリレートを含有するエチレン共重合体」は、「オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体」の一種である。
そうすると、刊行物1には、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを主成分とし、これと、オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体、ポリオレフィン及び帯電防止剤を含むエチレン系重合体組成物」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比・判断
【1】本願発明2について
本願発明2と刊行物1発明とを対比すると、両者は、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを主成分とし、これと、オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体、ポリオレフィン及び帯電防止剤を含むエチレン系重合体組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
本願発明2が、「エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーを主成分とし、これと、オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体を含む組成物(A)100重量部当たり、アルキルスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合成分(B)を0.1?10重量部配合してなる」としているのに対し、刊行物1発明においては、帯電防止剤を配合できることは示されているが、具体的な混合成分の配合について特定されていない点

相違点について検討する。
刊行物2には、アイオノマー樹脂組成物に優れた帯電防止性を付与するため、アルキルスルホネート金属塩(アルキルスルホン酸塩に相当するもの認める)とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合成分を配合すること、その配合量はアイオノマー100重量部に対しそれぞれ0.4?20重量部、0.1?10重量部であること、さらに両成分の配合割合は1対1?4対1であることも記載[摘示記載(2-1)、(2-4)、(2-5)、(2-6)]されている。
そうすると、刊行物2には、アイオノマー樹脂組成物に帯電防止性を付与するため、アルキルスルホン酸塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合成分をアイオノマー樹脂100重量部に対し合計0.5?30重量部(0.4?20重量部+0.1?10重量部)配合することが記載されているといえる。
そして、刊行物2に記載された技術は、アイオノマー樹脂組成物における帯電防止技術に関するものであるから、刊行物2に記載された技術に接した当業者であれば、同様に他のアイオノマー樹脂組成物についても、刊行物2に記載の技術を適用すれば、帯電防止の効果が得られるであろうことは、容易に予測できることであって、格別困難なことではない。
しかも、刊行物2に記載された帯電防止効果に関する技術が、刊行物2に記載されたアイオノマー樹脂組成物のみに限られる、との記載も何らされていない。
そうすると、刊行物1に記載されたアイオノマーを主要成分とするエチレン系重合体組成物には、帯電防止剤を配合できることが記載されているのであるから、刊行物1に記載の帯電防止剤として、刊行物2に記載のアルキルスルホネート金属塩(アルキルスルホン酸塩に相当するもの認める)とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合成分からなる帯電防止剤を適用すること、その際、刊行物2に記載の配合量を勘案して配合量を調整することは、当業者であれば適宜想到し得ることであり、格別の創意工夫を要するものということはできない。
そして、本願発明2の効果も当業者の予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものではない。

なお、審判請求人は、本願発明が「優れた帯電防止効果を示すとともに、溶融成形時にゲル化を起こすことなく成形を可能にした」ものである旨の効果を主張しているので、この点についてさらに検討する。
フィルム成形時のゲル化について、本願明細書段落【0061】に、「比較例2のものは帯電防止性能に優れていたが、フイルム形成時にゲル化を起こした。」と記載されているが、本願明細書に記載された比較例2で採用されている帯電防止剤マスターバッチ2については、そもそも「9.5重量部のアイオノマー1と0.5重量部のデノン3071(丸菱油化(株)製)の溶融混合物」と記載されているだけで、「デノン3071」が如何なる物質であるのか何ら記載がされていないから、「デノン3071」がどのような化合物であるのか把握することができず、よって、直ちに実施例との比較ができるものではない。(マスターバッチ3のDehydat93p(コグニスジャパン(株)製)及びマスターバッチ4のDehydatVPN790(コグニスジャパン(株)製)についても、同様にどのような化合物であるのか把握できず、直ちに実施例との比較ができるものではない。)
また、ゲル化を起こしていない実施例1、2では、マスターバッチ1が採用されているが、マスターバッチ1は「デノン3136(炭素数14?16のアルキルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル(エチレンオキサイド付加量約30モル)」に、さらに、「少量のステアリン酸カルシウムおよび少量のグリセリン高級脂肪酸(炭素数16?18)塩の混合物」を含むものであって、デノン3136以外に添加物を含むものである。これに対し、比較例2ではマスターバッチ2が採用され、マスターバッチ2は「デノン3071」のみを含むもので、マスターバッチ1のように他の添加剤を含むものではない。そうすると、ゲル化の有無は、「他の添加剤」の配合による影響も考えられるから、「他の添加剤」を含まないマスターバッチ2を用いた比較例2との対比から、直ちにゲル化の要因を特定の帯電防止剤によるものと判断することはできない。
したがって、比較例2においてゲル化を起こしたとしても、この比較例2があることをもって、刊行物2に記載された帯電防止剤を採用することができないといえるものではない。
よって、審判請求人のこの主張は採用しない。
上記のとおりであるから、本願発明2は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【2】本願発明1について
本願発明1は、本願発明2を包含する上位の発明であるから、本願発明2のポリオレフィン(A3)を配合する態様も含む発明である。
そうすると、本願発明2について記載した理由と同様であって、本願発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【3】本願発明3について
本願発明3は、請求項1又は2記載のエチレン系重合体組成物において、(A1)成分が、中和度5?80%のアイオノマーである、というものである。
しかしながら、刊行物1には、金属イオンで5?80%中和されたアイオノマーが記載されている。
したがって、本願発明1、2について記載した理由と同様であって、本願発明3は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【4】本願発明4について
本願発明4は、請求項1?3のいずれかに記載のエチレン系重合体組成物において、オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体(A2)における不飽和エポキシモノマーが、不飽和グリシジルエステルである、というものである。
しかしながら、刊行物1には、オレフィンと不飽和エポキシモノマーの共重合体における不飽和エポキシモノマーとして、グリシジル(メタ)アクリレート(不飽和グリシジルエステルと認める)が記載されている。
したがって、本願発明1?3について記載した理由と同様であって、本願発明4は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1?4は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-02 
結審通知日 2007-08-07 
審決日 2007-08-20 
出願番号 特願2001-338367(P2001-338367)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 野村 康秀
渡辺 陽子
発明の名称 エチレン系重合体組成物  
代理人 山口 和  
代理人 中嶋 重光  

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