• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580341 審決 特許
無効200580033 審決 特許
無効200680198 審決 特許
無効200680168 審決 特許
無効2007800031 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61L
管理番号 1166232
審判番号 無効2006-80097  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-24 
確定日 2007-09-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3562668号「消臭剤組成物」の特許無効審判事件についてされた平成18年12月12日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決〔平成19年(行ケ)第10023号平成19年3月9日判決言渡〕があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3562668号は、平成7年7月31日に特許出願され、平成16年6月11日にその設定登録がなされ、その後、平成18年5月24日付けで本件無効審判が請求され、平成18年12月12日付けで当該無効審判につき審決したところ、特許法第181条第2項の規定により当該審決が取消され、その後、本件無効審判については下記の手続きを経ている。
訂正請求書(特許法第134条の3第5項)平成19年 3月26日
手続補正書(審判請求書) 平成19年 5月10日
審判事件弁駁書 平成19年 5月10日
補正許否の決定(不許可) 平成19年 5月23日
審判事件第2答弁書 平成19年 6月14日

II.訂正請求の訂正の適否について
II-1.訂正事項
上記の平成19年3月26日にしたとみなされる訂正請求は、本件明細書の記載を訂正請求書に添付された訂正明細書に訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項からなる。
以下、訂正前の明細書を必要に応じて「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を必要に応じて「訂正明細書」という。
特許明細書の特許請求の範囲における、
「【請求項1】水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物と、該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素とを少なくとも含有する消臭剤組成物。」を、
「【請求項1】水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物と、該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素とを少なくとも含有する消臭剤組成物。」に訂正する。
II-2.訂正の判断
(訂正の目的の適否)
上記訂正は、具体的には、請求項1において、消臭剤組成物にそこでの酵素と共に含有される、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物につき、「カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」と限定するものであって、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
(新規事項の追加の有無)
特許明細書において、「本発明の消臭剤組成物の一方の成分は、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物(以下、フェノール性化合物と略称することがある)であり、・・・。・・・。フェノール性化合物としては、例えば、カテコール、・・・等のジフェノール類;・・・などのビフェニルジオール類;・・・などのカテキン類、ドーパ、・・・、クロロゲン酸、・・・などのカテコール誘導体などを挙げることができる。・・・。これらの化合物は、2種以上共存させてもよい。」(段落0008及び0009)と記載され、この記載とその特許請求の範囲の記載によれば、消臭剤組成物に「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」と共に含有される「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有する」フェノール性化合物が、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸、等から選ばれることが示されるといえる。
そのうえ、特許明細書において、「・・・。なかでも、・・・が好ましく、特にカテキン類、クロロゲン酸が好ましい。・・・。」(段落0009)と、当該フェノール性化合物として、カテキン類、クロロゲン酸が特に好ましいことが記載されており、かつ、その実施例の箇所(特に、段落0020における表1、同2200における表2)において、カテキン類とクロロゲン酸と共にカテコール及びドーパにつき消臭率試験の実施をなし、このように当該フェノール性化合物として、当該カテキン類とクロロゲン酸と共にカテコール及びドーパがそこで着目されていることは明白であり、これらのことから、当該フェノール性化合物として、「カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸」からなる一群の化合物を用いることが自明なこととして導き出されるものである。
以上のことからすれば、訂正前の本件発明の消臭剤組成物につき、当該酵素と共に含有される当該フェノール性化合物を、「カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」とすることは特許明細書に明示されないとしても、そのことは特許明細書に実質的に記載されているということができる。
したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであり、新規事項の追加には当たらない。
(拡張、変更の存否)
当該訂正は、上記するとおりフェノール性化合物につき限定するだけのものであり、また、発明の目的の範囲内でなされるものでもあり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
II-3.訂正請求の結論
以上のとおりであり、平成19年3月26日にしたとみなされる訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
上記II.で記載したとおり上記訂正請求は認められたものであり、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、必要に応じて、「本件発明」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物と、該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素とを少なくとも含有する消臭剤組成物。

IV.請求人の求めた審決及び主張
審判請求人は、特許第3562668号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって以下に示す無効理由により、本件請求項1に係る発明の特許は無効にされるべきであると主張する。
(証拠方法)
甲第1号証:特開昭63-309269号公報
甲第2号証:奥田拓男編、「天然薬物事典」、株式会社廣川書店、昭和61年4月15日、第61及び468頁
甲第3号証:化学大辞典編集委員会、「化学大辞典7 縮刷版」、共立出版株式会社、昭和59年3月15日、第10頁
甲第4号証:丸尾文治外監修、「酵素ハンドブック」、株式会社朝倉書店、1983年3月1日、第156頁
甲第5号証:特開昭64-5552号公報
甲第6号証:特公昭53-45372号公報
甲第7号証:特公昭51-33974号公報
参考資料1:有地滋編、「生薬の資源と品質」、近畿大学東洋医学研究所、昭和62年5月25日、第247?254頁
参考資料2:相楽和彦外著、「黄ごんフラボノイドの水抽出液中の分解」、生薬学雑誌、第40巻、第1号、1986年、第72?76頁
参考資料3:中杉徹の実験による「実験成績報告書1」(実験日:2006年11月22日、実験場所:稲畑香料株式会社研究所内)
参考資料4:中杉徹の実験による「実験成績報告書2」(実験日:2006年11月24日、実験場所:稲畑香料株式会社研究所内)
なお、請求人は、上記の平成19年5月10日付け手続補正書(審判請求書)において、甲第8?15号証を提出してきたが、このうち、甲第10?15号証については上記補正許否の決定によりその提出を許可せず、また、甲第8及び9号証については、審判請求後に提出したものでもあり、上記のとおり参考資料3及び4として扱うものとする。
(無効理由)
(1)無効理由1
本件請求項1に係る発明の特許は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。したがって、本願請求項1に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
(2)無効理由2
本件請求項1に係る発明の特許は、甲第1、5及び6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願請求項1に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
(3)無効理由3
本件特許請求の範囲に記載された発明は発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本願請求項1に係る発明の特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

V.被請求人の求めた審決及び反論
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって、本件請求項1に係る発明の特許は、上記無効理由1?3によっては無効とすることができないと主張する。
参考資料1:平成15年10月17日、高砂香料工業株式会社アロマサイエンス&テクノロジー研究所専任研究員平木忠浩による、「実験報告書」
参考資料2:特願平7-212999(本件)に係る拒絶査定に対する審判請求書(写し)
参考資料3:特公平7-53174号公報
参考資料4:東京高裁平成9年(行ケ)第198号の判決公報の要部
参考資料5:大木道則外編、「化学大辞典」、株式会社東京化学同人、1989年10月20日、第84頁
参考資料6の1:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第278頁
参考資料6の2:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第843頁
参考資料7:丸尾文治外監修、「酵素ハンドブック」、株式会社朝倉書店、1987年11月1日、第155頁
参考資料8:赤堀四郎編、「酵素研究法 第2巻」、株式会社朝倉書店、昭和36年8月20日、第335頁
参考資料9:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第32頁
参考資料10:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第471及び472頁
参考資料11:中林敏郎外著、「コーヒー焙煎の化学と技術」、弘学出版株式会社、1995年2月28日、第166頁
参考資料12:C.WEURMAN etal.「CHANGES IN THE ENZYMIC BROWNING OF BRAMLEY'S SEEDLING APPLES DURING THEIR DEVELOPMENT」、J.Sci.Food Agric.,6,April,1955、pp186-187(抄訳添付)
参考資料13:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第992頁
参考資料14:丸尾文治外監修、「酵素ハンドブック」、株式会社朝倉書店、1987年11月1日、第192頁
参考資料15:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第1360頁
参考資料16:大木道則外編、「化学大辞典」、株式会社東京化学同人、1989年10月20日、第292頁
参考資料17:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第410頁
参考資料18:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第924頁
参考資料19:今堀和友外監修、「生化学辞典(第2版)」、株式会社東京化学同人、1990年11月22日、第392頁
参考資料20:SAWANO MURAO etal.「Purification and Characterization of Arctium Lappa L.(Edible Burdock)PolyphenolOxidase」、Biosci. Biotech. Biochem.,57(2)、p177、1993(抄訳添付)
参考資料21:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典8 縮刷版」、共立出版株式会社、1964年2月15日、第402?403頁
なお、上記参考資料21は、平成19年3月26日訂正請求書に甲第4号証として添付されたものである。

VI.甲号各証の記載事項について
VI-A.甲第1号証(特開昭63-309269号公報)の記載
(A-1)「消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することを特徴とする消臭剤。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2)「従って、消臭力が強く、かつ安全に使用できるなど、優れた特性を有する消臭剤の開発が要望される。」(第2頁左上欄第4?6行)
(A-3)「消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することにより、両者が相乗的に作用して非常に消臭効果の高い消臭剤が得られることを見い出した。」(第2頁左上欄第12?15行)
(A-4)「本発明の消臭有効成分としては種々のものが用いられるが、安全性等の面で植物由来のものが好ましい。原料となる植物は種々選択されるが、特に紅藻植物,褐藻植物,裸子植物,被子植物で消臭効果を有するものを用いることが好ましく、具体的には 〈中 略〉,イチョウ、〈中 略〉ダイオウ,〈中 略〉,ホオノキ,〈中 略〉、側膜胎座目ツバキ科のチャ,ツバキ,〈中 略〉、管状花目シソ科のセージ,タイム,マジョラム,ローズマリー,コガネバナ,〈中 略〉等が例示される。
なお、これら植物から溶媒抽出物を得る場合、植物としては全草を使用しても、また葉、樹皮、花、果皮、果実、根茎、根等植物の各部位を使用してもよく、使用する植物に応じ、その植物の消臭有効成分を比較的多く含有する部位を選択して使用することができる。」(第2頁右上欄第15行?第3頁左上欄第3行)
(A-5)「これらの植物から消臭有効成分を得る場合は、公知の方法を採用し得、例えば植物を乾燥した後、切断し、粉末としたものを水,エチルエーテル,エチレンクロライド,ジオキサン,アセトン,エタノール,n-ブタノール,酢酸エチル,プロピレングリコール等の極性溶媒の1種又は2種以上、もしくは〈中 略〉等の非極性溶媒の1種又は2種以上或いはこれら極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒で抽出する方法を採用することができる。この場合、抽出操作としては通常の方法を採用でき、例えば植物を溶媒に温浸するなどの方法が採用できる。」(第3頁左上欄第4?18行)
(A-6)「更に、本発明において使用する酸化還元酵素の種類は特に限定されず、例えば下記に示すものの1種又は2種以上を使用することができる。
〈中 略〉
なお、酸化還元酵素は、植物抽出物の種類に応じ、最適なものを使用することが好ましいが、上記酸化還元酵素の中でも特にアスコルビン酸オキシダーゼ,o-アミノフェノールオキシダーゼ,ポリフェノールオキシダーゼ,カテコールオキシダーゼ,p-クマレート3-モノオキシゲナーゼが好適に用いられる。」(第3頁右上欄第8行?第4頁左下欄第12行)
(A-7)「〔実験例1〕
第1表に示す植物の抽出物0.1mgと酸化還元酵素1単位(各酵素の標準基質を36℃,1分間で1μmol酸化又は還元する酵素量)とをpH7.0の0.05Mリン酸緩衝液2.5mlに溶かしたもの(検体)を容量25mlの試験管に入れ、更に1ppmメチルメルカプタン0.5mlを加えて密栓し、36℃で6分間反応させた。
反応終了後、試験管のヘッドスペース中のメチルメルカプタン量をガスクロマトグラフィーで測定した。〈中 略〉
以上の結果を第1表に示す。」(第6頁左上欄第17行?右上欄末行)
(A-8)「第1表
抽出物A 酸化還元酵素B A+B検体消臭率(%)II
ローズマリー o-アミノフェノ 49%
(30%エタノール抽出)ールオキシダーゼ」旨(第6頁左下欄第1表)
(A-9)「〔実験例2〕
第2表に示す植物の抽出液100ml(乾燥時固形分として約2gの抽出物を含む。)に第2表に示す酸化還元酵素1000単位を加え、30℃で2時間酵素反応を行なった。反応終了後、メンブランスフィルター(分子量10000以上カット)を通し、得られたフィルター通過液を乾燥して活性化植物抽出物よりなる消臭剤を得た。
この活性化植物抽出物消臭剤について実験例1と同様にメチルメルカプタン消臭率を求めた。〈中 略〉
以上の結果を第2表に示す。」(第6頁右下欄第5?末行)
(A-10)「第2表
植物抽出物 酸化還元酵素 消臭率
ローズマリー o-アミノフェノ 72%
(30%エタノール抽出) ールオキシダーゼ」旨(第7頁左上欄第2表)
(A-11)「〔実施例1〕練歯磨
水酸化アルミニウム 43%
グリセリン 20
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2
ソジウムラウリルサルフェート 2
香 料 1
サッカリンナトリウム 0.1
オウゴン30%エタノール抽出物 0.15
ポリフェノールオキシダーゼ 0.05
(500単位、田辺製薬(株)製)
N-ラウロイルサルコシンナトリウム 0.2
水 残
計 100.0」旨(第7頁右上欄第11行?左下欄第2行)

VI-B.甲第2号証(前記「天然薬物事典」)の記載
(B-1)「黄ごん おうごん 英scutellaria root 独Scutellariawurzel ラscutellariae radix・・・・中国北部を主産地とするコガネバナScutellaria baicalensis GEORGI.(シソ科Labiatae)の外層(周皮)を除いた根.消炎下熱剤とされ,漢方で黄ごん湯,黄連解毒湯,三黄しゃ心湯,大柴胡湯,小柴胡湯などに配合する.成分はフラボン誘導体のbaicalin(beicalein-7-glucuronide),wogoninなどである.中薬 性味は苦,寒,清熱燥湿,しゃ火解毒薬.中国ではS.baicalensisのほかに粘毛黄ごん(黄花黄ごん)S.viscidula BGE.,漬黄ごん(西安黄ごん)S.amoena,甘粛黄ごんS.rehderiana DIELS,川黄ごんS.hypericifoliaなどの根も黄ごんとして用いている.(→バイカリン,黄ごん湯,黄連解毒湯,三黄しゃ心湯,大柴胡湯,小柴胡湯)」旨(第61頁右欄第11?25行)
(B-2)「ローズマリー(ロスマン葉) 英rosemary ・・・・ ヨーロッパ南部地中海沿岸地方に自生し,あるいは栽培されるマンネンロウRosmarinus officinalis L.(シソ科)の葉.シネオール,α-ピネンなどからなる精油,ロズマリン酸などを含み,芳香性胃健薬,駆風薬などにする.またこれからとれる油をロスマリン油と称し香料とするほか,皮膚刺激剤,疥癬治療薬とする.(→ロズマリン酸)」旨(第468頁左欄下から第15行?下から第7行)
(B-3)「ロズマリン酸 ・・・英rosmarinic acid ・・・・,Labiataetannin C18H16O82水和物はmp.204°(分解),[α]20D+145°(エタノール).ローズマリー(マンネンロウ)Rosmarinus officinalis L.(シソ科)の葉から単離され,その後,メリッサ(セイヨウヤマハッカ)Melissa officinalis L.,サルビアSalvia officinalis L.,Mentha piperita L.などシソ科植物に広く分布することが明らかとなった.またSanicula europaea L.(セリ科)やLithospermum ruderale DOUGL.ex LEHM.(ムラサキ科)にも存在する.弱いながらもタンニンとしての性質を有し,また抗酸化作用が知られる.(→ローズマリー,メリッサ薬)
〈化学構造式省略〉 」旨(第468頁左下欄下から第6行?右欄下から第35行)

VI-C.甲第3号証(前記「化学大辞典7 縮刷版」)の記載
(C-1)「バイカリン[英baicalin 独Baicalin]
C21H18O11=446.〈化学構造式省略〉
フラボノイドの一つ.存在 コガネバナScutellaria baicalensis Georgi.(シソ科)の根に含まれる(乾燥根で収率12.5%).性質 微黄色針状晶.融点223°.[α]18D-144.9°.塩化鉄(III)で暗緑色,酢酸鉛でトウ赤色沈殿を生ずる.アルカリ,アンモニア水に黄色に溶解するが,間もなく暗色に変わる.水に不溶:アセトン,エタノール,メタノールに難溶:熱酢酸に可溶.濃硫酸で加水分解されてバイカレインとグルクロン酸各1分子とを生ずる.」旨(第10頁右欄第20?34行)
(C-2)「バイカレイン[英baicalein 独Baicalein]
C15H10O5=270.〈化学構造式省略〉
フラボノイドの一つ.存在 コガネバナScutellaria baicalensis Georgi.(シソ科)の根に配糖体バイカリンとして含まれる.性質 濃黄色小リョウ柱状晶.融点263°.アルカリ,アンモニアに黄色に溶解するが,空気酸化されて緑カッ色に変わる.塩化鉄(III)で緑色,酢酸鉛(II)でトウ赤色沈殿を生ずる.アンモニア性硝酸銀液を還元するが,フェーリング液を還元しない.熱酢酸,酢酸エチル,アセトンに易溶:クロロホルム,ニトロベンゼンに難溶:エーテル,ベンゼン,石油エーテルに不溶.」旨(第10頁右欄第40?53行)

VI-D.甲第4号証(前記「酵素ハンドブック」1983年)の記載
(D-1)「1.10.3.2 Laccase
〔系統名〕Benzenediol:oxygen oxidoreductase
〔別名〕Polyphenol oxidase,Urushiol oxidase,Phenolase
〔反応〕」benzenediol+1/2O2→1,2-benzoquinone+H2O」(第156頁第1?4行)
(D-2)「1.10.3.4 o-Aminophenol oxidase
〔系統名〕o-Aminophenol:oxygen oxidoreductase
〔別 名〕Isophenoxazine synthase
〔反 応〕2´o-aminophenol+3/2O2→isophenoxazine+3H2O
イソフェノキサジンは最初の生成物o-キノンイミンの結合で形成される.
〔測 定〕イソフェノキサイジンの形成量を分光学的に測定.
〔所在と精製〕植物の葉のほか,動物,微生物にも存在.Bauhenia monandraの葉の酵素はアセトン分別,硫安分別で400倍に精製(収率66%).-20℃で1ヶ月安定.
〔構造と性質〕フラビン酵素で,基質はo-アミノフェノールに特異的(Km=0.75mM).最適pH6.2,最適温度40℃.活性にはMn2+が必要で,他の金属イオンは阻害作用を示す.シアン化物,N3-,種々の還元剤で阻害される.菌類の酵素はMn2+のほかにFMNが活性発現に必要である.」(第156頁下段)

VI-E.甲第5号証(特開昭64-5552号公報)の記載
(E-1)「多孔性を有する担体(A)に、消臭成分(B)を、潮解性または高吸湿性を有する化合物(C)と共に担持させてなる消臭性担持体。」(特許請求の範囲第1項)
(E-2)「消臭成分(B)としては、各種の植物、たとえば、ツバキ科植物、シソ科植物、クスノキ科植物、フトモモ科植物、キキョウ科植物、アオイ科植物などの植物から抽出その他の手段により分離される消臭成分が好適に用いられる。殊に、茶、山茶花、椿、サカキ、モッコクなどのツバキ科植物の主として葉部を減圧下に乾留し、20mmHgの場合で180?200℃で沸騰して留出する乾留分の消臭力が特に大きいので、この乾留分を用いることが特に好ましい。
また、上記のような天然物からの消臭成分に相当する成分(ポリフェノール化合物、殊にカテキン類、フラボノール類、フラバノール類など)を合成法により製造したものも使用することができる。」(第2頁右上欄第19行?左下欄第13行)

VI-F.甲第6号証(特公昭53-45372号公報)の記載
(F-1)「一般式・・・で示されるナフトキノンまたはナフトハイドロキノン誘導体を有効成分とする脱臭剤。」(特許請求の範囲)
(F-2)「本発明の有効成分として挙げられるナフトハイドロキノン誘導体はそのままの型では含硫化合物と反応しないが被脱臭物に添加したとき、通常被脱臭物と共に存在する空気により酸化を受け容易にキノン型に酸化され、悪臭成分である含硫化合物と迅速に反応し脱臭効果を発揮する。」(第2頁右欄第10?15行)

VI-G.甲第7号証(特公昭51-33974号公報)の記載
(G-1)「パラベンゾキノン又はα-ナフトキノンを含有してなる脱臭・消臭剤。」(特許請求の範囲)
(G-2)「上記よりキノン類はメルカプタン及び硫化水素の除去・脱臭に極めて優れた効果を有することがわかる。」(第2頁左欄第第9?11行)

VII.当審の判断
VII-1.無効理由1について
VII-1-1.その1
甲第1号証には、その前記(A-1)により、消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用する消臭剤に関する技術が記載され、そこには、その前記(A-11)によれば、オウゴン30%エタノール抽出物0.15%、ポリフェノールオキシダーゼ(500単位、田辺製薬(株)製)0.05%を含む練歯磨が記載されている。
この場合、オウゴンとは、コガネバナの周皮を除いた根部分をいうことは周知〔必要ならば、前記甲第2号証の(B-1)を参照〕のことであって、その練歯磨におけるオウゴン30%エタノール抽出物は、その前記(A-4)及び(A-5)によれば、ここでの技術の消臭有効成分に該当することは明白なことである。また、その練歯磨におけるポリフェノールオキシダーゼは、その前記(A-6)によれば、ここでの酸化還元酵素に該当することは明白である。
以上のことから、甲第1号証には、「オウゴン30%エタノール抽出物とポリフェノールオキシダーゼとからなる消臭剤」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲1発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本願発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明で用いるポリフェノールオキシダーゼ及び本件発明の「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」のいずれも、酵素といえるものである。
よって、両者は、「酵素を少なくとも含有する消臭剤組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】該消臭剤組成物が、本件発明では、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」を含有するのに対して、甲1発明ではオウゴン30%エタノール抽出物を含有するものの当該特定事項が示されない点
【相違点2】消臭剤組成物に含有される該酵素が、本件発明では「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する」ものであるのに対して、甲1発明ではポリフェノールオキシダーゼを含有するものの当該特定事項が明示されない。
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点1】について
前記したとおり甲1発明の消臭剤は、オウゴン30%エタノール抽出物を含有するものであり、オウゴンから30%エタノール媒体で抽出した抽出物を含むものである。
そして、そのオウゴンとは、前記(B-1)、(C-1)及び(C-2)によれば、コガネバナの周皮を除いた部分をいうものであって、そこには、少なくとも、バイカリン、オーゴニンなどが含まれ、甲1発明のオウゴンの抽出物においては、そこに、有意量のバイカリン(更には、加水分解により、バイカレイン)、オーゴニンなどが含まれていると認められる。
そこで、本件発明のフェノール性化合物と甲1発明の当該抽出物とを改めて対比すると、甲1発明の抽出物に含まれる成分の内、バイカリン、バイカレイン、オーゴニンは、その化学構造式からみて明らかなとおり、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であるということができるとしても、本件発明のカテコール、カテキン類、ドーパ又はクロロゲン酸には該当しない。
また、甲1発明の抽出物に含まれるバイカリン、バイカレイン、オーゴニン以外の成分、すなわち、上記の「など」の成分に、本件発明のフェノール性化合物であるカテコール、カテキン類、ドーパ又はクロロゲン酸が有意量含まれるということはできない。
他に、甲1発明の消臭剤にカテコール、カテキン類、ドーパ又はクロロゲン酸が含まれるとする証拠も示されない。
そうであれば、本件発明がその消臭剤組成物において、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」を含有する点で、甲1発明に対して別異の発明を構成するものである。
したがって、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

VII-1-2.その2
甲第1号証には、その前記(A-7)及び(A-8)によれば、
「ローズマリー(30%エタノール抽出)とo-アミノフェノールオキシダーゼからなる消臭剤」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲1A発明」という)が記載されている。
そこで、本件発明と甲1A発明とを対比すると、両者は、
「消臭剤組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】該消臭剤組成物につき、本件発明では「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」を含有しているとするのに対して、甲1A発明ではそのことが示されない点
【相違点4】該消臭剤組成物につき、本件発明では「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」を含有するのに対して、甲1A発明ではその消臭剤は「o-アミノフェノールオキシダーゼ」を含むことが示されるだけで当該構成が示されない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点3】について
前記したとおり甲1A発明の消臭剤は、ローズマリー(30%エタノール抽出)を含有するものであり、ローズマリーから30%エタノール媒体で抽出した抽出物を含むものである。
そして、そのローズマリーとは、前記(B-2)及び(B-3)によれば、マンネンロウの葉をいうものであって、そこには、少なくとも、シオネール、α-ピネンなどからなる精油、ロズマリン酸などが含まれ、甲1A発明のローズマリーの抽出物においては、そこに、有意量のシオネール、α-ピネンなどからなる精油、ロズマリン酸などが含まれていると認められる。
そこで、本件発明のフェノール性化合物と甲1A発明の当該抽出物とを改めて対比すると、甲1A発明の抽出物に含まれる成分の内、ロズマリン酸については、その化学構造式からみて明らかなとおり、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であるということができるとしても、本件発明のカテコール、カテキン類、ドーパ又はクロロゲン酸には該当しない。
また、甲1A発明の抽出物に含まれる他の成分、すなわち、上記の「シオネール、α-ピネンなどからなる精油など」に、本件発明のフェノール性化合物が有意量含まれているということもできない。
他に、甲1A発明の消臭剤にカテコール、カテキン類、ドーパ又はクロロゲン酸が含まれるとする証拠も示されない。
そうであれば、甲1A発明は、当該相違点に関する特定事項を具備し得ない。
【相違点4】について
甲1A発明で、その酵素として用いられるo-アミノフェノールオキシダーゼについては、甲第4号証の前記(D-2)によれば、その酵素作用により、2´o-アミノフェノールを酸化してイソフェノキサジンを生成することが示されるものの、それは、フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化するものではない。
また、甲第4号証の前記(D-2)によれば、上記イソフェノキサジンを生成する反応につき、「イソフェノキサジンは最初の生成物o-キノンイミンの結合で形成される」ことが示されるものの、当該o-キノンイミンは、その分子中に窒素原子を有し且つ二個のカルボニル基を有さない点で、キノンとは別異の化合物を構成するものであり、したがって、このo-キノンイミンに関する記載から、o-アミノフェノールオキシダーゼが「フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する」ことができるか否かにつき直接示唆するものは何もない。
他に、o-アミノフェノールオキシダーゼがフェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化することにつき教示するものは何もない。
そうであれば、甲1A発明は、当該相違点に関する特定事項を具備し得ない。
したがって、本件発明が上記相違点3及び4に関する特定事項を具備する点で、本件発明は、甲1A発明とは別異の発明を構成するものであり、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
VII-1-3.その3
甲第1号証には、その前記(A-9)及び(A-10)によれば、「ローズマリー30%エタノール抽出物にo-アミノフェノールオキシダーゼを加え、酵素反応終了後、メンブランスフィルター(分子量10000以上カット)を通し、得られた通過液を乾燥してなる消臭剤」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲1B発明」という)が記載されているといえる。
そこで、本件発明と甲1B発明とを対比する。
甲1B発明の消臭剤については、一般に酵素の分子量は1万以上(必要ならば、参考資料10等を参照)であるところ、その消臭剤は分子量10000以上をカットするメンブランスフィルターによるフィルター通過液から調整されたものであることから、そもそも、その消臭剤には酵素類を含み得ない。
そして、本件発明は酵素として「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する」ものを採択することにより、その余の構成と相俟って明細書記載の効果を奏したものである。
そうであれば、その余の点につき検討するまでもなく、両者は、同一であるということはできない。
したがって、本件発明は、甲1B発明とは別異の発明を構成するものであり、この点で、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

VII-1-4.無効理由1の結論
本願請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

VII-2.無効理由2について
VII-2-1.対比・検討
甲第1号証には、その前記(A-1)?(A-5)によれば、
「植物由来の消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用した消臭剤」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲1C発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明と甲1C発明とを対比すると、両者は、「消臭剤組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】当該消臭剤組成物につき、本件発明は、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」(以下、必要に応じて、「特定フェノール性化合物」という)と「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」(以下、必要に応じて、「特定酵素」という)とを少なくとも含有するとの特定事項を具備するのに対して、甲1C発明では当該特定事項が示されない点
以下、当該相違点につき検討する。
本件発明は、訂正明細書(特に、段落0004)の記載によれば、消臭効果に優れ、地球環境に優しい消臭剤組成物を開発することを発明の課題とするものであり、
そして、訂正明細書(特に、段落0005?0007、段落0020の表1、段落0022の表2、段落0026の表3及び段落0027)の記載によれば、更に、特定フェノール化合物と特定酵素とを併せて具備しない消臭剤成分又は組成物〔特に、1,4-ナフトキノン、甲1C発明で最も消臭率の高いマジョラム(水抽出物)、タイム(水抽出物)〕につきその消臭率が極めて低い結果を示すところの被請求人提出の参考資料1(表1?3)の記載内容を併せてみれば、
本件発明は、その消臭剤組成物において、「特定フェノール性化合物」と「特定酵素」とを少なくとも含有するとの特定事項を具備することにより、安全性が高いだけでなく、消臭効果の極めて優れた消臭剤組成物を提供することができたものであり、このように、本件発明において、当該「特定フェノール性化合物」と「特定酵素」とを組み合わせて採択することにより、消臭効果の極めて優れた消臭剤組成物を提供することができ、これにより、はじめて上記の発明の課題を解決することができたものであるということができる。
一方、甲1C発明の消臭剤においては、植物由来の消臭有効成分として、その前記(A-4)によれば、原料となる紅藻植物、褐藻植物、裸子植物、被子植物等に含まれる多数の植物種が例示され、また、酸化還元酵素として、前記(A-6)によれば、アスコルビン酸オキシダーゼ、o-アミノフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、カテコールオキシダーゼ、p-クマレート3-モノオキシゲナーゼ等の多数の酵素が例示される。
そして、甲1C発明において、このように多数例示される植物種の中には、その選択によっては植物由来の消臭有効成分に本件発明の特定フェノール性化合物を含み得る可能性があり、これとは別に、その多数の酸化還元酵素の中から本件発明の特定酵素を選択し得るともいえる。
しかし、甲1C発明においては、そこでの発明において、植物由来の消臭有効成分中の如何なる成分ないしは化合物が消臭作用に寄与するものか具体的に教示されるものは何もなく、更には、そこでの発明が消臭作用を奏するところの因果関係ないしはメカニズムにつき説明されるものは何もないものである。
そうであれば、甲1C発明において、その選択によって植物由来の消臭有効成分に本件発明の特定フェノール性化合物を含み得る可能性があり、他方、その酸化還元酵素として本件発明の特定酵素を選択し得るとしても、実際に、特定フェノール化合物と特定酵素とを組み合わせるところの動機付けに欠けるものである。
この外、甲1C発明では、そこでの実験例及び実施例で本件発明のものに該当するといえない消臭有効成分と酸化還元酵素とを組み合わせた例が示されるものの、その例においても、植物由来の消臭有効成分中の主として如何なる成分ないしは化合物が消臭作用に寄与するものか具体的に教示されるものは何もなく、更には、そこでの発明が消臭作用を奏するところの因果関係ないしはメカニズムにつき説明されるものは何もないものであり、したがって、この実験例及び実施例の記載を考慮しても、甲1C発明において、特定フェノール化合物と特定酵素とを組み合わせるところの動機付けに欠けるという外はない。
また、仮に、甲1C発明において特定フェノール化合物と特定酵素とを組み合わせたとしても、その場合に奏するところの甲1C発明を遙かに超える極めて優れた消臭効果については、当業者といえども容易に予測することができないものである。
したがって、本件発明は甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるということはできない。
次に、当該相違点につき、甲第5及び6号証の記載をみる。
甲第5号証には、植物由来の消臭成分に関する記載があり、その植物から抽出したものには各種化合物又は各種成分が含まれるとの技術常識〔必要ならば、被請求人が平成15年7月22日の手続補足書に添付した、河内二郎著、「最近の消臭剤」、フレグランスジャーナルNo86(1987)の第94頁左欄第16行?下から第7行、西田耕之助外著、「精油成分とS系悪臭物質の反応機構について」、PPM、1985/2の第37頁左下欄第1行?右下欄第3行、等を参照〕を基に、その前記(E-2)の記載をみれば、そこには、ツバキ科植物、シソ科植物、クスノキ科植物、フトモモ科植物、キキョウ科植物、アオイ科植物などの植物から抽出その他の手段により分離される消臭成分、又は、茶、山茶花、椿、サカキ、モッコクなどのツバキ科植物の主として葉部を減圧下に乾留した乾留分の消臭成分には、ポリフェノール化合物、殊にカテキン類、フラボノール類、フラバノール類等が含まれることが記載されているといえ、これにより、ある種の植物種由来の消臭成分には、カテキン類が含まれることが示されているとしても、そこから教示されるものはそれ以上のものはなく、甲第5号証の記載から、上記した消臭効果の極めて優れた消臭剤組成物を提供する特定事項であるところの、特定フェノール性化合物と特定酵素とを組み合わせることにつき、教示ないしは示唆されるものは何もない。
甲第6号証には、その前記(F-1)及び(F-2)によれば、ナフトハイドロキノン誘導体は消臭効果を有し、かつ、消臭有効成分として用いられることが記載されるものの、当該ナフトハイドロキノン誘導体は、上記訂正の結果、本件発明の特定フェノール性化合物には該当しなくなったものであり、いうまでもなく、甲第6号証の記載から、特定フェノール性化合物と特定酵素とを組み合わせることにつき、教示ないしは示唆されるものは何もない。
なお、甲第7号証には、その(G-1)、(G-2)及びその第1表の記載によれば、本件発明の特定フェノール性化合物には該当しないところのパラベンゾキノン又はα-ナフトキノンを含有してなる脱臭・消臭剤は、悪臭成分であるアンモニアに対しては優れた効果を有さないことが示されるだけである。
そうであれば、甲1C発明に上記甲第5号証及び甲第6号証に記載の発明を組み合わせてみても、そこから、本件発明が容易に想到できるとはいえない。
VII-2-2.請求人の主張について
(1)請求人は、「すなわち、昭和63年12月16日公開の特開昭63-309269号公報(甲第1号証)には、消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することを特徴とする消臭剤の発明が記載されている。」(審判事件弁駁書第4頁下から第4行?下から第2行、等)と主張するので、以下に検討する。
甲第1号証の特許請求の範囲には、請求人の主張する「消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することを特徴とする消臭剤」〔前記(A-1)〕が記載され、かつ、発明の詳細な説明において、「消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することにより、両者が相乗的に作用して非常に消臭効果の高い消臭剤が得られることを見い出した」〔前記(A-3)〕及び「本発明の消臭有効成分としては種々のものが用いられる」〔前記(A-4〕と記載されるとしても、甲第1号証には、その消臭有効成分として、植物由来の消臭有効成分であって、溶媒抽出物類が開示されるだけであり〔前記(A-4)及び(A-5)等〕、それ以外の材料である、単一化合物はもとより、化成材料、鉱物材料等を用いることにつき示唆するものは何もない。
そして、消臭有効成分の種類ないしは成分にかかわりなく、消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用すれば、その消臭剤の消臭効果が高まるなどということは化学常識からみて通常あり得ないことである。
そうであれば、甲第1号証には、消臭有効成分として植物由来のもの以外の材料を用いた発明が実質上記載されているということができない。
したがって、甲第1号証には、消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用することを特徴とする消臭剤の発明が記載されているとする請求人の上記主張は失当という外はない。
(2)請求人は、上記相違点につき、甲第5号証にはその前記(E-5)によればカテキン類が消臭成分であることが示されていると解釈したうえで、「してみると、訂正後の本件発明は、甲第1号証に記載されている発明における消臭有効成分として、消臭剤として公知のカテキン類を用い、また酸化還元酵素として、甲第1号証の酸化還元酵素として例示されているポリフェノールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ等のフェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素を用いたものであるが、このようなことは、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる」旨(審判事件弁駁書第6頁下から第4行?第7頁第3行、等)主張するので以下に検討する。
甲1C発明では植物由来の消臭有効成分を用いるものであって、その植物由来の消臭成分には、通常、上記したとおり各種化合物又は各種成分が含まれる〔必要ならば、上記したとおり、河内二郎著、「最近の消臭剤」、フレグランスジャーナルNo86(1987)の第94頁左欄第16行?下から第7行、西田耕之助外著、「精油成分とS系悪臭物質の反応機構について」、PPM、1985/2の第37頁左下欄第1行?右下欄第3行、等を参照〕ものであり、甲1C発明では、その各種化合物又は各種成分が含まれるところの植物由来の消臭有効成分と酸化還元酵素とを併用するものであるものの、そこでの消臭有効成分については上記したとおり如何なる成分ないしは化合物が主として寄与するのか不明であり、したがって、甲1C発明において、その植物由来の消臭有効成分を、単一化合物又は化成品であるカテキン類(他の特定フェノール性化合物でも同様)に置き換える動機がそもそも存在し得ないものである。
また、甲1C発明では、上記したとおり、そこでの発明が消臭作用を奏するところの因果関係ないしはメカニズムにつき説明されるものは何もないものであり、そうであれば、この点からみても、甲1C発明において、植物由来の消臭有効成分を、カテキン類に置き換えること、そのうえで特定酵素と組み合わせるところの動機付けに欠けるものである。
更には、上記したとおり、本件発明において、当該「特定フェノール性化合物」と「特定酵素」とを組み合わせて採択することにより、消臭効果の極めて優れた消臭剤組成物を提供することができたものであり、また、上記したところの被請求人提出の参考資料1(表1?3)の記載によれば甲1C発明又は従来技術を遙かに超える極めて優れた消臭効果を奏したものであり、そうであれば、仮に、甲1C発明において植物由来の消臭有効成分をカテキン類に置き換えて、かつ、その酸化酵素から特定酵素を選定したとしても、その場合には、その極めて優れた消臭効果につき当業者といえども容易に予測することができないものである。
以上のとおりであり、甲第1号証に記載されている発明において、消臭有効成分として消臭剤として公知のカテキン類を用いる動機付けを欠き、カテキン類を用いてそのうえで特定酵素を選択する動機付けを欠き、更には、カテキン類を用いて特定酵素を選択したときの効果の予測性を欠くところの請求人の上記主張は合理的でなく、採用することができない。

VII-2-3.無効理由2の結論
したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1、5及び6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

VII-3.無効理由3について
(1)当該無効理由につき、請求人は、その審判請求書で、
『本件特許請求の範囲には、本件発明を特定する事項として、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物」及び「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」を記載する。
しかしながら、発明の詳細な説明には、フェノール性水酸基2以上を有するフェノール性化合物と、ポリフェノールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、過酸化水素生成オキシダーゼ及びパーオキシダーゼなどの酸化酵素を用いること及び実施例として悪臭物質に対し、カテコール、(-)エピカテキン、クロロゲン酸、ドーパ、グルコースとクロロゲン酸との混合物などの基質とチロシナーゼ、パーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼとパーオキシダーゼとの混合物などの酸化酵素を反応させた場合や、クロロゲン酸、(-)エピカテキン、インスタントコーヒー、カテコールなどの基質とリンゴ、ゴボウ、ナシ又はマッシュルームのアセトンパウダーを反応させた場合に悪臭がなくなったことを示す例が記載されているだけで、ここで用いられているフェノール性化合物がもつ水酸基が酸化されてケトンになるものであることや、ここで用いられている酵素がフェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素であることことについて、確認は全然行われていない。
したがって、本件特許請求の範囲に記載された「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物」及び「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」を含有するという条件に該当することを特定事項とする本件発明については、発明の詳細な説明に記載がない。』旨(第13頁第17行?第14頁第17行、及び、第14頁下から第2行?第15頁第2行)、主張するものである。
上記請求人の特許法第36条第6項第1号に関する上記主張は、訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された当該フェノール性化合物及び当該酵素が、請求項1に記載される要件を満たすことが訂正明細書の発明の詳細な説明中で確認されていないというものである。
しかし、訂正明細書の段落0008及び0009においては、請求人が指摘する個別のフェノール性化合物が、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物」であることが明示されるものであり、また、訂正明細書の段落0010及び0011には、請求人が指摘する個別の酵素が、「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」であることが明示されるものであり、しかも、それら化合物又は酵素がかかる作用ないしは機能を有することが当該分野の技術常識に適わない又は反するとまではいえないものである。
そうであれば、訂正明細書の発明の詳細な説明において、当該フェノール性化合物及び当該酵素の作用ないしは機能が具体的に開示されない、又は、当該フェノール性化合物及び当該酵素が、請求項1に記載される要件を満たすことが訂正明細書の発明の詳細な説明中で確認されていないからといって、そのことだけから、本件出願が発明の詳細な説明に記載したものではないとまではいえない。
このように、この請求人の主張については、これ以上の検討を要しないものであるが、念のため、請求人の主張に沿って、以下に検討を進めることとする。

本願請求項1の記載は上記訂正請求により訂正されたものであり、その結果、その消臭剤組成物が、「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」及び「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」を少なくとも含有することになる。
以下、請求人が指摘する上記フェノール性化合物及び上記酵素について順次検討する。
(1)まず、フェノール化合物について検討すると、フェノール性化合物であるカテコール、(-)エピカテキン、ドーパ及びクロロゲン酸については、それぞれ、被請求人の提出した本件出願前に頒布された刊行物である参考資料6の1(第278頁左欄カテコールオキシダーゼの項)、同参考資料16(第292頁左欄)、同参考資料18(第924頁右欄)、及び、同参考資料17(第410頁右欄)に記載されるとおり、いずれも、芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物に該当するものであって、その化学構造からみて明らかなとおり、その水酸基が酸化されるとケトンとなり得る構造を具備するものであり、また、インスタントコーヒーについては、同参考資料11(第166頁下段)の記載によれば、当該クロロゲン酸を所定量含むものであって、そのクロロゲン酸は上記したとおりその水酸基が酸化されるとケトンとなり得る構造を具備することは明白である。
してみれば、請求人の指摘するカテコール、(-)エピカテキン、クロロゲン酸、ドーパ、グルコースとクロロゲン酸との混合物、及び、インスタントコーヒーについては、芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物に該当し、その水酸基が酸化されるとケトンとなり得る構造を具備するフェノール性化合物であり、ないしは、その化合物を含むものであり、以上のことは、この分野の技術常識に外ならないといえる。
(2)次いで、酵素について検討すると、チロシナーゼは、カテコールオキシダーゼの別称であり、モノフェノールオキシダーゼ又はモノフェノールモノオキシゲナーゼとの別名(以上、同参考資料6の2第843頁左欄第12?13行、同参考資料7第155頁左欄下から第13行?下から第11行、同参考資料14第192頁左欄下から第16行?下から第14行を参照)を有し、他方、当該モノフェノールモノオキシゲナーゼはフェノラーゼの別称(同参考資料15第1360頁左欄第24?28行を参照)であって当該フェノラーゼはポリフェノールオキシダーゼの別名(甲第4号証第156頁第1?4行目を参照)であり、したがって、チロシナーゼ、カテコールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、更には、モノフェノールオキシダーゼは同種の酵素に外ならないものである。
また、アセトンパウダーは、同参考資料9第32頁左欄下から第3行?右欄第11行及び同参考資料12第187頁下から第7行?下から第1行によれば一種の酵素濃縮標品ということができ、かつ、リンゴには同参考資料7左欄第155頁下から第13行?下から第6行及び同参考資料12第186頁下から第38行?下から第32行によればカテコールオキシダーゼないしはポリフェノールオキシダーゼが含まれ、マッシュルームには同参考資料7左欄第155頁下から第13行?下から第6行によればカテコールオキシダーゼが含まれ、ナシには特開平4-229160号公報段落0007及び特開昭63-283562号公報左下欄下から第8行?右下欄第1行によればポリフェノールオキシダーゼが含まれ、ゴボウには同参考資料20及び特開昭63-283562号公報左下欄下から第8行?右下欄第1行によればポリフェノールオキシダーゼが含まれ、そして、同参考資料6の1第278頁左欄第38行?下から第6行目で示されるとおりカテコールオキシダーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)は自然界に広く分布するものであることを併せてみると、リンゴ、マッシュルーム、ナシ及びゴボウの各アセトンパウダーには、いずれも、ポリフェノールオキシダーゼ(ないしはカテコールオキシダーゼ)が含まれているといえるものであり、このことは本件出願前に周知の事項であるということができる。
そして、上記したとおり同種の酵素であるチロシナーゼ、カテコールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ及びモノフェノールオキシダーゼは、例えば、同参考資料6の1第278頁左欄第38行?下から第6行目で示されるとおり、カテコール誘導体をキノン構造の誘導体に酸化させる作用を有することも周知の事項に外ならない。
次に、パーオキシダーゼは、例えば、同参考資料8及び同参考資料21第402頁右欄下から第3行?第403頁左欄第6行で示されるとおり、過酸化水素の存在下に二価フェノール及びカテコール誘導体であるピロガロールを酸化するものであり、また、グルコースオキシダーゼ又は過酸化水素生成オキシダーゼとパーオキシダーゼとからなる酵素はパーオキシダーゼを含むことから(必要であれば、更に、同参考資料19第392頁右欄第7?21行を参照)、二価フェノール及びカテコール誘導体であるピロガロールを酸化するものであり、これらのことは周知のことに外ならず、そして、これら酵素は、その酸化させる作用により、二価フェノール及びカテコール誘導体であるピロガロールをキノン構造の化合物に変え得ることは容易に推認できる。
してみれば、請求人の指摘するポリフェノールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、過酸化水素生成オキシダーゼ及びパーオキシダーゼとの混合物、チロシナーゼ、パーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼとパーオキシダーゼとの混合物、リンゴのアセトンパウダー、ゴボウのアセトンパウダー、ナシのアセトンパウダー、及び、マッシュルームのアセトンパウダーについては、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であるところの、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸をキノン構造を有する化合物に酸化するものであることが、無理なく推認することができる。
(3)以上のとおりであり、訂正明細書の発明の詳細な説明において、そこで用いられているフェノール性化合物がもつ水酸基が酸化されてケトンになるものであることや、そこで用いられている酵素がフェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素であることについて、具体的に確認が行われていないとしても、上記(1)及び(2)で記載したとおり、本件発明のフェノール性化合物及び酵素が、そのような作用又は機能を保有することは、当該分野の技術常識といえるものであり、ないしは、周知技術に基づいて容易に推認できるものである。
(4)そうであれば、訂正明細書の発明の詳細な説明においては、本件発明の消臭剤組成物が、本件特許請求の範囲に記載された「水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物」及び「該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素」を含有することが、実質上、確認できるものであり、その発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
したがって、請求人の指摘する理由によっては、本件出願が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

VIII.まとめ
以上のとおり、訂正後の本件請求項1に係る発明についての特許は、請求人の主張する理由によっては、無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
消臭剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物であって、カテコール、カテキン類、ドーパ、クロロゲン酸の中から選ばれる化合物と、該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素とを少なくとも含有する消臭剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は消臭剤組成物に関し、さらに詳しくは口臭、冷蔵庫内の臭い、ペットや家畜に由来する臭い、工場内の臭い、あるいは工場廃液中の悪臭など、人にとって悪臭と感じられる環境の臭いを消去する為に使用する消臭剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、冷蔵庫内などの臭い、口臭、家畜の臭いなど、私たちの周りにはいろいろな臭いが存在し、その臭いが人に不快感を与えるため、その臭いを消去する工夫がいろいろとなされており、その消臭方法の一つとして、悪臭をもたらす原因である物質を吸着除去する方法が知られている。このような消臭用物質として、例えば、活性炭、カテキンを含有するお茶が知られている。
【0003】
しかし、活性炭は微量な物質を十分に除去することができないうえに、食品など人の口内にふくませるものには使用できず、さらに多量の物質を吸着した後の活性炭を廃棄すると地球環境の悪化を招く原因となるという、不都合さがある。その点、カテキン等の天然に存在する物質は地球環境に優しく、チューインガムなどに配合し、口臭を除去することが可能であるが、消臭効果の点では十分ではないという欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、消臭効果に優れ、地球環境に優しい消臭剤組成物を開発することが本発明の課題である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、カテキン類等のフェノール性化合物が消臭効果を有する点に着目し、鋭意研究した結果、これらの化合物にポリフェノールオキシダーゼを共存させると、消臭効果が驚くほど向上するという知見を得、遂に本発明に到達したものである。
【0006】
即ち、フェノール性化合物の消臭作用は、それらの化合物がその環境中の酸素又は酸化酵素によって酸化されて反応性の高いキノン構造になり、それらがさらに悪臭物質と反応して消臭効果を奏するものと推定されるが、本発明においては、ポリフェノールオキシダーゼを積極的に共存させることにより、この自動酸化を促進させ、短時間で、しかも高い消臭率で悪臭を消去できると推定される。
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明は、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物と、該フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する酵素を少なくとも含有することを特徴とする消臭剤組成物である。
【0008】
本発明の消臭剤組成物の一方の成分は、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つ芳香環に直接結合されたフェノール性水酸基を2以上有するフェノール性化合物(以下、フェノール性化合物と略称することがある)であり、ここでいうフェノール性水酸基とは、ベンゼン等の芳香環に直接結合された水酸基を意味する。芳香環としては、水酸基が酸化されてケトンとなる構造を持つものであれば、どのようなものでもよいのであり、例えば、ベンゼン、ピリジン、チオフェン、ナフタレン、ビフェニル等が挙げられるが、ベンゼンがより好ましい。
【0009】
フェノール性化合物としては、例えば、カテコール、4-メチルカテコール、5-メチルカテコール、レゾルシノール、2-メチルレゾルシノール、5-メチル-レゾルシノール、ハイドロキノン等のジフェノール類;4,4’-ビフェニルジオール、3,4’-ビフェニルジオールなどのビフェニルジオール類;(+)カテキン、(-)エピカテキン、(-)エピガロカテキン、エピカテキンガレートなどのカテキン類、ドーパ、ドーパミン、クロロゲン酸、コーヒー酸、パラクマル酸、チロシンなどのカテコール誘導体などを挙げることができる。なかでも、カテコール、カテキン類、及びクロロゲン酸が好ましく、特にカテキン類、クロロゲン酸が好ましい。これらの化合物は、2種類以上共存させてもよい。
【0010】
本発明の消臭剤組成物のもう一方の成分であるフェノール性化合物を酸化する酵素は、上記フェノール性化合物をキノン構造を有する化合物に酸化する作用を有する酵素、あるいは当該作用と共に、フェノール性水酸基を付加させ、キノンに酸化させる作用を有する酵素を意味する。この作用を有する酵素であれば、どのようなものでもよいが、例えば、ポリフェノールオキシダーゼ、モノフェノールオキシダーゼ、過酸化水素を生成するオキシダーゼ及びパーオキシダーゼを挙げることができる。より具体的には、ラッカーゼ、チロシナーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼを好ましいものとして挙げることができる。これらの酵素も2種類以上共存させてもよい。
【0011】
また、本発明では、上記作用を有するかぎり、前記酵素を含有する物質又は組成物も本発明のフェノール性化合物を酸化する酵素の範囲内のものである。その例として、前記酵素を含む植物からの抽出物、前記酵素を含む微生物からの抽出物、あるいはそれら抽出物を含む粉末、例えばアセトンパウダーを例示できる。前記酵素を含む植物としては、リンゴ、ナシ、ゴボウなどの果物や野菜が好ましく、同様な微生物としては、マッシュルームやイロガワリなどのハラタケ属やヤマドリタケ属のきのこが好ましい。
【0012】
これら酵素は市販されたものを使用することができるが、本出願前公知の方法を用いて調製することもできる。
【0013】
本発明の消臭剤組成物には、前記2成分の他に、担体、安定剤、増量剤など常用の配合剤が添加・配合されていてもよい。
【0014】
本発明の消臭剤組成物は悪臭物質を除去することができるが、その悪臭物質の例としては、メルカプタン等の含硫黄化合物あるいはインドール、スカトール、アミン類その他の含窒素化合物がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の消臭剤組成物を用いて消臭するには、該組成物を悪臭物質存在下に、接触反応させることにより達成されるが、通常は反応を容易に進行させるために混合することが望ましい。この際、水を共存させると反応が円滑に進行し、有利である。
【0016】
その際の温度は、酵素反応が進行する範囲内であればどのような温度でもよく、酵素の種類により異なるが、通常、室温で混合すると反応が速やかに進行し、好ましい。また、所要時間は、これまた酵素の種類及び使用量により異なるが、通常数分間から数十時間までで十分である。その他の条件は、前記酵素反応が進行する環境に設定されるものであれが、特に制限されるものではない。
【0017】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
参考例1
フェノール性化合物を酸化する酵素の一調製法として、アセトンパウダーの調製法を以下に示す。
植物あるいはきのこ(下記実施例のリンゴやゴボウ等)100gに-20℃のアセトン400mlを入れてミキサーで磨砕した後、吸引濾過した。残渣は5℃の80%アセトン500mlで十分に洗浄し、さらにアセトンを除去後、凍結乾燥して粉末にしてアセトンパウダーを得た。
【0019】
実施例1?6
30mlバイアル瓶に下記表1記載の市販の酵素製品(SIGMA Chemical Co.製)、水1ml及び悪臭物質であるCH3SNaの約15%水溶液を2μl入れ、さらに表1記載の市販の基質(フェノール性化合物)2mgの水溶液0.5mlを加え、手で振盪した。表1記載の時間、振盪あるいは放置すると反応液の色が変化した。このバイアル瓶内のガス10mlを検知管〔ガステック(株)〕に通して、ガス内に残存する悪臭物質の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例8?14
30mlのバイアル瓶に上記のようにして調製したアセトンパウダー10mg及び水1mlを入れて懸濁させておき、それにCH3SNaの約15%水溶液2μlを入れ、さらに表2記載の市販の基質2mgの水溶液0.5mlを加え、手で10分間振盪した。ついで、バイアル瓶内のガス10mlを検知管〔ガステック(株)〕に通して、ガス内に残存する悪臭物質の濃度を測定するとともに、実際に臭いをかいだ。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
実施例15
クロロゲン酸2mgとゴボウのアセトンパウダー10mgとを含むチュウイングガム(A)3gを用意した。一方、比較のためにクロロゲン酸2mgを含むチュウイングガム(B)3gも用意した。
すりおろしたニンニク0.5gを被験者(A)の口に5分間含ませ口の中に臭いをつけた後、口を水ですすいだ。上記チュウイングガム(A)を10分間噛んだ後、ポリエステル製の袋に口からの呼気を集め、袋内の臭いを評価した。被験者(B)に対しチュウイングガム(B)を噛ませる以外は、同様な操作を行った。その結果、被験者(A)の呼気は殆ど臭が消えているが、被験者(B)の呼気にはニンニク臭が残っていた。
【0024】
実施例16
クロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlとゴボウのアセトンパウダー40mgとを用意した。一方、比較のためにクロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlを用意した。
すりおろしたニンニク0.5gを被験者(C)の口に5分間含んで口の中に臭いをつけた後、口を水ですすいだ。引き続いて、上記クロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlとゴボウのアセトンパウダー40mgとを口に5分間含んだ。口腔内をすすいだ後、実施例16と同様な操作で被験者(C)の呼気を集め、臭いを評価した。被験者(D)に対しクロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlを噛ませる以外は、同様な操作を行った。その結果、被験者(C)の呼気は殆ど臭が消えているが、被験者(D)の呼気にはニンニク臭が残っていた。
【0025】
実施例17
30mlのバイアル瓶にリンゴのアセトンパウダー10mg、水1mlおよび家畜の糞尿から分離した液20μlを入れておき、さらにクロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlを加えて手で10分間振盪した。ついでバイアル瓶内のガスの臭いを実際にかいだ。比較のために、リンゴのアセトンパウダー10mgを欠いたもの、クロロゲン酸2mgの水溶液0.5mlを欠いたもの、両方とも欠いたものの3種を用意し、同様に操作してガスの臭いを実際にかいだ。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【発明の効果】
本発明の消臭剤組成物を用いる消臭方法は、消臭用基材であるフェノール性化合物をこれを酸化する酵素と共存させることにより、活性化して用いるため、短時間に反応が進行し、優れた消臭効果を奏する。本消臭剤組成物を口臭の消去に用いる場合、酵素として野菜やきのこなどの食物を用いることにより、極めて安全性の高い消臭方法となる。また、環境中の悪臭を消去する場合にも環境汚染の問題を起こすことがない。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-11-24 
結審通知日 2007-07-20 
審決日 2007-07-31 
出願番号 特願平7-212999
審決分類 P 1 113・ 113- YA (A61L)
P 1 113・ 121- YA (A61L)
P 1 113・ 537- YA (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 廣野 知子
松本 貢
登録日 2004-06-11 
登録番号 特許第3562668号(P3562668)
発明の名称 消臭剤組成物  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 田村 恭子  
代理人 阿形 明  
代理人 小林 浩  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 小林 浩  
代理人 北原 潤一  
代理人 北原 潤一  
代理人 田村 恭子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ