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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1166322
審判番号 不服2005-3154  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-23 
確定日 2007-10-18 
事件の表示 平成 8年特許願第286922号「転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月22日出願公開、特開平10-131970〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成8年10月29日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年12月20日付けの手続補正が原審において平成17年1月18日(起案日)付けで決定をもって却下され、平成17年2月23日付けの手続補正が当審において平成19年2月20日(起案日)付けで決定をもって却下されているので、平成16年9月13日付け及び平成19年5月14日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
潤滑剤としてのグリースまたは潤滑油により潤滑された状況で使用される転がり軸受であって、
一般軸受鋼からなる軌道輪および転動体の少なくとも一方の表面から内側に向かって、窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層が形成され、
窒化層の表面には、上記潤滑剤が保持されて、この潤滑剤による油膜が形成されることを特徴とする転がり軸受。」

2.引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
当審において平成19年3月7日(起案日)付けで通知した拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-54123号公報(以下、「刊行物1」という。)には、鋼の表面に窒化層を形成して耐摩耗性等を向上させる鋼の窒化方法に関して、下記の事項ア?オが図面とともに記載されている。
ア;「【従来の技術】耐摩耗性、耐食性、疲労強度等の機械的性質を向上させる目的で、鋼の表面に窒化物の層を形成する窒化法あるいは、浸炭窒化法として従来採用されてきた方法は次のようなものである。
(イ)NaCN、KCNO等のシアン系溶融塩による方法(タフトライド法)
(ロ)グロー放電による窒化(イオン窒化)
(ハ)アンモニアまたはアンモニアと炭素源を有するガス(例えばRXガス)との混合ガスによる窒化(ガス窒化、ガス軟窒化)
これらのうち、(イ)の方法は、有害な溶融塩を用いるので作業環境、廃棄物処理等の点で将来的に好ましくない。また、(ロ)の方法は、低真空のN2+H2雰囲気中でグロー放電により窒化するもので、スパッタリングに伴う清浄化作用により酸化皮膜の影響は少なくなるが、局部的な温度差による窒化ムラが発生しやすい。また、この方法は、処理物の形状寸法に制約が大きく、コスト高となるという問題点がある。さらに、上記(ハ)の方法は、窒化ムラが生じやすい等、処理の安定性に問題があり、しかも深い窒化層を得るためには長時間を要するという問題点もある。」(第2頁1欄12行?32行;段落【0002】及び【0003】参照)

イ;「【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑み、窒化処理前洗浄後の残存有機無機異物や、被処理物の酸化皮膜による窒化ムラ等の発生を効果的に解消すること、およびこの目的を達成するため、処理プロセス上シンプルなシステムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、この発明の鋼の窒化方法は、鋼の表面に窒素を反応させて硬質の窒化層を形成する鋼の窒化方法において、鋼を予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成するという構成をとる。ここで、窒化方法とは、浸炭窒化法、酸窒化法、浸硫窒化法等の各種窒化法を包含する。」(第2頁2欄22行?35行;段落【0007】及び【0008】参照)

ウ;「本発明の方法をより具体的に説明すると、鋼製のワークを例えば脱脂洗浄し、図1に示すような熱処理炉1に挿入する。この炉1は外殻2内に設けたヒータ3の内側にステンレス製内容器4を入れたビット炉で、ガス導入管5と排気管6が挿入されている。ガス導入管5にはボンベ15,16から流量計17,バルブ18等を経由してガスが供給される。内部の雰囲気はモータ7で回転するファン8によって攪拌される。ワーク10は金鋼製のコンテナ11に入れて炉内に挿入される。図中、13は真空ポンプ、14は除害装置である。この炉中にフッ素を含む反応ガス、例えばNF3とN2の混合ガスを導入し、所定の反応温度に加熱する。NF3は250?400℃の温度で活性基のF分を発生し、このFが表面に残存している有機無機の異物を除去すると共に、鋼表面のFe,Cr素地あるいはFeO,Fe3O4,Cr2O3等の酸化物と迅速に反応して、例えば下記の式に示すごとく、表面にFeF2,FeF3,CrF2,CrF4等の化合物を金属組織中に含むごく薄いフッ化膜が形成される。
【化1】
FeO+2F→FeF2+1/2O2
Cr2O3+4F→2CrF2+3/2O2
この反応により、ワーク表面の酸化皮膜はフッ化膜に変換され、表面に吸着されついたO2も除去される。そして、このようなフッ化膜は、O2,H2,H2Oが存在しない場合600℃以下の温度で安定であって後続の窒化処理温度までの間における金属素地への酸化皮膜の形成やO2の吸着を防止すると考えられる。
このように、フッ素を含有する反応ガスで処理したワークは、例えばN2雰囲気等の非酸化性雰囲気下で引続き480?700℃の窒化温度に加熱され、NH3あるいはNH3と炭素源を有するガス(例えばRXガス)との混合ガスを添加すると、フッ化膜はH2または微量の水分によって例えば下記の式のように還元あるいは破壊され、活性な金属素地が形成されると推測される。
【化2】
CrF4+2H2→Cr+4HF
2FeF3+3H2→2Fe+6HF
このように、活性な金属素地が形成されると同時に活性基のNが吸着されて金属内に侵入、拡散してゆき、その結果、表面にCrN,Fe2N,Fe3N,Fe4N等の窒化物を含有する化合物層が形成される。
このような化合物層が形成されるのは、従来の窒化法でも同様であるが、従来法では、常温より窒化温度まで昇温する間に形成される酸化皮膜や、このとき吸着されるO2分によって表面の活性度が低下しているので、Nの表面吸着の度合いが低く、不均一である。また、このような不均一性は、NH3の分解の度合いを炉内で均一に保つことが実際上困難であることによっても拡大されるのである。本発明ではワーク表面におけるNの吸着が均一かつ迅速に行われるので、上記のような問題は生じない。本プロセスでは、フッ化膜が600℃以下で安定な不動態膜を形成するため、金属性の炉材の損傷はきわめて少ない。
上記本発明の操作プロセス上の大きな特徴の一つは、フッ化膜を形成させる反応ガスとしてのNF3のような常温で反応性がなく、ガス状の取扱い易い物質を用いることにより、メッキ処理や固体のPVC液体の塩素源を用いるなどの方法に比べて処理が連続操作となるなどプロセスがシンプルな点にある。タフトライド方式は、窒化層の付き廻り性や疲労強度の向上への効果等ですぐれた方法といえるが作業環境、公害設備等への大きな費用がかかる点で将来にひらけた方法とはいえない。上記プロセスでは処理廃ガスを除害化するための簡易な装置だけで充分であり、タフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラの排除が可能となるほか、タフトライド方式が浸窒と同時に浸炭も進行するのに比べて、純窒化のみも可能である。」(第2頁2欄50行?第3頁4欄26行;段落【0010】?【0017】参照)

エ;「得られたワークの窒化層の厚みは均一で、その硬度は基材の部分が260?280Hvであるのに対し、表面硬度が1100?1300Hvであった。」(第3頁4欄35行?37行;段落【0019】参照)

オ;「【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明の窒化法は従来のガス窒化、ガス軟窒化を改良するもので、均一な窒化層を迅速に得ることが可能となった。また、鋼種、加工段階、前処理状態等の如何にかかわらず良好な窒化層を得ることができ、穴やスリットを有する部品でも窒化が可能である。さらに、オーステナイト系ステンレス鋼のような窒化困難な鋼種に対しても、容易に窒化できる等の利点がある。」(第4頁6欄13行?20行;段落【0028】参照)

刊行物1に記載された上記記載事項ア?オ及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明と2つの技術的事項が記載されているものと認めることができるものである。
「鋼の表面に窒素を反応させて硬質の窒化層を形成する鋼の窒化方法において、鋼を予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成する鋼の窒化方法。」

技術的事項1;鋼の表面に窒素を反応させて硬質の窒化層を形成する鋼の窒化方法において、鋼を予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成するという構成をとれば、タフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラの排除が可能となり、窒化ムラのない均一な窒化層が得られること。

技術的事項2;本発明(刊行物1に記載された発明)の窒化法は従来のガス窒化、ガス軟窒化を改良するもので、均一な窒化層を迅速に得ることが可能となり、また、鋼種、加工段階、前処理状態等の如何にかかわらず良好な窒化層を得ることができ、穴やスリットを有する部品でも窒化が可能であり、さらに、オーステナイト系ステンレス鋼のような窒化困難な鋼種に対しても、容易に窒化できること。

<刊行物2>
同じく引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平4-47479号(実開平5-96486号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、液化ガスポンプモータ用軸受に関して、下記の事項カ?ケが図面とともに記載されている。
カ;「該転がり軸受の外輪はモータポンプ本体のハウジングに装着され、内輪はモータポンプの軸に嵌合されている。
この種の用途に用いられている従来の転がり軸受の外輪、内輪および転動体は、全て耐食性のあるマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C等)又は転動体が高速度(工具)鋼(AISI M50)が使用されている(例えば実開昭63-69818号公報参照)。」(第3頁12行?18行;段落【0003】及び【0004】参照)

キ;「そこで、上記条件下でも転がり軸受内・外輪軌道面あるいは転動体の摩耗を低減することを本考案の技術的課題とするものである。
【課題を解決するための構成】
上記技術的課題を解決するため、本考案の液化ガスポンプモータ用軸受の構成すなわち、外輪と内輪間に複数個の転動体を有する転がり軸受において、該外輪と内輪は鋼材より形成されると共に該外輪および内輪の表面にはイオン窒化処理を施すことにより窒化層が形成され、さらに該外輪および内輪の軌道面にそれぞれ硬質クロームメッキ処理を施すことにより硬質クロームメッキ層が形成されてなり、そして前記転動体が高速度鋼若しくは窒化硅素から構成されている。
【作用】
上記せるように、前記外輪および内輪に耐摩耗性の向上を狙って、該外輪および内輪にイオン窒化処理を施して窒化層が形成されているので表面硬さが向上され、さらに各軌道面はその上に硬質クロームメッキを施して硬質メッキ層が形成されているので、表面硬さが向上された上に、使用中の液化ガスによるケミカルアタック(水素脆化)に対する耐性の向上が得られる。」(第4頁5行?21行;段落【0008】?【0010】参照)

ク;「10,20は高速度鋼(AISI M50)の如き鋼材からなる単列深溝玉軸受の外輪および内輪で、該外輪10および内輪20の外周面には真空放電などのイオン窒化処理により約50?100μm程度のイオン窒化層101,201が形成され、ついで、該イオン窒化層101,201が形成された外輪10の外径面並びに内輪20の内径面および外・内輪10,20の軌道面には硬質クロームメッキ処理により約10μm前後の硬質クロームメッキ層102,202が形成される。」(第5頁4行?10行;段落【0013】参照)

ケ;「【考案の効果】
従来の液化ガスポンプモータ用軸受は耐腐食性にとむマルテンサイト系のステンレス鋼を用いているので、LNG、LPG、プロパン、フロンおよびブタンなどの如き極めて低粘度にして、かつ潤滑性能の著しく悪い取り扱い液中では外・内輪の軌道面および転動体に摩耗が発生し易いため、軸受の寿命が極端に短くなることが判明した。
本考案は、軸受の表面硬さを上げると共に耐摩耗性を上げるべく、鋼材の外輪および内輪にイオン窒化処理にて厚さ約50?100μm程度の比較的厚さの厚い窒化層が形成されることにより、その表面硬さがHV1200程度まで上げ、さらに前記窒化層の軌道面および外輪の外径面と内輪の内径面に厚さ約10μm前後の高密度クローム薄膜メッキ層を形成したところ、所期の硬さが向上し、かつ水素脆性が生じない。
また、上記せる処理工程をへた軸受の耐摩耗性が著しく向上し、寿命が延び、かつ軌道面並びに転動体が摩耗しないので、振動および騒音を低減せしむることができる。
また、軸受のケミカルアタック(水素脆性)に対する耐性の向上を計ることができるなどの作用効果を奏する。」(第5頁27行?第6頁17行;段落【0018】?【0021】参照)

刊行物2に記載された上記記載事項カ?ケ及び図面の記載からみて、刊行物2には、下記の周知の発明が記載されているものと認めることができるものである。
「外輪と内輪との間に複数個の転動体を有する転がり軸受において、該外輪と内輪は鋼材より形成されるとともに、該外輪および内輪の表面にはイオン窒化処理を施すことにより窒化層が形成された軸受。」

3.対比・判断
刊行物1に記載された発明の窒化方法によりワーク表面に形成される窒化層は、タフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラを排除した均一な窒化層として形成されるものであるから、その窒化層は、本願発明でいうところの「表面から内側に向かって緻密且つ積層された状態の窒化層」に実質的に相当するものと認めることができるものである。
そこで、本願発明の用語を使用して本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「一般鋼からなる機械構造部品の表面から内側に向かって、緻密且つ積層された状態(窒化ムラのない均一な厚み)の窒化層が形成された機械構造部品(ワーク)。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願発明では、機械構造部品が潤滑剤としてのグリースまたは潤滑剤により潤滑された状況で使用される転がり軸受であって、一般軸受用鋼からなる軌道輪および転動体の少なくとも一方の表面に窒化層を形成するものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、機械構造部品はワークとされており、格別限定されるものではなく、鋼種の如何にかかわらず鋼の表面に窒化層を形成するものである点。

相違点2;本願発明では、転がり軸受の表面に形成される窒化層は平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層であって、窒化層の表面には、潤滑剤が保持されて、この潤滑剤による油膜が形成されるものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ワークの表面には窒化ムラのない均一な厚みの窒化層が形成されるものではあるが、この窒化層の平均粒子径については不明であり、また、その表面には、潤滑剤が保持されて、この潤滑剤による油膜が形成されるものであるかどうかも不明である点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は下記のとおりである。

《相違点1について》
一般軸受用鋼(マルテンサイト系ステンレス鋼等)からなる転がり軸受の内・外輪又は転動体の表面に表面硬化層として窒化層を形成することは上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に普通に採用されている技術事項(もし必要なら、他に、特開平6-341442号公報、原審の拒絶理由に引用された特開平5-25609号公報等参照)にすぎないものである。
そして、刊行物1に記載された発明の窒化方法は、鋼種の如何にかかわらず各種のワーク(機械構造部品)に適用できるものであって、本願発明のような一般軸受用鋼からなる転がり軸受の内・外輪又は転動体に適用することを妨げる格別の事情がないことは当業者であれば普通に理解できる事項と認められる。
してみると、上記刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された上記周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の鋼の窒化方法を適用するワークを一般軸受用鋼からなる転がり軸受の内・外輪又は転動体として上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
本願発明において転がり軸受の表面に形成される窒化層を「窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層」とすることの技術的意義について本願の明細書及び図面の記載を参酌して検討しても、「窒化物の平均粒子径を1μm以下」と限定したことには臨界的意義を認めることができないもの(例えば、周知例の一つとして例示した特開平5-25609号公報の転がり軸受の表面層に存在する窒化処理により形成される炭窒化物の平均粒径も0.5?1.5μmである。)であって、刊行物1に記載された鋼の窒化方法と同様の方法(鋼からなるワークを予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成する方法)によって形成した窒化ムラのない均一な窒化層を実質的に意味するにすぎないものであって、何ら格別な窒化層を意味するものとは認めることができないものである。
してみると、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された上記周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の鋼の窒化方法を適用して転がり軸受の内・外輪又は転動体の表面にタフトライド方式と同等以上の付き廻り性で窒化ムラを排除した均一な窒化層(本願発明でいうところの「窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層」に実質的に相当)を形成して、その窒化ムラを排除した均一な窒化層の表面には、潤滑剤が保持されて、この潤滑剤による油膜を形成させることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、平成19年5月14日付けの意見書において、「すなわち、刊行物1(上記刊行物1)は、硬度の高い窒化層を形成することで、鋼の耐摩耗性を向上させることが記載されているに過ぎません。また、刊行物1には、窒化物の平均粒子径を1μm以下とすることは、記載も示唆もありません。また、刊行物1には、窒化層を潤滑剤により潤滑するということさえも記載されていません。これに対して、本願請求項1の発明(本願発明)は、窒化物の平均粒子径を1μm以下にすることにより、少量の潤滑剤でも油膜を確実に形成できて、耐焼き付き性を高めるものです。従って、刊行物1と本願請求項1の発明とは、顕著に異なります。」(【意見の内容】の[4]本願請求項1の発明と各刊行物との相違の項参照)旨主張している。

しかしながら、本願発明において転がり軸受の軌道輪及び転動体の少なくとも一方の表面に形成する「窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層」は、従来の窒化層形成方法であるタフトライド法に代えて刊行物1に記載された発明の鋼の窒化方法(鋼からなるワークを予めフッ素を含む反応ガス雰囲気中に加熱保持して表面層にフッ化物膜を生成した後窒化雰囲気中で加熱して窒化層を形成する方法)を適用して形成した窒化物の窒化ムラのない均一な窒化層を意味するにすぎないものであって、何ら格別な技術的意義のある窒化層を意味するものでないことは上記のとおりである。
また、本願発明において「平均粒子径を1μm以下とする」と限定したことも、周知の窒化方法により形成される平均粒径(平均粒子径)と格別相違するものではなく、臨界的意義のある数値範囲を意味するものとは認めることができないものであることは、上記のとおりである。
そして、刊行物1に記載された発明の鋼の窒化方法により転がり軸受の軌道輪及び転動体の少なくとも一方の表面に窒化層を形成すれば、その表面に形成される窒化層は、本願発明でいうところの「窒化物の平均粒子径が1μm以下の緻密且つ積層された状態の窒化層」と実質的に同様の窒化層を有するものとなって、少量の潤滑剤でも油膜を確実に形成できて、耐焼き付き性を高めるという本願発明と同様の作用効果を奏するものと認められる。
よって、請求人の上記意見書中での主張は採用することができない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-15 
結審通知日 2007-08-21 
審決日 2007-09-03 
出願番号 特願平8-286922
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 大町 真義
礒部 賢
発明の名称 転がり軸受  
代理人 稲岡 耕作  

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