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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1166388
審判番号 不服2005-1598  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-31 
確定日 2007-10-15 
事件の表示 特願2000-31600「光情報媒体とその記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月2日出願公開、特開2000-306272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成12年2月9日(優先権主張 平成11年2月19日)の出願であって、拒絶理由通知に対し、応答期間内である平成16年12月3日付けで手続補正されたが、同年12月21日付けで拒絶査定され、平成17年1月31日付けで拒絶査定不服の審判を請求するとともに、平成17年2月2日付けで手続補正がされたものである。
これに対して、当審が平成19年5月28日付けで、拒絶理由を通知したところ、その応答期間内である平成19年6月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されている。

本願の請求項1乃至4に係る発明は、平成17年2月2日付け手続補正(手続補正指令に応答して提出された平成17年3月17日付け手続補正参照)により、補正された特許請求の範囲1乃至4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 記録光を透過する透光性基板(1)と、この透光性基板(1)の表面上に形成されたトラッキング用のグルーブ(3)と、前記グルーブ(3)の間のランド(4)と、これらグルーブ(3)とランド(4)が形成された透光性基板(1)の表面上に形成された記録層(12)と、この記録層(12)の上に形成され、記録、再生光を反射する反射層(13)とを有し、前記透光性基板(1)から入射させた記録光により、光学的に読み取り可能な信号を記録する光情報媒体において、前記ランド(4)の上面部の幅dが、0.30μm≦d≦0.45μmであり、前記記録層(12)の熱伝導率をρとしたとき、0.15W/mK≦ρ≦0.25W/mKであり、さらに透光性基板(1)の射出成形時に前記ランド(4)の上面部の外縁に形成される突出部(15)の突出寸法が10nm以下であることを特徴とする光情報媒体。」(以下、「本願発明」という。)

2.当審が通知した拒絶理由の概要

当審が通知した拒絶理由の概要は、本願は、その明細書と図面の記載が不備で特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断

本願明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしているか、以下検討する。

(1) 本願明細書の記載事項
「記録層の熱伝導率」について本願明細書の発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付加した。)

ア.「さらに、本願の記録媒体では、記録層12の熱伝導率が0.15W/mK≦ρ≦0.25W/mKであることが好ましい。記録層12の熱伝導率が0.15W/mKより小さいとジッターが大きくなってしまう。また、記録層12の熱伝導率が0.25W/mKより大きいと良好な変調度が得られなくなる。記録層12は、有機色素等から形成されており、この記録層12には、光安定化剤を含んでいてもよい。この記録層12の好ましい色素として例えば、シアニン系色素、…<中略>…などが挙げられる。
前記のlは、 l=1-b/aが0.2≦l≦0.5が好ましい。前記lが0.2未満だと熱伝導率が大きくなり、良好な変調度が得られなくなる。また、lが0.5より大きいと熱伝導率が小さくなり、ジッターが悪化する。ここで前記のlは、前記の記録層12のレベリングの度合いを示す指標であり、レベリングが進むとプリグループ3の深さaとそのプリグループ3における記録層12の深さbの差が大きくなり、lの値は大きくなる。……l=1はレベリングが完全になされた結果、プリグループ3における記録層12の深さbが0となった状態である。」(段落[0014]?[0015]、なお、段落[0014]は平成16年12月3日付け手続補正、段落[0015]は平成19年6月29日付け手続補正によりそれぞれ補正されている。)
イ.「(実施例1)
外径120mmφ、内径15mmφ、厚さ0.597mm、屈折率1.59のポリカーボネート基板であって、その一方の主面に半値幅w=0.31μm、深さa=140nm、両面側の傾斜角θ=65゜、トラッキングピッチp=0.74μmのトラッキング用のグルーブ3を有する透光性基板1を用意した。このランド4の上面の幅dは、d=0.32μmである。また、この透光性基板1のランド4の下面の幅cは、c=0.53μmであり、d/cは0.60である。
この透光性基板1の前記グルーブ3を有する面側に、シアニン色素(トリメチン色素)の溶液をスピンコート成膜し記録層12を形成した。
この記録層12におけるレベリング指標l=1-b/a=0.25である。また、この記録層12における熱伝導率は0.23W/mKである。」(段落[0029]?[0030])
ウ.「(実施例2)
前記実施例1において、ランド4の上面の幅d=0.38μm、としたこと以外は、同実施例1と同様にして光情報媒体を作った。この時、d/c=0.72であった。
この記録層12のレベリング指標l=1-b/a=0.33であり、この記録層12の熱伝導率は0.2W/mKである。」(段落[0033])
エ.「(実施例3)
前記実施例1において、ランド4の上面の幅d=0.42μmとしたこと以外は、同実施例1と同様にして光情報媒体を作った。このとき、d/c=0.79であった。
また、この記録層12におけるレベリング指標l=1-b/a=0.38であり、この記録層12における熱伝導率は0.18W/mKであった。」(段落[0035])
オ.「(比較例1)
前記実施例1において、透光性基板1のランドの上面の幅d=0.25μmとしたこと以外は、同実施例1と同様にして光情報媒体を作った。この時、d/c=0.47であった。
この記録層12におけるレベリング指標l=1-b/a=0.18であり、この記録層12における熱伝導率は0.27W/mKである。」(段落[0037])
カ.「(比較例2)
前記実施例2において、透光性基板1のランドの上面の幅d=0.48μmとしたこと以外は、同実施例2と同様にして光情報媒体を作った。この時、d/c=0.91であった。
この記録層12におけるレベリング指標l=1-b/a=0.52であり、この記録層12の熱伝導率は0.13W/mKであった。」(段落[0039])

(2) 特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
本願発明において、「記録層(12)の熱伝導率をρとしたとき、0.15W/mK≦ρ≦0.25W/mK」であることは、発明を特定する事項である。
ところで、通常の技術用語である「熱伝導率」(熱伝導度)とは、例えば「理化学事典(第3版)」(岩波書店1971年発行)に「物体内部の等温面の単位面積を通って単位時間に垂直に流れる熱量と、この方向における温度勾配との比をいう。熱伝導度は一般に物質については定数であるが、温度、圧力により変化する。」と記載されているとおり(1001頁右欄、「熱伝導度」の項)、物質固有の値であって、その形状等によって異なる値ではない。
この点については、請求人も請求の理由において「理化学事典」を引用して、材料が特定されれば熱伝導率は一義的に決まるものである旨説明している。
これに対し、本願明細書の発明の詳細な説明には「記録層の熱伝導率」について、「前記lが0.2未満だと熱伝導率が大きくなり、良好な変調度が得られなくなる。また、lが0.5より大きいと熱伝導率が小さくなり、ジッターが悪化する。」と記載されており(上記ア)、実施例1?3及び比較例1、2によれば、ランドの上面の幅が異なる以外は同様にして光情報媒体を製造した(したがって、記録層はいずれも同じシアニン色素を用いたと解される。)にもかかわらず、記録層における熱伝導率はレベリング指標(1の値)によって異なる値になっている。(上記イ?カ)
ここで、本願発明における「熱伝導率」が、通常の技術用語のとおりの意味で用いられているとすると、記録層の物質が同じであるときに、形状の違いにより熱伝導率が異なることが説明されている実施例及び比較例は、技術的に矛盾するものであり、技術常識に反している。本願発明は、矛盾する実施例及び比較例の結果を根拠に、熱伝導率の数値範囲を特定しているものであるから、本願発明は明確でない。

一方、本願発明における「熱伝導率」とは、実施例のように色素の種類など記録層に使用する物質に固有の値ではなく、記録層の形状(レベリング指標等)によって変動する値であるとすれば、通常の技術用語である「熱伝導率」とは異なる意味で使用されているというべきである。
明細書の記載において、用語はその有する普通の意味で使用し、特定の意味で用いる場合にその意味を定義しないで使用すれば、その用語の意味が不明確であり、その用語によって特定される発明が不明確となる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には「記録層の熱伝導率」については何ら定義されておらず、しかも「記録層の熱伝導率」の測定方法さえも記載されていないのであるから、本願発明を特定する事項である「記録層の熱伝導率」は明確でない。

したがって、本願は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3) 特許法第36条第4項に規定する要件について
本願明細書には「記録層の熱伝導率」については、上記(1)で示したア?カの記載があるにすぎず、使用された色素についてはシアニン色素(トリメチン色素)と記載されているだけで、具体的にいかなる色素を用いたのか、その構造式あるいは化学名が示されておらず、また、記録層の作成条件(溶媒や溶液の濃度、回転数等)や、製造された光情報媒体における記録層の熱伝導率の測定方法についても記載されておらず、いかなる種類の色素を使用して記録層を形成すれば、記録層の熱伝導率ρが、0.15 W/mK≦ρ≦0.25W/mKとなるのか、本願明細書の記載から明らかでない。
そうすると、記録媒体に使用されている色素の中から適当なものを選択し、記録媒体を実際に製造して記録層の熱伝導率ρを逐一測定し、その値が0.15 W/mK≦ρ≦0.25W/mKの範囲であるか否かを確認しない限り本願発明を実施することはできないから、本願発明を実施しようとする当業者に過大な負担を強いるものであり、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。

この点について、請求人は、当審拒絶理由通知に対する意見書において、「本願の記録層のように、薄く膜状にしてしまうものでは、それ自体は熱伝導率を測定しにくいので、その記録層を形成する材料を測定しやすい形に保持したテストピースを作成して測定し、それを同じ材料で形成された記録層の熱伝導率とすることが行われており、これまた当業者が通常なし得る普通の代替測定法であり、記録媒体を実際に製造する前に、コーティング材を調合し、それでテストピースを作り、熱伝導率を測定するような作業は、製品の設計や試作の段階においてごく普通に行われる作業であり、殊更『本願発明を実施しようとする当業者に過大な負担を強いる』ものではない」旨主張している。

しかし、上記(2)で述べたとおり、本願明細書の実施例及び比較例においては、同じ材料を用いて記録層を作成しているにもかかわらず、記録層の熱伝導率は比較例1では0.27W/mKであって比較例2の0.13W/mKの約2倍になっているように、レベリング指標(lの値)によって大きく異なるのであるから、テストピースで測定された熱伝導率の値から、記録層の熱伝導率を予測することは不可能であるというべきである。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4.むすび

以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-13 
結審通知日 2007-08-14 
審決日 2007-08-29 
出願番号 特願2000-31600(P2000-31600)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G11B)
P 1 8・ 537- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橘 均憲  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 横尾 俊一
吉村 伊佐雄
発明の名称 光情報媒体とその記録方法  
代理人 北條 和由  

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