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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1166439
審判番号 不服2002-24479  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-19 
確定日 2007-10-31 
事件の表示 平成10年特許願第253699号「ブレーキ用部材」拒絶査定不服審判事件〔平成12年3月21日出願公開、特開2000-81062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年9月8日の特許出願であって、本願の請求項1乃至9に係る発明は、平成17年12月5日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に請求項1乃至9として記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分のみからなるヤーンが層方向に配向しつつ三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填されている、Si-SiC系材料からなるマトリックスとを備えている繊維複合材料からなることを特徴とするブレーキ用部材。」

2、引用例
これに対し、当審が平成17年9月29日付で発した拒絶理由通知に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開98/16484号パンフレット(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に少なくとも以下の技術的事項A、Bが記載されている。
【A】、「La preforme fibreuse 10・・・・・aiguilletage leger.」(第8頁第13行?第18行)
【B】、「Dans l'exemple illustre,・・・・・a un environnement humide.」(第11頁第8行?第12頁第27行)
これらの記載をその公表特許公報である特表2001-505863号を参考にして解釈すると、以下のA’、B’の内容が記載されているとすることができる。
【A’】「繊維予備成形体10は、繊維製品12もしくは複数の種々の製品の層またはプライを重ね、ニードリングによってプライを結合することによって作製される。繊維製品12は、フェルト、織物、編物、糸、ケーブルもしくはストランドの一方向性シート、または異なる方向に重ねられて軽いニードリングによって一体化された複数の一方向性シートから成る積層体で構成してよい。」(第14頁第3行?同第7行)
【B’】「示した例においては、液体プロセスによって得られる耐熱性材料は炭素である。それは、部分的に緻密化した予備成形体のポア17に収容された樹脂コークスまたはピッチコークスの塊16の形態である(図2B)。
第2の緻密化工程の間、固体のフィラーが、液体の前駆体の中に懸濁して含まれていてもよい。固体のフィラーは、例えば、炭素の粉体、セラミックの粉体、または、自己治癒性ガラスの前駆体のような、酸化に対する保護を与えるための材料の粉体で構成される。
約1800℃?2850℃の範囲にある温度での熱処理は、特に、第2マトリックス相が炭素から成る場合には、当該相が形成された後、すぐに実施してもよく、それにより材料の熱伝導性を改善する。
マトリックスの炭化ケイ素相は、予備成形体をケイ化物化する、即ち、溶融したケイ素または蒸気の形態のケイ素を残りのアクセス可能なポアの中に導入し、ケイ素を、マトリックスの第1相の熱分解炭素およびマトリックスの第2相の炭素と反応させることによって得られる。種々の公知のケイ化物化技術が使用でき、例えば、溶融したケイ素の浴への浸漬、または、毛管現象によりケイ素を予備成形体に送るドレーンを介して溶融したケイ素の浴と緻密化した予備成形体とを繋ぐことが利用できる。
有利には、スタック式ケイ化物化方法が使用でき、この種の方法は先に引用したフランス国特許出願第9513458号に記載されている。複数の緻密化した予備成形体10’をケイ素のソース18をそれらの間に挿入しなから重ね、ソースが予備成形体10’の間およびスタックの両面に位置するようにする。ケイ素のソース18は、殆どの部分がケイ素相またはケイ素をベースとする相によって、例えば、粉体の形態で構成され、ソースは溶融したケイ素を保持し排出するための構造を形成するのに適した小部分の相を有する。小部分の相は、例えば、ハニカム構造体18aのような硬い多孔性構造体であり、その中において、セルは粉体ケイ素18bで満たされている。変形例において、小部分の相は、ケイ素のソースの体積全体にわたって小部分の相が存在する、短繊維から成るフェルトのような低多孔度の三次元のラチス(または格子)、またはフォームのような硬くない多孔性製品で構成されてもよい。
ケイ化物化処理は、予備成形体10’およびケイ素のソース18のスタックを、例えば50kPaよりも低い圧力で、そして例えばアルゴンである不活性ガスまたは減圧下で、1410℃?1600℃の範囲にある温度まで加熱することによって実施される。ソース18に含まれるケイ素がその融点に達すると、それは隣接する予備成形体に向かってソース18と接触している予備成形体の表面を経由して移動する。ソース18から始まって、この移動は、重力の作用でその下にある予備成形体10’に向かって起き、毛管現象によってその上にある予備成形体10’に向かって起きる。
緻密化した予備成形体10’における残りのポアへの浸透中、溶融したケイ素は、炭素、即ち、熱分解炭素15および液体プロセスによって得られた炭素16の双方と反応することによって、炭化ケイ素(SiC)19を形成する(図2C)。予備成形体のボアが塞がれていなかったために、従って、SiC層は緻密化した予備成形体のコアの表面に形成される。この層は、ソースが十分なケイ素を有していることを条件として、ケイ化物化の前に緻密化した予備成形体に残っている多孔度に応じて、数ミクロンから10ミクロンを超える厚さを有する。その結果、得られるディスクは、周囲を取り巻く媒体からの酸素に対してバリヤーを形成しているSiC19によって、それらに及ぼされる酸化に対する内部保護を有している。更に、ディスクの摩擦面の近傍では、SiCはディスクに硬さと磨耗に対する耐性能を与える。また、ケイ素は、ポア17の表面を覆う熱分解炭素、および同じポアを部分的に占有する粒子の炭素16と反応することによって、少なくとも部分的にポアを塞ぎ、従って複合材料をシールすることになるSiC19を生成することが認めらよう。これは、濡れた環境の影響を弱める。」(第17頁第8行?第19頁第2行)

以上の内容を、刊行物1の明細書及び図面の記載を参照して、本願で用いられる用語、記載手順に倣って整理すれば、刊行物1には「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分からなるヤーンが層方向に配向しつつ三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填されている、SiC系材料からなるマトリックスとを備えている繊維複合材料からなるブレーキ用部材。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

3、対比
ここで、本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
【一致点】「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分からなるヤーンが層方向に配向しつつ三次元的に組み合わされ、互いに分離しないように一体化されているヤーン集合体と、このヤーン集合体中で隣り合う前記ヤーンの間に充填されている、マトリックスとを備えている繊維複合材料からなるブレーキ用部材。」
【相違点1】本願発明のヤーンが、「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分のみ」からなっているのに対し、引用発明のヤーンは、「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分のみから」なっているかどうか不明である点。
【相違点2】本願発明は、マトリックスが「Si-SiC系材料」からなっているのに対し、引用発明は、マトリックスが「SiC材料」からなっている点。

4、当審の判断
そこで、まず【相違点1】につき以下に検討する。
本願発明の、「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分のみ」からなるの解釈であるが、当審が発した拒絶理由通知に対して提出された平成17年12月5日付の意見書からも明らかなように、本願発明においては「実質的に、ヤーン(炭素繊維の束)の中にはSi-SiC系材料からなるマトリックスは浸透しておらず、存在しない構成」であるとして進めるのが相当である。
一方、刊行物1に記載されるヤーンは「少なくとも炭素繊維の束と炭素繊維以外の炭素成分からなっているもの」と認定できるものではあるが、ヤーンの中にマトリックスが浸透しておらず、存在しない構成であるとの積極的記載がある訳ではないから、更に検討する。
本願発明も引用発明も、予備成形体は一方向シートを積層したものからなり、これにCVI法等により炭素からなるマトリックスを形成して成るC/Cコンポジットを基本材料とすることで共通するものである。
しかし、刊行物1には予備成形体に関し、上記摘記事項【A】で述べられているように、「繊維予備成形体10は、繊維製品12もしくは複数の種々の製品の層またはプライを重ね、ニードリングによってプライを結合することによって作製される。繊維製品12は、フェルト、織物、編物、糸、ケーブルもしくはストランドの一方向性シート、または異なる方向に重ねられて軽いニードリングによって一体化された複数の一方向性シートから成る積層体で構成してよい。」とあり、かかる予備成形体から製造されたC/Cコンポジットは当然炭素繊維を炭素で結合して成る炭素繊維の束とそれらの間の空間とからなる材料を包含するものであって(当審拒絶理由通知に示した特開昭63-149437号公報を併せ参照されたい。)、かかるC/Cコンポジットに摘記事項【B】にあるような処理を施したとすると、液化したSiはCに接してSiCに変化して行く訳であるから、炭素繊維の表面にいち早くSiCができる蓋然性が高くなり、その後広い空間がある配列ならいざ知らず、緻密化された炭素繊維の束すなわちヤーンの内部にまで液化したSiが浸透するのは容易でないと見るべきである。
そうすると、相違点1に係る本願発明の構成は、刊行物1に記載される材料を用い刊行物1に記載される処理方法をもってすれば、当業者が容易になし得た技術的事項であるとするのが相当である。
次いで【相違点2】につき検討する。
刊行物1に開示される技術的事項は、上記SiCマトリックスを形成するに当たり、液体珪素或いは粉体珪素を炭素繊維の炭素成分と反応させているから、供給される所謂ソースとなる液体珪素或いは粉体珪素が全てSiCに転換されると見ることには無理があって、炭素繊維或いは炭素繊維以外の炭素成分から遠く離れて位置する珪素程寧ろそのまま化合せずに存在する可能性が高いとするのが自然であり、刊行物1の技術内容を知り得た当業者にあっては、かかる記載内容を見ればSiCマトリックスとする刊行物1の内容をSi-SiCマトリックスとする程度の転換は容易になし得たものとするのが相当である。

5、むすび
したがって、本願発明、即ち請求項2に係る発明は、刊行物1に記載される発明及び技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
前記のとおり、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその他の請求項に係る発明について審究するまでもなく、本願を拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-07 
結審通知日 2006-02-07 
審決日 2006-02-20 
出願番号 特願平10-253699
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森川 元嗣細川 健人鳥居 稔  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 町田 隆志
平田 信勝
発明の名称 ブレーキ用部材  
代理人 渡邉 一平  
代理人 渡邉 一平  

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