• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23B
管理番号 1166570
審判番号 不服2004-15469  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-26 
確定日 2007-10-24 
事件の表示 平成 6年特許願第175220号「被覆工具及び切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月11日出願公開、特開平 7-171706〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本件出願は、平成6年7月27日(パリ条約による優先権主張、1993年7月29日、スイス)の出願であって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年5月11日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。
「【請求項1】 金属素材(workpiece) を乾燥切削機械加工する方法であって、以下のステップ:
-切削工具を提供し、ここで、当該切削工具の切削刃は、サーメット体材料から成り;
-当該サーメット体材料の切削刃の上に直接に (Ti, Al)Nのコーティングを提供し;そして
-上記工具で上記金属素材を機械加工する;
ことを特徴とする前記方法。」

2 引用刊行物
これに対して、当審で平成18年11月8日付けで通知した拒絶理由には、本件優先日前に頒布された刊行物である次の刊行物が引用されており、各刊行物には、以下の技術的事項が記載されている。
[引用刊行物]
刊行物1:特公平4-53642号公報
刊行物2:特開平4-201002号公報
刊行物3:特開平4-300104号公報

(1)刊行物1
(1-ア)特許請求の範囲
「1 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメツトで構成された基体部材の表面に、TiとAlの複合炭化物固溶体、複合窒化物固溶体、および複合炭窒化物固溶体のうちの1種の単層または2種以上の複層からなる平均層厚:0.5?10μmの硬質被覆層を蒸着してなる耐摩耗性のすぐれた表面被覆切削工具。」

(1-イ)第1頁第1欄第10?16行
「〔産業上の利用分野〕
この発明は、炭化タングステン(以下WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下TiCNで示す)基サーメツトで構成された基体部材の表面に、耐摩耗性のすぐれた硬質被覆層を蒸着することにより切削寿命の延命化を可能ならしめた表面被覆切削工具に関するものである。」

(1-ウ)第2頁第3欄第7?15行
「この発明は、上記研究結果にもとづいてなされたものであつて、
WC基超硬合金またはTiCN基サーメツトで構成された基体部材の表面に,(Ti,Al)C,(Ti,Al)N、および(Ti,Al)CNのうちの1種の単層または2種以上の被覆からなる硬質被覆層を、CVD法やPVD法などを用いて、0.5?10μmの平均層厚で蒸着してなる耐摩耗性のすぐれた表面被覆切削工具に特徴を有するものである。」

(1-エ)第2頁第3欄第25行?第4欄第15行
「実施例 1
基体部分として、重量%で、WC-9%Co-8%TiC-10%TaCからなる組成を有するWC基超硬合金、並びにTiCN-12%Co-8%Mo-6%Ni-15%WC-10%TaCからなる組成を有するTiCN基サーメツトで構成され、・・・(中略)・・・切削チツプの表面にそれぞれ第1表に示される組成および平均層厚を有する単層または複層の硬質被覆層を蒸着させることにより本発明表面被覆切削工具1?11を製造した。」

(1-オ)第2頁第4欄第22行?第3頁第5欄第38行
「つぎに、この結果得られた各種の表面被覆切削工具について、
被削材:SNCM439(硬さ:HB240)の丸棒、
切削速度:180m/min
送り:0.3mm/rev.、
切込み:2mm
切削時間:20min、
の条件で鋼の連続切削試験、並びに、
被削材:SNCM439(硬さ:HB290)の角材、
切削速度:150m/min、
送り:0.3mm/rev.、
切込み:3mm、
切削時間:3min、
の条件で鋼の断続切削試験をそれぞれ行ない、前者の連続切削試験では、切刃の逃げ面摩耗幅とすくい面摩耗深さを測定し、また後者の断続切削試験では、10個の試験切刃のうちの欠損発生数を測定した。これらの測定結果を第1表に示した。」

(1-カ)第1表には、種別11に、TiCN基サーメットからなる基体の表面に内側層として(Ti,Al)N、中間層として(Ti,Al)CN、外側層として(Ti,Al)Nの硬質被覆層を設けたものが記載されている。

上記記載事項からみて、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「TiCN基サーメットで構成された基体部材の表面に、(Ti,Al)C、(Ti,Al)N、および(Ti,Al)CNのうちの1種の単層または2種以上の被覆からなる硬質被覆層を蒸着してなる表面被覆切削工具を用いて、SNCM439の丸棒を切削機械加工する方法。」

(2)刊行物2
(2-ア)第1頁右下欄第5?13行
「〔産業上の利用分野〕
この発明は、炭化タングステン(以下WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下TiCNで示す)基サーメットからなる基体の表面に、物理蒸着法にて形成された耐摩耗性のすぐれたTiとAlの複合窒化物(以下、(Ti,Al)Nで示す〕被覆層の前記基体表面に対する密着性のすぐれた表面被覆サーメット製切削工具に関するものである。」

(2-イ)第3頁右上欄第11?17行
「また、比較の目的で、上記の密着性物理蒸着被覆層および耐欠損性物理蒸着被覆層の形成を行なわない以外は、同一の条件で同じく第1表に示される組成および平均層厚の耐摩耗性物理蒸着被覆層〔(Ti,Al)N被覆層〕だけを形成することにより従来表面被覆サーメット製切削工具(以下従来被覆切削工具という)1?12を製造した。」

(2-ウ)第5頁右上欄第5行?左下欄第1行
「D.チップ形状:SPGN120408
被削材:SS41の丸棒、
切削速度:210m/min、
送 り:0.3mm/rev.、
切込み:3.5mm、
切削時間:100分、
の条件(切削条件Dという)での鋼の高切込み乾式連続切削試験、
E.チップ形状:SPGN120408、
被削材:円筒状支持台の長さ方向両側2ケ所に取付けた断面扇形のSNCM439製角材、
切削速度:140m/min、
送 り:0.3mm/rev.、
切込み:3mm、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Eという)での鋼の高切込み乾式連続切削試験」

(2-エ)第1表の3には、従来被覆工具の種別10?12に、サーメット基体に(TiX,Al1-X)Nの被覆層を設けたものについての切削条件D,Eでの切削試験結果が記載されている。

(3)刊行物3
(3-ア)段落【0015】?【0016】
「実施例2
市販の工具形状:TNGN160412のTiCN基サーメット、Si3 N4 基セラミックス、及びAl2 O3 基セラミックスからなる各種工具材種を基体とし、この基体の表面に通常のCVD法で表6?7に示される多重硬質層の被覆を行った後、上記多重硬質層の各層のそれぞれの表面に平均粒径0.2mmのアルミナ製ボールを約5.0kg/cm2 の圧縮空気で所定時間衝突させるショットピーニングを施し、表6に示される残留応力を付与することにより本発明表面被覆切削工具6?8及び比較表面被覆切削工具6?8(ただし、比較表面被覆切削工具1?2は、ショットピーニングを施さず)を製造した。なお、上記残留応力は、実施例1と同様にX線回折により2θ-Sin2 Ψ法を用いて測定し、測定した各層の残留応力を表6?7に示した。
これら本発明表面被覆切削工具6?8及び比較表面被覆切削工具6?8を用いて、下記の条件で切削テストを行ない、それらの結果を表8に示した。
(切削テスト3)
被削材:SNCM439 (HB 310)
切削速度:230m/分
送り:0.05mm/rev
切込み:0.3mm
乾式
の微小切削を行なった。逃げ面磨耗幅が0.2mmに達するまでの時間を測定。」

(3-イ)表6に、本発明6として、TiCN基サーメットの基体に被覆硬質層を設けたものが記載されている。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「SNCM439」(ニッケルクロムモリブデン鋼)の丸棒は金属素材ということができ、引用発明の「切削機械加工する方法」は、金属素材を切削機械加工する方法という限りで、本願発明の「乾燥切削機械加工する方法」と共通している。
引用発明における「表面被覆切削工具」は本願発明における「切削工具」に相当し、以下同様に、「基体部材」は「切削刃」に、「TiCN基サーメット」は「サーメット体材料」に、「硬質被覆層」は「コーティング」に、それぞれ相当する。
また、引用発明は、基体部材の表面に、(Ti,Al)C、(Ti,Al)N、および(Ti,Al)CNのうちの1種の単層または2種以上の被覆からなる硬質被覆層を蒸着してなるものであるから、基体部材の表面に(Ti,Al)Nの単層からなる硬質被覆層を蒸着してなるもの、すなわち切削刃の上に直接に (Ti, Al)Nのコーティングを提供するものを含むものである。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。
[一致点]
「金属素材(workpiece) を切削機械加工する方法であって、以下のステップ:
-切削工具を提供し、ここで、当該切削工具の切削刃は、サーメット体材料から成り;
-当該サーメット体材料の切削刃の上に直接に (Ti, Al)Nのコーティングを提供し;そして
-上記工具で上記金属素材を機械加工する前記方法。」である点。
[相違点]
本願発明では、金属素材(workpiece) を乾燥切削機械加工する方法であるのに対し、引用発明では、切削機械加工が乾燥切削であるか否か明らかでない点。

4 相違点についての検討
耐磨耗層により被覆されているサーメット体材料の切削刃を有する切削工具を用いて金属素材を乾式切削すなわち乾燥切削することは、例えば、刊行物2、刊行物3に記載されているように従来周知の事項である(上記摘記事項(2-ウ)、(3-ア)を参照)。
してみると、耐磨耗層により被覆されているサーメット体材料の切削刃を有する切削工具である、引用発明に係る切削工具を用いて金属素材を乾燥切削することは当業者が普通に試みる程度の事項にすぎない。しかも、刊行物2には、比較の目的としてであるが、サーメット体材料の切削刃の上に直接に(Ti,Al)Nの耐磨耗層を被覆した従来被覆切削工具10?12を乾燥切削に用いることが記載されている(上記摘記事項(2-イ)?(2-エ)参照)。
したがって、引用発明において従来周知の事項を採用して相違点に係る本願発明の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の奏する作用効果についてみても、引用発明及び従来周知の事項から当業者が十分予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は平成19年5月11日付け意見書において、概略、「尚、引用文献2に記載の従来被覆切削工具(1?9)は、サーメット体材料ではなく、炭化タングステン(WC)基超硬合金の切削刃の上に(Ti,Al)N層を適用したものであります。従来被覆切削工具(10?12)は、サーメット体材料の切削刃の上に(Ti,Al)N層を適用したものでありますが、これらの従来技術の切削工具は単に比較例として挙げられており、サーメット体材料の切削刃の上に直接に(Ti,Al)N層を適用した工具が、乾燥切削機械加工に適用しうることを教示又は示唆するものではないと考えます。引用文献2に記載の発明においては、好ましい態様として、少なくとも3つの層が提供され、当該(Ti,Al)N層は耐磨耗層として提供されているに過ぎません。したがって、当該(Ti,Al)N層が、乾燥切削機械加工における、切削刃の高い機械的そしてそれゆえ熱的負荷に、耐えうる層として、適用されることを、引用文献2は、何ら教示又は示唆するものではないと考えます。」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、耐磨耗層により被覆されているサーメット体材料の切削刃を有する切削工具を用いて金属素材を乾燥切削することは従来周知の事項であり、引用発明に係る切削工具を用いて金属素材を乾燥切削することは当業者が普通に試みる程度の事項にすぎないものである。また、刊行物2(引用文献2)には、比較例として実施例のものより切削性能が劣るとされてはいるが、サーメット体材料の切削刃の上に直接に(Ti,Al)N層を適用した工具を乾燥切削機械加工に用いることが記載されているとすることができるものである。してみると、引用発明に係る切削工具を乾燥切削機械加工に用いることは当業者が容易になし得た事項というべきである。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

5 むすび
以上のとおりであり、本件出願の請求項1に係る発明は、引用発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-25 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-12 
出願番号 特願平6-175220
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 正章  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
鈴木 孝幸
発明の名称 被覆工具及び切断方法  
代理人 鶴田 準一  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 樋口 外治  
代理人 福本 積  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ