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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1166573
審判番号 不服2005-5666  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-01 
確定日 2007-10-24 
事件の表示 特願2001-205487「造影剤注入による放射線検査の方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月23日出願公開、特開2002-119501〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年7月6日(パリ条約による優先権主張2000年7月7日、仏国)の出願であって、平成16年12月21日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成17年1月5日)、これに対し、平成17年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がなされたものである。
II.平成17年4月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.平成17年4月1日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の記載(平成16年11月17日付けで補正、以下同じ。):
「【請求項1】 臓器の放射線検査方法であって、
(a)第1の画像と少なくとも1つの第2の画像から、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算するステップを含み、
前記第1の画像は検査対象の臓器内に造影剤が注入される前に該臓器の方向に放出されたX線ビームを用いて取得されたものであり、前記少なくとも1つの第2の画像は検査対象の臓器内に造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に該臓器の方向に放出されたX線ビームを用いて取得されたものである方法。
【請求項2】 造影剤により減衰を強調しているフェーズの後に少なくとも1つの第2の画像が取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記第2の画像が時間的に均等に分布している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 造影剤により減衰を強調しているフェーズ中では、該フェーズの後よりも短い間隔で第2の画像を取得する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】 減衰フェーズの終了時点で第2の画像が取得され、かつ前記フェーズが終了して数分後に第3の画像が取得される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】 第2の画像の各々から第1の画像が差し引かれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】 前記差分画像が空間フィルタ処理される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 前記画像が厚さ画像に変換される、前記請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】 前記検査がマンモグラフィである、前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】 造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段と、
エネルギ・ビームを放出する手段と、
前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像と、造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に取得された入射エネルギ・ビームを表す前記少なくとも1つの第2の画像の出力を送信することができる手段と、
前記放出手段を制御しかつ前記エネルギ・ビームを受け取る手段からのデータを処理し、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算する処理手段と、
を備える放射線装置。
【請求項11】 前記処理手段は、造影剤の厚さの表示画像を作成することができる、請求項10に記載の装置。
【請求項12】 コンピュータ上で実行させる際に、前記請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法の各ステップを適用するためのプログラム・コードの提供手段を備えているコンピュータ・プログラム。
【請求項13】 プログラム・コードの提供手段を読み取るデバイスにより読み取り可能な記憶媒体であって、前記プログラム・コードの提供手段は該記憶媒体内に格納されると共にプログラムをコンピュータ上で実行させる際に前記請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法の各ステップの適用に適している、記憶媒体。」
を、
「【請求項1】 臓器の放射線検査方法であって、
(a)第1の画像と少なくとも1つの第2の画像から、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算するステップを含み、
前記第1の画像は検査対象の臓器内に造影剤が注入される前に該臓器の方向に放出されたX線ビームを用いて取得されたものであり、前記少なくとも1つの第2の画像は検査対象の臓器内に造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において該臓器の方向に放出されたX線ビームを用いて取得されたものである方法。
【請求項2】 造影剤により減衰を強調しているフェーズの後に少なくとも1つの第2の画像が取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記第2の画像が時間的に均等に分布している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 造影剤により減衰を強調しているフェーズ中では、該フェーズの後よりも短い間隔で第2の画像を取得する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】 減衰フェーズの終了時点で第2の画像が取得され、かつ前記フェーズが終了して数分後に第3の画像が取得される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】 第2の画像の各々から第1の画像が差し引かれる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】 前記差分画像が空間フィルタ処理される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 前記画像が厚さ画像に変換される、前記請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】 前記検査がマンモグラフィである、前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】 造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段と、
エネルギ・ビームを放出する手段と、
前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像と、造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において取得された入射エネルギ・ビームを表す前記少なくとも1つの第2の画像の出力を送信することができる手段と、
前記放出手段を制御しかつ前記エネルギ・ビームを受け取る手段からのデータを処理し、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算する処理手段と、
を備える放射線装置。
【請求項11】 前記処理手段は、造影剤の厚さの表示画像を作成することができ、前記造影剤は、ヨウ素を含んでおり、前記放射線装置は、前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比を高くするため、前記放出されたエネルギ・ビームのエネルギを33乃至45keVとなるように調節する銅製のフィルタを更に備えている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】 コンピュータ上で実行させる際に、前記請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法の各ステップを適用するためのプログラム・コードの提供手段を備えているコンピュータ・プログラム。
【請求項13】 プログラム・コードの提供手段を読み取るデバイスにより読み取り可能な記憶媒体であって、前記プログラム・コードの提供手段は該記憶媒体内に格納されると共にプログラムをコンピュータ上で実行させる際に前記請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法の各ステップの適用に適している、記憶媒体。」(下線は補正箇所を示す。)
と補正しようとするものである。

2.目的外補正について
検査対象の臓器内に造影剤が注入された後に取得される第2の画像の取得条件である、本件補正前の請求項1及び10における「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に」が、本件補正により「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において」に補正された点について以下検討する。

(1)本件補正後の記載の技術的意味
本件補正後の、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において」という記載の技術的意味について検討するに、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比に関して、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0043】-【0046】に、
「【0043】
高画質を得るためには、X線源の陽極を構成する材料、フィルタの組成、供給する高電圧及び造影剤を、整合した様式で選択することが推奨される。【0044】
例えば、図4は、造影剤として使用することができるヨウ素の線減衰係数の推移をkeV単位で表現されるX線エネルギの関数として表したものである。この減衰曲線は33keVの周辺において、値が大きくなる方向では傾斜が緩やかで値が小さくなる方向では傾斜が急であるような極大値を示していることが分かる。
【0045】
図5は、脂肪組識の線減衰係数の曲線をX線エネルギの関数として図示したものである。図4及び5の曲線に対する横座標は同じスケールとしている。脂肪組識は概ね30?45keVの値に対して極端に低い減衰係数を示すことが分かる。概ね10keV以下の弱いエネルギに対しては、この線減衰係数は大きくなる。
【0046】
換言すると、概ね33?45keVの領域において、画像のノイズを形成する脂肪組識による弱い減衰の恩恵が得られ、さらに医師の関心対象領域をマークすることを可能にする造影剤により比較的強い減衰の恩恵が得られる。脂肪組識の減衰に対するヨウ素の減衰の比は、一般に、33?45keVの範囲では200を超える大きさとなる。」
と記載がある。
ここでは、造影剤としてヨウ素を使用した例として、図4に示されるヨウ素の線減衰係数の曲線と、図5に示される臓器の一つである脂肪組織の線減衰係数の曲線とを比較することにより、脂肪組織の減衰係数とヨウ素の減衰係数の比が、33?45keVのエネルギ領域で高くなることが示されており、この記載によると、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなる状態とは、放出されたX線ビームあるいはエネルギ・ビームのエネルギ(keV)を、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなるように選択した状態を意味するものと解される。
この解釈は、請求項10の従属請求項である請求項11に加入された、「前記放射線装置は、前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比を高くするため、前記放出されたエネルギ・ビームのエネルギを33乃至45keVとなるように調節する銅製のフィルタを更に備えている」という、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比を高くするために、放出されたエネルギ・ビームのエネルギ(keV)を限定している記載、審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】における、「特に、本願発明においては、造影剤が注入された後に、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において第2の画像が取得されます・・・本願発明においては、例えば、造影剤がヨウ素であった場合には、本願の図4と第0044乃至0046段落で説明されておりますように、X線エネルギが33-45keVにおいては、ヨウ素の減衰曲線の値が大きくなる一方、脂肪組織の減衰曲線の値が小さくなり、高画質を得ることが可能となります。本願の好適な実施例においては、被験体に33-45keVのエネルギのX線が照射されるように銅製のフィルタ等が用いられております。・・・しかし、引用文献1、2のいずれも、X線の光子エネルギに対する造影剤の減衰曲線を考察しておらず、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなる状態(エネルギ)において第2の画像を取得することを開示しません。 」という記載からも裏付けられる。

(2)本件補正前の記載の技術的意味
一方、本件補正前の、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に」という記載の技術的意味について検討するに、「間」とは、『事と事との中間の時間。また、限られたひと続きの時間。あいま。』(広辞苑第五版、株式会社岩波書店)であり、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比」が「上昇している間に」とは、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比」が「上昇している時間に」と言い替えることができる。
臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比に関しては、上記(1)で記したように、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0043】-【0046】に記載があり、ここには、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が、放出されるX線ビームのエネルギ(keV)に依存することの記載はあるが、放出されるX線ビームのエネルギを時間的に変化させて、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比を時間的に上昇させることの記載はない。
ところで、検査対象の臓器内に造影剤が注入されると、臓器内の造影剤が存在する領域は、造影剤が注入される前に比べて、放出されるX線ビームあるいはエネルギ・ビームを造影剤が減衰させるので(本願明細書には、「造影剤により減衰を強調しているフェーズ中」(【請求項4】)、「本発明の実施の一形態では、造影剤により減衰を強調しているフェーズ中に少なくとも1つの第2の画像が取得される。」(段落【0010】)、「本発明の実施の一形態では、造影剤により減衰を強調しているフェーズ(phase;時相)の後に少なくとも1つの第2の画像が取得される。」(段落【0011】)と記載がある。)、臓器内の造影剤が存在する領域は、当該領域内に造影剤が存在する時間においては、放出されるX線ビームあるいはエネルギ・ビームの減衰が上昇することは明らかである。
そして、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に」という記載は、平成16年8月11日付けの「請求項1及び10における「臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比に基づいて該造影剤により減衰を強調しているフェーズ」という記載の意味が不明である」という、特許法第36条第6項第2号違反を理由とする最後の拒絶の理由の通知に対してなされた、平成16年11月17日付けの手続補正により導入されたものであり、同日に提出された意見書において、「上記拒絶理由通知に際し「臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比に基づいて該造影剤により減衰を強調しているフェーズ」という記載の意味が不明瞭である旨のご指摘がありましたが、当該意見書と同日に提出いたしました手続補正書に記載されておりますように、当該記載は「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間」と補正されており、明瞭であると思料いたします。」と、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間」は、「臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比に基づいて該造影剤により減衰を強調しているフェーズ中」という記載の意味を明りょうとするためのものである旨出願人が主張していることを考え合わせると、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が上昇している間とは、検査対象の臓器内に造影剤が注入された後の、注入された造影剤によりX線ビームあるいはエネルギ・ビームの減衰が上昇している時間、を意味するものと解される。

(3)補正の目的
以上のことから、本件補正前の請求項1及び10における「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に」が、(a)注入された造影剤によりX線ビームあるいはエネルギ・ビームの減衰が上昇している時間に、を意味し、本件補正後の請求項1及び10における「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において 」が、(b)放出されたX線ビームあるいはエネルギ・ビームのエネルギ(keV)を、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなるように選択した状態において、を意味する。
しかしながら、(a)注入された造影剤によりX線ビームあるいはエネルギ・ビームの減衰が上昇している時間に、という条件は、いつ第2の画像を取得するかという時間的な条件であるのに対し、(b)放出されたX線ビームあるいはエネルギ・ビームのエネルギ(keV)を、臓器の減衰係数と造影剤の減衰係数の比が高くなるように選択した状態において、という条件は、第2の画像を取得する際のX線ビームあるいはエネルギ・ビームのエネルギ(keV)の設定条件であり、両条件は物理的な次元が異なるものである。
したがって、請求項1及び10において、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に」を、「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が高くなる状態において 」とする補正は、本件補正前に存在した第2の画像の取得の時間条件を削除し、これをX線ビームあるいはエネルギ・ビームのエネルギ(keV)の設定条件に置き換えるものであり、本件補正前の請求項1,10に記載された発明の発明特定事項を限定するものではないので、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮(第36条第5項に規定により請求項に記載した事項を限定するもの)を目的とするものに該当しない。そして、当該補正は、同項第1,3,4号に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものでもないことは明らかである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定する要件を満たしておらず、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成17年4月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-13に係る発明は、本件補正前の、平成16年11月17日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項10に係る発明は、

「造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段と、
エネルギ・ビームを放出する手段と、
前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像と、造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に取得された入射エネルギ・ビームを表す少なくとも1つの第2の画像の出力を送信することができる手段と、
前記放出手段を制御しかつ前記エネルギ・ビームを受け取る手段からのデータを処理し、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算する処理手段と、
を備える放射線装置。」
にあるものと認める。
なお、請求項10には「前記少なくとも1つの第2の画像」と記載があるが、請求項10は独立形式の請求項であり他の請求項を引用するものではなく、また、請求項10には上記記載に対応する記載が存在しないので、上記記載は「少なくとも1つの第2の画像」の誤記と認め、請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)を上記のように認定した。

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭60-108034号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「X線診断装置」に関する発明が記載されており、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「[発明の目的]
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、被写体内に注入された造影剤の濃度の時間的変化を検出することにより血管系とそれ以外の部分とを明確に識別し、血管像を強調してモニタ画面に表示し得るX線診断装置の提供を目的とするものである。
[発明の概要]
本発明は、被写体を透過して得られたX線像を電気信号に変換してマスク像を得、経時的に得られるデータと、マスク像とのサブトラクシヨン処理を行なつて経時的に得られるサブトラクシヨンデータを画像表示するX線診断装置において、前記サブトラクシヨンデータを入力し所定値との比較においてサブトラクシヨンデータの濃度が変化した場合に判別信号を出力する判別部と、該判別部の出力によつてゲートを開いて前記サブトラクシヨンデータを表示部に送出するゲート手段とを設けたことを特徴とするX線診断装置。」(第1ページ右下欄20行-第2ページ左上欄第18行)
(イ)「同図において、1はX線発生器、2はX線検出器、イメージインテシフアイア、撮像管等からなるデータ収集部、Mは被写体である。
データ収集部2の出力はアナログ・デイジイタル変換部(以下「A/D変換器」という)3によりデイジタル信号に変換され、フレームメモリ4に記憶されるようになっている。フレームメモリ4の一方の出力とマスクメモリ5の一方の出力とがマスク像処理部の加算器6に入力され、加算器6の出力がマスクメモリ5に入力されるようになつている。
任意指定枚数加算後、スイツチSWが開きマスクメモリ5の他方の出力は除算器7を介し符号反転して加算器8に入力され、この入力と前記フレームメモリ4の他方の出力とが加算器8により減算処理(以下「サブトラクシヨン処理」という)される。加算器8の出力と判別部20を構成するバツフアメモリ9の一方の出力とが加算器10により加算され、加算器10の出力はバツフアメモリ9に帰還されるようになつている。
バツフアメモリ9の他方の出力は、除算器11を介して閾値処理部12に入力され、その閾値処理部12の一方の出力は遅延回路を経て第1のフラグメモリ13に入力されている。
第1のフラグメモリ13の出力と前記閾値処理部12の他方の出力はそれぞれ排他的オアゲート14に入力され、その排他的オアゲート14の出力と、第2のフラグメモリ16の一方の出力とがオアゲート15に入力されている。
オアゲート15の出力は第2のフラグメモリ16に帰還され、第2のフラグメモリ16の他方の出力は判別部20の出力としてゲート手段17に入力されている。
ゲート手段17の他方の入力として、前記減算器8の出力が導入されている。
ゲート手段17の出力は画像の表示部18に入力されている。
次に上記構成からなる装置の動作を詳述する。
造影剤混入前の被写体MにX線発生器1からX線を曝射し、データ収集部2により被写体Mの画像データを電気信号に変換し、さらにA/D変換器3によりデイジタル信号に変換してフレームメモリ4に蓄える。さらに、このフレームメモリ4から任意に選択した造影剤混入前の画像データをマスクメモリ5に転送し、加算器6及び除算器7を介してm枚の加算平均をとつたものをマスク像とする。
次に、被写体Mに造影剤を混入し、既述した処理によりフレームメモリ4に造影剤混入後の画像データを蓄える。
そして、符号反転された前記マスク像とフレームメモリ4に蓄えられた画像データとを加算器8により順次サブトラクシヨン処理する。この操作をある所定時間繰り返し、nフレームのサブトラクシヨン像を得る。
このサブトラクシヨン像のうち、第1フレームの内容をバツフアメモリ9に記憶し、第2フレーム以降順次バツフアメモリ9との間で加算器10による加算処理を行ない、その結果をバツフアメモリ9に帰還する。
一方、バツフアメモリ9の一画素毎について、除算器11により加算平均を取り、閾値処理部12へ入力する。
閾値処理部12では、除算器11の出力と、第6図に示すように任意に設定したスレシヨルドレベルTとの間で比較演算を行ない、除算器11の出力がスレシヨルドレベルTを超えていた場合に”1”、それ以下の場合に”0”を出力する。
閾値処理部12の出力は遅延回路を介して、第1のフラグメモリ13に転送され、第1のフラグメモリ13の内容を更新する。
そして、フラグメモリ13の出力と閾値処理部12の出力とは排他的オアゲート14に入力され、フラグの変化(”1”→”0”,”0”→”1”)を検出する。
このようにして、排他的オアゲート14によりフラグの変化を検出し、その出力をオアゲート15に入力する。
オアゲート15には、第2のフラグメモリ16の一方の出力が入力され、フラグの変化が起きた画素がオアゲート15により検出されて、その結果が第2のフラグメモリ16に帰還される。
ここで、第2のフラグメモリ16の内容は、第1図に示す演算処理前の画像に対し、第2図に示すような濃度変化の検出ができなかつた部分にマスクをかけたような状態となる。
このフラグメモリ16の出力と前記サブトラクシヨン処理した画像とがゲート手段17に導かれ、フラグメモリ16の出力が1のときのみサブトラクシヨン像がゲート手段17から出力される。
したがつて、表示部18の画面には、第1図に示す演算処理前の画像と第2図に示す演算処理後の画像とを重ね合わせた画像が表示されることになり、第3図に示すように造影剤が混入された血管が強調された明確な画像を得ることができる。」(第2ページ左下欄第17行-第3ページ右下欄第10行)

ここで、引用刊行物1には、「X線発生器1」、「データ収集部2」等の各手段を統括的に制御する手段についての記載はないものの、放射線装置において、放射線発生手段、放射線検出器等の各手段を、制御手段で統括的に制御することは、放射線装置において技術常識である(例えば、特開平4-180738号公報参照。)ことを考慮すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「X線発生器1と、
該X線発生器1の曝射を制御する手段と、
前記X線発生器1から曝射され被写体Mを透過したX線を検出して、前記被写体M内に造影剤を注入する前に収集した画像データと、前記被写体M内に造影剤を注入した後に収集した画像データとを出力するデータ収集部2と、
造影剤注入後に経時的に収集した複数枚の各画像データと、造影剤注入前に収集した画像データを任意枚数加算平均したマスク像を符号反転したものとを加算してサブトラクシヨン処理して、表示部18に送られるサブトラクシヨン処理した画像データを出力する加算器8と、
を備えたX線診断装置。」

3.対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の、 (a)「X線」は、本願発明の(a)「エネルギ・ビーム」に相当することは明らかであり、引用発明1の、
(b)「X線発生器1」、(c)「前記X線発生器1から曝射され前記被写体Mを透過したX線を検出して、前記被写体M内に造影剤を注入する前に収集した画像データ」、(d)「該X線発生器1の曝射を制御する手段」、(e)「X線診断装置」
は、それぞれ本願発明の、
(b)「エネルギ・ビームを放出する手段」、(c)「前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像」、(d)「前記放出手段を制御」する「処理手段」、(e)「放射線装置」
に相当することは明らかである。
また、本願発明における「前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間」は、上記「II.2.(2)」で検討したように、注入された造影剤によりX線ビームあるいはエネルギ・ビームの減衰が上昇している時間、を意味するが、引用発明1は造影剤により血管が強調された画像を得るものであるから、引用発明1における「前記X線発生器1から曝射され前記被写体Mを透過したX線を検出して、・・・前記被写体M内に造影剤を注入した後に収集した画像データ」が、注入された造影剤によりX線の減衰が上昇している時間に収集したものであることは明らかであるから、上記(c)の相当関係も考慮すると、引用発明1における、(f)「前記X線発生器1から曝射され前記被写体Mを透過したX線を検出して、前記被写体M内に造影剤を注入する前に収集した画像データと、前記被写体M内に造影剤を注入した後に収集した画像データとを出力するデータ収集部2」は、本願発明における、(f)「前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像と、造影剤が注入された後であって前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に取得された入射エネルギ・ビームを表す前記少なくとも1つの第2の画像の出力を送信することができる手段」、「前記エネルギ・ビームを受け取る手段」に相当する。
そして、引用発明1における、「造影剤注入後に経時的に収集した複数枚の各画像データと、造影剤注入前に収集した画像データを任意枚数加算平均したマスク像を符号反転したものとを加算してサブトラクシヨン処理して、表示部18に送られるサブトラクシヨン処理した画像データを出力する加算器8」は、データ収集部2の出力する画像データを処理して、表示部18に送るサブトラクシヨン処理した画像を計算するものであるとともに、引用発明1における、(g)「サブトラクシヨン処理した画像」は、本願発明における、(g)「臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像」に相当することは明らかであるから、上記(d)の相当関係も考慮すると、引用発明1における、(h)「該X線発生器1の曝射を制御する手段」と「造影剤注入後に経時的に収集した複数枚の各画像データと、造影剤注入前に収集した画像データを任意枚数加算平均したマスク像を符号反転したものとを加算してサブトラクシヨン処理して、表示部18に送られるサブトラクシヨン処理した画像データを出力する加算器8」とを合わせた構成は、本願発明における、(h)「前記放出手段を制御しかつ前記エネルギ・ビームを受け取る手段からのデータを処理し、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算する処理手段」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1は、

<一致点>
「エネルギ・ビームを放出する手段と、
前記エネルギ・ビームを受け取って、造影剤が注入される前において取得された入射エネルギ・ビームを表す第1の画像と、造影剤が注入された後であ
って前記臓器の減衰係数と前記造影剤の減衰係数の比が上昇している間に取得された入射エネルギ・ビームを表す少なくとも1つの第2の画像の出力を送信することができる手段と、
前記放出手段を制御しかつ前記エネルギ・ビームを受け取る手段からのデータを処理し、前記臓器の組織内に生じたコントラストの表示画像を計算する処理手段と、
を備える放射線装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願発明は、造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段を備えるのに対し、引用発明1は、その使用に際して造影剤を検査対象の臓器内に注入するものの、造影剤を注入する手段を備えているのか否か明確ではない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
引用発明1の放射線装置における造影剤注入後の第2の画素の取得は、造影剤注入前の第1の画像の取得に続いて行われるものであり、放射線装置の使用時に、該放射線装置の近傍に造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段が在ることは明らかである。そして、このような造影剤を注入する手段を、放射線装置に併設することは、特開平10-295680号公報(第6ページ右欄第40-43行)、特開平8-266527号公報(第2ページ左欄第24-38行)、特開平8-79628号公報(第2ページ左欄第21-42行)にも記載されたとおり周知である。
よって、引用発明1において、上記周知技術に倣って、放射線装置に造影剤を検査対象の臓器内に注入する手段を併設することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明の作用効果も、引用刊行物1及び上記周知技術から当業者であれば予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-05-28 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-13 
出願番号 特願2001-205487(P2001-205487)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 572- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 明央  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 樋口 宗彦
門田 宏
発明の名称 造影剤注入による放射線検査の方法及び装置  
代理人 伊藤 信和  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 松本 研一  

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