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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680032 審決 特許
無効200680077 審決 特許
無効200680092 審決 特許
無効200680173 審決 特許
無効200680043 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1166877
審判番号 無効2006-80280  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-28 
確定日 2007-10-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3779805号発明「スロットマシン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3779805号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
第1.手続きの経緯

本件特許第3779805号の請求項1に係る発明は、平成9年11月25日に出願され、平成18年3月10日に特許の設定登録がなされ、これに対して平成18年12月28日に北口智英より本件無効審判の請求がなされ、平成19年1月19日付けで被請求人に対して答弁が指令され、被請求人から同年4月20日付けで答弁書が提出され、さらに、当審から同年5月30日付けで無効理由通知がなされ、被請求人から、その指定期間内の同年7月4日に意見書が提出され、請求人から、その指定期間内の同月5日に意見書が提出されたものである。


第2.本件発明

本件特許第3779805号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件の明細書及び図面の記載からみて、その設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「スタート操作に応答して複数個の回転リールが回転し、ストップ操作に応答して各回転リールが停止するスロットマシンにおいて、このスロットマシンは、スタートレバー或いは最初のストップボタンの操作に基づき、今回のゲームが外れ状態であるか或いはゲーム価値の異なる複数段階の入賞ランクの内のいずれの当たり状態であるかを決定し、停止ライン位置から起算した所定範囲内に当該入賞ランクに対応した当たり絵柄が存在する状態でストップボタンが押された場合には、その当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止させるものであって、入賞ランクの異なる大当たり絵柄と中当たり絵柄に、それぞれ別々の絵柄を対応させるのではなく、特定一群の絵柄を、大当たり及び中当たり兼用の絵柄として対応づけておくことで、前記決定が大当たり或いは中当たりのときは、前記所定範囲内に前記兼用の当たり絵柄が存在する場合には、その当たり絵柄が停止ライン上に来るように各回転リールを停止制御する停止手段と、前記決定に基づいて、自らの表示内容によって、大当たり状態であるか中当たり状態であるかを報知する表示手段とを備え、回転リールによる絵柄の揃い方と、前記表示手段の表示内容とによって、その回のゲーム価値を最終的に確定するようにしているスロットマシン。」


第3.当事者の主張

1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、特許第3779805号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、本件発明の特許を無効とすべき理由として次のように主張する。

< 特許法第29条第2項違反 >
本件発明は、甲第1号証乃至甲第13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

甲第1号証:特開平9-285596号公報
甲第2号証:特開昭59-186580号公報
甲第3号証:特開平8-112401号公報
甲第4号証:特開平6-335560号公報
甲第5号証:特開平8-280873号公報
甲第6号証:特開平8-98912号公報
甲第7号証:特開平7-313663号公報
甲第8号証:特開平9-271559号公報
甲第9号証:特開平9-215813号公報
甲第10号証:特開昭56-163679号公報
甲第11号証:パチンコ攻略マガジン1994 8・14号
(平成6年8月14日、双葉社発行)
甲第12号証:パチンコ必勝ガイド1994 9・4号
(平成6年9月4日、白夜書房発行)
甲第13号証:パチンコ必勝ガイド1994 10・14号
(平成6年10月14日、白夜書房発行)


2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、無効審判の請求人が主張する無効の理由について、次のように反論している。

< 特許法第29条第2項違反について >
本件発明は、請求人が提出した甲第1号証乃至甲第13号証に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第4.当審で通知した無効理由の概要

本件発明は、下記第1乃至第7引用刊行物に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「当審無効理由」という。)

第1引用刊行物:特開昭59-186580号公報
(審判請求人提出の甲第2号証)
第2引用刊行物:パチンコ攻略マガジン1994 8・14号
(平成6年8月14日、双葉社発行。同甲第11号証)
第3引用刊行物:パチンコ必勝ガイド1994 9・4号
(平成6年9月4日、白夜書房発行。同甲第12号証)
第4引用刊行物:パチンコ必勝ガイド1994 10・14号
(平成6年10月14日、白夜書房発行。同甲第13号証)
第5引用刊行物:特開平8-229223号公報
第6引用刊行物:特開平6-7498号公報
第7引用刊行物:特開平7-58966号公報


第5.当審の判断(当審無効理由について)

1.引用刊行物に記載された発明

(1)第1引用刊行物
本件の出願の日前である昭和59年10月23日に頒布された第1引用刊行物には、図面とともに、次の事項が記載されている。

記載事項:1-a
「スタートレバー操作により、3つのリールが回転され、・・・そしてストップボタンに対応したリールが回転中、かつストップボタンが操作された場合に、そのリールをストップさせることになる。」(第3頁左下欄第4-15行)

記載事項:1-b
「ゲーム開始後例えばスタートレバーの操作後の所定のタイミング信号・・により、その時点で乱数値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定する。こうして決定された乱数値は・・入賞確率テーブルと照合され、大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生、また中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断、処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチェックされることになる。」(第5頁左上欄第16行-右上欄第9行)

記載事項:1-c
「大ヒットが15枚のメダル支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの、中ヒットが10?15枚のメダル支払い、小ヒットが2?5枚程度のメダル支払いなど適宜設定される。」(第5頁右下欄第9-12行)

記載事項:1-d
「このため、まずストップボタンの操作後、シンボルマークが例えば4個分移動するまでの間にリールを停止させるようにするものとする。そしてストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに後続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークが何であるかをチェックするようにしてある。・・ヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがその5個のチェック範囲内にあればそこでリールを停止させることになる。なお、このような処理は3個のリールのそれぞれについて行われることは言うまでもない。」(第6頁左下欄第17行-右下欄第10行)

記載事項:1-e
「第15図はこうした入賞シンボルテーブルの一例を概念的に示すものである。」(第7頁左下欄第7-9行)

記載事項:1-f
「まず、大ヒットリクエストが発生されている場合には・・ストップボタンが操作された時点で・・シンボルマークの4コマずれの範囲でシンボルマークをチェックし、その範囲内に大ヒットを構成するシンボルマーク要素が存在すれば、それがリール窓に現れるようにモータに送り出されるパルス数を調整する。」(第7頁右下欄第13行-第8頁左上欄第1行)

また、第15図には、入賞のシンボルマークの組み合わせとして、「A・A・A」、「B・B・B」、「C・C・C」を大ヒットとし、「D・D・D」、「E・E・E」、「F・F・F」など6種を中ヒットとすることが記載されている。

これら記載事項によると、第1引用刊行物には、
「スタートレバー操作により3つのリールが回転し、ストップボタンが操作された場合に各リールをストップさせるスロットマシンにおいて、スタートレバーの操作後の所定の時点でそのゲームの乱数値を決定し、その乱数値に基づいて大ヒット、中ヒット、小ヒットのいずれかのヒットリクエスト信号を発生するか、あるいはヒットリクエストを発生しないかをチェックし、ストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、後続するシンボルマーク4個までの計5個のチェック範囲内に、ヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがあれば、そこでリールを停止させるものであって、大ヒット及び中ヒットに入賞するシンボルマークの組み合わせとして、それぞれ別々の特定一群のシンボルマークを対応づけておき、大ヒット(或いは中ヒット)のヒットリクエストが発生されている場合には、前記5個のチェック範囲内に大ヒット(或いは中ヒット)を構成するいずれかのシンボルマークが存在すれば、それを入賞ライン上にストップするようにしているスロットマシン。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)第2引用刊行物
本件の出願の日前に頒布された刊行物である第2引用刊行物には、本件の出願の日前に公用されていたパチンコ遊技機「CR名画」について次の事項が記載されている。

記載事項:2-a
「この機種の大当り絵柄は全部で15種類」(第68頁上段第1-2行)

記載事項:2-b
「大当り後、センターデジタルにH表示で確変突入」(第68頁第1段のコラム内)

記載事項:2-c
「デジタル上のランプが「H」だと確率変動に入る。」(第68頁第2段の右側コラム内)

(3)第3引用刊行物
本件の出願の日前に頒布された刊行物である第3引用刊行物には、本件の出願の日前に公用されていたパチンコ遊技機「CR名画」について次の事項が記載されている。

記載事項:3-a
「今までのデータ採りでは、出目の偏りにこだわったことはないため、出目データはなし。大当りした瞬間に「H」マークが表示されることにより確定する確率変動突入率については、ほぼ公称通りの2分の1であることが判明している。」(第7頁「出目の偏りと確変率」コラム内)

記載事項:3-b
「確変は大当り出目では決定されない(第7頁「他のCR機との比較」コラム内の「CR名画の特徴」コラム内」

記載事項:3-c
「大当りした後に、図1の上部にある小さなデジタルにHが出たらチャンスだ!確率変動に突入して、すぐに次の大当りがやってくるぞ。」(第115頁第1段第3-6行)

(4)第4引用刊行物
本件の出願の日前に頒布された刊行物である第4引用刊行物には、本件の出願の日前に公用されていたパチンコ遊技機「CR名画」について次の事項が記載されている。

記載事項:4-a
「CR名画の確変を決めるのは、当り絵柄ではなく、メインデジタル上部の確変決定マークである。この確変マークはメインデジタルに合わせて「回転→停止」を繰り返している。これは通常時と確変時のいずれも共通していえること。また、2種類の確変決定マークである「H」(確変)と「-」(通常)の出現率は、表面上通りの50%とアヤシイところは何一つ見当らない。」(第11頁第1段第6-15行)

記載事項:4-b
「さて、確変マークは、メインデジタルに合わせて回転し停止すると文頭に記したが、唯一の例外がある。それは大当り発生時だ。このときばかりは、当り絵柄が揃ってから約5秒後に確変マークが停止する。」(第13頁第3段コラム内)

(5)第5引用刊行物
本件の出願の日前である平成8年9月10日に頒布された第5引用刊行物には、図面とともに、次の事項が記載されている。

記載事項:5-a
「情報を可変表示する可変表示装置と、該可変表示装置の表示結果が予め定めた特定表示結果となると遊技者にとって不利な第二の状態から有利な第一の状態に変化し得る可変入賞球装置と、を備えた弾球遊技機において、前記可変表示装置の表示結果が特定表示結果として導出される確率を通常確率と高確率との間で変動する確率変動制御手段と、少なくとも前記可変表示装置の表示結果が特定表示結果となると前記確率変動制御手段による確率変動を行うか否かを表示態様にて決定する確変表示決定手段と、を備えたことを特徴とする弾球遊技機。」(【特許請求の範囲】)

記載事項:5-b
「上記請求項1記載の構成によれば、・・・可変表示装置の特定表示結果(当り図柄)の種類に関わらず可変表示装置での確率変動を決定することができるため、当り図柄に対する期待感が均等にでき、ひいては当り発生の満足感を半減させることがない。」(【0006】段落)

記載事項:5-c
「左特別図柄は、図5に示すように、「X・0・G・3?5・7・6・1・8・R・9・F・2・P」順の15種類から構成され、中・右の各特別図柄は、それぞれ「X・0・2?9・F・1・G・P・R」順の15種類から構成されている。・・・なお、大当り図柄の組合せは、左・中・右の各図柄が同一図柄にて揃った組合せであり、この組合せは、WCRND_Lのランダム数に基づいて決定される。」(【0016】段落)

記載事項:5-d
「なお、本実施例では、確定後の大当り図柄の色調変更により確率変動の有無を決定しているが、後述する図55の判定図柄表示器56を確率変動決定用の表示器として用いる構成とすることも可能である。」(【0042】段落)

また、第55図には、確率変動決定用の表示器として用いられる上記「判定図柄表示器56」が、「特別可変表示装置30」とは別に設けられることが記載されている。

(6)第7引用刊行物
本件の出願の日前である平成4年2月25日に頒布された第7引用刊行物には、図面とともに、次の事項が記載されている。

記載事項:7-a
「第1の特徴構成は、前記ボーナスゲームとしての複数種のゲームのうちのいずれを実行するかを抽選で決定する抽選手段が設けられ、前記図柄の組合せが前記ボーナスゲーム用の特定の組合せになったときに、前記抽選手段が作動するように構成されている点にある。」(第2頁右上欄第18行-左下欄第3行)

記載事項:7-b
「前記入賞ラインに沿った図柄の組合せが最も低い確率の特定の組合せになったときには、15枚のメダルが払い出された後、ゲーム終了とならずに、引き続き下記のボーナスゲームのための抽選ゲームに移行する。本実施例のスロットマシンにはボーナスゲームとして2種類のゲームが設けられている。一つは中当たりとしての連続役物ゲーム、他の一つは大当たりとしての連続役物増加ゲームである。・・・そこで、上記2種類のボーナスゲームの何れを実行するか・・・を抽選する抽選ゲームが行われる。すなわち、前述の抽選ゲームに移行する条件が成立したとき、制御装置(7)は抽選手段(8)を自動的に起動する。」(第3頁左下欄第20行-右下欄第16行)

記載事項:7-c
「抽選用操作具を設けずに、設定時間か経過すると自動的に抽選するものであってもよい。さらに、抽選手段(8)としては、図柄の組合せがボーナスゲーム用の特定の組合せになると、乱数発生器等を用いて予め抽選し、抽選用操作具の指令に基づいて、或いは設定時間経過すると、抽選結果を表示させるように構成してもよい。」(第5頁左上欄第5-13行)

また、特許請求の範囲の第2項、あるいは第2頁左下欄第4-7行の記載からすれば、当該引用刊行物には「外れをも抽選できる」ように構成した「第2の特徴構成」の発明も記載されており、当該第2の特徴構成との対比により、上記第1の特徴構成の抽選手段(記載事項7-a)としては、複数種のゲームのうちのいずれを実行するかを抽選し「外れを抽選しない」構成が記載されているか、すくなくとも示唆されている。


2.対比

本件発明と引用発明とを比較すると、
(1) 引用発明の「3つのリール」は、本件発明の「複数個の回転リール」に相当し、以下同様に、「スタートレバー操作」は「スタート操作」に、また、「ストップボタンが操作された場合」は「ストップ操作」に相当する。
(2) 引用発明の「大ヒット、中ヒット、小ヒット」は、本件発明の「ゲーム価値の異なる複数段階の入賞ランク」に相当するので、引用発明が「大ヒット、中ヒット、小ヒットのいずれかのヒットリクエスト信号を発生するか、あるいはヒットリクエストを発生しないかをチェック」している点は、本件発明が「今回のゲームが外れ状態であるか或いはゲーム価値の異なる複数段階の入賞ランクの内のいずれの当たり状態であるかを決定」している点に相当する。
(3) 引用発明の「後続するシンボルマーク4個までの計5個のチェック範囲内」は、本件発明の「所定範囲内」に相当する。また、引用発明の「ヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマーク」は、本件発明の「入賞ランクに対応した当たり絵柄」に相当するものであり、引用発明がこのシンボルマークで「リールを停止させる」としている点は、本件発明が「当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止」させている点に相当する。すると、引用発明の「ストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、後続するシンボルマーク4個までの計5個のチェック範囲内に、ヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがあれば、そこでリールを停止させる」点は、本件発明の「停止ライン位置から起算した所定範囲内に当該入賞ランクに対応した当たり絵柄が存在する状態でストップボタンが押された場合には、その当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止させる」点に相当する。

したがって、本件発明と引用発明とは、
「スタート操作に応答して複数個の回転リールが回転し、ストップ操作に応答して各回転リールが停止するスロットマシンにおいて、このスロットマシンは、スタートレバー或いは最初のストップボタンの操作に基づき、今回のゲームが外れ状態であるか或いはゲーム価値の異なる複数段階の入賞ランクの内のいずれの当たり状態であるかを決定し、停止ライン位置から起算した所定範囲内に当該入賞ランクに対応した当たり絵柄が存在する状態でストップボタンが押された場合には、その当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止させるもの」
の点で一致し、次の点において相違する。

(1)本件発明は、「入賞ランクの異なる大当たり絵柄と中当たり絵柄に、それぞれ別々の絵柄を対応させるのではなく、特定一群の絵柄を、大当たり及び中当たり兼用の絵柄として対応づけておくことで、前記決定が大当たり或いは中当たりのときは、前記所定範囲内に前記兼用の当たり絵柄が存在する場合には、その当たり絵柄が停止ライン上に来るように各回転リールを停止制御する停止手段」を備えているが、引用発明では、入賞ランクの異なる大ヒット及び中ヒットには、それぞれ別々の特定一群の絵柄を対応づけている点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本件発明は「前記決定に基づいて、自らの表示内容によって、大当たり状態であるか中当たり状態であるかを報知する表示手段」を備えているが、引用発明は回転リールとは別にそのような表示手段を設けていない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)本件発明は「回転リールによる絵柄の揃い方と、前記表示手段の表示内容とによって、その回のゲーム価値を最終的に確定するようにしている」が、引用発明は回転リールによる絵柄の揃い方で、その回のゲーム価値を最終的に確定している点(以下、「相違点3」という。)。


3.判断

上記相違点について検討する。

3-1.第2乃至第4、第5、第7引用刊行物に開示された慣用技術

後記(1)に示すとおり、可変表示装置を用いたゲームが行われる遊技機において、(A)可変表示装置とは別に表示手段を設け、当該表示手段の表示内容によってゲーム価値の異なる複数の入賞ランクの何れの当たり状態であるかを報知するとともに、(B)可変表示装置での絵柄の揃い方として当該異なる複数の入賞ランクについて兼用の絵柄を対応付けることにより、(C)可変表示装置における絵柄の揃い方と表示手段の表示内容とによってその回のゲーム価値を最終的に確定することは、本件特許出願の前に慣用技術であったと認められる。

(1) 第2乃至第4、第5、第7引用刊行物が開示する技術
第2乃至第4引用刊行物の記載によれば、本件特許出願の前に公用されていたと認められるパチンコ機「CR名画」では、表示手段に相当する「センターデジタル」(あるいは「デジタル」、「確変決定マーク」と称されているもの)の表示内容で確変大当たりか通常大当たりかを報知しており、そのため、可変表示装置での絵柄の揃い方としては、確変大当たりと通常大当たりについて15種類の大当たり絵柄が兼用して対応付けられている。ここで、確変大当たりと通常大当たりが、ゲーム価値の異なる複数の入賞ランクであることは明らかである(この点についての被請求人の主張については、後記(2)で検討する。)。
第5引用刊行物に記載された発明も同様に、表示手段に相当する「判定図柄表示器56」の表示内容で確変大当たりか通常大当たりかを報知しており、そのため、可変表示装置での絵柄の揃い方としては、確変大当たりと通常大当たりについて15種類の絵柄が兼用して対応付けられている(この点についての被請求人の主張については、後記(3)で検討する。)。
第7引用刊行物に記載された発明では、表示手段に相当する「抽選手段」の表示内容で「大当たり」か「中当たり」かを報知しており、そのため、可変表示装置に相当する「回動体」での絵柄の揃い方としては、「特定の組合せ」が「大当たり」と「中当たり」に兼用して対応付けられている。

(2)被請求人の主張について-1
被請求人は平成19年4月20付け提出の答弁書において、第2乃至第4引用刊行物に記載された発明がパチンコ機の「確率変動」に関する技術であることを指摘し、本件発明の「大当たり」「中当たり」との対比において「遊技者に価値を付与する意味では(確率変動ではなく)『大当たり』が相当する」と主張しているので、これについて検討する。
本件特許明細書では「大当たり状態」を、「その後のゲームを、中当たりの発生確率などが高く設定されたビック・ボーナス・ゲームに突入させる当たり状態」と説明しているから、可変表示装置におけるその後のゲームを当たりの発生確率が高いゲームに突入させることも、遊技者に付与する「ゲーム価値」に包含していると認められる。すると、パチンコ遊技機では「確変大当たり」、「通常大当たり」及び「外れ」が可変表示装置におけるゲームの結果であり、このうち「確変大当たり」は、可変表示装置におけるその後のゲームを大当たりの発生確率が高く設定されたゲームに突入させるというゲーム価値を有しているといえるから、「確変当たり」と「通常当たり」は、本件発明の「大当たり」と「中当たり」と同様に「ゲーム価値の異なる複数段階の入賞ランク」にあたる。

(3)被請求人の主張について-2
被請求人は、平成19年7月4日付け意見書において、「大当たり及び中当たり兼用の絵柄」に関して本件発明と第5引用刊行物に記載された発明とを対比する場合には、「抽選結果」としての大当たりや中当たりと、「ゲーム結果」としての大当たりや中当たりとを区別すべき旨を主張している。
確かに、本件発明のスロットマシンでは、遊技者の停止操作が介在するから抽選結果とゲーム結果とは一致しないことがあり、一方、第5引用刊行物に記載されたようなパチンコ機では、抽選結果とゲーム結果は通常一致するものである。
しかしながら、大当たりと中当たりに兼用の絵柄を対応付けるという事項は、各遊技機で遊技内容を規定するため予め特定される「入賞ランク」と「絵柄の揃い方」の対応関係(例えば、本件特許公報の第3図に記載の「参照テーブル」)において大当たりと中当たりに兼用の絵柄を対応付けることを意味するものであり、「抽選結果」としての大当たりや中当たり、又は「ゲーム結果」としての大当たりや中当たりに直接関係するものではない。当該対応関係は、抽選結果である入賞ランクから引き込むべき絵柄の揃い方を判定し、ゲーム結果である絵柄の揃い方から入賞ランクを判定するための前提となるものであり、あるいは、パチンコ機では、入賞ランクと絵柄の揃い方とを整合性をもって事前決定するための前提となるものである。
入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係が予め特定され遊技内容を決めていることは、本件発明のスロットマシンと第5引用刊行物に記載されたパチンコ機で同じであり、第5引用刊行物には「大当たり及び中当たり兼用の絵柄」を用いる点が開示されていると認めることができる。

上記慣用技術において、(A)可変表示装置とは別に設けた表示手段の表示内容によって複数の入賞ランクの当たり状態を報知し、(C)可変表示装置における絵柄の揃い方と表示手段の表示内容とによってゲーム価値を最終的に確定するためには、(B)入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係において絵柄を兼用することが必要となることは明らかであって、第2乃至第4、第5及び第7引用刊行物に記載された発明は、これら(A)、(C)とともに(B)の要件を満たしている。一方、これら引用刊行物に記載された発明では、入賞ランク又は絵柄の揃い方について事前決定(内部抽選)の有無がそれぞれ異なっているが、この点は当該慣用技術に必須の技術的事項ではない。


3-2.引用発明への上記慣用技術の適用

引用発明のスロットマシンへの上記慣用技術の適用を検討する。

引用発明は、スタートレバーの操作に基づいて入賞ランクを決定し、停止ライン位置から起算した所定範囲内に当該入賞ランクに対応した複数の当たり絵柄のうちいずれかが存在する状態でストップボタンが押された場合には、その当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止させるものであり、また、入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係は予め特定されている(第1引用刊行物の第15図の「入賞シンボルテーブル」)。
このような引用発明に上記慣用技術を適用すれば、(A)回転リールとは別に表示手段を設け、当該表示手段の表示内容によって上記決定した入賞ランクの「大当たり」と「中当たり」を報知することとなり、(B)入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係において「大当たり」と「中当たり」に兼用の絵柄を対応付けることにより、その対応関係に基づいて、入賞ランクに対応した当たり絵柄が存在する状態でストップボタンが押された場合には、その当たり絵柄を引き込んで回転リールを停止させることとなり、(C)回転リールの絵柄の揃い方と表示手段の表示内容とによってその回のゲーム価値を最終的に確定することとなる。

(1)相違点1について
兼用の絵柄を、特定の1種類とするか特定の一群(複数)とするかは適宜に選択し得る設計的事項にすぎない。引用発明はもともと、各入賞ランクに対して特定の一群の絵柄を対応付けており(例えば「大ヒット」に対して「A・A・A」、「B・B・B」、「C・C・C」)、また、上記第2乃至第4又は第5引用刊行物に記載された発明では、確変大当たりの絵柄と通常大当たりの絵柄をそのまま合せた15種類を「兼用の絵柄」に特定している。してみると、引用発明に上記慣用技術を適用し、大ヒットと中ヒットに兼用の絵柄を設定する場合において、その兼用の絵柄として特定一群の絵柄を対応付けることは、設計的に為し得たことにすぎない。
さらに、引用発明は、特定一群の絵柄のいずれかを引き込む制御を行っているから(例えば「大ヒット」では「A・A・A」又は「B・B・B」又は「C・C・C」を引き込んでいる)、引用発明の構成を基に、大当たりと中当たりに兼用の絵柄として特定一群の絵柄が対応付けられた場合には、当該特定一群の絵柄のいずれかを引き込むように構成されることは明らかである。
してみると、引用発明において、相違点1に係る本件発明の如く「入賞ランクの異なる大当たり絵柄と中当たり絵柄に、それぞれ別々の絵柄を対応させるのではなく、特定一群の絵柄を、大当たり及び中当たり兼用の絵柄として対応づけておくこと」、及び、引用発明の停止手段を「決定が大当たり或いは中当たりのときは、所定範囲内に兼用の当たり絵柄が存在する場合には、その当たり絵柄が停止ライン上に来るように各回転リールを停止制御する停止手段」として構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2乃至3について
引用発明において、相違点2に係る本件発明の如く「決定に基づいて、自らの表示内容によって、大当たり状態であるか中当たり状態であるかを報知する表示手段」を備えるよう構成し、さらに、相違点3に係る本件発明の如く「回転リールによる絵柄の揃い方と、前記表示手段の表示内容とによって、その回のゲーム価値を最終的に確定する」よう構成することは、上述のとおり慣用技術の適用により、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)被請求人の主張について-3
被請求人は上記意見書において、特定一群の絵柄の引き込み制御に関して、本件発明では「1回のゲーム中における抽選処理によって一群(複数)の絵柄が選択され、いずれの絵柄でも引き込み可能な状態となる」が、これに対し、第5引用刊行物に記載された発明では「1回のゲーム中において抽選処理により選択される当たり絵柄は、必然的に1種類のみ」であるから、第5引用刊行物に記載された「15種類の絵柄」は、本件発明の「特定一群の絵柄」とは全く無関係のものであると主張しているので、以下、この点について検討する。
第5引用刊行物に記載されたパチンコ機は、入賞ランクと絵柄の揃い方を内部抽選により事前決定することを前提としているから、絵柄の揃い方も内部抽選で1種類に事前決定されている。しかしながら、上記3-1.(3)で既に検討したとおり、当該パチンコ機でも、予め特定された入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係が存在し、その対応関係に従って内部抽選が行われるのであり、その対応関係において、同刊行物記載の発明は確変大当たりと通常大当たりに兼用の絵柄を対応付けているものであって、さらに、当該兼用の絵柄を特定一群(15種類)の絵柄としているものである。
当該特定一群の絵柄を引き込み制御することについては、上記(1)で検討したとおり、引用発明が有する内部抽選や引き込み制御の構成に対して、上記慣用技術の入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係を適用した結果として得られる構成である。すなわち、引用発明のスロットマシンは、「入賞ランク」を事前抽選し「絵柄の揃い方」は事前抽選せずに特定一群の絵柄のいずれかを引き込む構成を有しており、これに上記慣用技術における入賞ランクと絵柄の揃い方の対応関係(異なる入賞ランクでの絵柄の兼用)を適用し、その兼用の絵柄を特定の一群とすれば(上記(1))、事前抽選で特定一群の絵柄から1種類が事前に特定されることはなく、「遊技者の停止操作によって停止ライン上に停止させることが可能な絵柄の選択肢として、一群(複数)の絵柄が抽選処理によって決定される」こととなり、異なる入賞ランクに兼用して対応付けられた特定一群の絵柄を基にした引き込み制御が行われることになる。

以上のとおりであるから、引用発明に上記慣用技術を適用して、相違点2及び相違点3に係る本件発明の構成の如く、「(事前)決定に基づいて、自らの表示内容によって、大当たり状態であるか中当たり状態であるかを報知する表示手段」を備え、「回転リールによる絵柄の揃い方と、前記表示手段の表示内容とによって、その回のゲーム価値を最終的に確定するようにし」、さらに、相違点1に係る本件発明の構成の如く、「入賞ランクの異なる大当たり絵柄と中当たり絵柄に、それぞれ別々の絵柄を対応させるのではなく、特定一群の絵柄を、大当たり及び中当たり兼用の絵柄として対応づけておくことで、前記決定が大当たり或いは中当たりのときは、前記所定範囲内に前記兼用の当たり絵柄が存在する場合には、その当たり絵柄が停止ライン上に来るように各回転リールを停止制御する停止手段」を備えるよう構成することは、当業者が容易に為し得たことである。


3-3.本件発明の作用効果について

本件発明の作用効果として、「大当たりと中当たりに兼用の絵柄として特定一群の絵柄を対応づけた」ことにより、「入賞ランクを予測する際に大当たり及び中当たりを区別する必要がないため予測の的中率を向上させることができる」点、及び、「停止制御の自由度が高く、当たり状態の逃がし回数や当たり状態の持ち越し回数を少なくしたスロットマシンを実現できる」点が主張されている(被請求人の上記答弁書第5頁、上記意見書第3頁第2段落)。この点について検討する。

(1) 本件発明のスロットマシンの遊技は、遊技者が入賞ランクを予測して適切なタイミングで停止ボタンを操作するものであるが、本件発明では表示手段が設けられ、大当たりか中当たりかの区別は遊技機が「報知」するとしたことにより、遊技者が予測する対象から大当たりか中当たりかの区別が外された結果、大当たりと中当たりに関して予測が必要な範囲が狭くなり「予測の的中率が向上」したといえる。
一方、第7引用刊行物に記載の発明は、回転リールの停止に遊技者が関与するスロットマシンにおいて上記慣用技術が用いられている例であって、当該発明では、表示手段が設けられ、大当たりか中当たりかの区別は遊技者の関与から外され、遊技者が遊技において関与する回転リールの停止操作では大当たりと中当たりを区別しない特定の当り状態で停止させれば良くなったため、大当たりと中当たりに関して遊技者が関与する範囲が狭まっている。この「遊技者が関与する範囲が狭い」という点は、入賞ランクを遊技者が予測して遊技をするスロットマシンにおいて、遊技者が予測すべき範囲が狭いと言い換えられ、あるいは「予測の的中率が向上する」と表現されるにすぎない。
以上のことから、本件発明の「入賞ランクを予測する際に大当たり及び中当たりを区別する必要がないため予測の的中率を向上させることができる」という作用効果は、引用発明、及び、上記慣用技術、特に第7引用刊行物に記載の発明からみて、得られることが明らかな作用効果であって、本件発明で新たに得られた格別顕著な作用効果と認めることはできない。

(2) スロットマシンの「停止制御の自由度」は、回転リール上の当たり絵柄の数とその配置により決まるものであり、異なる入賞ランクで絵柄を「兼用」したか、あるいは、当該兼用絵柄が「特定の一群」であるかには依らない。
そして、本件発明では、大当たりと中当たりに兼用の絵柄として特定一群の絵柄を対応づけているが、当該「特定一群の兼用の絵柄」について、回転リール上の数や配置は特定されていないから、本件発明について「停止制御の自由度が高い」という作用効果を認めることはできない。例えば、本件特許明細書に記載された従来技術の例では「大当たり絵柄としてAとB、中当たり絵柄としてC」を対応付けているが、仮に、同じ回転リールの絵柄配置で「AとB」を「特定一群の絵柄」として大当たり及び中当たりの「兼用の絵柄」として対応付けても、大当たりについての停止制御の自由度は高くならない。
また、当該「特定一群の兼用の絵柄」の回転リール上の数や配置は、他の当り絵柄の数や配置と同様に、当業者がその入賞ランクを停止させる遊技上の難易度を考慮して設計的に決められる事項にすぎない。仮に、本件発明が、従来技術における回転リールの「大当たり絵柄」と「中当たり絵柄」を合せたものと同じ数と同じ配置で「特定一群の兼用の絵柄」を配置するものとしても、それは、当業者が通常行うように、遊技における停止制御の難易度を考慮して決められた結果として「停止制御の自由度が高い」配置に設定されたものというほかないから、格別のこととは認められない。

(3) 「当たり状態の逃がし回数や当たり状態の持ち越し回数を少なくできる」という作用効果は、上記(1)の「予測の的中率を向上させることができる」という点と、上記(2)の「停止制御の自由度が高い」という点から導き出される事項であるので、さらに検討を要するものではなく、やはり、格別顕著な作用効果とは認められない。

本願発明の作用効果は、引用発明、及び、第2乃至第4引用刊行物、第5引用刊行物、第7引用刊行物に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。


4.むすび

以上のとおりであるから、本件発明は、第1引用刊行物に記載された発明、及び、第2乃至第4引用刊行物、第5引用刊行物、第7引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-31 
結審通知日 2007-09-07 
審決日 2007-09-19 
出願番号 特願平9-340538
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 川島 陵司
榎本 吉孝
登録日 2006-03-10 
登録番号 特許第3779805号(P3779805)
発明の名称 スロットマシン  
代理人 黒田 博道  
代理人 大槻 聡  

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