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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1166908
審判番号 不服2004-14725  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-15 
確定日 2007-11-01 
事件の表示 平成 8年特許願第132169号「肩こり・五十肩治療用貼付剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月 9日出願公開、特開平 9-315964〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年5月27日の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年1月9日付けで意見書が提出されたが、その後同年6月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月13日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年8月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前の
「【請求項1】 膏体中にリドカイン又はその薬学的に許容される塩0.5?5重量%を含有することを特徴とする肩こり・五十肩治療用貼付剤。
【請求項2】 テープ剤又はパップ剤である請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】 膏体中にリドカイン又はその薬学的に許容される塩0.5?2重量%を含有する請求項2記載の貼付剤。」から、
補正後の
「【請求項1】 膏体中にリドカイン又はその薬学的に許容される塩0.5?5重量%を含有し、正常皮膚かつ正常体温時に用いることを特徴とする肩こり・五十肩治療用貼付剤。
【請求項2】 テープ剤又はパップ剤である請求項1記載の肩こり・五十肩治療用貼付剤。
【請求項3】 膏体中にリドカイン又はその薬学的に許容される塩0.5?2重量%を含有し、正常皮膚かつ正常体温時に用いることを特徴とする請求項2記載の肩こり・五十肩治療用貼付剤。」
と補正された。

上記補正前後の発明を特定するために必要な事項を対比すると、少なくとも、上記補正後の請求項1は、補正前の請求項1に、発明を特定するために必要な事項である「肩こり・五十肩治療用貼付剤」に関し、(i)「正常皮膚」「に用いる」との限定を付加し、かつ、(ii)「正常体温時に用いる」との限定を付加したものと認められる。

(2)補正の適否
(2-1)新規事項追加の違反
前記(i)の「正常皮膚」「に用いる」ことは、本願の願書に添付した明細書(以下、「出願当初の明細書」という。)の段落【0005】に対応する記載があり、かつ発明を特定する事項である貼付剤を限定している点で特許請求の範囲の減縮に相当し、特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とするものであると認められる。
しかしながら、前記(ii)の「正常体温時に用いる」ことは、出願当初の明細書に記載も示唆もなく、またかかる明細書の記載事項からみて自明であるとも認められない。

この点に関し、審判請求人は審判請求理由(平成16年8月13日付けの「請求の理由」の手続補正書参照)において、次のように主張している。
「2.補正の根拠の明示
請求項1および3の「正常皮膚かつ正常体温時に用いること」の補正は、段落0005の、「また、リドカインの5重量%軟膏剤が外傷、熱傷、刺傷や痔疾の疼痛と痒みの緩和に用いられているが(第11改正日本薬局方解説書)、これらは基本的には損傷皮膚又は粘膜への投与であるので肩こり、五十肩のように正常皮膚への投与を示唆するものではなく、またリドカイン含有外用剤が肩こりや五十肩の治療に用いられとの報告もない。更に、軟膏剤は効果の持続性の点で必ずしも十分とはいえない。」によります。
つまり、肩こりや五十肩の部位は正常皮膚であり正常体温部であることによります。この補正によりまして、本願発明の記載を明瞭にすると共に範囲を限定するものと致しました。」
しかし、出願当初の明細書の段落【0005】の記載を勘案しても、患者の体温及び正常体温に関する記載は無く、該記載から「正常体温時に用いる」が自明に導き出せるとも認められない。

したがって、前記(ii)の「正常体温時に用いる」との補正は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

(2-2)独立特許要件違反
ところで、仮に、出願当初の明細書に「正常体温時に用いる」との明示がある場合を想定し、前記(ii)の補正が前記(i)の補正と同様に特許請求の範囲の減縮であると解したところで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえず、補正却下を免れることはできない。

(2-2-1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平5-170644号公報(以下、「引用例1」という。)には、次のことが記載されている。なお、下線は当審が加筆した。
(1-i)「【請求項1】表面が透湿性フィルムで形成され、且つ裏面が支持体で形成された解放部のない偏平状袋体に、空気の存在により発熱する発熱体組成物を封入してなる発熱体構造物において、該発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、該粘着層には局所麻酔剤が含有されていることを特徴とする温熱治療用構造物。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)、及び、
(1-ii)「【請求項7】局所麻酔剤がプロカイン、塩酸プロカイン、リドカイン、塩酸リドカイン、メピバカイン、塩酸メピバカイン、プリロカイン、クアタカイン、ブピバカイン、塩酸コカイン、アミノ安息香酸エチル、塩酸テトラカイン、塩酸ジブカイン、オキシブプロカイン、塩酸プロピトカイン、テーカイン、塩酸ベノキシネイト、塩酸メプリルカイン、塩酸プロカイン、塩酸クロロプロカイン、塩酸ベノキシネート又は塩酸ヘキソチオカインである請求項1ないし6のいずれかに記載の温熱治療用構造物。」(【特許請求の範囲】の【請求項7】参照)、
(1-iii)「本発明は、上記技術的課題を解決するために完成されたものであり、この種の温熱治療用構造物(温熱湿布剤)において、発熱体組成物中に水分を含有させることにより皮膚表面温度を所定の範囲に維持して低温やけどを防止すると共にその温度を長時間に亘って維持することにより疾患の有効な治療を行う上、薬物として局所麻酔剤を用いることにより、上述の3条件を満たす慢性化した疼痛性疾患に有効に作用させて疼痛を速やかに除去し、しかも安全性を至極向上させた温熱治療用構造物を提供することを目的とする。」(段落【0022】参照)、
(1-iv)「そして、本発明においては、粘着層に局所麻酔剤が含有されるが、この局所麻酔剤の配合割合は粘着層全体の0.1?25重量%の範囲とするのが望ましく、局所麻酔剤の配合割合が、0.1重量%未満では薬効が乏しく所望の効果が得られないのであり、一方、25重量%を超えると皮膚粘着力が低下する上、不経済であり、従って、これらの観点より、特に0.5?15重量%の範囲とするのが望ましい。」(段落【0063】参照)、
(1-v)「又、本発明の温熱治療用構造物はその貼付局所を加温することにより皮膚表面の温度を上げ、血流を促進し、皮膚表面領域の新陳代謝を高めるのであり、しかも皮膚面から気化潜熱を奪わず、したがって、皮膚温度を下げることなく一定であり、慢性化した慢性疼痛の治療に有効である。
又、発汗に伴なって粘着層中に含まれる多量の水分との相互作用により、皮膚角質層の水和を助長する。この作用により、局所麻酔剤の経皮吸収を促進してその薬効を高めることができる。このため本発明によれば、経皮吸収促進剤を添加したり基剤に特別な処方を考慮する必要がなく、皮膚刺激等の副作用を考えた場合、安全性を高めることが可能であり、局所麻酔剤の経皮吸収効果も格段に高めることが可能である。
更に、本発明の温熱治療用構造物は慢性的に血行不全状態の続く患部に作用し、その部位の血管を拡張して血流を改善させ、更に患部にて生産され、蓄積した発痛物質を効果的に取り除くことができるのであり、これによって慢性疼痛の除去或いは緩和を図る作用を有するのである。」(段落【0076】?【0078】参照)、
(1-vi)「次いで、上記粘着層上に、塩酸リドカインゼリーを塗工して、塩酸リドカイン含有粘着層(4)を形成した。この場合、塩酸リドカイン含有粘着層(4)全体中の塩酸リドカイン含有量は1重量%になるように調整した。」(段落【0099】参照)、
(1-vii)「比較例2
塩酸リドカインゼリーをガーゼに塗布したものを用いた。この場合、ガーゼの大きさは実施例のものと同じにし、又、塩酸リドカインの含有量は実施例のものと同じ条件とした。」(段落【0102】参照)、
(1-viii)「3)第3表(比較例2群)に示す結果より;
治療前の腰痛スコアは3.8±1.2
治療後の腰痛スコアは2.4±1.1
であり、統計学的に治療は有効であった(p<0.05))。」(段落【0119】参照)、
(1-ix)「更に、比較例2のものは効果が乏しいだけでなく、鎮痛効果の持続性が欠けるのであり、従って、常に痛みがあるか、又は時にかなりの痛みがあったり、或いは常に激しい痛みがある慢性疼痛の患者に対して短時間で張り替える必要があり、大変煩わしい上、所要の効果が期待できないのである。」(段落【0132】参照)。
(1-x)「以上の実験から、本発明の温熱治療用構造物は、至極優れた鎮痛効果を発現する上、即効性があり、しかも鎮痛効果の持続性が得られるので、慢性化した腰痛、神経痛、筋痛症、頭痛や肩凝り、頚肩腕症候群、いわゆるムチ打ち症、四肢痛、各部関節痛及び慢性関節リューマチ、難治性筋神経疾患等の治療に有効である。」(段落【0135】参照)。

これらの記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「発熱体構造物の裏面に粘着層が形成されており、該粘着層には粘着層全体の0.5?15重量%の配合割合のリドカイン又は塩酸リドカインが含有されている肩凝りを治療するための温熱湿布剤。」

(2-2-2)対比、判断
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
(a)引用例1発明の「粘着層全体の0.5?15重量%の配合割合のリドカイン又は塩酸リドカインが含有されている」は、塩酸リドカインがリドカインの薬学的に許容される塩であると認められ、また、その配合割合として1重量%の実施例があること(摘示(1-vi)参照)も勘案し、
本願補正発明の「膏体中にリドカイン又はその薬学的に許容される塩0.5?5重量%を含有し」に対応し、配合割合が0.5?5重量%で重複する。
(b)引用例1発明の「肩凝りを治療するための」は、本願補正発明の「肩こり」「治療用」に相当する。
(c)引用例1発明の「温熱湿布剤」は、本願補正発明の「貼付剤」に相当する。

してみると、両発明は、
「膏体中にリドカイン又は塩酸リドカイン0.5?5重量%を含有する肩こり治療用貼付剤。」である点で一致し、次の点で相違している。
<相違点>
本願補正発明では、「正常皮膚かつ正常体温時に用いる」と規定しているのに対し、引用例1発明では、そのような規定はなく、「発熱体構造物」が使用されている点。

そこで、この相違点について検討する。
肩こり、腰痛等で使用される貼付剤においては、粘着性の薬剤を支持体の片面に設けた貼付剤に、使い捨てカイロを取り付けたり、また背面から温熱袋等をあてるなどして、温める(温湿布する)ことで治療効果を改善できることが当業者に広く知られており(例えば、実願昭59-44462号(実開昭60-156135号)のマイクロフィルムや、実願昭59-56003号(実開昭60-169232号)のマイクロフィルム第1,2頁参照)、引用例1の比較例2では塩酸リドカインゼリーをガーゼに塗布した(即ち、発熱構造部分がない)態様であっても、発熱構造部分がないことによって疼痛軽減効果やその持続性の面で劣るものの(摘示(1-ix)を参照)、一定の治療効果があることが示されているところである(摘示(1-viii)を参照)。そして、腰痛の治療に有効であることは、肩こりの治療にも有効であると解するのが相当である(摘示(1-x)参照)。
してみると、引用例1発明において、発熱構造部分を有さない(即ち温熱作用を有しない)通常の基体を用いた貼付剤の形式で使用する程度のことは、当業者が容易に想到し得たものというべきで、格別の創意工夫が必要であったとは認められない。その際に、「正常皮膚かつ正常体温時に用いる」ことは貼付剤を肩こりに使用する際の通常の態様であり、格別特殊なことではない。
そして、発熱構造部分を有さないことによって温熱作用による改善効果がなくなるとしても、リドカインに基づく痛み軽減効果が得られることは、前述の引用例1の比較例2の記載から容易に予期し得ることであり、上記相違点によって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていないため、乃至は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年8月13日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、前記「2.(1)」の補正前の【請求項1】に記載されたとおりのものである。

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用される引用例1およびその記載事項は、前記「2.(2)(2-2)(2-2-1)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明は、前記「2.(2)(2-2)(2-2-1)」で認定したとおりである。
そして、前記「2.(2)(2-2)(2-2-2)」で判断した(a)?(c)の対応関係を勘案すると、両発明は、「膏体中にリドカイン又は塩酸リドカイン0.5?5重量%を含有する肩こり治療用貼付剤。」で一致するから、本願発明は、引用例1発明と同一であるといえる。
なお、引用例1発明では「発熱体構造物」を構成要件としているが、本願発明では、そのような構成を含む態様を格別に除くものではないから、その点をもって両発明が相違するということができない。

(3)むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-27 
結審通知日 2007-08-28 
審決日 2007-09-14 
出願番号 特願平8-132169
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希井上 明子  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 谷口 博
福井 悟
発明の名称 肩こり・五十肩治療用貼付剤  
代理人 金倉 喬二  

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