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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1166969
審判番号 無効2006-80159  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-24 
確定日 2007-11-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3078541号発明「即席春雨およびその製法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3078541号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
1.手続の経緯

本件特許3078541号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、平成11年7月5日に特願平11-190611号として出願され、平成12年6月16日に特許権設定の登録がなされたところ、これに対して、日清食品株式会社より平成18年8月24日付けで本件無効審判の請求がなされた。
これに対して、同年11月15日付けで被請求人インターパック株式会社より答弁書が提出されたものである。

2.本件特許発明

本件特許発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】緑豆の澱粉を水で捏ね、この捏ねた緑豆の澱粉をノズルから押し出して線状に形成し、線状に形成されたものを熱湯で茹でて、水洗いをしたのち、凍結させて鬆を形成して、解凍したのち、容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させた春雨と、調味料を加えた野菜、肉類などのスープを凍結乾燥させた1食分のスープの素とよりなり、上記春雨と上記スープの素とを断熱材料で作ったカップ状容器に入れたことを特徴とする即席春雨。」

3.請求人の主張

請求人は、「特許第3078541号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1乃至8号証を提示し、その理由として、本件特許発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである、或いは、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである旨主張している。

甲第1号証:「日本食糧新聞」、平成9年9月3日発行、第7面
甲第2号証:「食品工業」第12巻第2号、1969年1月下旬号、第29?40頁
甲第3号証:食品産業事典改訂第六版上巻、平成9年9月30日発行、第59頁
甲第4号証:簡明 食辞林、昭和60年9月1日発行、第659頁
甲第5号証:特開昭62-289156号公報
甲第6号証:特開昭63-317445号公報
甲第7号証:特開平1-284371号公報
甲第8号証:特開平5-16977号公報

4.被請求人の主張

一方、被請求人は、請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることができないと主張している。

5.甲号証の記載事項

本件出願の出願日前に頒布された甲第1号証乃至甲第8号証刊行物には、以下の事項が記載されている。

甲第1号証:日本食糧新聞、平成9年9月3日発行、第7面
(1-1)第7面の右上には「スープで食べる緑豆春雨」と記載されたカップタイプの商品の写真が掲載されている。
(1-2)・・・カップタイプのFD(フリーズドライ)スープ「桃屋の完熟トマトスープ」「同スープで食べる緑豆春雨」を全国のCVSで販売した。FD製法を用いた素材感、風味の良さが特徴。(右上欄第1段3行?第2段第3行)
(1-3)「スープで食べる緑豆春雨」は緑豆100%のはるさめを使用。コシと食感の向上、スープとの相性に配慮し麺は細目にした。湯戻り後の量は60gと多いが、一食当たりのカロリーは70キロカロリーと低め。ニンジンや椎茸など四種類の具と清湯(チキン・ポークのスープ)で合わせ、さらりとした中にもコクのある味に仕上げた。(右上欄第3段第8行?第4段3行)

甲第2号証:「食品工業」第12巻第2号、1969年1月下旬号、第29?40頁
(2-1)はるさめを実際に製造する従来からの方法は、・・・混練・・・目皿通し・・・湯通し・・・冷却・・・冷凍・・・解氷・調整・・・乾燥・包装・・・。(第29頁左欄下から3行?第32頁左欄第7行)
(2-2)・・・冷凍処理過程で水分が多い場合、水が結晶して麺内部の空間を埋めているから、解氷後そのスペースはそのままに残り、海綿状の空洞を形成し、・・・(第36頁左欄第2?4行)

甲第3号証:食品産業事典改訂第六版上巻、平成9年9月30日発行、第59頁
(3-1)はるさめの製法 (1)冷凍法 甘庶澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等を混和して、澱粉乳を作り、小穴を開けた器から熱湯中にたらし込み、加熱し冷水でさました後、冷凍庫で凍結させ、解凍の上、乾燥させる。(第59頁左欄下から17?10行)
(3-2)・・・麺体に、凍結した際にできる無数の細かい穴があるため、透明感は失われるが、調理して煮汁を吸い込みやすい利点がある。(第59頁左欄下から6?2行)

甲第4号証:簡明 食辞林、昭和60年9月1日発行、第659頁 はるさめの項
(4-1)・・・でんぷんを一部糊化し、よくこね、これを底部に穴のある容器に入れ、この穴から圧出して熱湯中に糸状に落とし、糊化させてめん線をつくる。冷水中に入れて冷却したのち、-7?-10℃で凍結(24時間位)し、これを冷水中で解凍し、乾燥して製造する。・・・(第659頁右欄16?22行)

甲第5号証:特開昭62-289156号公報
(5-1)春雨は種々の澱粉類を原料とし、その原料澱粉の一部を糊化し、これを残りの澱粉、その他と混合して、水分約50%の澱粉スラリーとした後、これを細孔から煮沸湯中に自然落下させるか、又は圧力をかけて押し出して太さ1?2mmの麺線とし、糊化させる。次いで、麺線を冷却、冷凍した後、解氷し、乾燥させることにより製造されている。(第1頁左下欄第16行?右下欄第4行)

甲第6号証:特開昭63-317445号公報
(6-1)温湯食品用の保温性容器としては、内側にポリエチレンをラミネートした紙カップの外側に断熱層を形成させた容器・・・が知られている。(第1頁右下欄第16行?第2頁左上欄第3行)

甲第7号証:特開平1-284371号公報
(7-1)即席麺用のカップ状容器等食品の包装容器として、発泡ポリスチレン樹脂粒子で構成された側壁および底壁からなる容器が使用されている。・・・(第1頁右下欄第7?9行)

甲第8号証:特開平5-16977号公報
(8-1)【従来の技術】従来、インスタントラーメンの如き熱湯を注ぐだけで食用に供せられる即席食品の容器として、製作が容易でかつ安価であると共に断熱性に優れていることから、発泡ポリスチレン製の容器が一般に広く使用されている。・・・(段落【0002】)

6.当審の判断

本件発明1は、緑豆の澱粉を水で捏ね、この捏ねた緑豆の澱粉をノズルから押し出して線状に形成し、線状に形成されたものを熱湯で茹でて、水洗いをしたのち、凍結させて鬆を形成して、解凍したのち、容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させた春雨と、調味料を加えた野菜、肉類などのスープを凍結乾燥させた1食分のスープの素とよりなり、上記春雨と上記スープの素とを断熱材料で作ったカップ状容器に入れたことにより、凍結工程により鬆が形成されているので、熱湯を注ぎ込むことにより容易に春雨に戻すことができ、かつ、従来の春雨に比して、舌触り、歯触りの点で何ら遜色がなく、多様な味付けに適し、美味しく食べることができるものである。
これに対して、甲第1号証刊行物(以下、「引用例」という。)には、カップタイプのスープで食べる緑豆春雨は、フリーズドライ製法を用いたため、素材感、風味が良いこと(上記記載事項(1-2))が記載され、スープで食べる緑豆春雨は、緑豆100%、湯戻り後の量は60g、1食あたり70キロカロリーであって、ニンジンや椎茸など四種類の具とチキン・ポークのスープを合わせること(上記記載事項(1-3))が記載されている。
ここで、引用例のスープで食べる緑豆春雨は、フリーズドライ(凍結乾燥)を用いたものであるが、フリーズドライ製法は通常即席食品の製造に用いられる製法であること、そして、カップに収納したものを湯戻しして食するものであり、またカップタイプであることからみて、敢えて別の容器に移して食するものではなく、そのカップで食するものと解するのが自然であることから、即席春雨ということができる。
してみれば、引用例には、「緑豆100%の春雨を凍結乾燥したものと、チキン・ポークのスープを凍結乾燥したものとをカップに収納した即席春雨。」が記載されているといえる。
そこで、本件発明と引用例に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比すると、後者の「チキン・ポークのスープを凍結乾燥したもの」は、前者の「調味料を加えた肉類などのスープを凍結乾燥させたスープの素」に相当するから、
両者は、「緑豆から製造し凍結乾燥した春雨と、調味料を加えた肉類などのスープを凍結乾燥させたスープの素とよりなり、上記春雨と上記スープの素とをカップ状容器に入れた即席春雨。」である点で一致しており、
(a)内容物の春雨に関して、前者が「緑豆の澱粉を水で捏ね、この捏ねた緑豆の澱粉をノズルから押し出して線状に形成し、線状に形成されたものを熱湯で茹でて、水洗いをしたのち、凍結させて鬆を形成して、解凍したのち、容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させた」と特定しているに対して、後者にそのような特定がない点
(b)内容物のスープに関して、前者が「1食分のスープの素」と特定しているに対して、後者にそのような特定がない点
(c)カップ状容器容器に関して、前者が「断熱材料で作ったカップ状容器」と特定しているに対して、後者にそのような特定がない点
で、両者は相違している。
そこで、これらの相違点について検討する。

(1)相違点(a)について
澱粉を水で捏ね、この捏ねた澱粉をノズルから押し出して線状に形成し、線状に形成されたものを熱湯で茹でて、水洗いをしたのち、凍結させて鬆を形成して、解凍したのち、乾燥させて春雨を製造することは、本件特許の出願時において周知の技術(甲第2乃至5号証参照)であり、そして、上記凍結工程により、海綿状の無数の空洞即ち無数の鬆が形成されることも周知のことであって(上記記載事項(2-2)及び(3-2))、この周知の澱粉からの春雨の製造技術を引用例発明の緑豆の澱粉からの春雨の製造技術に適用することに何等困難性は見出せず、またそれを妨げる特段の理由も見出せない。
そして、即席麺等の即席食品を容器に収納する際に、麺、スープ等の内容物を1食分とすることは寧ろ普通のことであり、引用例にも湯戻り後の量は60gで、1食あたり70キロカロリーと記載されている(上記記載事項(1-3))ことから、引用例発明も1食分の春雨を収納しているものと解されるところ、この点は実質的な相違点ではないし、麺等の内容物を容器の形状に合わせて1食分にして容器に収納することも、挙例するまでもなく周知のことであるから、この周知技術を引用例発明に適用し、解凍した春雨を容器の形状に合わせて1食分に束ねて乾燥させることにも何等困難性は見出せない。

(2)相違点(b)について
前記のとおり、即席麺等の即席食品を容器に収納する際には、麺、スープ等の内容物を1食分とすることは寧ろ普通のことであり、引用例にも湯戻り後の量は60gで、1食あたり70キロカロリーと記載されている(上記記載事項(1-3))ことから、引用例発明も1食分のスープの素を収納しているものと解されるところこの点は実質的な相違点ではないし、仮にそうでないとしたとしても、当業者が適宜なし得るところである。
また、本件発明が、春雨とスープの素を別々に1食分づつ容器に収納したものであるか否かは、特許請求の範囲の記載では必ずしも明らかではないが、そうであったとしても、即席麺等の即席食品を容器に収納する際には、麺、スープ等の内容物を別々に1食分づつ容器に収納することは、挙例するまでもなく周知のことであるから、当業者が適宜なし得るところである。

(3)相違点(c)について
即席麺用の容器を「断熱材料」で作ることは、本件特許の出願時において周知(甲第6乃至8号証参照)であったから、引用例発明において、カップ状容器容器を断熱材料で作ったカップ状容器とすることは周知技術の適用にすぎず、当業者が適宜なし得るところである。

そして、本件発明の効果も、甲第1号証刊行物に記載された発明及び周知技術から、当業者が予期しうる範囲のものである。

したがって、本件発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7.むすび

以上のとおり、本件請求項1に係る発明の特許は、本件出願の出願日前に頒布された甲第1号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件請求項1に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-29 
結審通知日 2006-12-04 
審決日 2006-12-19 
出願番号 特願平11-190611
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内田 俊生  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 田中 久直
鵜飼 健
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3078541号(P3078541)
発明の名称 即席春雨およびその製法  
代理人 役 学  
代理人 林 紘樹  
代理人 役 昌明  
代理人 角田 嘉宏  

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