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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C
管理番号 1167002
審判番号 不服2005-18203  
総通号数 96 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2007-11-02 
事件の表示 特願2003-587998「無電解めっき方法及び金属めっき層が形成された半導体ウエハー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 6日国際公開、WO03/91476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
[1]手続の経緯
本願は、2003年3月26日(優先権主張 2002年4月23日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成17年5月17日付で拒絶理由が通知されたところ、その指定期間内の平成17年7月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成17年8月18日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年9月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において、平成19年6月12日付で拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成19年8月10日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

[2]本願発明1
本願請求項1?3に係る発明は、平成19年8月10日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 被めっき面上に金属捕捉能を持つ官能基を有するシランカップリング剤の溶液を塗布し、更にパラジウム化合物の有機溶媒溶液を塗布して前記シランカップリング剤にパラジウム化合物を捕捉させた後、無電解めっきをすることを特徴とする無電解めっき方法。」

[3]引用例1,2の記載事項
これに対して、当審において平成19年6月12日付で通知した拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、再公表特許公報(国際公開第00/01862号)(以下、「引用例1」という。)、特開2001-181853号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)引用例1:再公表特許公報(国際公開第00/01862号)(平成13年3月13日発行)
(1A)「2.貴金属イオンと錯体を形成する活性官能基を有するアゾール系化合物とエポキシシラン系化合物との反応により得られたシランカップリング剤で表面処理した被めっき物を貴金属イオンを含む溶液で処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法。」(【特許請求の範囲】2.)
(1B)「処理する溶液中のシランカップリング剤濃度は・・・前記のようにして表面処理したものに対して化学めっきする方法は公知の方法である。すなわち、パラジウムなどの貴金属イオンを含んだ溶液と接触させて、下地表面に処理されたカップリング剤のアゾール基に貴金属を捕捉させる。・・・
また、無電解めっきを最初に行って金属薄膜を形成させ、導電性のない下地にある程度の導電性を持たせた後、電気めっきや卑なる金属との置換めっきを行うことも可能である。
本発明により無電解めっきにより銅、ニッケル、コバルト、スズ、金などの金属をめっきすることができるが、・・・」(6頁下から7行?7頁10行)
(1C)実施例1として、「・・・シランカップリング剤を0.4重量%含んだ2-プロパノール溶液を用いて500RPMにてスピンコートした。その後、この板を105℃で30分間乾燥した。さらにPd活性化処理液CG-535A(アクチベーター、日鉱メタルプレーティング(株)製)に室温で1分間浸漬した後、脱イオン水約100mlで水洗し105℃で30分間乾燥してガラ
ス板表面に貴金属活性化処理を行った。・・・」(8頁13?18行)

(2)引用例2:特開2001-181853号公報
(2A)「【請求項3】被めっき物を必要に応じて非水系めっき触媒液で触媒付与後、上記非水系無電解めっき液でめっきすることを特徴とするめっき方法。」(【請求項3】)
(2B)「【0025】尚、非水系無電解めっき液を用いるめっき工程においては、めっき前に触媒付与が必要な場合、非水系の無電解めっき触媒液を使用することが望ましい。
【0026】水系無電解めっき触媒液を使用することも可能であるが、疎水性基材をめっきする場合、予め基材の親水化・粗化処理が必要になるばかりか、触媒付与後に乾燥が必要となる(更に工程数が増えるだけでなく、めっき触媒活性が低下する)。」(【0025】、【0026】)

[4]当審の判断
(1)引用例1記載発明
引用例1には、摘記事項(1A)によれば、「貴金属イオンと錯体を形成する活性官能基を有するアゾール系化合物とエポキシシラン系化合物との反応により得られたシランカップリング剤で表面処理した被めっき物を貴金属イオンを含む溶液で処理した後、無電解めっきすることを特徴とする金属めっき方法。」が記載されている。
また、摘記事項(1B)によれば、貴金属イオンを含んだ溶液として、「パラジウムなどの貴金属イオンを含んだ溶液」、即ち、パラジウムイオンを含んだ溶液が記載されている。
また、摘記事項(1B)によれば、「処理する溶液中のシランカップリング剤濃度は・・・前記のように表面処理したものに対して化学めっきする方法は公知の方法で・・・、パラジウムなどの貴金属イオンを含んだ溶液と接触させて、下地表面に処理されたカップリング剤のアゾール基に貴金属を捕捉させ」と記載されており、パラジウムイオンを含んだ溶液と接触させて、下地表面に処理されたシランカップリング剤にパラジウムを捕捉させることが、理解できる。
また、摘記事項(1C)によれば、実施例1として、「シランカップリング剤で表面処理」の例として、シランカップリング剤の2-プロパノール溶液を用いてスピンコートすることが、また、貴金属イオンを含んだ溶液の「処理」の例として、室温で浸漬した後、水洗し乾燥することが、それぞれ記載されている。

よって、摘記事項(1A)?(1C)を総合すると、引用例1には、
「貴金属イオンと錯体を形成する活性官能基を有するアゾール系化合物とエポキシシラン系化合物との反応により得られたシランカップリング剤の2-プロパノール溶液を用いてスピンコートした被めっき物をパラジウムイオンを含んだ溶液と室温で浸漬させて、下地表面に処理されたシランカップリング剤にパラジウムを捕捉させた後、水洗し乾燥した後、無電解めっきする方法。」の発明(以下、「引用例1記載発明」という。)が記載されていることになる。

(2)本願発明1と引用例1記載発明の対比
本願発明1と引用例1記載発明とを対比する。
引用例1記載発明の「スピンコート」は、本願発明1の「塗布」に相当する。また、塗布は表面に行われるものであるから、引用例1記載発明の「被めっき物」にスピンコート、即ち、塗布することとは、本願発明1の「被めっき面上に」塗布することに相当する。
また、貴金属と錯体を形成することとは、溶液から金属を捕捉することであるから、引用例1記載発明の「貴金属イオンと錯体を形成する活性官能基を有するシランカップリング剤」とは、本願発明1の「金属捕捉能を持つ官能基を有するシランカップリング剤」に相当する。
また、引用例1記載発明の「シランカップリング剤の2-プロパノール溶液」は、本願発明1の「シランカップリング剤の溶液」に相当する。
また、溶液に「室温で浸漬した後、水洗し乾燥」すれば、浸漬されたものの表面に溶液が塗布されることは明らかであるから、引用例1記載発明の「パラジウムイオンを含んだ溶液と室温で浸漬」「した後、水洗し乾燥した後、無電解めっきする」こととは、本願発明1の「溶液を塗布した後、無電解めっきをする」ことに相当する。

よって、両者は「被めっき面上に金属捕捉能を持つ官能基を有するシランカップリング剤の溶液を塗布し、更にパラジウムの溶液を塗布した後、無電解めっきをする無電解めっき方法。」の点で一致するものの、次の点で相違する。

相違点1:パラジウムの溶液について、本願発明1は、「パラジウム化合物の有機溶媒溶液」としているのに対して、引用例1記載発明は、「パラジウムイオンを含んだ溶液」である点。
相違点2:本願発明1は、「シランカップリング剤にパラジウム化合物を捕捉させた」ものであるのに対し、引用例1記載発明は、このことが明確でない点。

(3)相違点の検討
相違点1について
引用例2には、摘記事項(2A)によれば、「被めっき物を非水系めっき触媒液で触媒付与後、上記非水系無電解めっき液でめっきする方法」が記載され、また、摘記事項(2B)には、非水系の無電解めっき触媒液を使用する理由については、水系の無電解めっき触媒液では、「触媒付与後に乾燥が必要となる(更に工程数が増えるだけでなく、めっき触媒活性が低下する)」為、と記載されている。以上によれば、非水系のめっき触媒液の使用は、乾燥工程の簡略化ないし、めっき触媒活性の低下を防ぐことができるものといえる。
そして、引用例1記載発明においては、乾燥工程を有するから、該工程の簡略化ないし、めっき触媒活性の低下を防ぐために、「パラジウムイオンを含んだ溶液」について、引用例2の示唆に基づき、非水系めっき触媒液を用いる、という手段を採用することは、当業者が容易に想到しうるものである。

次に、非水系のめっき触媒液を用いるにあたり、パラジウム化合物の有機溶媒溶液を選定することについて検討する。
「パラジウムイオンを含んだ溶液」である「非水系めっき触媒液」として、「パラジウム化合物の有機溶媒溶液」が含まれることは明らかであり、かつ、「めっき触媒液」として「塩化パラジウムの水溶液」が、一般的なものであることからみて、「非水系めっき触媒液」として、「パラジウム化合物の有機溶媒溶液」は、一般的なものといえる。
また、パラジウム化合物を有機溶媒に溶解させた無電解めっき触媒液は、下記の周知例1,2に記載されているように周知のものである。
周知例1:特公平2-47545号公報
「(a) 有機溶媒に可溶であるか又は粒径0.5μm以下のパラジウムの有機酸塩および塩化パラジウムの有機錯体から選択された少なくとも一種の触媒金属0.01?25重量% 及び(b) 上記触媒金属を溶解乃至分散させる有機溶媒もしくは有機ビヒクル75?99.99重量%からなりセラミツク基材上に化学メツキにより金属導体被膜を形成させるための化学メツキ用アンダーコート組成物。」(特許請求の範囲)
周知例2:国際公開第00/79023号
「One of the major advantages of the invented method is the use of a polar catalyst in a molecular form which is stable, provides high resolution in printing structures and is very well-soluble in an aqueous or ethanolic solution. For example Cl2 Pd(NC(CH2 )16 CH3 )2 is a suitable catalyst for electroless deposition of Cu and is soluble in ethanol.」(4頁27?31行)
(訳「本発明の方法の主要な利点のひとつは、安定で、構造体印刷時に高分解能をもたらし、水性またはエタノール性溶液に非常に良く溶ける、分子形態の極性触媒の使用である。例えば、[Cl2Pd(NC(CH2)16-CH3)2]はCuの無電解めっきに適当な触媒で、エタノールに可溶である。)
よって、引用例1記載発明において、「パラジウムイオンを含んだ溶液」について、非水系めっき触媒液という手段を採用するにあたり、一般的な、非水系めっき触媒液といえる、パラジウム化合物の有機溶媒溶液を用いる、という手段を採用することも、当業者が適宜なしうることである。

なお、請求人は、平成19年8月10日付意見書の(10)において、引用例2の段落0028及び実施例1に、「パラジウムコロイド分散液」が記載されていることに基づき、「パラジウムコロイド分散液は、本願請求項1に係る発明に使用するパラジウム化合物の有機溶媒溶液に該当するものではありません。そして、このようなコロイド分散液は、その安定性に劣り、到底本願発明における有機溶媒溶液と同列扱うことはできません。」との主張をしている。
しかしながら、引用例2の段落0028及び実施例1の記載は、単なる例示であって、例示された以外の非水系無電解めっき触媒液の適用を排除するものではないから、請求人の主張は採用できない。

相違点2について
相違点2は、カップリング剤により捕捉されたパラジウムが、どのような形態であるかに関するものである。
ここで、周知例3:浜谷健生, 熊谷八百三"アミノシラン処理ガラス上への無電解ニッケルめっき パラジウムの吸着状態と触媒活性との相関"(表面技術 Vol.41 No.1 P.57-61 1990.01発行) には、無電解ニッケルめっきの前処理として、「アミノシランカップリング処理をしたガラスビーズ」(1.緒言)したものに関して、「アミノシラン処理ガラス上に吸着したパラジウムの結合状態はイオン的で,多層吸着においては恐らくPdCl2の固体結晶に近い分子状態で結合している」(58頁右欄下から3行?59頁左欄1行)ことが記載されている。
無電解ニッケルめっきの前処理として、シランカップリング処理を行って、パラジウムを吸着する工程において、「PdCl2の固体結晶に近い分子状態で結合して」いることとは、パラジウム化合物を捕捉していること、といえる。
そして、引用例1記載発明も、無電解ニッケルめっきの前処理として、シランカップリング処理を行って、パラジウムを捕捉しているのであるから、「シランカップリング剤にパラジウム化合物を捕捉させた」ものと考えられる。
よって、相違点2は、差異とはいえないものである。

そして、上記相違点1,2に係る本願発明1の特定事項によってもたらされる効果も、引用例1,2の記載、及び上記周知技術から当業者が普通に予測し得た程度のものであって、格別なものとは認められない。

したがって、本願発明1は、引用例1,2に記載された発明、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5]むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明、及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-06 
結審通知日 2007-09-07 
審決日 2007-09-21 
出願番号 特願2003-587998(P2003-587998)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市枝 信之  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 小川 武
前田 仁志
発明の名称 無電解めっき方法及び金属めっき層が形成された半導体ウエハー  
代理人 酒井 正己  
代理人 小松 純  
代理人 加々美 紀雄  

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