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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66C |
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管理番号 | 1167263 |
審判番号 | 不服2006-21587 |
総通号数 | 96 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-09-27 |
確定日 | 2007-11-09 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第356617号「旋回機構を備えた励磁区分選択が可能な吊り上げ電磁石装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月28日出願公開、特開平10-194656〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本件出願は、平成8年12月27日に出願されたものであって、平成18年4月18日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し平成18年6月26日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成18年8月22日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、平成18年9月27日付けで拒絶査定に対する審判が請求されたものである。 なお、本件審判請求において、審判請求時、審判請求の理由が明らかにされていなかったため、平成18年11月7日付けで手続補正指令書が通知され、平成18年12月13日付けで手続補正書が提出され審判請求の理由が補充された。 本件出願の請求項1?2に係る発明は、平成18年6月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】1台の吊り上げ電磁石の鉄心に複数のコイルを設け、複数の励磁区分を形成して、長手方向に一列に配置される複数の電磁石として機能し、かつ所定の励磁区分の吸着力を制御可能とする機能を有する吊り上げ電磁石において、 上記吊り上げ電磁石をクレーンに連結する吊りビームに対して、吊り上げ電磁石を旋回可能とする機構を組みつけることを特徴とする吊り上げ電磁石装置。」 2.引用文献 (1)原査定の拒絶理由に引用された実願昭46-111180号(実開昭48-66266号)のマイクロフィルム(以下、単に「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「吊りビーム本体に複数個の円形孔を設け、円筒形フレームに旋回輪、軸受、フツクブロツクおよびリフマグ用チエン付ブラケツトなどを取付けて一体化した吊りユニツトを前記円形孔の任意数に旋回可能にかん入し、それらの吊りユニツトの各旋回輪を駆動装置により旋回させるように構成してなる吊りビーム」(明細書第1頁4?10行、実用新案登録請求の範囲) (イ)「従来、クレーンにおける長尺物の鋼材類の運搬には、一般に第1図に示すような吊りビームが使用され、‥‥‥‥‥ リフマグ7により鋼板9を持ち上げる場合には、リフマグの吸引力の関係上、鋼板9の巾方向にリフマグ7の長手方向を一致させる(第2図)。しかしH鋼のように巾の狭いものでは上記のようにリフマグ7が長手方向にあると、その長手方向に相当するだけのH鋼すなわち数個のH鋼を吸引するから過負荷となり到底それらのH鋼を持ち上げることが不可能である。 このため現場ではH鋼10のように巾の狭い鋼材を取扱うときには、その都度リフマグを一つ一つ取外し第3図に示すように短手方向に方向変換させて再び取付けていたので、非常に手数を要し作業能率が著しく低下する欠陥があつた。」(同第1頁14行?同第2頁15行) (ウ)「吊ビーム本体11はプーリ13,フツク14を介してクレーンの巻上ロープ12により吊り下げられていて、複数個の円形孔15をそなえている。その円形孔15の任意数のものには吊りユニツト16が旋回可能にかん入されている。 吊りユニツト16は第6図に示すように円筒形フレーム17と、そのフレーム17の上部に固定した旋回軸18および軸受19と、フレーム17の下部に固定したリフマグ用チエン21を支持するブラケツト20と、フレーム17の中間に設けたピン23により支持されるフツクブロツク22などからなり、これらが一体に組立てられてユニツトになつている。」(同第3頁1?13行) (エ)「吊りビーム本体11に取付けられた任意数の吊りユニツト16の各旋回輪(スプロケツト)18にはチエン24が無端状に掛けられていて、このチエン24は吊りビーム本体11上に設置された駆動装置25例えば手動ハンドル,電動または油圧装置により駆動される。駆動装置25は図示してないロツク機構をそなえている。 リフマグ26の方向変換を行うには、駆動装置25によりチエン24を駆動して各吊りユニツトのスプロケツト18を回転させる。このスプロケツト18の回転によりフレーム17は旋回し、同時に各フレーム17に支持される各リフマグ26も旋回して所望の方向すなわち長手方向あるいは短手方向に一勢に変位する。この方向変換が完了したときに駆動装置25を停止してロツク機構によりロツクする。」(同第3頁14行?同第4頁9行) (オ)「‥この考案はフツクおよびリフマグを旋回可能なフレームに取付けてユニツト化し方向変換を一勢に行わせるようにしたから、従来のように異なる鋼材を取扱う都度一々リフマグを取外して方向変換させる煩雑な手数を省略することができる。」(同第4頁10?15行) 上記の記載事項(ア)?(オ)及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明が記載されているものと認められる。 「矩形状の吊上げ用リフマグをクレーンに連結する吊りビーム本体に対して、矩形状の吊上げ用リフマグを旋回可能とする機構を組みつけてなる吊りビーム装置。」(以下、「引用文献1に記載された発明」という。) (2)原査定の拒絶理由に引用された実願昭50-2172号(実開昭51-82273号)のマイクロフィルム(以下、単に「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「吊ビームの下方に垂下されたほぼ矩形のリフテイングマグネツトを有するマグネツト式吊上げ装置において、前記リフテイングマグネツト上に装着されたハンガーと、前記リフテイングマグネツトの長手方向に傾斜し得るように前記ハンガーに一端が枢着され他端が前記吊ビームに関して回転並びに長手方向の運動が可能に支持された回転ポストと、前記リフテイングマグネツトの前記回転ポストに関する傾斜を制限するためのストツパーと、前記回転ポストの両側において該回転ポストと前記ハンガーとの間に張架された引張ばねと、前記回転ポストを前記吊ビームに関して外方に弾圧するようになつたばね装置と、前記吊ビーム内に設けられ前記回転ポストを回転して前記リフテイングマグネツトの向きを変えるための回転装置とを具えたマグネツト式吊上げ装置。」(明細書第1頁4?20行、実用新案登録請求の範囲) (イ)「‥第5図及び第6図を参照して、リフテングマグネツト2の向きを変えるための回転装置を説明する。 吊ビーム1の内部に固定されたブラケツト24に伸縮自在なシリンダ22が取付けられており、このシリンダ22のロツドにシリンダーロツド金具23およびロツドホルダー21を介してロツド19が連結されている。ロツド19の一端は回転ハウジング11の上部フランジ11Aに約45度の角度で取付けられた回転ホルダー18にロツド金具20を介して枢着されている。ロツド19の他端は他方のリフテイングマグネツト2に対応する上部フランジ11Aにほぼ同様な構造で枢着されており、ロツド19の長手方向の運動に応じて2個の回転ハウジング11従つて2個のリフテイングマグネツト2が同時に同一方向に且つ、同一角度だけ回転するようになつている。」(同第6頁11行?同第7頁8行) (ウ)「‥リフテイングマグネツトのための回転装置が吊ビーム内に収容されているため構造が簡単となり、従つて全体の重量を軽減することができ鋼材の幅に対応した選択吊りが出来る効果をも有する。」(同第7頁14?18行) 上記の記載事項(ア)?(ウ)及び図面の記載を総合すると、引用文献2には、「矩形上の吊り下げ電磁石を旋回可能とし、吊り下げる鋼材の幅に対応した選択吊りも可能としたこと」が記載されているといえる。 (3)原査定の拒絶理由に引用された実願昭62-1019号(実開昭63-110471号)のマイクロフィルム(以下、単に「引用文献3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 (ア)「多種サイズの鋼材の多数本並列一括吊り電磁石において、吊上電磁石の中心部にその巾方向から張り出して吊上鋼材の長手方向に1本抜取り専用磁極と一括吊りとの兼用磁極とを設け、前記1本抜取り専用磁極巾を吊上鋼材巾より小さくすると共に、各磁極の励磁区分を可変にしたことを特徴とする。」(明細書第3頁3?9行) (イ)「‥‥第1図および第2図は磁極配置図を示し、従来の吊上電磁石の各々の磁極6に対し、吊上対象物9の並び方向に対して吊上電磁石の中央部に吊上対象物9の長手方向に取付けられた1本抜取り専用の磁極1,2,3と吊上対象物9の並び方向に対し、吊上電磁石の中央部に一括吊りと1本抜取りとを兼用する磁極4,5を取付ける。 これらの1本抜取り専用磁極1,2,3と一括吊りと1本抜取りとを兼用する磁極4,5は、抜取り鋼材の大小サイズにより各磁極のコイル7,8の励磁区分を変えれるようになつている。又、1本抜取り専用磁極1,2,3は小サイズの鋼材を吊り上げられるように磁極4,5に比べて、吊上鋼材の巾方向に対し小寸法につくられている。尚、10はコイルケース、11は磁束、12は吊金具、13は継鉄を示す。」(同第3頁11行?同第4頁7行) (ウ)「‥‥この吊上電磁石を使用して並列された多数本の鋼材の中から1本の鋼材を選択吊りするには、吊上電磁石の磁極1,2,3を吊上げようとする鋼材9の長手方向に合せて下降する。次に鋼材のサイズにより磁極の励磁区分を変える。 即ち、小サイズ物を1本吊りする場合には、磁極1または磁極1,2のコイルを励磁することによりなされ、また中サイズ物の抜取りには磁極1,2,3または磁極1,2,3,4のコイルを励磁する。さらに大サイズ物を抜取る場合は、磁極1,2,3,4,5のコイルを励磁することにより1本の鋼材を確実に抜取ることができる。」(同第4頁9行?同第5頁1行) 上記の記載事項(ア)?(ウ)及び図面の記載を総合すると、引用文献3には、「複数の励磁区分を鋼材の長手方向に対応するように一列に配列し、鋼材のサイズ等に応じて各励磁区分の吸着力を制御可能としたこと」が記載されているといえる。 3.当審の判断 (1)本願発明と引用文献1に記載された発明との対比 本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比するに、引用文献1に記載された発明における「矩形状の吊上げ用リフマグ」、「吊りビーム本体」及び「吊りビーム装置」は、それらの形状、構造及び機能からみて、本願発明の「吊り上げ電磁石」、「吊りビーム」及び「吊り上げ電磁石装置」にそれぞれ相当する。 したがって、本願発明と引用文献1に記載された発明は、「吊り上げ電磁石をクレーンに連結する吊りビームに対して、吊り上げ電磁石を旋回可能とする機構を組みつけてなる吊り上げ電磁石装置。」である点で一致し、次の〈相違点〉において相違する。 〈相違点〉 吊り上げ電磁石が、本願発明においては、1台の吊り上げ電磁石の鉄心に複数のコイルを設け、複数の励磁区分を形成して、長手方向に一列に配置される複数の電磁石として機能し、かつ所定の励磁区分の吸着力を制御可能とする機能を有するものであるのに対し、引用文献1に記載された発明では、矩形状の電磁石であるというのみで、その励磁区分等、どのようなものであるか明らかでない点。 (2)相違点についての検討 前記〈相違点〉について検討するに、引用文献1に記載された発明の吊り上げ電磁石装置は、矩形状の吊り上げ電磁石を吊りビームに対して旋回可能とすることにより、吊り上げるべき鋼材等のサイズに応じて吊り上げ電磁石を適宜旋回させることができるものであり、このように矩形状の吊り上げ電磁石を旋回可能とすることによって、鋼材の幅に対応した選択吊りも可能となることは、引用文献2にも記載されているところであり、引用文献1に記載された発明の吊り上げ電磁石装置においても、鋼材の複数本吊りや選択的な1本吊り等は適宜行いうるものと認められる。 ところで、吊り上げ電磁石装置において、『1台の吊り上げ電磁石の鉄心に複数のコイルを設け、複数の励磁区分を形成して、長手方向に一列に配置される複数の電磁石として機能し、かつ所定の励磁区分の吸着力を制御可能とする機能を有する吊り上げ電磁石』は、本願出願前に周知の技術事項であり(必要ならば、例えば、特公昭54-12709号公報、特開昭50-88764号公報〈特に、第8図及び第9図〉等参照のこと)、引用文献3にも、多種サイズの鋼材の多数本並列一括吊り電磁石に関するものであるけれども、1本の鋼材を選択吊りするために、複数の励磁区分を鋼材の長手方向に対応するように一列に配列し、そして、鋼材のサイズ等に応じてそれぞれの励磁区分の吸着力を制御しうるようになした手段が記載されている。 してみると、引用文献1に記載された発明において、矩形状の電磁石(吊上げ用リフテイングマグネツト)に代えて、前述した周知の技術事項である『1台の吊り上げ電磁石の鉄心に複数のコイルを設け、複数の励磁区分を形成して、長手方向に一列に配置される複数の電磁石として機能し、かつ所定の励磁区分の吸着力を制御可能とする機能を有する吊り上げ電磁石』を採用することは、引用文献1?3に記載された発明や前述した周知の技術事項を勘案すれば、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到しうる程度のものであり、前記〈相違点〉に係る本願発明のような構成とすることは、引用文献1?3に記載された発明や前述した周知の技術事項に基づいて、当業者が格別な創意工夫を要することなく容易に想到し発明しうる程度のものと認められる。 以上のように、本願発明のような構成とすることは、引用文献1?3に記載された発明や前述した周知の技術事項に基づいて、当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到し発明をすることができたものと認められ、しかも、本願発明は、全体としてみても、引用文献1?3に記載された発明や前述した周知の技術事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献1?3に記載された発明及び前述した周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-08-30 |
結審通知日 | 2007-09-04 |
審決日 | 2007-09-18 |
出願番号 | 特願平8-356617 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B66C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 出野 智之 |
特許庁審判長 |
早野 公惠 |
特許庁審判官 |
飯塚 直樹 石井 孝明 |
発明の名称 | 旋回機構を備えた励磁区分選択が可能な吊り上げ電磁石装置 |
代理人 | 高橋 陽介 |
代理人 | 斎藤 春弥 |